No.343082

真・恋姫無双~君を忘れない~ 七十二話

マスターさん

第七十二話の投稿です。
雪蓮のプロポーズが思わぬ展開に発展し、一刀は結婚すると言い出した小蓮と話をすることに。そして、彼女の覚悟を聞いて、更に困ってしまうのだが……。
どうしてまぁ何でもシリアスにしたがるのか、駄作なのはいつも通り、期待することなく御覧ください。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

続きを表示

2011-12-04 09:29:30 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7508   閲覧ユーザー数:5770

一刀視点

 

「さて……と」

 

 俺と尚香ちゃんは部屋で二人きりになった。姉である雪蓮さんや孫権さんがいなくなってしまうと、不安感が一気に溢れたのか、瞳を彩る澄んだ海色に恐怖心が強く滲み出た。やはり心から俺との結婚を受け入れたいわけではないのだろう。

 

 尚香ちゃんは俺から離れると、少しだけ後ずさりした。きっと男と二人きりになったことすらないのだろう。孫家の姫ともなれば、そういう経験が少ないのも当たり前だ。彼女に相応しい男性でなければ、近寄ることすら出来ないかもしれない。

 

 孫家の姫君なんて、普通に仕官している人間にとっては正に高根の花もいいところだろう。雪蓮さんの妹――それはすなわち王の妹ということだ。もしも泣かせようものなら、どんな大罰が与えられるか分かったものではない。

 

 そういえば、三国志演義における孫尚香って、侍女に全員武装させるなど、兄譲りの性格をしていたような気がするな。こっちの尚香ちゃんは気が強い感じがしないけれど、やっぱりお転婆だったりするのだろうか。

 

 雪蓮さん自身が自由な人だから、それは尚香ちゃんも同じなのかもしれない。次女の孫権さんは真面目そうな――真面目過ぎる程の堅物っぽそうだけれど、そう考えると、彼女たちの母親である孫堅さんはどんな人なんだろう。

 

 かつて桔梗さんから孫堅さんの人柄を聞いたことがある。翡翠さん同様、身体から覇気を漲らせているような――桔梗さんの言葉を借りれば、正に人間というよりも獰猛な虎に近い存在らしいのだけれど。

 

 まぁ、とりあえず今は尚香ちゃんの話を聞くことの方が肝要である。少なくとも彼女が俺との縁談を受けると言ったのは、思いつきの類ではないのだろうから。何か深い事情があるように思われる。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。別にとって食ったりしないから」

 

「……うん」

 

 まずは彼女をリラックスさせなくてはいけない。どうして彼女が俺との縁談を受け入れようとしたのか――しかも、彼女自身は本当にそれを望んではいない。きっと何かそうしなくちゃいけない事情があるのだろう。

 

 幸いなことに俺はそこまで強面する方ではないから、尚香ちゃんも少しだけ安堵したような表情を浮かべてくれた。これで少しは俺に対して、心を開いてくれて、彼女が何を考えているのかを話してくれるかもしれない。

 

「それで、尚香ちゃん、どうして俺と結婚して良いって言ったんだい?」

 

「そ、それは……」

 

「俺のことを気に入ってくれたって言ってくれたけど、それは嘘なんだろう?」

 

 その可能性がないわけではないと思うけど――この世には一目惚れなる現象だって存在している。俺自身はその経験はないし、逆に俺が誰かに一目惚れされるような男前だってとてもではないが思えない。

 

 尚香ちゃん自身が何か思うところがあって、自らが益州と孫呉のかけ橋――悪く言ってしまえば政略結婚の犠牲、生贄になろうというのだろう。だけど、その理由が俺には分からない。

 

「ち、違うもんっ! シャオは本当に一刀のことが――」

 

「本当のことを言ってくれないか? そんな悲しい目をして好きだって言われても、俺は全く嬉しくないよ」

 

「シャ、シャオは……」

 

 尚香ちゃんの声は徐々に消え入りそうな程に小さくなっていった。既にその表情には、先ほどまで浮かんでいた蠱惑的な微笑みはなくなっていた。もう俺と目を合わそうともしてくれない。

 

「やっぱりあれは演技だったんだね?」

 

