No.453526

リリカルなのは×デビルサバイバー

bladeさん

1st Day 様々な人間模様

2012-07-15 19:26:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1954   閲覧ユーザー数:1900

 

 リズムよく黒板にチョークで文字が描かれていく。

 椅子に座る子供たちは黒板に描かれた物を、愚直にノートに写し続ける。

 恐らく学校という場に居れば、誰であろうと行なっていたであろう行動。

 ところで話は変わるが、小学生に戻りたいという人も居たりするのではないだろうか? しかし、よく考えて欲しい。小学生レベルの勉強を再びやるというのは、かなりきついのではないだろうか?

 

 子供の精神年齢では、ちょっとした事でも楽しむことが出来る。しかし、高校生ぐらいの精神年齢と、知識レベルになると、とても苦痛である。

 

 という訳で、この世界にやってきたカイトは、日々退屈な授業を受けて暮らすことを強いられる事になる。それでも、根が真面目なのか黒板の文字をきちんと写していく。写し終わると今度は、例題を出されそれを解くという時間が与えられ、教師に当てられた生徒が黒板に書きに行く。

 

 今回教師に当てられたのは、金髪がよく映える少女だ。その少女が、元気よく立ち上がりながら返事をする。

 その髪の色から、日本人ではない事は、カイトにも初見で分かった。直接本人から話を聞いたが、生粋のアメリカ人であるらしい。まぁ、その生涯のほとんどを日本で過ごしてるらしく、「ほとんど日本人みたいなものよ」とは彼女――アリサ・バニングス談だ。

 様々な習い事をし、勉強もきちんとやっている彼女からすれば、今習っている勉強など屁でもないのだろう。すらすらと黒板に答えを書いていく。

 アリサが書いた答えを見て「正解」と判定を下した。その後「分からない人は居るー?」と聞くまでが、テンプレというやつだろう。

 当然カイトは問題なし。むしろ、近くで分からないと悩み、質問してきた子供に、教えているぐらいだ。

 アリサという少女もまた、正解した事を喜んでいた……が。一人の少女を見ると、機嫌を悪くしたように、頬を膨らます。

 理由はどうであれ、よく見る日常の風景には違いない。

 だが、カイトにとっても日常になりかけていたその日常は、一人の少女の大きな声で打ち砕かれることになる。

 

* * *

 

「いい加減にしなさいよっ!!」

 

 バンッ! と、机を叩く大きな音が、教室内で響いた。

 後方で、銀色の髪を持つ少女が、ヒッ! とちょっとした声をだしたのを、カイトは聞きのがさなかった。それと同時――教室内の視線が、机を叩いた少女に集まる。

 

 机を叩いたのは、先ほどの金髪の少女、アリサ・バニングス。

 その近くに居るのは、高町なのはと、月村すずか。という少女だ。

 彼女たちは、この教室の中で、最も仲の良い三人。といえるだろう。その少女たちが、喧嘩を……いや、アリサが、なのはに対して何かを言っている。何かを責めるように。

 

「(……)」

 

 少しだけ気になった物の、出歯亀するような真似はよくないな、と。カイトは思い、カバンを持って教室を一人出る。

 

* * *

 

 都市部から引っ越してきた少年。

 それがカイトに対する、周りの印象だ。その為、友達なんて居るはずもなく……いや、話しかけて来る者は居るのだが、如何せん話が合わない。

 見た目はともかくとして、小学生と高校生という違いがあるのだから、しかたがないのだけれど。

 

「んーー! 疲れたぁ……」

 

 鞄を放り出し、ソファーに勢い良く座る。

 既に分かっている事を、改めて聞いたり、勉強させられるのはつまらないし、何より疲れが溜まるものだ。

 

『クックック。魔王ともあろう者が小学生の勉強とは、な』

「五月蝿いな……」

 

 ベルに軽口を叩きながら、私服へと着替える。

 カイトが通っている学園は、制服を採用している。カイトもその事を知った時は驚いたものだ。

 

「それで……この半年。暮らしてみたけど、本当に神様の気配はしないのか?」

『しないな。それどころか、あの忌々しい唯一神の気配さえ、一切しやがらねぇ』

 

 半年――。

 カイトは何もせず、手をこまねいていた訳ではない。

 『神の加護がない世界』

 これをキーワードに、様々な情報を収集し始めた。その中で数々の異変、というよりも差異と言ったほうが正しいか? とにかく、違いを知ることになる。

 

 先ず神社の数が少ない。それに比例して、教会の数もまた少ない。これは祀るものが、存在しないという事を意味している。と、カイトは考える。

 その証拠に、数多の神の……または、悪魔と呼ばれる者達の名が、この世界にはない。有名所で言えばだが。

 オーディン。

 ビシャモンテン。

 タイホウ。

 ノルン。

 そして、ルシファー。

 

 数々の神が、悪魔が、その使いが……。存在を消している。

 

『気をつけろ。この世界……もはや何が起きても分からん世界だ』

「わかってる」

 

 そもそも、何が起きても不思議ではないのは、この世界だけではない。

 それが分かっているからこそ、カイトは何時も用心して、あれを持ち続けている。

 

「さて、行くか」

 

 とはいえ、起きない時は、何も起きないので、いつもどおり、ヘッドホンをつけて、カイトは家を出て、歩いて行く。

 

