No.459515

大人

律ちゃん視点でーす。
大学律澪。

律澪スレで律澪の喫煙の是非で意見が別れてて、面白いなーと思って書きました。
けいおん!の世界観に煙草は合わないかもですね。

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2012-07-26 00:25:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1257   閲覧ユーザー数:1248

私と澪は二十歳になった。

二十歳、成人。大人。大人としての自覚。

大人とは言っても未だに私は学生。伝え聞く同級生の中には、既に社会人として人生を歩んでいるヒトもいるらしい。

学生と就職した人間とでは意識が違う、とか。本人次第、とか‥‥色々な話を聞いた。人生いろいろってやつか。

私は大学生。高校時代からちょっと広がった世界のキャンパスライフを恋人と共に過ごしている。

頭脳をフル回転させる講義やらレポートやら…高校時代からの放課後ティータイムとしてのバンド活動、得意の料理の腕を生かせるかなぁと思って始め、だいぶ板に付いてきた居酒屋の厨房のバイト…

喜怒哀楽悲喜こもごも。色々入り混じりながらも、やっぱり人生って楽しいなー、なんて思っている。

 

 

二十歳になってから少し過ぎた秋頃、十月のあたり。

バイト先の居酒屋の休憩室にて。バイト先の先輩との談笑中の事だった。

休憩中、先輩はよく煙草をふかしている。

「煙草って、美味しいんですか?」

「あ?あぁ~。疲れに疲れた後の一服とか、最高だよ」

「そうなんですかー」

「そーいや、りっちゃんは煙草吸わないんだ?」

「吸いませんねぇ」

「吸わないなら、吸わない方が、良い!!」

先輩は断言した。思わず私は聞き返す。

「そ、そうなんですか?」

「そうだぞ~。百害あって一利無しってね」

「よく言いますよね~」

「金は掛かるし、身体には悪いし……正に、良い事無し」

と、言いながら先輩はふぅー、と煙を吐く。

「じゃあ、何で吸ってるんですか?」

私は当然な疑問を投げ掛ける。

「んー」

「んー?」

先輩はちょっと考えてから

 

「……美味しいから、かな」

 

伏し目がちで答えると。

煙草で灰皿をトン、と叩き。長くなった灰を落とした。

 

 

バイト先からの帰り道。コンビニに寄った。

お腹は空いてるけど、家に帰れば澪が手料理を用意して待っているから、食べ物は買わない。

適当に缶コーヒーを手にしてレジへ。

ココで会計を‥‥と、その前に。

「えーと…煙草。36番」

 

…煙草を、買った。

 

コンビニで煙草を買う時は、カウンターの後ろにある棚の番号を店員に伝える。

バイト先での先輩らの談笑から得た知識。

常連になると、レジへ向かった瞬間に「いつもの煙草」が用意されてるらしい。

「2点で560円になります」

極めて事務的に金額を伝える店員。

財布には小銭じゃらじゃら。丁度精算出来た。

「あ、このままでイイです」

私はレジ袋を拒否して缶コーヒーと煙草を手にして、レジを後にする。

買った煙草は‥‥ラッキーストライク。

何か、滅茶苦茶パンクな友人が崇拝してるジョニー・サンダースや、ロック馬鹿な親戚の姉ちゃんが溺愛してるThe Birthdayのチバユウスケが吸ってる(いた)煙草らしい。

友人も姉ちゃんも、二人共語り出すと止まらなくて。二人共同じ煙草を吸っていて由来を聞いたり。というか、聞かされたり…って事で。そんな知識も頭の中に入って居た。

白地に灰色ぽい縁取りで赤いサークル。黒字のロゴ。HTTなんかも、似合うかな…なんて、思ってみたり。

とりあえずポケットに缶コーヒーを入れて煙草のパッケージを眺めつつ、澪が待つアパートへ向かった。

 

 

カチャッ、

ガチャ

「ただいまー」

「おかえり」

鍵を開ける音で私の帰宅を察知していた澪がドアのすぐ向こうから出迎える。

 

ちゅっ

 

