No.222456

真・恋姫†無双~江東の白虎~第弐章 17節~巳水関の攻防~

タンデムさん

押し付けられた先鋒に、劉備は全く足りない兵数、
後ろからは弓を引かれる状態で、絶体絶命、前門の狼後門の虎と言ったところ。
だが、一刀がそこで……?

ちわっす、タンデムです。

続きを表示

2011-06-13 03:42:13 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:14040   閲覧ユーザー数:10029

この小説は、北郷一刀、呉の主要キャラほぼ全てと華陀に

 

いろいろな設定を作っていますので、キャラ崩壊必死です。

 

更に、オリキャラが出ます。

 

その点を踏まえて、お読みください。

 

嫌悪される方は、ブラウザ左上の←または、右上の×をクリックすることをお勧めいたしますっす。

 

それでもOKという方は、ゆっくり楽しんでいってくださいっす。

「美蓮ゴメンナサイ、結羽ゴメンナサイ、雪蓮ゴメンナサイ、冥琳ゴメンナサイ、蓮華サマユルシテクダサイ……」

 

「……はぁ、やはりこうなったか」

 

天幕の中で震える一刀を見ながら、凱は溜息をついた。

先日の馬騰が唇奪い一刀ゲット宣言をしたのが、

雪蓮の口から、『一刀に好意を寄せる女性陣』全てに広まってしまい、

一夜でこのような状態に陥ってしまったようだ。

 

「はぁ……我療点生・点丈点臥・癒医我徳尊・元・気・に・なれぇぇっ」

「祭ゴメ……あれ、凱?」

「おはよう、一刀」

 

このままで居ても、埒が明かないので仕方なく凱は、少しやる気な下げに鍼で治療を施した。

すると先程の事が嘘のように、一刀がいつもの調子に戻った。

それを見て、漸くまともな会話が出来た。

 

「全く、好色男児なのは勝手だが、程々に加減しとけよ。 いつか後ろから刺されるぞ」

「失礼だなっ! 何でこうなったのか、俺が一番驚いてるんだよっ!」

「……まぁいいか。 それより――」

 

鈍感に、これ以上言っても無意味だと判断した凱は、話を変えることにした。

 

「何かするのは良いが、偶には何をするのか俺にも教えてくれ」

「ナンノコトデセウ?」

 

凱の言葉に一刀は少し可笑しな発音で、返事をした。

そんな一刀に凱は、懐から巻物を取り出し、一刀に渡す。

一刀は、渡された巻物の中身を見て、真剣な眼差しになる。

 

「明命が、行軍する前から居なくなっていた事に、俺を含めて冥琳、結羽殿は気が付いていたぞ。

しかもお前があんな状態だから、俺のほうにその巻物が回ってきてたんだからな」

「ありゃま、バレテたのねん。 そりゃ、すまん。 帰ったらなんか奢るよ」

 

一刀は隠し事をしていた事に、悪びれもしないが、凱はそんな彼を見て可笑しそうに笑うだけ。

なぜなら凱は一刀のコレは、不治の病だと思っているからだ。

 

「狩人亭の満漢全席・祖龍で手を打とう、勿論明命にもな」

「うっ! うぅ……仕方ねぇ、それで手を打ってやるよ。 はぁ、小遣い足りっかなぁ」

 

狩人亭と言うのは、呉でもっとも高級な料理店の名前で、その中でもっとも高級な中華料理フルコースが満漢全席・祖龍なのだ。

やはり男の付き合いと言う物はこんな感じで、奢ってもらえるならたっぷりふんだくる。

しかも、ナチュラルに新しい明命フラグを立たされた事に、一刀は気付いていない。

 

「それで、なんて書いてあるんだ? 俺はその『暗号文』が読め無かったが、一刀は読めるのか?」

 

凱は先ほど、巻物を開いて中身を読もうとしたが、蚯蚓ののたくった様な文字になっていて全く分からなかった。

だが、一刀には簡単に解読できる。

 

「ああ、読めるよ。 なんせ、コレは俺が明命に教え込んだ『平仮名』って言う暗号文字だからな」

 

そう、巻物に書いてあったのは遥か未来の海の向こうにある異国の文字、『平仮名』の文。

平仮名ばかりで少し読みずらいが、この文字なら読める人間はこの世に2人だけなので、他の誰かに読まれる事は無い。

仮に、密書などが他の国に渡ったとしても、子供の落書きのような物にしか思わない。

 