 俺の言葉に尚香ちゃんは力なく頷いた。その瞳には少しだけであったが、涙も浮かんでいた。これまで男の人とは接点もなかったのに、あんな風に小悪魔的な少女を演じたのだから、怖かったに違いない。

 

「話してくれないかい? どうしてあんなことを言ったのかを」

 

「…………」

 

 唇を強く噛み締めて沈黙してしまう尚香ちゃん。今のところ、彼女が孫家の姫であることしか知らない、俺にとってはその意味は分からない。三国志演義の知識も、結婚相手が俺ならば役に立たないだろう。

 

「安心してよ。これから君が話す内容は、お姉さんにも誰にも言わない。俺たちだけの秘密だ」

 

「……ホント?」

 

「勿論だ。この天の御使いの名にかけて、君との約束は守るよ」

 

 その言葉が決め手になったのか、尚香ちゃんは訥々と語り出してくれた。どうして彼女が、この縁談が政略結婚であるという事実だと承知の上で、別に好きでもない俺との結婚を受け入れると申し入れたのか。

 

「……シャオはお姉ちゃんたちの役に立ちたかったの」

 

「役に立つ?」

 

「うん……。シャオはお姉ちゃんたちと違って、何にも才能がないから。皆のために働くことが出来ないから」

 

 俺はこの少女の孤独な人生と、俺との縁談を受け止める覚悟をそこで初めて知ることになったのだ。こんな幼い少女が、自分のこれからの人生を全て棒に振っても構わないという想いと、孫家の絆について。

 

小蓮視点

 

「……シャオはお姉ちゃんたちの役に立ちたかったの」

 

「役に立つ?」

 

「うん……。シャオはお姉ちゃんたちと違って、何にも才能がないから。皆のために働くことが出来ないから」

 

 シャオはずっとお姉ちゃんたちの後姿を見てきた。まだお母様が生きていたときから、シャオたちは仲の良い姉妹だったもん。シャオはいつも二人の後ばかり追いかけていたわ。大好きな大好きなお姉ちゃんだから。

 

 だけど、お母様が戦中に死んじゃって、シャオたちはバラバラになっちゃった。もう大好きなお姉ちゃんたちにも、祭や冥琳たちとも会えなくなっちゃったの。シャオは一人ぼっちでずっと寂しかった。

 

 だから、袁術から独立してまた家族が揃うことが出来たとき、すっごく嬉しかったよ。またお姉ちゃんたちと一緒にいられるし、それに新しい仲間もたくさん出来たんだもん。やっとこれで前みたいに楽しく暮らせるって思ったの。

 

 でも、そうはならなかった。シャオはあんまり頭が良くないから、詳しいことなんて分かんないけど、今がとても大変な時期だってことくらいは分かるわ。お姉ちゃんたちもシャオたちが幸せに暮らせるようにって毎日頑張っているもん。

 

 雪蓮お姉ちゃんはこの頃お母様に似ているって思うことが多くなったの。勝手気ままで、家臣の皆を振り回すけど、誰からも愛されて、皆の頂点に立つ姿は、惚れ惚れする程にカッコイイの。シャオの大好きな雪蓮お姉ちゃん。

 

 蓮華お姉ちゃんはすっごく真面目でシャオも怒られてばかりいるわ。いつも眉間に皺を寄せているような怖い顔をしているけど、時々優しく笑いかけてくれるの。その微笑みは、やっぱりお母様に似ていて、すごく温かいの。シャオの大好きな蓮華お姉ちゃん。

 

 じゃあ、シャオは……?

 

 同じお母様の子供なのに、シャオはお母様のどこに似ているの? シャオは雪蓮お姉ちゃんみたいに強くて皆を率いて戦うことも出来ないし、蓮華お姉ちゃんみたいに政で民の皆が過ごしやすいようにすることも出来ないの。

 

 シャオは……シャオは何にも出来ないの。何の才能にも恵まれず、大好きなお姉ちゃんたちを手伝うことも出来ないの。

 

 ――小蓮、あなたは好きなように生きなさい。何にも縛られず、自由な鳥のように羽ばたきなさい。

 

 あるとき、雪蓮お姉ちゃんがシャオに言ってくれた言葉――それはきっとシャオのことを考えてのことだとは分かっていたわ。だけどね、お姉ちゃん、シャオのしたいことはお姉ちゃんたちを手伝うことなんだよ?

