No.204754

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART24~

戯言使いさん

さて、物語はクライマックスです。最後までは、出来るだけ期間をあけないように頑張ります。

2011-03-03 22:20:33 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4218   閲覧ユーザー数:3647

 

 

 

 

「大変です!!」

 

 

兵士が物凄い勢いで会議室の扉を開けた。

 

会議室には定例議会として、いつものように一刀を初めとする武将たちが集まっていた。更に言えば、三国が動き始めたことを知っていたので、より実践的な会議を開いている最中だった。

 

一同、いきなり入ってきた兵士に驚きながらも、すぐにただ事でないことを察知した。

 

 

「どうしたんだ」

 

 

「はっ!今、間諜から連絡がありまして、五瑚の軍が動き出したようです!」

 

 

「ん?それだけか?それなら、予定通りだろ。んで、何処に進軍してんだ?」

 

 

三国が戦争に向けて行動すれば、五瑚が動くのは当然。むしろ、それを待っていたと言っても過言ではない。

 

 進軍している五瑚の軍に奇襲をかける。それが、一刀たちの計画だった。自分たちは何処の国にも属さない、言わば無所属の兵士の集まり。五瑚はおそらく、自分たちの存在に気が付いていない。だからこそ、奇襲が成立する。

 

 

「そ、それが、進軍の先はここ・・・・我々です!」

 

 

その言葉に、会議室に居た全員が固まった。

 

 

「・・・・・はぁ!?何でだよ!今更、この砦を取りに来る筈がないだろ!?一体、何のために・・・」

 

 

「わ、分かりませんが・・・・・ですが、戦力はおよそ10万!」

 

 

「10万!?」

 

 

一刀たちの兵力はおよそ2万。義勇兵を合わせても、1〇万なんて程遠い。圧倒的過ぎる。

 

もし三国の何処かに攻め入るのであれば、その道を先回りをして、罠を仕掛けたり、様々な仕掛けをして、行軍速度を遅らせたり、もしくは兵力を削ぐことが出来た。だが、真っすぐこちらに向けてやってくると言うことは、それらの裏工作が出来なくなると言うことだ。

 

いや、それ以前、おそらく一刀たちの存在を知っているがゆえに、あえてこちらを狙ってきていると言うことかもしれない。となると、これは奇襲が出来ない。

 

 

「・・・・・おい、お前。御苦労だったな」

 

 

「は、はぁ・・・・」

 

 

「このことは誰にも言うな。今すぐ俺たちで会議するから、もうしばらく待ってくれ」

 

 

「はっ!・・・・・北郷様。一言だけ、よろしいでしょうか」

 

 

「何だ」

 

 

「私を含めた兵士全員は北郷様のお陰で、再び生を取り戻しました。その恩義に報いるため、私たちの死に場所は北郷様の元でと決めております・・・・・・我々は、何処までも貴方に従います」

 

 

「・・・・・ありがとな」

 

 

「はっ!出過ぎたことをしました。失礼します!」

 

 

そう言って、兵士は扉を閉めて出て行った。

 

兵士の言葉・・・・それは、一刀たちにとってはとても嬉しい言葉だった。この絶望的な状況でも、従ってくれる人が居ると言うことは、それだけで力になる。

 

 

華雄は腕を組み、思案顔になる。

 

 

「しかし、どうしてこっちに来るのだ?今更、この砦を取ったところで、何にもならんだろう」

 

 

「ですね。私たちの存在に気が付いているのだとしても、変ですよね。行軍の際に気をつければいいだけですし、むしろ私たちにとっては計画が狂って、大損失になるのに」

 

 

斗詩の言うことはもっともだった。

 

少数であるがゆえに奇襲が出来る。だが、その伏兵の存在に気が付いてしまえば、恐れるものは何もない。むしろ、逆に罠にはめてしまえばいいのだ。そして殲滅。数では圧倒的なのだから、今更少数部隊を殲滅しても意味がない。

 

一刀たちが頭を悩ませていると、ふと猪々子が思い出したように呟いた。

 

 

「・・・・あ、そう言えばアニキ。関係ないかもしれないけど、こんな噂が流れてたのを知ってるか?」

 

 

「何だよ猪々子。取りあえず、言ってみろよ」

 

 

「あんな『天の使い北郷一刀は三国の王の夫』ってな噂だよ。ここ周辺の村・・・・と言うか、今だったら、大陸中に知れ渡ってるんじゃないかな?」

 

