No.396062

拳で語り合う

るーさん

泡沫の夢

2012-03-22 01:21:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1054   閲覧ユーザー数:1028

―学校 裏庭

 

 

 

「…コレが定番風景ってやつかな…」

 

ボソッと祐樹が洩らした言葉は周囲の者達の耳へと入らず

 

キャップと祐樹を囲むようにクラスの男子の半分と島津岳人がそこに居た

 

「おうおう…おれさま。あいてににげずにきたな~~…!」

 

指の骨をパキパキと鳴らせば格好がつくと思っているのだろう

 

―――いや、拳を握りこんで鳴るなら…様になるが、根元を一本一本鳴らしてるのは格好がつかないんじゃないか…?

 

正直な話まったく恐くなど思えない

 

子供で拳を握りこんで鳴らせる者等、居るのであろうか?居たとしても、ごく少数。それこそ、川神百代等なら平然と出来るだろうが

 

同い年の中では平均以上でも……大人と比べては非力

 

たとえ、本編のようなガタイに成長したとしても…世界相手では比べることすら出来ない

 

まして―――

 

―――ナリは同じだけど……なぁ…

 

頭を掻く。嘆息が洩れ出るのは致し方ない。子供相手に少々、大人気なくも怒りを表してしまったのを恥じる気持ちもあるが

 

引き締める。目前の少年の過ち。不可解なほどに己の心を奮い立たせる光景

 

―――女の子苛めて、平然としているなんて無理だよ。俺には

 

ギュと絞られた握り拳を見つめて自問する中

 

「おい…ゆうき。あいつら、そろそろかかってきそうだぜ?」

 

背中合わせにして立つキャップがウズウズとしたような声音で祐樹へと囁く

 

「キャップ。無理だけはするな…だが」

 

周囲を油断なく見回しながら祐樹は背中合わせにするキャップに警告と

 

「わかってるって!ゆうき!こいつらに、おれらにてをだしらいたいめにあうっておしえてやらねえと!!」

 

祐樹が言わんとすること理解しているキャップ

 

―――そうだ。ここで力を示さなければ、椎名さんも俺達もこれから…うざったいちょっかいを受け続けるハメになる…!

 

すり足で地面を鳴らしながら祐樹は思う。子供は調子に乗れば……際限なく増長する

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

ガクトの雄叫びからのラリアットを開始合図にして

 

「いくぜ!ゆうき!!」

 

「ああ!キャップ!後ろは任せろ!!」

 

クラスの男子VS祐樹とキャップの戦いが幕を開けた

 

―――あたるわけが無い

 

全速力でガクトは突っ込んできているつもりだろうが、祐樹にとっては動いてるのかと問いたくなる程の遅さ

 

身体が覚えている。幾千と戦い続けた己自身―――幾万の戦いを乗り越えてきた"|人形達の宴(バルシェムシリーズ)"の戦い

 

血が覚えている。肉が覚えている。――――魂に刻み込まれた想いが覚えている

 

絢爛舞踏とは何かを、力が示すモノとは何かを―――

 

「キャップキック!!イェーイ!6のけいけんちをゲット~!」

 

ガクトの先制を回避した祐樹の耳にそんなキャップの声が届く

 

思い切り、腹を蹴飛ばして相手を吹っ飛ばして決めポーズを取るキャップの背後に迫る奴が居るも

 

「ったく!世話が焼けるよ!キャップは!」

 

かわした体勢から勢いよく体を振って、キャップの背後から殴りかかろうとする少年を迎撃し

 

「へっへ~~ん!ゆうきがうごくのはわかってっからな!」

 

決めポーズそのままに笑顔を浮べながらキャップは呆気らかんと言い切る

 

二人の体制は最初と同じ背中合わせに対峙する形へ

 

「こんのぉぉぉ!!たたきつぶすぜ!おれさまぁぁ!」

 

その姿に激化したガクトの雄叫びを合図に戦い……子供の喧嘩が本格的に始まる

 

「キャップ~~ゆうき~~!!頑張れ~~!!」

 

その二人の様子を力一杯声を上げて応援する一子。巻き添えにならないようにかなり離れた位置から

 

隣には

 

「あぅ………ど、どうしてかばってくれるの…?」

 

己のせいで二人―――祐樹とキャップが絡まれたというのに、喧嘩売って…京の眼には死闘と映るほど過酷な状況

 

洩れでる言葉は当然で、その表情は信じられないという顔をしていた

 

「えっと…しいなさん…ううん、みやこってよぶね!わたしのことはかずこかワン子って呼んで!」

 

その問いに答える為に一子は屈託の無い笑顔を浮べなら京へと声を掛け

 

「え…あ……う…」

 

面食らった表情を浮べる京

 

「かずこ。おかもとかずこだよ」

 

なおも、人懐っこい笑顔を浮べる一子

 

「みやこ……しいなみやこ。……………………………よろしくね!かずこ!」

 

ポツリポツリと京は己の名を告げた後――――――長い沈黙の後、顔クシャクシャにして涙を流しながらも京は笑顔で一子の名を呼び

 

