No.307408

真・恋姫無双~君を忘れない~ 五十四話

マスターさん

第五十四話の投稿です。
ついに風はその実力を全て発揮して益州・孫呉の同盟軍を襲いかかる。軍師たちの知恵を絞った頭脳戦もついに佳境となり、戦は大きく動き出そうした。
今回、アンケートについて述べているので、御覧ください。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2011-09-25 18:05:43 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:10889   閲覧ユーザー数:6150

麗羽視点

 

 わたくしたちが攻め入ったことで、こちらの本隊が敵に攻め寄せる機会を与えたはずでしたの。しかし、どういうわけか、本隊は動こうとしませんでしたわ。周瑜さんがそれを見逃すはずはありませんのに。

 

 騎馬隊で敵の出鼻を挫いたので、太史慈さんの部隊と合力することで、ある程度まで攻めることが出来ていますわ。それでも、やはりもう一押しが足りませんわね。このままでは攻め切れないまま、膠着状態が続いてしまいますの。

 

 ――と思ったときでしたの。

 

 突如、背後に衝撃が走りましたわ。

 

 私たちは敵の本隊を正面に据えて戦っていたのですから、背後には敵がいるわけがないと思っておりましたのに、まるで隙だらけのそこを叩かれ、部隊に動揺が走りましたわ。

 

 部隊の鎮静化を図りながら、急いで背後を確認したわたくしの目には予想もしないものが映りましたの。

 

 それは開戦直後に、わたくしたちが潰走させたはずの旧劉琮軍でしたわ。いくら、わたくしたちが追撃をしなかったとはいえ、あそこまで乱れた部隊を、ここまで素早く建て直すなんて、今の劉琮軍には不可能なはずですわ。

 

 しかし、すぐにそれは明らかになりました。

 

 彼らは劉琮軍の具足を着用しておりました。従って、わたくしたちも当然のように彼らが襄陽にいたはずの旧劉琮軍であると思い込んでいたのですわ――それに彼らは劉旗を掲げていたのですもの。

 

 わたくしたちは――おそらく、独立してからは劉表軍と対立していた孫策さんたちもですが、彼らが弱兵であるということを知っていたため、敵はそこに付け込んだのでしょう。

 

 戦の枷に過ぎない彼らを、曹操軍は後衛に押しやり――しかし、軍勢の半分を占めている彼らを戦場に出さないわけにはいかず、窮余の策として右翼に半分を布陣させたとしか思えませんでした。

 

 ですが、それはわたくしたちの大きな過ちでしたの。

 

 それが敵の策略だったのですわ。おそらく、わたくしが手始めに旧劉琮軍を叩くことを予想して、敢えてこちらの本隊に攻め寄せ、わたくしを追撃させずにそちらの援護に向かわせ、そしてその隙に部隊を建て直す――いいえ、もしかしたら敵の潰走すら偽りであったことも考えられますわ。

 

 あの部隊は旧劉琮軍ではなく、曹操軍直属の部隊ですわ。

 

 具足のみを旧劉琮軍のものを使用しているだけで、今は曹操軍の旗を高々と掲げていますわ。分からぬ間に、襄陽に駐屯していた旧劉琮軍と曹操軍が入れ替わっていたのですね。

 

「斗詩、猪々子! すぐに部隊を反転させますわよ!」

 

 このままでは包囲される形になってしまいますわ。わたくしはすぐに馬首を巡らせようとしましたが、敵は既に背後から包囲網を布いていたため、思うように部隊を展開させることが出来ませんでしたの。

 

 ――これが曹操軍の軍師ですのね。

 

 自分たちの考えを故意に読ませることで、自分たちの真の戦術を隠し通した手腕には唸らざるを得ませんわ。わたくしよりも一枚も二枚も上手ですわね。

 

 ですが、舐めてもらっては困りますわ。わたくし一人で勝てないことなど、自身がもっとも承知していることですの。

 

「猪々子、下馬なさい!」

 

 猪々子に下馬を命じました。これは彼女に対して、部隊の指揮ではなく、自らの戦いに専念して良い――暴れることを容認したのです。

 

