No.425523

機動戦士ガンダムSEED白式 13

トモヒロさん

13話 分かられた道(後編)

2012-05-20 12:58:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4893   閲覧ユーザー数:4712

 その夜、キラはベッドの上に座り、眠れないでいた。ラクスと自分の親友との関係を聞き、キラの中にまた迷いが生まれる。本当にこのまま、あの子を人質にして逃げ回ればいいのか。あの子にはあの子の帰りを待ってくれている人がいるというのに…

 

 「キラさん…起きていますか?」

 

 突然、カーテンの向こうから一夏の声が聞こえた。

 

 「うん、起きてるよ…どうしたの?一夏」

 「…本当にこのままでいいのかな…って思って」

 「え?」

 

 それは正しく今自分が考えていたのと同じだった。キラは少し目を見開く。一夏の両腕にぶら下げられた握り拳がギュッと固くなる。

 

 「やっぱり…こんなの」

 「うん、僕も…そう思う」

 

 そして、一夏とキラはその部屋を抜け出した。

 

 *

 

 プシュ…っとドアの開く音が響く、今は就寝の時間で物静かなせいか、空気の抜けるような音がいつもより大きく聞こえた。それと同時に、通路のライトの光がハロにさしかかし。ハロは、クルクルと周りだし、『ハロ!ハロ!』と起動する。

 

 「ん…どうしましたの、ハロ?」

 

 ラクスは、眠い眼(まなこ)さすりながら、起き上がる。そして、ラクスの部屋に訪れてきたのは、この艦で唯一自分と同じコーディネーター、キラだった。

 

 「あの、一緒に来てください」

 

 

 間もなくして、ラクスを連れ出した一夏とキラは、ノーマルスーツの調達の為、ロッカールームへと向かっていたのだが…

 

 「何やってんだ…お前等」

 

 不意に心臓が飛び出るかと思った…。突然、後ろから呼びかけられた。振り向くと、キラ達の部屋からサイが出てくる。続いて何故かミリアリアまで出てきた。

 

 「キラ…一夏君、あなた達、彼女を…どうするつもり?」

 

 その質問に一夏とキラの顔がうつむく。

 

 「……お願いですミリアリアさん。俺たちを行かせてください」

 「僕は…僕等は嫌なんだ、こんなの」

 

 それでも、次に見た二人の顔は真剣なものになっていた。

 サイは一つため息を吐きながら、ボリボリと頭をかく。

 

 「……ま、女の子を人質にとるなんて、本来悪役のやることだしな…。手伝うよ」

 「「…!」」

 

 

 この後、一夏達は、ロッカールームからノーマルスーツを調達し、ラクスにソレを着せる。キラ以外は、部屋の外でラクスが着替え終わるのを待つ。そして、部屋から出てきたラクスは何故かお腹の辺りが膨らんでいた。実際には、ただスカートを丸めて入れているだけなのだが、それを見たサイが「いきなり何ヶ月?」などと言っていたのでキラ、ミリアリア、一夏は呆れていた。

 

 

 MSデッキ、今は誰もいないが、早くしなければじきにラクスが部屋にいないことがバレるだろう。そうなる前に、キラはストライクのコックピットに飛び移る。

 

 「さぁ、君も…」

 

 一夏がストライクへラクスの背を押そうとするが、それは振り向いた彼女の手に包まれ、叶わなかった。

 

 「一夏様、私は、あなた様から頂いたあの言葉、忘れませんわ」

 「え?俺何か君に言ったっけ?」

 「ふふ、良いのです。直接ではありませんから」

 

 一夏はすっかり忘れているだろうが、ラクスの部屋の前でキラと一緒に彼女の歌を聴いた時、『かわいい』とラクスを評価していたのだ。

 ラクスは一夏の手をそっと離し、ストライクのコックピットへ流れて行く。

 

 「…何だったんだ?」

 「知らない!」

 「?、何でミリアリアさんが怒ってるんだ?」

 

 実際に、ミリアリアの機嫌はラクスが一夏の手を握った辺りから急激に悪くなっていました。

 

 「キラ!」

 

 そんな二人はほっといてサイはキラに呼びかける。

 