「うん!!」

 

一子は一子らしい。誰をも和ませ、安らかな気持ちにさせる笑顔を浮べる

 

 

そんな二人を――――無粋な者が近づく

 

 

―――所詮は子供。連携も戦術もクソもない

 

いかに徒党を組もうが、相手は子供。袋叩きにしようと一斉に動いたりするぐらいの知恵はあろうが

 

本格的な戦術を駆使することができるわけはない

 

「や~っと…!はんぶんかよ~~」

 

キャップは満身創痍とは言わないまでも疲れで体の動きに鈍りが出始めている

 

言葉もそれに応じたモノが飛び出してくるが……ガキ大将まんまの笑みは収まることを知らない

 

祐樹はキズ一つなく、息を荒げることもない

 

キャップが突っ込む先を逐一、フォローし確実に一人一人沈めれるように連携して

 

今や―――

 

「くっそぉぉ…」

 

こちらも大振りの攻撃ばかり全力で行ったゆえに自滅に近い疲れを洩らすガクト

 

周りで立っている者はもはや、二人だけ

 

「まだ――――やるのか?」

 

祐樹の問いかけが発せられ

 

「やるにきまってんだろ!!椎名菌やろうにまける…おれさまじゃねえ!」

 

なおも、祐樹の怒りに触れる言葉を吐くガクト

 

「――――」

 

もはや、聞く耳を持つことをしないと決めた祐樹

 

「ゆうき!いこうぜ!」

 

少しずつ息を整えているキャップガクトの発言と祐樹の表情を感じ取り、少しだけ表情を引き締めて声を上げた

 

だが―――その時

 

 

「さはし!かざま!とまりやがれ!!」

 

何時の間にやら……一人の少年が

 

「わぁ~~ん!ゆうき~~キャップ~~……」

 

一子を人質にしてその首へと腕をかけていた

 

「わんこ!!」「一子!!!」

 

キャップと祐樹のハモッた呼び声

 

「でかしたふくま!!しっかり、おさえてろ!!おれさまがこいつらしずめるまで!」

 

ガクトはその機転に歓喜して犬歯を剥き出しにして祐樹達へと歪んだ笑みを向ける

 

―――ちっ……一子達までにも手を出すか!!!

 

相対するガクトを視界の端に捕らえながら祐樹は一子を捕まえた男を視界の中に入れ

 

「この……!」

 

手に入れた友達が聞きに晒されている。京は己を奮い立たせて

 

幼いながらも少しずつ、初歩の初歩だが……椎名流弓術に鍛えた力を振るおうとする京へと

 

少年は――――

 

「くんな!ばいきん!!しんじまうだろうが!!」

 

大声で喚き立て

 

「………!!」

 

京はその言葉に硬直してしまい

 

「おまえなんか!がっこうくんなよ!なんで、いきてんだよ!」

 

子供は残酷だ。遊び感覚で蟻を踏み潰したり、蝶の羽を捥いだり……命を容易く殺すことに平然とかかれる

 

だから―――人の心を平気で傷つける言葉を吐ける

 

追い詰められていたのであろう。皆が同調するから、祐樹とキャップ…たった二人の少年が粋がってると見て取れた少年にとって

 

むかつくから、皆がそう言ってるから、状況に流されるままに勝ち馬に乗ろうとしたゆえに

 

この状況を理不尽に思ってしまう。だから――――"青年"の逆鱗に触れた

 

 

「一子と椎名さんから離れろ」

 

「なにいっ――――」

 

祐樹の問いかけに叫びだそうとした少年は――――祐樹と視線を交差させた瞬間……倒れる

 

視線から叩きつけられたのだ。内に眠らせている"負"の気配。死なない程度に圧縮して

 

浴びせられた少年にしかわからない程に研ぎ澄まされたモノを

 

「死んでいい命なんかない」

 

「!!!!」

 

続けられた言葉は京の顔を跳ね上げさせた

 

「おい?!ふくま?!」

 

突然、倒れたふくまという少年へとガクトは声を掛けるも少年はピクリともせず

 

「島津」

 

「なん――――ひっ!」

 

祐樹の能面とした声音にガクトはイラただしげに返すも、眼光に怯えて息を洩らしてしまう

 

「俺とキャップに手を出すのは良い。男同士だ。拳でケリをつけるのはありだろう」

 

周りに居た少年達はガクトから聞いたことのない怯えの声を聞いた瞬間に逃げ出しており

 

祐樹が近ずいてくるのに反応して…ガクトは腰を抜かして尻餅つきながら後退する

 

「だが――――女の子に手を出すというのなら」

 

後ずさる。後ずさらなければ……己がどうなるかわからない程の恐怖に駆られるガクト

 

「俺の大事な人達に手を出すというならば……一切容赦はしない。わかったな?」

 

祐樹はそう告げて、ガクトへと振るとガクガクと首を振ったガクトは逃げ出す

 

この場に祐樹達……風間ファミリーと京のみとなり

 

