No.396063

謝って済む事

るーさん

泡沫の夢

2012-03-22 01:22:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1205   閲覧ユーザー数:1172

―学校 クラス

 

 

明けて翌日。ガクトが矢面に立ってクラスの大多数の男子達と喧嘩モドキを繰り広げた次の朝

 

何時ものメンバーに加えて椎名京。"仁"の武士娘を伴ってクラスをドアを潜る風間ファミリーのメンバー達は

 

「おーし!きょうはみやこに"ひみつきち"あんないしてやろうぜ!」

 

「さんせい!さんせい!みやこもきっときにいるよ~!」

 

キャップと一子を先頭にし

 

「"ひみつきち"…?」

 

「そ。と言っても…河原その物を指し示しているようなものだけどね」

 

自身の服の袖を申し訳なさそうにしつつも、絶対に離したくないと言う瞳でもって握り締める京へと

 

優しく答える祐樹。ちょこんとした小さな身体が、全身で己に庇護を求めるというのはむず痒くもあるが

 

総じて、嬉しいものである。形(なり)がこんなモノになってしまってからは香織と慧子に散々ぱら弄られ放題なのだから

 

―――こんな感じなのが…妹なのかな?

 

そんな事が頭の中を翳めて

 

―――俺には妹は居たのか?……居ない方がいいな

 

本当は居て欲しい。居れば何処かでもしかしたら出会えるかもしれない。そうすれば己の事を教えてくれるかもしれない

 

だが、それは……身内に己を心配している者が居るという結果を齎すが故に、頭を振って記憶の事のみを思案する

 

―――お婆様は、何か知っている御様子だったが……俺自身が思い出さないと意味が無いと仰って…

 

―――でも…俺は知りたい。けど、“知りたくない”

 

矛盾する感情。知りたい、己がなんなのか?立脚点が曖昧な祐樹にとって記憶が欲しいという気持ちは自然でありながらも

 

―――知れば…知れば、俺は俺で在りえなくなるような…取り返しのつかない事を…

 

不意に脳裏を過ぎった考えに没頭していこうとするも

 

「……だ、だいじょうぶ?なおえくん…」

 

縋る眼差し。祐樹の事が途轍もなく心配だと、全身で表す京の涙声一歩手前の声音に呼び覚まされ

 

「あ、うん。大丈夫。ありがとう椎名さん」

 

「…み、京って呼んで…ください」

 

嵌りこみそうな泥沼思考を引き上げてくれた京に対して感謝する。薄い笑みを浮かべる祐樹に対して

 

少々、頬を赤くした京が自身の事は名で呼んで欲しいと答える

 

「くださいは要らないよ。むしろ、いいのかい?俺みたいな奴に名前で呼ばれて?」

 

京の言い方に少し顔を顰めるも、自身の前髪を引っ張って苦笑しながらに問う。

 

真っ白い髪。アルビノような美しさを欠片も持たない。正しく、老人の白髪のようなモノしか持たない髪を持つ己自身

 

京に比べるとかなり優しい部類であるも、異非されたりからかわれたり等は日常茶飯事

 

「なおえ…君。いがい…ううん。ファミリーのみんないがい、よんでくれる人いない…」

 

祐樹の答え方に弾かれたように、摘んでいた袖を固く握り締め……背伸びをして祐樹の耳元に唇を近ずけて

 

「?!おわっ?!……そ、そうかい。ならいいんだけど」

 

触れる吐息に背筋に電流が走る。痩せぎすと言っても、其処は後の美少女

 

その面影と言うべきか。片鱗を内包する容姿と縋り……媚びるような声音は男の本能を微かに痺れさせる様な言葉で

 

―――こ、子供!相手は子供だ!しっかりしろ、俺!!

 

反応してしまった己に身悶える羽目に

 

遊んだり戯れたり等は許容範囲なれど……流石に肉体年齢が同じであれ、中身は

 

―――だ、大学程度の学力があるって事は最低でも俺は19以上の筈!れ、冷静に、冷静に!

