No.421381

第二十九話:天罰覿面(てんばつてきめん)

ZERO(ゼロ)さん

罪には罰が与えられる
故に罪人はその咎を背負い生きていく
・・・愚かな事を成すものに、天罰は必ず落ちるのだ

2012-05-11 14:02:32 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1854   閲覧ユーザー数:1789

「さて、見回りもこんなモンで充分かね」

 

ネギと別れてからある程度見回れる所は見て回り、安全を確認し終わったサイ。

前回ネギが言っていたようにどうやら刹那が一日目の襲撃の事を考慮して式神返しの結界を強化してくれていたようだ。

 

その足で自動販売機のコーヒーを買って飲み始める。

まっ、流石に何処で人が見ているかも解らないような状況で煙草を吸う訳にも行くまい。

実際の所は先程、その事を忘れて煙草を咥えて火を点けそうになったのは内緒だが。

 

しかし・・・缶コーヒーを飲み終わってふとサイは思う。

先程から感じていた事だが・・・何故だか不明だがこのホテル全体の雰囲気が今までとは違うように感じた。

言い表すなら戦場のような殺伐とした空気と説明した方が理解しやすいか?

 

「しっかし・・・静か過ぎんな。

あの連中のさっきの様子を見れば逆に怖ぇ位によ・・・」

 

静かに独り呟くサイ。

ホテルを包む妙な空気に気付いたのはネギと別れる少し前。

音羽の滝の一件で昨日騒げなかった事を取り返すかのように大騒ぎしてドタバタと暴れまわり、その為に生活指導の新田先生を始めとする教師達に当然の如くお叱りを受ける事となった3-Aの生徒達。

退出禁止令を出されていたが、本来ならその程度で静かになる事などない筈だ。

 

しかしそれからと言うもの、ホテルは不気味な程に静寂に包まれている。

普段の3-Aの行動原理から考えればこれは明らかに異常事態といっても過言ではない。

 

「これが本当の『嵐の前の静けさ』って奴か?

うえ・・・冗談じゃねぇぜ、やっと静かに寝れそうだってのによ・・・まっ、考え過ぎか」

 

そんな事を言いながらも再び危険がないかどうかを確認に行く。

強さとは己が弱い事を知り、臆病である事を認める事から始まる―――そう言う意味ではサイの行動は間違ってはいない。

しかし・・・此処でサイがもう少しこの静けさの意味を考えていれば良かっただろう。

 

此処から始まるは乙女達の戦場。

そして、血で血を洗う究極の争奪戦である事を知る者は残念ながら此処には居ない。

 

喜劇にして悲劇の幕が今此処に上がろうとしている。

その先に広がる舞台の行く末は果たして希望か、それとも絶望か?

まあ、少なくともどっちだったとしても朝倉とカモの二人には天罰が落ちるだろうが。

 

 

『修学旅行特別企画!! 修学旅行でネギ先生&サイ君とラブラブキッス大作戦~~~!!』

 

モニターから響く朝倉の声を開始の合図として始まった女の(ある意味)プライドを賭けた戦い。

ゲーム開始を告げる鬨の声に観戦者達の歓声が上がった。

 

「キャー、始まった~!!!」

「中々本格的じゃん」

 

自室で布団に包まって観戦するのは麻帆良チアリーディング部の三人娘。

このイベントの内容は各班が二名の代表を選び、教師達の監視を掻い潜ってホテルの何処かに居るネギとサイのくちびるをゲットすると言うゲーム。

参加しない観戦者もトトカルチョにより誰が優勝するかを賭ける事が出来る為、生徒達にとってはこれ以上にない娯楽と言える。

更に館内各所に仕掛けられたカメラにより状況が各部屋のモニターにリアルタイムで流れると言う凝り様だ。

 

しかしこいつ等はこの無駄に凄い情熱を他の事に使えないものだろうか?

