No.392124

荒鷲の誕生

rahotuさん

第十話投稿

2012-03-15 22:12:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3005   閲覧ユーザー数:2947

ゴップ首相が篠ノ之束に挑戦状を叩きつけてから二年、

 

ゴップ首相は各国を説得し、国連の名の下に執拗に篠ノ之束を追っていた。

 

幾つかの潜伏先と思わしき住居を発見するも、国家間の問題で後手後手に回り尻尾をつかめずにいた。

 

その間、ゴップ首相の宣言で多少落ち着いたかに見えた各国も再びISの開発を活発化させる。

 

これに対して危機感を覚えたゴップ首相はある提案を国連で発表する....、

 

 

 

その半年前.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夏の太陽が照らすオーストラリア大陸のトリントンに一人の男がいた。

 

男は自身の執務室で書類を整理していると、突然部屋の電話が鳴り受話器を手に取った彼は、短く返答すると、

 

受話器を置き、暫く何か考えるそぶりを見せた後に、そっと机の引き出しをあけ、封筒に入った紙を手に取りほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は、電話があった一ヵ月後に政府の者達に連れられ首都ダーウィンにある、とあるホテルの一室にいた。

 

「やあ、待っていたよ。」

 

いま、男の目の前にこの国の最高権力者がいる。

 

五十を越え、若干太鼓になった腹をしながらも、スーツの上からでも判る肉の引き締まりは、老いを感じさせるどころか、逆に年齢相応の貫禄と威厳とをこの男に持たせ、若干白髪の混じった髪も艶があり、一国の指導者として今が脂の乗り切った時期だと感じさせる。

 

手を差し出し、微笑む彼は、最高権力者としての威厳と畏怖と尊敬とを一身に受けるも、その顔には万人を包み込むような包容力があり、自然とこちらもリラックスして彼の前で何もかもさらけ出してしまうのではないかと思われる。

 

しかし、握る手から伝わってくる男の熱と微笑む瞳の奥に、こちらを射抜く光を認めたとき、この男が決して権力で此処まで続けていられたのではないと悟った。

 

「こちらこそ光栄です。ゴップ首相閣下。」

 

互いに握手したまま挨拶をし、互いに部屋の中のソファーに向かい合うように座り、他愛無い会話をし、紅茶が運ばれしばしその香りが部屋に充満する中、ティータイムを楽しんだ。

 

そうして、漸く男は本題を切り出した。

 

「で、首相閣下は何故に一介の中将でしかない私を、こんな所にお呼びになったのです。まさか一緒に紅茶を飲む為ではないでしょう。」

 

ゴップは男の言葉に満足そうに笑みを浮かべ、

 

「この部屋はね、この国の重要な決定をする際、歴代の首相が泊まった事でちょっとした有名な所なんだよ。だから、ここは私が君の言う一介の中将とお茶をしても、なにも問題はないよ。」

 

どうやら盗聴の危険はないらしい、その雰囲気を態度で察知したのか、ゴップ首相はまたまた嬉しそうな笑みを浮かべ、カップに口を付けた。

 

「さて、如何して君が此処に呼ばれたかだね。まあ、私のほうでも君のことは調べさせてもらったよ、中々に優秀じゃあないか。このままいけばじき大将に昇進間違い無しだ。」

 

「ご冗談を、私目など唯の基地司令にしか過ぎません。」

 

「君のその慎重なところも、私は特筆に価すると思うよ、そうだろう、ジャミトフ・ハイマン君。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

暫く互いに無言でいたが、ついにジャミトフの方から切り出すことにした。

 

「閣下、私目が思うに、閣下が私を呼んだのは、来月連邦議会に提出する新部隊設立の法案についてではないのですか。」

 

探るような目つきでジャミトフはゴップ首相を見る。

 

「ふふふ、君は本当に話が早くていいね。その事もあるが、まずはこれを見てくれ。」

 

ゴップ首相は、『最高機密』とスタンプの押された書類をテーブルに置いた。

 

目でジャミトフに読むよう伝えたゴップ首相に、書類に目を通し始めたジャミトフはある文章に釘付けになる。

 

『連邦軍に縛られぬ大統領直轄の特別外注部隊の設立』

 

他にも、

 

『国内外を問わず展開するだけの装備と権限』

 

『ISとの戦闘を想定した装備』

 

『即戦力を旨とした強兵の徴用育成』

 

......etc

 

此処最近とある噂が囁かれていた。

 

ゴップ首相が不甲斐ない軍部に苛立ち、独自の部隊を設立させると。

 

その部隊はゴップ首相指揮の元、世界中を駆け巡り篠ノ之束に対抗する為らしい、とか、ついにゴップ首相が地球統一の前準備に出たとか、単なる噂話だとか、様々な話を耳にした。

