No.343850

そらのおとしもの きみののぞむもの 『裏編』

tkさん

『そらのおとしもの』の二次創作になります。 
 今回の話は、前回の表編をニンフ視点で描いています。
 一人シリアスしてる鳳凰院氏をよそにイカロスさんの日常への想いを書いてみたり。
表編:http://www.tinami.com/view/341614

2011-12-05 23:33:09 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:833   閲覧ユーザー数:817

 私の名前はニンフ。

 本当はエンジェロイドタイプβという呼び方があるけど、そっちはあまり好きじゃない。

 最近の私は恋する女の子なので、そんな記号みたいな名前はよろしくないと思うし。

 

 

 さて。突然で恐縮なのだが、最近の私はある悩みを抱えている。

 その悩みとは一つだけ。

『マスター。今月のお小遣いは残り500円です』

 今、私はトモキの家の居間でアルファーと聴覚をリンクしている。

 これで離れた所からアルファーを通してトモキの様子を知る事ができるのだ。

『分かってる。でも今月の目玉である『ドキッ! おっぱいだらけの秘密プール』と『大好き! 縞パン溢れるアイランド』。どっちにするか決められないんだ』

 トモキは相変わらずだ。いつもなら私もその場にいて文句の一つでも言うんだけど、今はそれができない。

 正直に言うと、私はアルファーにちょっと嫉妬してる。

『…どっちもは駄目か?』

『駄目です』

 私達みたいな可愛い女の子と生活を共にしているのに、どうして紙の本に執着するのか。トモキの性癖はまったくもって度し難い。

 

 ともあれ、なぜアルファーだけトモキと一緒に買い物をしているかというと。

 実はトモキが狙われている可能性があるからだ。

 

 

 

 きみののぞむもの 『裏編』

 

 

 

 私がトモキの周辺にいる不審者を見つけて一週間が経った。

 最初はアルファーにさえ秘密で様子を見ていたんだけど、相手に動きが無い日々に業を煮やした私はアルファーに相談したのだ。

『無念だ… 俺にもっと財力があれば、一方のエロ本に寂しい思いなんてさせないのに…』

『マスターの場合、財力よりも浪費癖の方が問題です。無節操です』

『うぐ。お前も言うようになったな』

『ありがとうございます』

『いや皮肉だからな!?』

『そうですか』

 結果、アルファーはトモキの護衛を担当し、私は不審者の監視を続けている。

 町中に設置した監視カメラは不審者の姿をしっかりと捕えている。

 …どこかで見た様な人相だけど、気のせいだろうか?

 いや、思い出せないという事はきっと大した関係のない人物なんだろう。

『ま、皮肉を言われるという事は人間らしくなってるって事か。良い事だよな』

『そうです、良い事です。なので、今後もマスターのエロ本の購入にストップをかけたいと思います』

『うん、お前はお前のままでいいんだぞ? 無理して変わる必要は無いんだ』

 トモキの甘言にアルファーが一瞬頷きそうになるが―

「アルファー、トモキは誤魔化そうとしてるわ。甘やかしちゃだめよ」

『…了解』

 ―こうやって私が注意しておけば大丈夫だろう。

『言動が矛盾しています、マスター。良い笑顔で誤魔化そうとしても無駄です』

『くっそぅ! もしやニンフが裏で入れ知恵してるな!?』

『ご指摘の通りです。さすがマスター』

『全然嬉しくねぇ…』

 トモキは私が裏でアルファーと繋がっている事をお見通しみたいだけど、まさか理由までは知らないだろう。

 …それにしても。会話だけ聞けば二人は口論しているように見えるが、実はアルファーがトモキとの会話を楽しんでいる事がよく分かる。

「あーあ、やっぱりアルファーの方が役得だな」

 トモキの側にいるのがアルファーというのは、私としてはちょっと辛い。

 私にも戦う力があればトモキの側にいられるのにと思ってしまう。

 

『む! フラレテルビーイングからの呼び出し(コールサイン)か!?』

『ただの携帯電話ですが』

『解説ご苦労! というわけで俺には使命ができたので買い物は任せた!』

 おっと、私が考え事をしている間にトモキがアルファーから離れようとしている。

『待ってろ女湯もとい俺の仲間たち!』

「今トモキを一人にするのは危険すぎるわ。追いかけるのよアルファー」

『ええ』

 いつもトモキに絶対服従のアルファーでも、守るべき相手を一人にするほど従順じゃない。

 アルファーは無言でトモキの後をついていく。

『………イカロス君』

『はい』

『俺は買い物を任せた、と言ったと思うんだが』

『…買い物は後でもできますので』

『いや、これは男同士の神聖な集まりなんだよ。だからだな』

 なにが『神聖』なんだか。どっちかというと『真性の変態』じゃないの。

『マスターのお邪魔はしません。私はただ見届けるだけです』

『………それは駄目だっ!」』

 たまらず逃げ出すトモキだけど、アルファーがそれを見逃す訳が無い。

 そもそも身長、体力からしてアルファーの方が上なのだ。あっという間にトモキに追いついて並走する。

『ちょっとだけ、ちょっとだけですから』

『そりゃ詐欺師の台詞だっ! ニンフだな!? またニンフが入れ知恵してんだな!?』

『ノーコメントです』

 いやトモキ、それ私の指示じゃない。

 最近のアルファーはジョークを身につけつつあるらしく、時々こういう言動をする。

 人間らしくなるというあの子なりの努力なんだろうけど、今の所は誤解を招くことがほとんどだ。

 

