No.478790

チートでチートな三国志・そして恋姫†無双

第2章 劉備たちの動向 安住の地を求めて ~神の視点から~

2012-09-02 10:01:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2739   閲覧ユーザー数:2404

第13話 腐敗は進むよどこまでも

 

 

 

 

 

 

 

檻車に乗せられた女性を見るや否や、劉備は唖然として

 

 

廬植(ろしょく)先生!!」

 

 

と叫んだ。その声で官軍の将もこちらに気づき、会談の場を設けることとなった。

 

 

官軍の将は鄒靖(すうせい)と名乗った。檻車に乗せられているのは無論、廬植である。輿に乗っているのは孔融(こうゆう)であった。1万の軍を率いている。(※1)

 

 

 

「お主らが最近話題の劉備の軍か。何進(かしん)大将軍より、将軍位を授けるよう指令が下っておる。」

 

「あ、ありがとうございます。ただ、御主、あ、いえ、北郷は今は不在です。代理でも大丈夫でしょうか?」

 

「構わぬ。北郷一刀へ()将軍。劉備へ()将軍。関羽・甄姫……以上2名に(へん)将軍の位を授ける。これがその書状である。」(※2)

 

「謹んでお受け致します。」

 

 

 

鄒靖から劉備へと将軍位の授与が行われた。脇には田豊が控える。すると、輿から降りてきた孔融が、

 

 

「お主らならばこの印綬を渡しても差し支えなさそうじゃな。そのかわり、ほれ、どうじゃ……?」

 

と言った。

 

「?」

 

「おお、さすがじゃのう。わかっておるわ。ほっほっほ。」

 

「こちらの阿呆とは大違いじゃのう。どうじゃ……。」

 

 

そう言って孔融は、何か、を欲しそうな仕草をした。劉備が惚けている間に、さりげなく田豊が袖の下

 

――すなわち賄賂――

 

を渡した。鄒靖にも。

 

 

その時、廬植が檻車の中で唇を噛んだ。血が出んばかりに。それだけで状況をほぼ把握した田豊ではあったが、それでも遠慮がちに問うた。

 

 

 

「あの、大変聞きづらいことなのですが、……。」

 

「何じゃ? 何でも()うてみよ。」

 

「なぜ、廬植どのが檻車に乗せられているのでしょうか?」

 

「ああ、こ奴はのう……。朝廷に対して義理を働かなかったのじゃよ……。情けないことじゃ。お主らのように気が利かぬのじゃよ……。」

 

 

 

やはり……。田豊はそう思った。その時、密かに檻車に近づく諸葛亮と沮授。何か言おうとする劉備を制し、

 

 

「これで……どうにかすることはできないでしょうか……? 廬植どのは鄒靖どのほどではないにせよ、有能な将であると聞き及んでおります。鄒靖どのの力で、朝廷の方へどうか上手くやって頂き、ここで解放して頂くことはできないでしょうか……?」

 

そう、遠慮がちに、伏し目がちに問うた。袖の下を渡しながら。

 

 

「う~む。できぬことはないが……。ただのう、わしも単なる宮仕えをしとる(いち)長官に過ぎぬしのう……。もうちょっと……。」

 

 

「ふ~む。むむむむ……。そうじゃのう。廬植! 劉備将軍と共に、北海の黄巾賊の討伐を命じる!! わしの温情により、特別に(・・・)、お主を解放することとする。そして、鎮軍(ちんぐん)将軍の位を元に戻すことにしよう。お主の率いておった三千二百の兵を率い、劉備将軍に加勢するのじゃ。」(※2)

 

 

 

とても難しいのだ……と言う鄒靖。もう少し欲しい、という言外の雰囲気を察し、田豊は上手く渡した。その結果、廬植は解放された。憤懣(ふんまん)やる方ないという表情だが、なんとか堪え、言った。

 

 

「劉備将軍、御礼を申し上げる。鄒靖どの、厚遇誠に感謝致します。」

 

 

「わしの部下だった者に太史慈(たいしじ)という者がおるんじゃが、今もまだわしの軍を率い、北海で黄巾賊の連中と戦っておる。お主らの武で助けてやってくれんか? その印綬を見れば、お主らが北海の太守になることに異論のある者はなかろうて。常識と節度のある者たちで良かったぞ。」