 猪々子は不敵に微笑みながら、馬から飛び降り、後方の敵軍に向かって突撃しましたわ。彼女の戦場における最優先事項はわたくしと斗詩を守ることですわ。そのため、普段は部隊の指揮のみをすることで、自分の力を抑えているのですわ。

 

「うがぁぁぁぁぁっ!」

 

 猪々子は自分の剛腕を振るってこそ真価を発揮する将ですの。部隊の指揮という拘束から解き放たれた猪々子は、誰に手にも止めることは出来ませんわ。

 

 そして、此度の戦には孫呉という強力な同盟相手がいますわ。

 

 周瑜さん――唯一、江東の王である孫策さんの横に立つことを許され、その神算鬼謀は本来のわたくしの実力では足元にも及びませんわ。師匠ですら認めている実力の持ち主ですものね。

 

 今回の戦いこそ、わたくしが奇策に次ぐ奇策で、何とか欺くことが出来ましたが、あれは正直自分でも上手く出来すぎであったと思っているくらいですわ。

 

 程昱さん、貴女の知略は非凡なものですわ。しかし、それだけではわたくしたちには勝てませんわ。

 

冥琳視点

 

 雪蓮が止めてくれたおかげで敵の策に何とか嵌まらずに済んだ。

 

 まさか旧劉琮軍が偽装兵であったとはさすがに読めなかった。敵の狙いは二虎競食の計――私たちと益州軍が共に争い、弱体化するのを狙ったものだったのだから、そこまで策を巡らせる必然性も薄いと判断していたのだ。

 

 敵の軍師――程昱は私たちの同盟すら予想していたとでも言うのだろうか。

 

 もしそうだとしたら、程昱の知略は侮れないだろう。元から舐めていたわけではなかったが、その逸脱さを目の当たりにすると、やはり曹操陣営は人材に豊富であることがよく分かる。

 

 曹操自身も然るものながら、荀彧、郭嘉、司馬懿、など挙げられるだけでも、多くの謀臣を抱えている。その誰もが、この程昱並みの実力者だと考えると、私といえども、背筋に寒いものが走るというものだ。

 

 今回は雪蓮の勘に救われた。そして、自らの愚鈍さも分かった。

 

 もし、あそこで敵軍に突っ込んでいたら、かなりの乱戦に持ち込まれてしまっただろう。そうなれば、兵力差が確実に響いてくるだろうし、せっかく有利に運べそうだった戦況も引っ繰り返される可能性がある。

 

 だが、いつまでも指を咥えて見ているわけではないぞ。

 

「右翼を大きく展開させよ! まずは偽装していた曹操軍を叩く! その後に、袁紹隊を離脱させてから速やかに敵を殲滅させる!」

 

 すぐさま部隊を展開させて、袁紹を援護する。あやつ自身も既に手を打ったようで、文醜が単身で力戦しているようだ。その奮迅ぶりに敵も攻めあぐねているようで、こちらの前衛には届いていない。

 

 それならば、まだ戦の流れはこちらが手にしている。このまま算を乱した先鋒を打ち破れば、さすがの曹操軍だろうと潰走は免れないだろう。

 

「……違うわ」

 

 そう呟いたのは雪蓮だった。

 

「どういう意味だ?」

 

「おそらくこれが敵の切り札じゃないわ。何か別にあるはずよ」

 

「俺もそう思います」

 

 さらに北郷もそれに賛同を示した。

 

「程昱さん――俺は直接会ったわけではありませんが、他人の心の隙間に巧みに入り込むような相手です。これが本領だとは俺にも思えません」

 

 おそらく二人には何か証拠のようなものがあるわけではないのだろうが、それは一考する価値はあった。油断は禁物であることは、先の戦で私も身に沁みている。

 

 ――考えろ。敵の狙いが何であるのかを。

 

 いや、敵の狙いは明確ではないか。最初から曹操軍が狙っているのは、雪蓮と北郷の首のはずだ。だとしたら、偽装兵が袁紹の後方を襲って乱戦になるような展開は望んではいない。

 

 そうなると、この偽装兵は囮で、本命は別にある、ということか。

 

 偽装兵の襲撃に対応して兵を送りこむと、防備が薄くなるところは――

 

「…………ッ!」

 

「冥琳!?」

 

「……そういうことか」

 