二人暮らしを始めた時から、ずっと欠かさない「ただいま」のキス。

最初は恥ずかしがったり恥ずかしがったり…恥ずかしがったりで。「どーせ続かないよな…」とか思ってたが‥‥もう、二年は続いている。

「晩御飯、出来てるよ」

「ありがと」

澪が誘ったリビングのテーブルには、オムライスと具だくさんの野菜スープ。

澪は黒髪を後ろで束ねていた。流石私の恋人、後ろ姿も綺麗だ。

シャンプーの匂いと、晩御飯の匂いが交互に香る。

晩御飯はバイトの終わりの時間に合わせて、なるだけ出来立てを食べられるようになっている。

キッチンを通る時に香る洗剤の匂いとか、調理した後の匂いとかで「…さっき出来たんだ」って分かった。

特に決め事は無いが、二人で暮らしてる内にそうなっていた。

お互い、どんなに疲れて帰って来ても美味しい御飯を食べられるようにって。

そんで。片方の帰宅時間が遅くなるようなら、無理して待たずに先に晩御飯を済ませる事。

何かと無理するのは良くないって事も、二人で暮らして痛感した事だった。

「あぁ~‥いい匂い♪」

私は荷物を部屋の隅に追いやり、上着をハンガーに掛けて。キッチンでうがいと手洗いを済ませ、リビングのテーブルの前に正座した。

「‥では、いただきます!」

手を合わせ、挨拶すると正面には澪がウズウズした様子で正座している。

早く食べて‥‥感想聞きたいなー‥‥とか。そんな様子。

 

…我が彼女ながら‥‥可愛いな、澪。

 

「澪も晩御飯、オムライス食べたのかー?」

「ううん‥‥丁度、ムギが時間空いてたみたいでさ。一緒にパスタ食べてきた」

ムギだけか…多分、唯は梓ん所行ったんだろうな。

「そっかそっかー」

美味しいオムライスを食べながら、談笑。

私のバイト先の話とか、澪にやっとフラットに話し掛けてくれるようになった曽我部先輩の話とか。

談笑しながら晩御飯ーなんて、いつもの事だけど。やっぱり…なんっか、夫婦みたいだな……とか、思いつつ。

口には絶対出せないな……。二人共、顔真っ赤になって口ごもりまくるに、決まってる。

……それはともかく。

オムライスと、具だくさんの野菜スープを完食した私は、澪に素直な感想を述べた。

「澪、料理上手くなったなー!」

「えっ!?あ、ありがとっ」

言ってから「あっ」って思ったけど……そりゃ、照れに照れるよな…。

行ってきます、とかおかえり、とかのキスはもう慣れたもんだが。

不意に誉められたりとかはお互い、まだ照れるしかない。

真っ赤な顔で照れ臭そうに食器をキッチンに運ぶ澪に「……ホントに、美味しかったよ」と心の中で言ってあげた。

 

 

晩御飯の後、食器を片付けて歯磨きも済ませて。

リビングでダラダラしながらDVDを見る二人。澪は束ねた髪をほどき、私はカチューシャを外して、前髪をゴムでまとめた。リラックスタイム。

DVDは中学時代の同級生で、バンド仲間でもあるマキから貰ったNIRVANAのDVD。

大学一年の澪の誕生日に、サウスポーの澪を気遣ってマキは「レフティのアーティストDVDセット」をプレゼントしてくれた。

その時の澪のはしゃぎっぷりは……本当に、「子供みたい」だった。その中の一枚を今鑑賞している訳だ。

「律ー」

「んー?」

「律も、早くデイヴみたいなパワフルでカッコイイドラム。叩けるようにならないとな!」

「んぁー‥無理!!」

「無理って言うなよ!」

「いや、確かにパワーあってカッコイイけどさ。何気にバカテクなんだぞ?デイヴは」

「知ってる」

「むりー」

「別にフーファイみたいな事やれーって言ってんじゃないんだからさー」

「もっと無理だわ!!」

「こんなドラムでバンド出来たら、もっと楽しいだろうなー」

「じゃあ…新しいシンバル買えば叩けると思うからお小遣い」

「ダーメ。確かに機材も重要だけど、スキルも伴ってないとな!」

「んー‥‥ふぁ~い…」

二人暮らしを始めてからは、澪が家計を担当している。

まぁ私は居酒屋、澪はムギの親が経営してる喫茶店、と各々バイトしてるとはいえ。機材なんて、そうそう買えないよな……。

 

 

画面にカートがくわえ煙草でジャグスタングを掻き鳴らすシーンが映り。

私は「‥はっ」と、思い出した。

「あ、澪ー。上着取ってくんない?」

「あぁ」

私は澪から上着を受け取り、ポケットから煙草を取り出した。

「‥…り、律。なに、それ?」

明らかに澪の顔色が変わった。

「煙草だよ、見りゃわかるだろー?」

「ソレは分かってるよ……で、どうするつもりなんだ?」

「え?吸うの」

「‥」

 

私が答えた瞬間、澪の中の何かが「ぷつーん」と。切れたのが、分かった。

 

