No.392058

ゴップの帰還

rahotuさん

第九話投稿

2012-03-15 20:58:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3652   閲覧ユーザー数:3578

........知らない天井だ........。

 

.................................

 

.................................

 

.................................

 

......あれ?フラグ踏んだ?

 

 

 

 

薄っすらと目を開き、真っ白な天井をボンヤリと眺めながらゴップ首相は思った。

 

......死に底なったか.....。

 

そう考えていたら、周りがが慌しくなり、

 

「おおおお、奇跡だ!!ゴップ首相、わかりますか?お加減のほうはいかかですか?」

 

見覚えのある顔が、ゴップ首相の顔を覗き込み、心配そうな表情をしていた。

 

五十を越えた男の困り顔は、なんだか滑稽な感じがして、ゴップは逆に急速に現実えと帰還する。

 

「ああ、大分いいぞ。」

 

「それは良いことです。いま主治医を呼んできますので、暫くお待ち下さい。」

 

男は、ベッドを離れ、何事か傍に控えていた側近に、医者を呼ぶようにと伝えていた。

 

「.......。」

 

やがて、主治医が来て、ゴップ首相の容態を簡単に診察したが、結果は良好。

 

医者は、

 

「こんなこと奇跡としか言いようがありません。よく意識が回復しました。」

 

と、ゴップの驚異的な生命力に、感嘆の声を上げる。

 

「いや、これも皆、連邦の世界を先駆ける医療技術と君の腕のおかげだよ。皆にも心配をかけたな.....で、状況はどうなっている?」

 

柔らかい包み込むような笑みを浮かべたゴップ首相は、主治医が部屋を後にすると、途端に厳しい表情に戻り状況を側近に問いただした。

 

「はい、ゴップ首相が眠ってから一週間ほど経っていますが、現在各国は第二のテロを恐れ声高に反ISを叫ぶ動きはありません。逆に、ISを防衛力の強化という名目で開発資金を増額し、今後益々開発競争が激化するでしょう。」

 

ゴップは現状に渋面を浮かべるが、直にいつもの表情に戻り、止める側近達を押し退けて連邦議会議事堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーストラリア、ダーウィン。

 

世界最大の勢力と権力を持つこの国の心臓部である地球連邦国会議事堂では、現在纏めるべき首長を欠いたまま、議論が紛糾していた。

 

「......だから、今後このような事が起きない為にもISの武装化を!!」

 

若い議員が、椅子から乗り出して、叫びながら自身の主張をいう。

 

「我国の方針を今更転換するというのか!!そんなことをしてみろ。連邦がテロリストに膝を屈したと思われるではないか!!」

 

中年の議員が、こちらも対面を忘れ去って、激しい口調で反論を述べ、こんなやり取りが国会中の彼方此方で行われている。

 

中には、気に入らないからという理由で隣同士殴りあうものや、引きずりおろそうとするものなど、乱闘騒ぎ一歩手前の状態だ。

 

本来ならば、開かれた政府をアピールする為にテレビ中継されるところを、この乱痴気騒ぎの中、”自粛”せざる終えなかった。

 

「そんなことよりも、今回の責任の一端には軍部にもある。これについては何か釈明はないのか。」

 

比較的マトモな質問も同時に行われているあたり、この国の底力の恐ろしさが見える。

 

「それについては弁解の余地もありません。今回の失態は軍部のほうにも責任があります。事件発生ご軍のコンピューターを全て調査したところ、僅かな痕跡ながら「白騎士事件」の際、ミサイルをハッキングした同じ手口が使われていました。残念ながら追跡調査しましたところ、もぬけの殻の家屋が発見されただけで遺留品も何も残されてはいませんでした。」

 

壇上に上がった、参謀本部議長は頭を垂れ謝罪し軍に全面的な非があることを認め、更なる怒号が上がる。

 

そんな荒れ狂う並みのような議事堂に、いい加減疲れてきたところに、突然議事堂前の硬く閉ざされた正門が開け放たれる。

 

突然の事態に呆気にとられた議員らは、議長席まで続く長い紅い絨毯を踏締める男の姿に、最初怪訝な顔を浮かべ、次にその横顔を見て言葉を失った。

 

そこには、本来ここにはいないはずのゴップ首相の姿があった。

 

テロにより意識不明の重態と囁かれていたゴップ首相は、まるで負傷など感じさせぬ歩みで、真っ直ぐ議長席まで歩いていく。

 

次いで起こったのは割れんばかりの歓声であった。

 

この国の偉大な指導者の帰還に、議事堂の彼方此方で拍手が上がり、その歓声に答えるように手を上げて壇上に上がったゴップ首相は、まず手で声を沈め、ゆっくりとした口調で語り始めた。

