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真・恋姫無双 黒天編 第6章 「既視感」

sulfaさん

どうもです。第6章になります。

あらすじ
魏捜索隊も洛陽に到着し、すぐに会議が行われた。
そこでまたしても春蘭と秋蘭が倒れてしまうが、華佗の鍼によりすぐに回復する。

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2011-03-27 00:17:13 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:2948   閲覧ユーザー数:2544

真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第6章 「既視感」

 

 

 

「蓮華様、建業に着きました。いかがなさいますか?」

 

思春は馬車の中にいる蓮華に向かって報告を行う。

 

「そう・・・、もう着いたのね・・・」

 

馬車の中では蓮華と亞莎が冥琳からの報告書に目を通していた。

 

蓮華は窓の外一面に広がっている見慣れた江東の地を眺める。

 

いつもは遠く感じる建業への道程が、今回に限っては短く感じられた。

 

三国の都のうち、白帝城から一番遠いのが呉の都の建業である。

 

そのため、戻るだけでも一苦労なのだが、蓮華はもちろん呉のほとんどの将軍はあまり苦に感じることは無かった。

 

大好きな呉の景色を馬に乗りながらのんびりと眺める。

 

これが故郷へ帰るときの最大の楽しみとなっていた。

 

しかし、今回の帰路はそんな悠長なことはいってられなかった。

 

蓮華や亞莎は報告されることを資料にまとめつつ、他の地方を捜索している隊からの資料に目を通す。

 

明命は先行隊として各村で情報収集に出かけている。

 

思春は各兵士達の指示などで手が離せない状態だ。

 

各将軍達はやらねばならないことに追われており、とてもじゃないがのんびり帰ることなど出来なかった

 

「蓮華様、こちらに帰ってくるのはずいぶん久しいのでは?」

 

「そうね・・・。本国の仕事はほとんど穏に任せていたから」

 

「でしたら、城まで歩いて町の中をご覧になられてはいかがですか?」

 

思春はこの頃、馬車の中にひきこもり気味である蓮華を気にして町の中の散歩を提案した。

 

「でも、亞莎に負担はかけられないわ」

 

「いいえ、蓮華様。たまには気分転換も必要です。ぜひ、行ってきて下さい」

 

「でも・・・」

 

「私はこういうことは慣れていますので、お気になさらないでください」

 

亞莎は蓮華側においてあった資料を自分の方へと引き寄せた。

 

亞莎は捜索隊が出発してから常に蓮華と一緒にいた。

 

なので、蓮華の日に日に元気が無くなっていく様子を心配していた。

 

「・・・、分かったわ。亞莎の足を引っ張ってしまってもいけないものね。お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

「さぁ、蓮華様。参りましょう」

 

思春は馬車を止めるよう従者に指示する。

 

馬車が止まると、思春は降りてこようとする蓮華をさりげなくエスコートする。

 

馬車から降りると、そよ風がさわさわと蓮華の頬をくすぐった。

 

蓮華は大きく深呼吸をして、なつかしい故郷の香りを胸いっぱいに吸い込こんだ。

 

「ふぅ~~、やっぱりこの土地はいいわね。ひどくなつかしく感じるわ」

 

そう言って、蓮華はゆっくりと建業の町へと入っていった。

 

 

 

 

 

町の中は商人達や物を買い求めるお客さんで賑わっていた。

 

この辺りではとれないような物まで商品棚には並んでいる。

 

三国同盟が成立して以来、建業の町もずいぶんと発展した。

 

「建業はホントに帰ってくるたびに発展しているわね。うれしい限りだわ」

 

「それもこれもすべて蓮華様の努力の賜物です」

 

二人は街の様子を見ながら歩いていると、町の中心に当たる大きな広場にさしかかった。

 

その広場では子供達が仲良く遊んでいたり、女性達が数人集まって話し込んでいたりしている。

 

「おやおや、蓮華ちゃんでないですか。お久しぶりでございます」

 

蓮華と思春が広場を眺めていると、二人の老夫婦が話しかけてきた。

 

「あら、おじいちゃんにおばあちゃん。お久しぶりです。お元気でしたか?」

 

蓮華も老夫婦に気づいて軽く会釈をする。

 

思春は会話の邪魔にならないように、一歩後ろに下がった。

 

このおじいさんとおばあさんは、雪蓮ととても仲がよい人たちである。

 

よく雪蓮はこの老夫婦のところにお邪魔している。

 

「はい、おかげさんでこの年になってもまだ、ばあさんと逢引ができるぐらい元気ですじゃ」

 

「ふふっ、元気で何よりです」

 

「もう雪蓮ちゃんにはお会いしましたか?」

 

「姉さまにはこれから会いに行くところです」

 

「そうですか・・・。なら、お話を聴いてあげてくださいね」

 

おばあさんの表情が少し暗くなった。

 

「姉さまが何か?」

 

「最近のぉ~、雪蓮ちゃん元気が無いんじゃ。わしらには笑顔で話しかけてきてくれるのじゃが、無理に笑っとる感じがしての~」

 

「おじいさんと、どうしたんかいね~と心配してたんですよ」

 

