No.320307

~真・恋姫✝夢想 孫呉伝~ 第三章第三幕

kanadeさん

ようやくの第三幕をお届けします。現在お届けしている第三章もようやく本格的に開始といったところです。
しつこいようですが、前身である孫呉の外史では見れなかったこの反董卓連合編の完走、ひいてはこのシリーズの完走も目指して頑張りますので応援よろしくお願いします。
それではどうぞ

2011-10-18 17:14:26 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:11452   閲覧ユーザー数:7931

~真・恋姫✝無双 孫呉伝~ 第三章第三幕

 

 

 

 連合軍が遂に汜水関に向けて出陣した。

 はた迷惑な袁紹の高笑いと共に。

 「さぁ、皆さん!雄々しく!勇ましく!華麗に出陣しますわよ!」

 痛い。

 色んな意味で痛い。まず空気が読めていないし、一目でわかる。アレは世界が自分を中心に廻っていると信じてやまないタイプの輩だ。

 それも非常にマイナスな意味で。

 彼女には側近が二人いて、一人は主君たる袁紹にノリノリなのだが、もう一人の方はと言うと、空気が読めてしまっているのだろう。顔を伏せてしまっている。

 同情したくなるほどに気の毒な光景だ。

 この連合軍の先陣を切るのは劉備、続いて曹操。そしてそれに続くのが孫策率いる呉である。

 この並びは連合のまとめ役を押し付けられた(本人は選ばれたと思っている)袁紹が決めた訳だが、彼女の上からの命令に曹操は大層ご立腹の様子だった。

 そんな曹操を遠くから見ただけの一刀だったが、彼女が纏っている雰囲気に雪蓮たちに抱いたものと同じものを感じた。

 

 王の――王たる者にのみ課せられる際限なき覚悟と義務、それを背負い歩く比類なき強靭な意思と決意を。

 

 尤も、曹操はどちらかと雪蓮の真逆と言えるような気がした。さながら、焔に対する氷の様――追い求めるものが同じでありながら、芯たるものが異なるが故に決して混ざりあうことない。そう、もし・・・彼女と分かり合おうと言うのならば、ぶつかるしかないのではないだろうかという妙な確信さえ抱けてしまう程に。

 雪蓮と曹操―――。この二人は見事なまでに背中合わせだと一刀は感じてしまった。

 「・・・反目するのは己の信奉するものが違うから。だけど、その心根はきっと同じなんだろうなぁ・・・それを否定するんじゃなく、認め合うことがきっと」

 それこそが戦いが終わった後で手を取り合う時に大事なのだろう。一方的に否定するだけではきっと手を取り合うことなんて出来はしない。

 「・・・って、今の状況となんの関係ないよな・・・・ふぅ、切り換え切り換え」

 一息ついて頭の中のスイッチを切り替える。そう、今考えるべきは時代に翻弄されてしまった董卓たちの未来をどこまで救えるか――それだけでいい。

 何せ、任された役目が役目だ。余計な事に囚われていたら確実に命を落としかねない。流石にそうなったら笑えない。

 あれだけ大言壮語を吐いてしまったのだ。

 

 そんな結末だけは決して許されない。

 

 一刀の瞳にこれまでない強い〝意志〟が宿っていた。

 

 

 そんな一刀を近くも遠くもない距離から見ていた悠里は、一刀の言葉の先を頭の中で反芻する。

 (否定するんじゃなく、認め合うことが・・・か)

 その台詞は最後まで聞けなかったが察しはつく。

 

 ――手を取り合う、分かりあうために大事なんだろうなあ。

 

 あの一刀の事だ、きっとそんな事を考えているに違いない。

 コレは想像にすぎないが、きっとそうだろうと言う確信があった。一刀と知り合ってから、日の浅い私ではあるが、一刀という男は、そういう人間だ。

 だが、その通りだ。

 否定するだけでは、相手と手を取り合うことなんて出来よう筈もない。

 相手を受け入れ、自分を受け入れてもらう。それこそが泰平という名の世に必要なのだろう。

 戦いというものは、その形はどうあれ、そのための手段なのかもしれない。ただ、賊の様な下種な輩がやっているのは、それとは全く異質なものだろうが。

 (・・・ま、一刀が言う通り、今の状況とは関係ないねぇ・・・ウチはウチの役割を果たすことに集中するとするさね)