「周瑜さん、説明してもらいますか?」

 

「いや、説明は後だ。本陣は密集隊形をとれ! それから袁紹隊に伝令だ!」

 

 既に先は取られているだろう。しかし、相手の思惑さえ打破できれば、流れが相手の手中に収まることはない。

 

 袁紹は敵の思惑に――偽装兵が真の切り札ではないことに気付いているだろうか。あやつならば遅からず気付くではあろうが、今は一瞬の遅れが敗北を招くような状況なのだ。

 

 敵を追い詰めているどころか、逆に私たちは追い詰められているのだ。

 

 まだその全貌が明らかになったわけではないが、程昱ならば何かしらの手段を用いて、必ず行動を起こすだろう。

 

 敵の狙いは一貫して最初から変わっていないのだ。

 

風視点

 

 さすがに袁紹さんと周瑜さんは対応が早いのです。凡将ならば、偽装兵でも充分に勝機を掴めているでしょうが、二人はその事実に気付くや否や、最善の手を尽くしているのですよ。本当に厄介な相手ですねー。

 

 特に袁紹さんの美徳は、自身の実力が風に及ばないことを承知した上で戦いに臨んでいるところでしょうねー。そういう相手は、今のような逆境に立たされても、取り乱すことはありませんからねー。

 

 それに、彼女の側近である文醜ちゃんと顔良ちゃんとの連携は見事なもので、今も単身で偽装兵を蹴散らしている文醜ちゃんの穴を、顔良ちゃんが補っているようですねー。お互いが信頼関係を結んでいないと出来ない芸当なのですよ。

 

 背後から急襲させたというのに、あそこまで巧みに対応されると、いくら囮だったとはいえ、風としても少々落ち込んでしまうのですよ。

 

 襄陽に駐屯していた旧劉琮軍の兵士を、曹操軍の直属の部隊と入れ替えるのは、こちらとしても気付かれないようにしなくてはならなかったので、心労は絶えなかったんですからねー。

 

 孫策さんは優秀な密偵を保有しているので、少しでも怪しいところを見せてしまえば、すぐにそれは露見してしまったはずなのですよ。

 

 さすがに風も孫策さんが同盟という道を選ぶとは思えなかったので、全ての兵士を入れ替えることは出来ませんでしたが、それでも夜の内に少数ごとに入れ替えるという緻密な作業を速やかに行ってくれた稟ちゃんには感謝するのですよ。

 

 まぁその予測外の事態が逆に敵を欺くように促せたのは事実でしょうねー。堂々と偽装兵を布陣させていたら、あの二人ならばそこに不信感を抱いていたかもしれないですしね。

 

 それにしても、両国の同盟は風たちにとっては脅威なのですよ。

 

 孫呉はおそらく風たち以上に固い結束で結ばれているのです。決して揺らぐことのない地の利を得ているのですからねー。それに孫策さんという絶対的な英雄と、周瑜さんという稀代の軍師に率いられているのですから、あまり敵にしたくない相手ですねー。

 

 でも華琳様は孫呉よりもどうやら益州の方に興味があるようですけどねー。

 

 敵陣には幸い御使いさんがいるようですし、華琳様より先に風が会って話してみたいのですよ。彼が本物であるかどうか――他の人たちはそんな妖しい存在を否定していますが、風は信じているのですよー。

 

 一体どんな風貌をしているのでしょうか。天の御遣いという名を冠しているのですから、身体中から神々しい気でも放っていると楽しそうですねー。でも、意外とそこら辺にいるような平凡な顔をしているのかもしれませんねー。

 

 短期間で益州という広大の地を手中に収め、民からは――特に反乱の拠点となった永安では、絶大な信頼を得ているそうですけど、その脳裏にはどのような思考が巡らせているのでしょうか。

 

 ――なんて、考え込んでいる場合じゃなかったのです。

 

 こうやって思考の深みに沈んでいく感覚は嫌いではないのですが、今は戦に集中しないといけないのです。

 

 そうこうしている内に周瑜さんの方はどうやら風の思惑に気付いたみたいですね。

 

 偽装兵に右翼を割いたところまでは風の狙い通りだったのですが、やはりあなたは容易に出し抜かせてくれないようですねー。

 

