No.372817

真・恋姫†無双~恋と共に~ #68

一郎太さん

拠点は時々挟んで本編を進めようと思ったけど、
あれが終わらないと進められないことに気づいた。
というわけで、続き。
どぞ。

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2012-02-04 13:21:10 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8459   閲覧ユーザー数:6068

 

 

 

#68

 

 

拠点 真桜

 

華琳の乱心から少し経ち、彼女や秋蘭の手によって縫われたスーツにも少しずつ慣れてきた、そんなある日。

一刀は街の外れにある、城よりは小さいが宿屋ほどはありそうな大きさの建造物を訪れる。彼の姿を認めて会釈をするのは、作業服を着た男たち。ただし、この街の正規兵であるのだが、その任務が他の兵と異なっていた。

 

「李典はいるか?」

 

ざっと周囲を見渡して目的の人物がいない事を確認すると、彼は近くにいた工兵に問いかけた。その答えを受け、彼は大きな工場には似つかわしくない小さな扉へと向かう。ひとつ、ふたつノックをして、室内に声を掛けた。

 

「真桜、俺だ。開けてもいいか?」

 

親しい者にだけ許される名前を呼ぶ。だが、返事がない。

 

「………真桜?」

 

再度問うも、やはり返る声はない。不審に思った彼は、開けるぞとひと言口にし、それを実行に移した。

 

「…………」

 

そして見る。様々な工具の散らばった作業机に突っ伏した、同輩の姿。だが彼は慌てない。呼吸に合わせてゆっくりと上下する背中に手を置くと、軽く揺さぶる。

 

「起きろ」

「んんぅ……あと三刻ぅ………」

「そんなに待ったら陽が暮れるぞ。おら、起きろ」

 

そういった遣り取りを何度か繰り返し、ようやく少女は目を覚ました。

 

「ふぁ……なんや、隊長。どないしたん?」

「先日頼んだやつだ。今日出来るって話だったろう?」

 

余談であるが、最近真桜だけでなく、沙和は彼の事を『隊長』と呼んでいる。どうも警備隊の指示や指導が堂に入る姿だったらしく、また兵たちが『北郷』ではなく『北』と呼ぶことをよしとせず、『隊長』と呼んでいる事も影響して、そうなった。凪も、警邏の最中は同様に呼んでいた。

 

「あぁ、あるで。ちょいと待ちぃ」

 

一刀の言葉に真桜は立ち上がって軽く伸びをすると、壁際に据えられた、大小様々な抽斗のついた棚を探り、目的の物を取り出した。

 

「ほい。コレとコレやな」

 

真桜から受け取った金属片に目を落とす。細長い長方形の板は互いにしっかりと固定され、洗濯バサミのように開いてもすぐに閉じてしまうだろう。一方は無地の銀色、もう一方はどうやって着色したのか分からないような、うっすらと蒼味がかった光沢を放っている。

 

「ねくたいに着ける言うてたから、片方はその眼帯に合わせてみたで」

「なるほどな。だからか」

 

その色遣いに得心する。銀色の方を上着の内ポケットに仕舞い、残るもう一方のネクタイピンを胸元に装着した。

 

「これでやっと落ち着いたよ。ありがとうな」

「代金も大将からもろてるからな」

 

それでもだよ、と再び感謝の意を伝えると、一刀は作業場の出口へと向かう。

 

「………………なぁ、隊長?」

「ん?」

 

戸に手を掛けたところで声がかかった。振り返れば、何やら真桜が小難しい顔をしている。そして、口を開いた。

 

「………もしかして、ウチの出番て…これだけ?」

 

その問いに言葉で応えることはせず、一刀は困ったように笑う。

 

あんまりや!?

 

真桜の悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

拠点 霞

 

いつものように街を散策。ただし、警邏ではない。午前中の政務を終えた一刀は、春蘭や凪の稽古の申し出もなかった為、こうして街に出てきていた。ただ、いつもと異なる点があった。それは―――。

 

「あーっ、一刀やーん!」

 

目的の人物はどこにいるのか―――正確にはどの酒屋にいるのかと歩いていた一刀だったが、その目的の人物に声を掛けられた。その正体を目よりも早く耳で悟り、彼は溜息を吐く。

 

「また飲んでるのか……霞」

 