 今の今まで思考していた事を頭の片隅に置く、この事は、後でゆっくり一刀と語りあうつもりなので、意識から消すつもりは更々ない。

 (にしても華雄とはね。香蓮様が適役だろうに・・・どうしてウチが)

 「単純に今の世代に出番を譲っただけさ。祭はともかく、あたしは問答無用で〝先代〟だからね」

先 王・孫文台。本当にこの人はありとあらゆる意味で心臓によろしくない。というか、人の心を読まないでほしいと心から願うばかりだ。内心を見透かされると言うのは気分が良くない。

 「ただの勘なんだがねぇ」

 勘――なんて便利な言葉だろうか。異常と言っていいほどの察しの良さをいともあっさりと片付けてしまう。

 「勘というより、単に経験では?」

 「そういうことだ。かつていた立場が立場なのでな。蓮華にはコレがまだ足りないのが悩みの種だ」

 それを打ち明けるのは結構なのだが、自分にどうしろというのだろう。

 悠里は軽く頭が痛くなるのは自覚した。

 

 

 ――悠里が頭を抱えている時同じくして。

 

 劉備たちに続く軍勢――曹操軍。

 それを纏める筆頭――曹操 孟徳。

 彼女は馬を走らせながら、後方を走る孫策たちの中にあった一人の人間のことを考えていた。

 明らかに異質な空気を纏った見慣れない服を着た一人の青年。

 名前は知らない。だが、察しはつく。最近になってよく聞くようになった一つの噂、その正体に違いない。

 即ち――〝天の御使い〟

 (似非占い師の妄言と思っていたけど)

 もし、それが彼であるというのならば納得できる。理由を求められたら、私にしては珍しく、上手く言葉にできそうにない。だというのに、〝そうである〟という確信があった。

 (ほんの一目見ただけだというのに、ね・・・)

 しかし、もし己の勘が正しかったとしても、それを〝はいそうですか〟と甘んじて受け入れるつもりはない。

 例え、天の意思が呉に味方しているとしても、私はそれを打ち破って頂に立って見せる。

 誰に言われたからではない。この私が、曹孟徳がそうすると決めたからだ。

 それを成し遂げるためならば、天の意志さえ従えてみせるまで。

 「ふふっ」

 思わず笑みが声となってこぼれてしまう。

 「華琳様、如何されましたか?」

 「なんでもないわ、秋蘭。ただ、これからの事に思いを馳せていただけ」

 「左様で」

 そう、この一件を機に、時代は一気に乱世に突入する。先の黄巾の乱など、序章に過ぎない。乱世という物語は、この一件を機に幕を上げるのだ。

 (成したい事は成してみせる。欲しいものは必ず得てみせる・・・そう、天さえも)

 ああ、本当に楽しみだ。僅かに一瞬見ただけでここまで興味を引かれるなどこれまでになかったこと。すぐにでも詳しく調べさせるつもりだが、その結果は必ず今以上に興味を引かれることは間違いない。

 くどいのは承知だが――。

 「楽しみだわ」

 不敵に笑ったその口から紡がれた声は、そのまま風に溶けた。

 

 

 ――そして、遂に連合軍は最初の関門、汜水関へと到着した。

 それを見た一刀の第一声。

 「うわぁ・・・難攻不落ってのが、よーくわかるよ」

 「でしょう。劉備さん達と兵数を合わせても、汜水関を落とすのは至難と言えます」

 呆れる一刀に相槌を打ったのは穏だ。

 「ですけど一刀さん、一刀さんは大見栄をきったんですから頑張らなきゃだめですよ♪」

 楽しそうに言う穏に一刀は苦笑いをするばかりだ。

 だが、穏の言っている事は真実その通りで、あれだけのことを言って、あれだけ痛い思いもしたのだから、出来ません。なんてことにでもなったらまさしく、骨折り損のくたびれ儲けにしかならない。