「‥吸う?」

「うん」

「煙草を?」

「うん」

澪の表情は穏やかだが、決して心中穏やかではなさそうだ。

「…吸った事あるの?」

「無いけど」

「じゃあ‥なんで?」

「いや、なんとなく…」

「……なんとなく?」

「い、いや、なんとなくっつーか…バイト先の先輩が食後の一服は美味いっていうからさ」

「先輩に勧められたの?」

「いや、勧められたワケじゃない」

ココで断言しとかないと絶対澪はバイトを辞めさせようとするだろう。

澪の目が、徐々に凛々しくなっていく。

「じゃあ、なんで?」

「いや、好奇心っつーかさー」

バイト先の先輩に「吸わない方が良い!」と言われて「じゃあ吸ってやろうじゃん!」と好奇心ばかり先行して……うっかり買ってしまったが。

そりゃあ、澪は良い顔しないよな……。

澪は淡々とリモコンでDVDを停止させた。

「……律、煙草吸うの?」

「吸うから買ってきたんじゃん……あ、ライター持ってな」

 

ガバッ

 

澪は私の発言を遮り、私を押し倒してきた。

澪の黒髪が真っ直ぐに垂れた。二人と世界の視界を、遮断した。

「……煙草吸うにも、今ライター持ってないから吸えないし」

私は澪に押し倒せれたまま、さっきの発言を続けた。

澪は、寂しそうな表情。

「…でも、煙草買ったんだよね?」

「うん」

悪気も何も無い。

二十歳だし煙草でも、なんて単なる好奇心。

でも、私の恋人には何かが許せなかったらしい。

 

バシッ

 

「わっ」

澪は私の手から煙草を取り上げた。

「……何すんだよ」

「……」

唐突な澪の行動に思わず反抗した。

ちゃんと理由を言ってくれるなら納得するが、今の澪はいかんせん感情的過ぎる。

「……………煙草、吸いたい?」

「……え?」

澪は取り上げた煙草をフローリングの床に置くと、その左手で私の頬を撫でた。

 

 

……………………

 

 

沈黙の間、澪は私の頬を撫で続けた。

「…………ごめんね」

澪が謝ってきた。

「……っ!!べ…別に謝る事じゃねーし!私が勝手に煙草吸おうとか思っただけだし!!澪が謝るなんて、そん」

謝る澪の哀し過ぎる表情に私は戸惑い、とりあえず出せる言葉全てを吐き出した。

すると

「んっ…ん!?」

澪の左手の中指が私の唇を越えて口の中に入って来た。

「……律…」

「ぁ…?」

哀しそうな笑みを浮かべる澪。その澪の左手の中指で、口が半開きになった私。

「ごめんね、律」

表情が幾らか和らぎ、澪は話し出した。

「煙草がどうとかじゃないの。別に吸ってみたいなら吸ってみれば良いと思うんだ。もう二十歳だし。私の周りにも、律の周りにも煙草吸う人なんて沢山いるんだし」

……‥‥とりあえず、煙草が原因ではなさそうだ。

寧ろ、原因とかじゃなくて。澪の中で何が起きたのかが私にとって重要なんだけど。

「ただね……」

澪は私の口から少し唾液が付いた中指を抜くと‥‥ぺろっと舐め、話を再開した。

「……律の唇が煙草に触れるのが、怖かったの」

大層正直そうに‥‥白状した。

「ゴハン食べる時に箸くわえるとかさ、コーヒー飲む時にカップとか缶に口つけるとかさ。そういうのって普通だし。でも煙草って、なんだろ…って思ったらさ。わかんなくなって……」

確かに、私達にとっては煙草なんて未知の代物……それにしても、些か考え過ぎ……ってのもあるけど。

澪が、私を思っての事だって事は、痛い程に‥‥伝わった。

「‥‥みーお‥」

「……ん?」

私の呼び掛けに澪が応えた。なんか怖がってるのが、表情から伝わってくる。

「‥考え過ぎ」

「…え?」

私は、澪の左手を掴む。

 

ちゅっ

 

さっきの中指に、キスをした。

「煙草も吸ってみたいけど‥‥やっぱり、澪がイイ」

 

かぷ

 

澪の中指を、口に含む。

 

‥‥‥‥。

 

いつもはベースの弦を押さえてる指を‥‥たくさん、吸ってみた。

「‥んんっ‥」

澪は狼狽えつつ、私の指を口から取り出した。

さっきよりも、唾液の量が増えていた。

澪は優しい顔で‥‥左手の中指を舐めた。

「‥みーおー」

「ん?」

 

グイッ

 

ちゅっ

 

私は押し倒された体勢のまま澪を抱き締め、キスをした。

 

長く長く………熱い、キス。

 

………んはっ……

 

唇を離すと、澪が赤くなってた。

「澪のくちびる。もっと吸いたいなー」

「り、りつぅ……」

「ふふっ……いただきます」

 

 

