No.207089

『想いの果てに掴むもの』 ~第22話~

うたまるさん

『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。

 今回は短めの小話です。

拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。

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2011-03-19 21:28:27 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:18669   閲覧ユーザー数:12819

真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ

 

『 想いの果てに掴むもの 』孫呉編

 

  第22話 ~ それぞれの思惑の中で ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この作品は、原作を元にしていますが、オリジナル要素も多く含まれています。

 登場人物の口調や性格に差異があるかもしれません。

 論理的に合っていない所もありますが、そう言った諸々の面を許容できない方は、お引き返し下さい。

 

 

 

一刀視点:

 

 

「膠に混ぜた鉱物や貝殻を塗るのは耐久性と防炎を目的とした物と分かるが、この格子模様は何のためにする必要があるのだ?」

「ああ、それも強度を増すためだよ。 布を何枚も重ねるより、そうした方が軽くて丈夫になるんだ。 何より裂け目が入っても、その格子目が裂け目を広げるのを幾らか防いでくれる」

「では『せんたぁぼおど』と言うのは横流れ防止が主目的と言っていたな。 ならばもう少し短くてもかまわぬか? あれでは浅瀬に乗り込む事が出来ない」

「そうだね。二~三人の船ならともかくもう少し大きめの船となると、脱着式と言う訳にはいかないからね。 悪いけどその辺りは俺も詳しくはないから、其方で工夫してもらうしかない」

「専門家ではないと言うのならば、それは仕方ない事だ。いちいち謝る必要はない」

 

 それで聞きたい事はとりあえず終わったのか、思春は邪魔したなと無愛想に言った後、早々に俺達や亞莎が執務している部屋を後にする。

 

「う~ん。真名は認められたものの嫌われたままか……はぁ…」

 

 競艇レースのおかげで、前のように背筋が寒くなるほどの冷たい眼差しではなくなったものの。思春の冷たく硬い対応に思わずため息をついていると。

 

「ああ、お兄さん。 思春ちゃんは普段からあんな感じですから、あまり気にしない方が良いですよ」

「それとも、すぐさま発情期の雌猫のようにすり寄ってくると思ったのか。この節操なしがよ~」

「なんでそっちに持ってくのっ! 違うよ俺はごく普通にって、亞莎頼むからそこで一歩引くような真似はしないでくれ、本気で悲しくなるからっ」

 

 俺の言葉に小さく笑いながらも、冗談ですと言って元の位置に戻ってくれる亞莎。

 風と宝譿の冗談に乗って俺の反応を面白がるって事は、それくらい俺を信用してくれているって事だけど……うん、いいんだ、いいんだ。どうせ俺はみんなのおもちゃだよ。それでみんなが明るく和気藹々としてくれるならば本望さ。

 

「まぁ桂花みたいに敵視丸出しで、悪言雑言の限りを言ってこないだけマシと思うとするか」

「アレはアレで、桂花ちゃんにとっては複雑な気持ちなんだと思うんですけどね~」

「ん?」

 

 風の言葉の意味に首を傾げると、宝譿はヤレヤレだぜ~。と風と共に溜息を吐く。

 本当に芸が細かい人形だよなぁと心の中でその仕草に癒されていると亞莎が。

 

「あの、思春様は……その、気難しい所はありますが、本当は優しい方なんですよ」

「うん、そうだと思う。 不器用だとは思うけどけど、その辺りは誤解していないよ」

 

 俺の言葉に、ほっと息を吐く彼女。

 仲間想いな子の良い娘だなぁと思っていると風と亞莎が。

 

「アレでも機嫌が良い方だと思うのですよ~」

「そうですね。 街を襲っていた盗賊団の幾つかを壊滅できた事もありますが。その事で新造船を作る事が出来るだけの基金を得られたのが嬉しいのだと思います」

 

 新造船が手に入るというのを喜ぶというのは分からなくもない。 まぁ口悪く言えば、子供が新しい玩具を手にする気持ちに近いだろうし、俺も逆の立場だったら声を上げて喜ぶに違いない。 ……それにしても、アレで機嫌が良いって、……機嫌悪かったら俺の首なんか簡単に跳びそうだよな……。

 