* * *

 

「それにしても…」

 

 ボロボロになったビル街を見ながら、カイトは歩いている。

 原因は不明。なぜか、一夜の内にこうなってしまったらしい。

 こんな話題性がある事件なのだ。さぞ、マスコミが騒ぐ……かとおもいきや、そんな事はなく、直ぐ様終息していく。

 

 まるで、誰かがこの話題を、抑えようとするかのように。

 

 その事に疑問を抱きつつも、調べる手立てもない。

 だが、現場に行くことは出来る。その場を見ることは出来る。

 

 そして―――。

 

「なんだ、これ?」

『ほぉ、これは見事だな』

 

 カイトの眼前に広がるもの。それは、大穴だ。

 ボロボロになったビルも、違和感を与えるものではあるが、この大穴は更におかしい。

 

『これは……魔力か? 少々おかしいが……まぁ、気をつけるにこしたことはあるまい』

「あぁ、わかってる」

 

 悪魔と呼ばれる存在が、居ない世界だというのに、これほど高密度の魔力が残滓として、まだ残っている。

 たしかにこれは、普通ではない。

 

「(予想以上に、この世界色々と厄介そうだ)」

 

 大穴を見ながら、カイトはそう考えるのだった。

 

* * *

 

 とある場所、とある空間で一人の女性がとあるカプセルの前で、激しい咳をついていた。

 それはただの咳ではない。その証拠に女性の口からは赤い血が出ていたから。

 そんな女性に近づく、足音が辺りに響いていた。

 

「……何かしら? 言ったはずでしょう? 私は貴方に頼らない」

 

 女性の口から拒絶の言葉が出る。

 そんな女性の反応に、足音の主は首をすくめながら答える。

 

「そうも言ってられないでしょう。貴方の命はもう少ない……。このままでは貴方自身を。そして、貴方の大切な人も救えないでしょう?」

「……」

 

 女性は沈黙する。

 自分の駒に命じた、ジュエルシード集めも、何者かに阻まれ、好調ではない。

 

「そして、貴方の人形では力不足…。だったらどうでしょう? 私の案に乗ってみませんか?」

 

 まるで、自分が考えてる事を、読まれている様に思え、女性はますます、目の前の者に嫌悪感を思う。

 

「お前の案……ね」

 

 女性が足音の主の案に乗らないのには、理由がある。

 どんなセキュリティさえ突破し、突然現れ女性の前に立つ不透明さ。

 素性不明。

 仮面をつけ、マントまで羽織っている。

 信用出来ない理由を挙げれば、きりがないほどだ。

 唯分かることといえば、声から性別は男だと分かることぐらいだろうか? とはいえ、声なんて簡単に変えれるのだが。

 そして何より、この男の案件は不審に思える事が多すぎる。

 

「疑わしいものね。歴史上に登場した最強の人間の一人……。あの、覇王の友人と呼ばれる、創作上の存在だとも言われている、悪魔使いなんて」

「創作上……確かにそう言われてますねぇ」

「古代ベルカに存在した、まさに伝説……。そんな物を信じろと?」

 

 「ふむ」と、男は顎に手を当てて考える。

 それから暫くした後、一言こう言った。

 

「ですが、貴方ならやるでしょう?」

「……実在するのならね」

 

 女性は考える。

 確かに自分の命は残り少なく、自身の駒も宛てにはならない。現在の作戦をプランAとするならば、プランBとして考えておくのも悪くはない――か。

 そう、考えたのだ。

 

「そうね、一回だけ信じてみましょうか」

「! それは僥倖ですね……。では、これを」

 

 男は懐から一枚の羽根を取り出した。

 白く輝くような、神々しい光の羽根を。

 

「これを貴方の人形に持たせれば、悪魔使いは現れるでしょう。ジュエルシード、でしたか? あれの探索の時にでも持たせればよろしい」

「分かったわ。ただし、もし現れなければ、その時は覚えてなさい」

 

 女性は男を睨みつける。

 だが男は、そんな事を意に介さず、まるで子供のように笑うのだ。

 

「えぇ、もちろんですとも。チャンスをくださりありがとうございます……プレシア様」

「……分かったから、もう行って頂戴」

 

 

 男は女性に礼をしてから、プレシアに背を向け歩き出した。その様子を見てから、自身の背後にある最も大切な物に、眼を…意識を向ける。

 

「アリシア……。あぁ……ゲホッゲホッ!!」

 

 咳を何回かする。

 先ほどのように、口から血が出る。日に日に、体調は悪くなっていく一方だ。

 

 それでもだ。

 それでも、譲れないものがある。

 

「そう……例え、自分の命にかえてでも……ッ!」

 

 目付きを鋭くし、体を休めるために、今は自身の部屋へと行く。

 今はまだ、命を懸ける時ではないから。

 

* * *

 

 男は笑っていた。

 顔には出さないが、男をよく知るものが見れば(居るのかはさておいて)分かるぐらいに、男は笑っていた。

 

 やっと、自分の計画が進み始めたのだ。何年も、何年も……準備をして、それが漸く実を結び始めた。

 

「伝説上の存在……ね。しかしそれも、現実に現れれば、伝説ではなくなるのだよ」

 


 
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