No.346850

恋姫無双 ~決別と誓い~ 第一二話

コックさん

今回は少し長めです。

誤字脱字の指摘宜しくお願いします。

2011-12-13 12:36:47 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:3590   閲覧ユーザー数:3178

朝、自室で荷物を木綿の袋にまとめロープで縛る。

 

これで出発の準備ができた。

 

どうやらこの時代では木綿や麻の実用化出来ているらしい。

 

周瑜や呂蒙の眼鏡だって今、つまり2世紀ないし3世紀では作ることさえ困難なはずなのだが・・・・。

 

(まぁ、三国の豪傑が全員女性だと考えるとこれはこれでアリなのかもな・・・・)

 

などと無理やり納得させる。いい加減この分析癖を直さなくてはとため息をつき、

 

「さて、行くか」

 

そう呟き、一人質素な兵舎を出ていくのであった。

 

兵舎を出て部隊へと合流するため目的地である建業へと出発するが当然そこに朱然や徐盛はいない。徐盛がいる周泰の部隊は北方の魏の偵察と潜入が任務となっているからだ。

 

それは魏が近いうちに大規模な軍事演習を国境線ギリギリの所でやるとの情報が入ってきているためであった。

 

魏は俺たちに復興が着々と進んでいると見せるための威示行動をするつもりなのだというのが大本営が出した結論だが、場所が場所の上警戒をするのが最適と判断し主力部隊のひとつである第一連隊つまり黄蓋の部隊と敵戦力の分析のため一二部隊と周泰の一四部隊からまでが置かれることとなった。

 

ちなみに俺たち一六部隊は、孫権が蜀の首都益州へと赴き劉備と今後の全体的な方針を話し合う首脳会談の警備をすることとなっていた。よって一六部隊はしばらく大本営勤務となる。

 

問題は朱然なのだが夜の宴会で姿を現したものの、詳細を教えてくれることはなかった。辞令はもらったというところは話すのだが、何処に行くのかという話になると一転、口を閉ざしてしまうのであった。まぁ、あの周公謹が辞令を出すといっているのだから大丈夫であろうと祈るばかりだ。最悪、あの能力だからどの国に仕官しても採用はされるはずだが、今迄共にいた仲間であるので彼の行方が知りたくて仕方がないのであった。

 

宴会が終わった後、俺はお世話になった酒場のオヤジさんにお礼をいったのであった。俺が黄蓋の知り合いというだけで身寄りのない俺の面倒を一年近く見てくれた恩人だ。

 

「今迄お世話になりました」

 

「いや、いいんだよ。一刀。お礼を言いたいのはこっちの方だ。俺もお前たち若いもんと一緒に酒を飲み、暴れたりと退屈しない毎日だったしな。それにお前さんは貴重な休みの時間を店の手伝いをしてくれたりと本当に感謝しとる。今ではお前のことを自慢の息子のように思っとるよ。ありがとな一刀」

 

と鼻を擦り笑顔を浮かべるオヤジさん。訓練で辛いとき、黙って酒をついで俺の愚痴を聞いてくれたオヤジさん。親友と飲むときは嫌な顔をせず、酒を持ってきてくれたオヤジさん。この人が居なかったら、今の俺はいない。彼には感謝の気持ちで一杯だったし、オヤジさんと別れるのが非常に辛くて悲しかった。それをオヤジさんは感じ取ったのか背中をバシッと叩き、

 

「なんだ?しんみりするな!それにこれからお前さんは笑顔で此処を出て行かんといかんのに・・・・。第一お前さんとはこれが今生の別れって訳じゃないだろ?」

と笑顔で俺を送り出そうとしてくいる。俺も笑顔を無理やり作る。泣いて去るよりも笑って去る。そのほうが良いと分かっているから。

 

「・・・うん。そうだよな。ありがとう。本当にありがとう・・・・」

 

「ああ、ついでに一つ頼みがある」

 

思い出したかのようにオヤジさんは手を片方の手のひらの上にぽんと叩く。

「・・・・何?」

 

「たまにでいいから俺のところに顔を見せに来い。もちろん客としてだが?」

 