あの自由奔放で気の向くまま人生を過ごしている雪蓮に元気が無い。

 

元気が無い姉などあまり想像ができない蓮華であった。

 

「そうなんですか・・・。分かりました。姉さまから話を聞いておきます。お二人とも、姉の心配をしてくれてありがとうございます」

 

「いえいえ、わしらにとって雪蓮ちゃんや蓮華ちゃんは娘同然。心配するのも当たり前じゃて」

 

「そうですよ。それでは、蓮華ちゃんも忙しいのでしょう?呼び止めちゃってごめんなさいね」

 

そう言うと老夫婦は二人仲良く町の雑踏の中に入っていった。

 

「思春、待たせちゃったわね」

 

「いえ、蓮華様。それではそろそろ城の方に参りましょうか」

 

「そうね。・・・ごめんなさい、気を使わせちゃって」

 

「はてさて、なんのことだか・・・」

 

そのまま、蓮華は思春と一緒に城へと向かって行った

 

 

 

 

 

城内に入るとすぐにあの特徴的な髪型の少女が顔を出した。

 

「お姉ちゃ~~ん」

 

小蓮が蓮華に向かって走ってくる。

 

「シャオ、久しぶりね。ちゃんと穏のお手伝いしてる?」

 

「あったりまえじゃ~~ん。シャオはいつも役に立つねって言ってくれるよ」

 

小蓮は小さな胸を張りながら堂々と宣言した。

 

すると、小蓮の後ろの方からなにやらヨタヨタと歩いてくる人影が一つ

 

「小蓮様~~~、どこですか~~~」

 

良く見ると息を荒くして、壁にもたれかかりながらもこちらに向かってくる穏の姿があった。

 

「ヤバッ!今日の穏はしつこいな。んじゃね。お姉ちゃん♪」

 

穏の姿を確認すると、そのまま一目散に廊下を駆けて行った。

 

「・・・相変わらずね。シャオは」

 

蓮華の言葉に隣にいた思春もうんうんと頷く。

 

「あっ!!そうだ!!」

 

小蓮が急にそう叫んで、蓮華の方へと振り返った。

 

「雪蓮姉様がね、会議をする前に母様の墓参りに行くから準備しなさいって~~」

 

そういい終わると、小蓮はすぐに踵を返して廊下を走っていった。

 

「あっ、ちょっと!!シャオ~~。ほんとにもう!!騒がしい子ね」

 

蓮華が呼び止める頃にはすでに小蓮は突き当たりの曲がり角を曲がっていた。

 

「はぁ・・・、はぁ・・・。しゃおれんさま~~~」

 

そして、後ろを振り返るとヨタヨタしている穏がやっと蓮華たちがいる場所にまでたどり着いていた。

 

「穏、大丈夫?」

 

蓮華は辛そうにしている穏の背中をさすってやる。

 

「れ、蓮華様。お帰りに・・・はぁ・・・なられてたのですね」

 

「またシャオが何かやらかしたの?」

 

「い、いえ。会議までお勉強の時間だったのですが、逃げられてしまいまして」

 

穏はやっと息が整ってきた。

 

「それはそうと、穏。姉さまがどこにいるか知ってる?」

 

「雪蓮様でしたら、自室にいらっしゃると思いますよ」

 

穏が廊下の先の方を指差す。

 

「分かったわ。ありがとう、穏。シャオならこの先の廊下を左に曲がって行ったわよ」

 

「そうですか~分かりました。追っかけてみますよ~。無理でしょうけど」

 

その情報を聞いて、穏も小蓮が向かっていった方に歩いていった。

 

「もはや、追いつく気がありませんね」

 

「まぁ、シャオ相手じゃ穏では無理でしょうね。さぁ、姉さまの所に行きましょう」

 

穏を見送った後、二人も雪蓮の部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

コン、コン

 

雪蓮の部屋の前に着いた二人は扉を軽くノックする。

 

「開いてるわよ~」

 

部屋の中から部屋の主の声がしたため、蓮華はそのまま部屋へと入っていった。

 

「失礼します。ただいま帰りました」

 

蓮華が部屋に入ると、雪蓮は机の上に座っており、その横には酒とその肴、それに水が一杯置いてあった。

 

「姉さま・・・、昼間からのお酒はお控えくださいと何度も・・・」

 

「ぶぅ~ぶぅ~、感動の再会の第一声がそれ~~」

 

「感動の再会って、祭りのときに会ってるではありませんか」

 

雪蓮は蓮華の苦言を聞き流しながら、盃を口へと傾ける。

 

「私はもう王じゃなくて、相談役?なんだから、少しぐらい好きにしてもいいじゃない」

 

そう言って、空になった盃に酒を注ぎこんでいく。

 

蓮華は老夫婦の会話を思い出す。

 

たしか元気がないように見えるとか言っていなかっただろうか。

 

しかし目の前にいる姉の姿はとても元気が無くて、萎れているようには見えなかった。

 

いつもどおりの自由奔放な姿の姉にしか見えない。

 

「ぷっはぁぁぁ~、サイコーー」

 

「はぁぁ・・・、姉さま。ほどほどにしてくださいよ」

 