 

ちなみにこのゲームには裏がある。

実はこのゲームの真の目的とは仮契約によるカード大量ゲットを目的としていた。

説明していなかったが仮契約をオコジョ妖精が一回成功させる事により5万オコジョ$が儲かるのだ。

 

で、その事に目を付けた朝倉とカモがネギが一人も仮契約をしていない事を考慮して考えた作戦。

それはネギに好意を持つであろう人物達を唆してキッスをさせ、手っ取り早く仮契約カードを手に入れてしまおうと言う事だった。

 

・・・まあ、一人につき5万で全員成功すれば大儲けとなるのだから欲に目が眩んでも仕方がない。

しかもトトカルチョをする事により更に食券を稼ぐ事も出来る・・・全く悪知恵が働くものだ。

 

更に更にもう一つ。

朝倉としては先程冗談であったにせよサイに脅かされて泣かされた事が余程効いていた。

その為この様な作戦を考え、理由はどうあれ同級生にキスされ、それをフルタイムで流されていたなどと言う恥部が発覚すればショックを受けるだろうと考えたのだ。

 

ちなみに参戦したのは各班の以下のメンバー10人だ。

実際は6班の為、12人の筈なのだが・・・実質サイの班、第六班が誰一人も興味持つ事無く参戦しなかったのである。

その理由はまあ、今までの中である程度は理解出来るだろうが以下の通りである。

 

「下らん乱痴気騒ぎに興味は無い」(エヴァ)

「マスターが参加されませんし、元々そのような事を騒いでやる事だとは思えませんので」(茶々丸)

「・・・・・・(ギロッ!!)」(ザジ)

 

・・・と言った感じであったそうだ。(尚、刹那と木乃香と明日菜は早寝なのでもう寝ている)

では此処で六班以外の参戦した者達とその心境の紹介をさせてもらう。

 

 

【第一班代表―――鳴滝風香&史伽姉妹】(標的:サイ)

 

「あぶぶ~、お姉ちゃ~~~~ん、正座嫌です~~~!!」

「大丈夫だって、僕等はかえで姉から教わってる秘密の術があるだろ?」

「そ、そのかえで姉と当たったらどうするんですかぁぁぁ!? てか、絶対当たるですよぉぉぉ!!」

 

自信満々の双子の姉に対し、妹の方はもはや半泣き状態である。

大方他の班員やら、姉に無理やり担ぎ出されたのであろう・・・実にご愁傷様と言う奴だ。

更に彼女等姉妹が狙うのは・・・生憎、その秘密の術を教えてくれた本人が好意を寄せてる人物なのだから最悪と言えば最悪。

まあ何故サイの事をそんなに好意を寄せるようになったのかは改めてその内書くとしよう。

 

【第二班代表―――古菲&長瀬楓】(標的:サイ)

 

「んふふふふ~~~、サイとキッスアルカ~~~♪ これで他の人より一歩前進出来るアルネ~♪」

「ふむふむ、ここいらで一つ既成事実を作っておけば・・・真名への牽制にもなるでござるな♪」

 

第二班は『戦闘だけであれば』右に出る者など居まい。

特に超が付く程に鈍感なサイに対しても、今回のアプローチを成功させれば優位になると言う思惑もあったのだろう。

 

・・・まあ、サイがこう言った騒ぎを嫌いとは知らずに。

そもそも同じようにサイを狙っている筈の真名が出ない時点でこの二人はよく考えるべきだったのだが。

 

【第三班代表―――雪広あやか&長谷川千雨】(標的:あやかがネギで千雨が嫌々ながらその補佐)

 

「・・・つうかよ、委員長。何で私がこんな事しなきゃならないんだよ・・・」

「つべこべ言わずに援護してください、ネギ先生のくちびるは私が死守します!!」

「(ボソッ)・・・死守した後にアンタが奪うのが見え見えだけどな。

てか、こんな時に止める筈のサイの馬鹿は一体何処に行ったんだ全くよぉ・・・まあ良い、適当に付き合ったらさっさと部屋にでも戻るか、もしくはサイでも助けておくか、アイツにゃ世話になってるしよ」

 

やる気のベクトルが全く違う二人。

特に委員長など瞳から炎を出しそうなまでの勢いだ・・・千雨の言った通り、死守しておいて己が奪うのが見え見えだ。

・・・悲しいかな、委員長はネギの本当の性別を知らないのだからその想いが報われる事はないだろうが。

 

【第四班代表―――佐々木まき絵&明石裕奈】(標的:まき絵がネギで裕奈は勝負事で狙ってるだけ)

 

「よ~~~~し、絶対に勝つよぉぉ!! その為にも此処はネギ君狙いで!!」

「えへへ~~♪ ネギ君とキスか~~~、んふふ♪」

 