 

が、目の前の書類は、噂が本当であるということの、動かぬ証拠であった。

 

「.......これを私に見せてどうしろというのです、ゴップ首相。」

 

「なに、簡単なことだ。君は今以上に権力が欲しいのだろう、そしてISに対して後手に回っている軍部に嫌気が差している。だから私は、君にこの部隊の指揮官を勤めて欲しいのだよ。」

 

「それはそれは、またとんでもないご冗談を。私目には荷が重過ぎます。」

 

と、笑って誤魔化そうとするも、ゴップ首相はクスリッとも笑わず話を進める。

 

「必要な事項は全てそれに明記してある。何かあれば私に直接言いに来てくれ。」

 

........なるほど、ゴップ首相は私を試しているらしい。

 

「なるほど、私には逃げ道はないのですね。....判りました、微力ながら閣下の為にお力をお貸しします。ですが、最後に二つほど質問を宜しいでしょうか。」

 

立ち上がって敬礼した私は、姿勢を但しゴップ首相の話に乗ることにした。どのみち、国家機密を見てしまった以上、話を受ける以外に此処から無事出られる保証などない。

 

「いいだろう。で、何が聞きたい?」

 

相変わらず、掴めない笑みをしているが、やはりこのお方には敵わんな。

 

「何故私を選んだのです。」

 

一番はこれだ、一体何を思って私を選んだのか。

 

「まあ、一つはさっき言ったようにその慎重さ、頭の回転の速さと確かな実績を上げている点だな。それに君は政治家とも上手くやっているじゃないか、今度の部隊では何よりもその交渉力がモノを言うからね。あと強いて言うならば....カンだな。」

 

最後に思わぬ答えを聞いた私は、思わず聞き返してしまった。

 

「カン.....ですか。」

 

「ああ、カンだ、どうもずっと前から頭痛が激しいかったのだが、それが納まってからは何だか頭がスッキリとしてよく働くのだよ。」

 

「では最後の一つです。この書類によりますと『ISに対抗出来る装備』とありますがこれは一体何を指しているのでしょう。ISにはISですが、反ISで知られるゴップ首相がまさかそんなことは考えますまい。」

 

「ふふ~ん、折角だ着いてきたまえ、君に見せたいものがある。」

 

私はゴップ首相と共に部屋を後に、ホテルの裏口に止まる車に乗り込みある場所を目指し走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓の外の見えないリムジンに乗り込んでからどの位経っただろう。

 

今だ目的地につかない私は、じっと目の前に座るゴップ首相を見ていた。

 

と、走る車のスピードが緩やかになり、やがて完全に停止するとドアのロックが解除され、私とゴップ首相は車の外に降り立った。

 

降りた場所は暗く、車のヘッドライトの光以外何も見えなかった、と、照明が何処からともなくつき、目の前のものを照らした。

 

そこには、全身を白塗りの装甲が覆う、一体の巨人が立っていた。

 

唖然とする私の隣に立ったゴップ首相は、

 

「これを見せるのは私が特別に許可した者のみだ。名をMS(モビルスーツ)全長18m、装甲と動力は教えられんが、今後これが世界をリードしていく事となるだろう。」

 

私はゴップ首相の方を向いて、

 

「首相閣下、貴方は何処まで行かれるのですか。」

 

「なに、人には可能性がある。私は、それを見てみたいだけさ。」

 

もう一度振り返って巨人を見た私は、腹のそこから沸々と湧く、マグマのような熱を感じた。

 

その見るからに圧倒的な存在感と、パワーに、私は例え様もなく惹きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴップ首相、連邦議会に新法案を提出、賛成多数で可決される。ジャミトフ・ハイマンハその二週間前に除隊、政府特別顧問として姿を見せている。

 

ゴップ首相、国連で「ISテロを鎮圧する特別部隊」の設立表明、二年間の捜査の経験から、独自裁量権のある部隊の設立を強く訴え、「IS委員会」が指揮権を持つということで可決される。

 

対ISテロ組織部隊の総帥に元地球連邦軍ジャミトフ・ハイマンが大将に昇進して就任、部隊の運用資金は「IS委員会」が提供するも、会計や予算運営などは極秘とされ、部隊のメンバーは地球連邦軍から選ばれ、装備の九十パーセントをアナハイム・エレクトロニクス社が供給していた。

 

ジャミトフ・ハイマン大将、国連議事堂で対ISテロ部隊「ティターンズ」の結成を宣言。

 

以後、国連に変わりISテロ事件の調査及び鎮圧を開始する。

 

 

 

 

 


 
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