「で、なにを調べさせたんだ?」

「『臭いの元を調べてくれ』って言ったんだ」

「臭いの元?」

 

一刀の発言に、首を傾げる。

そんな凱に、一刀は袁紹からの檄文の事を思い出させる。

 

「ああ。 今回の戦が始まったあの檄文。 そうとう『臭いがキツイ』からな。

俺は雪蓮に許可をもらって明命に動いてもらった。

洛陽に行って『臭い』の元を調べてってお願いしたわけ。」

「……無茶をさせるなぁ。 それで?」

「ここに居るやつらに、言いふらして遣りたくなる様な内容だぜ」

 

そう言って、一刀は凱にも読めるように筆と墨で巻物の内容を書いていく。

そして、巻物の中身を理解した凱は本当に眩暈で倒れそうだった。

「なぁ、この役目は俺に任せて戻らないか?」

「ぶ~! いいじゃない、私だって王さまなんだからこれも外交の一部よ」

 

今、一刀と雪蓮は、先日袁紹から先方を押し付けられた劉備軍の陣を張っている場所に居た。

少し道に迷いそうではあったが、無事入り口まではたどり着く事が出来たようだ。

其処には、美しい黒髪をサイドポニで結っている少女が、門番の様な事をしていて、

その隣に一刀は見覚えのある水色の髪の少女を見つけた。

 

「もしかして、……星か?」

「そのお声は、一刀殿?」

 

振り向いた彼女は、少し驚いた表情だった。

彼女が振り向くと、隣に居た黒髪の少女も此方に視線を向ける。

一刀は綺麗な黒髪から、噂の『美髪公』と名高い関羽だと推測し、星に聞いてみる事にした。

 

「久しいな星、隣の方は美髪公殿かな?」

「おやおや、久しぶりの私より、愛紗……関羽の方が良いのですかな?」

 

すると、やはりニヤニヤした表情で、そんな事を言う星。

そんな星の発言に、関羽は少し警戒気味の視線を二人に向け、一刀は溜息をつきながら若干疲れた表情をする。

 

「はぁ、変わらんな……星」

「ふふ、そうですかな?」

 

そして、気分良さそうな星と疲れた表情の一刀。

二人を見て、関羽と雪蓮は話についていけず、ポカンとしてしまう。

 

「おっと、ほったらかしにしてすまねえな」

「いえ」

「いいわよ別に。 後でじぃ~っくり効かせてもらうから♪」

 

事務的な返事を、一刀に返す関羽に、なぜか物凄くいい笑顔なのに目は笑っていない雪蓮。

それに少し苦笑をもらしながら、一刀は用件を言う。

 

「まぁ、いいや。 俺達は劉備ちゃんに会いに来たわけ、どっちでも良いから付き添いで案内してくれねえか?」

「! 其れはなりません。 何のために桃香様に会うのか、それ教えていただきたい」

 

そう言って、関羽は明らかな敵意を一刀に向けてくる。

そんな関羽を見て、星は溜息をついて

 

「一刀殿、それとそちらのお方。 案内致しますゆえ付いてきてくだされ」

「星!?」

「は?」

「……」

 

余りの星の発言に、関羽は驚きの余り叫び声を上げる。

星のその発言を聞いた一刀も、驚きすぎて絶句してし、雪蓮に至っては唖然としてしまった。

 

「あー……星。 普通は、関羽と同じ事を言うんじゃないのか?」

 

至極まともな事を言う一刀だが、星は首を横に振る。

 

「一刀殿がもし桃香様に危害を加えるおつもりなら、当の昔に此処を通り抜けている。 そうでしょう?」

「まぁ、そうだけど」

「確かにね」

「星、其れは如何言う事だ? まるでそれでは私達では、この御仁達の相手にならないような言い方ではないか」

 

少し黙っていた関羽だが、聞き捨てなら無い言葉を星の口から聞いて星に食って掛かる。

 

「その通りだ、愛紗。 一刀殿は彼の名高き『江東の白虎、孫江殿』。

そして恐らくはその隣におられるのはその妹君の孫策殿。

今の私達では、このお二人の足元にも及ばぬ」

「! なんと……、貴殿が孫江殿でしたか」

 