 「お前は帰ってくるよな!?」

 「うん、必ずね」

 「絶対だぞ!俺はお前を信じてるからな!」

 

 キラは頷いて、ハッチを閉める。その時にはもう、外の様子が騒がしかったが、気にしない。

 そして、ストライクはエールを装備し、ザフトの艦へ向けて飛び出して行った。

 

 

『こちら、地球連合軍、アークエンジェル所属のMS、ストライク。ラクス・クラインを同行、引き渡す。ただし、ナスカ級は艦を停止、イージスが単独で来ることが条件だ。この条件が破られた場合、彼女の命は保証しない。』

 

 ストライクはアークエンジェルとヴェサリウスの中間で静止した。この瞬間、両者に緊張が走る。

 数分後、ストライクのモニターに赤い機影が映った。イージス。

 

 「アスラン…ザラか?」

 『…そうだ』

 「コックピットを開け!」

 

 イージスは何の抵抗も無く、コックピットをさらけ出す。向こう側に見えるのは、赤いパイロットスーツを着たアスランの姿だった。続いてこちらのコックピットのハッチを開く。

 

 「話して…」

 「?」

 「ここからじゃ顔が見えないでしょ?本当にあなただって分からせないと」

 「あぁ、そう言う事ですの」

 

 その会話を聞いたアスランは少しシートからのりだし、目を凝らす。

 

 『こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ』

 

 そこには何とものほほんとした態度で呑気に手を振っている婚約者の姿だった。ついでにハロの『テヤンデー』という声が聞こえた。

 

 「確認した」

 

 アスランはそんな彼女に少し呆れ気味に笑う。

 

 「さあ」

 

 キラがラクスを送ると、刹那の間、島から島へ巡る渡り鳥の様に宇宙(そら)を渡り。ラクスはアスランの手を取った。

 

 『いろいろとありがとう、キラ。アスラン、あなたも』

 『……キラ、お前も一緒に来い!』

 「!?」

 『お前が地球軍にいる理由がどこにある?!』

 

 それは、キラにとって親友との寄りを戻す絶好のチャンスだった。そして、その差し伸べられた手をすぐにでも、撮りたいと言う衝動の駆られる。

 でも…

 

 「僕だって君と戦いたくない…だけどあの艦には守りたい人が、友達が乗ってるんだ!」

 

 …だから行けない。

 アークエンジェルにいる一夏達のためにも。

 

 『……ならば仕方が無い、次に会う時は、俺がお前を撃つ!』

 「…僕もだ!」

 

 

 一夏はラクスが無事にイージスへ渡った事にホッと胸を撫で下ろした。

 その時だった。

 

 『敵艦より、MS発進!』

 『ナスカ級、エンジン指導!』

 

 奴らは手の平を返す様に戦闘体制に入った。ムウは舌打ちしながら、メビウスをだす。

 一夏は、その光景を見て唖然としているしかなかった。

 

 (何でだよ…。何でこうなっちゃうんだよ!!)

 

 一夏も白式を展開させる為、ガントレットに意識を集中しかけたその時。

 

 『え?、て、敵MS、撤退して行きます!』

 「!?」

 

 なぜ急に?と一瞬思ったが、一夏はその疑問にある答えをだした。ラクスだ。彼女が何かしてくれたに違いない。

 一夏はMSデッキのゲートを前に、ストライクとメビウスの帰還を待った。

 

 

IS学園の1年1組、教室には賑わう女子でごった返しているのに、窓際の一角だけ、その世界から切り離されたかのように、ポニーテールの少女が頬杖をつきながら、孤立した空間を保ち続けている。その少女、篠ノ之 箒は不意に一番前の中央の席を見る。そこには本来あるべきこの学校唯一の男子生徒の姿はなく、その机の上に一本の花が生けてある細長い花瓶が置いてあった。

 箒はこんなクラスを見て「白状な奴ら」だと思う。

 最初こそは、皆、一夏が帰らぬ事に涙を流したが、たった数日で彼女達の中から織斑 一夏という存在が忘れ去られたかのように、学園はいつもの活気に満ちていた。しかし、一夏の行方が分からなくなってから変わったものもある。セシリアは自国でISが盗まれたらしく、一旦帰国している。鈴は一夏がこの学園にいたから編入してきたようなものなので、『一夏がいないIS学園なんて居たって意味ない』と言い、自主退学した。ラウラも似たような理由で学園を去った。シャルロットはあれから同室だった一夏の部屋に閉じこもっている。

