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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第39話

葉月さん

第39話投稿です。
三月もあと残り六日間になってしまいましたね。
会社も決済間近で忙しい今日この頃です。
まあ、来月も年度初めってことで忙しいんですけどね。
ではまずは前回のあらすじから。

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2012-03-25 20:52:54 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:9414   閲覧ユーザー数:6639

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第39話

 

 

 

 

【新たな恋敵?】

 

 

 

《一刀視点》

 

俺は刀を天に掲げ、振り下ろした。

 

「……絶氷凍じっ……」

 

「そこまでよ!」

 

技を放とうとしたその瞬間、凛とした張りのある声が当たりに木霊した。

 

「まったく……何を考えているのあなたたちは」

 

その声の主は、陽に照らされ髪は金色に輝き、風で靡くツインテール。そして髪を止めておく銀で出来た髑髏の留め具。

 

「も、もうお着きになられたのですか!?」

 

夏侯淵さんの声で当たりがざわめく。

 

そう、そこに居たのは……

 

「曹操……」

 

鎌を持ち堂々とした姿で立っている曹操だった。

 

「春蘭、秋蘭」

 

「はっ!」

 

真名を呼ばれ曹操の下へ駆けつけ膝を着き、首を垂れる二人。

 

「今、北郷の技を見て、死ぬ覚悟を決めたわね」

 

「はっ……そうしなければ、北郷を打倒すことはできぬと考えました」

 

首を垂れたまま答える夏候惇さん。

 

「そう……わかった。でも、今後一切、私の許可無く死ぬことを許さないわ。わかったわね二人とも」

 

「「御意っ!」」

 

曹操の命令に声をそろえて返事をする夏候惇さんと夏侯淵さん。

 

「まあ、二人が無事でよかったわ。もう面を上げていいわよ、春蘭、秋蘭」

 

王としての曹操の顔から一瞬だが、少女としての微笑みを見せる曹操。

 

「さてと……」

 

そしてすぐに王の顔に戻り俺に目線を向けてきた。

 

「ありがとうと言っておこうかしら北郷一刀」

 

「何のことかな?」

 

「何のこと?惚けているつもりかしら?あなたほどの力さえあればこの二人はおろか、後ろに居た兵たちも一瞬で倒せたはずよ」

 

「買い被りすぎだよ。俺はそこまで強くない。俺より呂布の方が強いさ」

 

「あら。それなら、なぜあなたより強い呂布があなたの部下になっているのかしら?普通、逆ではなくて?」

 

「それは俺の力じゃないよ。仲間の力さ」

 

「また仲間か……いい加減、その言葉を聞くのも飽き飽きだわ……まいいわ。でもね、そのあなたの言う仲間の力、それはすべてあなたの力でもあるのよ北郷」

 

仲間という言葉に苛立ちを見せる曹操。やっぱり曹操にはふざけ半分にしか見えないのかな……

 

「……」

 

俺は何も答えず曹操の次の言葉を待つ。

 

「力とは腕力だけを言うものではないわ。体力・知力・魅力それ以外にもあるけれど、これら全ての総称を力というのよ。それくらいあなたなら分かるわよね」

 

「ああ」

 

「そして、魅力は人を引き付ける力がある。だからあなたの周りには有能な者達が集まってくるのよ。私のようにね」

 

「その魅力が俺にもあるっていうのか?」

 

「無ければ、どうやってあなたはあれだけの逸材を手に入れたのかしら?」

 

「それは桃香の、劉備の想いを実現させようと……」

 

「ではなぜ、劉備はあなたを『ご主人様』と呼び慕うのかしら?あなたにそれだけの魅力が無ければあなたを慕う道理は無いのではなくて?」

 

「そ、それは……」

 

曹操の言葉に俺は何も返せなかった。

 

「あなたの魅力、それは天の御遣いと言う肩書き」

 

「っ!」

 

「それ以外に劉備たちがあなたを慕う理由が無いわ」

 

「……確かに俺は劉備たちに『俺の肩書きが役に立つのなら』と答えた。でもそれは劉備が語ってくれた夢に共感が持てたからだ」

 

「皆が笑顔で居られるようにする、だったかしら?ホント夢物語ね。世の中そんなに甘くないわよ」

 

「俺もそう思うよ。でも、一人くらいそう思っている人が居てもいいと思うんだ。確かに現実を見なくちゃいけないけど、だからって夢を見ちゃいけないわけでも無いはずだ。曹操にだって夢の一つや二つはあるはずだろ?」

 

「……ええ、あるわよ。大陸を統一するという夢がね」

 

「それこそ夢物語だ」

 

「貴様!許せん!秋蘭!」

 

「ああっ!」

 

曹操の語った夢に俺はばっさりと切り捨てると夏候惇さんと夏候淵さんが得物を構えた。

 

「武器を下げなさい。春蘭、秋蘭」

 

「華琳様!しかし、こやつは!」

 

「……いいから下げなさい」

 

「っ!はっ……」

 

曹操の言葉に従う二人。

 

「夢物語、ね……その根拠はなんなのかしら?」

 

「俺達がいるからさ」

 

「……」

 

「……」

 

俺達は無言でお互いを見合う。

 

「ふっ……ふははははっ!『俺達がいるからさ』っか、面白い。ならこの私を止めてみなさい。北郷一刀!覇王であるこの私を!」

 

「ああ、言われなくても止めて見せるさ、みんなの力で。劉備の……桃香の夢を実現する為に!」

 

「いいでしょう。ならいつでも攻めていらっしゃい。私は逃げも隠れもしないわ。そして完膚なきまでに叩きのめし、劉備の下からあなたを奪い取ってあげるわ」

 

その姿はまさに覇王、堂々とそして揺るがない自信が見て取れた。

 

「春蘭、秋蘭、桂花、戻るわよ。あなた達もよ季衣、霞」

 

「「「はっ」」」

 

「は~い。次は負けないからな!」

 

「チビに負ける鈴々じゃないのだ」

 

「まあ、しゃーないわな。ほならな恋」

 

「……(こくん)」

 

鈴々、恋と戦っていた二人も曹操の元へと戻っていく。

 

「北郷、あなた達と戦える日を楽しみにしているわ。その時は持てる力を全て私にぶつけて来なさい。私はそれを全て打ち崩してあげるわ」

 

踵を返し、部下を従えて戻っていく曹操。

 

「はぁ、ホント厄介な人に気に入られちゃったな……」

 

「お兄ちゃーーーんっ!」

 

「……ご主人様」

 

「おっ、二人とも怪我は無いか?」

 

「大丈夫なのだ!」

 

「……(こくん)」

 

元気良く答える鈴々に無言で頷く恋。

 

二人の無事にほっと一息を吐く。

 

「お兄ちゃんの方は大丈夫なのか?」

 

「ああ、俺は平気……っ!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「だ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」

 

心配する鈴々の頭を撫でて安心させる。

 

「……」

 

「ん?恋も心配してるのか?大丈夫だよこれくらい、ぬお!?」

 

無言で近づいてきた恋。俺はそれを心配して近づいてきたんだと思い、恋にも声をかけた。が、

 

「……連れて行く」

 

恋は一言だけ喋ると俺を抱きかかえて歩き出した。

 

「ちょ!れ、恋!この格好恥ずかしいんだけど!」

 

「……??」

 

なぜ恥ずかしいかって?そりゃ、男の俺が女の恋にお姫様抱っこをさせられているからだ。

 

「っ!ちょ!ま、待て待て!俺、本当に大丈夫だから!……って!お、お願い降ろして!これ怖い!怖いから!」

 

抱きかかえられ、橋を渡る恋。

 

自分で歩いていないだけでこんなに怖いなんて!