どこか噛ませ犬的な要素満点の二人。

しかもこいつも悲しい事にネギが女の子だと言う事を知らない・・・後の事を考えると哀れと言えば哀れだ。

 

【第五班代表―――宮崎のどか&綾瀬夕映】(標的:のどかがサイで夕映は親友の援護だと言い張っている)

 

「ゆ、ゆ、ゆえ~~~~」

「全くウチのクラスはアホばかりなのです・・・ですがのどか、これをチャンスと考えましょう」

「えっ・・・チャンスって、何が・・・?」

「今日の昼の奈良見学はネギ先生の事やら何やらがあって結局、サイさんを誘えなかったではありませんか・・・ですので、このゲームを利用して貴女の気持ちをサイさんに伝えてしまうのです!!」

「えっ、ええええええ!? で、でも・・・わ、私・・・そ、それにこれは唯のゲームだし・・・」

 

今回このゲームに乗り気ではなかったのどか。

考えても見れば彼女とすれば、好きだとも言えていない相手のくちびるを奪うなどと言う事が出来るような人物だとも思えない。

しかし、何故か頑なに『出た方が良い』と必死に言い張る親友の夕映に押し切られる形で出る事となってしまった。

・・・何故其処まで夕映が必死なのかも理解出来ないままに。

 

「何を言っているですかのどか!!

サイさんは口が悪いですし、鈍感ですし、素行が悪いですが優しい方でしょう!?

何度も図書館島に行く時に助けて貰ったりしていて、私の知る中ではマトモな部類に入る男性です。

そんな人に好意を抱いた貴女が間違っていないと言う事は親友である私が良く解っている心算ですよ。

(ボソッ)・・・そう、それで良いのです、親友の幸せを願っているだけなのです私は」

 

何故だろうか、最後の言葉はのどかには聞こえなかったが・・・。

アレはまるで己自身に言い聞かせているようにも聞こえたのは気の所為か・・・?

そんな必死に説得する親友の心遣いをありがたいと思ったのだろう、のどかも少し赤面した後に小さく頷いた。

 

 

―――思いの丈に格差はあれど、皆狙う物は同じ。

勝利の栄光と交差する欲望に発起者の思惑を纏い、少女達は決意を胸に戦いを開始する。

尚、この連中以外にも何人かサイの唇を狙う者は居たのだが・・・恥ずかしさから辞退したり、思惑は理解出来ず微笑んでいたり、神様に許しを請うていたりと多種多様であった。

ちなみに真名はこの状況と朝倉&カモの企みを理解していたが、サイ自身の性格をある程度理解していたのか辞退していたと言う。

 

 

そして午後十一時過ぎ―――

愛と信念と欲望と思惑の入り混じる死亡遊戯が今此処に始まりを告げた。

 

 

「・・・何だか本当に異様だな、オイ」

 

ブツブツ文句を言いながら歩くのは今回の遊戯の獲物の一人、光明司 斉。

そこらかしこから放たれる異様な熱気のようなものに首を傾げながら念入りにもう一度見回りをしている。

 

すると先程まで見当たらなかった物が見える。

物陰に隠してあるが故に普通の人間ならそう簡単には見つける事は出来ないだろうが、到る所に光る何かがあった。

よくよく目を凝らして見てみればそれはビデオカメラか何かのレンズのようだ。

 

「・・・ヤレヤレ、嫌な予感しかしねぇが調べねぇ訳にも行かねぇよな」

 

3-Aの生徒は変わり者が多いが結束力という物が強いのが美点である。

しかしそれは残念ながらトラブルを起こす時にも適応される為か教師やら平穏やらを望む者にとっては頭の痛い話だ。

 

「ネギの奴は一応、いざと言う時の事を考えて俺の部屋で寝るように言っておいたが・・・アイツには絶対外に出て来ないように言っておいた方が無難だな」

 

サイはポケットから携帯電話を出すと少々時間が掛かりながらだがメールを作成すると、ネギの携帯に向かって送信する。

最初にシャークティから携帯電話を持たされた時は良く解らなかったが、今は一応メールと通話位は使用可能だ。

少しその場で待っていると、直ぐにネギから了承のメールが返ってきた。

 