 

テンパッた初心な青年。恋愛経験値無しと思われる思考。……実際は定かではない

 

混乱する胸中のままに京へと視線が彷徨う。視界内にて再度認識した姿

 

涙目になり、祐樹の言葉を待ち続ける健気な姿

 

言葉返してもらえなければ、今にも落ちそうになる涙を目尻に溜め込む。少女―――

 

「ああ?!?!だ、大丈夫!大丈夫!意識!意識!トンでて?!」

 

とにかく口を開かなければいけないという思いに駆られ、飛び出す言葉は意味を成さない言葉の羅列

 

「……?」

 

「小首傾げないでぇぇぇっぇぇ!!!」

 

微かな傾き。小さな、小さな、頭

 

小動物然とした仕草は"大人な子供"の脳髄を焼き切ってしまいそうな程の威力を秘めており

 

「あああああ!!!丸まった指!口元に当てて!だ、ダメだ!ダメダメダメダメダメ!!」

 

祐樹の言動に驚愕し、一瞬身体が飛び上がるように肩を震わせて……口元に丸めた拳が唇の半分を覆い隠し

 

「……だ、だいじょうぶ?」

 

「こわれちゃった。ゆうき」

 

「だな~。わんこ」

 

身悶えて、五体投地にて崩れ去る祐樹を囲うように三人が心配げな瞳で見やる中―――

 

「えと……だいじょうぶ?」

 

その細い身体。祐樹と同じく左目側を前髪で覆った気弱そうな少年が振り絞るように四人の輪へと言葉を掛けると

 

「あ!おまえ!きのうのデカイやつのこしぎんちゃく!!」

 

キャップがすかさず、一子と京を背中に隠して威嚇し出し

 

「こしぎんちゃくってなに?」

 

「………えと、きんぎょのふんだよ」

 

「きんぎょのふん?きたないってことね!!」

 

「ちがうよ!!ぼく、フンなんかじゃないよ!!」

 

素朴な一子の疑問。答える京。帰結した答えに納得を示す一子

 

結果―――盛大に突っ込むしかないモロ。師岡卓也の構図が出来上がり

 

「やいやいやいやい!!きのうのリベンジってか!うけてたってやるぜ!」

 

意気揚々とモロへと言葉を飛ばす。己の仲間は必ず護り通すと、燦然と前へと踏み出る

 

「ちが、ちがうって!!その……」

 

キャップの剣幕に慌てふためき、両手を振って敵意が無いことを示し

 

「き、きのう!」

 

「きのうがどうしたってよ」

 

「むー…なによー」

 

「………」

 

一言言い切り、視線を彷徨わせるモロ。胡散臭そうにモロへと頭へと両手をやりながらに視線を向けるキャップ

 

頬を膨らませて威嚇する一子。祐樹へと身を寄せて、猜疑心が満ちる瞳で能面のままに見やる京

 

三者三様の面持ちに、口から呻きが一度洩れて―――背後へと少し振り返る

 

其処に立つ。同学年の中では頭一つ抜け出た身長を持つ

 

「が、ガクト…」

 

「………おう」

 

島津岳人。前日の喧嘩でダメージを負うことはしていないはずなのに

 

「なんでオメェ、ボコボコなんだ?」

 

「うっせい!!か、かあちゃんにおこられちまったんだよ!!」

 

青タン。切り傷。酷いという状態ではなくも、見た目には派手についている傷の数々

 

二人対クラスの男子大半という構図の喧嘩なれば…誰かが気づくのは必然。特に残った女子生徒から先生方に連絡がいくものであるし

 

それでなくても―――迸った"負"の波動は幼い百代ですら感知できるとなれば……

 

「……せんせいからガクトのおかあさんとか、ほかの男子のおかあさんにもれんらくがあったらしくて…」

 

事態の掌握。逃げ出した数十名に及ぶ男の子達が一斉に裏庭から泣きながらに駆け出してくれば

 

どんな先生であろうとも訝しがって話を聞こうとするに違いなく―――事態を掌握した梅子から本来の担任経由で事の起こりが保護者へと伝わり

 

「……めちゃくちゃ、かあちゃんにおこられた。あやまってくるまで、おまえはうちの子じゃないっていわれちまった…」

 

ガタイのいい自分達より数段身長が上の少年が、肩を落として本気で涙を浮かべる姿は……昨日の生意気な少年の面影など消し飛ばしてしまう

 

"川神の鬼女"とまで言われた肝っ玉が凄い母親。自身の息子がそんな卑屈で卑怯な行いをしていると知れば、どうなるか?