 

しかも、恋は俺を抱きかかえてるから手は綱を持っていないし、足元も見えないはず。これで踏み外しでもしたら……~~~っ!!

 

俺はその光景を思い浮かべ身震いしてしまった。

 

「……さむい?」

 

「え?あ、いや。別に寒くないぞ。それよりも恋、下してくれないならせめて慎重に頼むぞ」

 

「……わかった」

 

首を傾げながらも頷いてくれた恋。

 

もう、恋を信じるしかない。

 

「……ぁっ」

 

「っ!?」

 

「……」

 

な、なんだ今の『……ぁっ』は!?

 

「れ、恋?どうかしたのか?」

 

「……(ふるふる)」

 

「そ、そうか……無理そうなら降りようか?」

 

「……………………大丈夫」

 

な、なぜ間が長いの!?ほ、本当に大丈夫ですか!?

 

そんな一抹の不安を抱えながらも恋は何とか無事に橋を渡り切ってくれた。

 

「た、助かった……寿命が縮むかと思った……」

 

「ふぇ~~~!ご主人様~、ご無事でよかったですぅ~~!」

 

雪華は涙声になりながら俺に駆け寄ってきた。

 

「ちんきゅ~~~~~~……」

 

ん?なんだ?この声……つい最近聞いた言葉のような……

 

「きーーーーーーーーっくっ!!!!」

 

(ぼごっ!)

 

「ぐはっ!?」

 

「ふえ!?ご、ご主人様!?」

 

雪華が俺に抱き着こうとした瞬間、俺の横腹に重い一撃が入りそのまま吹き飛ばされた。

 

「何を恋殿にさせているのですか!恋殿がお優しいからとつけあがるのもいい加減にしろなのです!」

 

脇腹の衝撃、それはねねの陳宮きっくだった。

 

「べ、別に俺が命令したわけじゃ……」

 

「うるさいのです!黙っていろなのです!恋殿!あのようなものを抱きかかえるなんてそんなことしなくてもいいのですぞ!」

 

「……(ふるふる)ご主人様、疲れてたから」

 

「ぁぁあああっ!なんと恋殿はお優しいのですか!それに比べ、なんて太守ですか。そこは遠慮するところなのです」

 

ああ、きっと何を言っても駄目なんだろうなと俺はここで悟った。

 

「そ、そんなことありません!」

 

「え?」

 

「なんですと?」

 

「?」

 

「にゃ?」

 

その大声に誰もが驚いていた。

 

「ふぇ!あ、あのすいません。いきなり大声出して……あ、あのでも……ご主人様はそんな人ではありません!」

 

雪華は慌てて謝りつつも、俺の事を庇ってくれた。

 

「だ、だから、あ、あの……その……ふぇぇ」

 

「……ねね」

 

今にも泣き出しそうな雪華を見て恋はねねの名前を呼んだ。

 

「うぐっ!……わ、わかったのです。ねねがちょっと言い過ぎたのです。だから泣かないで欲しいのです雪華殿」

 

「ふぇ、す、すみません……大丈夫です、泣いてないですから……でも、ご主人様はとてもお優しい方です。孤児だった私を……」

 

「わ、わかったのです!これ以上言わなくても大丈夫なのです!」

 

話が長くなると思ったのか、ねねは雪華の話を慌てて止めさせた。

 

「……ねね。ご主人様にも」

 

「う~~っ……わ、わかったのです……悪かったのです」

 

「……ねね」

 

「ああっ!そ、そんな目で見ないでください恋殿!ちゃんと謝るのです!だから怒らないでください恋殿ぉ~~~~~っ!!」

 

ねねの謝る態度に怒る恋?いや、怒ってるのかどうかも表情が変わってなくて分からないんだけど、兎に角、恋が怒っているらしくねねが慌てていた。

 

「すまなかったのです……ちょっと、ほんのちょ~~~~っっっっとだけやりすぎたのです。だ、だから……ごめんなさいなのです」

 

「ん……ねね、偉い偉い」

 

「恋殿ぉ~~♪」

 

ちゃんと謝った?ことに恋はねねの頭を撫でて褒めていた。

 

「ご主人様」

 

「ん?ああ、わかってるよ。ねねも謝ったしね。気にしてないよ」

 

「ん……」

 

頷く恋は表情は変わっていなかったが、どこと無く微笑んだように見えた。

 

「あ、それと、みんなにお願いがあるんだ」

 

「なんですかご主人様?」

 

「うん。実はさっき俺が使おうとした技なんだけど桃香や愛紗たちには秘密にしてて欲しいんだ」

 

「なぜなのですか?遠くからで良く分からなかったのですが、別段秘密にしておくほどのものでもないのでは?」

 

「うん。まあ、色々とね。あまり心配とかさせたくないからさ。兎に角、お願いね」

 

「まあ、そう言われれば従うのです」

 

「ん……わかった」

 

納得はしていないが従うといった感じのねねに理解しているのか分からないが頷いてくれた恋。

 

雪華と鈴々は事情を分かっているから直ぐに了承してくれたけど……鈴々は隠し事が下手だからな……

 

「よし!それじゃ桃香たちの下へ向かおう!移動の準備は直ぐに出来るのかな雪華?」

 

「は、はい!隊列を整えれば直ぐにでも!」

 

「わかった。それじゃ、鈴々に恋。それぞれの部隊に指示よろしくね」

 

「わかったのだ!」

 

「……わかった」

 

こうして、橋での攻防は幕を閉じ、急ぎ桃香たちの下へと部隊を勧めた。

 

「っと、言うのがあの橋で起きた出来事だ」

 

俺はみんなに分かれた後の事を説明した。

 

だけど、俺が恋に抱きかかえられたことと、雪華の泣きそうになりながら俺を庇ってくれたことは喋らないでおいた。

 

だって、恥ずかしいだろ?大の男が女の子である恋に抱きかかえられるなんて、それに雪華もきっと話したら顔を赤くして恥ずかしがるに決まってるしな。

 

それになにより……

 

「……?なんですかな主よ」

 

星が知ればそれをネタにからかってくるに違いないからだ。

 

「なんでもないよ。それより何か質問とかあるかな?」

 

