No.461738

機動戦士ガンダムSEED白式 15

トモヒロさん

15話 フレイの選択(前編)

2012-07-29 12:02:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3634   閲覧ユーザー数:3491

 アークエンジェルは第八艦隊と合流し、鳥の群れが仲間の中に混じる様にメレラオスの横へ付けた。その映像は艦内のモニターに映し出され、収容された民間人には何処か安心した空気が流れただろう。

 

 「民間人はこの後メレラオスに移って、そこでシャトルに乗り換えだってさ」

 

 いち早く今後の情報を仕入れたカズイは暇の時間になるなり、それを伝えるため皆のよく集まる食堂へと向ったのだ。

 

 「ハッ!でも俺たち如何なるんだろ?!」

 「そんなの決まってるでしょ!こんなの着てたって、あたし達民間人だもの、降りられるわよ」

 

 カズイは身振り手振りで説明しているうちに自分の袖を何に通していたのに気付くと少し頭からスッと血の気が引くのを感じたが、ミリアリアのフォローによってカズイの血は元に戻っていった。

 だが、そのことで苦悩を抱えている者がいる事に気が付かずに。

 

 *

 

 「艦長!」

 

 マリューが通路を流れていると、ナタルが後ろから呼び止める。マリューはナタルと速度を合わせると。そのまま二人は通路を流れて行った。

 

 「何かしら?」

 「ストライクと白式のことを、如何されるおつもりですか?」

 「どう、とは?」

 「ストライクは、あの性能だからこそ、彼が乗ったからこそ、我々がここまで来れたと言うことは、この艦の誰もが分かっている事です。白式も彼しか扱えませんし、反応もしません」

 「つまり?」

 「……彼等も、降ろすのですか?」

 「……」

 

 一瞬の沈黙。そのままマリューは無言で、少しスピードを上げた。

 

 「艦長!」

 「貴方の言いたいことは分かるわ、ナタル。でも、キラ君も一夏君も軍の人間ではないわ」

 「ですが、彼等の力は貴重です!それをみすみす…」

 「力があろうとなかろうと、私達には志願を強制することは出来ないでしょ」

 

 マリューは更に少しスピードを上げ、そこでナタルと別れた。

 

 *

 

 「艦隊と合流したのに、何でこんなに急がなきゃならないんです?!」

 

 第八艦隊と合流したことによって、少しは休めると思っていたキラはメビウスのハッチから首を出し、不満をぶちまけていた。人生そんなに甘くはないということか…近くにダラけていたムウを睨みつける。

 

 「…不安なんだよ!壊れたままだと」

 「第八艦隊つったって、パイロットはヒヨッコ揃いさ」

 

 ムウがばつが悪そうに答えると。それに付け足すようにマードックがメビウスに流れて来た。

 

 「何かあった時には、大尉が出れねぇとな!」

 「それより、ストライクは!?本当にあのままで良いんですか?」

 「え?ん~…分かっちゃいるんだけどねぇ、わざわざ元に戻してスペックを下げるってのも…」

 「できれば、あのまま誰かがって思っちゃいますよね」

 

 ムウの歯切れの悪い言葉を突然直球に言い換えたのは、マリューだった。

 キラはマリューの言った“誰か”が自分である事を指しているのだろうと思うと、マリューから一歩引いた姿勢になる。

 

 「艦長…!」

 「あらら、こんな所へ」

 「ごめんなさいね、キラ君と話しがしたかったから」

 「僕と?」

 「そんな疑う様な目をしないでぇ…まあ、無理もないけど」

 

 さっきの“誰か”の事があるのかキラは無意識に目を細めていた。

 しかし、キラはマリューのあとへついて行き。二人はストライクの前で立ち止まる。

 

 「私自身とても忙しくて、貴方とゆっくり、話し合う機会もなかったから、その…一度ちゃんとお礼を言いたかったの」

 「え?」

 「貴方には大変な思いをさせて、ここまで本当にありがとう」

 