 

「なんだよ。そのでたらめ」

 

 

まずその根も葉もない噂に呆れると同時に、今回のことには何も関係がないじゃないか、と一刀はため息を漏らしたところで、斗詩が気がついたように声をあげた。

 

 

「それです!その噂のせいで、こちらに進軍しているんですよ!」

 

 

「??」

 

 

「おそらく、五瑚は何処かでその噂を耳にして、そして一刀さんを狙ってこっちに攻めてきているんですよ!」

 

 

「??俺が狙い?」

 

 

「はい!一刀さんを捕まえて人質にすれば、三国の動きを止めることが出来ますし、それに天の使いを捕まえたとなれば・・・とにかく、一刀さんが目的なんですよ!」

 

 

斗詩はぶつぶつ呟きならが、おろおろしている。

 

なるほどな、と会議室に居た全員が納得した。

 

現状を考えると、砦をわざわざ取りに来た、伏兵を殲滅するためと言った理由よりは現実味があり、説得力があった。

 

だが、それが分かったところで、何の解決にもならない。問題はどうするか、だ。

 

 

「三国の夫・・・・・ねぇ」

 

 

「あぁ!どうしましょう一刀さん!いくらこの砦が有能だとしても、この兵力差では敵いませんし、もしも一刀さんにもしものことがあったら・・・・(おろおろ)」

 

 

「あぁもう!斗詩!少し落ち着け!こんなんじゃあ、落ち着いて作戦も考えられねーよ!俺は七乃と少し相談してくるから、華雄と猪々子は斗詩を頼むな」

 

 

一刀はそう言うと、先ほどからずっと黙っていた七乃の腕を取り、会議室の外へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

会議室から離れ、一刀と七乃は一刀の部屋へとやって来ていた。この部屋の周りは斗詩たちの部屋なので、誰かに盗み聞きされる心配もない。

 

 

「さーて。困ったことになりましたね」

 

 

七乃が苦笑いを浮かべて、一刀に振り向いた。

 

 

「・・・だな」

 

 

「一刀さんが捕まれば、間違いなく戦争は終わりませんよー。むしろ、五瑚を含めた四国で再び戦乱の世になります」

 

 

「・・・・どうすればいい?七乃の考えを聞かせてくれ」

 

 

「ふーむ・・・・そうですねー」

 

 

と七乃は悩む。そしてまるであらかじめ答えが決まっていたかのように、すんなりと答えを言った。

 

 

「逃げます」

 

 

「逃げる?」

 

 

「えぇ。だって、一番最悪な事態なのは、一刀さんが捕まることなんです。なので、こっそり逃げて、ほとぼりが冷めるまで隠れましょう」

 

 

確かに、七乃の言っていることは正しかった。

 

今の状態で、一番悪いのは一刀が敵に捕まること。それを回避するためには、逃げるのが一番良い手である。

 

しかし、一刀は頷かない。

 

なぜなら、戦争を引き起こした本人として、そして自分を信じて付いてきてくれる兵士たちにのため、一刀は素直に頷くことが出来なかった。

 

 

「・・・・戦争が長引くぞ」

 

 

「仕方がないですよー。最悪の状態を回避するには仕方がありませんよー」

 

 

「・・・俺たちを信じて付いてきてくれた兵士たちはどうする」

 

 

「訳を話せば、きっと分かってくれます」

 

 

「・・・・」

 

 

「気持ちは分かります。でも、考えてみてください。今の状況で出来る、最善の手は、逃げることなんです・・・・・ね?また一緒に旅をしましょうよ。そうだ。誰も知らない何処かで、静かに暮らしましょうよ。大陸のことは、各国の王に任せて。ねっ?」

 

 

にっこり、と元気付けるような笑顔の七乃に、一刀は顔を曇らせた。

 

「・・・・七乃。一つ聞くぞ」

 

 

「はいどーぞ」

 

 

「もしここで俺が「そうだな。兵士を捨てて、大陸を捨てて逃げるか」と言ったら、お前は俺のことを変らずに愛せるか?」

 

 

その質問に、七乃は少しだけ動揺した。

 

 

「な、何を言っているんですかー。そんなの、当然愛して・・・・」

 

 

「おそらく、斗詩と猪々子は違うだろうな。あいつらはどんな逆境でも前を向き続けた俺のことを好きでいてくれるんだ。ここで逃げだすような俺のことは、きっと好きでいてくれない」