 今は本陣を小さく纏めて密集隊形をとることで、こちらの動きに備えようとしているのです。たった一瞬でそこまで読み解いた周瑜さんの知略はさすがとしか言えないのですよ。

 

 ですけど、きっと周瑜さんは知らないのです。

 

 この世には知力だけでは勝てないものがあるということを。

 

 ――思考がどんなに素早くとも。

 

 ――思考がどんなに深くとも。

 

 ――思考がどんなに鋭くとも。

 

 決して時間という壁を乗り越えることは出来ないのです。

 

 思考を現実に移す間に生じる時間――それはどれだけ優れていても突破することのできないもの。人としての限界地点なのです。

 

 そして、その時間を最大限に活かす策こそ、風の真の切り札なのです。

 

 袁紹さんがこの荊州全体を視野に入れていたのなら、風は大陸全体を視野に入れていました。

 

 孫策軍が七万という大軍を出動させたのならば、自国を守り抜くだけで精一杯のはず。別の場所に派兵することはおろか、こちらに援軍を送ることすら出来ないのでしょうねー。

 

 だからこそ、あの人をこちらに呼び寄せることが出来たのですよ。

 

 時間の壁にもっとも近づける――そう、神の速度を持つあの人を。

 

一刀視点

 

 周瑜さんは俺と孫策さんに言われ、一瞬だけ思案に暮れると弾けたように何かに気付き、すぐに本陣に指示を出した。かなり焦ったような表情をしていることから、敵の思惑に気付いたようだ。

 

 本陣に密集隊形を取らせた上で、敵の襲来に備えるように防備を固くしている。

 

 ――敵の襲来?

 

 そうか! 偽装兵を囮にした上で、本陣の守りを薄くさせ、そこに奇襲部隊を放つことが敵の狙いなんだ。それを巧妙に隠すために、あそこまで綿密に自軍を偽装させることで、俺たちの注目を集めたのか。

 

 しかし、そこで新たな疑問が生じる。

 

 周瑜さんも本陣の防備を固めることしか出来ていないんだから、きっとその解には辿りついていないのだろう。敵の切り札が全て分かれば、もっと具体的にそれを打破するための一手を打つはずだ。

 

 本陣を奇襲する部隊はどこにいるんだ?

 

 襄陽からの軍勢は総勢十万であることは確かなことだし、それ以降援軍が送られたという報告もない。目測でしか判断できないから、正確に十万の兵がいるかは分からないが、別動隊がいるようにも思えない。

 

 別の地域から援軍を放つとしても、曹操さんは翡翠さんとの死闘で、兵力は損耗していたはずだから、大規模に行うことは出来ないはずだ――精々出来ても一万が限度だろう。

 

 いくら防備が薄くなったとはいえ、こちらはまだ三万程は残っているし、一万の部隊で崩されるようなことはない。

 

 孫策さんを始め、周瑜さんに紫苑さんに焔耶までいるんだから、部隊の精強さは語るまでもないだろう。少なくとも同数の部隊で攻めない限り、勝機はないと思った方が良い。

 

 それに、もしも他地域から援軍がこちらに向けられれば、荊州に入った時点でこちらに索敵に掛かるはずだった。孫策軍は数多くの偵察部隊を放っており、それにより情報網を構築しているのだから。

 

 となると、敵はどこから現れるのか。

 

 江陵にいる旧劉琮軍の兵士は非武装化して捕縛してある。彼らが背後から攻めてくる可能性は無いに等しいのだ。

 

 周瑜さんもそれを必死に考えているようだが、彼女にすら分からないのだから、俺になんかに分かるはずもない。

 

 そのときであった。

 

「報告しますっ!」

 

 それは江陵城に残っていたはずの部隊の小隊長だった。血相を変えて飛び込んできた彼に驚いたが、彼の報告の内容に俺は耳を疑った。

 

「どうした!?」

 

「城壁より東方に砂塵を確認しました! おそらく敵の援軍だと思われます!」

 

「援軍ですって!」

 

 孫策さんが驚くのも当然だ。援軍が偵察部隊の網の目を掻い潜ってこちらまで来たというのだろうか。

 

「それで、規模は? 率いる将は?」

 

「およそ一万騎の騎馬隊です」

 