目的の人物は、霞だった。横合いを見れば、通りに面したところにオープン・スペースに、赤ら顔の霞の姿。今日もお酒的な意味で絶好調のようだ。

 

「休みなんやからえぇやん。それより一刀はどないしたん?あ、分かった!ウチと吞みに来たんやな!もー、一刀も好きやな。それでこそウチの認めた男や」

 

ひとり盛り上がり、彼の背中をバンバンと叩いてぐいと杯を呷る。そんな彼女の姿に溜息を吐きながらも、そのご相伴に預かる事にした。

 

「まぁ、霞に会いに来たのは本当なんだけどな」

「へ……」

 

最初の1杯を空にしたところで、対面の霞に一刀は切り出す。普段は好き放題言っている霞も、この時ばかりは主導権を取られたようだ。呆気に取られ、口をぽかんと開いている。次いで、その言葉の意味を反芻すると、途端に酔い以上に紅くなった。

 

「あ、あはは……なんや、いきなり?風が聞いたら怒るで?」

 

そんな風に慌てる霞を他所に、一刀は立ち上がる。そして向かい側にいる霞の隣に回った。

 

「霞……」

「一刀………ひぁっ!?」

 

上体を曲げ、肩に腕を回してきた一刀に、霞はさらに真っ赤になる。思い返せば恥ずかしくなるような声も洩らしてしまった。その声も一刀は無視し、肩を抱く腕に力を籠め、彼女が椅子から堕ちない程度にぐっと引き寄せた。

 

「か…一刀………?」

「こうしたら、もう逃げられないだろう?」

 

当然の如く、2人の顔も近付く。視界いっぱいに広がった愛しい男の真面目な表情に、霞の眼もどこか潤んでいる。

 

「霞に、渡したいものがあるんだ」

「……ウチ、に?」

 

その声が耳を通して脳内に入り込む。その声音は霞の脳髄を震わせ、蕩けさせる。一切の邪魔な音を遮断するどころか、一刀以外の情報を受け付けようとはしない。

 

「あぁ、受け取ってくれ」

「………………うん」

 

囁くように頷き、彼女はそっと目を閉じる。

 

「霞……」

 

最後にもう一度真名を呼ばれ、霞はほんの少し、顔を上向かせた。

 

 

 

 

 

 

そうして得た感触はザラザラとしており、さらには硬い。

 

あれ?

 

霞は心の中で首を傾げる。如何に男の一刀と言えど、唇がこのような感触の訳がない。彼女が目を開けば―――。

 

「………………なに、コレ?」

 

顔に突き付けられた、小さな竹簡。

 

「読めば分かる」

 

顔を離し、言われた通り、その内容に目を通す。目に入ったのは、たったの三文字。

 

「………………………………………借用書?」

 

視線を下げれば、酒屋の名前と値段のリスト。

 

「………………なに、コレ?」

 

同じ問い。一刀は笑顔で応えるが、そこに寒気を覚える。

 

「あぁ。霞がツケてる店の一覧とその金額だ。店の皆が泣きついてくるんだよ。張遼将軍がツケを払ってくれない、ってな」

「………」

 

茫然とする霞だったが、次の言葉で笑顔を咲かせる。

 

「だから、俺が立て替えておいた」

「ホンマ!?いやぁ、おおきに、一刀!これでまた心置きなく酒が飲め――――――」

 

そして重ねられる次の言葉に、霞は再度茫然とする。

 

「そんな訳ないだろ。俺にこの金額を返すまでは酒はなしだ」

「………………」

 

悲しみといった方が正しいのだろうか。

 

「俺に返し切ったらここに俺がある言葉を書く。酒屋の店主たちには、それを見せなければ、霞には酒を売るなと伝えてあるからな。気張って返せよ」

 

否、それは絶望だった。

 

「ちなみに城でも飲めないからな。華琳の許可も得ているし、蔵の見張りにも命じてある。流琉にも言ってあるから、街でも城でも酒を飲めないと思っておけ」

 

傷口に唐辛子を塗りたくった挙句、さらにそこを火で炙るような処遇に、霞はただただ魂を空に飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

拠点 稟

 

その日、一刀は珍しく一人だった。

 