私は、澪をいただいて。

澪は…………何か疲れたみたいで。

一息付いて、ソファに座り。一本の缶コーヒーを二人で飲んだ。

 

停止していたDVDを再生させ、少しすると

「……煙草、吸おっか」

「え?」

私は、耳を疑った。

「煙草、吸ってみようって。言ったの」

澪は確かに煙草を吸おう、と言った。

情事の後でぼんやりしてた私の眼は、丸くなった。

「なんだよいきなり!?」

「いやぁ……せっかく律が買ってきたんだし、もう今年で二十歳になるし…」

照れ臭そうな澪。

「無理‥‥してないか?」

「ううん。そういえば、アーティストでも煙草吸ってる人って一杯いるなって思うし」

私の確認にだいじょうぶ‥‥という表情で、答える澪。

「それに、律と一緒なら怖くないかな…って」

澪の頬が赤らんだ。よせやいよせやい。

「んー……じゃ、コンビニにライター買いに行こっか!」

私は少し考えた後。

煙草を吸う決心をした。

 

 

二人でお揃いのパーカーを羽織って、コンビニにライターを買いに言った。

「あ、りつー。お酒、買ってこっか」

「そーだなー。明日講義休みだし」

「練習も、休みだしね」

コンビニのカゴに缶ビールとジントニックの缶チューハイを二本ずつ入れて、レジの横にあった\100ライターと一緒に会計を済ませ、店を出る。

手を繋いで歩く、帰り道。

「澪ー」

「なにー?」

「なんでいきなり酒なんか買おうって言ったんだ?」

「いや、飲みたいからでしょ」

「あ、あぁ、そーだな」

「それに…」

「それに?」

「…酔った勢いなら。煙草、吸えるかな、とか…」

「あぁ…」

やっぱり、澪は煙草を怖がってるらしい。まぁ‥無理も無いか…。

「…大丈夫だよ」

グイッ

「わっ」

私は繋いだ手を引き寄せ、澪に私の腕に抱き付かせた。

「私と一緒なら怖くない、だろ?」

「ぅ、うんっ!」

澪は嬉しそうな顔でくっついてきた。

ちょっと歩きにくいけど…暖かいから、いっか。

 

 

アパートに着き、パーカーを脱いでパジャマに着替えた私達。

「かんぱーい!」

テーブルを挟み、私はビール、澪はチューハイで乾杯。

乾杯ってか、単なる晩酌なんだけど。

外では飲まないが、二人暮らしを始めて少ししてから「アパートでなら……イイよね」と。合意の上で、たまに晩酌をするようになった。

二人で晩酌ってのも、夫婦っぽいよな……。

「律ってさ。なんでビール飲んでるのに太んないの?」

「いやー、やっぱドラム叩いてるからじゃないかー?良い運動んなるし」

「でもさ。この前対バンしたバンドのドラムの人。凄い横幅で…打ち上げでもビールばっかし飲んでたよね?」

「あぁ。多分、つまみ食べながら飲むからじゃないか?」

「そうなの?」

「うろ覚えだけどな」

大学に入ってからのHTTは、ライヴハウスでの活動が主になった。

当然、打ち上げに参加する事も少なくない(当然ながらメンバー全員、そういう場での飲酒は控えているが)。

そのお陰で、澪もだいぶ社交的になった。初対面の人でも、音楽という共通の話題があると話しやすいんだろう。

「そういえば先生もビール党だったっけねー」

高校は卒業したが、澪はさわちゃんを未だに「先生」と呼ぶ。

「あー、あの打ち上げは酷かったな…」

「律が私を守ってくれたから、私は嬉しかったけどね」

そりゃあ、愛する人に守られれば。ソレ以上に嬉しい事はないだろう。

「こっちは大変だったんだぞ!?さわちゃんは酔っ払ってるからガチで来るしさ、唯もムギも梓も、皆して席離れやがってさ!」

「私は見てるだけだから楽しかったなぁ~」

「もう、あの人は打ち上げに呼ばん…」

「でも絶対来るっていうか、いつの間にか居るよね」

「あぁ…」

「飲み会とかだとホント生き生きしてるもんね、先生…」

色々思い出して、思わずげんなりする二人……。

 

…と、ココで。私はテーブルに置いた煙草とライターに手を伸ばした。

 