 

 

孔融は去り際にそう言い、”常識と節度”でちらりと廬植のほうを見やると、また輿に乗った。

 

 

「では、これからもさらなる朝廷への忠節に期待する。」

 

 

最後にそう言い、鄒靖率いる官軍は去った。残ったのは劉備たちと廬植、そして廬植についてきた兵三千二百である。

 

 

 

「廬植先生!!」

 

 

そう言って劉備が駆け寄ると、遂に爆発させて、言った。

 

 

「私はお前に『袖の下を渡す。』などという下劣な教育をした覚えはない!! 二度と、私のことを”先生”などと呼んでくれるな!! お前に期待したのは間違いだったようだ。こんな奴に目をかけていたなどと……。自分にも腹が立って仕方が無い!!」

 

 

「え……。」

 

 

「その結果、貴女は牢屋に入ることになってしまい、賊に襲われる民を救うことはできなくなってしまったわけですが、それにお怒りというのは、暢気に牢屋に入っている方がよい……というふうにお考えということですね。

 

どうやら、高名な先生であるという話は間違いだったようです。朱里さんと玉鬘には苦労をかけましてすみません。貴女を助け出すことができれば、この乱世の終結に一役買ってくれるかと思ったのですが、残念です。骨折り損の草臥(くたび)れ儲けだったようです。」

 

 

廬植が劉備に対して”破門”と冷たく言い放ったため、劉備は絶句した。

 

それに対し、田豊は冷ややかな声で淡々と事実を語った。諸葛亮と沮授がひっそりと牢に近づき、「静かにしているように」と伝えるなど、助け出すのに苦労していたのだ。

 

 

 

「貴様……。」

 

「おや? なにか間違いがあったらお詫びしたいと思いますが、ありますでしょうか? 私は田豊。字は元皓と申します。」

 

「いや……。桃香、すまない。私が間違いだったようだ。詫びの(しるし)として、私の真名、霧雨(きりさめ)を預けたい。田豊どのにも苦労をかけた。すまなかった。」

 

「廬植先生……いえ、霧雨先生。ありがとうございます。ところで、どうして先生が捕まっていたのですか? まさか、何か悪いことをしたんですか? ダメですよ~。そんなことしたら。」

 

 

 

その”事実”にさらに頭に来る廬植であったが、田豊の的を得た指摘には返す言葉が無く、素直に謝罪し、劉備に真名を預けた。かつてはあくまで”教師と生徒”だったので、廬植の真名を桃香は知らなかったのだ。

 

そして、先ほどのやりとりを全く理解していなかった劉備の、周りの予想の斜め上を行く質問が飛んだ。

 

 

 

 

「ふふっ。はははははは。いや、桃香は桃香。何も変わってはいなかったか。こんな質問をするとは、ある意味、大物だな。いや、流石だ。」

 

「え? ちょっと先生!?」

 

「桃香様……。」

 

 

大笑いし、思わず涙ぐむ廬植であった。劉備の頭をなで、抱き寄せた。

 

田豊が呆れたようにそれを見ている。そして、諸葛亮・龐統・沮授・張飛・趙雲・張郃・厳顔が集まってきた。

 

 

 

「輜重隊は中心(こちら)に連れてきた。これなら安全じゃろう。これからどうするか、その相談をせねばならぬようじゃからな。」

 

そう厳顔が言った。

 

 

「ここまで、朝廷の腐敗は進んでいたんですね……。ご主人様の仰ったことは正しかったようです……。」

 

「朱里ちゃん……。 要するに、朝廷のお偉方に対して賄賂を送らなかったから更迭(こうてつ)された、そういう理解でよろしいんですよね? 廬植さん。」

 

 

「うむ……。こんなことになるとは嫌な世の中になったものじゃ……。朝廷からの命令で黄巾賊の討伐を命じられたのじゃが……。

 

ん? ああ、こいつらは私兵じゃ。さっきまでは無理矢理あの連中にまとめられちまったが……。じゃから、何を言っても気にせんで良いぞ。 ところで、お主は? ああ、私のことは霧雨で構わぬ。真名じゃ。」