警備隊の指揮が上がるという理由と、三羽烏の要請もあり、監察後も警備隊長を務めていた彼だが、ローテーションでいえば、今日は休みである。修行をせがみにくる春蘭は賊の討伐へと向かい、秋蘭は先ほど流琉と料理研究をしているのを厨房で見かけた。中庭では風と季衣が日向ぼっこをしていたのか、眠りこけているのも見かけた。普段は酒を酌み交わそうと誘う霞も、酒の借金を早く返したいからと、休み返上で働いている………街で募集している有杯人(アルバイト)としてだが。

 

よって、一刀は珍しく一人だった。

 

「ま、こんな日もあるか」

 

ひとりごちて街を歩く。特に目的もないが、凪たちと会えば手伝いくらいはさせてもらえるだろう。会わなかったとしても、政務に励んでいる華琳たちに土産を買って帰るのも悪くはない。

 

「何処に行こうかな………っと、あれ?」

 

様々な店が立ち並ぶ通りを歩いていると、少し先に見慣れた後ろ姿。ダークブラウンの髪を編み込み、金枠のあつらえられた緑色のノースリーブの服を纏っている。裾の下には黒いブーツ。手には肘の少し手前まである長手袋をつけ、背筋をまっすぐ伸ばして歩いていた。

見たところ、彼女も一人のようだ。仲間が見つかったと彼は歩を速め、そして剥き出しの肩を軽く叩いた。

 

「よっ、稟も一人か?」

「え?」

「………あれ?」

 

だが、振り返った顔を見て、一刀は呆けたような声を上げる。

 

「あ、あれ?………すまない、知り合いに後ろ姿が似ていたから、間違えてしまったようだ」

「………………」

 

なんとか謝罪の言葉を口にするも、相手の女性は目を細めて睨み付ける。どうしたものかと内心慌てていると、その女性が口を開いた。

 

「………………一刀殿?」

「………………………………………………へ?」

 

今度こそ、彼は呆けた声を露わにした。

 

 

「まったく、一刀殿も酷い御方です。友の顔を間違えるなど」

「だから、悪かったって」

 

茶屋に場所を移動した2人は、それぞれ注文をする。稟の言葉に一刀は平謝りだ。

 

「でも……意外だな」

「何がですか?」

 

店員に届けられた茶をひと口含み、一刀は口を開く。

 

「眼鏡を外すだけで、ガラっと印象が変わるな。最初は本当に誰か分からなかったよ」

「そうですか?」

 

応えながら茶の器を口に運ぶ稟は、特に興味もないと返す。その顔に、いつもの眼鏡はない。聞けば、新調した眼鏡を取りに向かう途中だったとのことだ。

 

「あぁ。普段も美人だけど、眼鏡を外した稟もやっぱり美人だな」

「なっ――――――」

 

かろうじてお茶を噴き出さなかったものの、驚きに咽そうになる。

 

「かかかか一刀殿っ!?」

 

 

 

 

 

 

混乱する頭で稟は考える。果たして彼は、このような口説き文句を言う男だっただろうか。かつての彼は真摯に生き、恋という愛する女性が居てもそれにのめり込む事はなかった。だが、果たして昔の彼と現在の彼を同様に見てよいのだろうか。

恋という恋人と離れ離れになり、いわゆる枷がなくなったと言ってもいいかもしれない。先日は彼のスーツ姿に見惚れた。自分だけではなく、城の重鎮の悉くが―――あの荀彧までもが―――見惚れていた。それを見て、彼は自分が他人よりモテるという事に気づいてしまったのではなかろうか。

聞けば、彼の眼帯は秋蘭から贈られたと言う。稟とて女だ。彼女が彼に仲間に向ける好意以上のものを抱えている事は理解している。まさか、彼女は想いを告げたのだろうか。かつての彼なら、風の誘惑をまったく聞き流していた彼ならば、それでも断ったかもしれない。だが、今の彼はどうだ。

愛すべき女性と離れ、いわゆる傷心情態。そのような時に、秋蘭のような美女から愛を囁かれれば、落ちないとは言い切れない。いや、あの秋蘭なのだ。武においては誰も敵う事のなかった彼に、唯一傷を与えた者なのだ。彼にも思うところはあるのかもしれない。

そうして箍の外れた彼は、その魅力を余すところなく発揮し、こうして一人ひとり落として回っているのだろう。その順番が、ついに回って来たというだけのことだ。

稟は自問する。では、自分はどう思っているのか。決まっている。彼に惹かれている。初めて出会った時に、命を救われたというのも勿論関係するが、彼女にとってはそれだけではない。