 

 

ぐぅ、と言いどよむ七乃。しかし、七乃は拳を握りしめ、一刀に言った。

 

 

「で、でも!私は変らずに一刀さんを愛し続けれます!もし嫌われるが嫌なら、二人きりで逃げましょうよ!」

 

 

「・・・・・七乃。俺はさ、お前や斗詩、猪々子に胸を張って好きだと言える男になりたいんだ。ここで逃げだすような男が、これからもお前たちを愛せるとは思わない。そう思わないか?」

 

 

「そ、そんなの・・・・」

 

 

「俺は、いつまでもお前たちを好きでいたい。そして、いつまでもお前たちに好きでいてもらいたいんだ・・・・・だから、七乃。俺は逃げない。だから・・・・終わりにしようぜ」

 

 

一刀がある確信を抱いた強い視線で、七乃をにらみつけた。

 

 

 

 

 

沈黙。

 

長い沈黙が流れた。七乃は何かを言いかけては口を閉じ、そして今にも泣きそうな表情だった。それに対して、一刀は、子供を見守る親のように、優しい表情のまま、七乃の言葉を待った。

 

そして、しばらくして、七乃が口を開いた。

 

 

「・・・・あーあー、作戦は失敗ですねー」

 

 

七乃は大きくため息をついて、呆れたように笑った。しかし、七乃の目には涙が溜まっていた。

 

 

「そもそも、『三国の夫』ってな噂が変なんだよ。確かに、あいつらとは仲がいいさ。でもよ、それを知ってるのは一緒に旅をしてきたお前たちか、もしくは三国の奴らだけなんだ。三国の奴らは、そんな噂を流す筈がない。なら、噂を流したのは斗詩、猪々子、七乃の三人の誰かなんだ」

 

 

「・・・・」

 

 

「だけどよ、斗詩と猪々子は、魏での様子を知らないんだ。だって、旅をしたのは俺と七乃の二人だけなんだから。だから、『三国の夫』と言う表現は変なんだよ。三国での俺の様子を知っている奴・・・・つまり、お前が犯人ってわけだ」

 

 

「あらー、でも、あの二人が出まかせの噂を流したとは思わないんですか?」

 

 

「可能性はあるけどよ。でも、噂を広めるためには村に行く必要がある。んで、その機会が多かったのは、俺と一緒に義勇兵や資金集めをしていた七乃だろ?」

 

 

「・・・・・さすがは一刀さんですねー」

 

 

「まぁな。んで、どうせ後は俺たちの軍の情報を適当に流せば、向こうが間諜を送って来て、俺たちを攻めようってな考えに至るわけだ。大して、規模がないからな、俺たちは。しかも天の使いが居るとなれば、真っ先に狙ってもおかしくない」

 

 

しばらく沈黙が続いた。

 

 

七乃と一刀はその間、お互いに目を合わせたまま、動かなかった。

 

そして、その沈黙の末、七乃がため息をついた。

 

 

「ふぅ・・・・バレては仕方がありませんねー。そう、私が裏切り者です」

 

 

悪びれる様子なく、笑う七乃に、一刀も笑みを返す。

 

 

「いや、別にお前は裏切ってないだろう?確かに意図的に噂を流したりしただろうけど、直接五瑚に何か情報を流したわけでもないしな」

 

 

「ですが、私は意図的に戦を長引かせようとしました。だから充分に裏切り者ですよー」

 

 

「・・・・なぁ、どうしてだ?どうして戦争を長引かせようとするんだよ・・・・そもそも、敗兵村に頼ろうと言いだしたのもお前だろ?だったら、わざわざ言い出さなかったらよかったじゃねーかよ」

 

 

そう。そもそも、敗兵村に助けを求めたのは七乃の案だった。戦争を長引かせたいのなら、むしろその行動はマイナス。七乃の計画には反している。

 

しかし、七乃は小さな声で呟いた。

 

 

「・・・一刀さんは、天命を信じますか?」

 

 

「何だよ、急に・・・・」

 

 

「一刀さんは戦乱を鎮めるためにこの大陸に来ました・・・・・きっと、私が言い出さなくても、別の形で戦乱を鎮めていたと思います。それは、すでに決まっていることなんです。だって、天命なんですから・・・」

 

 

「・・・・」

 

 

「だから、私が考え出した計画でことを進めて、天命に逆らおうとしたんです」

 