 指揮する将は――と続けた。その言葉に俺は声を失った。

 

「紺碧の張旗――張遼です!」

 

「張遼……だと……?」

 

 ――遼来来。

 

 三国志を知るものならば、多くのものが知る言葉である。

 

 孫権が十万もの大軍で合肥を包囲した際、八百名の精鋭を率いて孫権の本陣に突撃、孫権をあわやというところまで追い詰めたエピソードは有名だろう。

 

 孫呉にとって張遼は天敵にも等しい相手で、それからというもの『遼来来』――張遼が来るぞ、という言葉を聞かせるだけで、子供泣き止ませることが出来たという。

 

「あり得ない! あやつは確か合肥に駐屯していたはずだ!」

 

「冥琳、理由は後よ! 来るわっ!」

 

 孫策さんが素早く太刀を抜き払った。彼女の視線の先には、確かに砂塵が見えた。それを張遼さんが率いているかどうかはまだ見えないが、おそらく偽りではないだろう。

 

 旧劉琮軍を偽装したくらいだから、これも偽装ではないかと思ったが、一万騎という小勢で攻める以上、率いる将の手腕は相当なものと考えた方が良い。そして、それが可能なのは張遼さん以外あり得ないだろう。

 

 俺はこのような形で張遼さんと再会することになってしまったのだ。

 

風視点

 

 霞ちゃんより敵の本陣に接近する旨の伝令を受け取りました。

 

 さすがに霞ちゃんは速いのです。合肥からここまで一万騎を率いて、これだけ短期間で来られるのは、おそらく彼女だけでしょう。

 

 周瑜さんが、風たちが本陣の奇襲を目論んでいると喝破しても、どこから奇襲部隊が現れるのか分からなければ、守備を固める以上の対策を講じることが出来ないのです。

 

 そして、常識で考えれば、奇襲部隊が現れるなんてことも不可能なのですよー。

 

 孫策さんたちの強みは情報量の多さにあります。彼女らは袁術との長い関係の中で、敵に知られないように行動することが必要だったため、周泰さんや甘寧さんを中心に、凄腕の隠密部隊を形成したという背景を持っています。

 

 その文化を元来の戦にも活用するために、兵士とは別に独自の偵察部隊を付近に放つことで、周辺地域のあらゆる情報を収集し、開戦前の駆け引きから戦後の制圧地の慰撫まで、様々なことに活用していたのです。

 

 おそらく襄陽付近にも多くの偵察部隊が放たれていることも知っていましたが、それは霞ちゃんには関係ないのですよー。

 

 それを阻止するためにすることは非常に簡単なことなのです。

 

 密偵部隊が本陣に戻るより早く移動してしまえば良いのです。

 

 それを最初に披露したのは馬騰さんでした。あの人が率いた黒騎兵の動きは尋常なものではなく、どれだけ動きを読もうとしても、斥候が帰還する頃にはこちらの目の前にいたなんてことが何度あったことか分かりませんからねー。

 

 華琳様もその脅威を理解して、西涼連合との戦いの後に、霞ちゃんの部隊にはどこの部隊よりも駿馬を回すようになり、霞ちゃんも馬騰さんの影響で以前とはまるで別人のように指揮を執るようになったのです。

 

 さすがにまだ黒騎兵までの精強さはないものの、相手が孫策軍ならば――孫呉は駿馬に恵まれていないので、偵察部隊より早く移動することが出来ますし、偵察部隊を駆逐しながらの移動も可能でしょうねー。

 

 そして、仮に一万騎であっても、霞ちゃんの騎馬隊は大陸でもっとも精強な部隊なのですよ。三万の軍勢を乱すことくらいは他愛のないことなのです。

 

 相手は肉眼で捉えられるところに来て、やっと霞ちゃんの軍勢が奇襲部隊であると認知したみたいですねー。

 

 既に防備は固めてあったようなので、弓矢を射かけながら霞ちゃんの部隊の接近を防ごうとしていますが、そんなの無駄な足掻きなのですよー。

 

 霞ちゃんの部隊は猛烈な速度を維持したまま、何隊にも分かれ、敵の迎撃の間隙を突くと、そこから一気に部隊を突入させました。

 