 あの蹴りと鳩尾への拳は洒落抜きで痛かった。そしてあの時の殺気と覇気は手合わせした時以上に戦慄したものだ。

 その中で我を通したのだから、何が何でも成し遂げなければいけない。

 「やるさ・・・そうすると決めたんだから」

 その過程で、どれだけの〝痛み〟を感じることになるかは見当もつかないが、目を背けることなく前に進む。

 一刀は自覚していなかったが、彼の在り方は、香蓮から見れば立派に人の上に立つ者の姿だった。

 

 「・・・」

 「どうした、明命」

 「にゃっ!?」

 ぽーっと一刀に見惚れていた明命はいきなり耳に入ってきた思春の声に思わず驚いてしまう。

 「・・・北郷を見ていたようだが」

 「え!?あ、いえその・・・一刀様は、どうしてあんなに〝強く〟いられるのでしょうか」

 「・・・それは、私にはわからん」

 「一刀は、〝強くありたい〟から強いそうよ」

 「「蓮華様」」

 二人が振りかえった先には彼女たちの主である孫仲謀――蓮華がそこにはいた。

 

 

 そして、時間は流れる。

 「始まるわ・・・ま、結果は多分というか間違いなく」

 「無駄、だろうな・・・多少の不安要素はあるがな」

 今現在、劉備たちは華雄たちをおびき出すために挑発を試みている、のだが。雪蓮たちはその試みが成功すると思っていなかった。

 「じゃ、私は袁術ちゃんの所に行ってくるわ♪」

 「ああ、任せた・・・その後は」

 「一刀と燕・・・そして、悠里次第・・・ね」

 

 結果としてはやはりとしか言いようのない結果だった。

 劉備の挑発は彼女たちの知るところではないが、張遼の存在が成功を阻んだのだ。もし、彼女がいなかったなら、一刀達の賭けはここで失敗していただろう。

 しかし、最初の賭けは成功した。次に用意すべき手札はとっておきの切り札、確実に華雄をつり上げることが出来るカードを惜しむことなく出すことだ。

 その切り札――孫文台を。

 

 「さて、気の荒い猪をおびき出すとしよう・・・。しかし、必要な事とはいえ、どうにも気が引けるな・・・認めている相手を侮辱するというのは・・・・・埋め合わせはしてもらうぞ、一刀」

 「お酒・・・になるのかな?」

 「悪くはないが、足りん。逢引・・・いや、デートだったか?それも加えてもらおう。無論、金銭に関してはお前持ち・・・返答は?」

 これで断れる奴がいたならそいつはただの自殺志願者だ。確実に死ぬと分かっているのに崖に向かって走るのと同じ事と何も変わらない。

 救いようのない馬鹿だ。生憎だが、俺はそんな馬鹿になるつもりはない。

 この結論に至るまで一秒もかからなかった。

 即刻首を縦に振り、敬礼しながら「了解であります」と応えた。

 「結構。なら、行くとしよう・・・蓮華、悔しかったらもう少し大胆になる事を覚えるんだな」

 からからと笑いながら香蓮は前へと踏み出した。

 一方、口をパクパクさせている蓮華に向かって、フォローのつもりで一刀はそっと聞いてみることにした。

 「蓮華・・・今度デート、する?」

 

 ボンッ

 

 そんな音が聞こえた気がした。

 

 