 

答えは目前のガクトの姿が物語っており

 

 

「お母さんに許してもらいたいから、謝るって言うのか?」

 

 

ガクトの言葉に情けない姿を晒していたとは思えない。真っ直ぐに問いかける言葉

 

毅然とした態度にて立ち上がった姿のままに見返す祐樹に

 

「うっ……」

 

「なぜ、詰まる?まさか、そうだとでも?」

 

一瞬詰まってしまったガクトを見逃すはずもなく、更に追い詰めるように眼差しを強くしていく祐樹

 

教室内の雰囲気が一気に、暗雲が掛かっていく。思い思いに騒いでいた他の子供達も次第に静まっていく

 

「どうなんだ?」

 

「………」

 

「黙っていても、何にもならんぞ」

 

「………ち、ちがう!」

 

言葉が詰まり、喉まで出掛かっている言葉が何とか口から飛び出るも

 

「………何が違う?何がどう違うんだ?言ってみろ」

 

先程までの勢いは落ちる。一息分合間を置く事によって纏っていた怒気を減らして問いかける

 

「お、おれさまが!おれさまが……わるぐちいったから」

 

「……だから?」

 

「わ、わるぐちいったから……」

 

「…だから、それがどうしたと?何故、悪口を言って其処までお母さんに怒られたか。分っているのか?」

 

剣幕を変えることは無い。されど、相対する者は少年。小学校低学年だという事を考慮しつつに

 

言葉の誘導を出してやる。この年齢で明確な答えを自分自身でまだ出す事は出来ないという事は重々承知しているのだから

 

ヒントぐらいは出してやるべきだと―――

 

「!……そ、ソレは……おれさまが…」

 

「俺様が?」

 

「お、おれさまが!い、いじめてたから!みんなでよってたかって、しいなを……!」

 

イジメ。本人とて分っている。良くない事は、だが子供というモノは純粋な部分を持ちながらに残酷な面も持っているものだ

 

自らが痛い目を見ないが限り、同じような目に遭わない限り―――真に理解する事は無い

 

人は愚かしくも…先人の戒めを、苦言を飲み込む事は出来ない。だからこそ―――今、目前で無様なまでに泣き出したガクトを

 

「分ったならいい。悪い事して、怒られて……泣く。自分自身で―――」

 

肩を叩く。目元を腕で押さえ、鼻声と嗚咽を漏らすガクトに対して優しげな声音で

 

「悪い事だと分っていたら、自然と涙が出るもの……」

 

「ひっ、く!ひっ…すまねぇ!すまねぇよぉぉぉ!!」

 

「俺に謝っても意味無いよ」

 

そう言って祐樹は己の後ろへと隠れてしまっている京をそっと前に出す

 

肩に手を置き、しきりに祐樹へと視線を合わそうとする京へとアイコンタクトのように片目を瞑って

 

「すまねぇ!しいな!」

 

「…………………もう、いいよ」

 

グシャグシャなガクトの姿。長い葛藤の末に、京はポツリと言葉を漏らして

 

「もう、いい……!」

 

祐樹へと抱きつく。涙を零しながら、搾り出すように告げて

 

「ぼくもごめん!!みんながやってるからって……!とめられなくて…!」

 

ガクトの謝罪を皮切りにモロが頭を下げる

 

居た堪れない空気が蔓延し出し…次第と京に対して後ろめたい事をしていた者達が次々と頭を下げ出し

 

「へ…!せいぎはかつってな!わるいことしたら、ばちがあたるのはあたりまえだぜ!」

 