関羽が一刀の正体を知り、目を見開いて驚く。

彼女も『江東の白虎』に少し尊敬の念有るのか、口調が少し柔らかくなっている。

 

「あれ、俺達名乗って無かったっけ?」

「うん。 ぜ~んぜん」

 

だが、当の一刀は名乗っている物とばかり思っていたのだが、名乗り忘れていたようだ。

そうと分かると、一刀は姿勢を正し――。

 

「それは失礼した。 俺の名は孫江、字は王虎。

名乗らなかった事を、ここにお詫びいたす。 ほら雪蓮も」

「え~……ま、いいか。 私は孫策よ。すまなかったわね」

「……いえ、其れは此方も同じ事。 我が名は関羽、字は雲長。 どうぞよろしく」

 

礼儀正しく名乗り、名乗らなかった事に頭を下げて詫びる。

そんな一刀の態度に、関羽も警戒を解き、名乗る。

 

「さて、挨拶も終わった。 お二人とも、此方です」

「お、おい星?」

「ちょ、ちょっと?」

 

二人の挨拶が終わった所で、星は一刀達を陣の中に招き入れる。

二人も、招き入れてくれる星に付いて行く。

 

「ってあれ良いの?」

「俺入っちまって。 関羽が怒るんじゃねえの?」

 

いつの間にか自然に陣の中に招き入れられた二人が、星にそう聞く。

 

「何、気が付いたら後ろから追っかけて来ます。 一刀殿はお気に為さらず」

「はぁ、まったく」

「くくく……貴女なかなか面白いわね」

 

そう言って悪戯っぽく笑う星に、一刀は苦笑し、雪蓮は面白そうに笑った。

ちなみに、関羽がこの事に気が付いて追いかけて来たのは言うまでも無い。

~天幕~

 

「桃香様。 今入っても宜しいでしょうか?」

「星ちゃん? 良いよ入って」

 

星は中から許可が出ると、天幕の中に入る。

一刀と関羽も、星が入ると続いて中に入った。

 

「! 孫策さんに孫江さん!」

「や、劉備ちゃん」

「邪魔するぜ」

 

入ってくる人物に、一刀と雪蓮を見つけると劉備は声を上げて驚いた。

 

「孫策殿と孫江殿がお見えになられましたので、こちらまでお連れいたしました」

「反対していたくせに、よく言う」

 

関羽が、二人を連れてきたのはさも自分だ、と言うようなセリフを言う。

星はそれ聞いて少し呆れた感じの表情を浮かべて、そう言った。

 

「何か言ったか? 星」

「いや何も?」

 

その星の呟きが聞こえたのか、関羽は耳ざとく星にそう言い、星はそんな彼女になんでもないと言葉を返す。

そんなやり取りが有った中、一刀はベレー帽をかぶっている女の子に視線を移す。

 

「諸葛孔明は君だな? 蒼里には世話になっている。

さっきはちゃんとした挨拶はしていなかったな。 俺は孫江、字は王虎。 よろしくな」

「は、はいぃ! しょ、諸かちゅ亮、あ、あじゃにゃは、こ、孔明でしゅ。

お、お姉しゃまから、お手紙で伺っていましゅ、よ、よろしくお願いしましゅ!」

「きゃぁ~かわいい! 蒼里にそっくりね。 私は孫策よよろしくね、孔明ちゃん」

「はわわわ」

 

急に一刀に話しかけられて諸葛亮は、カミカミで殆ど何を言っているのか分からない挨拶で返した。

孔明は姉の蒼里からかなりの枚数手紙をもらっていて、そのほぼすべてに一刀のことが書かれていて、孔明の中で一刀はある意味小説に出てくる王子様のような存在となっていた。

その存在が今目の前にいるということで、彼女の緊張は計り知れなかった。

しかし当の一刀は、その噛み具合が、初めて自分と話をした時の蒼里に物凄く似ていて、

笑いそうになるのを堪えていた。

雪蓮は、かみかみで真っ赤になってどもる孔明の姿に、物凄く萌えていた。

そんな時、自分の服が引っ張られる感覚があった。

振り返ってみると、赤毛の少女が一刀の服を掴んで見上げていた。

 