呆気に取れれてしまった。どこまでこの人は人間として出来ているのだろうかと感嘆してしまったのだ。

こうして悪戯を企む子供のようにニカッと笑うオヤジさんに対し、俺は顔を上げられずに変な姿勢で頷くしかなかったのであった。

 

 

建業の大本営がある司令本部へと赴くため新人の俺たちは合流地点で他の奴らと合流し、いよいよ周瑜がいる大本営がある司令本部へと向かう。なるほど彼女が以前何かをほのめかすような台詞を言ったのはこれを見越してのことだったのだろう。

 

しかし、こうしてみると皆蒼々たるメンバーだ。兵学校や下士官を養成する予科練での成績優秀者や名を馳せた浪人が多い。こんな連中とやっていくことになるのか思わず武者震いがとまらない自分なのであった。

 

一から十六まである独立部隊は呉の少数精鋭部隊だ。これらの部隊は隠密行動に長けた者が多く、敵領内の侵入や間諜の斡旋、戦での斥候、敵地での破壊工作などの諜報、情報面での活躍が顕著である。また報告書に載らない非正規の任務に就くこともある。

 

要するに暗殺だ。今回の益州での任務も警備と兼ねて情報を掴もうとする間諜の発見、抹殺といったところだろうか。

 

建業を守る司令本部の門の警備兵に辞令を渡し厳重な荷物チェックを受けそれをパスすると兵舎に荷物を置く。そして俺たちは休むことなく慌ただしく外へと向かう。

 

大都督の周公謹が配属される俺たちに向けて激励の御言葉がある、とのことで彼女は俺たちの前でこれからの呉の国難を打破するのは諸君たちにかかっていると手短にそして力強く演説しようやく解散となった。

 

こうして俺たち慌ただしい午前が終わり、昼食にありつくのであった。

 

 

「北郷一刀以下五十名配属許可を願います」

 

兵士が集まる広場で甘寧の前で五十人が一斉に背筋を伸ばし敬礼をする。皆敬礼ひとつでも、無駄のない洗練された動きだ。

 

「許可する。これから貴様たちは戦場に身を置くこととなる。実戦では些細な判断の誤りが部隊の全滅さえも招く。日々精進を怠るなよ」

 

「「御意」」

 

「よろしい。では各員持ち場につけ。指示は各分隊長から仰ぐように。それと北郷、貴様は残れ。話がある」

 

「はっ」

 

解散すると皆が俺に哀れみと同情の目を向けてくる。彼らは俺がこれからされることを確信してるようだった。

 

まぁおれもその中の一人なのだが。

 

そして誰もいなくなり、残されたのは甘寧隊長と俺だけとなった。

 

沈黙が支配する部屋のなか、口を開いたのは隊長だった。

 

「久しぶりだ北郷。まさかお前が私の部隊に入るとはな運命とは皮肉なものだ」

 

「恐縮です」

 

隊長は値踏みするかのような視線を俺に投げつけてくるが背筋を伸ばし休めの体勢のまま受け流す。

 

「貴様、聞いたぞ?先日蓮華様に失言があったとか」

 

「はい。大変申し訳ありませんでした。その件に関しましては、大変猛省しております」

 

「蓮華様は寛大なお方だ。そのことに関してはお前は関係ないとあの方は仰ってはいたが-----」

 

「っ!!」

 

一瞬視界が揺れ、全ての動作や音がスローモーションになったかのように遅くなる。また頬に激痛が走り鉄の味が口を満たす。その時になって俺は殴られたのだと初めて知覚した。

 

俺は殴られて崩れた体勢を直そうとするが、すかさずガラ空きの腹に膝蹴りをいれられる。

 

肺の酸素が一気に全部なくなり情けない声をあげる。

 

「うっぷ」

視界が黄色くなり酸っぱい何かが胃からこみ上げてくるのを懸命にこらえる。

 

「私はそれで納得する人間だと思ったか?北郷」

 

彼女はそう言って、くの字に折れ曲がって芋虫のように丸まって倒れている俺の襟首を掴み、引っ張ることで無理やり立たせる。女性とは思えない力だ。

 

 

「貴様のせいで私の部隊が笑われものだ」

 

「そもそも貴様のことだ。この部隊に来たのも男、女関係なく閨にでも誘って骨抜きでもにでもしたからか?ん?」

 