これは止めても無駄だと考えた蓮華は、ただただため息をつくしかなかった。

 

「そういえば、シャオから聞きましたが母様の墓参りに行くのでしょう」

 

「そうよ。会議終わってからなんて、とても行く気にはなれないだろうし。それに話したいこともあるしね」

 

雪蓮はヒョイっと立ち上がって、酒瓶と盃を片付けた。

 

そして戻ってくると、あらかじめ用意しておいた水を一気に飲み干す。

 

「さて、それじゃ行きますか。思春もついてらっしゃい」

 

「はっ」

 

そのまま雪蓮は自分の部屋から出て行った。

 

「あっ、ちょっと。姉さま!!」

 

その後を蓮華、思春がついていく形となった。

 

 

 

 

 

 

廊下を歩いている途中、バタバタと騒がしい音が後ろから聞こえてきた。

 

後ろを振り向くと、小蓮がこちらに向かって駆けて来た。

 

「あれ?もう母様の墓参りに行くの?」

 

「そうよ。早く行かないとみんなに迷惑が掛かるでしょ」

 

「それじゃ、行こっか」

 

小蓮は軽い感じで雪蓮の後をついていこうとする。

 

「穏はどうしたの?」

 

「穏?さぁ?途中から追いかけてこなくなっちゃったし、分かんない」

 

それだけ言って小蓮は雪蓮の後についていった。

 

「あとで、穏にちゃんと謝っておかないと・・・」

 

蓮華はまた小さくため息をつき、二人の後を追いかけていった。

 

 

 

 

 

雪蓮、蓮華、小蓮そして思春が建業の近くにある森の中を進んでいく。

 

普通これだけの重要人物が顔を揃えてどこかへ行くとなれば、最低でも護衛の百や二百は当然つかなければならないだろう。

 

しかし、いつも雪蓮は“護衛は必要ない”と頑なに拒否していた。

 

その理由は“母様は騒がしいのは好きではない”ということだった。

 

そのほかにもちろん“うっとうしい”という理由もある。

 

「そういえば、私達姉妹で母様のお墓参りなんていつ振りかしらね」

 

「そうですね。三国同盟のことで忙しかったですからね。もう一年は行けてないと思います」

 

「シャオは良く周々と一緒に母様に会いに行くよ」

 

いつもと同じような他愛も無い会話をしながら4人横に並んで進んでいく。

 

蓮華は何気なく雪蓮の顔を横目で見る。

 

すると、雪蓮の顔が少し険しくなっていることに気づいた。

 

「姉さま?どうしたのですか?」

 

「えっ!?どうしたって何が?」

 

「いえ、いつになく真剣な顔をなさっていたから気になって」

 

「その言い方って、いつもは全然真剣じゃないって意味?」

 

雪蓮の問いかけに対し、蓮華は一つの笑みで返した。

 

「ぶぅ~ぶぅ~」

 

その笑みの意味を理解した雪蓮は頬を膨らませた。

 

「あと、いつも親切にしてくれているおじいちゃんとおばあちゃんが姉さまのことを心配してましたよ?元気がなさそうに見えるから話を聴いてあげてって言われました」

 

「うそ・・・、さすがだなぁ~。表に出さないようにしてたんだけど、心配かけちゃったか~」

 

「シャオも気づいてたよ。この頃姉様元気ないなぁ~って、・・・まぁ、仕方ないけど・・・」

 

小蓮の言葉を聞いて、蓮華も少し目線が下がってしまう。

 

小蓮も自分で言った言葉だが、少しシュンとしてしまう。

 

「ほら、しっかりしなさい!!絶っ対、一刀は見つかるから」

 

雪蓮は蓮華の頭をワシワシと撫で回した。

 

「ちょっと!姉様!!やめてください。大丈夫ですから」

 

雪蓮の手を跳ね除けて、自分の髪型を手櫛で整える。

 

「暗くなんてなっちゃダメよ!一刀は絶対に帰ってくるって!!」

 

雪蓮は一刀失踪のことを聞いてから、常にこの言葉を仲間達にかけ続けていた。

 

一刀失踪の話を聞いたとき、小蓮や穏は少しの間仕事どころではなくなっていた。

 

なので、祭や雪蓮が前向きな言葉をかけなければならなくなっていた。

 

しかし、内心は他のみんなと同じ気持ちなのは言うまでもない。

 

祭に至ってもいつもと変わらず皆に接してはいる。

 

しかし、この頃祭は酒断ちをしているようだ。

 

飲む気になれないのかそれとも願掛けをしているのかは分からない。

 

だが、心穏やかではないことは感じ取れた。

 

城中に広がるこの重苦しい雰囲気を打破しようと私だけでも明るく前向きにいようと雪蓮は心に決めていた。

 

だが、やはり無意識に顔には出でしまうようだ。

 

結局、おじいちゃんとおばあちゃんには気づかれてしまい心配をかけてしまった。

 

あとで老夫婦二人にも元気な声を聞かせに行こうと心に決めた。

 

「私達が信じてあげないでどうするのよ」

 

「・・・、そうですね。ありがとう、姉さま」

 

