No.330720

真説・恋姫†演義 仲帝記 第四羽「籠の鳥は外界を知り、羽ばたく事を欲す」

狭乃 狼さん

サブタイトルがまた前回と違う事をお詫びしつつ。

ども、似非駄文作家の狭乃狼です。

今回のお話は一刀と出会った美羽が一大決心をする、

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2011-11-06 20:31:40 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:14351   閲覧ユーザー数:8812

 

 籠の鳥。

 

 羽ばたくことさえ知らず、また教えられることも無く、そしてそのことになんら疑問を覚える事も無かった、無垢で哀れな幼き鳥。

 

 そは少女。

 

 幼くして母を亡くし、己が立場を理解する事無く、玉座と言う名の雛壇に、見目麗しく、ただ飾り付けられただけの人形。

 

 故に、少女は未だに知らない。

 

 己が置かれたその立場も、籠の外の苛酷な環境も、籠に入れられ覆いを被され、外を知ることすら許されなかったが為に。

 

 だがある時、その機会は唐突に訪れた。

 

 ある日の昼食後、好物の蜂蜜をふんだんに溶かした甘露を飲み干し、中庭へと側近の女性と共に散策に出た少女は、ふとしたことからその女性とはぐれてしまう。ほとんど初めてと言っていいほど、中庭という狭い敷地とはいえ突然独りになってしまった少女は、自身が顔を知る者を捜して、独り周辺を探索し始めた。

 

 そして、それを見つけた。

 

 少女の暮らすその敷地と、外の世界とを遮断している、少女からすれば天にも届こうとしているかのように見えるその壁の、とある一箇所に開いたその“穴”を。 

 

 外の世界を知る好機。

 

 その心に湧き上がった、未知なる場所への恐れよりも、その人一倍強い好奇心の方が勝り、少女は生まれて始めて、外の世界へとその歩を踏み出した。

 

 始めてみる外の世界は、少女にとってそれは刺激的なものだった。見る物聞く物、その全てがほとんど初めてのものばかり。彼女は夢中になって街中を走り回り、くたくたになるまで遊びまわった。少女にとってその時幸運だったのは、普段その身に纏っている豪奢な衣服を、庭での散策で汚さないようにと気を配った小間使いによって着ておらず、何処にでもあるような袍を身につけていたこと。そして万一自分が居ないときに、顔を知らぬ者から名を聞かれた時には、けっして“姓名を名乗らないように”と、側近の女性からそう諭されていたことだった。

 

 それ故、自身の身分が明かされる事も無く、少女は街中の同年代の子供たちとも打ち解けることが出来、ただの世間知らずな少女として振舞えた。もっとも、その初めて外へと出た日の帰り、先の抜け穴から壁の内側へと戻ったその時、とある人物にその瞬間を目撃され、こっぴどく叱られてしまったが。

 

 だが、少女はそれ以降も、こっそり壁の外へと抜け出しては、街で遊ぶということを幾度と無く繰り返した。そのことをただ一人知る人物も、彼女にとってはその方が良いかもしれないと、密かにその跡をつけて監視するに留めおき、少女の行為にはけっして干渉する事無く見守り続けた。

 

 そして何度目かの外出をしたその日。少女はついに“知ってしまった”。己が住むその街の、過酷で醜い現実を。自身が本来なすべきその責務を、己の知らぬところで利用され、そしてそれによる結果の全てが、自身の“罪”となっているその事を。

 

 その少女こと袁公路は、初めて心底からの悔恨の涙を流した。……自身の身を守ろうとして傷つき倒れ、そして何故か穏やかな表情をして眠る、一人の青年のその顔を見ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 第四羽「籠の鳥は外界を知り、羽ばたく事を欲す」

 

 

 

 

 

 何かの話し声が聞こえる。

 

 「……じゃから……この事……」

 「それは……ですが……さま」

 

 片方は少女と思しき高い声。もう片方は凛とした感じの大人の女性の声。覚醒しつつあるその意識の中、彼の耳が捉えていたそれらは、寝台に横たわる彼のすぐ近くから聞こえてくる。

 