「でも流石一刀様です。 幾つかの船と帆を黒塗りして闇に紛れさせるだなんて」

「いや、亞莎が昼間の練習の時は態と風鳴りがするような細工を、新しい帆の使った船全てに着けさせてくれたおかげだよ」

「そ、そんな。私はただ、一刀様の案に補足しただけです」

「いえいえ。お兄さんの策では相手に警戒心を残したままでしたから、やはり此処は亞莎ちゃんと拠点を突き止めた思春ちゃんと明命ちゃんの手柄ですよ~」

 

 そう、そのおかげで頭を悩ましていた幾つかの盗賊団を壊滅する事ができ、まだ処分されていなかった荷を奪い返す事が出来たおかげで、街の豪商達の信頼を得る事が出来た訳だけど……、やはり見る人達は見てきているんだなと感嘆させられた。

 彼等は昔から孫呉の庇護下に居り、孫呉を陰ながら支援してきた。

 魏に敗れた孫呉をこれからも信用してよいのかどうかと言うのを悩み続けてきたのだろうし。周りの孫呉の支配下に居る事を疑問視する言葉を無視するわけにもいかないと葛藤してきたらしい。

 それでもここ二年での雪蓮達の頑張りを見てきて、周りを少しずつ説得できるだけの材料を得れてきたところに今回の幾つもの盗賊団の討伐。

 天の御遣いの俺が孫呉についたと言う尾鰭を勝手につけていたけど、それは明らかに口実だと言う事は、あの人達の目を見れば明らかだった。

 

 それでも、俺は素直にそのことを喜べた。

 冥琳の疲れた重い溜息を吐きながらも、少しも諦めてなどいない強い意志を……。

 俺を気に食わないと言いつつも、民のために俺に街の隅々まで見せてくれた思春の想いを……。

 兵達の暴行に反対した時に見せた明命の怒りは、街の平穏を本気で望んでいたからこその怒りだった事を……。

 俺や風の案を、この国や街のやり方に合わせて、寝る間も惜しんで手直ししていた亞莎の努力を……。

 少しでも民の暮らしを良くしようと、必死に努力してきた彼女達の努力が報われつつある事が嬉しかった。

 それに合わせて街の人達から、ほんの少しずつだけど笑顔が増えていった事が俺の帰るべき許昌の街の事のように思えた。

 まだまだ時間は掛かるだろうけど、彼女達が居るならばこの国はきっと平和になると信じられたから……。

 

 

 

雪蓮視点:

 

 

「……ふぅ~」

「ん、どうしたの? 溜息なんて吐いちゃって」

 

 親友の冥琳の監視の下、書類に目を通しながら王印を押しながら、珍しく……もないわね。 よく私に関しては重い溜息を吐いてくれるから、でも仕事であそこまであからさまな溜息を吐くのは珍しい。

 

「いや、北郷の事でな」

「なに? まだ街のおじいちゃん達があっさり協力してくれるようになったのを気にしているの?」

 

 一刀の出した警備案と天の知識のおかげで、進めていた盗賊団の拠点まで潰す事が出来た。

 これを機会に街の町老連や豪商達が、今まで出し渋っていたのが嘘のように協力してくれるようになった訳だけど……。

 

「おじいちゃん達だって機会を待っていただけよ。 『今まで申し訳ない』って言いながら流した涙に嘘はないわ。 私の勘がそう言ってるし、そんなものが無くても冥琳なら分かるでしょ」

「その切っ掛けが我等ではないと言う事を悔しく思うのは当然であろう。 それに、その事に関しては北郷に感謝こそすれ、恨みに思う気など欠片もない」

 

 私の言葉をやや呆れるように反論しながら投げて寄越した竹簡に目を通すと………、なるほど確かに溜息も付きたくなるわね。

 

「冥琳の予想当たっていたと言う訳ね」

「ああ、幾つかの盗賊団に入れ知恵ばかりか、支援をしていた人物がいるらしい」

「この報告を見る限りそうみたいね。 で、これだけなの?」

 

 得られた情報を催促したけど。 残念ながら捕えた賊の頭や幹部連中を幾ら叩いても、それ以上の情報は得られなかったらしく。

 