「お兄ちゃんが、虎で、お姉ちゃんが孫策なのか?」

「おう、そうだぜ。」

「そう言うお嬢ちゃん、貴女は?」

「鈴々は張飛、字は翼徳。 よろしくなのだ、お兄ちゃん、孫策お姉ちゃん!」

「(なんですとぉっ!?) そ、そうか、よろしくな張飛ちゃん」

「にゃ! ……♪」

「あらあら。 (これは蓮華に報告かしら?)」

 

諸葛亮は蒼里が小さいのである程度は予測できていたが、

まさかあの燕人張飛がこんな小さな少女だとは全く持って予想外だった。

どもったのを誤魔化す為に、張飛の頭を優しく撫でてやる。

急に頭を撫でられて、張飛は少し驚いていたが、

一刀の手が優しくて心地よかったのか満更でもない表情をしている。

そんな張飛の姿を見て、恐ろしいことを心の中で呟いていた。

~某所~

 

「(ドックン!) む!」

「む? いかがなさいました、蓮華様?」

「いイや。 イマなニか無しョウに腹ガ立っタのヨ。 それダけ」

「はぁ(一刀様、いったい何をやらかしたのですか?)」

 

あるところで、なぜか急に機嫌が悪くなった主と、

その原因に気が付いている従者がいたとかいないとか。

「(ゾクゾク!?) ――っ!?」

「ん? どうしたの一刀?」

「い、いや急に寒気が来たんだ。 最近働きづめだったからかもしれん」

 

とりあえず言うと、恐らくその寒気はそんなことでは済まされないだろう。

そんな事をしていると、二人は横の方から視線を感じた。

 

「あわわ……」

 

其方を見ると、とんがり帽子をかぶった女の子がいた。

視線が合わさると、彼女は帽子のつばを握って恥ずかしそうに、帽子を深く被る。

 

「其方のお嬢ちゃん、名は?」

「え、えと、ほ、鳳統、でしゅ。 よろしくお願いしましゅ……あうぅ」

「きゃぁ~~~!! もう、すっごくかわいいわぁ~~♪」

「ひゃう!?」

 

鳳統は孔明の親友ともあり、彼女の姉、蒼里からの手紙を見せてもらっていた。

無論、かなり乙女な性格をしている彼女も、

想像の中で人物を作成して、一刀を王子様のような存在として扱っていた。

その存在が今目の前にいるということで、彼女の緊張も計り知れなかった。

だがしかし、その姿のあまりの可愛らしさに雪蓮は鳳統を抱きしめてしまったので、

当の鳳統はそれどころではなく頭の中はパニック寸前だった。

 

「そろそろおろしてやれ」

「ちぇ~いいじゃない。 あとちょっと位」

「きゅぅ……」

 

一刀の言葉に雪蓮は渋々ながらもそう言って鳳統を地におろした。

小さく搾り出した声を聞き取った一刀は、よく雪蓮の抱き枕になっている蒼里と酷似していて、

こんな時の蒼里は頭を撫でればほぼ万事解決なので、同じ行動をとった。

 

「あ……」

「ん、よろしくな、鳳統。

次は、もうちょっと声を大きく出来る様に頑張ろうな。 あいつには俺が言っとくから」

「あわわ……ハイ、でしゅ」

「ちょっと酷く無い、それ?」

 

なぜだか、一刀の一言一言に優しく教え込むような雰囲気があり、

彼女も最初ほど緊張せず、一刀の目を見て話せるようになった。

一頻り撫でると、一刀は手を離して劉備のほうに向き直る。

 

「おっと、待たせちゃって悪いわね」

「すまんな」

「いえ、それでご用件は何でしょう?」

 

劉備は一刀と、雪蓮いう人間を少し観察していた。

結論はまだでないが、今までの事を見て劉備の中での印象は、

一刀は『面倒見のいい優しいお兄さん』で雪蓮は『フザケ好きだけど優しいお姉さん』といった所だった。

「簡単な話よ。 巳水関攻めの時、ウチの太史慈と、ここにいる孫江を貴方達の戦線に加えてほしいのよ」

「その代り、こちらは足りない兵数と兵糧を用意しよう。

まぁ、この戦が終われば生き残ったウチの兵は返してもらうがな」

「はぁっ!?」

 

一刀のその発言に、驚きを隠せなかった。

 

「何を驚いてるんだ? 足りない兵数と兵糧、それでは必ず士気にも影響するぜ?