「り、律!?」

「ん?」

カサカサとパッケージのフィルムを剥がす私。澪は驚きと怯えの表情。

「す、吸うの?」

「…そりゃ、せっかく買ったんだし。澪も吸おうって、言ったじゃん?」

「言ったけどさ…」

怯える澪。酔った勢いでって言ってた割には‥‥勢いどころか、怖がりに拍車が掛かっている。

私は箱の封を切り、箱の天辺をトントンと叩き。煙草を一本取り出した。

「……手慣れてるな」

「バイト先の先輩がやってたの真似してやってるだけだよ!」

疑惑の眼差しを向ける澪。

と、弁解する私。

「こっちがフィルターで、こっちに火を点けるんだよな」

私が確認すると、澪はテーブルを挟んだ正面からいつの間にか私の隣に座っていた。

「ッ~~……」

澪は私の腕をがっしり掴んで煙草を、凝視していた。

どんな表情でも、澪は可愛い。

 

ちゅっ

 

「きゃっ」

煙草に集中していた澪の頬にキスして、意識を解す。思わず上げた声が、たまらなく可愛い。

「緊張、し過ぎ」

「う、ぅん…」

澪は私の腕を掴む手を緩め、身体をもたれ掛けてきた。力が抜けたんだろう。

‥さて、気を取り直して。

「吸うよ…」

「う、うんっ!」

再び澪が緊張した。まぁ……しょうがないか。

私は煙草を左手の人差し指と中指の第一関節のあたりで挟み、フィルター部分を口にくわえた。

ゴクリ……と、澪が息を飲んだ。

私は右手でライターを着火させ、火を煙草の先端に当てた。

そして、息を吸って肺に入れた。

 

すぅっ

 

「‥っっっんんっ!!」

肺が一気に苦しくなった。

 

「っげほっ!えほっ!えほっ!」

そして直ぐ様咳き込む私。

 

「り、りつ!?」

驚く澪。

 

「えほっ!うぅっ……うへぇ~‥‥こりゃダメだわぁ」

私は呼吸を整え、苦笑した。

「りつ!りつ!!しっかりしろ!りつ!!しっかり!!」

パニクって……明らかにしっかりしてない澪。

「‥‥大丈夫だよ、澪」

 

ちゅっ

 

「はっ………良かったぁ…」

澪は私のキスで正気を取り戻し、安堵の表情を浮かべた。

「やっぱし‥‥煙草はダメだな~」

参った参った、と言う表情で。私は残りの煙草を捨てようと立ち上がろうとした。

その時。

 

がしっ

 

「律」

「え?」

澪が私の腕を掴んだ。

 

「私も、吸う」

「は?」

「私も吸うよ!律!」

極めて真剣な表情で私に訴えてきた。

アルコールのせいか‥表情に力が入っていた。

「な、何言ってんだよ!今の見てただろ!?」

「や、でも」

「でもじゃないし!一気に肺が苦しくなって!げほげほーってなるんだから!ダメだ!!」

思わず捲し立てる私。

「っ……」

「……」

「……」

「…澪?」

「……グスッ」

あ、泣いちゃった。

「……泣くなよ」

私は右手で澪の頭を撫で、煙草を空いたビールの缶で消火した。

 

ジュッ

 

半口分ほど残っていたビールに火が落ちて消えた音が、新鮮だった。

「だって…」

「だって?」

少し鼻をすすりつつ、涙目で澪は話し出した。

「吸おうって言ったの私だし…一緒なら、大丈夫!とか…言ったのも私だし…」

時折えぐえぐ言いながら。必死に話す澪が‥‥猛烈に愛しくなった。

やっぱりアルコールのせいか‥‥澪は感情をモロに顔に出す。

「それに…律だけが苦しむなんて……嫌だよ…かなしいよ…」

「…」

私は無言で。澪にティッシュを手渡した。

「…ありがと」

私は、鼻をかむ澪の頭を撫でつつ

「……ごめんな…」

謝る他、無かった。

 

 

…澪がひとしきり泣き止み。二人で残った酒を空けた。

「なんっか‥今日は長いなー」

「ホントにねー。煙草吸うのって、こんなに苦労するものなのかな?」

「いや、しないと思う…」

思わず突っ込む私。澪の機嫌も、だいぶ上がってきたようだ。

「じゃ……吸おっか」

突然切り出す澪。

「え?何を?」

「え?煙草を」

‥あ、やっぱし吸うのね…。

「やっぱり言ったからにはさ。吸わないと」

我が彼女ながら、律儀な事を言うなぁ…と関心しつつ。私が煙草を取り出そうと、箱に手を伸ばすと

「あ、律。私やる」

先に手にしたのは、澪だった。

さっきまで子供みたいに泣いてたのに…多分、酒が良い方向に回ってるんだろう。

澪はぎこちない仕草で煙草を取り出し、左手にライターを持つ。いつも見ている指だが、やっぱり綺麗な指だ。

「……」

煙草をくわえたまま、沈黙する澪……。

 

シュボッ

 

ライター、着火成功。ゆっくり火を煙草に近付け……

 