 

 (一夏)

 

 そして、箒は自分自身が許せなかった。自分の身勝手さが、この様な事態を招いたのだから。

 箒の奥歯がギュッと噛み締めた刹那、ガラっと勢い良くドアが開いた。

 

 「篠ノ之!」

 

 そこに顔を出したのは、一夏の姉、織斑 千冬だった。しかし、いつものクールな彼女とは違い、少し肩で息をきらしている。

 

 「……放課後、職員室に来い」

 

 

 「何かようですか?織斑先生」

 「今朝…束から、電話があった」

 「姉さんから?…いったい何て?」

 「……もしかしたら、もう一度一夏に会えるかもしてない」

 「!?」

 

 箒は目を見開いた。同時に、完全に冷めていた胸の鼓動が早くなる。

 

 「それは…本当なんですか?」

 「まだ分からん…だが、束がこんな事でくだらない冗談を言ってくるとは考えられない。きっと何かを掴んだのだろう」

 「それで、姉さんは今どこに…」

 「太平洋上空…一夏が消えた場所だ」

 

 

 見渡す限り広大な海の上、ソーサーの様に薄いコマ型の円盤に束はキーボードを高速で叩きながら、内心ワクワクしていた。そして、浮遊モニターの一つに二つの機影が映し出される。千冬の暮桜と箒の紅椿だ。

 

 「二人とも早すぎだよ~!でも、もうすぐ解析が終わるから待っててね!」

 「束、一夏は?」

 「それに関わる事だから…よしキタ!」

 

 束の指が勢い良くEnterキーを押す。すると、海底から何か浮上してくるものがあった。それは黒い球体、禍々しく人一人が覆う事ができそうな大きさだ。

 

 「な、何だこれは…?!」

 「多分、この向こう側にいっくんがいると思うよ」

 「どう言う事だ、束!」

 「コレはね、簡単に言うと、時空の歪みなんだよ。この向こうはココとは別の空間に続いてる。何が原因でこんな事になっちゃったのか分かんないけど、いっくんはこの向こうにいるはずだよ」

 「そんな馬鹿な!」

 「この束さんがいっくんの事で、そんなつまらない事言うと思う?」

 「……」

 「…コレに突っ込めば、一夏の所に行けるんですか?」

 「うん、保証は出来ないけど…。それにこの子にはもう二つ問題があるの」

 「何です?」

 「一つはここから先に行けば、もう戻ってこられないよ」

 「「⁉」」

 「ここから先は一方通行。そしてもう一つはこの子は不安定になりやすくてせいぜい通れるのは一人が限界なの」

 

それは二人にとって究極の選択だった。もし、アレを通れば、一夏に会えるかもしれない、だがその代償にもう二度と帰ってこられなくなる事だった。もし、向こうへ行っても一夏に会えないかもしれない。そして、この先に進めるのは、たった一人だけ。

 殆ど博打のようなものだ。

 

 (……だが、たった1%でも、一夏に会えるのなら!)

 

 箒の目が決心を決めた。しかし、それと同時に新たな迷いが生まれる。もし、自分が行けば、もう一人は残されてしまう。その時、ポンと自分の肩に千冬の手が置かれた。

 

 「お前が行け」

 「…それじゃ、千冬さんが!」

 「一応、私にも教職がある。生徒をほったらかしにはできないさ…だが、お前が居なければ、私が行っていたかもしれないがな」

 「でも、一夏の事は!」

 「…勝手なお願いだが、一夏の事、頼む」

 

 その言葉で箒の鼓動が高鳴る。

 

 「任せて下さい!」

 「不束な弟だが、頼んだぞ“箒”」

 

 そして、篠ノ之 箒は二人に見送られ、黒い球体の中へと消えた。

 

 「…フフ、これは私とちーちゃんは義姉妹だね」

 「ふん、まだあいつに一夏はやらん」

 

 そこに残るのは、赤く変色した時空の歪みと、二人の姉だけだった。


 
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