だが、其処に援軍と追加の兵糧に加え、その中に俺と華陀が居ると分かれば、落ちる士気は逆に跳ね上がる」

「凄く良い事尽くしじゃない?」

 

と、一刀と雪蓮は言った。

今の現状を考えると、確かに一刀の言う通りなのだ。

だが、だからこそ、人と言う者は勘繰ってしまう。

 

「……確かに貴方の言うとおりですが、まるでその答えが用意されていたような気がします」

「……『真の目的は、何ですか』ってか?」

「……(コク。)」

「ふふふ……そうこなくっちゃ」

 

諸葛亮の発言に、一刀は少し笑みを浮かべ、雪蓮は面白そうに笑った。

何処にも気を害しているようなそぶりを見せない二人を見て、諸葛亮と鳳統以外の周りの者は首を捻った。

普通此処まで誠意を見せているのに、こんな事を言われたら、

怒ってしまう物だが、二人は面白そうに笑うだけからだ。

 

「う~ん……質問に質問で返すのは失礼だけど、あえて言わせていただくわ。

劉備、董卓軍をどう思うかしら?」

「許せません。 民に圧政を行い、無理な徴兵と重税を強いて、苦しめているから」

 

雪蓮の質問に対して、悲しそうな顔をしてそういう劉備。

そんな劉備の反応を見て、雪蓮は深く溜息をつき、こう言った。

 

「はぁ……不合格、私が言えたことじゃないけど視野が狭すぎるわ。 正直、がっかりね」

「だが……まぁ最初はこんなもんじゃないか?」

「……え?」

 

そして、二人して呆れたような表情をした。

 

「な! お二人とも! その物言いは、余りにも無礼であり――」

「黙れ……!」

『――っ!?』

『ひぅっ!?』

「あらら、相変わらずすっごい覇気ね」

 

劉備は、一刀の呟きに反応した関羽が一刀に、

文句を言おうとした瞬間、覇気を出した一刀の声にそれ以上声が出せなかった。

ただ一言呟いただけなのに、関羽や星ほどの猛将が竦み上がってしまったのだから、

基本弱気な孔明や鳳統は気を失わなかっただけ凄いといえよう。

これだけで一刀の覇気がとんでもないと言うのが分かる。

 

「俺と俺の主『孫策』は、そちらの主『劉備』と話をしているんだ、口を挟まないで貰おう」

「……さて、劉備ちゃん? 何故私が『がっかり』とか『不合格』とか言ったと思う?」

「それは……」

 

劉備は雪蓮の言いたいことが、分からなかった。

本当に分からないという表情をする彼女を見て、一刀は懐から、一つの巻物を劉備に渡した。

 

「? コレは?」

「ウチの隠密に調べさせた情報よ」

「そいつを見れば、彼女の言いたい事が分かると思うぜ」

 

そう言う二人の表情を見た後、劉備は恐る恐る巻物を開く。

 

≪報告

洛陽八関だけでなく、洛陽の城門も出入りを厳しく限定するは、民の安全を考え戦に巻き込まぬ為。

城下の商人、多くを宦官におもねった者として捕らえ、財産を没収するは、賄賂を行った者のみ也。

自らに反対する者は、即座に粛清し、洛陽は怨嗟の声に満ちるは偽り也。

民に笑顔溢れ、民に皆董卓の事を聞かば、良き太守と声を大にする≫

『なっ!?!?』

「やはり……」

『……』

 

巻物書かれている文を見て、それだけで劉備、張飛、関羽が驚きの声があげた。

星は、ある程度予測していたのか、余り驚いた様子は無く、予測を確かめるかのように呟いた。

一方、諸葛亮と鳳統は押し黙っていた。

 

「コレが、視野が狭いと言った理由だ。

ちなみにこいつは、俺が信を置く隠密が集めた情報だ。 充分に信憑性がある」

「そ、んな……」

 

相当ショックだったのか、巻物の中身を見ながら、物凄く沈んだ表情をしていた。

 

「はっ! なら、早く皆に教えてこんな事止めさせないと!!」

 

そう言って、天幕を出て行こうとする劉備だが――。

 

「バカチン」

「きゃんっ!?」

 

雪蓮は足を引っ掛けて、転がし襟首を掴んだ後、元の席に座らせた。

 

「そんな事をすれば、コレ幸いと袁紹に拘束されて裏切り者か、董卓軍の間者として公開処刑間違い無しよ。

貴女は関羽たちとオサラバしたいの?」

「……うっ」

 