「……」

煙草に、火が点いた。

 

すぅっ

 

澪が、息を吸った。

私は、息を飲んだ。

 

「……っ!?」

澪は煙草を口から離すと、白い煙を吐いた。

「………あ、れ?」

澪は絶対に咳き込む!と確信していた私は、間抜けな声を発していた。

「‥ふぅー‥‥」

澪は煙を吐いた後、深呼吸した。

「…み、みお?」

「‥ん?」

綺麗な右手の指で煙草を挟んだまま、こっちに振り向く澪。

「だ、大丈夫…?」

「あ、あぁ。ちょっと肺がググッてなったけど…今の所、大丈夫」

私の問いに平然と答える澪。

「……」

腑に落ちない私。

「でも‥‥美味しいとか美味しくないとか‥よくわかんなかったな」

「…そっか」

「まぁ、煙たいし…吸わない方が良さそうだね、煙草」

澪は苦笑し、煙草をビールの空き缶で消火した。

「……」

なーんか‥釈然としない私。

「‥じゃ、律。そろそろ寝よっか?」

澪はテーブルの上や床に置かれた空き缶をまとめつつ、就寝の意思を伝えてきた。

「うん…」

呆気ないと言うか、何と言うか……そんな気持ちが、私の顔にモロに出てたらしい。

「……くすっ」

澪は、少しだけ口元で笑い

 

だきっ

 

「うわっ!?」

思いっ切り、抱き着いて来た。

「な、なんだよ……」

顔の横からシャンプーの匂いが流れてくる。

「…なーんでそんな顔してるのかなー?」

私の頭の斜め後ろから、澪が聞いてきた。

完全に、酔っ払いの口調だ‥‥‥。

「な、なんでって…」

「私がげほげほーってしなかったからでしょー」

 

ばっ

 

澪は一旦離れてから、私の両肩を掴む。明らかに、目が座っている。ソレはソレでセクシーなのだが。

「そんな事っ…」

 

むちゅっ

 

いきなりキスして来る酔っ払い。

「スネたりつ、かーわいー!」

 

だきっ

 

そしてまた抱き着いて来る酔っ払い。

多分、無事に煙草吸えて緊張の糸が切れた……のかな?

何にせよ、私の恋人は缶チューハイ二本ぐらいでココまでは酔わない。

「私にもげほげほーって、してほしかったの?」

ブラブラと私の首にぶら下がる酔っ払い。

「そんなんじゃないし…」

「んー……」

予想が外れた酔っ払いはぶら下がったまま、私の胸の前で少し考えてから

「…わかった!」

座った目をキラキラさせて、私の顔を見上げた。

「くやしかったんでしょー!自分だけげほげほってしてー!!」

「……っ!」

悔しい、とは違う気もするが、なんとなく図星。勿論、苦しい思いをして欲しかった訳ではない。

「もぉースネちゃうなんて、かわいいなぁーりつはぁー」

酔っ払いは私の顔を抱き抱えると、ムツゴロウさんの如く頭を撫で回した。

「おーよしよーし」

酔っ払いは無意識に私の顔を胸に押し付けて来た。やわらかくて気持ちは良いけど……何か悔しい。

その時。

 

パシッ

 

「あっ」

私の前髪をまとめていたゴムが酔っ払いの指に引っ掛かり、取れた。

 

はらり

 

下りる、私の前髪。

「りり、りつ、ごめん!!だいじょぶ!?いたくなかった!?」

酔っ払いは「やっちゃった!!」という表情で謝って来た。

「……大丈夫だよ…まったく‥」

酔っ払いから解放され、呆れ気味に答える私。

「……ホントに……だいじょぶ?」

うわ、今にも泣きそうだ。

「大丈夫だよ…」

とりあえず、よしよし…と、酔っ払いの頭を撫でてみる。

「…ぐすっ」

‥あ、ちょっと泣いてる。

「もうっ!!」

 

だきっ

 

「大丈夫だってばっ!!」

ベソを掻く酔っ払いを抱き締める。コレで泣き止めばいいんだけど…と、思ったその矢先。

「……きっていって…」

ぼそっ‥‥と、何か聞こえた。

「…だいすきっていってよ…」

酔っ払いは、涙目で訴えてきた。

私は、答えるしかない。

「……大好き」

コレで落ち着いてくれ…。

「……私はだいすきじゃない……」

「え!?」

「だいすきじゃない!!」

「……!?」

「あいしてるー!!」

 

がばっ!!