 汜水関。

 難攻不落と言われるこの関所、その内部。

 「ぬぁあああ!!張遼、何故止める!!あのような小娘に侮辱されるなど武人として我慢ならん!!」

 激昂するのは一刀達の挑発対象、華雄その人である。

 「阿呆!見え見えの挑発やないか!!行ったら袋叩きにあうのがオチやボケぇ!!」

 暴れる華雄を羽交い締めにして制しているのは董卓軍の将で唯一の理性と言ってもいいだろう人物、張遼であった。

 必死に華雄を止める張遼ではあるが、内心では華雄の意見に全面的に同意していた。正直、自分が同じ状況にあったなら、間違いなく突っ込みかねない。

 (賈駆っちがおったらある程度我慢はきくんやけどなぁ)

 なんてぼんやりと考えていると、部下の一人が報告にやってきたのだが、張遼はこの瞬間、確信しにも等しい予感がした。

 勿論、悪い方の予感だ。

 「敵軍より突出する部隊があります!旗印は〝孫〟です」

 「〝孫〟!?アカン!華雄・・ってもうおらん!?」

 〝孫〟――そのたった一言が華雄には非常によろしくない。

 相手がもし、〝江東の虎〟であったなら、致命的。

 虎と華雄の間には因縁がある。華雄が苦渋を嘗めさせられた相手なのだから。

 急いで華雄の下へと向かう張遼。この時既に、彼女はこの後の展開にある程度の予測がついていた。

 

 そうして華雄の下へ。

 辿り着いた時には既に彼女から凄まじい怒気を感じる張遼。それだけで相手が誰なのか察しがついてしまう。

 (ああ、やっぱり虎か)

 最早抑え込む事など出来ないだろう。

 そして、その予想は腹が立つくらい見事に的中する事となる。

 

 

 眼前には汜水関、それを見上げながら香蓮は息を吸う。

 さあ、今から放り込むのは極上のエサ、どんな獲物でも確実に釣り上げること請け合いだ。

 「どうした華雄!あたしと刃を交えた時の貴様は、正に勇ましく誇り高い武人だったぞ!!よもや、臆病風に吹かれたか!だとしたら、貴様には失望だな。どうやら猛将は知らぬ間に腰抜けに成り下がってらしい!!どうした!?否定せんのか・・・私の言葉が的外れだというのならば否定してみせるがいい!!」

 

 ――ああ、感じる。一兵卒ならば、気を失いかねんほどの凄まじい怒気が大気を震わしているのを感じる。だが、どうにもギリギリのところで餌に食いついてこない。

 どうやら誘いが足りんようだ。

 だったら針につけたエサとは別に、豪快に撒き餌をしてやろう。うまくいけば獲物が芋づる式にかかる筈。

 

 その思考に確信にも等しい自信を持ち、止めとばかりに言葉を紡いだ。

 

 「ハッ!否定すら出来んとは、いやガッカリさせてくれる。この戦の結果も見えたというものだ、腰抜けの猛将など、赤子の手を捻るよりも容易くあしらってくれる!!」

 言い終わった、正にその瞬間、一気に場が静まる。理由など考えるまでもない、彼女の怒りが限界を超えてしまったのだ。

 つまるところ、この静まった空気こそが、華雄の今の心情を示しているのに他なかった。

 「ふむ・・・少し派手に餌を撒きすぎたか?」

 「あの、戦うの・・・ウチなんですけど」

 「はは、“遊び”なしならどうにかなるだろう?」

 「“殺さない”って条件さえなければ・・・こういうのは加減が難しいんですよ。相手が相手ですし、ウチ自身の得物が得物ですから」

 じと目で思いっきり嫌味を言う悠里だが、香蓮はからからと笑うだけなので、すっかり肩すかしだ。もう溜息しか出ないうえ、何か無駄な疲労感がにじみ出てきた。

 「“今のまま”なら一刀、死にますよ?」

 「そうさせんための燕だ・・・第一、あたしは一刀が死ぬなんて微塵も考えてない」

 その言葉に確かな自信と一刀への信頼を感じる悠里。

 剣を交え、言葉を交わしたからこそ、香蓮は一刀という人間を知っている。だからこそ彼女はその自信を揺らぐことなく声にできるのだ。

 「少し妬けますね」

 燕ほどじゃないさ。とだけ言って香蓮は後退した。

 入れ替わるように一刀の隊が出てくる。これで最前線に突っ込むメンツが揃ったことになる。

 「さぁて、それじゃあ頑張るさね・・・いいとこ見せたいしねぇ」

 