敵が攻めてきた際には直ぐに行動を移せる場所に居た方が危険は少ない。

その事をよく知っているからこそ、念の為にネギを親友・メルトから貰った護符を貼った己の部屋で寝泊りするように言っておいたのがある意味功を相したと言える。

実際ネギの位置は護符より発生した結界により見えなくなっており、ネギ狙いの者たちはネギを見つける事が出来なかった。

 

―――と、その時。

物思いに耽っていたサイの後ろで殺気のような物が急に膨れあがった。

そしてかすかに空を切りながら何かが自分に向かってくるのを感じ取ったサイは目を瞑ると神経を集中させる。

後ろから飛んで来たのは十分なまでの角度と破壊力を持った飛び蹴りだ。

 

「・・・誰だか知らんが甘ぇ。

攻撃を叩き込もうと思ったらその無駄に大きな殺気を抑える事をまず考えるんだな」

 

するとサイは身を翻しながらありえない角度で踵を使って飛び蹴りを払いのけた。

更にその後に続いて来た連続攻撃を器用に蹴りだけで払い除けると、襲撃者の姿を見る。

・・・そしてその瞬間、襲撃者の正体を知って疑問を持ったような表情をした。

 

「・・・って、何やってんだテメェ?」

「うう・・・やっぱ攻撃は当たらないアルネ~、でもそうやって躊躇なく女の子に手を上げられるサイも酷いと思うアルけど?」

「流石はサイ殿、実に見事なお手前・・・拙者と古の波状攻撃を簡単に払ってしまわれるとは、これは一筋縄では行かぬでござるな」

 

其処にいたのは両手に枕を持っている浴衣姿の古と楓だ。

呆れたような表情で二人を見ているサイ・・・確かこの時間は新田先生に怒られて退出禁止処分になっていた筈だが。

(ちなみにサイは学園長が話を通し、ネギと同じように見回りをする事となっている為に問題無い)

 

 

「テメェも何やってんだオイ・・・」

 

現れた楓に対して溜息を吐きながら呟くサイ。

一方の楓は悪びれた様子も無く、いつものような表表とした笑顔で若干頬を赤く染めながら答えた。

 

「むっ、唯のゲームでござるよサイ殿。

日本の修学旅行における伝統行事とも言える『枕投げ』でござる」

 

いや、伝統行事じゃないし枕すら投げずに飛び蹴りと連続攻撃放っただけだろお前等。

 

「・・・オイ、忍者バカ。

その『枕投げ』ってのは、暗器だの渾身の飛び蹴りだのを放つモンなのか? 随分物騒な伝統行事だな」

 

「大丈夫アル!! 一応、脚の指先で枕掴んでたアルから!!

ちなみに楓も手裏剣投げる時は一緒に枕を被せて投げてたアル、立派な『枕投げ』アルヨ♪」

 

・・・そう言う問題なのだろうか?

と言うか何時から昨今の『枕投げ』は相手を一撃でノックアウトさせる事を目的としたのだろうか?

しかも此処で古と楓は気を利かせて隠しておけば非常事態にならなかっただろうに、ついそのままこの女のプライドのぶつかり合いにおける勝利条件を言ってしまった。

 

「ちなみに勝利条件はサイかネギ坊主のくちびるアルヨ♪

誰でも最初にサイかネギ坊主のくちびるを奪えば優勝、豪華商品つきで、しかもワタシはサイとの関係を一歩進められる特典付きアル♪」

 

「・・・ちょっと待て。

今俺かネギの唇が勝利条件とかほざいたな、テメェ?

何処のどいつがそんな馬鹿げた企画を考えやがったか・・・今すぐ俺に教えろ」

 

ふと、その瞬間今まで笑っていた古と楓の表情が固まる。

それもそうだ、目の前で今まで面倒そうにしていた己達の想い人の表情が一気に『イイ笑顔』に変わったのだから。

しかも笑ったままだが、明らかに強烈なまでの殺気を放ち・・・周囲の空気が一気に寒くなっていた。

 

「「へっ? あ、あああああ、あの、あの、その・・・」」

 

雰囲気の変化について行けずに怯える二人。

今まで生きて来た中で他人に怯える事など殆ど無かった筈の二人が言葉にならない恐怖を感じていた。

そんな二人にサイは笑いながら、再び優しい口調で話しかける。

 

