No.312354

コワレタオモイ

白衣性恋愛症候群 藤沢なぎさのSS。
しん、と静まり返った暗い部屋――なぎさは、一人。
※なぎさルートのネタバレが含まれています。

2011-10-04 00:21:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:858   閲覧ユーザー数:854

 しん、と静まり返った空間に、カタカタという音だけが響いている。

 

 窓はカーテンで締め切られ闇に閉ざされた部屋の中、ぽつりと灯る液晶の小さな明かりが、音がするたびふらふらと揺れた。

 その微かな明かりに、一人の少女の顔が照らされた。藤沢なぎさ――以前の明るく元気な姿はどこへ行ってしまったのか、目には隈ができ、頬はやつれ、液晶を見つめる瞳からは意志の光が感じられない。

 だらしなく半開きになった唇は、ぶつぶつと聞き取れぬほどの大きさで声が漏れ続けている。その、じっと光を凝視するその顔は、まるで亡者のようであった。

 

 生ける屍の、その傷だらけの指は、ただ一心不乱に携帯電話のキーを叩き続けている。

 携帯の画面に映し出されるのはわずか二文字の羅列。すなわち――

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

 ――ただそれは、ひたすら打ち込まれ続ける呪詛のようだった。

 

 やがて、なぎさは画面いっぱいに映し出されたそれを満足そうに見つめると、送信ボタンを押した。

 

 ……一体いつからだろう、彼女がこんなことを始めるようになったのは。

 最初はただの悪戯のつもりだったような記憶がある。怖がらせることで彼女が自分を頼ってくれる、それがただただ、嬉しくて。

 

 だけど今のなぎさの心は、深い闇に満ちていた。 

 

 誰からも好かれる、憎たらしい彼女。

 

 居場所を奪うどころか、追い出そうとした彼女。

 

 そして誰よりも好きなのに、それに気づいているはずなおに、わたしの方を向いてはくれない彼女。

 

「……そう、悪いのは沢井の方なんだから。わたし全然悪くない」

 

 悪くない、悪くないと呟きながら、なぎさは虚空をじっと見つめ、引きつった顔のはまま、ひひっ、と笑い声をあげる。

 

「それに大丈夫。沢井は絶対にもうすぐやってくるから……ほら」

 

 やがて聞き覚えのある必死そうな足音が、ドアの外に鳴り響き、そしてチャイムの音が鳴る。

 

「……うふふ、ほらね。わたしは沢井のことならなんでもわかるんだから」

 

 必死に自分の名を呼ぶ愛しい少女の声を聞きながら、なぎさはにやりと唇を歪める。

 

 さあ今日は、どんな風に慰めてやろう。抱きしめて、キスをして――首筋にキスマークでもつけてあげようか。

 

 何度も繰り返されるチャイムの音を聞きながら、なぎさはゆっくりと立ち上がった。


 
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