No.471982

チートでチートな三国志・そして恋姫†無双

第2章 劉備たちの動向 安住の地を求めて ~神の視点から~

今回からは3人称の、いわゆる”神の視点”から書くスタイルになります。サブタイトルはその意味です。

2012-08-18 17:27:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2643   閲覧ユーザー数:2306

第12話 清濁併せ呑む

 

 

 

 

平原を出発した劉備率いる青州・徐州攻略隊は歩兵五千五百・騎兵五百という陣容である。先鋒に張郃・龐統を配し、中軸たる大将の所には劉備・趙雲・諸葛亮・田豊が集う。殿(しんがり)は張飛が務め、輜重隊は厳顔・沮授が盤石の布陣で守っている。(※1)

 

 

 

それに加え、劉備たちの民心掌握術

 

――単に米を配っただけだったりするのだが――

 

により、数千人の民衆が共に移動していた。これは、劉備たちの評判の良さに加え、共にいれば食べものが手に入る……という状況であったため、共に移動する民衆の数は進軍する度に増えていくのであった。なお、袁紹のところで手に入れた大量の米があるため、彼らに米を与えても食糧は充分にゆとりができていた。

 

 

 

 

 

「さ~て、まずは北海の孔融さんを落とすんだっけ?

 

ご主人様の千里眼によると、『そこには凄い将軍が居るはず』だから『できれば仲間に引き込んでくれ。』だって。

 

あれ? どしたの星ちゃん。難しい顔して。」

 

 

劉備がいつもの暢気な口調で主人(あるじ)たる北郷のお願い

 

――というのは名目で、実際は命令だが――

 

を反芻していると、ふと、趙雲が難しい顔をしているのに気づき、そう声をかけた。

 

 

「……。桃香様は先ほど主が言った言葉を聞いてもなんとも思わぬのですか?」

 

 

いつもは(はす)に構えたような態度で、口調もそれに準じたような趙雲だが、真剣な、若干の怒りすら籠もる口調で劉備に訊いた。

 

 

「? 何のこと?」

 

惚けるのではなく、本当に判らない、といった体の劉備であった。

 

 

「”賄賂”のことかと。星殿、漢王朝の腐敗はもはや、誰にも止めることはできません。

 

それでも、”漢”が存在する以上、何らかの(くらい)を得ておいたほうが後々の役に立ちます。下手に勲功を稼いで無用の軋轢を生むよりも、賄賂を送ることのほうが余計な波風を立てなくて済みますしね。”売位売官”の制を逆手に取る……ご主人様はそうお考えなのでしょう。

 

私も同意見です。胸に秘めた”大義”があるのならば、表面上は何をやってもいい……というくらいの覚悟が必要なのだと思います。」

 

 

 

趙雲は”賄賂を送ってでも……”という北郷の言葉に納得がいかず、劉備に訊いた。しかし、劉備は何とも思っておらず、かわりに田豊が北郷の意図を解説した。

 

 

 

「民が、安心して暮らせる世をつくる……”天下統一”・”安寧たる国家の建国”という”大義”の為なら、汚いことでもやるってご主人様が言っていたから、そういうことをするのも必要なんじゃないかな。

 

それに、『漢王朝を助けたってどうにもならない』とも言っていたし……。」

 

 

 

田豊の説明でようやく理解した劉備はどこか淋しげにそう答えた。

 

 

 

「”清濁併せ呑む”ようでなければ天下の統一などできない……ということではないでしょうか……。賄賂を送るのは怖いですけど……。」

 

「ご心配なく。それは私が致しましょう。朱里殿には向きません。」

 

諸葛亮も田豊に同調してそう言い、汚れ役はお任せを……と田豊が言った。

 

 

「”大義”を胸に秘めている我らと、何も考えずに賄賂を貰う連中とでは”内面”が違うから許される……ということか……。

 

確かに、正攻法だけでは通じぬ相手が多いことは確かですな……。ところで、鄴の戦はまさにこの旗の通りでしたな。」

 

 

今ひとつ納得のいかない趙雲であったが、これ以上この話題を扱っても自分が不快になるだけ……と思ったため、話題を変えることにした。

 

 

「”疾きこと風の如し” まさにそのままでしたね……。愛紗さんが悠煌さんを止めてからは一瞬でした。それまでは”動かざること山の如く”といった感じでしょうか……。」

 

 

 

趙雲が軍旗

 

――”風林火山”――

 

を見ながら呟くと、諸葛亮もあの戦を思い出しながらそう言った。

 

 

 

「私は見ていないのですが、今の隊列を見ても、ご主人様や桃香様の率いる軍は凄いと思います。」

 

「でもでも~。今の隊列を決めたのはご主人様だけど、案を出したのは椿ちゃんたちじゃない。やっぱりみんなの力だよ。」

 

 

 

 

 

先鋒・殿・そして最需要の輜重隊に将がつくのは当然として、移動の最中にどこから襲撃を受けても問題ないようにするため、騎兵500をあえて分散させて配置し、襲撃された場合は迎撃せずに将へ伝えるよう……という決まりになっていた。

 

それを改めて思いおこすと、劉備は、

 

『どこから襲撃されてもいいような隊列を組むにはどうしたらいい?』

 

と言った北郷も凄いけれど、案を出した軍師たち

 

――諸葛亮・龐統・田豊・沮授、そして、それをまとめて(あら)をなくしたのが徐庶だった――

 

も凄いと褒めたのである。

 

 

 

「ありがとうございます。」

 