自分の異常な妄想癖を受け入れた彼。

こうして軍師になる手助けをしてくれた彼。

自身にとっての初陣の時に、将として滞りなく行軍と戦闘を率いてくれた彼。

かつて別れ、そしてまた共に在る彼。

そのすべてに、自分は惹かれているのだ。

彼女は理解する。いや、これまで目を背けていた自分の心に、真正面から向き合う。

彼を愛しているのだろうか。

是。私は彼を愛している。

何故彼を好きになったのだろうか。

不知。好きなところは数多くあれど、そのきっかけなど記憶にある訳がない。

彼を受け入れる準備は出来ているのだろうか。

是。奥手な自分からは言えようはずもないが、彼が望めば、それに応える覚悟はある。

果たして、彼の持つ房中術はどれほどのものなのだろうか。

不知。きっと天の国の知識を総動員して、私を快楽の海に溺れさせてくれるのだろう。

どこから攻められたい。

不知。彼が触れれば、きっと身体と心のすべてが反応してしまうに違いない。

本当にどこでもいいのか。

否。やはり最初は口づけから始まって欲しい。いや、まずは抱き締めて貰わなければ。真っ赤になった自分の顔を、隠すように彼の胸に押し付け、そしてそんな私の頭を彼はきっと優しく撫でてくれる。どれほどそうしていただろうか。彼の手が頭から離れる。温もりが消えた事に幾許かの寂寥感を感じるだろうが、それは杞憂に過ぎない。彼は左手を背に回したまま、私の頭を撫でていた手を私の頤に添え、そっと持ち上げる。私はそれに抗う筈もなく、見下ろす彼の瞳にじっと視線をそそぐ。と、彼の手が口元から離れる。疑問に思う間もなく、彼は私の眼鏡を外した。これがあると口づけをし難いなどと微笑む口元に、私の視線は釘づけだ。少し遅れてその言葉の意味を理解し、私は慌てて何事かを言おうとするも、結局何も言えずに終わる。当然だ。彼の唇が私のそれを塞いでいるのだから。ただ触れるだけのそれに私の五感のうちの4つが機能を遮断し、ただ唇に与えられる感触だけが脳内を支配する。その蕩けるような感覚だけでも腰砕けになりそうなのに、彼はきっとそれを許しはしない。ぐいと左腕で私の身体を引き寄せる。僅かに与えられた圧力に、私の肺は空気を洩らす。当然それは私の喉を通り、唇に隙間を空けて逃げようとするだろう。彼はその瞬間を見逃さない。ほんの少し開いた口に、触れていた彼の口から柔らかく、それでいて熱いものが侵入してくる。一瞬驚くも、私はそれを拒みなどしない。拒む理由など、あろうはずもない。彼が口内で動くのに合わせて、私も必死に応戦する。いつだか、書で読んだことがある。睦み事は、闘いだと。互いが互いを求め、互いに快楽を与え、互いに快楽を貪り、そして互いを高める闘いだと。その言葉を、私はようやく実感として理解する。もっとと私の舌がせがむ。もっとと彼の舌に与えたがる。呼吸をするのももどかしく、それでいてどこか息苦しく。彼に与えられる快楽によって声が漏れ、その機を利用して呼吸をする。数えるほどもないわずかな時間をおいて、再び私達は互いの唇と舌と、唾液を求める。どれだけそうしていたのかも分からない。気づけば私達の口元は唾液で濡れていた。それでも離さない。だが、それで終ろう筈もない。彼が私の衣服に手を掛けている。長手袋を片方ずつ外し、留め具を外す。私も彼の衣服に手を掛ける。すうつのぼたんを外し、ねくたいも解く。それでも私達は唇を離さない。顔の向きを変えながら互いを貪り、互いの肌を露出させていく。私が下着姿に、彼が上半身裸になったところで、ようやく彼が動いた。唇を離すと、言葉を発することもなく私の身体を抱え上げる。そして再び口づけ。私は彼の首に手を回し、彼は私の背と膝裏を支えている。数歩進めば、私は降ろされる。背中に柔らかい感触。寝台だ。だが主導権を握られるだけの私ではない。背に新たな支えが出来ると同時に彼の首を引っ張り、そのまま寝台の上に引き倒した。唇は離さず、舌を絡め、それでいて新しい感触。私と彼の肌が触れ合っている。それを遮る壁は、私の下着のみ。それすらも、すぐに効力を無くすだろう。ほら。彼が私の背に腕を回した。