 「美羽嬢も巴ちゃんもちょっと落ち着きなさい。あんまり騒がしくすると、彼が起きてしまいますよ?」

 「……す、すまぬ……。じゃ、じゃが秋水よ?これだけは教えてたも!さっきの兵士が言っていた、あのような無体な法、本当に、妾が出した事になっておるのかや?」

 「……ええ。本当です」

 「秋水どの!」

 

 二つの女性の声に混じって聞こえたのは、どうやら諸葛玄のものであるようだ、と。いまだ意識が朦朧としているものの、彼の、一刀のその耳には判別が出来ていた。そして諸葛玄が少女らしきものに聞こえた声に対してした返答に、残るもう一つの声の主が思わずといった感じで慌てふためく、そんな叫びにも似た声を響かせる。

 

 「巴も、知っておったのか……?」

 「……はい」

 「七乃も……かや?」

 「……もちろん、知っていますよ」

 「白洞も、美紗も、城の他の者も全て、か……?」

 『……』

 

 ……少しづつはっきりとしてきた意識の中、一刀はうっすらとその両目を明け、そしてその視界に入ってきた三人の内、金髪の少女が最後に問うたその言葉に無言で頷く諸葛玄と、そして自身の記憶にも新しい、その真紅の髪の女性の痛々しいまでの表情を見て取った。

 

 「そうか……。妾だけが、妾一人だけが、なんにも知らなかったのじゃな……。いつも一緒に遊んでいたあの者達も、顔や言葉に出さずとも、ずっと、ずっと、苦しい思いをしていたのじゃな……」

 「……美羽様」

 「……嬢」

 

 わなわな、と。その拳を強く握り、薄紅色をしたその小さな唇を強く噛み締め、少女は俯いたままで涙を流していた。……たとえ、実際にそれらを行わせたのが自分ではなくとも、その事を全く知りもせず、知ろうとさえしなかった自分が、例えようのないほどに許せなかったから。

 

 「のう、秋水!今からでも、妾に何か出来ることは無いのかや!?友たちを助けるため、街の、いや、郡全ての者達を救済するために、妾に出来ることは……っ!!」

 「……正直難しいですねえ。美羽嬢がその気になってくれたのは、僕としても応援したい所ではあるんだけど……」

 「仮に、現在郡内で適用されている法、そのすべてを撤回して新しい法を流布させたとしても、それによって混乱が生まれ、そこから生じる弊害の方がかなりその割合を占めることは、想像に難くありませんし……」

 「けど一番の問題は美羽嬢…袁公路という名の人間に対する民の憤りが、かなりの所まで高まってしまっている事ですねえ。……まずはその悪評をどうにかしないと、何も始められないと思いますよ?」

 「じゃ、じゃが、そんなこと、簡単に出来るものでも……」

 

 「……一つだけ、手があるよ」

 『え?』

 

 

 ゆっくりと。寝台から起き上がり、その一言を呟いた一刀に、三人が驚きの表情と声と共にその視線を向ける。

 

 「北郷君。もう起きて大丈夫なんですか?」

 「ええ、なんとか。……って。あれ、貴女はさっきの……」

 「さっき、と言ってももう半日ぐらいは経っていますけどね。……姓は紀、名を霊、と申します。北郷殿……でしたね?美羽様の危難を救っていただき、真に忝くおもいます。改めて、この場にて御礼申します」

 

 その真紅の髪の女性、紀霊が自身の姓名を名乗りつつ、少女を庇い救おうとした事を、一刀に対して拱手と共に礼を述べた。

 

 「いえ、その。……人として、無体な真似が許せなかった、ただそれだけですよ。それに結局、おれ自身はこうして気絶していたわけですし」

 「そんなことは無い!お主が助けに入ってくれたから、妾はこうして無事にしておられるのじゃ!北郷とやら、改めて、妾からも礼を言うのじゃ。……その、助けてくれてありがとうなのじゃ!」

 「……っ!?」

 

 自身に向けられた、少女のそのまるで向日葵のような笑顔に、一刀の心臓は思い切り飛び上がった。まるで今すぐにでも破裂するのではないかと言うぐらい、その鼓動は激しく脈打ち、その顔に一気に上がった血流によって、一刀の顔は一瞬にして耳まで真っ赤になった。