そういってまた、こめかみに拳を入れてくる。

 

 

「がはっ!」

 

 

「どうなんだ?北郷」

 

「じ、自分は----」

 

遠ざかる意識をつなぎとめ、なんとか発言しようとするが、

 

「いつ貴様に発言の許可を与えた?」

 

とすかさず強烈な蹴りを大腿部に食らわせる。意識が薄れて足が踊っているので、簡単に尻を打ちつけてしまう。

 

「がっ!!」

 

彼女は再び先程のように無理やり立たせ、殴りつける。その繰り返しだった。

 

「貴様さえ居なければ、雪蓮様がお亡くなりになることはなかったのに・・・!!貴様さえ居なければあのように蓮華様が泣くことはなかったのに・・・!!それなのに貴様はまだいけしゃあしゃあと・・・!!!!」

 

繰り返される殴打に俺の意識がどんどん遠ざかっていく。いよいよ片膝が地面につき跪く形となってしまう。息は絶え絶えで、意識は相変わらず飛んでおり視界はグルグルと回転したままだ。

 

「無様だな、北郷。これで主席とは笑わせる。ここはお前が来るところではない。種馬は種馬らしく娼婦でも雇って呑気に腰でも振っていろ」

 

(一刀が出来る事をしてくれたら、私はそれでいいと思うわ)

 

甘寧に罵られている間なぜか雪蓮が俺に言ってくれたことを回顧していた。

 

(そうだ俺は俺が出来ることをする。それが今俺が出来る唯一の贖罪の方法だから・・・・!!)

 

ふと腕に重い衝撃が走る。

気がつくと彼女のハイキックを腕を使いガードしていた。

 

 

意識が半分なくなっていた俺のした行為に甘寧は驚きの色を顔に出していたが、すぐに元の鋭い顔つきに戻り

「・・・貴様、なぜ防ぐ?営倉行きだぞ?」

 

としゃがれた口調で言ってきた甘寧に

「申し訳ありません。ただ俺も殴られっぱなしは流石にきついので・・・」

 

と軽口もそこそこ、口に溜まった血をぺっと吐く。

 

その行為に彼女は余計に腹を立たせる結果となったようだった。こめかみをピクピクと痙攣させ殺気を俺に向けてくる。

 

「北郷。貴様が私の副官というのが私は納得がいかない。私は初めて会ったときから貴様を信用してはいないのだからな・・・・!!」

 

「貴方が俺をどう思っていようが関係ありません。ただ俺はここに配属するようにと命じられただけです。隊長もご存知のはずです。命令に意義を求めるのは我々には禁句であると」

 

「貴様・・・・!!」

 

目付きを一層鋭くさせ、凄まじい殺気を相変わらず投げかけてくる甘寧。以前の俺なら一瞬でその恐ろしさのあまり気絶していたところだろう。

 

「・・・・わかった。お前の言うことにも一理ある。ならば取引をしようじゃないか北郷。この私と真剣で勝負し、勝てたのなら私はお前を右腕として認めることとする。ただ真剣でやる以上本気で行かせてもらう。死んでも文句はないな・・・・?」

 

「・・・わかりました。その取引に乗ることにしましょう」

 

「では半刻後訓練上に来い。・・・逃げるなよ?」

 

その台詞に反応することなく、広場を出ていく。彼女は恐らく俺を殺しにかかってくる。

 

しかも訓練場でやるため、例え俺が死んでも訓練での事故死とは見なされ見逃される可能性が高いうえ、おまけに猛将の甘興覇。どう見ても俺に分があると言えない。

 

だが俺は逃げない。

 

彼女に俺の生き様を見せるために。

 

 

「周瑜将軍よろしいでしょうか?」

執務室で蜀への首脳会談への蜀の案内役を担わされている関羽と警備体制の手筈を整えている最中、私の隊の分隊長がなにやら慌ただしい様子で入ってくる。

 

「どうした?」

 

「はい。実は一六部隊の連隊長である甘寧と副官の北郷が訓練場で模擬刀ではなく真剣を使った戦いを・・・・」

 

「なに?!甘寧殿が?」

 