そう言い聞かせるように、劉備に言う。

雪蓮の言葉を聞いて、悔しそうに表情をゆがめる劉備。

その表情を後ろで見ていた一刀は、ふと思った事を聞いてみた。

 

「劉備、お前が目指す物は何だ?」

「え?」

 

唐突に聞いて来た一刀に、少し呆けたような返事を返す。

 

「唐突に聞いてみたくなっただけだ。 難しく考える必要は無い、自分のこうしたいと思うことを教えてくれ」

「私は……大陸の皆が笑顔になって欲しいと思っています」

 

一刀は、劉備のと目を合わせる。

一刀に見つめられて、少し恥ずかしかったが、劉備は目を逸らす事無く一刀と目を合わせ続けた。

そして、少したつと突然、一刀は笑みを浮かべた。

 

「甘い夢、君が言っているのは奇麗事だな」

 

そう厳しい言葉を言う。

その事は、覚悟していたのだが、やはり悲しいのか俯く劉備。

 

「だが、だからこそ良いでしょ?」

「ああ、もちろん」

「え?」

 

二人がそういうと、劉備は驚いたような表情をして顔を上げた。

 

「奇麗事だからこそ、現実にしてえよな? 俺達もそうなんだよ」

「あ……はい。」

「(はぁ、こりゃ落ちたわね)」

 

そう言って、一刀は優しい微笑みを浮かべながら、劉備に優しく笑いかけた。

劉備も淡く頬を染めて、一刀の微笑む顔を見つめた。

其処に居た一人以外が、不覚にも一刀のその微笑む表情と、雰囲気に呑まれ、目を奪われた。

~巳水関~

 

 

巳水関侵攻決行日。

 

一刀は、劉備たちの陣から出たあと、凱と紗那に声をかけて自分の部下達と一緒に劉備の軍と合流して、巳水関の前にいた。

 

その際、連れて行かない人たちに、ぶちぶち文句を言われていたが、何とか宥めた。

 

「ひゅ~、流石に壮観だな」

「ですね」

「これが、巳水関か……」

 

荒野に聳え立つ絶壁『巳水関』と、その上に並ぶ漆黒の『華』と紺碧の『張』の牙門旗。

それらを前にして、皆一様に緊張していた。

程よい緊張感が漂う中――。

 

「仲間に後ろから弓引かれてなかったら、もっとやる気が出るのにな」

「はぁ、何とも盛り下がる言葉ですな」

 

一刀の言葉に、星が溜息混じりに答えた。

そして、それを聞いた周りも後ろの状況――袁紹兵が此方に向かって弓を引き、歩兵は槍を構えている――

を見て溜息をつく。

 

「あんなのどうでも良いのだ! ここで鈴々達が、敵をぶっ飛ばして袁紹をギャフンと言わせてやるのだ!!」

 

だがその中で、無い胸をそらしてそう言う張飛を見て、一刀たちに笑みが零れる。

 

「くす、そうですね。 鈴々さんの言うとおりです!」

「この状況を力を合わせて、打ち砕けば桃香様のお名前も上がります」

「そして一刀様の名はさらに轟く……素晴らしいです!」

 

鈴々の言葉に、勇気付けられた諸葛亮と鳳統は、笑みを浮かべながらそう言い、

紗那は一刀の名が、更に広がるであろうことに喜びを感じているのか、頬に手を当てて恍惚とした表情を浮かべている。

紗那の様子に、若干引き気味の劉備陣営。

 

「こほん。 さて、引きこもっている亀の首、どうやって出すので?」

 

その中で、長い間濃いメンバーと旅をしていた星が、目の前の状況を無視して、話をふった。

 

「やはり、挑発して中から出すしかないだろうが、そう上手くいくものか?