 

 「(なんだ?!なんで俺、こんなちっちゃい子に、こんなにどきどきしてるんだ?!……ま、まさか俺、ロリ○ン……だったのか?いや!そんな事は断じて……!!)」

 「?……どうしたのじゃ、北郷?なんで妾から顔を背けるのだ?」

 「え?!あ、いやその、それは……っ!!」

 

 童顔としか言い様無いその愛らしい顔を、怪訝そうな表情にかえた少女が、いきなり自分から顔をそらした一刀に対し、その顔を覗き込みながら少々不機嫌な声をかける。一刀は一刀で、すぐ近くまで迫った少女のその顔を、正面から直視する事ができず、慌ててその顔をあさっての方へと向けていた。

 

 「(……あら、北郷さん、もしかして……?ふふ、どうやら、見た目に反して相当初心(うぶ)な様ね、この子)……美羽様?せめてお名前ぐらい、名乗られてはどうですか?命の恩人に対し、とるべき礼はきちんととりませんとね」

 「う、うむ。そういえばまだ名乗っておらんかったの。……こほん。妾は姓を袁、名を術、字を公路じゃ。以後、よろしく見知り置いてたも?」

 「……そか。君が袁じゅ、いや、袁公路さん、なんだ……。あ、えと、その、北郷、一刀、です。……姓が北郷で、名が一刀。字はありません、です」

 

 相も変わらず顔を真っ赤にしたまま、その少女、袁術からの自己紹介を受けた一刀が、自身も同じように自己紹介をして返した。……何故か言葉使いが敬語になっていたが。

 

 「くっくっく。いや、初々しい光景ですねえ。若いってのは羨ましいですよ」

 「い、一真さん!!」

 「ま、君をからかうのはさておいて。……北郷君?先ほど言った“手”とは、一体どんなものです?」

 「……勘弁してくださいよ、もう……。……手、といっても手段自体は至極単純ですよ。ただし……」

 『ただし?』

 「……公路さんに、“それ”を行う覚悟があるかどうか……です」

 

 袁術の事をじっと見据え、真剣な表情をして一刀が語った、袁術の悪評を一気に吹き飛ばすためのその策。その策を実行する事になる当の袁術は、それを聞いた途端瞬時にしてその顔を真っ青にし、諸葛玄と紀霊の二人も、一様にしてその顔を曇らせたのである。

 

 

 ちょうどその頃、宛の城内を一人の女性が駆けずり回っていた。

 

 「お嬢様~!何処にいらっしゃるんですか~!?隠れていないで、七乃に姿を見せてくださいよ~!」

 

 一見、バスガイドかキャビンアテンダントのようにも見える、袁家の近衛軍正式採用の軍服を身に纏った、その青い髪の女性。姓を張、名を勲といい、袁術の側近兼お世話係にして、袁家軍の大将軍という地位にある人物である。

 

 「お嬢様~?……もう、ほんとに何処行ってしまわれたんでしょう~?……もしかして今頃、私の目の届かない所で、泣いていたりしていませんでしょうねえ~?……美羽さまの泣き顔なんて言う貴重なものを見れないだなんて、この七乃、一世一代の不覚ですよ~。……まあその後に?お嬢様を泣かせた元凶さんにはしっかり、この世からご退場願ってもらいますけどね~」

 

 物騒な事を笑顔で平然と言う張勲。……彼女の言うところのお嬢様、つまり、袁術が見せる様々なしぐさのどれ一つをとっても、彼女にとっては垂涎もののお宝であり、そんな中でも彼女がもっとも愛らしいと思えるのが、袁術の醜態なのである。そしてそんな袁術の醜態を見たいがために、それをやれば確実に袁術が泣いてしまうようなことも、彼女はいとも簡単に行ってしまう。……ただし、それはあくまで自分が行うからこそ良いのであって、他人が自身と同じ事を袁術にしようものなら、彼女はそれを決して許さず、裏から色々と手を回し、それを行った者を闇から闇に葬り去っても居る。

 