 

 フラレテルビーイングとは、要するにモテないダウナーが集まってスケベな活動をするミニチュアトモキの集団だ。

 この場だけでも十数人、町内にはこの数倍のメンバーがいるという。私はダウナーの在り方にほとほと呆れつつ、監視を続ける。

『…同志桜井よ。なぜイカロスさんがここにいる?』

『…すまん、振り切れなかった』

『我らの聖戦に女連れで現れた不届き者への処遇は?』

『死刑! 死刑! 死刑!』

『やっぱりかよおぉぉぉ!!』

『これが、神聖な集まり…?』

 違うわアルファー。どう見てもトモキがいつもされている私刑風景でしょう?

 

 

「ただいま~」

 フラレテルビーイングから一通りの制裁を受けたトモキと、何事も無かったように買い物を終えたアルファーが家の玄関をくぐる。

「おかえり。相変わらず傷だらけね」

「ふっ。これも男の勲章だ」

「仲間からの私刑だったくせに」

「ぐぬぅ! やっぱ覗き見してやがったなニンフ! このスケベ!」

「あんたにだけは言われたくない台詞だわ!」

 超絶エロ魔人のトモキにスケベ呼ばわりされるなんて、最高の屈辱だ。

 

『…ニンフ』

『大丈夫。トモキの護衛は私とデルタで引き継ぐから、ご飯の準備をしていいわよ』

 

 アルファーと通信のみで会話する。

 例の不審者は家の側でこっちの観察を続けている。隙を見せるわけにはいかない。

「いくわよデルタ。久しぶりに将棋でもしましょ」

「え~… ニンフ先輩強いからやだな~」 

「いいから来るの!」

「は~い」

 ちなみにデルタは何も知らない。この子に知らせても変に騒いでトモキに気付かれるだけだと判断したのだ。

 私が将棋盤を出している間に移動したのか、台所からトモキとアルファーの会話が聞こえる。

 まったく、変に動き回らないで欲しい。まあアルファーがいる所なら大丈夫だろう。

 

「なあイカロス、今日の晩飯は?」

「わ・た・し。です」

 

「ぶぅっ!?」

 思わず噴き出した。

「? イカロス先輩がご飯ってどういう意味ですか?」

「…あんたは知らなくていいのよ」

 アルファーのジョークは本当に誤解を招く。いや、今回は誤解というより冗談の質が悪い。

 

「………会長だな、吹き込んだのは」

「正解です。マスターの洞察力には時折ですが感嘆します」

「あの人以外の誰がいるんだよ」

 

 やっぱりミカコか。どうして彼女はいつもトモキをからかう事ばかりするのか。

 まさか好意の裏返しなのだろうか? いや、流石に無いと思いたい。

 

「とにかく、楽しみにしてるから」

「はい。もう少しお待ちください」

 

 トモキは本当に楽しみそうだ。

 …やっぱり、私も料理を覚えるべきなんだろうか。

 今までは苦手だからと避けてきたけど、そうも言ってられないかもしれない。

「さーて、ひと勝負するか?」

「ええ、もちろんよ」

 とりあえず腹が立つのでトモキを将棋でコテンパンにしよう。うん、それは楽しそうだ。

 

「ぐぬぬ…」

「すぴーすぴー」

 盤上はあっという間に私の優勢へと傾いた。デルタが退屈で居眠りを始めるほどに勝敗は明らかだ。

「…ねえ、トモキ」

「…ん?」

 私もあまりに退屈だったからだろう。

「私も、料理した方がいいのかな?」

 ついぽつりと、余計な事を口走った。

「ニンフはそれがやりたいのか?」

「…え?」

 トモキは何でもない事みたいに答える。

 どう、なんだろう。私は料理がしたいんだろうか。

 ただアルファーばかりにそれをやらせるのは何だか悪いし、トモキの為に美味しい物を食べさせてあげたい。それが理由のハズだ。

「別にやりたくないなら無理してしなくていい。少なくともイカロスはやりたいからやってるんだしな」

「そうなの?」

 アルファーはいつも無言で家事をしている。それが全然楽しそうには見えなかったんだけど。

「ああ。前に聞いたんだけどさ、あいつ家事が楽しんだってさ」

「へぇ…」

 そうか、アルファーって家事を楽しんでいたんだ。

 きっとトモキの役に立てる事が嬉しいんだろうな。確かにあの子ならそう感じてもおかしくない。

「だからさ。お前がやりたい事ならいいけど、やりたくない事を無理してする必要はないからな?」

「…うん。ちゃんと考えてみる」

「そっか」

 話はそれで終わった。

 私はそっけなさの中にあるトモキの優しさを十分に感じたし、トモキも私が納得した事が分かったんだと思う。

 少しだけ心地よい静寂が居間を支配する。

「お待たせしました」

「お、じゃあここまでだな。ふ、今日は引き分けだなニンフ」

「詰み一歩手前だったくせになに言ってんだか」

「わーい。ごっはんごっはん」

 その静寂を終わらせるアルファーの声にデルタが目覚めた。

 ちょっと残念だけど、仕方ないか。

 