 

 やっと一人ぼっちじゃなくなったと思ったのに、シャオは何の役にも立たない娘だから――逆にシャオがいるから皆の足枷になっちゃうかもしれないもん。結局のところ、シャオは誰からも必要とされないんじゃないかって思うようになったの。

 

 だけど、益州の人たちと同盟するからって聞いたとき、天の御遣いさんを見たくなって少しだけ我儘を言って、江陵まで付いて行ったんだけど、そのとき、シャオが皆の役に立てるかもしれない話を聞いてしまった。

 

 シャオが持つ、唯一他の人たちには持っていないもの――才能とは違うものだけど、それはある意味ではお姉ちゃんたちのために有効に使うことが出来る。そう――私はお姉ちゃんたちの妹であり、孫家の姫であるということよ。

 

 最初は天の御遣いさんの顔を少しだけ覗き見ようって思っただけだったの。雪蓮お姉ちゃんが認める程の人だから、どんな風な人なんだろう、カッコイイ人なのかなぁって、ちょっと興味があっただけ。

 

 だから、まさか、あんな話をしているなんて思ってもなかった。だけど、反対しようとするお姉ちゃんたちが、それでも張昭の言葉を覆すことが出来ないでいたから、きっとそれは正しいことなんだって思ったわ。

 

 気付いたら、声を上げて部屋の中に飛び込んでいたわ。皆が目を丸くしてシャオの登場に驚いていたけど、シャオはそれをなるべく見ないようにして――見てしまったら、シャオの心に気付かれてしまうから、一目散に御使いさんに抱きついたの。

 

 正直なことを言えば怖かったわ。勿論、お城に仕えている人とか兵士さんとは平気でおしゃべりだってするし、ふざけて抱きついたりもするけど、皆シャオのことを娘とか妹とかみたいに扱ってくれるもん。

 

 呉に住む人は家族だもん。だから、お父さんやお兄ちゃんに触ることに抵抗なんかないわ。だけど天の御遣いさんは違うの。この人はこれからシャオの旦那さんになる人だけど、今はあかの他人――どんな人かも全然分かんない人だわ。

 

 全く知らない人に抱きついて、結婚を受け入れて、きっとこの人と暮らさなくちゃいけなくなるの。また大好きなお姉ちゃんや皆と離ればなれになって、行ったこともない益州で寂しい思いをするかもしれない。

 

 そう思っただけで怖く怖くて身体が震えそうになったわ。本当な結婚なんてしたくない。ずっとお姉ちゃんたちと側にいたいって叫びたかったの。だけど、それを誰にも悟られないように必死に耐えたわ。

 

 だって、もしもシャオがそれを我慢すれば、お姉ちゃんと天の御遣いさんたちは仲良く出来るんでしょう? シャオが少しだけ我慢すれば、曹操軍とも充分戦えるようになって、戦争を終わらせることが出来るんでしょう?

 

 だったら、シャオは我慢する。これまでだって、ずっとお姉ちゃんたちと会いたかったのを我慢してこられたんだもん。また、少しだけ我慢していれば済む話だもん。

 

 シャオは何にも出来ない娘――だけど、こんなシャオだってお姉ちゃんたちの役に立つことが出来るんだったら、好きでもない人と結婚くらい――政略結婚くらい我慢できるもん。

 

 大好きなお姉ちゃんの役に立ちたいんだもん。

 

一刀視点

 

「じゃあ……君はお姉さんのために、俺と結婚するっていうのを受け入れたのか?」

 

「……そうよ」

 

 尚香ちゃんの話を聞いて俺は愕然とした。こんな幼い少女が、仮に大好きな姉のためとはいえ、本気で自分を犠牲にしようとしているのだ。それほどまでに家族であり、愛する姉のために想っているということなのだろう。

 

「だけど、そんな……。それで尚香ちゃんは良いのかい?」

 

「……シャオが少しだけ我慢すれば良いんだもん。大丈夫だよ」

 

 口ではそう言っているが、尚香ちゃんの笑顔はどこかで儚げで、まるでこれからの人生を既に諦めているように思える。知らない男の許に嫁に行くなんて――仮に孫呉のためとはいえ、俺には理解出来ない。