「ふ、ふ~ん。シャオは一刀が全体帰ってくるって分かってるから心配じゃないも~ん」

 

「思春も元気出して!!」

 

一歩引いて歩いていた思春にも声をかける。

 

彼女はいつもどおりの表情を装ってはいる。

 

「私は別にあいつのことなど心配ではありません」

 

しかし、そんなはずは無いと蓮華には分かっていた。

 

こんなときぐらい心配してあげてもよいのではと考えるのだが、あれが彼女の愛情表現なのだから仕方が無い。

 

「もうすぐ母様のお墓に着くわね。シャオと蓮華は水を汲んできてちょうだい」

 

「は~~い、よし!!お姉ちゃん、河まで競争よ!!よ~~い、どん!!!」

 

小蓮が急に提案して、承諾も得ずにそのまま始めてしまう。

 

「コラっ!!待ちなさい、危ないでしょ!?シャオーーーーーー」

 

蓮華も叫びながら小蓮の後を追っていった。

 

その場には雪蓮と思春が残されていた。

 

「・・・・・・、気づいてるわね」

 

「はい、かなりの者かと・・・」

 

「そんな身体で頼むのは忍びないけど、二人のこと、頼んだわよ」

 

「はっ!!」

 

思春も二人の後についていった。

 

そして一人残された雪蓮が後ろを一瞥する。

 

そこには誰も無く、ただ通ってきた道が続いていた。

 

その後、雪蓮も母の墓がある方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

雪蓮は母の墓石の前に着くとすぐに周りのゴミを取り除く作業を始めた。

 

小蓮がたまに来ているというだけあってそこまで汚れてはいなかったが、いつもしていることなので何となく始めてしまった。

 

「姉様、汲んできましたよ」

 

蓮華が桶に水を汲んで持ってきた。

 

その後を小蓮、思春が続けてやってきた。

 

「ありがと、んじゃ、軽く拭いてあげて」

 

「シャオがやる~」

 

小蓮は蓮華から桶を受け取ると、墓石まで近づいて丁寧に拭く。

 

「母様、報告が遅くなってごめんなさい。いろいろ忙しかったのよ」

 

雪蓮が優しい笑みを浮かべ、墓石に向かって話しかける。

 

「乱世と呼ばれた時代が終わってもう一年以上になるかしら。戦乱によって傷ついた江東の大地の傷がやっと癒え始めたわ」

 

戦乱がなくなったため、徴兵をすることも無くなった。

 

農業に従事していた人は何の気兼ねも無く農業に従事することができる。

 

そのため、余剰生産物もしだいに増えていき、飢えに苦しむ人も少なくなった。

 

余った作物も商人などに卸すこともできるようになったため、物流が活発になり、生活にも余裕ができてくる。

 

物流の要となる商人達の道中も三国にまたがる街道が整備されたため、安全性がより高まった。

 

街道が整備されたことにより、商人の他にも大道芸人や旅人達の安全性も確保される。

 

なので、民達も二の次とされてきた娯楽を楽しむ余裕も出てきた。

 

このようにして経済は活発化していき、国は発展していく。

 

戦乱によって傷ついた国が癒えていく。

 

「母様が望んだ世界を私達は掴み取ることができたわ。そしてこれからも、私達は母様がその場にいないことを後悔してしまうような国を、世界を作ってみせる。だから、安心して天から私達を見守ってください」

 

雪蓮は話し終わると、手を合わせて静かに目を瞑り、蓮華もそれを見習って手を合わせた。

 

「はい、終わったよ。母様」

 

小蓮は墓石を拭いた布を桶に戻し、それを持ってこちらに戻ってきた。

 

それを見て、雪蓮が墓石に近づいていき腰からぶら下げていた徳利を取り出す。

 

そしてその徳利を墓石の前に置いた。

 

「母様が好きだったお酒よ。たまには飲みたいでしょ?」

 

置いた後、腰にぶら下げていたもう一つの小さな徳利を取り出した。

 

雪蓮はそれを一気に飲み干した。

 

「こうやって、飲む機会もあまり無かったしね」

 

そして飲み干したものを腰にかけなおす。

 

「それでね、あんまりこんなことは好きじゃないんだけどね。一つお願いがあるのよ。今、私達の大切な人がどこかに行っちゃったのよ。別に代わりに見つけてくださいなんて頼まないわ。私達が見つけてみせる。だけどね、その人が無事なように私達と一緒にその人のことも見守ってくれないかしら」

 

そう言って、雪蓮は再び手を合わせた。

 

「さて、母様にも会ったし、一刀のことは頼んだし、帰りましょうか。帰って早速会議を始めましょ」

 

「そうですね。思春、シャオ、行きましょうか」

 

「はっ」「はーい」

 

4人は最後に墓石に向かって一礼をしてから、今来た道を帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

城へと帰る帰り道

 

「それにしても不思議ね。あの城から一刀がいなくなっちゃうなんて」

 

雪蓮が不意にそんなことを言う。

 

「うんうん、シャオもそれ思ってた。あれだけ厳重に警備されている城から一刀を誘拐なんて、明命以上の隠密行動ができないと無理だよね」

 