「うん、やっぱイカロスの作った飯は落ち着くな。俺、もう炊事の仕方忘れちまったよ」

「そうですか。それは結構な事です」

「あのねアルファー。そこは一応たしなめる所よ?」

「むぐむぐ」

 …なるほど、よく見ると確かにアルファーは楽しそうだ。

「智樹のハンバーグもーらい!」

「甘いぜアストレア! お前のコロッケをいただく!」

「ああああー! 最期のコロッケー!」

 顔には出ていないけど、あの子にはこういう時間が何より大切なんだろう。

「ならニンフ先輩のをもらいますっ!」

「なんでこっちに飛び火すんのよ! 返しなさいデルタ―!」

「ふっふーん。ちっちゃいニンフ先輩の手じゃ届きませ~ん。ついでにイカロス先輩のも―」

「―絶対防御圏(イージス)展開」

「みぎゃあああぁぁぁぁ!?」

 デルタを遠慮なく吹っ飛ばすくらいにご機嫌なんだから間違いない。

「こらイカロスっ! アストレアごとちゃぶ台吹っ飛ばすな!」

「あたしの心配は?」

「いらん」

「そんなの無駄でしょ」

「不必要です」

「みんなしてひどっ!?」

 

 それが答えだ。アルファーはトモキと過ごすこの家の家事を心底楽しんでいる。

 ………やっぱりちょっと悔しいので、今後は私も家事を覚えようと思う。

 これはまぎれも無く私のやりたい事なんだから、トモキにだって口は挟ませないのだ。

 

『…ニンフ』

『わかってるわ』

 例の不審者が家を立ち去ろうとしている。今日も具体的な行動はなし、か。

 いったい何時まで続ける気なのかは知らないけど、いい加減にしてほしい。

 私もアルファーも早くいつもの心地よい日常に戻りたいのである。

『…こちらから仕掛ける』

『大丈夫なの? トモキを巻き込むのは駄目よ?』

『ええ、だからこっちから呼び出す』

 アルファーらしからぬ強引な手段だ。あの子も私と同様、この状況に苛立ちを感じているらしい。

『そう。任せるけど、くれぐれも用心してね』

『ええ』

 ちゃぶ台と食器を片づけるトモキからこっそり離れて玄関に向かうアルファー。

「ん? おいイカロス―」

「ああっ! トモキ、あそこにまだ無事なハンバーグが!」

「何ぃ!? ってイカロスのハンバーグじゃねぇか。とったらあいつが怒るぞ」

「でも無事なのはあれだけよ? ここは私達全員で奪い合うしか道は無いんじゃないかしら?」

 とりあえず私の仕事はこうやってトモキの気を逸らす事だろう。

「じゃあ私がいっただきまーす!」

『寝てろ全ての元凶っ!!』

 トモキと二人で復活したデルタを張り倒す。

 これでトモキの気も完全に逸れただろう。いやホント、デルタがKYで良かった。

 

 

 

 

 簡潔に言えば、戦いはアルファーの圧勝だった。

 …だけど。

 

「なんで毎度ながらぴんしゃんしてんのアイツ…!?」

「マスターに勝るとも劣らない生命力と生還能力。強敵だけど、私は負けない…! ニンフ、援護を」

 

 二週間の怪我を負い入院した例の不審者は、益々頑丈になって復活したのである。

 いや、そもそもアルファーがわりと本気で叩きのめしたダウナーが二週間程度で完治するのがおかしい。

 あれは本当に生物なんだろうか…?

 ともあれ、私も迎撃に借りだされる事になった。

 

「さあ、イカロスさん! 僕をもっと痛めつけてくれぇ!」

「………今、少しだけ理解不能な衝動を感じた。これが、愛?」

「いや違うから。アルファーが感じたのは『気色悪い』って感想だから」

 

 こんなのは愛じゃない。愛であってたまるか。

 私のトモキへの感情は断じてこれとは違うものなのだ。

 

「いくわよ! 超々超音波振動子(パラダイス・ソング)っ!」

超々高熱体圧縮対艦砲(ヘパイストス)、スタンバイ」

 

 私の日常にライバルは多い。

 アルファーにソハラ、ヒヨリにデルタ(一応)。と恋愛だけで手一杯だ。

 という訳なので、これ以上の厄介事は御免なのである。

 できるだけ早くこの不審者が諦めてくれる事を祈りつつ、私は最大攻撃を開始するのであった。

 

 

 

 ~了~


 
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