No.451522

決して、忘れない

健忘真実さん

テーマは『群馬』、2000字以内。


制約された条件で創作するのは、初めて? の経験です。

2012-07-12 12:06:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:467   閲覧ユーザー数:467

 その日の夜のニュースは、背筋を戦慄させ信じられない気持と、いつかは起こりうる

であろうという予感が的中したおぞましさが入り混じっていた。なぜならそれ以前から、

世界各地では墜落事故と、日本国内でも小さいといえるかどうかの事故が、頻繁に発生

していたからである。

 

 1985年8月12日18時56分、日本航空123便は群馬県多野郡上野村高天原

山系の名もなき尾根、それ以降通称となった御巣鷹の尾根に墜落した。

 生存者4名、死者520名(プラス胎児1名)という大惨事となったのである。

 

 羽田空港から伊丹空港へ向かう当便には、盆休みが重なり、帰省のビジネスマンや親

戚を訪れる子供連れの家族、甲子園球場で開催されていた高校野球観戦を楽しみにして

いた人たちなどで満席だった。

 なぜ墜落したのか、根本原因となるところは企業の隠ぺい体質と責任逃れから、なか

なか明らかに出来なかった。現在でも満足できる調査結果を得られた、とはいえないそ

うである。

 ボーイング社における調査にも当初は難渋したようで、彼らにも責任の一端があると

認めさせたのは、ある意味での成果であったのかもしれない。

 

 ノンフィクション作家の柳田邦夫氏が、さまざまな視点から調べ上げて出版した本に、

分かりやすく詳述されている。

 山崎豊子氏作『沈まぬ太陽』第3巻は、御遺族たちとの信頼関係を築きながら直接面

談して聞き取り、良く練り上げた作品であり、涙なくしては読めない。声を出して嗚咽

しながら読んだ。

 私は伊丹空港の近くに住んでいる。日航の宿舎が近くにあり、当機に乗っていて死亡

した3人家族(両親と5歳の男の子)が住む家は、近くにあった。彼らの御遺族である

埼玉県にお住まいのおじい様もその本の中に登場し、会社とのやり取りや心情などを述

べておられる。

 残された家族にも、それぞれにはそれぞれの人生があり、それは大きく狂わせられて

しまった。だが、企業の取り扱いは十把一絡げであり、早く補償金の支払いを済ませて、

終止符を打ちたかったのであろう。家族にとっても早く済ませてしまい、関わるのを絶

ちたいと思われた方もいらしたようだ。

 

 御遺族の方々が、それぞれの思いを凝縮させて作った文集『茜雲』。

 当時9歳の御子息をこの忌まわしい事故で失われた、美谷島邦子様が書かれた『御巣

鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年』。

 御子息は、ひとりでこの恐怖の機中にあったのだ。その恐怖とそれをおもんぱかるお

母様の気持ちを思うと、今これを綴りながらも、これを読み返しているだけでも涙があ

ふれてくる。

 

 また忘れてはならないのは、遺体安置所となった体育館などのある藤岡市と、地元上

野村の人たちの協力があればこそ、ということである。

 ここでは詳細は省くが、御遺族の心を少しでも和らげ、慰めたのは、それら多くの人

たちの献身と、温かく寄り添った思いやりがあればこそだったのだと思う。

 それは、捜索などに携わった関係者にとっても心強く、極度の精神的疲労と緊張を強

いられた中での、ひとときの安らぎを得られた場所だったと思う。

 事故報告書には綴られない、底辺を支えた人々が存在したことを、知っておかなけれ

ばならない。

 まもなく、報道で取り扱われる時期がまたやってくる。気に掛けて読んでいきたいし、

より多くの人たちにも知ってほしい。

 

 大きな事故であれ小さな事故・事件であれ、家族を失った人の気持ちは同じなのだが、

相も変わらず、戦争のない日本においても、多くの犠牲者が発生している現状。これか

ら発生するかもしれないという心配(放射線による健康被害と今後ありうる事態も含む)。

 JR西日本の福知山線脱線事故、東京電力の福島原発事故、現在メディアに大きく取り

扱われている事故であるが、日航も含めいずれも国が関与している(してきた)企業で

あり、官僚の天下りが中枢部に陣取っている企業である。共通している事柄がいくつも

ある。そして似たような企業は、他にも多くある。

 保身と経済効率よりも、安心安全に注力してほしいものだ。

 

 当サイトにおける初投稿が、こういったエッセイになってしまったのは少し残念な気

がするが、『群馬県』として心に残っているひとつであり、私自身の中では、決して忘

れてはならないことだと肝に銘じている事柄なので取り上げた。

 実は群馬県館林市が、仕事で頻繁に訪れていた場所ではあるのだが。


 
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