 そういうと、マリューは深々と頭を下げ、キラは少し混乱していた。

 

 「あ、いや、そんな…艦長」

 「口には出さないけど、皆貴方達には感謝しているのよ」

 「……」

 

 てっきり、このまま軍への入隊を勧めてくるかと思っていたのキラは、マリューの意外な一言に間抜けな声を漏らしながら、ほけている。マリューは頭を上げると今度は右手を差し出してきた。

 

 「こんな状況だから、地球におりても大変かと思うけど、頑張って」

 「…はい!」

 

 キラは笑顔でその手を取り、握手を交わす。

 しかし、今度はキラがハッと何かを思い出したかのように、マリューへ尋ねる。

 

 「あの、一夏は…これからどうなるんですか?」

 「一夏君?」

 「はい…、白式もストライクとは別の特別な機体ですし、一夏にしか動かせないじゃないですか。…その、それだけじゃなくて、一夏にはこの世界の戸籍はありませんし…」

 「ふふ…心配しないで、彼も地球へ下りたら、自由の身よ。戸籍の方は厄介だけど、こちらでなんとかしてみせるわ。もちろん、彼が異世界人だってことは秘密だけれど…と言うより、そんな事、誰も信じないでしょう。

 白式も、元々彼の所有物なんだから、取り上げるようなことはしないわ。ただ、アレが危険な物には変わりないから、少し、窮屈な思いをするかもすれないけど」

 「監視…ですか?」

 「そう…なるわね、でも一夏君の私生活に介入する気はないわよ」

 「そう…ですか」

 

 *

 

 整備士一同がMSの整備を終えたところで、MSデッキに総クルーが揃う。最後に入ってきたのは、一夏だった。どうやら一夏も以前ラクスを脱走させた件のトイレ掃除を終わらせて、急いで来たらしい。

 そして、カタパルトから一隻のランチが入ってきた。ランチがデッキの床へと吸着し、ハッチが開いた先に出てきたのは、何とも威厳を漂わせる男だった。その人こそ、ドェイン・ハルバートン准将である。

 

 「ん?おぉ!!」

 

 ハルバートンはランチを降りると、目の前にいたマリューの顔を見るなり驚く。

 

 「ヘリオポリス崩壊の報告を聞いた時はもうだめかとおもったぞ!それがココで君たちに会えるとは!」

 

 そう言ってハルバートンはマリューの肩にポンっと手を置く。偉い人なのに、結構フレンドリーな人だった。

 

 「ありがとうございます!お久しぶりです、閣下!」

 

マリューとハルバートンは互いに敬礼を交わす。

 

 「先も戦闘中との報告を聞いて気を揉んだ。大丈夫だったか?」

 

 ハルバートンが艦内を見渡すと、ある人物の所で視線が止まる。ムウだった。ムウは自分に視線が向けられている事に気づくと、一歩前へでて、敬礼をする。

 

 「第七機動艦隊、ムウ・ラ・フラガであります!」

 「おぉ!やはり!君がいてくれて幸いだった!」

 「いえ、刺して役にも立ちませんで…」

 「それで、彼らが…!」

 「ええ、艦を手伝ってもらいました。ヘリオポリスの学生達です」

 

 マリューの紹介の後にハルバートンは律儀にも自らがキラ達の前へ赴く。

 

 「君達のご家族の消息も確認してきたぞ!皆さんご無事だ!」

 

 それを聞いた。キラ達は安心のあまり各々が微笑む。

 

 「とんでもない状況からよく頑張ってくれたな、私からも礼を言う」

 

 ハルバートンがそんなキラ達の笑顔を眺めていると小太りした男がハルバートンに耳打ちする。どうやら時間が迫ってきているらしい。ハルバートンは男に頷いて「後でまた、君達とゆっくり話がしたいものだなぁ!」っと言い残し去って行った。


 
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