「はい。どうやら、甘寧と新しい副官とで衝突があったようで・・・」

 

愛紗がこちらを困惑した面持ちでみているが、私はこの報告を聞いてもあまり驚きはしなかった。

 

感想としては、ああやっぱりな、といったといったところだろうか。

 

というのは思春は北郷をあまり良くは思ってはいなかったというのが起因として挙げられるからだ。特に雪蓮が死んでからはそれが顕著に出ていた。彼が軍師を辞めるとき、国内の機密情報漏洩の危機を挙げ彼を抹殺すべきと提案したのはほかならない思春であったからだ。

 

当然御使いである北郷の存在は傀儡に近く、そのような機密情報を教えてはいないし、またその必要性もないとして大本営ではこの提案は拒否したが、その後も彼に関する監視等の提案し、推し進めたのは他ならぬ思春だった。

 

機密情報を喋ったら消すように諜報員に指示していた思春だったが、それが実行に移されることがなかった。

 

今回その鬱憤が爆発したといったところか。どうやら彼女はなんとしてでも彼を消したいらしい。

 

私は、思春を止めるべく腰をあげようとしたが動きを止める。

 

これは彼がどれだけ使える存在になっているかを知る良い機会なのではないか。

 

また彼がもし勝ったのなら、兵学校、予科練等の教育機関が有効に機能していると見なされ施設の充実及び予算の拡充が認められる良い機会でもある。

 

また彼が危なくなれば、私と愛紗が仲裁となり彼を助ければいいだけだ。利益があっても害は少ない。

 

そういった幾重もの考えが浮かんでは消える。

 

親友の生死より国益を第一に考えてしまうことに自己嫌悪をするがそれを顔に出すことなく指示をだす。

 

「事情はわかった。私もそちらに向かう。訓練場には誰にも近寄らせるな。司令本部にいる各連隊長には私が責任もって処理するため心配無用と伝えろ」

 

「はっ」

走り去る部下を見て、

 

「さて、愛紗殿。あなたにも手助けしていただきたい。私一人では頭に血が上った思春を止めるのは困難を極めるだろうからな」

 

「わかった。では行きましょう冥琳殿」

と先程の部下のあとを斬月刀を手に追っていく。

 

(さて北郷。見させてもらうぞ。お前の力を)

 

私も執務室にあった白虎九尾を手にとり訓練場へと向かっていった。

 

 

訓練場で俺は甘寧と向き合っていた。彼女の手には鈴音といわれる剣が握られている。鈴の音と共に出現し必ずその武器で敵を仕留める彼女は、この大陸において彼女は恐怖の代名詞となっている。

 

その彼女が俺にそれを向けている。まさかこれほど彼女が殺気を出して武器を構えるなど以前の俺なら想像もできなかっただろう。・・・そう以前までなら。

 

俺は御使いのとき貰った護身用の剣を構える。御使いの時は使おうともしなかった物だが今となっては手入れも行き届いており、相棒のような存在となっている。

 

「来い北郷」

 

少し腰を落とし深呼吸をしする。相手は百戦錬磨の甘興覇であり、今までの相手とは格が違う。

 

だが動揺や高揚はせずに精神を集中させる。戦いでそのような感情を持つ必要はないというのが俺の自論だ。

 

そして格上の相手に勝つ方法としての最善の方法は一つ-------

 

 

「ふっ!!」

 

 

最初に打って出る。まずは右上から振り下ろし、胴、突きと素早く繰り出すが全部受け止められてしまう。

 

突きを連続でして動きを牽制し、足払いを掛ける。がこれをジャンプすることでかわす。すかさず俺はジャンプで無防備となった彼女の頭へと振り下ろす、と見せかけてフェイント。

 

「!!」

 

真上からの振り下ろし動作を途中で止め逃げるように右脇腹めがけて薙ぎ払う。剣道での面から胴の要領だ。がこれも受け止められてしまう。鍔迫り合いとなるが、相手が前蹴りを使い距離を取られる。

 

やはり強い。この時代ではフェイントという概念が無いため、並みの兵士なら先程の攻めでやられているところなのだがそれに臨機で反応するとは半端じゃない。

 

 

(さすが・・・・、だが想定内だ・・・・)

 