「誘拐って決まったわけではないけど、手紙を読んだだけじゃそのときの様子なんて分からないからね。蓮華と思春には会議できっちり話してもらわないと」

 

「はい、それは各捜索隊の報告も踏まえてしっかりとお話します。亞莎もいるし、明命も最新の情報を持って帰ってくれると思います」

 

明命には村の情報収集が終わり次第戻ってくるように伝えている。

 

もうそろそろ戻っていてもおかしくない時間にはなっていた。

 

亞莎も資料作りに励んでいることだろう。

 

「そっか・・・、ならいい・・・!?二人とも屈みなさい!!!!」

 

「蓮華様!!!」

 

 

 

 

 

突然、雪蓮が大声で叫び、思春が蓮華と小蓮をかばうように立つ。

 

「「!?」」

 

その言葉の直後、雪蓮の目の前を何かが通過した。

 

そのあと、ザシュッと地面にそれが突き刺さる。

 

「矢!?曲者!?」

 

「思春はその二人を守りなさい!!」

 

雪蓮は腰を低く屈めて、護身用の直刀を抜き放った。

 

辺りには鬱蒼と木々が生えそろっていた。

 

そして、その矢は森の方から放たれている。

 

木々の枝などが邪魔する条件化で確実に獲物を狙えるということは相当な手練であろう。

 

それに、矢の速さも踏まえて考えるとかなり強力な弓を使える者だとも推測できる。

 

ヒューーーーーーーーーーーーーーーン

 

そう考えているうちに、何かが空気を切り裂くような音がまた近づいてくる。

 

「っ!?」

 

その音が近づいてきたと認識したときにはすでに矢は目の前に来ていた。

 

それをすんでのところで回避し、地面に突き刺さる。

 

雪蓮が避けなければ、確実にこめかみを打ち抜かれていた。

 

「最低でも秋蘭ほどの腕の持ち主ね」

 

今の矢は雪蓮の左側から飛んできた。

 

雪蓮はすぐに矢が飛んできた方に刀を構えて、次の矢に備えた。

 

(この人数でかつ相手の腕前を考えると、逃げ切るのは難しいわね。どこにいても狙われるわ)

 

走って逃げたとしても、このぐらいの相手ならそれも計算して放ってくるだろう。

 

また、走ることに気が行き過ぎてはあの速い矢に対応ができなくなるかもしれない。

 

小蓮や蓮華を守りながらといったら尚更だ。

 

そう考えた雪蓮は、この場で相手の矢の本数が尽きるまで戦うか、あるいは相手の位置を特定しそいつを討つしか道がないと考えていた。

 

ヒューーーーーーーーーーーーーーーン

 

そして、また甲高い空気が切れる音が聞こえた。

 

その矢は雪蓮ではなく、蓮華や思春の方に向けられていた。

 

その矢は思春の鈴音によって打ち落とされる。

 

「思春!」

 

雪蓮が思春達の様子を一瞬見たとき、

 

ヒュッ

 

「ッ!?」

 

その矢とは別にもう一本の矢が雪蓮の頭部めがけて飛んできていた。

 

雪蓮はすぐに対応したはずなのだが、ぎりぎり間に合わず髪留めが打ち抜かれた。

 

後ろで束ねていた髪が解かれて垂れ下がる。

 

「なかなかやるわね。相手の顔が見たくなってきたわ。蓮華!!南海覇王を貸しなさい!!」

 

雪蓮が覇気のこもった声で蓮華にそう命令する。

 

「姉様!ここは退避したほうが」

 

「この人数で逃げたら誰か絶対に傷つくわ。思春にも無理はさせられないし、あなた達が傷つけばそれこそ相手の思うつぼよ。ここで仕留める!!」

 

もうすでに雪蓮は戦闘態勢に入っており、誰にも止められない状態になっていた。

 

「・・・、分かりました。ですが、無理はしないでください」

 

蓮華はしぶしぶではあるが、南海覇王を雪蓮に手渡した。

 

「ありが・・・!?しゃがみなさい!!」

 

雪蓮が受け取ろうとした隙を狙って、また矢が雪蓮に向かって放たれた。

 

雪蓮はとっさに蓮華の頭を手で押さえ込んだ。

 

「そっちね!!」

 

雪蓮は今の矢の方向で相手の場所をある程度特定したらしく、そのまま森の中へと駆けて行った。

 

「姉様、待っ・・・」

 

蓮華が雪蓮を呼び止めようとその後姿を見たとき、頭のどこかがはじける感覚がした。

 

孫策・・・雪蓮姉様・・・

 

母様・・・・・・墓参り・・・・・・

 

矢傷・・・・・・・・・かずと・・・・・・・

 

「なに・・・なんなの?」

 

頭の中から少しずつ、なにかが溢れてきているような気がした。

 

そして、その溢れる速度がだんだんと速くなってくる。

 

姉様・・・・・・

 

冥琳・・・・・・

 

赤壁・・・祭・・・

 

「いや・・・死んじゃやだ・・・」

 

「お姉ちゃん?」「蓮華様?」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

雪蓮は森の中を駆け抜けていた。

 

そして、ひととおり走った後、ゆっくりと立ち止まる。

 