「では、一つだけいいでしょうか。曹操さんの部隊にはどのような方いらっしゃいましたか?少しでも戦力が分かると助かるのですが」

 

手を上げて質問してくる朱里。

 

「ん~、牙門旗を殆ど掲げてなかったからな……取り合えず、謁見の間で見た武将や軍師は皆居たかな」

 

「あとは鈴々と同じくらいの背丈の可愛い女の子と、眼鏡を掛けたおしゃれな感じの女の子、胸がやたらとでかい女の子。ああ、そうそう、あと体が傷だらけの女の子が居たかな」

 

「「「……」」」

 

「な、なに?」

 

俺が説明し終わるとなぜかみんなに白い目で見られていた。

 

「ご主人様って女の子しか見てないんだね!」

 

桃香は頬を膨らませながら怒ってきた。

 

「ええ!?だ、だって朱里がどんな子が居たか説明してほしいって言うから説明したのに!?」

 

「ホント変態ね」

 

「ぐはっ!」

 

「え、詠ちゃん、そんなこと言ったらダメだよぉ」

 

「いいのよ。本当の事なんだから」

 

「まったくなのです。そこだけは詠殿に賛成するのです。このチ○コ太守」

 

「がはっ!」

 

詠とねねの棘のある言葉に俺の胸は突き破られそうになった。

 

うぅ……なんで俺がこんな目に……

 

「あ、あの大丈夫ですかご主人様」

 

「げ、元気を出してくださいご主人様」

 

「月と雪華だけだよ。俺を庇ってくれるのはっ!」

 

(がばっ!)

 

「へうっ!?」

 

「ふえっ!?」

 

俺は嬉しさのあまり月と雪華を抱きしめた。

 

「「(月)(雪華)に抱きつくな(なのです)っ!」

 

(どすっ!ぼこっ!)

 

「ぶべらっ!」

 

詠と愛紗に思いっきり殴られ俺は宙を浮いた。

 

ああ……俺、空飛んでるよ母さん……

 

そして地面にそのまま叩きつけられた俺は一時間ほど気を失った。

 

………………

 

…………

 

……

 

「あ~、頭がまだくらくらする」

 

頭を押さえながら廊下を歩く。

 

「で、ですから先ほども謝ってではありませんか!」

 

愛紗は少し頬を染めて反論してくる。

 

愛紗と詠に殴り飛ばされ意識を無くてしばらく経ち、意識を取り戻した時に、二人から謝られていた。

 

「別に責めてないよ」

 

「ご主人様ってあんなに強いのにどうして愛紗ちゃんや詠ちゃんの攻撃を避けられないんだろうね。どうしてですかご主人様?」

 

桃香は不思議そうに話してくる。

 

「ど、どうしてって言われても……どうしてだろうな?」

 

自分でもよくわからない。なんで避けられないんだろう。

 

「あ、着きましたよご主人様。ここが馬騰さんたちのお部屋です」

 

そんなことを考えながら歩いていると菫や馬超たちの居る客間に着いた。

 

(こんこん)

 

『誰だ?』

 

扉をノックすると中から馬超の声が聞こえてきた。

 

「北郷だけど、入ってもいいかな?」

 

『ほ、北郷殿か!は、入っていいぞ!』

 

『何慌ててるのお姉様』

 

『う、うるさい!』

 

なんだか騒がしいけど兎に角入っていいと言われたので中に入るか。

 

俺は戸口に手を掛けて扉に開けた。

 

「お久しぶりです馬超さん」

 

「あ、ああ。久しぶりだな!」

 

「えっと、君が馬岱でいいのかな?」

 

「うん!よろしくね天の御遣いのお兄さん!」

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

元気よく答える馬岱。

 

「ちょ、丁度いいところに来たな。母様も今、目が覚めたところだ」

 

「あ、あらあら……一刀さん。お久しぶり、ですね……」

 

横になっている菫さんは前にあった時とは違い、苦しそうに微笑み挨拶をしてきた。

 

「お久しぶりです。お加減はどうですか?」

 

「ごらんの通り……生きているのが不思議なくらいですわ……ぅ」

 

「あまり無理をしなくていいですよ。今、痛みを和らげますから」

 

起き上がろうとする菫さんを手で制して、まずは痛みを和らげることにした。

 

「傷はそのあと治療します。目を閉じて俺の氣を感じてください。行きますよ……」

 

「はい……」

 

言われた通り目を閉じる菫さん。俺も目を閉じて右手に集中する、そうすることで氣を一点に集め送り込む事ができる。

 

「……」

 

「……」

 

誰もが無言で俺の応急処置を見ている。

 

「……ふぅ。どうですか菫さん。痛みは和らぎましたか?」

 

手をかざして一分程度。菫さんに話しかける。

 

「ええ。大分楽になりましたわ」

 

「ほ、本当か母様?」

 

「ええ」

 

娘の馬超さんに微笑む菫さん。

 

「でも、本格的な治療はこれからです。すみませんが傷口を見せてもらってもいいですか?」

 

「はい。構いませんわ……」

 

菫さんは起き上がり着ていた服を脱ぎ始める。

 

「わわっ!ご主人様みたらだめーーーっ!」

 

「と、桃香!?」

 

桃香に目を押さえられて何も見えなくなる。

 

「か、母様も何脱いでるんだよ!」

 

「あらあら、脱がなければ傷を見せられないでしょ?」

 

「そ、それはそうだけどよ」

 

「それに以前にも(わたくし)の肌を見せているのだから。今更、という気もするのですが?」

 

「……ご主人様?」

 

「これはどういうことかな~?」

 

「っ!痛い痛い!と、桃香、目が、目が潰れるっ!潰れるからーーーーっ!」

 

愛紗は声のトーンを低くし、桃香は目を押さえていたその手に力を篭めてきた。

 

「ち、治療の為だったんだよ!そ、そうですよね!菫さんっ!!」

 

「あらあら……(わたくし)の柔肌をあんなに力強くなさったのをお忘れですか?」

 

「「ご主人様っ!!」」

 

「ご、誤解だーーっ!!」

 

「な、何母様にしてるんだよ北郷殿!」

 

「ちょ!馬超さんまで!?俺が治療してるところ見てただろ!?」

 

顔を赤くして怒り出す馬超さんに俺は更に慌てた。

 

「で、でも!あんなに長いのを母様に突き立てるなんてよ!それに血も出てたし!」

 

「あ、あんなに長い?」

 

「馬騰殿に突き立てる!?」

 

「「血も出た!?」」

 

「「……っ!~~~~っ!!ご主人様!どういうことですか!説明してください!」」

 

馬超さんの説明でなぜか顔を赤くして説明を求めてくる桃香と愛紗。

 

「はぁ……翠。あなたの説明はとても卑猥に聞こえるわよ」

 

「……え?……っ!○△&□☆っ!?」

 

自分の言ったことを思い返し、顔を赤くして慌てる馬超さん。

 