 

 

「あ、ありがとうございます。私は龐統。字は士元。真名は藍里です。」

 

「ええっ!? じゃあ、先生は、単に賄賂を送らなかったというだけであんなことになっていたんですか!?」

 

「うむ……。ところで、お主と一緒にいるという”天の御遣い”

 

――北郷一刀と言うたか――

 

はどこにおるんじゃ?」

 

 

「ご主人様は、『どうしても人材は必要になるから』と言って新たな仲間を捜しに行っているんです。その間に、私たちは頑張って北海と徐州を落として私たちの”始まりの地”を確保することになっています。」

 

「主が、”賄賂”と言ったのはこういうことを予見していたということか……。ここまでとはさすがに予想だにしておらなかった……。私の理想は甘すぎたということか……。」

 

 

 

諸葛亮が衝撃を受けたようにそう言い、廬植が檻車に乗せられていた理由を龐統が問うた。

 

 

黄巾賊の討伐を命じられたものの、高官に対して賄賂を送らなかったが為に更迭された……という、田豊や龐統の予想通りの答えが返ってきた。それに対し

 

そんな!

 

という表情の劉備であった。そして、”天の御遣い”たる北郷に会いたいと廬植が言い、今は不在と劉備が答えた。最後に趙雲が、一種の諦観を含んだような声で言った。

 

 

ここに集った誰もが、朝廷の、漢王朝の腐敗に驚き、呆れ、衝撃を受けていた。

 

そして、皆が真名を交換し、それが終わったときに廬植が一つの提案をした。

 

 

 

「私もその、”天の御遣い”に会ってみたいんじゃが、どうじゃ? 一緒に行かせては貰えぬか?」

 

「大歓迎です! と言いたいところですけど……。朱里ちゃんたちがどうかです……。こういうことは朱里ちゃんたち四人に相談して決めるようにしないといけないので……。」

 

 

 

 

「では私から。 ”一緒に行く”というのがどういう形式なのかをはっきりさせる必要があります。それによると思います。

 

 

1つめの案としては、廬植さんの軍とはいわゆる”同盟”という形式をとる。すなわち、三千二百の兵の指揮権は廬植さんにあり、私たちと連携して動く――そういう形式が考えられます。

 

 

2つめは、客将として桃香様の軍の一翼を担って頂きます。ただし、この場合は、三千二百の兵の指揮権は桃香様にあります。

 

 

3つめとしては、”桃香様の部下”としてふるまって頂き、三千二百の兵は解体して私たちの兵に組み込みます。指揮権は各将軍にあり、大変恐縮ではありますが、廬植さんは”新参で実力未知数の将軍”という位置づけになります。官位としてはご主人様と桃香様に次ぎ、3番目ですが、それは無視することになります。

 

 

そして、3つ目の案を選択して頂くのでなければ、北海に着いて黄巾賊を掃討した(のち)には、別の場所に行って頂く必要があります。

 

すなわち、私たちと一緒に居ることは認められません。三千の歩兵と二百の騎兵。合わせて三千二百の私兵を抱える将を放置するわけにはいきません。

 

 

と、私は思うのですが、藍里ちゃんや玉鬘さん、椿さんはどうですか?」

 

 

 

「同意見です。現実問題として、我らの兵は、歩兵六千に騎兵五百に過ぎません。いかに我らの兵が練度、士気共に高く維持できているとはいえ、三千二百の兵と将という脅威を放置するということはできません。」

 

「私も同意見ですね。」

 

「同じく。これを看過する訳にはいきません。」

 

 

 

そう、軍師4人が口を揃えて言った。それを唖然として聞いている劉備と廬植であった。

 

 

 

「こりゃあまた、随分なやり手が揃っとるようじゃの! ふうむ……。このまま、他の所へ行っても未来など無かろうて……。お主らも良いな? 桃香様、どうか臣下として加えて下さらんか?」

 

「あ、ありがとうございます。せ、先生。」

 

「”霧雨”で良いぞ。お主のほうが上じゃからな。」

 

「そんな……。先生は私にとって、永遠に”先生”です。」

 

「桃香……。」

 

 

 