「いまのは何だ?だが甘い。私から裏を取れると思ったのか?」

 

「私はそう思っていましたが貴方がここまでとは・・・」

 

「まさか今のが貴様の切り札といったところか?」

 

「・・・・・・・・」

 

「図星か」

 

ニタリを笑う甘寧。それと共に腰に付いている鈴がチリンと不気味な音が響く。

 

「ではこっちから行くぞ・・・・!!」

 

そう言ったと同時に最初の一撃が繰り出され、それをなんとか受け流す。

 

 

「ぐっ!!」

 

容赦ない斬撃の嵐。重く、そして早い。その上正確にこちらの急所を狙ってくる。

 

「どうした?さっきまでの勢いは」

 

頭をめがけてくる剣先をギリギリかわすと、つぎは回し蹴りが回避したばかりの顔に襲いかかってくるが、これもなんとかガードする。

 

と同時に接近してくる。俺がガードを終えたとき彼女は俺の目の前に接近していた。

 

(先程の蹴りは牽制だったか!!)

 

気づいたときにはもう遅い。強烈な膝蹴りを腹に叩き込まれ態勢を崩す。と同時に足払いを掛けバランスを崩してしまい、転倒してしまう。

 

おもいっきり尻を打ちつけたが痛がっている暇などない。すぐさま追撃が待っている。頭部めがけて上から鈴音を突き刺してくる。

 

俺はそれを横に転がることで回避するが回避しきれず、頬に血が伝う。かすったようだ。

 

流れるような連続攻撃をかわされた甘寧はゆっくりと鈴音を引き抜くとまた凄まじい速さでこちらに向かってくる。俺は素早く態勢を立て直し、剣を構え、斬撃に備えるのであった。

 

 

私が愛紗と一緒にここに着いたときには、もう既に始まっていた。

 

「くっ!遅かったか!!」

 

と舌打ちをする愛紗。彼女は純粋だ。どうやら本気でこの一騎打ちを止めようとしているらしい。

 

「冥琳殿。我々が間に入ってこの無益な行為を止めさせなければ・・・・」

 

「今は止めなくていい」

 

「冥琳殿!!」

 

「愛紗殿の言うことはもっともだ。だが実はいうと私自身この一騎打ちの結果が気になって止まぬ。というのも今思春が相手をしているのは天の御使いと言われていた男だからだ」

 

彼女の顔が驚愕に変わる。

 

「それは本当か?」

 

「私が嘘をつくとでもお思いか?愛紗殿」

 

私がニヤリと笑いそう言うと、彼女はまた困惑した表情を浮かべる。

「いや。そういうわけでは・・・」

 

彼女は良く顔にでる。まぁ、この正直なところとお人好しなところが彼女の長所であるのだが。

 

「しかしそれなら尚更のこと!今すぐ止めなければ」

 

「いや問題ない。彼も兵学校を主席で出ている。そう簡単にやられる奴ではない」

 

「しかし!!」

 

「愛紗殿。あれが分からないか?彼が今どういった状況なのかを」

 

そう言われて彼女は再び、怪訝な顔つきで一騎打ちを見る。

 

「一方的に押されているように見えるが・・・」

 

「いや、愛紗殿。彼は一方的にやられているふりをしていうだけだ」

 

「なに?!」

よく見ると思春の素早い攻撃を紙一重で躱し続ける北郷。一見その姿はおどおどとしていて頼りなく、また少し判断を間違えれば死につながりそうだ。

 

がしかし、これだけおどおどした人間が幾重もあの猛将の攻撃を受け続けられるのだろうか?

 

「冥琳殿・・・・・。これは一体・・・?」

 

「北郷が何かしら考えての行動なのだろう。まぁおおかた察しはつくが・・・」

 

私は彼がとる行動がある程度だが分かっていた。というのはこの戦い方は私がまだ私の弟子だったときの彼に教えた戦い方だからだ。

 

 

《さて北郷。数が多い、また味方からの増援等の支援がが見込めないといった難しい状況の時、敵と戦うのにはどうすればいいと思う?》

 

《う~ん・・・、難しいな質問だな。そうだな、籠城しても勝ち目は薄いし・・・。敵をおびき出すように誘い込んで各個撃破・・・かな?》

 