(このあたりまで来れば・・・)

 

雪蓮は一人で森の中に突っ込んだ理由

 

それはもちろん相手の顔を殴ってやりたいという気持ちもある

 

しかし、一番の理由は相手が狙っているのは自分だけだと思ったからだ。

 

思春を狙ったあの矢は確実に思春に叩き落させるために放った矢だ。

 

相手は雪蓮のこめかみを狂い無く狙える実力があるのに、思春達に対しての攻撃だけは打ち落としやすい胸元が狙われていた。

 

そして、その矢に雪蓮が気をとられている一瞬の隙に、本命の矢が雪蓮の頭部をかすったのだ。

 

それに、今までの矢の軌道を考えるとすべて雪蓮に向けられているような気もした。

 

ならば、自分が近くにいればあの子達に被害が及ぶかもしれない。

 

そう考えて、雪蓮は森の中に一人で入っていったのだ。

 

「さて、後は相手の位置だけど・・・」

 

森の中は予想以上に木々が生い茂っていた。

 

進むたびに枝や葉が身体に当たってしまう。

 

動きがとり難い事この上なかった。

 

しかし、相手もそれは同じだろう。

 

しかも、これだけ障害物があればいくら弓の実力があろうとも狙いにくくもなるはずだ。

 

雪蓮は大きな木の陰に隠れて、何か作戦はないかと考える。

 

ヒューーーーーン

 

すると、また甲高い音が自分に向かって迫っていることが分かった。

 

「クッ!」

 

とっさに身体を翻すと左側から雪蓮の頭をめがけて矢が飛んできていた。

 

そして、避けた矢は大きな木に突き刺さる。

 

その矢が飛んできた方向を見ると、ただただ木々が鬱蒼と茂っていただけだった。

 

「相当の手練ね。ここまで寸分無く・・・でも、距離は近づいているようね」

 

先ほどよりも矢が飛ぶ音の長さが短くなっている。

 

それだけ、相手に近づいたということだ。

 

「それでもまだ距離がありそうね・・・」

 

雪蓮は思い切って矢が飛んできた方向へと駆けて行った。

 

ヒューーーン

 

そうすると、また目の前から矢が飛んでくる。

 

「目の前なら、打ち落とせんのよ!!」

 

雪蓮は南海覇王を構えてその鏃をはじき返す。

 

「この辺りね・・・もうそろそろ出てきたらどうかしら」

 

矢の音を考えてもかなり相手に近づいたはずだ

 

雪蓮は大声で傍にいるであろう相手に向かって叫ぶ。

 

叫んだその瞬間、背の高さぐらいある雑草が動く。

 

「そこね!!」

 

そう叫んで雪蓮は南海覇王を振りかぶり、その雑草ごとなぎ払った。

 

「えっ!?」

 

そこには、人影は無く矢が一本地面に垂直に刺さっているだけだった。

 

「しま・・・」

 

ヒュン

 

雪蓮はすぐに後ろに振り返って構えなおそうとしたが、すぐ後ろに矢が迫っていた。

 

「ちっ」

 

とっさに後ろに倒れこみ、間一髪のところでその矢を避けた。

 

「矢を囮に使うなんてね・・・」

 

矢をわざと雑草に打ち込んで葉を揺らし、あたかもそこにいるように仕向けたのだ。

 

「間違いなくこの近くに潜伏してるということね・・・。かくれんぼといったところかしら・・・」

 

雪蓮はそうボソボソと独り言を言うと構えていた南海覇王を下ろし、静かに目を閉じる。

 

そして、耳に全神経を集中させる。

 

「・・・・・・」

 

ガサッ・・・ヒュン

 

「ッ!そこね!!!」

 

雪蓮は右側から飛んできた矢を最小限の動作で避けるとすぐに矢の飛んできた方向へと駆けて行く。

 

そして、その先にある大木を横一線に切り込んだ。

 

ゴゴゴゴゴッ

 

大木が大きな音を立てて倒れると、一つの人影がこちらの方を向いて立っているのが分かった。

 

その者は黒い布を目だけを出すように顔に巻いており、手には弓が持たれていた。

 

 

 

 

 

「見ぃつけた・・・。覚悟はいいかしら・・・」

 

言葉と同時に雪蓮はその者の懐に飛び込もうとした。

 

しかし、自分の勘がこの先は危険だと行っている。

 

雪蓮は飛び込みたい気持ちを押さえ込み、相手と対峙する。

 

「・・・、来ないの?」

 

すると、黒布の者が雪蓮に話しかけてきた。

 

声の質からして、どうやら相手は女のようだ。

 

雪蓮はその言葉は聞こえたもののあえて無視をする。

 

その後も少しの静寂が続いた。

 

「・・・さすがは孫策といったとこかしら、これがあなたの勘ってやつね」

 

黒布の女が弓に矢を番えて、女と雪蓮の間くらいの地面を射抜く。

 

そこに矢が突き刺さると、矢が刺さった辺りに大量の別の矢が飛んできた。

 

そして、その辺りは一面矢だらけとなってしまった。

 

「ふん、遠くから弓で私を狙っていたような奴が急に目の前に現れたら誰だって警戒するでしょうよ」

 