部下の賛同を得、廬植が劉備の配下に加わることになった。そして、廬植は劉備の言葉にまたも涙を見せた。

 

 

趙雲が鍛えていた五百の兵もかなり成長し、充分組み込めるようになった。その後、軍の再編が行われ、歩兵一万・騎兵七百というかなりの勢力に成長した。

 

 

 

「小規模の賊はこの”風林火山”の旗に怯えて瓦解するわ逃げ出すわ、散々じゃのう。儂もそろそろ暴れたいんじゃが。」

 

「漆黒の布地に赤い字……。確かに、敵からすれば恐ろしい軍旗なのかもしれませんね。捕虜にして兵にできたのも殺したのもたくさん居ますが……。」

 

「ところで、桔梗どのに玉鬘どの、気になっておることがあるんじゃが、宜しいか?」

 

「敵兵の扱いについてですか?」

 

「さすがは玉鬘どのじゃのう。うむ。敵兵を生かして捕虜にすることが殆どじゃと思うのじゃが、こういうことをしても何故民衆達はついてくるのじゃろうか? 兵士にしても、納得のいかぬ者もおるじゃろうに……。」

 

「それはご主人様の考えです。庶民の怒り云々よりも、兵の数を一人でも増やすことのほうが重要であるということ。

 

そして、庶民は、自分たちに危害が及ばないこと・きちんと食事にありつけること、の2つを重視するということ。

 

この2つのことを勘案した結果としては、一緒に着いてくる民衆の安全と食料を確保し、規律正しい兵になるのであれば、元が賊だろうが大丈夫だという結論に至っています。まあ、星さんがかなり苦労して鍛錬しているのですがね。」

 

 

 

そう言って沮授は苦笑する。たしかに、廬植の疑問は尤もである。

 

力を誇示する一番手っ取り早い手段は敵兵を残虐に、一人残らず殺すことである。

 

それを敢えて選択せず、降伏する兵も賊もきちんと受け入れる。

 

そのことが、むしろ、北郷・劉備連合軍、の寛容さと強さ、そしてこの”風林火山”の軍旗の恐ろしさ、を内外に誇示していた。

 

 

 

そして、劉備たちは北海の近くへと辿り着いた。

 

 

 

 

解説

 

 

※1:鄒靖(すうせい)・・・後漢末期の武将。黄巾賊の蜂起に対し、劉備を連れて討伐にあたる。

 

孔融(こうゆう)孔子(こうし)の20代目の子孫。建安の七子の一人。文化人の誉れ高き人物であったが、後に曹操の怒りをかって処刑される。

 

この、”聖人”孔子の子孫を殺害したことは後々まで曹操が非難される要因になる。※徐州大虐殺が曹操最大の汚点であることは言うまでもないが。

 

今作ではあんまりいい人ではない? 黄巾賊の相手に疲れて太守の任を放り出し、都へ帰還した。

 

※母親の面倒を孔融がみていたため、その恩に報いるために太史慈は孔融に仕官した。(史実通り)

 

 

 

 

※2:左将軍・右将軍・鎮軍将軍・偏将軍・・・・将軍位。階級としては、左=右>鎮軍>偏の順。

 

当然ながら、一番偉いのは大将軍。今は何進である。偏将軍は一番下の将軍位。左将軍、右将軍というのはちょっと(位が)高すぎるかもしれませんが、まあ、ご容赦を頂ければと。

 

 

 

 

 

キャラクター紹介

 

 

廬植(ろしょく) 字は子幹(しかん) 真名は霧雨(きりさめ)

 

 

 

後漢末期の名将。皇甫嵩・朱儁と共に黄巾賊の討伐で大活躍した官軍の将である。

 

きわめて清廉潔白で曲がったことが大嫌いな将軍である。劉備・公孫瓚の師でもある。

 

 

役人への賄賂を拒否して左遷されるが、その才を惜しんだ皇甫嵩の上奏により助けられた。

 

後に董卓が台頭し、廃帝を言い出したときにも毅然と反論した。このため、董卓に殺されかけるが、名声高く、助命を嘆願する人が多かったために殺されなかった。

 

初期の名将の1人である。

 

(コメント)

 

やけに師弟愛の強調された存在になってしまいました。


 
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