 

 それがこの乱世を生きる女性――武の道にも文の道にも生きていない女性の生き様なのだろうか。孫家に生まれたということで――それは確かに高貴な生まれではあるのだけれど、その道を選ばざるを得ないなんて悲し過ぎる。

 

 現代に生きていた俺にとって政略結婚なんて慣れ親しんだ言葉ではない。未だに世界にはあるのかもしれないけど、一般家庭で育った俺にとって、好きでもない人間と結婚するなんて信じられない。

 

 そして、この同盟でもっとも重要なのは、孫呉と益州の絆――血縁関係を作ることである。すなわち、それは孫家と俺との間に子供を作るということに繋がる――いや、張昭さんはそこまで見越している。

 

「分かっているのか? 俺と結婚するということがどういう意味なのか――」

 

「そんなの分かってるよ。シャオだって、もう子供じゃないもん。シャオは一刀と子供を作ればいいんでしょ?」

 

「そんな軽々しく――」

 

「いいんだよ。シャオはもう覚悟が出来てるの。そんなことくらい我慢出来るもん」

 

 もう覚悟が出来ている?

 

 そんなこと我慢出来る?

 

 どうしてそこまでのことが言い切れるんだ。子供を作るということがどういうことなのか、知っているのか? 母親になるってことがどういうことを指しているのか分かっているのか?

 

 思わず怒鳴りそうになってしまったが、何とか踏みとどまった。彼女はそのことについて本当に理解した上で、そう言っているんだ。幼い彼女にとっては、それは現実的ではないのかもしれない。しかし、彼女は何よりも姉のためにどんなことでもしようという覚悟が、既に出来あがっているのだ。

 

 未熟な思考の上に成り立った覚悟は、俺の言葉では崩すことの出来ない程に強固になっている。しかもその思考基準が、彼女が大切にしている家族ということに起因している。そこから下された結論は、それ以上の事柄ではないと覆ることはない。

 

「お願い一刀。シャオにお姉ちゃんたちを助ける機会をちょうだい。こんなシャオでも皆の役に立てるってところ見せてあげたいの」

 

 俺は勿論、この縁談を受けることは出来ない。こんな幼い少女がここまでの覚悟をしているとはいえ、それは間違った覚悟なのだ。そんな覚悟は――いや、覚悟だなんて呼べる代物ではない。それであの二人が喜ぶはずがないのだから。

 

 だけど、俺がそう言ったところで、きっとこの娘は納得なんてしない。無理矢理に納得させることが出来たとしても、彼女はまた自責の念に囚われ続けるのだ。自分が姉の役に立たない者であると、ずっと思い続けるのだ。

 

 ここにおいて、厄介な問題なのが、俺はこの娘が皆の役に立つと証明しなくてはいけないのだ。そうしない限り、この娘がその考えから抜け出せることはない。俺との結婚ということに拘り続けてしまうだろう。

 

 益州と孫呉との同盟を確固たるものにすると同時に、この娘を納得させるだけの代替案まで考えなくてはいけないんだ。そうでないと、最悪の場合、俺たちの同盟が破綻してしまうかもしれない。

 

 尚香ちゃん自身はそこまで考えることが出来ていないのだろう。張昭さんの言う通り、この縁談が成立して、仮に俺たちの子供が産まれたら、俺たちの同盟は何よりも固い結束で結ばれることになるのだから。

 

 だけど、それは最初にあった信頼関係――俺と雪蓮さんの間に亀裂を生じさせてしまうかもしれない。実際問題、三国志演義においても、義兄弟になった劉備と孫権は最終的に争うことになったのだから。

 

 何かないか。彼女を納得させることの出来る方法は。

 

 彼女の根底にあるのはただ純粋に姉の役に立ちたいという想いだけ。そこをクリアさえすれば、どこかに活路があるはずだ。この同盟において、彼女が担うことの出来る役割が必ずどこかに――そうかっ!