 つまるところ、袁術を時に持ち上げ、時にいじり倒して、様々な表情や痴態を見ることが、張勲と言う人物の最上級の楽しみなわけである。……まあ、その本人いわく、袁術への愛あればこその行動らしいのだが、端から見ている者達にとっては、とてもそうは思えないことも多々あったりするのが、袁家では公然の秘密だったりする。

 

 「七乃ちゃ~ん?どうかしたんですか~?」

 

 ひょっこりと。その場に現れたのは、両手に大量の竹簡を抱えた雷薄。相も変わらずのほほんとした感じの空気をまとい、袁術を探しておたおたしていた張勲に、いつも通りの間延びしたその口調でもって声をかけてきた。

 

 「え?あ、美紗さん。えっと、お嬢様……見かけなかったですか?さっきからお探ししているんですけど、何処にも見当たらないんですよ~」 

 「美羽様ですか~?さあ~?私は~、見て居ないですね~。あ~そうだ~。千ちゃんの所はさがしたんですか~?」

 「……白洞さん、ですか?いくらお嬢様でも、あの人のところには行きませんよ。自分の家に篭ってばかりで、良く分からない役に立つかも分からないような、無駄な研究をしている人のところには」

 

 歯に絹を着せぬまったく容赦の無い毒舌でもって、自身とは一応の同僚のはずである陳蘭のことを、これでもかと言うばかりにダメ人間呼ばわりをする張勲。だがそれもある程度は仕方の無い事である。陳蘭が最初に袁術の下に仕官をしてから幾ばくか経った後、陳蘭は袁術と張勲にはほとほと嫌気が差したと言って、街の裏通りにある自身の研究所に、すっかり引き篭もってしまった。

 

 それ以降、袁術を初めとした袁家の者たちは、陳蘭のことを『昼行灯』などと呼んで馬鹿にし、ほとんど交流を持っていない。袁家の中で彼と付き合いがあるのは、今張勲と話している雷薄と諸葛玄の二人だけである。

 

 「……まあ、千ちゃんのことは良いとして~、他に美羽さまが行かれそうな所~、心当たり無いんですか~?」

 「在ったらとっくに探してますよ~。……ほんとに何処行っちゃったんですか~、お嬢様~」

 

 もはや半分涙目になり、愛しい袁術を探して再び城内を徘徊し始める張勲。そんな彼女の背を見送りつつ、雷薄はその表情を一切変えないまま、こんな事を呟いていた。

 

 「……七乃ちゃんも~、千ちゃんのこと認めてあげてれば~、美羽様を探すのにも~、苦労はしないでしょうにね~。ほんと~に~、残念ですね~」

 

 

 

 再び場面は街の裏通りへと戻る。一刀から悪評払いの策を聞いた袁術は、一人諸葛玄の家の前で、膝を抱えて座り込んでいた。  

 

 「……北郷の言うた策。……妾に、出来るのか……?……この街を、この郡を、民達を救うために、この手を、“血で汚す”事が……」

 

 その小さな自身の両手をじっと見つめ、先ほど一刀から聞かされた方法を、その頭の中で何度も反芻する。

 

 『まずは日頃の労いとでも理由をつけて、一族の人たちと周辺の豪族達を一堂に集めます。もちろん公路さんの名前でね。名目上とはいえ、太守となっている公路さんの名前で開かれる宴席だから、それを断る人はほとんど居ないでしょう。そしてその宴席の場に、前もって郡内各地の邑々から呼び集めておいた民や商人達を、給仕として入れます。ただし、その人たちにはこちらの思惑を伝えずに、ね。そして宴席に集まった一族の人たちを泥酔させた所で、公路さんは理由をつけて一旦席を外す』

 『……なるほど。大体読めましたよ。後は泥酔したご老人達を言葉巧みに誘導し、みなの見ている前で洗いざらい、真実を語ってもらう……』

 『そう。そして全ての話が終った所で、席に戻ってきた公路さん自身の手で、その彼らを断罪し、処罰する。その後、宴席に潜り込んでもらった邑人や商人の人たちが、郡内各地へと戻り散らばれば』