「聞こえなかったのか・・・首謀者は誰か、と聞いているんだ。

震えてねぇでさっさと答えろ―――そうすればテメェ等にはまだ“慈悲”をくれてやる」

 

「「あ、朝倉(殿)アル(でござる)!!!」」」

 

その強烈な有無を言わせないおどろおどろしい殺気を前に二人は言われもしないのに正座し、口を揃えて元凶の名を語る。

まあ、考えても見れば少なくとも700年以上も生きている金毛白面九尾の殺気を受け流せる人物の方が稀だろう。

精々今まで出て来た人物なら600年以上の歳月を生きたエヴァか人間としては長生きで色々な物を見て来た学園長位だ。

 

「やはりか・・・あのパイナップル頭が、全然懲りてねぇようだな。

上等―――奴は見つけ次第、滅殺確定だ」

 

物騒な事を口ずさみながら顎に手を当てるサイ。

その後ろではまだ直立不動で正座をしたままの古と楓が居た、サイの殺気に萎縮して動けなくなってしまったのだろう。

そこでサイは二人を見ると小さく呟いた。

 

「まあ、テメェ等二人には言葉通り慈悲をくれてやる。

さっさと自分の寝るべき部屋に戻って馬鹿げた賭け事を班の奴等に止めさせて寝ろ。

・・・そして何が聞こえても部屋から一歩も出るな、解ったな?」

 

二人は急いで何度も壊れた玩具の様にガクガクと首を振って頷く。

更に立ち上がり、急に立ち上がった為に痺れる足を引き摺りながら急いで部屋の方へと戻って行く。

・・・あれだけ脅しておけば、もう外に出る事もしないだろう。

 

そして、少なくとも古と楓の英断により第二班は救われたと言っても過言ではない。

これより始まる、鬼神の殺戮演舞(オシオキ)から逃げられたのだから―――

 

 

さて、古と楓の二人と別れたサイはホテルの中を朝倉を探して回っていた。

その途中で彼はホテルの周りを取り囲む、刹那が式神返しの為に張った結界とはまた別の魔方陣が張り巡らされているのに気が付く。

 

「・・・オイオイ。

ちょっと待て、まさかこの魔方陣は・・・」

 

外に出て確りと目で確認して理解した。

少し前、エヴァと喧嘩友達のようになった頃に魔法という物についての基礎知識を教えて貰った時。

サイは魔法使いが『従者』と言う存在を作ると聞かされ、自分には関係ないが魔法陣などの知識を教え込まれた時があった。

その際に知った“仮契約”という双方が知らなくともお試しのような形で、しかも身勝手な理由で他人を巻き込む魔方陣を見て気分を害したものだ。

それがホテルを囲むように張られているという事の意味、そしてそれを誰がやったのか気が付いた時、サイはこの遊戯の本当の目的に気が付いたのである。

 

「そうか・・・そう言う事かよ。

あのクソオコジョもどうやら全くと言って良い程、懲りてねぇようだな・・・」

 

もう良い・・・もう充分だ。

今まで良く長い事、我慢して来たものだ・・・かつてを考えれば自分を称えてやりたい。

思えばサイも昔に比べれば随分と不条理な事に我慢出来るようになったものである。

 

「・・・いや、待て。

冷静になれ、その位の事で一々キレるな・・・ブツブツ・・・」

 

肩を怒らせ、それでも冷静になろうとブツブツ独り言を言う。

しかし、外の魔方陣を確認した後・・・ホテル内のロビーに入ったサイは、其処で起こっている光景を見て瞬間で石化した。

何せロビーではネギとサイの唇を狙う連中が鉢合わせし、入り乱れて大騒ぎの様相を呈していたのだから。

 

更に見てみれば、倒れている新田先生の姿もある。

どうやら止めようとして、暴走した生徒達に巻き込まれて気を失ったのだろう。

 

―――もはやこの状態では収拾も付きはしない。

姦しい騒ぎと乱戦の中、遂にサイの今迄溜まりに溜まっていたストレスと言う名のフラストレーションが爆発する時を迎えたのだ。

 

其の先に待つのは死屍累々の屍の山のみである―――

 

 

「・・・・・・ククク」

 

知らぬ内にサイは自然と笑っていた。

 

「ククク、クククククク・・・・・・」

 

目の前で起こっている、教師をぶっ飛ばしてまで行われる馬鹿馬鹿しい騒ぎ。

裏で糸を引いていると思われるパイナップル頭のパパラッチ女と似非妖精クソオコジョへの憤り。

心の中では色々な物が渦巻き、サイは静かに下を向いたままに乾いた笑い声を呟く。

 

【プッツンしますか?】

 

>Yes.