「お姉様って見かけによらずエロエロなんだね」

 

「なっ!たんぽぽっ!お前!」

 

「きゃーー♪お姉様が怒った、怖いよ御遣いのお兄さん!」

 

馬岱はあろう事か俺に助けを求めてきた。

 

「なっ!お前、たんぽぽ!」

 

「あらあら……っ!」

 

微笑んでいた菫さんの顔に一瞬だけ痛みで顔を歪めた。

 

「ああ!痛みを和らげているだけなので無理しないでください!」

 

「ええ、そうでしたわね……翠、たんぽぽ、少し大人しくしていてくださいね」

 

「あ、ああ。分かったよ」

 

「ごめんなさい。菫おば様」

 

「それと、劉備殿に関羽殿、先ほど一刀さんが言ったように(わたくし)の治療をしただけです。からかったりしてごめんなさいね」

 

「そ、そんなことないですよ!こちらこそごめんなさい!」

 

「勘違いしたのはこちらだ。すまなかった馬騰殿」

 

菫さんが訳を話し謝ると、桃香と愛紗は慌てて二人も謝っていた。

 

「ふふふっ、羨ましいですわ。北郷さん」

 

「な、何がですか?」

 

「いろいろと、です」

 

「は、はぁ……」

 

微笑みながら答える菫さんに俺は曖昧な返事しか出来なかった。

 

「そ、それじゃ、傷を見せて貰えますか?」

 

「はい……」

 

(しゅる……しゅる)

 

菫さんは服を脱ぎ始める。すると血で染まり始めていた包帯が姿を現した。

 

「ここについて直ぐに取り替えたんだ。だけど、直ぐに滲んで来ちまってよ……」

 

悔しそうに答える馬超さん。

 

「包帯をとっても?」

 

「構いません」

 

菫さんの同意を得て包帯を優しく解いていく。

 

「っ!ひどい傷……」

 

「なんと……それほどまでに曹操の追撃は激しかったというのか……」

 

包帯を取り終えると菫さんの背中には大きな刀傷が付けられ、あちこちにも小さいが刀傷や擦り傷が数多くあった。

 

それを見た桃香と愛紗は青ざめた顔で見ていた。

 

「一刀さん、あまりじっと見ないでください。殿方に見せられる背中ではありませんから」

 

「そんなこと無いですよ。ご自身の娘である馬超さんや仲間の兵たちを守った背中じゃないですか。誇りに思えど、恥ずかしがるようなものじゃありません。それにとても綺麗な背中だと思いますよ俺は」

 

俺は菫さんの傷が付けられていない肩あたりを優しく撫でながら答えた。

 

「一刀さん……ありがとうございます」

 

「いえ、本当の事を言ったまでですよ。それじゃ治療を始めます」

 

「はい……よろしくおねがいいたします」

 

俺は刀に癒しの宝玉を付け、さっきと同じように右手を傷口にかざし氣を放つ。

 

「……」

 

「っ!」

 

「か、母様!?」

 

「へ、平気です……少し痛みが走っただけですから」

 

「皮膚の細胞を無理やり活性化させているので少し痛みが出るかもしれません。すみません、言い忘れていて」

 

「いえ。これくらいでしたら、斬られた痛みと比べれば全然痛くないですわ……」

 

笑顔で娘に心配かけまいとする菫さん。でも、馬超と馬岱の見えないところでは力強くベットのシーツを握り締めていた。

 

「……この傷は誰に?」

 

俺は少しでも痛みが和らげばと菫さんに話を振った。

 

「曹操軍の夏候惇です……(わたくし)が一瞬の隙を見せてしまい、その時に斬られてしまいました」

 

「くっそ……あん時、あたしが母様の言うことを聞いていれば……」

 

「それを今悔いても仕方のないことです。悔しいのでしたら、その悔しさを糧にさらにお強くなりなさい翆」

 

「母様……」

 

悔しそうにする馬超さんに菫さんは優しく、そして励ますように話していた。

 

「あなたもですよ、たんぽぽ」

 

「う、うん!たんぽぽも強くなるよ、菫おば様!」

 

「……そう」

 

力強く答える馬岱に菫さんは嬉しそうに微笑んた。

 

「ありがとうございます。一刀さん」

 

「えっ、何がですか?」

 

(わたくし)の気を紛らわす為に話しかけてくださったのですよね」

 

小声で話しかけてくる菫さん。

 

「迷惑でしたか?」

 

「いいえ。こんな(わたくし)でも気遣ってくれる殿方がまだ居たことに嬉しく思います」

 

菫さんは頬をほんのり染めて微笑んだ。

 

「……」

 

俺はその微笑に一瞬、可愛いなと思ってしまった。

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

菫さんに話しかけられ我に返る。

 

いかんいかん……治療に集中しないと……

 

俺は治療に集中した。

 

≪桃香視点≫

 

「……」

 

ご主人様が馬騰さんの治療を始めて結構時間が経ちました。

 

最初のうちは馬騰さんを気遣って話しかけていたけど、そのうちご主人様は喋らなくなった。

 

それだけ馬騰さんの治療を行うのが大変なんだと思う。

 

だって、ご主人様の額には汗が滲んでいたから。

 

「大丈夫ですか、桃香様。まだ治療には時間が掛かりそうです。お休みになってはどうですか?」

 

「大丈夫だよ、愛紗ちゃん。それに私よりも愛紗ちゃんの方が疲れてるはずだよ。愛紗ちゃんの方こそ休んだら?」

 

私の事を気遣って愛紗ちゃんが話しかけてきた。でも、私以上に愛紗ちゃんの方が疲れてるはずだよね。

 

だから逆に愛紗ちゃんに休んでと伝えた。

 

「いえ。私は、鍛えているので平気です」

 

愛紗ちゃんも私と同じように大丈夫だと答える。

 

「そっか。……それにしても凄いよね、ご主人様。殿から帰ってきて直ぐに馬騰さんの治療するなんて」

 

「ええ。並大抵の体力と精神力が無ければ出来ないことだと思います」

 

それだけご主人様の体には負担が掛かっているってことでもある。

 

だから少しでもご主人様の力に慣れればと思うけど、何をしていいのか私には分からなかった。

 

「……ふぅ」

 

一息ついたのかご主人様は息を吐き汗を拭った。

 

「大丈夫ですか、ご主人様」

 

「ん、ああ。大丈夫だよ。まだ時間掛かるから桃香と愛紗は先に休んでて良いぞ」

 

「私達は大丈夫だよ。それより少し休んだほうが良いよご主人様。凄い汗」

 

私は布を取り出してご主人様の額の汗を拭ってあげた。

 

「ありがとう、桃香。でも、早く菫さんの怪我を治してあげないと」

 

「ご主人様……」

 

ご主人様の言うことも分かる。馬騰さんが凄い怪我をしてるから直してあげたいって気持ちは私にもある。

 