 『席での話は瞬く間に広がり、美羽様の風評を一気に覆せる、と』

 『流石に一瞬でってわけには行かないでしょうけど、俺の試算じゃあ大体三ヶ月もあれば、目的は達成できると思います』

 

 以上が、ほんの少し前にされた、一連のやり取りである。そしてその話の中で、一刀の最も念をおした点がある。

 

 『……この策で肝心なのは、公路さんが如何に厳格な態度で望めるかと言う事。貴女自身の意思と覚悟を、どれだけ人々に鮮烈に見せ付けられるかが、ね』

 『……』

 『……そしてその為には、公路さん自身のその手で、一族の長的立場にある人間を、“直接”処罰することが、何より肝要なんです』

 

 袁術自身が、その手で直接処罰する。それはすなわち、彼女が人を、それも自らの血縁者を、その手にかける、と言うことである。

 

 「……北郷の言うことも分かる。頭では分かっておる。……じゃが、妾に人を、お爺たちを殺せるのじゃろうか……」

 

 袁術自身は、一族の老人達のことを別に嫌っては居ない。彼女に限らず、自分にとって耳に痛いことを言う者よりも、褒め称え、持ち上げることを言う者を好ましく思うのが、人間と言う生き物である。

 事実、袁家の老臣たちは、その腹の内はともかくとして常に笑顔で袁術に接し、いつも優しい言葉を彼女にかけていた。   

 

 「妾は一体、どうすればよいのじゃ……。……母上様、美羽はどうすればよいのですか……」

 

 亡き母袁逢はとても素晴らしい人だったと。紀霊をはじめ母と交流のあった者達は、口を揃えてそう言う。袁術自身も、うっすらとではあるが在りし日の母の姿を覚えている。その凛とした佇まいと、厳格さを併せ持った風格。そして母として自分に接するときの優しさを。

 

 彼女は何時しか、その瞳に涙を浮かべていた。偉大だった母の事を思い出せば思い出すほど、今の自分と言う人間が嫌になってくる。親族達に傀儡とされ、そしてそのことに全く気付く事もなく、張勲だけを頼り、信じて生きてきたこの三年と言う月日は、まさに愚者と呼ぶにふさわしい日々だったと。彼女は今日この日、やっと認識できて居た。

 

 「……そういえば、七乃が居るといつも必ず、妾の考えや質問をはぐらかされてきたの……。……七乃は一体、妾に対してどんなつもりで居るのじゃろうか……」

 

 普段、己のその立場や外の世界に対する疑問が袁術の脳裏に横切ったりすると、傍に居る張勲からすぐさま横槍が入り、それらに対する自身の疑問が、何時の間にか別の方向へと向けられてしまっていた事に、彼女は今更ながらに気がついた。

 そしてそれは、張勲に対する疑念へと、時置かずしてその姿を変えて行った。

  

 

 袁術がそうして、張勲への疑念を湧き上がらせていた時。諸葛玄の家の中では、一刀と諸葛玄、そして紀霊の三人が、先の策についての話し合いをまだ続けていた。

 

 「さて。残る問題は、ご老人達を上手く誘導して話を始めさせる役なんですが」

 「一番の適任者は、やはり七乃、張勲でしょうね。ただ……」

 「……あの娘は僕と違って、今までの美羽嬢を、つまりはお馬鹿な娘のままの美羽嬢を可愛がって居ますからねえ。もっと端的に言えば、七乃ちゃんは美羽嬢を、愛玩動物的視点で見てますから」

 「……美羽さまがご自身で羽ばたこうとなさるのを、余り快く思わないかもしれませんね……」

 

 袁術に対する誤った情愛。

 それがため、袁術が人として成長するその切欠を悉く張勲は封じ、主君を愚者のままの状態にしておく事に、今はその思考の重きを置いてしまっていると言う、そんな嘆かわしい有様であると。紀霊と諸葛玄はその口を揃えて、その場で大きく嘆息をした。

 

 「……あの、その張勲さんと言う人、公路さんの事を大事には思っている……んですよね?」

 「ええ。それは間違い無く。ですが……」

 「……その方向が少々特異な方に行ってしまってるんですよ、七乃の場合は、ね」

 「その為に、その余りある実力を表に出す事無く、その内に隠し続けているんですよ」

 