 

何をしても、何をしなくても、一刀は必ず戦乱を鎮める。それが、今の一刀が生まれた理由ならば、その天命にあえて乗り、そして裏切ろう。それが、七乃の考えた計画だった。

 

しかしならばどうしてそのような計画を立てたのか。その理由が大事になる。そして一刀は、その理由に感づいていた。

 

 

「・・・・理由は・・・・・・俺、なのか?」

 

 

ぽつり、と一刀が呟いた。

 

七乃は一瞬、驚いたような表情を浮かべたが、唇を噛んで、そして頷いた。

 

一刀にしては、予想していたとしても確信はなかった。

 

一刀だって馬鹿ではない。洞察力と頭の回転の速さだけなら、七乃と同じぐらいだ。なので一刀もうすうすではあるが、自分の身に何が起きているかは気が付いていた。

 

 

その理由は夢。

 

―――最近、一刀が見る夢は、自分でない自分が、斗詩たちと旅をしているものだった。

 

それは記憶を失う前の自分の思い出だった。夢を見る度に、一刀は自分の存在が希薄になり、代わりに何かが入り込むような感覚に捕らわれていた。

 

 

「その様子だと、お前たちも気が付いてんだろ?今の俺がもうすぐ消えるって。記憶を思い出すって」

 

 

「・・・・はい。だから・・・・だから私は戦争を長引かせて、天命に逆らおうと思ったんです!」

 

 

「そっか・・・・ありがとな。でも、もういいよ」

 

 

「どうしてですか!?」

 

 

「俺が・・・・今の俺が、そのために作られたなら、それをやり遂げ、そして消えるのがいいだろう・・・・それが、天命だ」

 

 

「そんなの変です!どうして!?どうして大陸の平和のために一刀さんを失わなければいけないんですか!?私は・・・・私は大陸の平和よりも一刀さんを選びたいのに!」

 

 

そう叫ぶ七乃の眼から、涙が一筋流れた。

 

一刀は七乃の気持ちを分かっていた。だからこそ、七乃の裏切りとも呼べる行為に関して怒ろうとはしなかった。なぜなら、自分が原因だからだ。自分がもっと七乃と話し合い、そして信じあうことが出来れば、このような事態にはならなかったからだ。

 

 

「俺は元々、居てはいけない存在だったんだよ。だから、早く消えて、本当の俺に返さないといけない・・・・」

 

 

「ですが!」

 

 

「でもな?俺は感謝してる。神様だろうが誰であろうが、俺を記憶喪失にしてくれて、そして俺を生み出したそいつによ。だから、俺は戦わなければならねーんだ。それが・・・・俺の天命なんだよ。それが、天の使いとしての俺の役目だ」

 

 

一刀が、素直にそう言えるのは蜀の城で斗詩と会話したお陰だった。消えたくないと思う一刀に、いつまでも傍に居てくれると言った斗詩。一刀は斗詩のその言葉のお陰で、この天命を受け入れる勇気を得た。

 

そう。もし、自分が消えても、自分はいつまでも斗詩たちと一緒。だからこそ、安心して暮らせる大陸を作りたい。一刀は純粋にそう思うことが出来た。

 

そして、それをやり遂げるためには、七乃の力が必要だった。

 

 

「七乃。もう一度、知恵を貸してくれ」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「安心しろ。俺は俺だ。例え、今の俺が消えても、俺はずっとお前を愛し続ける。だから俺を信じろ」

 

 

何の根拠もない言葉。だが、今の一刀・・・・消える運命を背負った一刀が言える、最大の愛情の言葉だった。

 

 

―――あれほど一刀を消したくない、そう思っていた七乃。でも、一刀に必要とされている、それだけで、心の中がすっきりしていく感覚がしていた。

七乃は一刀のためと思っていながらも、結局は自分のために動いていた。でも、一刀の望みとあれば、その自分の願いすらあっという間に薄れていく。それは、単純な話、七乃は好きな人のために何かしたい、と願える恋する乙女だったというだけだった。

 

 

七乃は視線をそらしたまま少し黙って、そして小さく呟いた。

 

 

「・・・・・てください」

 

 

「??」

 

 

「記憶が戻ったら・・・・・真っ先に私を抱きしめてください。そうすれば、手伝います」

 

 

涙を拭いて、そう笑顔で言った七乃に、一刀は笑顔を返した。

 