 

「此処にいる議員の皆さん、並びにこの中継を見ているであろう全国民及び世界の人々に告げます。私ゴップは無事回復しこの場に再び戻ってこられたのを光栄に思います。これも一重に、関係者の努力と意思とがこの国に活力を与え、私を此処に暖かく迎える事が出来たのも全て皆様のお力あってのことです.....。」

 

議事堂で中継で衛星でラジオで、この放送を聴いた全ての人々が固唾を呑んでゴップ首相の声に耳をそばだてた。

 

その中には、何も映さない無感動な瞳で議事堂のカメラをハッキングした、篠ノ之束本人の姿もあった。

 

「......一週間前、正体不明のISを用いたテロにより、私を含め多くの国民が犠牲になりました。今回のテロにより、家族を失ったもの、或いは恋人や友人を亡くしたものもいるでしょう。涙にくれこれからどうしようと迷う人もいます。だからこそ、私は、国民に全世界に訴えたい!!これ以上悲しみを広げない為に断固たる決意を持って、決してテロには屈さないと!!」

 

ゴップ首相は、無理をして病院を出たばかりの、疲労しきった体に活を入れ、世界に訴える。

 

額に大粒の汗を浮かべながらも、最後まで壇上に立ち続け語り続けるゴップ首相の姿は、かのジオン・ダイクンを髣髴とさせた。

 

「悲しみを怒りを、決意に変え、人類の輝かしい明日の為にも、我々は一致団結してテロに当たることを此処に誓います。.....そして、.....。」

 

ゴップ首相はそこで言葉を切り、一台のカメラに目を向け指を指して言う。

 

「見ているか篠ノ之束!!これが人類だ、必ずや人の意思がお前を追い詰め、固い団結と決意がお前を決して逃さないだろう。捕らわれ、世界の前でお前が裁かれるその日まで貴様を追い続ける。どんなにISをばら撒こうとも、世界中を混乱させようとも、我々はそれを全て防ぎ、貴様の野望を叩き潰してやる!!ありとあらゆる手を尽くし、三千世界の彼方まで追いつき、必ずや報いを受けさせることを。これは私のひいては連邦の篠ノ之束に対する挑戦だ!!」

 

激しい言葉で宣言を終えたゴップは、割れんばかりの拍手と、床を鳴らす音の中、会場全体の声援を全て受け止めるかのように大きく手を広げる。

 

全世界でこの中継が流れた瞬間、これを見ていた各国首脳人はゴップ首相を無理をして退院したばかりの病人とは思わなかった。

 

ゴップ首相は世界を相手に挑戦状をたたきつけた。

 

現在のIS重視の世界にだ。

 

各国首脳部は、今後の連邦の動きを鑑み、世界の運命の是非を巡る会議に明け暮れた。

 

ある一人は言う、

 

「チャーチル、スターリン、ルーズベルト、と並ぶ巨人が誕生した。」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある某所、

 

そこで篠ノ之束はゴップ首相の演説を聴き、不機嫌さを隠そうともせずに、

 

「いいよ、君のその挑戦を受けてあげる。でもね、最後に勝つのは束さんだよ。.....どんな時だって、束さんは、私は、篠ノ之束は!!絶対に勝ってきたんだ!!」

 

荒々しく声を上げ、いつもの他人に向ける無表情な顔ではなく、口を歪ませ、目を見開き、眉間に皺を寄せた憎悪の顔そのものだ。

 

彼女は外界に興味を向ける時の表情は、何時だって何を考えているかわからない笑みと、悪ふざけと考える顔の両方だった。

 

だが、この日そこに新たな表情が加わる。

 

「.....いいよ。挑戦してきなよ、但し持てる限りの力を尽くし、万全の策を敷く時間も上げる、それで全力で私に向かってきて欲しいんだ。そうして全力を尽くして、後一歩の所までたどり着いたら.......完膚なきまでに叩き潰してあげる。今まで積み上げた栄光も成功も何もかも無に帰して、お前に絶望を叩きつけ、そのうえで”私を”認めるなら許してあげる。でも......ね、その後にちゃんと殺してあげるよ。だってね束の全人生を否定したんだから、同じくらい人生を滅茶苦茶にして無残な最期を遂げたっていいよね。ね、いいでしょ。だって私は天災だもん、この世界で唯一、世界をオモチャにできるただ一人の........人間だよ。」

 

狂ったように、頭を振り笑い声を上げる彼女が得たのは狂気だ。

 

世界を、全てを混沌に導く彼女の笑みは、一体どんな結末を迎えるのだろう.....。

 

 

 

 

 

 


 
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