「尋問中、両手の指が無くなった所で泣いて死を懇願したらしいからな。 其処まで庇い立てするような連中とも思えん。 しっぽを掴ませんとは、なかなか頭の良い奴のようだ」

「一刀が蜀を発つ頃……か、微妙な所ね」

 

 ウチか、それとも『天の御遣い』としての一刀か……。 どっちも同じくらいあり得るのよねぇ……。

 もしかすると両方って事もあり得るんだけど、今の段階では判断つけれるだけの材料がないわね。

 そうね、ならばと私は先程目にした別の報告が書かれた竹簡を、お返しとばかりに冥琳に投げ渡す。

 投げ渡した竹簡に目を通した冥琳が眉を顰めるなり。

 

「まさかとは思うが」

「そのまさかよ。 華琳は気兼ねなく鍛えてほしいと手紙で告げてきたわ。 ならばその言葉を敢えて鵜呑みにするだけよ」

「野盗退治か……確かに裏で動くものを引きずり出せるかもしれんが、逆に罠に飛び込む可能性を考慮たのか?」

「もちろん。亞莎と明命の隊を着けるわ。 一刀の軍師としての能力も分かるし、悪くない案だと思うけど」

 

 二人ならば、最悪の事態が起きても何とかしてくれるって信じられる。

 例え亞莎が阿蒙と呼ばれた頃に戻るような事態になったとしてもね。

 だからこそ、安心して一刀を餌に出来る。

 それに私の勘が、そんな事態に陥らないって言っている。

 そもそも、そう大した数の野盗でもないようだしね。 その上国境沿いと地形の関係で、今迄後回しにされてきたようだし問題はないはずなんだけど……少しだけ嫌な予感も同時にしているのよねぇ……。

 

 

 

華琳視点:

 

 

「ふふ」

 

 知らず知らずのうちに声が漏れ出てしまう。

 でもまぁ、特に聞いている者がいる訳でもなし、気にする必要はないんだけど。それを気にしなくなったらなんとなく悔しいので、少しだけ気を引き締める。

 

「まったく、他国に行ってまでも馬鹿な事ばかりやっているようね」

 

 それでも、ついそんな言葉が零れ出る。

 今、目にしているのは何時もとは違う風からの報告書。

 小まめに手紙を寄越すように言ったのに、何時も寄越して来るのは蜀に提供した知識や技術とか、政策に対する案や問題点と言った本当にただの報告書。

 確かにそれで一刀が頑張っている様子は分かるけど、それだけでしかない。 私が本当に知りたがっている一刀の様子はほとんど書かれていなかったけど、蜀を発ってから纏めたであろう今回の報告書は、今までと違い私の知りたかった事が最初から書かれていた。

 

 一刀を独り占めにしているんだから、もっと小まめにこう言う報告をしなさい。と思いつつ、それはそれで一刀の馬鹿な行動にヤキモキしそうになるのは目に見えている。

 風なりの気遣いなんでしょうね……。

 

「華琳様、居られますか?」

「入りなさい」

 

 手にした手紙を置いて、桂花を笑顔で迎え入れる。

 私だって可愛い部下のために、偶にはそれくらいの事はするわ。 ……機嫌の良い時くらいわね。

 桂花の用件と言うのは大した内容ではなく。あくまで私の承認を今日中に必要とすると言った程度の物と、後は荀彧が私と一緒にいる時間を作りたかったと言う所でしょうね。ふふっ可愛い娘。

 桂花の想いを汲み取るかのように、幾つか案件を終えた後。手紙の続きに目を通しながら。

 

「一刀は案の定、蜀でも馬鹿な事ばかりやってたようね」

「それはそうでしょう。 あんな下品で低能で性欲が服を着ているような人間に出来る事なんてその程度の事です。 我が国の恥さらし以外の何物でもありません」

「あら、其処まで言わなくてもいいじゃない? どうやら、向こうで虎退治までやったらしいわよ」

「え?」

「それに翠……、馬超にも仕合で勝ったらしいわよ」

「そんなの間違いですっ! でなけばまぐれに決まっています。 あんな女とみれば見境なく腰を振る最低の品性の持ち主に、そんな大それた真似が出来る訳がないです!」

 

 私の言葉に驚きながらも、それを猛然と否定する桂花。

 確かに桂花の言うとおり、手紙にはまぐれと書いてあるわ。 でもそれと同時にそのまぐれを呼び込んだ要因も書かれている。 それを踏まえた上でまぐれを呼び込めたのならば、桂花。貴女はそれでもまぐれと判断するのかしら?