 はい.

 是.

 肯定.

 了承.

 

脳内に浮かび上がった一方の答えしかない選択肢を選ぶ。

その瞬間―――サイから『バツンッ!!』と完全に何らかの緒がぶち切れた音が鳴り響いた―――

 

「・・・Your will die,Kill all.(貴様等はブッ殺す、皆殺しだ)」

 

機械音のように感情の無い言葉が口から漏れる。

限界を超え、怒りの頂点を裕に越えた脳は冷静に・・・その逆に肉体は怒気に熱くなった。

さらに目は白目の部分が真っ黒に染まり、一歩前に踏み出した瞬間に周囲を凍結させるかのようにとんでもない量の殺気が放たれた―――

 

空間を凝固させ、まるで空気だけなら北極に近い程にまで冷え切った事により・・・不穏な気配を感じ取った、狂乱騒ぎを繰り広げていた女子達の動きが一斉に止まる。

そして油を刺していないブリキの玩具のようにゆっくりと首が動き、ぎこちない動きで彼女達が見た光景の先に居た者、それは・・・・・・。

 

笑みを浮かべ、その背に不動明王の幻影を背負い、口からは白き煙を吐き―――

瞳に強烈な殺意を滾らせ、女子達を見つめていた一人の鬼神の姿だった。

 

「おい、テメェ等・・・いい加減にしろや・・・。

毎度毎度下らねぇ事でギャアギャアギャアギャア騒ぎやがって・・・俺になんか恨みでもあんのか・・・?」

 

口調はいつものサイと同じだが殺気と怒気がMAXを完全に振り切ってしまったようだ。

一歩踏み出すだけで空間が軋み、それによって今まで乱痴気騒ぎをしていた女子達の顔色が青くなる。

 

「元凶の朝倉は後として、まずはテメェ等からだよなぁ?

こんな夜遅くに大騒ぎしてるって事は・・・全員、明日の日を拝めなくても良いって事か?」

 

また一歩サイが歩みを進める。

あまりの恐怖に逃げ出そうとする女子達だが、逃げれば確実に『コロサレル』と解っているのだろう。

本能的に足は止まり、意志に関係なくガクガク震えだす・・・サイの放つ殺気に少女達の表情は青褪めているのを通り越し、死人のように真っ白だ。

 

「何か言い残す事はあるか?

あるなら聞くだけは聞いてやる・・・ホレ、言ってみろ・・・」

 

しかし恐怖によって弛緩している少女達が何かを言える訳もない。

当然だ、現在進行形で危機的な状況に陥ってる少女達が言葉を発せる訳もなく、唯涙を浮かべて力無くフルフルと首を横に振るだけだ。

そして勿論、少女達の言葉無き訴えが目の前の怒りが頂点に達した鬼神に届く筈も無い―――

 

サイは仮面のように貼り付けた笑顔を見せながら“死刑宣告”を呟いた。

 

「さあ・・・懺悔と後悔の時間だ。

泣き叫べ劣等共―――今宵、此処に神は存在しない・・・」

 

「「「「「ひ、ひひひひ、ひぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!?」」」」」

 

どこぞの白髪・隻眼・既知外のバイク乗りのような台詞をサイが吐いた後―――その夜、ホテル嵐山のロビーに哀れな犠牲者達の悲鳴が響き渡ったそうだ。

(尚、運が良かったのか日頃の行いが良かったのか千雨は適当に付き合った後に部屋に戻り、のどかと夕映の二人はしずな先生に見つかって部屋に戻されたらしい)

 

 

「『・・・・・・・・・・』」

 

モニターに映る惨劇に朝倉とカモは絶句し、身体からは冷たい汗が流れる。

二人の目に映る光景は、ロビーにて少女達を瞬く間に葬り去っていく鬼神の姿だ。

流石に二人も触れてはいけないものに触れた事に気付いてしまったようである―――もう既に『手遅れ』だが。

 