 

 「・・・張遼」

 「言うたって聞かへんやろ・・・」

 張遼の声からは既に諦めが感じられる。そもそも、華雄だけであったなら力づくで大人しくさせるところなのだが、彼女の隊の者たちが同じように怒りをあらわにしているのを止めることなど誰にも出来よう筈もない。

 凄まじい怒気をたたえたまま、華雄は張遼を横切った。

 「将軍、我々は如何いたしましょう」

 張遼の兵の一人が、指示を仰ごうと上官である彼女に問いかけると、こめかみに手を当てながらため息をつく。

 「ウチ等をでるで。流石にほっとくわけにもいかんやろ」

 ここまで来たら腹を括るしかない。

 「お前は虎牢関にまで知らせに戻り」

 指示を出すと張遼もまた戦場へと赴く。状況は圧倒的に不利。勝率は無いに等しいだろう。だが、ここである程度削っておけば虎牢関には“彼女”がいる。

 天下無双とまで謳われる“彼女”――呂布 奉先が。

 「さあて・・・ほな、いこか」

 己が得物である飛龍偃月刀を担ぎ、張遼は華雄とともに戦場に踏み出した。

 

 呉は部隊を二つに分けた。華雄はそのまま左翼のほうへと向かったので、必然的に張遼は右翼を請け負うこととなった。

 「ん?なんや自分・・・変わった服着とんな」

 「人に名前を聞くなら、まず自分からじゃ?」

 確かにその通りだ。

 しかし、目の前にいる時分お相手になるであろう男、雰囲気が違う。上手く説明ができそうもないが、ただ一つだけわかることがある。

 (めっちゃ強いな・・・)

 さあ、名乗ろう。こちらが名乗れば相手も名乗ってくれる。そうしたら戦いの始まりだ。

 「ウチは張遼――張遼 文遠や」

 「一刀、北郷 一刀。よろしく、張遼さん」

 

 一方の華雄は“太”の旗が翻っている部隊と対峙していた。

 「なんだ貴様は・・・孫堅はどうした」

 「香蓮様なら後方にいるさね。戦いたいならウチを倒すしかないよ華雄殿」

 「ならば、そうさせてもらう・・・名乗れ。貴様ほどの武人を名も知らぬまま屠るわけにもいくまい」

 「律儀だね・・・・ウチは太史慈。 太史慈 子義さね」

 

 こうして、汜水関の二つの戦いは幕を開けるのだった。

 

 

 ぶつかり合う兵と兵、将と将。

 一刀と張遼。

 悠里と華雄。

 それぞれが対峙する。この一騎打ちの中、燕は何をしているのかといえばもちろん剣を振るっている。最前線で、隊を指揮しながら張遼の部隊と、そして一刀を見守りながら。

 

 一刀と張遼との対峙する戦場は、恐ろしく静かだった。そして、誰もその場を壊そうとしない、その空間に入ろうとしない。

 張りつめた空気がそれを拒んでいる。

 「・・・・・・」

 「――――――」

 どちらも構えを解かない。解くことができない。

 互いに待つのは、踏み込むきっかけを只静かに待っていた。

 (・・・やっぱ強いわ。踏み込めへん)

 相手の出方をうかがっていると、不意に相手の口が動いている。声は聞こえない。

 気になった張遼は、その口の動きを読んで息をのんだ。

 

 ――董卓を助けたい。投降してくれ

 

 「な、お前何言うとんねん!!」

 隙ができることも気にすることなく、もう反射的に声を上げた。

 だが、相手は――一刀はそれに付け入るような真似をせずに、構えを解き、真剣に張遼を見つめ返す。

 何の駆け引きも考えていない、ただ本心を告げている。それが、わかる。

 ――わかってしまう。

 張遼文遠には理解できてしまう。

 