 それに以前なら、私の言葉をそこまで強い言葉で否定する事はなかったって、貴女気が付いている?

 桂花の言動が可愛いと横目で眺めながら、お茶を片手に手紙の最後の方に読み進めて行くと。

 

びきりっ

 

「あ、あの華琳様!? お手にお怪我は?」

 

 桂花が心配げな声で、私の手の中で潰れた茶碗の欠片を取り。怪我が無い事を確かめながら茶で濡れた手を拭いて行く。

 

「あの、た・ね・う・ま・っ!!」

「ひっ」

 

 私の突然の不機嫌ぶりに怯えながらも私を心配していた桂花は、私の唸るような声と同時に発した覇気に腰を抜かしながら小さな悲鳴の声を上げるけど、今はそんな事はどうでも良いわ。

 問題は一刀よっ!

 馬超の抱えていた問題には気が付いていたわ。 その事に関して私が何を言っても、余計に猜疑心を生むだけだって事もね。 だからその問題を解決させたことには感謝もするし褒めてあげたいけど……なに? 唇を奪った? いったい何処をどうやったらそうなると言うのよっ!

 それに他の娘達とも必要以上に親密になりかかってるらしい?

 特に音々…陳宮は一刀が蜀を発つ時に、逆に一刀の唇を奪うくらいだったって!

 

「ふふふふっ」

「か・華琳様?  ひっ」

 

 甘かった。

 あの男がどうしようもない天然の女っ誑しだと言う事を、今日ほど痛感したことはないわ。

 私だけのモノになるような男には興味はないとは言ったけど。他国の重臣にまでその毒牙にかけるだなんて思いもしなかったわ。 一刀はともかく向こうはそれくらいの分別が付くと思っていたもの。

 

「………馬鹿らしい」

「華琳様?」

 

 恋は盲目というじゃない。自分であれだけの事をしておいて、それを棚に上げて忘れるだなんて、私らしくないわ。

 帰ってきたら、自分が誰の所有物かと言う事をしっかりと躰に刻み込んであげるとして、アレはそういうモノと受け入れるしかないわね。

 自分の思い通りにならないからこそ、面白味があると思う事にするわ。

 

「桂花。 この風からの報告書。 他の娘にも回してあげなさい」

「は、はぁ」

 

 でも、これくらいの事はさせてもらうわよ。

 せいぜい帰ってきたら、皆に言い訳するのに走り回りなさい。

 貴方なら、雨降って地固めるくらいの事は日常茶飯事でしょ。

 そう思っていると、まるで一刀がこの街に居た時のように、遠くの部屋で桂花の怒りの叫び声が聞こえる。

 きっと手紙の後半部分に、怒り心頭って所なんでしょうね。

 ふふふっ、ほんとに可愛い娘。

 桂花知っている?

 好意の反対は、無関心だって事を。

 それとも気が付いていて、ああいう態度を取っているのかしら。

 何にしろ。 半年前の事が嘘のように城に活気が戻ってきた。

 例え一刀がこの街に居なくても、此処に必ず戻って来てくれると信じられるからなのでしょうね。

 

 一刀、みんな待ってるわよ。

 だから早く用事なんて片づけて戻ってらっしゃい。

 あの娘達をこれ以上悲しませるなんて、許したりしないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

こんにちは、うたまるです。

 第22話 ~ それぞれの思惑の中で ~ を、此処におおくりしました。

 二月ぶりの更新で申し訳ないのです。

 本当は先月末か今月の頭くらいに更新したかったのですが、色々と多忙なのと花粉症に悩まされる日々で筆が進まない毎日でした。

 

 さて、今回はかなり短めですが。次回が長くなる予定なので、前振りだけと言う事になりました。

 次回はあの二人と一人が登場いたします。 彼女達の登場によって、一刀は更なる問題に巻き込まれてしまいます。

 とりあえず皆さんが覚えているうちに次回の話を更新したいと思っています。


 
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