相手の絶対有利の関を捨てさせる挑発となると、並みの挑発では無理だぞ?」

 

星の言葉に関羽がそう発言する。

だが、一刀が悩む事も無く、良い案があると言った。

 

「だが、俺じゃなく紗那――太史慈だ」

 

一刀がそう言うと、彼は紗那になにやら耳打ちをする。

 

「華雄の……を……で…………てくれ紗那、頼んだぞ」

「はっ。 お任せくださいませ、一刀様」

 

一刀の命をうけた紗那は、背に背負っていた巨斧『磊山崩』をその場に下ろし、

背負っていた鉄の長弓『空牙疾風』を手に持つ。

そして、そのまま前の方に行ってしまった。

 

「あの、孫江さん。 太史慈さんに、挑発の指示をしたんですか?」

「ああ、そうだ」

「でも挑発するなら、愛紗ちゃんか星ちゃんも、一緒に行った方が良かったんじゃないですか?」

「で、です」

 

そう言って、一刀を見上げながら言う劉備と諸葛亮と鳳統。

だが、一刀は余裕そうにこう言う。

 

「まぁ、とりあえず、太史慈のする事を見ていてくれ」

 

そう言って、ニヤリと笑みを浮かべて紗那の方を見た。

~SIDE紗那~

 

 

一人巳水関の前に立った紗那は、途方も無い緊張感にさらされる。

 

「このように緊張したのは、久しぶりだな」

 

今から行う事がもし失敗すれば、自分は一刀の顔に泥を塗る事になる。

失敗しても一刀は、笑って許すだろうが、自分の中に居るもう一人の自分が絶対許さない。

緊張した面持ちだが、ふと一刀の笑顔が脳裏を掠めた。

すると、何故だか先ほどまで、手が震えるような緊張感があったのが、一瞬でどこかに行ってしまった。

その事に、紗那はくすりと笑みを一つ零し、自然な手つきで火矢を番えた。

 

キリキリキリキリ……。

 

ゆっくり弓を引きながら、目標の『華』の牙門旗を見据える。

まるで、鷹が獲物を狙うように、鋭くその視線は研ぎ澄まされていた。

そして、風に『華』の牙門旗が翻る瞬間――。

 

「ゆけっ!」

 

ヒュゥンッ!!!

 

鋭い声と供に、番えていた火矢を放つ。

空を切り裂きながら飛ぶ赤い火矢は、減速する事無く目標に近づき、着火させた。

赤々と燃える『華』の牙門旗を見て、紗那は小さなガッツポーズをし、一刀の元へと走った。

「一刀様! この太史慈、無事任務を成功させました!」

 

戻って来た紗那は、誉めてくれと言わんばかりに大きな声で一刀に報告する。

もし、彼女に尻尾があったなら、千切れんばかりにぶんぶん振っているであろう。

そんな彼女を見て、一刀は紗那の頭を撫でる。

仄々した雰囲気が流れるが、劉備陣営の将達は内心戦慄していた。

一里以上離れた場所にある、風で揺れ動く旗に見事命中させるなど、あり得なかった。

暫く現実に呆けていた全員だが、突然鳴り響いた銅鑼の音に気を取り直し、其方の方に目をやる。

其処には、自分の誇りとも言うべき牙門旗を、黒焦げにされて怒った華雄とその部隊が、城門を開けて突撃して来ていた。

 

「掛かった掛かった、おっし! すぅぅ~~……。」

「! 皆さん! 耳を塞いで!!」

「ガァァァァォォォォンッ!!!!!!!」

 

凄まじい一刀の咆哮を受け、敵軍は一瞬突撃がとまった。

その隙をみて、一刀はまだ耳を両手で覆って蹲っている劉備の肩を叩いた。

 

「劉備、俺たちが先ずあいつ等を受け止めてやるから、お前は機動力の高い少数部隊で関を落としてくれ!

残りはちゃんと加勢しに来てくれよ!!」

 

まんまと一刀の罠に掛かった華雄を見て一刀は笑いながら、劉備にそう言って自分の部隊に走っていった。

 

「は、いぃ……皆、お願い、ね!」

「ぎょ、御意!」

「お、応、なのだ!」

「ぎょ、御意でしゅ……。 きゅぅ……」

 

皆一様に、一刀の咆哮になれていない為、少しふら付いていたが、武官達は一瞬で持ち直す。

劉備達も、今弱小である自分がどうするべきかが分かっているので、其々分担して行う。

劉備たちの中で、一番機動力の高い星の部隊は気づかれぬように、敵の脇を全速力で駆け抜け開きっ放しの城門に向かう。

星以外の部隊は、一刀達の加勢に向かった。

「うおぉぉぉっ!!! どこだぁっ!! 私の旗を黒焦げにしたのはぁっ!!!」

 

一刀は戦場で、敵をなぎ倒していると、馬鹿でかい叫び声を上げながら、此方に近付いて来る華雄を見つけた。

見つける手間が省けたと思った一刀は、

 