「すぐにでも飛び掛りたいって思ってたくせに・・・」

 

その女は雪蓮の心の中を読み取ったかのようにそう言う。

 

「でも、あなたの勘は確実に鈍ってるわ。鈍ってなければあんな小細工に引っかからないでしょ?ふふふっ」

 

「・・・チッ」

 

雪蓮は相手が何を言いたかったのかすぐに理解した。

 

それは思春に放たれた矢の件と雑草の矢の件について言っている。

 

戦乱のときの雪蓮なら二発目の矢が狙っていると勘で気づけていてもおかしくは無い。

 

それにたとえ雑草が不自然に揺れようとも、そこから人の気配がしなければ飛び込んだりはしなかっただろう。

 

「私を殺せって誰から言われたのよ?」

 

「そんなこと訊いて私が言うと思ってんの?」

 

黒布の女がクスクスと馬鹿にした笑みを雪蓮に向ける。

 

「ならば・・・、捕まえて後でじっくりお話といこうかし・・・らっ!!」

 

雪蓮は思いっきり踏み込んで相手の方へと木々を利用してジグザグに走り出した。

 

弓相手にバカみたいにまっすぐ突っ込むなんて愚の骨頂

 

ジグザグに走れば相手も狙いはつけにくくなるだろう。

 

森の中という地の利も確実に自分にあると雪蓮は思った。

 

それに弓相手なら近接戦に持ち込めば、確実に有利になる。

 

そう考えて、雪蓮はいち早く相手に近づこうとした。

 

「それで近づけると思ってんの?」

 

黒布の女は距離をとろうともせず、矢筒から弓を三本取り出す。

 

そうしている間にも雪蓮はどんどんと近づいていく。

 

「あなたの進撃、三本の矢で止めてみせるわ」

 

「やれるもんならやってみなさいよ!!」

 

雪蓮の言葉を聞いた後、黒布の女は一本目の矢を番えてそれをすぐに雪蓮に放った。

 

「そんなバレバレな奴、あたるわけ無いでしょ」

 

その矢が向かう先は確実に雪蓮の進む方向を予測して放たれた物だった。

 

雪蓮もそれは分かっていたのですぐに進行方向を変える。

 

進行方向を変えたとたん、雪蓮の勘がまた危ないと警告を出す。

 

女の方を見るとまるで雪蓮がよける方向が分かっていたかのように、標準が見事にあっていた。

 

そしてすぐに二本目が放たれた。

 

「チッ!!」

 

雪蓮はすぐ近くにあった木を蹴り、その反動で無理に進行方向をまた変える。

 

反動で少し体が浮いた状態で雪蓮は相手の様子を一瞥すると、女の標準が寸分狂わずまた自分に向けられていることが分かった。

 

まるで自分の行動が本当に読まれているかのように

 

そして、三本目の矢が放たれた。

 

今までの矢の速さと違いかなりの速さでこちらに向かってきている。

 

「チィッ!?」

 

体の状態が不安定なため、打ち落とすのは難しいと瞬時に判断する。

 

雪蓮は地に足がついた後、すぐに矢を避けるため後方に跳んだ。

 

放たれた矢は先ほど雪蓮がいた所の近くにあった木に突き刺さった。

 

雪蓮は後方に跳んでしまったため、結果は黒布の女の宣言どおりになってしまった。

 

「私の宣言どおりね」

 

その言葉を聞いて、雪蓮の顔から悔しさの表情が滲み出る。

 

「あなたの敗因は相手が弓だと思って侮ったこと、地の利は自分にあると思いこんだとこね」

 

黒布の女がそういって、そのまま話し始めた。

 

「障害物があれば確かに狙いはつけ難くなる。でも、逆に相手の行動にも制限が出てくるわ。そこに矢を放ってさらに行動を制限してやれば、自ずとあなたの行動なんて読める」

 

話し終わるや否や、黒布の女はくるりと背を向けてそのまま歩いていってしまう。

 

「ま、待ちなさい!!勝負はまだ・・・」

 

「こちらの目的はもう済んだの。まぁ、あなたの実力も見れたし・・・そこそこの収穫じゃないかしら。あなたに一本でも当てられたら一番よかったんだけどね」

 

そして、また一歩ずつ歩を進めていった。

 

「最後に一つ・・・、今の私に・・・勝てるとでも思ってんの?」

 

そう言い残すと黒布の女は森の奥深くへと消えていった。

 

雪蓮は女を追いかけたが、すぐに見失ってしまった。

 

「あの女・・・、次会ったら容赦しない。叩き潰す!!」

 

雪蓮は近くに刺さっていた黒布の女が放った矢を一つ抜き取ってそれをへし折った。

 

雪蓮の気迫が戦時中の、小覇王と呼ばれていた頃にまで戻ったかと思うぐらいに高まっていた。

 

相手に対峙しておいて、一撃も食らわせることができなかった。

 

防戦一方、攻められっぱなしだったことが悔やんでも悔やみきれない。

 

雪蓮にとって、真剣勝負、生きるか死ぬかの戦いで初めての惨敗と言える戦いだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