でも、それでご主人様に負担が掛かるのはなんだか嫌だった。

 

「……一刀さん。(わたくし)も少し疲れました、ちょっと休ませて貰ってもよ宜しいかしら?」

 

「そうですか?それじゃ少し休憩しましょうか」

 

「……(にこ)」

 

馬騰さんは私を見て微笑んできました。馬騰さんもご主人様の事を心配して言ってくれたんだと思う。馬騰さんの方が重病人なのに……

 

ありがとうございます、馬騰さん……

 

それでも私は心の中で馬騰さんにお礼を云った。

 

「ふぅ……」

 

席に着くご主人様は息を吐きやっぱり疲れているようでした。

 

「ご主人様。お茶持ってきますね」

 

「それなら俺も行くよ」

 

「だめです!ご主人様はここで休んでて、私が持ってくるから」

 

「わかった。ありがとう、桃香。それじゃお願いできるかな」

 

少し強めに言うとご主人様は驚いた顔をしたけど直ぐに微笑みお礼を言ってきました。

 

「うん!待っててね。美味しいお茶を持ってくるから!」

 

「でしたら、私もお手伝いします」

 

「ありがとう、愛紗ちゃん」

 

「あ、桃香!それと水を一杯も持ってきてくれるかな」

 

「お水ですか?一杯だけで良いんですか?」

 

「ああ。よろしくね」

 

「わかりました。それじゃ、愛紗ちゃん行こ」

 

「はい。では、ご主人様、馬騰殿たちも少々お待ちください」

 

私は愛紗ちゃんとお茶を持ってくる為に客間から出た。

 

(がちゃ)

 

「あっ、馬騰さんのお加減はどうですか?」

 

「みんな……いつからここに?」

 

部屋から出ると朱里ちゃんたちみんなが居て驚いた。

 

「桃香様たちが馬騰殿の部屋に向かわれて直ぐにですな」

 

私の質問に星ちゃんが答えてくれた。

 

「それで、馬騰殿のご容態は?」

 

「うん。今までご主人様が治療してたよ。でも、今は休憩中、馬騰さんも疲れちゃったんだって」

 

「治療は順調に進んでいる。だが、結構時間が掛かるみたいなのだ。お前たちは先に休んでいていいぞ」

 

「いいえ。馬騰様の治療が終わるまでここに居ます」

 

「そうね。馬騰様はボクたちにとっても大切な人だから」

 

愛紗ちゃんの提案に月ちゃんと詠ちゃんが首を横に振る。

 

「お前たちも意見は同じか?」

 

「はい。ご主人様が頑張って治療しているのに一人だけ休むなんて出来ませんから」

 

「だな、我々は何も出来ないが、こうしてここで無事に主が馬騰殿の治療を終えることを祈っていよう」

 

雪華ちゃんに続いて星ちゃんも同じ考えみたいだ。

 

「そっか、でも無理はしないでね。きっとご主人様もそれは望んでないと思うから」

 

「わかってるさ、北郷の考えそうなことだな。あたしが無理そうだと思ったら部屋に連れていくさ」

 

「ありがとう、白蓮ちゃん。よろしくね」

 

「これくらい当たり前だろ。それより桃香たちは何をしに出てきたんだ?」

 

「そうだった!ご主人様にお茶を持って行こうとしてたんだ!」

 

「おいおい、ならこんなところで立ち話をしている場合じゃないな」

 

「う、うん!愛紗ちゃん、早く行こ!」

 

「ま、待ってください桃香様!」

 

「え、なに?」

 

朱里ちゃんに慌てて呼び止められる。

 

「厨房の場所はわかっておりますか?」

 

「……あっ」

 

朱里ちゃんに厨房の場所を聞かれ、思わず声をもらしてしまった。

 

「と、桃香様。まさか……」

 

「あ、あはは、ごめん。知らないや」

 

愛紗ちゃんに恐る恐る聞かれて私は苦笑いをして答えた。

 

「はぁ、なにしてんのよ。もう……ほら、行くわよ」

 

「詠ちゃん?」

 

詠ちゃんはため息をついて歩き出した。

 

「厨房に行くんでしょ。案内するわよ」

 

「ありがとう詠ちゃん!」

 

「ちょ!だ、抱き着かないでよ!これくらい普通でしょ!」

 

私が詠ちゃんにお礼を籠めて抱き着くと顔を赤くして引きはがそうとしてきた。

 

「こ、こんなことをしてる場合じゃないでしょ!あのバカにお茶を持っていくんでしょ!」

 

「ああ、そうだった。それじゃ案内宜しくね詠ちゃん♪」

 

「はぁ……ホント疲れるわ……」

 

「ふふっ。でも、嫌じゃないんでしょ詠ちゃん」

 

「ま、まあ、嫌いじゃないわよ……って、何言わせるのよ月!」

 

「いいからいいから、それじゃ厨房に行こ。桃香様、ご案内しますね」

 

「うん。よろしくね。月ちゃん、詠ちゃん!」

 

私と愛紗ちゃんは月ちゃんと詠ちゃんの案内で厨房に向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

(こんこん)

 

「ご主人様、お茶とお水もって来たよ」

 

私と愛紗ちゃんは温かいお茶と水を持って馬騰さんの居る客間へ戻ってきた。

 

「ありがとう桃香、愛紗」

 

「遅くなってごめんなさい。はい、お茶です。馬騰さんたちもどうぞ」

 

「では、有り難く頂きますわ」

 

「お、ありがとうな」

 

「ありがとうございまーす」

 

ご主人様たちにお茶を手渡していく。

 

「ずずぅー……はぁ、美味しいよ。ありがとう桃香」

 

ご主人様はお茶を啜るととても安らいだ顔になってくれた。

 

「よし!それじゃ再開しましょう菫さん」

 

「ええ!?も、もう始めるんですか?もう少し休んだほうが」

 

治療を再開しようとするご主人様を慌てて止める。

 

だって、お茶一杯を飲んでる間だけしか休んでない。それじゃ体は休まらないよ!