「うへ~~……ゆうきおこらすとおっかねえな~」

 

キャップが右手の指、中指三本を第一関節まで口で挟みながら言い

 

「まっ!でも、ゆうきはおれをおこらないからかんけいないけどな!」

 

あっけらかんと口に挟んでいた指を離して言い放つ

 

「……………おいおい。キャップ。ダメなことしたら俺は怒るぞ?」―――キャップ……ありがとう

 

雰囲気を和らげて、呆れたように祐樹は言い返す。心中はキャップへと感謝を述べる

 

果たして、察して発言したのであろうか。それとも素でそう思ったのかは………キャップの性格が代弁してくれるだろう

 

「うわぁ~~ん!ゆうき!こわかったよ~~!!」

 

一子が涙を零しながら祐樹の胸元へと飛び込んでき

 

「あ~…よしよし…。ワン子、頑張ったな」

 

涙目にはなっていたものの、常とは違い泣き出さなかった一子を褒めて

 

祐樹は流れ出る涙と鼻水を

 

「ほれ。ワン子ちーん。」「ちーん!」

 

取り出したティッシュで拭ってやる。小さな犬耳を出しながら祐樹に言われるがままにする一子…いとかわゆし

 

 

そして、そんな祐樹とキャップと一子のやりとりを見ていた京へと

 

「椎名さん。ありがとう。一子を助けようとしてくれて」

 

やんわりと……優しい、木漏れ日のような笑顔を浮べて祐樹は京へと礼を言う

 

「う……んん。わたし、とめられなかった…」

 

祐樹の礼に対して京は顔伏せながら答える

 

「いや…助けてくれようとしたことに礼を言いたいんだ」

 

「………おれいをいうのはわたし。なおえくんが」

 

紡ごうとした言葉は祐樹の表情を伺うように上目遣いで見ていた京の視界に入った

 

唇の上に人差し指を乗せたジェスチャーで途切れた

 

「お礼を言うことじゃないよ。俺が嫌だったから。俺の我侭でここまで大事になったしね…」

 

罰の悪そうに祐樹が己の頭を掻く姿に京は弾かれたように顔上げた

 

「ちがうよ!わたしは…わたしはうれしかった…!」

 

涙をボロボロと流しながら京は言い募る

 

「いきてて……いきてていいって!なおえくんが―――」

 

叫びだそうとした言葉は今度は……祐樹が京を抱きしめたゆえに途切れ

 

ただ―――祐樹は優しく…そのやせ細った身体を包み込み。今は艶がない…青みが掛かった紫の髪を優しく梳く

 

 

――――青空に溶け込んでいく。か細いが………心の全てで流す涙と慟哭は

 

 

 

 

―四年生のクラス

 

 

「!!!!!いまのは?!?!」

 

教室で帰り支度をしていた百代の氣の琴線に微かに、一瞬のみ触れた気配

 

「爺でもない。ルー先生でもない…釈迦堂さんでもない」

 

真剣な表情を浮べているも…その中に含まれる感情は喜び

 

―――学校の中からってことは……同い年かもしれない!

 

その莫大でありながら…微かにして一瞬のみしか己に感知させないほどの力を持つ者ならば

 

―――あたしと…あたしと同じ奴かも!!

 

本来の歴史でなってしまった…飢えた狼のようになってしまう己の未来の姿の片鱗をかもし出しながら

 

教室を飛び出すも

 

「こら!川神!廊下を走るな!!」

 

梅子の一喝と共に―――百代にのみ行使を許された小島流鞭術を行使して百代を足止めする

 

「!!!!くっ、この!」

 

川神院の修行僧にも勝ってしまう百代だが、今だ小さなその身体と少ない経験では

 

「まだ、お前には抜けれんよ。反省する気はないようだな…川神」

 

梅子の足止めするような絡め手を突破することは敵わない。……何時まで通用するかは甚だ疑問であるが

 

「くっそ~~~!!!」

 

百代は腹の底から―――――悔しさに濡れた声音を上げた

 

 

 

 

 

愛に飢えていた

 

椎名京という少女は愛に飢えていた

 

家庭環境は最悪。娼婦と呼ばれる母親とそんな母親の血を引くというだけで愛を注いでくれない父親

 

学校にもその影響は及び…。本来の歴史では自殺を促す会までもが作られるほどになる程……辛い人生を歩むはずの

 

"仁"を持つ武士娘

 

しかし―――この世界では……早くも出会う。大人な子供と……"記憶を無くした"青年と

 

異なる"物語"の中で、未来を理不尽に刈り取られていく少女達の為に戦い始めた青年―――幸せな結末を求める青年と

 

「へっ!これでいっけんらくちゃくぅ~!!さらに!なかまひとりゲットぉ!」

 

「わぁ~い!!」

 

キャップと一子が喝采を上げ、祐樹は優しく京の背を撫で、京は祐樹の胸元にしがみつく

 

 

 

ここに椎名京――――"仁"を持つ武士娘がファミリーへと加入した

 

 

 


 
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