 

私は酔っ払いに抱き着かれ、そのまま倒れてしまった。

 

「んー…」

「……」

酔っ払いに押し倒されたまま、私は困りに困った。

酔っ払い…もとい、澪がこんなに豹変した事は未体験だった。

私が何かやらかして澪を泣かせてー‥…とかは何度もあったが。ココまで感情が何度も入れ替わるのは初めてだった。

多分、私が煙草を吸うって事へのショックとアルコール、無事に煙草を吸えた事への安堵感のせいなのかなぁ、とか考えてみたり。

「‥りつー」

「ん?」

「‥りつ」

「何?」

「りーつ」

「なんだよ」

澪が何度も呼び掛けてくる。正に「酔っ払い」特有の行動だ。

「‥いま、私、おかしくなってるよねー?」

どうやら、自覚はあるようだ。

「うん、すっごく」

「てへへ…」

澪は何故か照れると

 

ちゅっ

 

キス、してきた。

流石にこうなると私だって慣れて来る。

「…うれしかったんだー」

座った目で、澪が話し始めた。

「おこっちゃったりしたけどさ。いっしょに煙草すった!!」

満面の笑みをぶつけてくる澪。

不覚にも、思わず胸がキュン、と。鳴った。

「いっしょに、ひとつ大人になった!!」

本当に嬉しそうだ。

「りつぅー‥」

澪は、綺麗でかわいい顔で私に語り掛け

 

ちゅっ

 

「‥ありがと」

また‥キスしてきた。

 

ちゅっ

 

「…こちらこそ」

私は、お返しのキスをした。

「‥あのさー、りつー」

「ん?」

「煙草、すてるのー?」

「あぁー……どーすっかな‥どーせ吸わないしなぁ‥」

そういえば、煙草は箱の中にたくさん余っている。

「‥ね?とっとこ!ひとつ大人になった、記念に!!」

笑顔で提案する澪。ものすんごい笑顔。

「…そうだな!」

私は…‥同意した。反論する理由も無いし。

とっとこうって。自戒の意味も込めて。

「わーい!大人大人!」

私の肩を掴んで大人大人!、とはしゃぐ澪はまるで子供みたいだった。

「ねぇ、りつー」

「なんだ?」

「りつの唇、すっていいー?」

「…さっきから吸ってんじゃん…」

私が呆れると

 

 

「さっきまでのはねぇ…ただの、キス」

 

 

澪は私の頬をそっと撫でた。私を見つめる座った目がより一層セクシーさを増していた。

 

「すうってのはね…」

私の顔にそーっと顔を近付けてくる澪。なんか…背筋がゾクっとした。

 

「こうするの…」

澪は、目を閉じ。私の唇と自分の唇を重ねた。

私も‥目を閉じた。

互いの唇が、完全に密着した。

温かい澪の舌が、私の唇をそっ‥‥と。こじ開けた。

 

「…っ!」

再び背筋がゾクっとして、思わず澪の背中に腕を回す私。

澪の舌は、私の口から私の舌をゆっくりと、ゆっくりと掻き出した。

 

「ぇあっ…!」

思わず私は中途半端に開けられた唇から、声を漏らした。

澪の目が少し開いて、笑みを浮かべた気がした。

 

「…………」

澪は、私の舌を唇で掴んだ。

そして、澪は私の舌を吸った。

私の身体から一気に力と理性が抜け落ちていった―――――

 

 

「……はっ!!」

私は、目が覚めた。

「………あれ…?」

私は、寝室のベッドの上に居た。

澪に、押し倒されて。何度もキスされて。最後に、ディープキスされて…

「…………」

 

……‥どーしても、ソコまでしか思い出せなかった。

 

「あ、律。起きたかー?」

リビングから、澪が声を掛けてきた。

寝室は暗く、リビングの蛍光灯の明かりが眩しい。まだ、夜らしい。

「律。パジャマ着ないと風邪引くよー?」

「え……?ぅわっ!!」

チューハイ片手に、私のパジャマを小脇に抱えた澪が寝室に入って来た。

 

ってか、私、裸……

 

「りつ、可愛かったよ♪」

満面の、何かを含めた笑みを浮かべた澪がパジャマを手渡してくれた。

どうやら、酔いは覚めたらしい。

「…ってか、なんで私裸?澪、チューハイ全部飲まなかったっけ?」

「‥‥‥あぁ。やっぱ憶えてないんだ」

澪がふふっ、と。意地悪な顔で笑った。

「おぼえて‥‥ない?」

キョトン、とする私。

「ん~‥とりあえず、パジャマ着なよ」

「うん…ごめん、ちょっとあっち行ってて…」

「…どうした?」

「……今はなんか、恥ずい…」

私が素直な心情を伝えると澪はふぅん、と不思議そうな顔をして。リビングへ消えて行った。

「…」

私は意味も分からず赤面しながら下着を付け、パジャマを着た。

 