花と上唇の間を人差し指でゴシゴシと撫でるキャップと

 

「そうよ!そうよ!」

 

キャップに追従しながらも、祐樹の胸元に縋りつく京とそんな京を優しく見つめ髪を梳く姿に羨ましげな視線を向ける一子

 

 

 

 

 

 

「……な、何があったんだ?お前達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―多馬川 土手沿い

 

 

「すまねぇ……」「ごめんなさい……」

 

「だから、もういいって。ガクトにモロ。それに俺に謝られたって仕方ないぞ?」

 

紆余居説を経て、放課後となり下校時の何時ものファミリーメンバーに

 

昨日付けで参入する事となった京が、祐樹の腕にしがみついてガクト達へとおっかなびっくりな様子で窺う姿と

 

教室での一悶着の後、キャップの一声によって仲間へと誘われたガクトとモロが申し訳ないという姿を

 

玄関口からこっち、ずっと取りっ放し状態が続いており―――

 

「京も今は、まだ色々と納得できない部分もあると思うが……あんまし、そんなんだと打ち解けてくれないぞ?」

 

「「うっ…」」

 

「そうだ!そうだ!おれのなかまになったんだったら、そんなしんきくさいのはなしだぞ!!」

 

祐樹がいい加減に、ガクト達の態度に呆れ始め…キャップがソレに同意する

 

二人の様子に心底反省している色合いは懇切丁寧に伝わってきていると確信できるからこそ

 

いつまでも引きづったままは、逆にギクシャクとする原因になりかねなく

 

「まぁ……俺が代弁するべきじゃないんだが……」

 

「……ううん。なおえくんのいうとおり……あんまし、そうだとおもいだす…」

 

不貞腐れたようでいて、怯えがまだ混ざっている眼差しで二人を微かに見やる京

 

祐樹の肩口からほんの少しだけ顔を出して―――

 

「「うぐっ…」」

 

「モロもガクトも!ウジウジしっぱなしだと、みやこがいたたまれないってさ!」

 

「おお、ワン子。居た堪れないって意味知ってるんだな~」

 

勉強していると感心して頭を撫でてやるのも束の間

 

「ううん。いたたまれないってなぁに~?」

 

気持ち良さそうに小さな犬耳をピコリと立たせて、甘えた声音を出す…

 

「いみしらないでつかってたの?!」

 

「……ダメだこりゃ」

 

モロの突っ込みと祐樹が項垂れる姿に、頭に大量の?マークを飛ばす

 

やっぱり、子犬は子犬という事を体現する一子。だが、一子の言葉が場の雰囲気を照らし出し始めて

 

「よし!じゃ、もういちど!きのう、きょうとおれのなかまがかくだんとふえた!」

 

仲間達の一歩先へと飛び出し、全員の前へと立つキャップ。人差し指を天へと向けて

 

「みやこ!」「……うん」

 

「ガクト」「お、おう!おれさま、おまえらのダチになれてよかったぜ!」

 

「モロ」「うん。ぼくら、きみたちがあそんでるとこたのしそうだって…おもってたからうれしいよ」

 

「よーし!おまえらきょうから、おれのかぞく!かざまふぁみ―――」

 

 

 

 

 

「ぼ、ぼくも!なかまにいれて!!!」

 

 

 

 

不意に言葉が飛び出てきた

 

薄汚れた服。春の始まりとしては分厚すぎるパーカー

 

泥だらけのズボン。サイズもあってなく地面に擦ってしまったが故にさらに汚れが強調され

 

ボロボロのスニーカー。所々に穴が開いてしまっているソレをパタパタと鳴らしながらに

 

 

 

「うん?……おまえ、だれだ?」

 

訝しげなキャップの表情に対して

 

 

 

「ぼ、ぼく!こゆき!たかむら、こゆき!!」

 

勇気を振り絞って叫ぶように答える

 

カタカタと肩が揺れ、緊張した面持ちのままにありったけの思いを込めて

 

 

 

白子の少女が懇願する

 


 
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