 

 「な、お前何言うとんねん!!」

 その言葉だけで伝わったんだと確信した。そして、同時に理解できてしまう。

 ――戦うことはきっと回避できない。

 俺は、この人と戦う。

 命を懸けて、己の信念をかけて、俺はこの人と戦う。

 そこまで考えて、改めて相手を見る。

 すると張遼は、はっと笑い捨てた。

 「おもろいやっちゃ・・・せやけど、悪いな。嬉しい申し出やってことは戦バカのウチでもわかんねんけどな」

 担いでいた偃月刀を構えなおして張遼は笑みを浮かべる。

 「ウチも退くわけにはいかへんのや。あんたにゃ悪いけど・・・その命貰うで」

 「退けないのはこっちも同じ。だけどこの命は、あげられないよ・・・それに、諦めるつもりも――ない!!」

 

 ――両雄の、互いの誇りを乗せた刃が、交差した。

 

 ギンッ、ギャッ――ギィィィィン、ギッ、ガッ、ギィイイィィン!!

 ギンッ、ギンッ、ギギギギギギギギ――

 

 互いに退かない信念の削り合いは、凄まじい気迫を放つ。

 張遼は心臓が高鳴るのを抑えることができずにいた。否――抑えたいなんて気持ちは一切起きなかった。

 (ええわ・・・始まったばかりやってのに、楽しゅうてかなわんわ!!)

 見たこともない武器、初めて見る剣技、氣の使い方にしたって、こんな扱い方は初めて見る。

 どれもこれもが未知、それが楽しい。

 助けたいと言っておきながら、遠慮がない。それは、董卓だけであって自分が対象外だからとかそんな理由なんかじゃない。

 断言してもいい。

 彼の助けたいという言葉も中には、主君である董卓以外の――ここで戦っている自分や華雄、ここにはいないに呂布に陳宮、賈駆も含まれているに違いない。

 ではなぜ彼は全力で戦うのか。

 簡単だ――信念を貫くためだ。矛盾しているが、そのためには全力で戦わなけれならないからだ。

 助けるために、倒そうとしている。

 この張遼を。――それが、理解できないくらいに嬉しかった。

 

 荒燕と飛龍偃月刀、二つの信念が交差する。

 互いの信念のために。

 

 

~あとがき~

 

 

 

 ようやくお届けできました、第三幕。第二幕投稿から約三ヶ月。今回は汜水関戦の開幕までを描かせていただきました。

 この孫呉伝の前身である孫呉の外史で折れた経験があるせいか、妙なプレッシャーを感じてしまうこの反董卓連合編。

 とにかくやり遂げることが第一目標です。

 このシリーズもやりつつ、ちょいちょい魏アフターも挟んでいきますがどうぞ応援してください。

 さて、私の作品を読んでくださっている皆様にはすでに周知かもしれませんが、本当にあとがきが苦手な私です、何を書いたらいいか本当にわかりません。

 とりあえず、最近私に起きた出来事について書いてみようと思います。

 先々月、つまり八月の中ごろ以前まで使っていたノーパソがいろいろと不具合を起こし始めました。実はそれ以前からちょいちょいと不調をきたしていたこともあり、色々あって買い直すことを決意・・・八月末にノーパソからデスクトップにシフト。・・・夏コミもあったこの月・・・に非常に痛い痛い月となってしまいました。

 こういう痛いことがあると、まぁテンション下がりますね。

 ・・・すいません、なんか限界です。なのでそろそろ次回の投稿とかについて触れようと思います。

 まず次回の投稿予定は“ただいま・・・おかえりなさい”の続き――第一話を予定しております。

 孫呉伝は一刀と霞の対決を中心にするつもりです。もちろん、悠里と華雄の二人についても忘れてはいませんので、そちらもお楽しみにしていただけたら幸いです。

 それでは次回の作品でまた――

 Kanadeでした。

 

 


 
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