「此処に居るぞっ!!!」

 

そう、華雄に叫んだ。

 

 

~馬騰軍~

 

「は! 今、蒲公英の十八番取られた気がする!!」

「はぁ? 蒲公英、行き成り何言ってんだ?」

「て言うか十八番って何?」

 

と言ったやり取りが、馬一家で行われたとか無いとか。

閑話休題

 

 

「! きぃっさぁまぁっかぁぁぁ!!!!」

 

怒り狂った華雄は、一刀目掛けて戰斧『金剛爆斧』を振り下ろす。

直線的なその攻撃を一刀は、体を横に移動させて避ける。

 

「避けるなぁぁぁぁぁ!!!」

「無茶言うなよ~。 それに、消し炭にされなかっただけ、まだましだろ?」

 

一刀に避けられた後、華雄は更なる攻撃を一刀に向かって行うが、避けられる。

其ればかりか、更なる挑発の言葉に、完全に我を見失っていた。

 

「まだ言うかぁぁっ!! うがぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!!」

 

ドッスンッ!!!

 

力任せに戰斧を振り下ろした為、華雄の斧は深々と地面に食い込んでしまった。

 

「おっし! すぅぅ……覇ぁぁぁぁ。」

 

その隙を逃すまいと、一刀は両手に氣を籠める。

すると、一刀の両腕を白銀の一刀の氣が覆い、その大きさをどんどん肥大化させ、

長さは指先が地面に届くほどで、太さ5倍ほどの白く輝く氣の腕になっていた。

 

「白虎っ! 双爪っ!!!」

 

そして、指の第二関節辺りから曲げて鍵爪のようにし、

両腕を下から上に華雄に中る所でクロスする様に斜めに振り上げた。

 

ギャリギャリギャリギャリっ!!!!

 

腕の長さのせいで爪が大地を削りながらだが、全く速度は衰えずそのまま華雄に向かって進む。

 

「ぐぬぬぅっ! がぁっ!! 私は、負けんっ!!! はあぁぁあぁぁぁぁあっ!!!!!」

 

漸く地面から己の武器が抜けると、迫り来る一刀の攻撃に向かって迎撃せんと、振り下ろす。

 

ガギィンッ!!

 

一刀の氣で作った腕『白虎双爪』と華雄の武器『金剛爆斧』が衝突すると激しい火花が散った。

暫く拮抗を保っていたが――。

 

ピシッピシピシッピシピシピシッ!!

 

「な!?」

 

徐々に華雄の金剛爆斧に罅が入り――、

 

ガシャァァァァァン!!!!!

 

刃の部分が砕け散った。

 

「何だと!? ぐあぁっ!!!」

 

そしてそのままの軌道で、華雄に中り彼女を宙に浮かせる。

 

ガキャァン!!!

 

ギリギリ残っていた柄の部分で防御した御蔭で、怪我を負う事は無かったが、

辛うじて残っていた柄も完全に砕け散った。

一刀は、宙に浮いた華雄を追いかけるように、飛び上がり頭の上で両手を合わせて握る。

 

「そのまま落ちなっ!! 鎚爪っ!!!」

 

そして、力いっぱい振り下ろした。

華雄は腕をクロスさせて、衝撃を和らげようとするが、その程度では全く意味が無い。

 

「がっ!?」

 

地面が少し陥没するほど叩きつけられた華雄だが、ガクガクと震えながら起き上がる素振りを見せる。

 

「わ、た……っ」

 

だが、痛みと沈んで行く意識に耐え切れず、そのまま気を失った。

一刀は地面に降りると、華雄が死んでないのを確認すると、肩に担ぎ上げた。

 

「敵将っ! 華雄っ! 孫王虎が生け捕った!! 華雄の部下ども!!

これ以上無意味な戦は止めろ!! さもなくば、我が白銀の爪が貴様等を引き裂くぞ!!!」

 

そう言って、一刀は腕を振り上げる。

 

ジャーン! ジャーン!! ジャーン!!!

 

其れと同時に、関の方から銅鑼の音が響く。

見ると、深緑の劉旗と純白の孫旗が鎮座していた。

関と華雄の様子を見て、戦意を失った敵の兵は投降し、巳水関の戦は幕を閉じたのだった。


 
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