雪蓮はあの女を一心不乱に追い続けたため、蓮華たちのいる場所が分からなくなっていた。

 

当ても無く森の中を彷徨っていると、前方から何かが近づいてくる気配がした。

 

とっさに近くの草むらに身を隠して前方を確認すると、それは明命の姿だった。

 

その姿を見て、雪蓮は明命に声をかける。

 

「明命!」

 

「雪蓮様、捜しましたよ!すぐにお城にお戻りください!!」

 

「ごめんなさい、すぐに戻るわ」

 

「はい!!それと報告が二つあります。蓮華様が急に倒れられたとのことです」

 

「!!まさか・・・」

 

雪蓮は黒布の女の言葉を思い出す。

 

『もうこちらの目的は済んだ』

 

まさか、あいては初めから蓮華をねらっていたのではないか

 

「誰かにやられたの!?」

 

「いいえ。小蓮様と思春殿が言うに急に大声を出されて倒れられたとのことです。命に別状はありません。今は城の方で休まれています」

 

その明命の言葉を聞いて雪蓮は少しだけほっとする。

 

「二つ目ですが、建業から南に50里ほどのところの村が何者かによって襲撃された模様です」

 

「襲撃って・・・、詳細は!!」

 

「所属は不明、ただ黒っぽい兜を身に着けた集団が襲ってきたということです」

 

「なんで今になってこんなことに・・・、とにかく城に戻るわよ!!」

 

「はい!!こちらです!!あっ、あと雪蓮様、これをどうぞ」

 

明命は蓮華たちと一緒にいたときに打ち落とされた雪蓮の髪留めを手渡す。

 

「ありがと、んじゃ、行くわよ!!」

 

明命が先導して、雪蓮がその後を追う。

 

 

 

 

 

三国同盟が成立してから一年と少しが経過した。

 

夢にまで見た平和な世が現実となってやっと根付いてきたところなのに

 

嫌なことが起こりすぎている。

 

いったいこの世はどうなってしまうのか。

 

それは小覇王の勘でさえも予測することは不可能になっていた

 

 

 

 

 

黒布の女が森の中を駆け抜けている。

 

まるで木々なんて何も無いかのように華麗に疾走していく。

 

そして、そのまま森を抜けるとそこには美しい淑女が馬を二頭連れて立っていた。

 

「お疲れ様でした・・・。感触はいかがでした?」

 

黒布の女は顔に巻いてある黒布をはずして、軽く髪を整える。

 

少し茶色いセミロングの髪が風にたなびいた。

 

「外史とはいえ、さすが三国志の英雄孫策ね。倒せなかったけど、なかなか面白かったわ。ああ、あと言われたとおり挑発もしといたわ」

 

「それはよかったです、まぁ結果よければ良しと言うことで。こちらも準備が整いました」

 

「ということは・・・」

 

「はい、こちらの思うとおりに動いてくれています。ここまでうまくいくと本当に面白いですね」

 

「敵の内部を撹乱させてこちらの思うとおりの行動をさせる。そして戦力を分断させ、そこを突く」

 

「三十六計にも似たようなものがありますし基本なのですが・・・、冷静でいられなくなるというのは恐ろしいものです」

 

淑女はくすくすと笑いながら話を進めていく。

 

「それとですね、混同も確認しました。小さなもの3つと大きなものを1つですね。これでこの外史でも私の力が全力で使えます」

 

黒い服に白いスカーフを巻いた淑女が小さく笑みを浮かべた。

 

「ただ、慣らすためにある程度時間が必要です。もう少し待ってくださいね」

 

「ええ、だいたい私はあなたの言う力なんてこの目で見ないと信じないけど・・・あいつらは?」

 

「他の地方で準備に追われていますよ。私も早く済まさなくては」

 

「そう、わかったわ。ところで・・・」

 

「ああ、あの子ですね。まだ屋敷で眠っています。もう少しで目も覚まされるでしょう」

 

「近くにいてあげたいんだけど・・・」

 

「わかりました。あなたにも休息が必要でしょう。行ってあげて下さい」

 

「ありがと、カガミ・・・」

 

弓を背中に背負いなおして、少女は馬に飛び乗った。

 

そして、そのままどこかへと駆けて行ってしまう。

 

「・・・、あとは・・・」

 

カガミと呼ばれた女は首にぶら下げている真っ赤な勾玉を握り締める。

 

「もうすぐですよ・・・」

 

カガミは勾玉から手を離すと馬に乗って南の方角へと走らせた。

 

 

 

 

 

 

舞台の裏にいたものがついに本格的に暗躍を始める。

 

そして、外史が動き始める。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

今回も少しだけですがオリキャラ登場です。

 

これらの人物がどのように物語に関係していくのか。

 

お楽しみにしていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

では、次回予告を一つ

 

蜀の捜索隊も成都へ入城し、情報整理に入った。

 

そこに、町が襲撃されたとの報告が入る。

 

一方、魏勢も襲撃された町に到着し・・・

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第7章 「灰色軍旗」 前編 黒兜

 

7章は前編、中編、後編という構成になっちゃうかもです

 

では、これで失礼します。 

 


 
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