 

「残念だけど、尚香ちゃん。俺は君とは結婚は出来ないよ」

 

「そんなっ!」

 

「俺にはもう家族になりたいと思える人がいるんだ。そして、俺は君にもそんな人間と結ばれて欲しい」

 

「でもそれじゃ、シャオはずっとお姉ちゃんたちの役に――」

 

「いいや、それは違う。一つだけ、君が出来ることがあるんだ」

 

「それは……?」

 

「詳しくは皆の前で説明するけど、一つだけ訊いてもいいかな?」

 

「うん」

 

「尚香ちゃんは、お姉さんのためなら、どんな努力も惜しまないね?」

 

 それは俺がかつて考えたことあるものだった。この時代にまだ生まれていない概念――それは皆にとっては突拍子もないことかもしれない。果たしてそれが上手く機能するかも自信がない。だけど、この娘を救うためには――いや、この娘だけではない。彼女たちのためにはこれは必要かもしれないんだ。

 

雪蓮視点

 

「はぁ……」

 

 思わず溜息が洩れてしまったわ。当たり前よね。今回の件に関しては、完全に私が悪いんだもの。まさか、私が考えたことがこんな展開になってしまうなんて、いくら後悔しても足りないわ。御遣いくんに何て言えばいいのかしら。

 

「雪蓮?」

 

「あら、冥琳、どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないだろ? お前がそんな顔をしても何も始まらない」

 

「分かってるわよぅ……そんなこと」

 

 今は御遣い君が小蓮と二人で話しているわ。一体何の話をしているのかしら? 御遣い君もまさかあんな幼い小蓮と本気で結婚しようと思っているわけじゃないと思うけど、問題なのはどうやって説得するかよね。

 

 小蓮も小蓮よ。どうしてあんなことを言ったのかしら? あの娘は私に似て自由奔放なところはあるけれど、思い付きであんなことを言う娘じゃないわ。何があの娘を突き動かしているのかしら?

 

 小蓮はずっと私や蓮華の後を追いかけてばかりいて、悪戯好きで、身勝手で、だけど、誰よりも寂しがり屋な娘だったもの。母様が戦死したとき、いつまでもあの娘は泣いていたわ。一人じゃ寝られずに、夜になってから私の寝所に来ることも度々あったわ。

 

 誰よりも甘えん坊で、それから私と蓮華がこの娘の母親代わりになろうって決めた。この乱世に身を投じるのは私とその後継者の蓮華だけで充分だって。あの娘にはあの娘だけの幸せを掴み取ってもらいたいって蓮華と話し合ったわ。

 

 それがどうしてこんなことになってしまったのよ。もしかしたら、既に小蓮と張昭の間でそんな話が――いいえ、この話は私から始めたことだし、最初は張昭だってうろたえていたわ。だから、その可能性は限りなく少ないわね。

 

 他の面々もやはり中の二人が気になるのか、そわそわと落ち着かなくしている。私たちだけでなく、益州の将にとっても一大事よね。自分たちの主がいきなり私の妹と結婚して、私の義理の弟君になるなんて、混乱して当然だわ。

 

「お待たせしました」

 

 そのときやっと部屋から御遣い君が出てきたわ。後ろには小蓮がいて、何を考えているのか、俯いているので表情から読み取ることが出来ないわね。

 

 私たちは続々と部屋の中に入り、御遣い君がどのような結論を下したのかを固唾を呑んで見守っているわ。彼自身は何かを決意したような表情をしているのだけど、まさか、小蓮と結婚するとか言わないわよね。

 

 もしも、そうだとしたら、私はどんな顔をすれば良いのかしら? いいえ、小蓮が本当に彼を愛していて、彼もそれを受け入れたのであれば文句はないわ。心から小蓮と御遣い君の結婚を祝えると思うわ。

 

 だけど、そんなことってあり得ないわよね。御遣い君はどこか憎めなくて、見た目に関してはどこにでもいるような人だけど、話してみると奥が深いっていうか、どうしても気になってしまうような感じがするわ。でも、小蓮は彼とはほとんど会話していないのよ。それで彼に惚れるなんておかしいわ。

 

 だから、もしも小蓮が御遣い君を愛していないというのに、結婚すると言い出して――どうしてそんなことを言ったのかは分からないけど、それを御遣い君が認めたとしたら、私は彼のことを許さないかもしれない。

 

 孫呉を治める王として、政略結婚くらい認めなくてはいけないだろうけど、それだけは認めることは出来ないわ。あの娘は私たち家族の宝だもの。彼女を穢すような人間をこれからも信頼なんて出来ないわ。