 

「大丈夫だよ。無理はしてないから」

 

「で、でも……」

 

大丈夫と答えるご主人様、でも私には大丈夫だとは思えなかった。

 

「それに早く菫さんの傷を治してあげないと。桃香だって困っている人が居たらそうするだろ?」

 

「そ、そうだけど」

 

そう言われてしまうと私は何も言えなくなる。

 

「ご主人様、意地悪です。そう言うと私、何も言えなくなっちゃうじゃないですか」

 

私も同じことを言っていつもご主人様たちを困らせているから。

 

「ちょっと意地悪な言い方だったかな。でも大丈夫だから、疲れたらちゃんと休むよ」

 

微笑みながらご主人様は私の頭を撫でてきました。

 

「あたしたちが言うのなんだけどよ。無理してんなら休んだっていいんだぜ?」

 

「ありがとう、馬超さん。でも、さっきも言ったけど平気ですから」

 

そう言ってご主人様は馬騰さんの治療を再開しました。

 

「桃香様……」

 

「うん、分かってるよ。あとはご主人様に任せて私達はここで見てよ」

 

私達は治療をするご主人様の背中を見守り続けた。

 

≪菫視点≫

 

「ん……朝、ですか」

 

どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようですね。

 

治療を始めた最初のうちは痛みで眠ることは出来ませんでしたが、それも傷が塞がっていくにつれて徐々に痛みは無くなり、変わりに一刀さんの手から暖かい温もりが伝わってきていました。

 

「あ、起きましたか菫さん」

 

「ええ、すみません。眠ってしまって」

 

「いえ。治療されている方も体力を使いますからね。きっと疲れたんですよ」

 

(わたくし)が眠ってしまっている間も治療を?」

 

「ええ。傷はほぼ治りました……ですが、背中の大きな傷は跡が残ってしまい。完全には治せませんでした」

 

一刀さんは申し訳なさそうに謝ってきました。

 

「……鏡で見せていただけますか?」

 

「わかりました。ああ、それとお水です。連合軍の時に飲んでもらった水です。回復を早める為の」

 

回復を早める為の水、それは一刀さんの血が混じった水の事ですね。

 

「ありがとうございます」

 

一刀さんは(わたくし)に水の入った杯を手渡し、手鏡を取りに衣装箱へと歩いていきました。

 

そう言えば、翠たちはどうしたのでしょうか?

 

(わたくし)は水を一口飲み部屋を見回しました。

 

「……あらあら」

 

「すー、すー」

 

「ん~……お、重い……」

 

毛布を掛けられて翆とたんぽぽは寝ていました。

 

翆はたんぽぽに寄りかかられて苦しそうにしていましたけど。

 

そして、劉備さんに関羽さんも同じように毛布を掛けられて寝ていました。

 

「どうぞ。菫さん」

 

「ありがとうございます。それに毛布も娘たちに掛けてくださって」

 

「いえ。大事な娘さんに風邪を引かれては大変ですからね」

 

「あらあら、お優しいのですね」

 

私は微笑みながら手鏡を受け取った。

 

「……」

 

「すみません」

 

手鏡と備え付けの鏡を使い自分の背中を見ていると一刀さんは急に謝ってきました。

 

「なぜ謝るのですか?一刀さんは(わたくし)の怪我を治してくださいました。これ以上望むのは贅沢というものですわ」

 

「ですが、女性にとって傷は」

 

「……それでも一刀さんは(わたくし)の傷を、背中を綺麗だと言ってくださいました。それともあれは嘘だったのですか?」

 

「嘘だなんて。本当の事ですよ」

 

「なら、(わたくし)はそれで充分ですわ。そう思って下さる殿方が一人でもいるだけで」

 

そう、一人でもいてくださるだけで十分……

 

「ん……いつの間にか寝ちまったのか……っ!母様!お、おい、たんぽぽ!」

 

「もぉ~、折角気持ちよく寝てたのに……」

 

「んなこと言ってる場合か!母様が、母様が!」

 

「菫おば様がどうしたのぉ?たんぽぽ、まだ眠い……」

 

「ばかっ!いいから目を覚ませ!」

 

(ごちんっ!)

 

「いった~い!殴ることないじゃんよ、お姉様」

 

「ホント、騒がしい子たちですね。それでは殿方に好かれませんよ」

 

「……え?す、菫おば様!」

 

たんぽぽは一気に目が覚めたのか目を丸くして驚いていました。

 

「ん……あ、あれ、私、いつの間にか眠って……っ!あ、愛紗ちゃん起きて起きて!馬騰さんが!」

 

「と、桃香様?馬騰殿がどうか……!」

 

「あらあら、なんだか凄く注目されてしまっていますね」

 

「あ、当たり前だろ母様!も、もう平気なのか?」

 

「ええ。大丈夫ですよ。傷跡は若干残ってしまいましたが」

 

「でも、無事なんだよな!(あたし)はそれだけで十分だ!」

 

今にも泣き出しそうな翆。

 

「あらあら、こんなことで泣いていては先が思いやられますね」

 

「な、泣いてなんかいない!」

 

「え~。うっそだ~。それじゃ、お姉様の目にあるのはなにかな~?」

 

「こ、これは……あ、あれだ!汗!」

 

はぁ、本当に先が思いやられますね……

 

「……翆、あなたに大事な話があります」

 

「あ、お、おう。なんだ母様」

 

「あなたに、馬一族の長になってもらいます」

 

「は?……はぁぁぁああああっ!?な、何言いだすんだよ母様!」

 

「なにも今更ということではないですよ。前々から考えていたことです」

 

「で、でもよぉ。(あたし)は母様みたいにみんなを率いるなんてこと出来るわけが」

 

「何を言っているのですか?あなたは(わたくし)の力を借りずに皆をここまで導いて来たではありませんか」

 

「そ、それは必至だったし。母様を助けないとって」

 

はぁ、ほんとに困った子ですね……まあ、予想はしていましたが。

 

「もし、自信がないのでしたら。誰かに委ねるのも良いのではないですか?」

 

「え?か、母様。何を言って……」

 

翆は(わたくし)の言った言葉の意味が分かったのでしょう。その顔は困惑しているようでした。

 

(わたくし)は既にあなたに全てを託しました。あとはあなたが決めなさい馬超」

 

「母様……」

 

「もう、あなたの心は決まっているのでしょ?大丈夫、みんなあなたが決めたことに従うわ。だから自信を持ちなさい。あなたは(わたくし)の自慢の娘なのですからね」

 

「そうだよお姉様。たんぽぽもお姉様が決めたことなら文句ないよ!」

 

「母様、たんぽぽ……わかったよ」

 

翆は頷くと一刀さんに向き直りました。

 

「母様を助けてもらい心から礼を言う。北郷殿」

 

「いや。当り前のことをしたまでだよ」

 

「いや。今はそんな当たり前のことができない世の中だ。そんな中であんたたちは」

 

「翆」

 

「あ、ごぼん!そんな中で北郷殿たちは(あたし)たちを受け入れてくれた。やろうと思っても出来ることじゃない」

 

翆の言葉使いに注意を込めて名を呼ぶと慌てて言い直しました。

 

「それに劉備殿の話を聞いて(あたし)も共感が持てた……だから(あたし)たちも北郷殿の家臣にして欲しいんだ。これはお礼でもあるけど、なにより北郷殿たちに力を貸したいって思ったからだ」

 

「わかった。馬超殿の思い、受け取ったよ」

 

言葉使いはまあまあでしたが翆の思いは北郷さんたちに伝わったようです。

 

「だけど、家臣じゃないぞ」

 

「え?」

 

「うん。そうだね!馬超さん!これからは私たちの仲間ですよ!」

 

「な、仲間……改めて言われるとなんだかこそばゆいな」

 

「何照れちゃってるのよお姉様」

 

