No.454056

恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十四の刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

続きを表示

2012-07-16 14:29:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4266   閲覧ユーザー数:3888

【十四の刻 鈴の音の武人 ①】

 

 

 

 

 

 

――九江城、謁見の間

 

「おお孫権殿、此度の賊退治大儀であった。」

 

疾風と共に現在の住まいがある九江の街に戻った孫権は、怪我の治療もそこそこに思春こと甘寧を伴って九江太守、陳紀に謁見していた。

 

「…ご命令通り近隣の村々を荒らしていた賊三百(・・・)、退治してまいりました。」

 

内心で歯噛みしながらも声に出ないように、極めて平静に報告する孫権。

 

元々孫権の母親である孫堅は江東一帯を支配下に置き『江東の虎』と周囲に恐れられたほどの人物であったが、その孫堅が襄陽の劉表との戦で劉表配下の黄祖の罠に嵌り戦死した後、敗残の将兵は袁術軍に吸収されることとなった。その際袁術は元孫堅の部下達がいずれ自分に背くことを恐れ、各地へと分散させ監視を置いて隔離したのである。

 

孫権と甘寧もここ九江に連れて来られ客将とは名ばかりの便利な駒として扱き使われていたのである。そのこともあり自分の母親の死後、その治めていた地を掠め取りさらに自分達を良い様に扱き使う袁術やその配下のことを憎々しく思っていたのである。

 

「いやはやさすが権殿ですなあ、自軍の数倍の賊軍を壊滅させるとは見事ですぞ。きっと貴方の姉君も亡き母上もお喜びのことでしょうぞ。…まあ部下達のことは残念でしたがね。」

 

(よく言う!貴様の虚偽の情報のせいだろうが!!)

 

にやにやと嫌な笑顔を貼り付けながらそう嫌味のように言ってくる陳紀に一瞬殺気を向ける孫権だが、自身の未熟さの為の失敗だと思い直し軽く息を吐き出すと搾り出すように声を出した。

 

「…部下を失った責は自身の未熟さゆえと痛感しております。」

 

そう言いながら抑えきれない怒りの感情を悟られぬよう、頭を下げ視線を地面に落とす。

 

「まあ権殿も此度が初陣とのこと、此度をことを教訓にこれからも励めばいいであろうよ。…さて権殿も負傷なされているとのこと、もう下がっていいですぞ、ご苦労でありましたな。」

 

そう言いながら軽く欠伸を漏らし退室を促す陳紀に視線を合わせぬようにしながら、甘寧を伴い部屋を後にする孫権だった。

 

 

 

 

 

「くそっ陳紀のやつめ!!」

 

城の外に出た途端、孫権は貯まっていた鬱憤を吐き出した。

 

「やつの顔を見ているだけで怒りに我を忘れそうになっていたというのに、あの言いよう…思わずあのそっ首叩き落としそうになったぞ!」

 

憤慨やるせないといった感じの孫権の耳元で甘寧が小声で話しかける。

 

「…蓮華様お気持ちは分かりますが、ここでは誰に聞かれているか分かりません…ご自重ください。」

 

「っつ、分かっているわ、けど許せないじゃない。」

 

此度をことは自分の未熟さゆえと思っては見ても、虚偽の情報をよこした陳紀のことを許せるはずもなかった。

 

「あんなやつのために皆が死んだかと思うと…。」

 

ギリッと奥歯をかみ締めるようにしながら怒りに震える孫権。甘寧はそんな孫権に静かに、だがはっきりとした言葉を発した。

 

「…いずれやつには必ず報いを受けてもらいます。いえやつだけではなく袁術達にも…だけどまだ我々にはその為の力が足りません。ですから暫く…もう暫くの間だけ耐えてください。」

 

そう言われ自身が平静でないことに気がついた孫権は、気持ちを落ち着ける為か一つ大きく息を吐き出した。

 

「分かった、分かったわ思春…。私が浅はかだったわ。姉様や皆も耐え忍んでいるのにね…。そうねいずれ時が来たら存分に報いをくれてやりましょう。」

 

そう言うと孫権は、気分を切り替えるように話題を変えてきた。

 

「そう言えば思春、貴方傷の方は大丈夫なの?」

 

「問題ありません、それより蓮華様の方こそ足は大丈夫でしょうか?痛むようなら私が背負いますが。」

 

今にも本当に背負いかねない勢いで詰め寄ってくる部下に対し、苦笑を浮かべながら軽く手を振り大丈夫だと返す孫権。

 

「もう心配しなくても大丈夫よ、ちゃんと治療も受けたし確かにまだ少し痛むけどこうして街をゆっくり歩く分には問題ないわ。」

 

そう言いながらまだ心配そうに見ている甘寧に平気だからと念を押す。

 

「これも帰りの道、私を運んでくれた疾風のおかげね。」

 

疾風の名が孫権の口から発せられた一瞬、甘寧が眉を顰めたが孫権は気づかぬようだった。

 

「それじゃあ今晩は約束通り美味しい物をご馳走しなくちゃね。」

 

先ほどまでと違い頬を軽く朱色に染め、機嫌良さげに話しながら家路を急ぐ主人の後ろ姿を複雑な思いで見る甘寧だった。

 

 

 

 

 

 

さて孫権達の帰宅後早速疾風にご馳走が振舞われた訳だが、遠慮なしにそれらを平らげあまつさえお代わりを要求する疾風を見て孫権は「よほどお腹が空いてたのね」とクスクスと笑みを零し、甘寧は「無遠慮な…」と蔑む様にずっと睨みつけていた。

 

「ふう食った食った…ご馳走様。」

 

「ふん、よくもまあそこまで無遠慮に食えるものだ。」

 

幾許かの刻が過ぎ、ようやく食事に満足した疾風が箸を置くと甘寧が呆れたような声を出した。

 

「久々のご馳走だからな、さすがに食いすぎちまった。」

 

食いすぎで済ませられる量ではもはやないと思うのだが、疾風は腹を撫でながら満足そうに笑った。

 

「ふふ、満足してくれたようで何よりだわ。…え、え~とそれでね疾風。」

 

満足げな疾風の様子に頷いた孫権は、ちょっと戸惑った様子を見せた後意を決したように言い出した。

 

「もし貴方さえ良かったら暫く当家に逗留してもらえないかしら?」

「蓮華様!」

 

突然切り出した孫権に驚いた表情になる甘寧。

そんな甘寧を目線で制した後、疾風を不安げに見つめる孫権。

 

「その…まだ貴方にお礼し足りないのだけれど、ど、どうかしら?」

 

少し顔を赤らめながら詰め寄って来る孫権対し、疾風は小首を傾げてから、

 

「ふむ、美味い飯が出るのなら。」

 

そう片目を瞑りながら答えた。

 

そんな疾風に対し甘寧は忌々しげな視線を送りながら、誰にも聞き咎められぬ声で不満を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「ちっ、気に入らん…な。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
14
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択