 

「あ、美羽、ちょっとこっちに来てくれないか?」

 

「何じゃ、主様」

 

「大丈夫だよ。ほら、おいで」

 

 御遣い君は袁術ちゃんを近くに座らせたわ。袁術ちゃんは彼が本当に結婚すると未だに思っているのか、とても不機嫌そうだった。

 

「……か、一刀さん?」

 

 それに対して声を出したのは張勲だった。何故かとてもおろおろしているというか、まるで彼がこれから何を言うのかを察してしまったように、彼の行動を止めようとしていた。

 

「すいません、七乃さん。どうしてもこれしか思いつかなくて……」

 

「え? 本当にするんですか? でも、それは――」

 

「一体何の話をしているの? 今は袁術のことよりも小蓮の話でしょう」

 

 蓮華がこれ以上堪えられなくなったのか、少し声を荒げて先を進めるように促した。

 

「あ、ごめんなさい。じゃあ、話しますね」

 

 誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。それは私かもしれないし、蓮華かもしれないし、益州の誰かかもしれない。そんなことも分からない程に、御遣い君がこれから何を話すのかを皆が待っていた。

 

 そのとき小蓮が初めて私の顔を見たわ。いつもの小蓮とは違って、その表情には笑顔がなかったわ。私たちが見たこともないような――何かを強く想っている大人びた表情を浮かべていた。

 

「雪蓮さん、さっきの話――江陵のことなんですけど、やっぱり孫呉には渡せません」

 

「え、ええ。それは構わないわ。江陵については、占領したのは君たちだもの、私は君の言葉に従うわ」

 

「ありがとうございます。それでは、結論から言わせてもらいますね」

 

 どうして、そのとき御遣い君が江陵のことについて言及したのか分からなかった。私自身も蓮華同様に、そんなことよりも小蓮のことについて聞きたかったのだから、正直に言えばそこまで深く考えていなかった。

 

 彼のその発言を聞くまでは。

 

「江陵の地は、ここにいる尚香ちゃんと、美羽――袁術に譲ります」

 

あとがき

 

 第七十二話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 昨日深夜まで粘って書いたのに、投稿しようと思ったらまさかのゼリー嬢orz

 

 さて、今回は小蓮の心情描写をメインに描きました。どうして彼女が一刀くんとの結婚を受け入れると言ったのか、それは彼女が二人の姉の役に立ちたいと思い続けていたからなのです。

 

 本作品の小蓮についてですが、原作よりもかなり幼く描写しております。原作では一刀と平気で触れ合うなど小悪魔要素満載なのですが、少しばかり初心に設定してみました。

 

 だから、これまで知り合ったことのない人物――それが一刀くんであっても、馴れ馴れしくすることに抵抗を覚え、彼に恐怖すら抱いてしまったわけですね。

 

 雪蓮のフリーダム発言がどうしてまぁここまで重苦しい展開になってしまったのか。シリアスならば良いというわけではないのは分かっているんですけどね。

 

 孫呉は物語上そこまで出て来ないので、誰か一人でもスポットを当てた話を作りたいなと思い、それならば小蓮のシリアス風味な話にしようと思ったわけです。

 

 さてさて、そんな悲壮な決意耳にした一刀くんは勿論困ってしまいます。彼女の決意は固く、容易には説得出来ず、彼女も納得するような物を考えなくてはならなくなりました。

 

 どうやら、何か妙案が浮かんだ様子ですが、そこには美羽が一枚噛んでいるようですね。最後の台詞、江陵を二人に譲るとはどういう意味なのか?

 

 益州と孫呉は無事に同盟を組むことが出来るのか? 次回までごゆるりとお待ちください。

 

 さてさてさて、それから前々回のコメントでは未だにヒロイン候補の恋姫の名が複数上がり、作者として困ってしまいました。愛紗、桃香、月、詠、雪蓮、小蓮、今のところ挙がっている名はこんなものでしょうか。

 

 まぁ読者様のご要望には出来る限り応えたいと思っているので、書けるかどうかは確約出来ませんが、出来る限り書こうとはしてみます。

 

 では今回はこの辺で筆を置かせて頂きます。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
69
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択