 張勲と言う人物は、その気になりさえすれば一人ででも城一つぐらいあっさり獲れるほど、優れた能力を持った才媛であると言う。古の菅仲・楽毅にもその才は匹敵し、漢の立役者としても有名な、あの張良子房にも並ぶかもしれないほどの人物だと。諸葛玄と紀霊はその口を揃えてそう評価した。

 

 「……今の張勲さんは、その持てる能力を、公路さんへの歪んだ愛情ゆえに、十分に発揮出来ていないということですか」

 「出来て居ない、と言うよりも。しようとしていない、と言ったほうが正解ですね。……美羽嬢に関る事なら、彼女も全力を尽くすんですけど、それ以外のこととなると」

 「全くやる気を出さないんですよ。……白洞の事を昼行灯なんて呼んでるあの娘だけど、自分自身もそれに十分当てはまるってこと、自覚していないんでしょうね」

 「……あいつがそれを自覚出来ていたら、今頃は袁家が天下を取ってるっての」

 『え?』

 

 不意に。三人以外の声が室内に響き、一刀達の耳に飛び込んできた。その声のした方を見やると、玄関の所には陳蘭がどこか不機嫌な表情で、棒付き飴をくわえたまま立っていた。

 

 「白洞……貴方何時からそこに?」

 「別に何時から居ようが関係ないでしょ。てか紀霊将軍?あんたがなんでこんな所に居るのさ?……ああ、お嬢の護衛?だったらさっさと後を追っかけたほうが良いんじゃないの?」

 「え?ちょっと千州君?それってどういう」

 「どういう……って。ついさっきお嬢とすれ違ったんだよ。何でかしらないけど、珍しく真剣な顔してさ。城の方に一人で走って行ったよ?……ってうわっ!?」

 

 陳蘭の話が終わらないうちに、紀霊が慌てて家から飛び出して行く。それに続き、一刀に陳蘭の相手を宜しくとだけ言って、諸葛玄もまた開け放たれたままの扉を潜り、外へと駆け出していった。

 

 「……?なあ、一体何があったのさ?紀霊だけじゃなく秋水さんまで、あんなに血相変えて」

 「……忠義の士が二人、敬愛する主君の暴走を止めに行ったんだよ」

 「?……はあ」

 

 ~続く~

 

 

 狼「さて。仲帝記もこれで四話目となりました。作者こと狭乃狼です」

 輝「輝里です」

 命「命じゃ。今日もよろしゅうな?」

 

 輝「今回のお話だけど、美羽ちゃん・・・なんだか原作より頭良すぎない?」

 狼「それはしかたないさ。だって、原作の美羽は七乃べったりで現実を知る機会が全然ないまま、雪蓮達に滅ぼされちゃったからね。この世界の美羽は、そうなる前に現実を知って、一刀と出会ったわけだからさ」

 命「しかしどの外史でもそうじゃが、一刀一人居るか居ないかで随分人間が変わるのう」

 狼「ま、そこが主人公補正ってやつでしょうwまあ、一刀に限らず現代人とあの世界の人間が関ったら、程度の差こそあれ影響がでないわけが無いからね」

 

 輝「七乃さんはもう、通常運転ねw」

 狼「そだねー。問題は次回で、美羽に詰め寄られた彼女が、どういう対応に出るか、って所だな」

 命「我を貫き通すか?それとも全てを認めるか?・・・ぶっちゃけ、どっちになる予定じゃ?」

 狼「んなもの秘密に決まってるでしょうが」

 輝&命『ですよねー(笑」

 

 狼「それでは今回はここまで」

 輝「あ、今回から次回のサブタイトルを書くのは止めにしたそうです」

 命「まあ、毎回毎回、予告とタイトルが変わっとるからのう」

 狼「と言うわけで、次回、真説・恋姫†演義、仲帝記」

 輝「その第五羽にご期待ください」

 命「ではみなの衆?いつも通りのたくさんのコメント、待って居るからな?」

 狼「それじゃあみなさん、また次回にてお会いしましょう!」

 

 三人『再見~!!』

  


 
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