「…」

 

ずっと俯き加減の私を。

茶色い前髪が「どうしたー?」とゆらゆらしながら、目の前を漂っていた。

 

 

 

「はい、律の分の寝酒。目、覚めちゃっただろ?」

リビングのテーブルの上に、澪が缶ビールをコトン、と置く。

私はあぐらを掻いてビールを手に取り、とりあえず封を開ける。

 

プシュッ

 

「よーし。じゃあ、かんぱ~い♪」

テーブルの向こうで、明らかに何かを含ませた笑顔で乾杯を促す澪。

「かんぱーい」

自分でもビックリするくらいの棒読みで、乾杯に応えた。

「りつー」

チューハイ片手に、やけにウキウキした雰囲気で澪が話しかけてきた。

「何があったか、聞きたい?」

寧ろ言いたくてしょうがない気持ちを抑えてるのが分かる。

「…」

 

グイッ

 

私はビールを多めに飲んでから、渋々聞いた。

「…何?」

「まずはねー律ってばさー私がキスしたらすんごい可愛い声だしてさー」

「わ―――!!!」

反射的に澪の発言を遮る私。

「思っきしからかってるだろ!!」

「え?だって。事実だもん」

全部律が悪い。とでも言わんばかりの澪の顔。

記憶が無くなる直前までは、澪がメチャクチャになってたハズなんだけど…。

「じゃさ、そのくだりだけ、はしょってくれ」

予想は出来るが、聞きたくない。

「えぇ~…なんで?」

つまらなそうな澪の顔がホンッッっっトに憎たらしい。

「…はずかしいからっ!!」

「わかってんじゃん」

「いいから!!えっと…とりあえずこの酒は!?」

必死な自分が本当に情けない。

「コレはー、律が眠っちゃってさ。私、目も覚めたし酔いも覚めちゃって。明日終日オフだから、コンビニで買ってきた」

簡潔に答える澪。

「寝酒だしーと思って。小さいやつ買ってきたの。一応、律の分も買ってきたの。ソレね」

また、簡潔に答える澪。

「…あ、ありがと」

私は礼を言い、とりあえず小さいビールを飲んだ。

「で、その前の事なん」

「やっ……!!」

思わず澪の言葉を遮る。

「恥ずかしいの?」

「…恥ずかしい」

「私、まだなんにも言ってないよ?」

「~っ…」

私は無言でビールを飲む。

「教えてあげたいんだけどなぁ~可愛い律」

完っ全に手玉に取られている。

「だって…」

「なに?」

「おぼえてねーんだもん…」

だっても何も無いだろ、と自分に突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。

「…くすっ」

澪はしょうがないな、と言った顔で笑った。

 

すたすた‥

 

澪はテーブルの向こうから私の隣に移動し。私の隣に座ると、私に体をもたれてきた。

「…バカ律…」

やれやれ、という顔で笑みを浮かべる澪が、隣に居る。

「…澪が悪いんだからな」

精一杯の台詞を返すと

「はいはい」

やっぱり、あしらわれた。

 

 

しばらくの間、寄り添ったままで寝酒を飲んだ。

たまに「りつかわいかった」「うるさい」なんてやりとりをしつつ。

「…りつー‥」

「‥ん?」

「‥‥ねむい‥」

「ん…私も」

ちょうど、缶も空いた所だった。

二人でキッチンに空き缶を片して、煙草をライターと一緒にキッチンの邪魔にならないスペースに置いて、リビングの電気を消して、寝室に入った。

「りつかわいかった」

「うーるーさーいー」

私がウザがる度に、澪はきゃっきゃっと腕にしがみついて来た。

「…寝よっか」

「うん」

私達は、ベッドに入った。

 

 

 

「‥りつー」

「‥なにー?」

真っ暗の寝室で、私の腕の中の恋人が声を掛けてきた。

「かわいかった」

「…」

澪は、一度弱みを握るとしつこい。

しかも、抵抗のしようのない弱みなもんだから‥‥タチが悪い。

「…もうっ」

 

ぎゅうっ

 

せめてもの仕返し、と思って。思いっ切り抱き締めた。

「…ふふっ」

 

ぎゅうっ

 

抱き締め返された。

「……ふぅ……」

私はいい加減疲れて‥‥寝に入った。すると

 

ごそごそ

 

澪は私の腕をま探り、手のひらを発見すると

 

かぷっ

 

中指を、くわえた。

 

「…っ!?」

私は思わず一瞬狼狽えたが

 

ふぅー…すー…

 

 

澪は私の中指をくわえたまま……眠った。

 

 

「……‥やれやれ‥‥」

 

 

私は澪の寝顔を見つめたまま、眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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