「う、うるさいな!良いだろ別に!」

 

たんぽぽに指摘され、恥ずかしがる翆。

 

「あらあら、翆。まだやることがあるでしょ?劉備様、改めて名乗らせていただきますわ。名は馬騰、字は寿成。真名は菫。これから宜しくお願いいたしますわ。さあ、翆も」

 

「お、おう。名は馬超。字は孟起。真名は翆ってんだ。よろしくお願いするぜ」

 

「もう、お姉様。もう少し丁寧な言葉使いできないの?」

 

「う、うるさいな!たんぽぽも早く言えよ」

 

「もう……えへへ。たんぽぽは、名は馬岱。真名は蒲公英っていいま~す!これから宜しくねご主人様♪」

 

「ご、ご主人様!?」

 

たんぽぽが一刀さんの事をご主人様と呼び、翆は驚いていました。

 

「だって、たんぽぽたちの主になる人でしょ?だったらご主人様って呼ばないと」

 

「た、たしかに……ご、ご主人様。これからよろしく」

 

翆は恥ずかしそうに一刀さんをご主人様と呼んでいました。

 

「それじゃ次は私だね!名は劉備、字は玄徳!真名は桃香だよ。これから宜しくね。翆ちゃん、タンポポちゃん!菫さんもこれから宜しくお願いします!」

 

「私だな。名は関羽、字は雲長。真名は愛紗だ。共に桃香様とご主人様を守って行こう」

 

「最後は俺だな、北郷一刀。字も真名も無いんだ。これから宜しくな。翆、たんぽぽ。それから菫さんも改めて宜しくお願いします。あとで他のみんなもご紹介しますよ」

 

「はい。よろしくお願い致しますわ。旦那様」

 

「「だ、旦那様!?」」

 

「か、母様!?何言いだすんだよ!」

 

(わたくし)が一刀さんの事を旦那様と言ったことにみなさんが驚いていました。

 

「何って。(わたくし)の主である一刀さんを旦那様と呼んだだけですが」

 

「そ、それはダメです!他の呼び名でお願いします!」

 

「あらあら。ダメですの?」

 

「あ、当り前だ!そ、そんなふ、夫婦のような呼び名。許されるはずがなかろう!」

 

桃香様と愛紗さんは大きな声をだして拒否してきてしまいました。

 

「それは残念ですわね……そうですわ。でしたら、桃香様も愛紗さんも旦那様とお呼びすれば問題ないですわよね」

 

「「え、ええぇぇぇえええっ!?」」

 

「な、何を言い出すのだ菫殿!」

 

声をそろえて驚く桃香様と愛紗さん。そして、愛紗さんは顔を赤くして(わたくし)に詰め寄ってきた。

 

「あらあら、もうお仲間ですのよ。そんな余所余所しい呼び方はやめてください愛紗さん」

 

「そ、そうか?……ではなくて!そもそも!旦那様と言う呼び名を止めてほしいと!」

 

「ほらほら、愛紗さん。一度呼んでみてはどうですか?案外いいかもしれませんわよ?」

 

「し、しかしだな……ご主人様のご迷惑に」

 

「旦那様、ですわ」

 

「うっ」

 

微笑みながら愛紗さんの言葉を訂正すると愛紗さんは言葉を詰まらせてしまいました。

 

「ふふっ」

 

「……だ、だだ……旦那様……~~~~~っ!う、うわぁぁぁああああっ!」

 

(ばんっ!どどどどどどどっ!!!)

 

「あ、愛紗!?」

 

「愛紗ちゃん!」

 

「ど、どうかお許しをご主人様ああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

愛紗さんは一刀さんを旦那様と小さな声で呼んだ後、顔を真っ赤にして部屋から全速力で出て行ってしまいました。

 

「さあさあ。桃香様も」

 

「わ、私もですか!?」

 

「ええ」

 

「う、うぅ……あ、あの、旦那様」

 

桃香様は恥ずかしそうに上目使いで一刀さんを見上げて呼んでいました。

 

「っ!こ、これは……」

 

一刀さんは顔を赤くして少し後ずさりをしていました。

 

どうやら一刀さんも満更ではなかったようですね。

 

「うぅ~!こ、こんな恥ずかしいこと言えないよぉ!だ、旦那様は禁止!だから菫さんも違う呼び方にしてください!」

 

「あらあら、残念ですわ。ですが、桃香様のご命令。では、改めてご主人様。これから宜しくお願い致しますわ」

 

「あ、ああ、こちらこそよろしく菫さん」

 

「あらあら、ダメですわよ。(わたくし)のご主人様になったのですから、呼び捨てにしなくては」

 

「うっ……そ、それじゃ菫。これから宜しくな」

 

「はい。この命、あなた様とともに……」

 

(わたくし)は立ち上がりご主人様を抱きしめ誰にも聞こえないようにそっと呟いた。

 

「ふふっ、でも。二人っきりの時は旦那様と呼ばせてくださいね。ご主人様……ちゅ」

 

「す、菫!?」

 

(わたくし)はご主人様の頬に口付をした。

 

「○△☆□!?な、何やってるんだよご主人様!」

 

「お、俺!?」

 

「わー。ご主人様ってだいたーん!」

 

「ちょ!たんぽぽまで!今のは俺からじゃなくて!……はっ!」

 

ご主人様は何かを感じ取ったのか恐る恐る振り返っていました。

 

「……ご主人様」

 

「ち、違うんだ桃香!これは菫が!」

 

「ご主人様の……ばかぁぁぁあああっ!」

 

(バッチーーーーーンッ!!)

 

「ぶへっ!」

 

「ふえ~~~~ん!……はっ!そ、そう言えば、昨日も菫さんの真名を……うぅぅ~~、ご主人様が菫さんを奪い取っちゃったよぉぉぉおおおおっ!」

 

「ちょ!と、桃香!人聞きの悪い言い方を……」

 

桃香様は泣きながら部屋から駆け出していってしまいました。

 

あらあら。どうやら、ご主人様はみなさんに以前、(わたくし)がご主人様に真名を授けていたことを話していなかったようですね。

 

「あらあら、(わたくし)、ご主人様の物になってしまったのですね」

 

「な、なな……何考えてるんだよ。このエロエロ魔人!母様を返せ!」

 

「そうだそうだ~返せ~♪」

 

桃香様の言葉を真に受けて顔を赤くしてご主人様を叩く翆。状況が分かっていてそれに悪乗りするたんぽぽ。

 

「なにやら楽しそうなことになっておいでですな。主よ」

 

「はわわっ!ご、ご主人様が……」

 

「あわわっ!ば、馬騰さんを……」

 

「ふぇ……嘘ですよね。ご主人様……奪っただなんて……」

 

扉の前に居た者たち、ご主人様のお仲間たちが扉の前に立っていました。

 

顔を赤くする小さな二人に悲しそうな顔をする少女、そして、面白そうに笑っている少女。みな、ご主人様のお仲間のようですね。

 