田豊が素直に感謝したところに、斥候を連れた騎兵が駆けてきた。

 

 

「伝令!! ここより西二十里のところに黄色の頭巾を巻いた集団、約500名を確認!」

 

 

 

「例の宗教団体? ご主人様は”黄巾賊(こうきんぞく)”って言ってたよね? 朱里ちゃん、椿ちゃん、どうする?」

「敵兵の装備、兵糧は?」

 

「それが……」

 

「掴んでいないのか?」

 

 

劉備が言い終わるや否や、田豊が鋭い声で訊いた。口籠もる斥候の兵。それに対し、尚も問いただす田豊であった。

 

 

「いえ、兵糧は殆ど無いようで、武器もただの(くわ)です……。我らのような兵とは根本的に違う模様です……。」

 

「つまり、士気は低い、と。青州は(イナゴ)による被害が酷かったですからね……。それでどうしようもなくなった農民がせめて一矢報いんとしているわけですか……。今の私の言に間違いはありませんか?」

 

「は!」

 

「朱里殿、何か他にきくことは?」

 

「大丈夫です。」

 

「ふむ……。お疲れ様でした。続けて監視は怠らぬよう。食料と水を準備させますから、あなたはゆっくり疲れを癒して下さい。」

 

「は!! ありがとうございます!!」

 

 

的確に要点だけを問う田豊に、不足事項はないかと問われた諸葛亮は『無い』と答えた。そして、田豊は伝令に休息を命じた。

 

 

 

「さて、朱里殿ならどうしますか……? この状況を。」

 

「……? 何か考えることがあるの? ウチの兵隊さんならあっという間にやっつけられちゃうでしょ? それとも、仲間にするっていうこと?」

 

 

「倒すのは簡単でしょうが、それでも多少の被害が出ます。500人の少数部隊といえど、こちらの兵数を削られてしまうのは良いことではありません。練度をここまで上げるのには相当の苦労が必要だったわけですから。

 

一方、仲間にすれば規律をこれまで以上に厳しくする必要があります。それなのに、兵士としては殆ど期待できません。かといって、私たちを慕ってくれている民衆と一緒に”民”として居させるのは、特に、先ほど言った規律の観点から難しいです。ご主人様が袁紹さんのところで大量に手に入れたお陰で兵糧そのものはたくさんありますが……。」

 

 

 

「かと言って、放置もできない……というところですね。暴徒化した連中の多くは兗州と豫州にいるようです。ご主人様たちはあちらのほうへ向かわれましたが、今はどの辺りにいるのでしょうか? まあ、愛紗殿と甄姫殿がいるから危険は無いでしょうが……。あとは北海周辺にも居るようですね。そちらには官軍の将が派遣されたらしいですが、どうなっているやら……。」

 

 

 

田豊が諸葛亮にそう問うと、劉備が、『いったい何言ってるの?』といった風で聞いた。それを諸葛亮が説明し、田豊は不在の北郷たちに思いを馳せた。

 

そして悩む軍師二人……の元に、龐統と沮授が守備の任をそれぞれ張郃・厳顔に任せて現れた。

 

 

「藍里ちゃん、椿さん、どうしたらいいと思う? 歩兵だとここから一刻半ほどかかりそうだけど……。」

 

「星さんに任せるのはどうでしょう? と、今、玉鬘さんと話していたのですが……。」

 

「ほう……? 私に五百の兵未満、民以上、賊崩れ の連中の指揮を執れ……と?」

 

 

諸葛亮の問に龐統がそう答え、面白そうだ……と趙雲が乗った。

 

 

「はい。兵糧を持ち、兵二千ほどを連れて行けば戦意などなくなるでしょうから……。相当しごいて貰わなくてはいけませんが、星さんなら大丈夫かと。」

 

 

「包囲……以外に策は無いですが、強いて言えば”徐かなること林の如く”でしょうか。私が同行します。

 

こちらは問題ないでしょうが、方円陣で鉄壁の守備を敷いておけば万全でしょう。”動かざること山の如し”です。」(※2)

 

 

龐統が、その後は大変でしょうが……と言った。そして、沮授が同行を申し出た。

 

 

「ふむ。困難を伴うことを行う、これこそ、この趙子龍に相応しい。良いでしょう。では、玉鬘殿。共に参りましょうか。」

 

「は。皆さん、あとは任せますよ。」

 

 

――趙雲を趙雲たらしめているものは何か――

 

を示すように言い、沮授が続いた。

 

 

三刻後、敵はあっさりと全軍降伏した。この五百人は趙雲がいわば別働隊の体で兵の鍛錬にあたることになった。

 

 

 

 

 

それから十日ほど経ち、かなり北海に近づいたころのことである。

 

輿と檻車にそれぞれ人が乗っているのを見つけ、それを率いる将と兵士を確認した劉備たちであった。(※3.4)

 

 

 

「あれは……? 官軍のようですね。」

 

廬植(ろしょく)先生!!」

 

 

解説

 

※1 輜重隊(しちょうたい):兵糧・武器などを運搬する部隊。

 

※2 方円陣(ほうえんじん):そのまま。恋姫の陣形にもありましたが、円状の陣形です。防御に向くことが特徴。

 

※3 輿(こし):イメージとしては、御輿の上を無くしたもの。棒2本の上に人が乗る台をのせたもののこと。貴人の移動用。

 

※4 檻車(かんしゃ):鉄の(おり)に車輪を付けたもの。囚人・罪人の輸送に使われる。


 
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