 

「あぁ。俺にそう言っておくよ」

 

 

根拠も方法もないが、一刀はそう答えた。

 

七乃は一度自分の頬を叩くと、いつも通りの表情へと切り替えた。

 

 

「それでは、この張勲の知恵を貸しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「頼むよ・・・・だけど、大丈夫なのか?今の状況で、生き残ることは出来るか?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「おい」

 

 

「ふっふっふ、一刀さんお忘れですか?この張勲が一刀さんを絶対絶命に追い込んで逃げさせようと作戦を立てていたことを」

 

 

「・・・・・だから?」

 

 

「つまり、どんな状況においても絶体絶命になるように仕組んだので、無理です♪」

 

 

「・・・・・」

 

 

「・・・・・えへ♪」

 

 

「・・・・・」

 

 

「だ、だって仕方がないじゃないですか!」

 

 

「逆ギレすんじゃねーよ!」

 

 

「うぅ・・・・ですが、本当ですよ?まさか、一刀さんがこんな絶望な状況でも逃げ出さないとは思わなかったのでー・・・・」

 

 

「えっと・・・・じゃあ、伏兵を置いて、奇襲はどうだ?」

 

 

「ここ周辺の地図は盗まれているので、無理です。更に言えば、兵力、武将、装備に関しての情報もすべて筒抜けです」

 

 

「お前って奴は何てことを・・・・・わ、罠を仕掛けるのはどうだ?」

 

 

「何処にですか?ご存じの通り、ここ周辺で罠を仕掛けられそうなところはありません。更に言えば、ここら一体は荒野ですからねー、何かあっても、すぐに見つかってしまいますよー」

 

 

「・・・・・絶対絶命じゃねーか」

 

 

「だから言ったじゃないですかー。この張勲の策は完璧なんですよー」

 

 

変に威張る七乃に一刀はげんこつを一発お見舞いしてから、どうするかと考えた。

 

と言っても、一刀は軍略に詳しくない。さらに言えば、一刀が思いつくような策など、七乃の策の前では意味をなさないであろう。

 

敵になるとここまで厄介な奴なんだな、と一刀は呆れながらも、打開策を考える。

 

 

 

・・・・ありとあらゆる状態において、絶対絶命。

 

 

 

それは、つまり今ある軍略でどうにかできるようなことでないということだ。

 

 

 

―――『今』の軍略では無理。

 

 

 

「なぁ、お前があらゆる状況においても、絶対絶命になるように策を仕込んだんだよな?」

 

 

「はいー。と言っても、私がしたことと言えば、噂を流すことと、軍の情報とこの砦の見取り図や周辺の地図などをあからさまに机の上においておいたぐらいですがぁー」

 

 

「・・・・・つーことは、天の国・・・・・って言うか、俺の知識ならば、打開策があるかもしれねーな」

 

 

「??確かに、私は天の国の軍略なんて知りませんが、2万で10万を正攻法で倒す方法なんて存在するんですかぁ?」

 

 

そんなものはない。第一、一刀は軍略など全く知らない。

 

だが、学校で習った・・・・つまり、今よりも未来で、一刀の時代より過去の歴史ならば、一刀は

知っている。

 

「本来はこんな使い方じゃねーが・・・・何個かは思いつく。だけど・・・・」

 

 

「??」

 

 

一刀は顔をしかめ、そしてため息をついた。

 

 

「天の使いじゃなくなるけどな」

 

 

「天の使いじゃなくなる?どういう意味ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「早い話、天の使いじゃなくて、地獄の使いになるって話だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・はぁ?」

 

 

「悪逆非道だってことだよ。今の所、2つ思いつく。一つは兵士をまるで物のように扱う。そしてもう一つは、村に対して行うってな策だな」

 

 

「でも、この状態で悪逆非道の策と言うのも、思いつきませんけど?あ、もしかして村で子供やお年寄りを戦わせたみたいなことをするんですか?」

 

 

「流石にそれは出来ねーよ。相手が盗賊ならまだしも、精鋭相手なら無理だ。でもまぁ、似たようなものだ」

 

 

「??」

 

 

七乃は首を傾げて考えるが、全く思いつかない。

 

 

そんな七乃に一刀はふぅ、息を吐いて、そしてニヤリと笑った。その笑みは今まで一刀がしたことのないような悪意に塗れている笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・村を餌に罠を仕掛けるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 


 
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