No.454524

恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十五の刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

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2012-07-17 06:37:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4893   閲覧ユーザー数:4292

【十五の刻 鈴の音の武人 ②】

 

 

 

 

 

 

疾風が逗留することとなった翌日、孫権達と朝食を終えた後暇を持余した疾風は街でも見て歩こうかと出かけようとしたが、庭先でまだ傷も癒えてないだろうに修練をおこなう甘寧を見かけそのまま見物を始めた。

「せい!」

 

傷や疲れなどの影響を見せず、気合の篭った声と共に繰り出される一撃。

 

「ほう」

 

それを見て疾風が感嘆の声を上げた。

 

「誰だ!」

 

その声に気づいたか、此方を振り向いた甘寧が鋭い視線と共に声を荒げる。

 

「居候」

 

そう言いながら疾風が姿を見せると、甘寧は面白くもなさそうに舌打ちをした。

 

「ちっ貴様か。」

 

露骨に不快感を露にしながら振っていた短刀を腰に戻す甘寧。

 

「何の用だ?」

 

不満を隠そうともしない甘寧に、頭を掻きながら苦笑を漏らす。

 

「いやなに、傷も癒えてないだろうに朝から熱心に鍛錬してるからな、ちと気になったのさ。」

 

「私は武人だ、己を鍛えて何が可笑しい。」

 

一々言葉から刺々しさを感じさせる甘寧の物言いに、疾風は参ったなと肩を竦めた。

 

「可笑しいとは言ってないさ、唯気になっただけ、だよ。」

 

「…ふん、この際だからはっきりと言っておく、蓮華様が何と言われようとも私は貴様を信用していない。本来なら…蓮華様のお言葉がなければ今すぐにでもここから叩き出したい位だ。だから貴様に忠告しておく…もし貴様がほんの少しでも蓮華様に害を与える人間だと私が判断した時は、即その場で首を刎ねとばしてやる!」

 

そう言いながら再び腰の短刀に手をやり、疾風に向る視線をさらに細くする甘寧。そんな甘寧の態度に疾風が呆れたように話す。

 

「やれやれお前さんは短気だな…が、よしたほうがいい今のお前じゃ俺には届かないぜ。」

「…ほう面白い、届かぬかどうかこの場で試してやろう!」

そう言って剣の柄を握る手に力を入れ疾風に殺気を叩きつける。

だがそれだけで人が殺せそうなほどの視線で射抜かれても疾風は飄々とした態度を崩さない。

逆にその態度に甘寧の怒気が増した。

 

「…ちっ、もはや勘弁ならん抜け今すぐ叩き斬ってくれる!」

 

そう言い放ち必殺の構えを取りながら殺気を濃くする甘寧。

「俺の流儀は無手だ…このままでいい。」

そう言うと疾風は笑みを浮かべたまま懐に入れていた手を抜き構えを取る。

スッ

ジリ

間合いが詰り緊張が高まる。

 

「言って置くが俺は強い、ぜ。」

 

「ふ、世迷言を…。」

(無手と言うことは組み打ち術か、だが無手で私の剣速を捕らえられると思うな!)

さらにもう一歩間合いが詰まった瞬間

「はあぁぁ!」

との気合と共に居合いで疾風の首筋を本気で斬り付ける甘寧

ジャッ

くんっ

目にも止まらぬ速さで放たれた甘寧の居合いだが、疾風は難なく避けたかに見えた、が

「…次は外さんぞ」

 

甘寧の言葉と共に疾風の頬を一筋の血が滴り落ちる。

それを右の親指で軽く弾いた後、にい~と面白そうな笑みを浮かべる疾風。

それを見て再び腰の鞘に剣を戻し、低い体勢で居合いの構えを取る甘寧。

対して軽い笑みを口元に浮かべたまま構える疾風。

甘寧が再びその身に殺気を纏い、周囲の空気が重くなりかけたその時

「…貴方達、何をやっているの?」

と孫権の声が聞こえた。

 

 

 

「はあ~もう何をやっているのよ貴方達は…。」

事情を聞いた孫権は溜息混じりにそう言った。

「思春、昨日も言ったけど疾風は私の恩人よ、余り無下に扱わないでね。」

主にそうお願いされた甘寧は不承不承ながら頷くしかなかった。

「疾風もそんなに暇ならこれから私の相手をしてもらえないかしら?丁度政務の合間にお茶にしようと思っていたのよ。付き合ってくれるなら有難いわ、もちろん美味しいお菓子も出るわよ?」

美味しいお茶菓子と言われれば疾風が行かない訳がない。さすがと言うか、この短い付き合いで疾風の扱いを心得てる孫権だった。

「では先に部屋に行っていてね、私もすぐに行くわ。」

言われたとおりに向かう疾風を一瞥したあと、孫権は疾風の背に鋭い視線を送る甘寧に話しかけた。

「ねえ思春、疾風ともう少し仲良くはなれないかしら?」

主にそう言われ疾風から視線を外した後、甘寧は

「…無理です。」

ときっぱり断った。

「はあ~もうしょうがないわね、でも喧嘩を仕掛けるとかはやめてね?幾ら貴方が本気じゃないとしても万が一怪我でもされたら困るわ。」

「…本気でしたよ。」

「え?」

主の忠告を一言で否定してきた忠臣の言葉を、孫権はすぐには理解できなかった。

「先程の勝負私は本気で斬りつけました。それでいてあやつに軽くあしらわれたのです。」

孫権は甘寧の言ってることが、本音だと信じられなかった。

(そんな、思春は我が孫呉の武将の中でも最強の部類に入るわ。彼女と互角に戦えるのは姉様を除けば祭くらいのはず。でも、思春がこんなことで私に嘘を言うとは思えないし…。)

「…さらにあやつは手加減をしてました。私の居合いの合間に蹴りを放ってきていたのです。」

そう言い甘寧は己の鞘を孫権に見せた。

「こ、これは鞘に亀裂が…」

「ええ、あやつが放なった蹴りが入っていました、死ななかったのはあやつが本気でなかっただけでしょう。」

そう言いながら悔しげに唇を噛む甘寧

「確かに私はあやつを穿った目でしか見ていませんでした。そのうえ慢心していたのでしょう、あやつの実力を見抜けていなかったのですから…。」

そう言いながら疾風が去った方を一瞥する

「しかし、次は本気にさせて見せます。」

何か吹っ切れた表情で疾風が去っていった方に目線を送り、口元に少しだけ楽しそうな笑みを浮かべる甘寧を、複雑な表情で見つめる孫権であった。


 
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