彼がしようとしている事を理解し、私も背を反らす。そうして出来た隙間で手を動かし、彼は私の下着の留め具を外す。そのまま手は肩まで上げる。右の肩紐をずらして右腕を抜き、ついで左腕。今度こそ、完全に私達の上半身は重なった。だが、私もただされるだけではない。彼の腹に手を移動させ、ベルトを外す。彼も同様だ。私の腰の下着に手を回し、脱がしにかかる。傍から見れば、きっと2人は変な体勢でもぞもぞと動いているのだろう。だが、私達には関係ない。だって誰もいないのだから。だって、私達の視界を埋めるのは、互いの顔だけなのだから。そうして下着も何もかも脱ぎ去り、私達は互いの身体を弄る。何処を触ろうという考えなどない。ただただ触れ合おうと、ただただ身体のすべてで互いを感じようと、その熱を求めているだけなのだ。だが、それもすぐに変化する。彼が私の胸に手で触れた時だ。ビクンと私の身体が跳ね、彼の眼に怪しい光が浮かんだ。その光に私は恐怖を感じながらも、それを上回る程の快楽への期待で恐怖を覆い隠し、瞳に期待の色を浮かべる。あぁ、なんと淫靡な笑みだろうか。そして、なんと嗜虐的な笑みだろうか。それでも、私達は互いを求めてやまない。彼は私の身体のすべてに口づけ、舌を這わせ、私はそのすべてを受け入れる。私は彼の身体のすべてに口づけ、舌を這わせ、彼はそのすべてを受け入れる。気づけば体勢が変わっていた。当然だ。私達は最高の快楽を求め、最高の快楽を与えようとしているのだから。最も熱を持った部分を探り当てると、私達はそこに口をつける。これまでで最大の快感が互いの脳髄を駆け巡った。それはまるで、己の尾を飲み込まんとする蛇のよう。互いが互いを飲み込み、何度も熱を吐き出す。それを拒むことなどなく、ただただそれを続ける。だが、そこでふと気づくのだ。このまま終わっていいはずがない。やらなければならない事があるはずだ。私達は肩で息をしながらも、再び体勢を変える。目が合った。次の瞬間、今日何度目になるか分からない口づけを交わす。彼の眼が問う。いいのかと。私の眼は答える。それを聞くのかと。ひとつ私は微笑み、そして次の瞬間、2人はひとつとなった。書により、初めての時は痛みを感じるという知識があった。だが、これはどうだろう。負の感覚など、微塵もありはしない。考えてみれば当然だ。さきほどまで、私達は幾度となく互いに快楽を与え続けていたのだから。彼のそれは艶本の図解に載っていたものよりも逞しく、そして雄々しい。柔らかさを湛えているにもかかわらず、硬さを失う様子もない。その二律背反は、きっとこの行為の為のものなのだろう。幾度となく彼が動き、それに合わせて私の身体も跳ねる。繋がってから最初の瞬間などとうに過ぎている。幾度となく彼は熱を私の中に吐き出し、私もそれを余すところなく享受する。吐き出しながらも動くことは辞めず、身体が重くなってくる。仕方のない事だ。私は彼のような武人ではなく、体力もそれほどある訳ではないのだ。それなのに、私の身体は彼を求める事を辞めようとはしない。彼の肌に浮かぶ汗に舌を這わせ、彼が口を開いて落としてくる唾液を、餌を強請る雛鳥のように口を開けて舌先で受け止める。その味のなんと甘美なことだろうか。まるでそれは媚薬のように私の脳髄を蕩けさせ、再び彼の熱を求める。どれだけの時間が過ぎたのかも分からない。朝が来たのかもしれない。昼が過ぎたのかもしれない。また夜が来たのかもしれない。それでも私達は、互いの手で、口で、そしてそれで互いを愛撫し続ける。

 

 

 

 

 

 

「………………思わず聞き入ってしまった」

 

稟の鼻孔にハンカチを詰めた一刀は、ぼそりと呟く。その声は、いまだ妄想を続ける稟の耳には届かない。ハンカチは、ただその色を赤に染めていく。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

腹筋お疲れ様です。

筋肉痛にはお気を付けを。

 

ではでは。

 

 

 


 
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