No.447069

恋姫外伝~修羅と恋姫たち ニの刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

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2012-07-06 03:54:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4835   閲覧ユーザー数:4532

【二の刻 陸奥 疾風】

 

 

 

河東郡、とある村

「ハグハグハグ、ムグムグムグ ゴックン」

……愛紗は呆気に取られていた。

腹が減って動けぬという若者を村に案内し、食事を振舞ったがこれがものすごい食いっぷりなのである。

最初は『余程腹が減っていたのであろう』と思って見ていたが、次第にそれは驚きに呆れにそして呆気に変って行ったのである。

陸奥と名乗った青年、歳の頃は十七、八であろうか。決して大きな体ではなくむしろ小柄で愛紗より頭一つ分は小さい。

なのに大人が十人がかりで食べる量を、一人で食らいしかもその勢いはいまだ止まらぬのである。

「ふう、食った食った、おばちゃんご馳走様。」

そうこうしてる内にやっと満足したのか、青年は箸を置いた。

「やっと満足したか。ったく、この村もそんなに豊かではないというに…」

自分で言い出しといて何だが、施すんじゃなかったかと愛紗は今更ながら後悔していた。

「まあいい、おい陸奥とか言ったな。少し貴様に聞きたいことがあるのだがかまわんか?」

陸奥がかまわないと言ったので、愛紗は疑問をぶつけた。

「貴様、陸奥とか名乗ったが、それは姓が陸 名が奥か?ならば字はないのか?」

「うん?違う違う、姓は陸奥 名は疾風 と言う。ちなみに字はない」

それを聞いた愛紗は、ふむと頷いた後

「字がないとはまた珍しいな、貴様どこの出身だ?」

「この大陸の遙か東にある小さな島国だ。」

「東の方と言うと蓬莱の国か?」

「たぶんそれであってる」

「たぶん?」

愛紗は少し疑問に感じたが、陸奥がそれ以上は話す気がなさそうなので話題を変えた。

「それで貴様はどうしてあそこで行き倒れていた?行く宛でもあったのか?」

すると陸奥は首を傾けながら

「海辺で漁師が使う船に寝転がっていたんだが、気がつくと海に出ていた。どうしたものかと悩んでいたらいつの間にかあんたらの国に流れ着いた。とりあえず腹が減ったので食いもんを探したけど見つからなかったのであそこで寝てた」

まるで他人事のように答える陸奥を見て、愛紗は頭を抱えた。突拍子もない話しだし、到底信じられることでもない。だが陸奥を見ていると嘘を言ってるとも思えない。結局愛紗はこのことは流すことにした。

「わかった、だがこれから先どうする?行く当てもないのだろう」

愛紗がそう問うと陸奥は笑って頷く

まったく笑い事ではないだろうに…

「なら村に置いてやるように皆に話を付けてやってもいい。」

ただしと喜ぶ陸奥を軽く睨みながら、愛紗は付け加えた。

「ただし自分の食い扶持の分は働いてもらうぞ。毎回あんな量をただ食いされてたら、すぐに村の備蓄が底をつく。」

それを聞いた陸奥が頷くのを見て、愛紗は椅子から立ち上がった。

「今日は村長に頼んで寝床を用意してやる。明日になったら村はずれにある空き家を皆に手伝って貰って直すからそこに住めばいい。仕事に関してはその後考えよう」

そう言って食堂から出て行こうとしたが、ふと思い出たように聞いてみた。

「そういえばお前武の腕前はどうだ、かなり出来るのか?」

それを聞いた陸奥は、口の端に僅かに笑みを浮かべるだけで答えなかった。

愛紗もさほど期待してなかったようで

「まあいい。」

とそれ以上追求しなかった。

最近村の付近に賊が頻繁に出没するようになったので、万が一使い手ならと思って聞いてみたのである。

「今日はもう休め。明日はお前にも家の修理をやってもらうぞ」

そういいながら部屋を出て行った。

 

 

 


 
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