《では、誘い込むにはどうしたらいい?》

 

《黄巾党のように内部分裂を図るとか?》

 

《それは無理だろう。あれは文字が読めない人間が多かったから出来た荒業だ。正規の軍となればその策は通じない》

 

私がそう言うと再びう~んと唸る北郷に助け舟を出す。

 

《そうだな・・・。誘い込むという考え自体は間違ってはいない。問題なのはその誘い出す地点に敵が何も疑いを持たせないようにするにはどうするかだ》

 

その助け舟を聞きまた唸る彼だったが、しばらくすると顔が明るくなる。どうやら閃いたようだ。

 

 

《相手側が圧倒的に有利であることを相手に悟らせることかな?》

 

《なるほど。では具体的にはどういった策をお前は用いる?》

 

《退路を確保しつつ敵の攻撃にそのまま応じてやり、暫く戦闘をして敗北したかのように撤退する。相手は自分の策が上手くいったと勘違いし追撃を掛けてくる。そこで素早く撤退をし相手の戦端を伸ばすことにより補給線を絶つ。

 

そこで伏兵を撤退するところに二箇所を配置する。一つは足が遅い後方部隊である射撃隊、補給部隊、医療部隊を強襲する。残りは相手は後方部隊が強襲されているとして指揮系統に支障をきたし、浮き足立った前衛部隊に撤退する部隊と連携を取り反撃に転じるといったころかな》

 

《なるほどいい考えだ。肝心なのは相手側は上手くいっているつもりなのに、全く上手くいっていないという状況を作り出しことが重要だ------》

 

 

と彼に以前彼に教えたのだが、その軍師の知識をまさか一騎打ちで応用して使うとは流石に私も考えてはいなかった。

 

(ふふっ。北郷のやつ。私が教えた事を応用するとは・・・)

 

私はこの戦い方は私が教えたことが根底となっているのだと、密かに愉悦を感じていた。

 

 

嬉しかったのだ。彼が私の教えたことを覚えていてくれたのが。

 

嬉しかったのだ。彼が私とすごした時間を少なからず無駄ではなかったことが。

 

 

(なぜ私はこんなに嬉しいのだろうか?穏や亞莎も私の弟子だ。今迄こういった光景を見てきているはずなのに、何故北郷なら私は嬉しいのだろうか?)

 

 

と心にそんな疑問がもたげる。彼に対して抱いているこの感情、胸が締め付けられるように切なく、それでいてどこか心地の良いこの感情は一体・・・・?

 

また私がこのような感情になると必ず罪悪感に苛まれる。誰に対して私がこのような罪悪感を抱くであろうか?

 

私には分からず、困惑していた。

 

 

そんな感情を無理矢理押さえ込み、改めて戦いを見ると北郷は一方的と言っていいほど攻め続けられている。

 

見ているのが危なっかしいほどに。

 

白虎九尾を持つ手に力が入る。本当は愛紗の言うとおり、本当は今すぐにでも止めたい。だが今彼らを止めたら駄目だと、何故か心の何処かで警鐘を鳴らしている自分がいる。そうかこれが雪蓮がよく言っていた「カン」というやつだろう。

 

(私がカンに頼るとはらしくはないが・・・)

 

と内心自分自身に毒づく。軍師がカンに頼るのなんて御法度だとあれほど口うるさく言っていたのに、何故か今回だけは自分の直感というやつに従いたくなっていた。自分の考えが間違ってはいないという確信的な自信が何故かあったからだ。

 

(賭けてみるか・・・)

 

私はその「カン」とやらに賭け、愛紗と共に彼らの戦いを再び見守ることにしたのであった。

 

 

もう何回打ちあったのか?いや正確には何回死にかけているかと言った方が良いのかもしれない。そう思わざるを得ない位、一方的に攻められている。

 

俺は基本に忠実に、ひたすら敵の攻撃を右、左、そして時には体を捻ることにより回避する。こうした基本をベースにした単純な回避運動が実は攻撃を躱す際最も効果的なのだ。

 

こうした攻撃を防ぐだけでは必ずジリ貧になり、追い詰められる。ならばに何らかのアクションをおこして反撃に移るべきと皆は考えてしまっているが、それが落とし穴だ。

 

現にそういった行動で足元をすくわれて、隙を生み出してしまいやられてしまった同僚を何人も目にしている。

 

勝機が見えてくきた。甘寧の剣筋が誤差を生じてきている。顔を見ると動揺の色が広がっていた。これだけ攻めあぐねているのだ。無理はない。

 

(仕掛けるなら今か・・・・?)