ふふっ、これから楽しくなりそうですよ……あなた。(わたくし)、あなたの下へ行くのはもう少し先になりそうですわ。

 

この子たちの未来……そして、ご主人様たちが思い描く未来を見てみたくなりました。ですから、淋しいでしょうがもう少し待っていてくださいね。

 

空に目線を向けて微笑む。

 

ああ、それと。本当にご主人様に奪われてしまうかもしれないですけど。

 

それもこれもあなたがいけないのよ。(わたくし)より先に死んでしまったのですから……

 

旦那を無くし一人、馬一族を治めなければならなかった(わたくし)

 

忙しい中、新しい旦那を迎える暇も無く、ただただ時間だけが過ぎて行き、この歳まで来てしまった……もう誰にも見向きもされない歳に。

 

そして、出会ってしまった。(わたくし)を一人の女として見てくれる。最後の殿方を、それがご主人様……

 

連合軍の時に、(わたくし)の心は既にご主人様に奪われてしまっていた。そして、この方なら(わたくし)を愛して下さるっと。

 

ふふっ、次は体も奪って頂こうかしら♪

 

ご主人様がみんなに迫られている中、(わたくし)は一人、そんなことを考えていた。

 

《To be continued...》

葉月「ふへ~。とりあえずこれで逃亡編は完結ですね」

 

愛紗「ぁ……ぅ……」

 

葉月「あれ?愛紗?もう奥付は始まっていますよ。愛紗~」

 

愛紗「だ、旦那様なんか言えるかぁぁぁああああっ!」

 

葉月「うわ!い、いきなり叫ばないでくださいよ」

 

愛紗「え?あ……ここは。そうか、もう奥付か」

 

葉月「ですよ。まだ引きずってるんですか?」

 

愛紗「う、うるさい!仕方ないだろ。いきなりあんな事を言われれば!」

 

葉月「まあ、確かに。そうで(スコンッ!)ひっ!い、いきなり何するんですか愛紗!」

 

愛紗「ん?私は何もしてないぞ」

 

葉月「そんなわけないでしょ!現に私の横に靖王伝家が刺さって……靖王伝家?」

 

桃香「ふ、ふふふ……どういうことかな葉月さん」

 

葉月「と、桃香!?い、いったいどうしたのかな?そんなに怖い顔をして」

 

桃香「どうしたのかな?じゃないよ。菫さんの事だよ。言わなくてもわかってるよね」

 

葉月「い、いや~。言わなくてもわかると言われましても」

 

桃香「そっか~。それじゃ体に聞いてあげるよ……葉月さんの体に!」

 

愛紗「と、桃香様!落ち着いてください!どうしたというのですか!」

 

桃香「そっか~。愛紗ちゃんはあの時、居なかったよね。あのね、ご主人様がね菫さんにね。……口付したの」

 

愛紗「な、なんだと!?」

 

葉月「ちょっと待ったー!それ逆だから!菫が一刀にしたんだよ!どこをどう見間違いした(スコーンッ!)わひゃーーーっ!」

 

愛紗「さて、葉月よ……詳しく聞かせて貰おうか」

 

葉月「だ、だからさっきも言ったように、菫が一刀にキスをしたんであってですね?別に一刀からしたわけでは……」

 

愛紗「そんな嘘が通用するとでも?」

 

葉月「本当の事なのに!」

 

愛紗「桃香様が証言しているのだ。間違いようのない事実ではないか!」

 

葉月「いや。だから!その桃香が見間違いをですね?」

 

桃香「見間違えてないよ。ちゃんと見たんだから」

 

愛紗「桃香様はああ仰っている。申し開きはあるか?あったとしても許さんがな」

 

葉月「ひ、ひどい!な、ならこれならどうだ!次回から成都に向かう話だと思ってるでしょ!」

 

愛紗「ああ、それがどうしたというのだ?」

 

葉月「ところがどっこい!二、三話、諷陵で日常話をやろうと考えてるんですよ!」

 

桃香「それがどうかしたのかな?」

 

葉月「ま、まだわからないと!?ええい。だから、事と次第によっては一刀とのイチャイチャを書いてあげてもいいと!」

 

桃香・愛紗「っ!!」

 

葉月「はぁ、はぁ……、実際のメインは翆たちを書く予定ですけど。3話ともなれば、別のキャラを出すことも可能!ど、どうです。今ここで私をやるというのでしたら、か、書きませんよ!」

 

桃香「愛紗ちゃん!」

 

愛紗「はっ」

 

葉月「はぁ、はぁ……た、助かったぁ~」

 

桃香「それじゃ、葉月さん。楽しみにしてますね。私とご主人様の逢引き♪」

 

愛紗「と、桃香様!抜け駆けはずるいですよ!私だってご主人様と……あ、逢引き、を……」

 

桃香「えへへ♪愛紗ちゃんもご主人様と逢引きしたいんだよね♪」

 

愛紗「~~~~っ!は、はぃ……」

 

桃香「そういうことで。よろしくね葉月さん!それじゃ、愛紗ちゃんいこ♪」

 

葉月「……い、行ってしまった……まあ、助かったからいいんですけど……すみません。せっかくゲストに来てもらったのに」

 

菫「あらあら、良いではありませんか。若いっていいですわね」

 

葉月「いや。若くてもいきなり殺されるのは如何なものかと……と、とりあえず今回のゲストである菫さんです」

 

菫「どうも初めまして。菫、と申します。以後お見知りおきを」

 

葉月「さて、これでようやくレギュラーキャラとして復活を果たした菫さんですが、今のお気持ちは?」

 

菫「そうですわね……女として桃香様たちには負けたくありませんわね」

 

葉月「おっと、これは一刀をめぐる戦いに参加するとそういうことですか?」

 

菫「参加だなんて、新参者の(わたくし)がでしゃばるなんて、女は殿方の後ろで支えるのが役目ですわ」

 

葉月「なんて亭主関白な発言!」

 

菫「ですが、閨の中では……ふふふ♪」

 

葉月「あ~。あのお二人の様に搾り取るんですね。一刀……強く生きろよ」

 

菫「あらあら、搾り取るだなんて……倒れない程度にしておきますわ」

 

葉月「い、色んな意味で凄い……」

 

菫「あらあら、ふふふ♪ところで葉月さん?そろそろ終わりではないのかしら?」

 

葉月「ああ、そうですね。それではみなさん!次回は小休憩と言うことで!成都に行く前の寄り道を書こうと思います!」

 

菫「楽しみですね。でも、桃香様たちより先に閨へ向かうのは辞めておいた方がよさそうですね。葉月さんのためにも」

 

葉月「そうしていただけると助かります。ま、まあ!とりあえずは今回仲間になった菫さんたちがメインですので少しは頑張ってみます!」

 

菫「お願いいたしますわ。それではみなさん。次回、またお会いしましょう」

 

葉月「では、次回をお楽しみに!」


 
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