 益州の有する騎馬隊は季衣ちゃんと偽装兵が抑えていますし、孫呉には多くの騎馬隊は存在しません。

 

 霞ちゃんたちを遮るものはなく、部隊を横から分断して一気に蹂躙し始めました。情け容赦なく振われる刃に、両軍は相当な被害を出すでしょうねー。

 

 本陣が大きく揺らいだことで、先鋒や袁紹さんの部隊も大きく動揺し、そこに満を持した春蘭ちゃんが率いる部隊が突撃を仕掛けました。

 

 今まで春蘭ちゃんに我慢してもらったのは、ここで敵を一網打尽にしてもらうためなのですよ。既に春蘭ちゃんの頭の中には戦うことしか選択肢は残っていないですからねー。

 

 仮に文醜ちゃんや顔良ちゃん、太史慈さんが束になっても、おそらく止められはしないでしょうねー。春蘭ちゃんは華琳様の許に集う勇猛な将と比べても、右に出る者がいないほどの腕の持ち主ですからねー。

 

「ふふふ……、これで風の勝ちなのです」

 

 まだ戦は決まっていませんが、戦の流れは風たちが握っているのですよ。

 

 戦略を捻じ伏せる武力とはこういうものなのです。

 

 特に自身の知略を誇りとする者にとっては、これがどれだけ絶望的なことなのか、風はよく知っているのです。

 

 周瑜さん、袁紹さん、お二人の心はまだ折れずにいますか?

 

あとがき

 

 第五十四話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、今回は風の策の説明でした。

 

 旧劉琮軍は偽装兵で、本当は曹操直属の精鋭で構成された部隊。そして、それすらも囮にして本陣の守りを薄くなったところに霞の部隊で奇襲、最後に春蘭の部隊で一気に叩く。

 

 戦略的思考はどちらかと言えば麗羽様に近いものを持っていますが、今回の戦では、荊州を視野に入れた麗羽様と、合肥を含む地域まで視野に入れた風では、やはり風の方が上だと言えましょう。

 

 本編でも語られていますが、曹操軍は馬騰軍と対峙することにより大きく変貌を遂げております。それは各個人の思考すら変えさせてしまう程のものでした。

 

 それにより将としての器を大きく成長させた春蘭と霞、二人の猛将の力を最大限に活用させた風は、さすがとしか言えませんね。

 

 若干、黒くなってしまったような気もしないわけではないですが、風が敵に回っていると状況がどれだけ脅威となっているのかお分かりになってもらえれば幸いです。

 

 それにしてもこの頭脳戦はほとんどが心情描写になってしまうのが厄介ですね。会話がほとんどなく、風なんて今回最後に一言しか話していませんからね。

 

 非常に書き辛い描写が続いていて、作者の方が心が折れそうです。

 

 さてさて、それから、アンケートについてです。

 

 最初に謝罪しておきます。今回意見を採用されなかった方には大変申し訳ありません。アンケートなんてするんじゃなかったと後悔すらしそうですが、実施してしまった以上、それを反映させるのが道理だと思います。

 

 多くの意見がありましたが、やはり1と2の意見が多く、一刀くんが紫苑さん以外と結ばれても問題ないということで、焔耶を含めまして、他の将とのイチャラブも書いていきたいなと思っております。

 

 それでも紫苑さんだけは特別であるというのは変わりません。彼女が本妻であり、最後は彼女と幸せになる方向で話を進ませたいと思っております。

 

 今回、紫苑さん一筋の方が良いと仰ってくれた方には本当に申し訳ない気持ちで、正直このままあやふやにしたいというのが本音ですが、それでは読者の皆様に対して失礼ですので、今回このような形になりました。

 

 もしかしたら、紫苑さん一筋の一刀くんだから魅力的であると思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、その方には弁解すら出来ません。全ての読者様の意見を纏めることが不可能であると痛切致しました。

 

 4を選んだ方は、本当に申し訳ありませんでした。

 

 さてさてさて、次回は窮地に立たされた益州、孫呉がどうなるかを書きたいと思います。

 

 風の戦略により、一気にピンチに陥った彼らはそれを打破することが出来るのでしょうか。それとも江陵は曹魏に奪われてしまうのでしょうか。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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