 

蹴りを躱すと右左に連撃を仕掛けてくる。

 

それを剣の切っ先を当てて擦るように受け流すと同時に、懐に素早く潜り込む。

 

剣から金属が擦れる音が鳴り響き、火花が散る。

 

受け流したことでノーガードになった腹部に強烈な一撃を食らわせる。

 

まさかの思わぬ反撃で完全に怯んだ甘寧の脇腹に素早く掌打を与える。

 

ボキッというイヤな音。肋骨が折れたのだろう。

 

「ぐぅ!!」

 

折れた激痛により完全に体勢を崩した甘寧の後ろに回り込むと羽交締めにし剣を頚動脈にピタリとあてる。

 

「これで勝ちましたね。先ほど仰ったとおり自分を副官として認めてくださいますか?」

 

「貴様・・・・」

 

甘寧はなんとか抜け出そうと抵抗するが全く抜け出すことができない。当然だ俺はそれをさせないように厳しい訓練を積んできたのだから。

 

「なかなかしぶとい。まだ抵抗なさるおつもりですか。この場所なら貴方を殺すことだって出来るのですよ?隊長」

 

「なんだと・・・?」

 

「《訓練場での不運な事故死》

 

貴方が描いていた脚本のことを言ったまでです。今この訓練場は何故か誰もいない。誰が貴方が殺されたことを証言出来るのでしょうか?」

 

首に当てている剣をさらに強く押し当てる。軟らかい感触と一緒に温かい液体が首から流れ出てくるのがわかる。

 

 

「そこまでだ北郷」

 

聞き知った声が後ろから聞こえる。

 

羽交い締めにしたまま振り向くとそこには白虎九尾を持った周瑜と黒い光沢のある美しい髪を束ねた端正な顔立ちの少女が斬月刀を構えている。

 

「今直ぐ拘束を解いて武器を捨てろ。さもなくば反逆罪で然るべき処分をお前に下さなければいけない」

 

俺は逆らうことなく拘束を解き武器を捨てる。

 

「さて、どういったことか説明してもらうぞ?だがその前にお前たちは営倉で勾留だ。文句はないな?」

 

「「はい」」

 

「では連れていく。関羽殿すまないがもう少し付き合ってもらいたい。私はまずこやつを医務室に連れていかねばならないからな」

 

「ああ。構わないが」

 

「感謝する。ではいくぞ」

 

俺は営倉へと連れて行かれたのであった。

 

 

 

 

ども、コックです。ここまで読んでくださり有難うございます。

 

今回、初めて戦闘シーンを書きました。難しいです。今回自分の力不足を非常に痛感しているとこです。

 

さて、今回は肋骨が折れるシーンを書きましたが、実際どうなのかといいますと・・・・滅茶苦茶痛いです。はい。

 

まず折れたら息ができません。ほら呼吸したら胸が上下に動くじゃないですか。あの動作をするだけで激痛が走るんですよ(汗)

 

さらに折れた方の腕が全く動かせません。腕を動かすのにも激痛が・・・・(´;ω;`)

 

といった筆者の経験が有りまして、

 

(いくら天下無双の恋姫さんらでもアバラが折れたら流石にヤバイんじゃね?)

 

とふと思いつきまして、勝手に思春の肋骨を折らせていただきました。

 

ファンの方すみませんでした。

 

でもでも、肋骨は折れても3週間~4週間で治りますから(汗)

 

・・・・・・え?そういう問題じゃないって?

 

気にしない!気にしない!

 

今回ちゃっかり黒髪ポニーテールさんが出てきてましたが、次回あたりから蜀の人たちも出てくるかも??

 

この軍人一刀と天然系桃色少女さんとのコンタクトなどが書けたらいいなぁと考えています。

 

ではまた次回で、再見!!


 
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