「ど、どどどどど、どうする!? どうすんのよカモっち!? サイ君完全にキレちゃってるよ!?」

『あ・・・ああ、あああ・・・や、やばい、コイツはヤバイ・・・このままじゃオレっち達は・・・』

 

血の気が完全に引いて白くなった二人が顔を見合わせる。

実際の所、サイは実は口は悪いがそこらの不良のように簡単にキレる様な性格ではない。

しかし初日の頭の悪い妨害工作やら、ネギが魔法使いとバレるやら、折角静かに寝れそうだと思ったのにその時間を邪魔されるやらでサイもフラストレーションが溜まりに溜まっていた。

 

それに併せて今回の馬鹿騒ぎだ。

これを考えた首謀者の馬鹿さに苛々するし、ノリだけで便乗した女子達にも腹が立つ。

・・・それでブチ切れるなと言う方が無理な話だ。

 

よって現在、サイはこの世界に現れてから初めて心の底から怒り狂っていると言う事である。

こんな怒りは多分、エヴァであっても見た事など無いだろう。

 

「こうなったら・・・」

『ああ、こうなったら取るべき道は一つっきゃ無いぜ!!』

 

悲壮な決意を浮かべて二人は力強く頷きあう。

そう、この状況で取れる道などたった一つしかないだろう・・・・・・。

 

その方法とは、たった一つ―――

 

「『逃げるっきゃないッ!!』」

 

実に賢明な判断だ―――いや、寧ろそれ以外の道など無い。

そうなれば二人の行動は早い・・・トトカルチョ用の食券やら機材やらを大急ぎで纏める。

そのスピードはまさに目を見張る物で、直ぐに撤退準備が終わった二人は実況の本部となっていたトイレから逃げ出そうとしていた。

結局、誰もキスが出来なかった為に親の総取りとなったので文句が出るかとも思われたが、各々の部屋でゲームの様子を観戦していた生徒達は皆揃って『逃げろ』と真っ青な顔で呻いている。

画面に映される映像は、はっきり言ってお茶の間には決して流せないような光景であった為に。

 

出場した選手達にサイの怒りの目が向けられている間に急いで逃げようとする二人。

例え狂獣の如く暴れ回っているサイを垣間見れば、急いで脱出すれば逃げ切れるだろう・・・二人はそう高を括っていたのだ。

 

しかし現実とは愚かな連中に対して甘くなど無い。

トイレの扉を開いて急いで外に出ようとした丁度その時、不意に誰かにぶつかった。

 

「・・・何処に行くんだ、テメェ等?」

 

その聞いた事のある、今の状態では絶対に聞きたくなかった声に二人は凍り付いたように固まる。

トイレのドアを開けた二人を出迎えたのは―――今しがたロビーで惨劇を繰り広げていたサイであった。

 

「い、いいいいいいい・・・!?」

 

「いつの間に此処に着たか?

んなもん、ロビーの連中全員をブッ潰す前に聞いて来たに決まってるだろ?」

 

脂汗を掻きながら必死に逃げ出す方法を考えようと時間を稼ごうとする朝倉。

しかしそんな彼女の問い掛けに対してサイは淡々と、そして何処までも冷静に、更に冷酷な声で質問を切り捨てる。

 

『ど、どどどどどど・・・!?』

 

「どうして此処に居るのか?

何言ってんだテメェは・・・テメェ等を始末する為に決まってるだろ」

 

呂律の回らない二人の言葉を正確に訳した後、ゆっくりと笑うサイ。

そのドス黒い笑いに二人は萎縮し、戦慄し、一歩も動けなくなっていた。

 

『さ、さささ、サイの旦那、許してくれ!! ちょっとした出来心、そう出来心って奴なんでさぁ!!』

「そ、そうだよサイ君!! 私達は悪気があったんじゃなくて、良かれと思って・・・」

 

この後にを及んで弁明して逃げようとする二人。

しかし、本気でブチ切れてるサイがその程度で許す筈も無く、一切耳を貸さずに言い放った。

 

「Shut the Fuck up,(黙れクソ野郎)

これから一言も口を利くな、息もするな・・・黙ってさっさと地獄に堕ちろ。

その為の道案内位はしてやるからよぉ!!!」

 

その言葉にもはや逃げ場が無いと理解した二人。

そんな二人をサイは引き摺りながらどこかの一室へと入って行った。

―――そして奥の襖が閉じられた後に中から二人の悲痛な悲鳴が響き渡る。

 

「た、助けて!! 許して、許してぇぇぇ!!

ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんからぁぁぁぁ!!!

お願いだから、ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」

 

『ゆ、許して、許してくだせぇサイの旦那~!!

あっ!? い、いやっ!? だ、だめぇぇぇ!? 其処はダメっ!? 許して、やめてぇぇぇぇ!!!

千切れる、千切れちまう、千切れちまうからぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

最後に一番大きな声で、ホテル中に響くかのような絶叫が轟く。

 

 

「『ほ、ほほほほほ、ほぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』」

 

 

―――こうして狂乱の夜は結果、勝者を一人も出さずに幕を下ろす。

空き部屋から出て来たサイは極めてイイ笑顔で一仕事を終えたかの如く満足げな表情で部屋に戻っていった。

 

修学旅行二日目の夜―――

それは多くの犠牲者のみを出し、実入りなど決して無かったそうだ。

 

 

第二十九話の再投稿完了しました。

朝倉とカモの冥福をお祈りいたします、南無。

尚今回の『修学旅行ラブラブキッス大作戦』の結果を発表しますね。

 

第一班:鳴滝姉妹

結果:サイを狙うもブチ切れたサイによりお仕置きを受け再起不能、二人揃って正座

 

第二班:古&楓

結果:サイに真っ先に会い攻撃を仕掛けるも反撃に合い失敗、不用意な一言によりサイの逆鱗に触れるも司法取引により二人とも命は救われる

 

第三班:あやか&千雨

結果:意気揚々とあやかはネギの唇を狙うも見つからず失敗、途中まで付き合い義理を果たした千雨はそのまま部屋に戻り就寝

その結果、あやかのみがサイの逆鱗に触れてお仕置き後に正座

 

第四班:まき絵&裕奈

結果:あやかと同じくネギを探すも見つからず唇を奪う事は二人とも失敗

更に追い討ちの如くブチ切れたサイにより見つかり強烈なお仕置きを受ける・・・最終的には目的も果たせぬまま二人とも朝まで正座

 

第五班:のどか&夕映

結果:図書館島探検部での経験を活かして屋根裏からサイの居るであろう部屋に向かおうとするもその途中で偶々見回りをしていたしずな先生に見つかる

本来ならば朝まで正座なのだが、しずな先生の優しさからお咎め無しで部屋に戻るように諭され素直に応じた・・・結果、それにより二人は命を救われたようなもの

 

第六班:どいつもこいつも不参加

 

その他の連中:第二班は古&楓の必死の説得により賭博を止めて就寝

第六班以外の残りの班員はサイの凶気を目の当たりにして恐怖から賭博を放棄して耳を塞いで就寝

ちなみに亜子、千鶴、美空は早々と就寝した為にこの凶事を知らずに済んだ

 

首謀者二人:サイ直々の超絶に強烈なお仕置きにより戦意喪失兼完全崩壊

更にトトカルチョで総取りになっていた大量の食券はネギに預けられ、彼女の手により生徒達に返された(朝倉の分はサイが没収したそうだ)

朝倉の正座している姿を見た他の先生の話では曰く『風が吹けば散ってしまいそうな程に真っ白に燃え尽きていた』

『鬼の新田』と呼ばれる生活指導の新田先生すら部屋に帰らせようとした程らしい―――まあ自業自得だが

 

全体総じての結果:朝倉&カモは見入り無し、更にお仕置きにより地獄を味わう

3-Aの『ラブラブキッス大作戦』にエントリーした者達は何名かを抜いて全員がお仕置き&正座のダブルパンチ

総じて結果は『完全に見入り無し』で、絶望と恐怖を必要以上に味わっただけである

 

 

ちなみに班割りは以下の通り

第一班:風香、史伽、桜子、釘宮、柿崎

第二班:楓、古、葉加瀬、超、四葉

第三班:あやか、千鶴、千雨、朝倉、夏美

第四班:まき絵、裕奈、亜子、真名、アキラ

第五班:明日菜、木乃香、夕映、のどか、ハルナ

第六班:エヴァ、茶々丸、ザジ、刹那、サイ&兎さよ

 


 
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