No.197063

真・恋姫†無双~恋と共に~ #30

一郎太さん

#30

2011-01-21 19:59:47 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:20801   閲覧ユーザー数:12822

#30

 

 

春蘭との仕合(のようなもの)を終えた翌日、俺と恋は黒兎たちの世話を終えて宿に戻っている。昨日のこともあったからか、厩には春蘭の姿はなかった。ほっとしたと同時に、なんとなく寂しい気がしたのは、なんだかんだで騒がしい彼女の姿に慣れてしまったからだろうか。

部屋では風と稟が机の上で何やら書き物をしている。先日言っていた書物の注釈か写本だろう。邪魔するのも悪いだろうと、俺は恋と一緒にセキトの蚤取りをする。最近よく耳を後ろ脚でかいていたからな。

そうして少し戯れていたであろうか。廊下に足音が聞こえたかと思うと、扉が開いた。

 

 

 

「北郷、いるか!」

「………春蘭?」

 

 

 

最初に眼に入ったのは、今朝は見なかった春蘭だった。続いて彼女の妹。そして―――

 

 

 

「邪魔するわよ」

 

 

 

―――彼女が曹操か。直感的に理解した。時勢的にはまだまだ大物と言えないが、すでにその素養が覇気として滲み出ている。雪蓮とはまた違ったタイプの王だな。俺はそんな感想を抱きつつも、立ち上がり彼女らを迎え入れた。風と稟も手を止め、顔を上げる。

 

 

 

「おはよう、春蘭。稽古でもしに来たか?」

「それもして欲しいのだが………」

「あぁ、今日は別の用事だ。っと、そちらの二人はもしかして………」

「そうだよ。昨日話した軍師希望の二人だ。で………君が曹操かな?」

「え!?」

「なんとー」

 

 

 

俺の言葉に、稟と風が反応する。それもそうだ。仕官を希望していたとはいえ、まさかその本人が来るとは思いもよらないだろう。風はともかく、稟はそうとう驚いているようだ。

 

 

 

「あら、よくわかったわね」

「まぁ、二人が先だって歩くとしたら曹操以外にいないからね。それで、今日はどういった用向きで?」

「昨日秋蘭に聞いたのよ、貴方のことを。それで話をしてみようと思ってね」

「わざわざ来なくても、遣いを出してくれたらこちらから出向いたのに」

「あら、思っていたより謙虚なのね。春蘭を負かすほどの逸材よ。こちらから迎えに行くのが礼儀でしょう?」

「はて、迎えとは?」

「決まってるじゃない。貴方を私の傘下に加える為よ」

「………………これはまた、いきなりだな」

「それで、返答は?」

 

 

 

短い言葉の応酬。彼女はそれで伝わるのが当り前というように言葉を続け、俺もまた、それに合わせて応酬する。こんな形で勧誘されるとは思ってもみなかったが、さて、どうする?………とりあえず、牽制でもしておくか。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ないが、秋蘭からも聞いているとは思うけど、俺はただの旅人なんでね。どこかの傘下に加わる気はないよ」

「あら、この曹孟徳の誘いを断るとでも言うつもりかしら?」

「悪いが、俺は漢の民じゃないんでね。君の噂も地位も知っているけど、それに迎合する義務はない」

「ほ、北郷!如何にお前とはいえ、言葉が過ぎるぞ!」

 

 

 

俺の断りに、春蘭が食ってかかる。真名を許したとはいえ、主をこうも言われたら、流石に怒るだろう。俺はそんな春蘭に苦笑しつつ、言葉を続けた。

 

 

 

「いや、普通にお願いしてくれたら考えるんだけど、曹操の物言いが、ね。………君は自分の言葉通りになることを当然と思っている。それは覇王としての資質もあるのだろうけど、それだけだと敵を作ることもあるということを覚えた方がいいかな」

「あら、男のくせに、この私に説教をするつもりかしら?」

「男だけど、この中では一番強いよ?」

 

 

 

そうして、部屋に落ちる沈黙。目の前の少女は覇気を強めている。恋は問題ないだろうが、横目で稟と風をみると、慣れないその氣にあてられたのか、固まってしまっている。………風のこんな表情も珍しいな。そうして数十秒が過ぎたろうか。ふと、その覇気が緩む。

 

 

 

「………はぁ、わかったわよ。私を曹孟徳と理解しておきながら、まったく怯む様子もない。今回は私が引き下がるわ。………それで、改めてお願いしたいんだけど、私の元に来てはくれないかしら?」

「うん、その話しかたの方が好感を持てるな。………………条件があるけど、いいか?」

「言ってみなさい」

「一つは、俺と恋を家臣ではなく客将として迎えること。ただし、期限付きで、だ」

「客将はまだいいとして、期限付きとは?」

「それは了承してくれるなら、いずれ話す。二つ目は―――」

 

 

 

俺は隣で硬直から解けた2人の少女を親指で指して言った。

 

 

 

「彼女たちに、軍師の試験を受けさせて欲しい。文官ではなく、軍師だ」

「試験だけでいいのね?」

「あぁ。それで落ちるなら、2人の実力が足りないというだけさ」

「わかったわ。ではこれから………という訳にもいかないわね。そうね………秋蘭?」

「そうですね。桂花にも準備をさせなければいけませんし………3日後くらいでどうでしょう?」

「いいわ。それでは北郷。3日後に4人で城にいらっしゃい。その2人は軍師の力を測らせてもらい、そちらの娘には、武官としての実力を見せてもらうわ」

「了解」

 

 

 

その言葉を最後に曹操たちは部屋を出て行き、俺と彼女の邂逅は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

「まさか曹操直々に勧誘に来るとはな………。って、2人共、どうしたんだ、そんな顔をして?」

「どうしたもこうしたもありますか!!」

「お兄さんは、また風の知らないところで知らない女の子をひっかけて………風は怒り心頭なのですよ?」

「そうですよ!!い、いや、違います!何故曹操殿がここに来たのですか!?それに、我々の試験がどうとか言っておりましたが………」

 

 

 

風はまたよく分からない怒り方をし、稟は見たままに怒っている。勝手に話を進めたのが拙かったか?でも、彼女たちも3ヶ月は長い、って言ってたしな。俺にもいろいろ思うところがあったが、とりあえず、2人の意向を尋ねた。

 

 

 

「いや、だって2人は曹操に仕えたいんだろう?文官で地位を上げていくよりも、軍師として試験を受けられるならそれに越したことはないと思ってな。駄目だったか?」

「い、いえ、むしろありがたいのですが………それに片方は夏候惇将軍だったではないですか。親しげに話されていましたが、どうやって知り合ったのですか?」

「んー…説明するのがメンドイから、簡単に言うと、俺が夏候惇と仕合をして勝った。試験のことはその時に条件として話した。こんな感じだけど」

「………………もういいです。一刀殿がその武も行動力も規格外だということはよくわかりました」

「相変わらずおにーさんは風たちを弄ぶのが好きですねー」

「人聞きの悪いこと言うなよ。それより、試験は受けるのか、受けないのか?」

 

 

 

俺が再度問うと、稟は再び溜息を吐く。

 

 

 

「はぁ……。いえ、受けさせていただきます。千載一遇のこの機会、活かさない手はあり得ません」

「そですねー。でも、風はちょっと考えるところがありましてー」

「なんだ?」

「実はですねー…………」

「寝るなよ?」

「おぉっ!?ボケもさせてくれないとは………よっ、おにーさんの大陸一の加虐嗜好者っ」

「いい加減にしないと、風を大陸一の被虐嗜好者にしてやるぞ?」

「わかりましたよー。風は虐められて悦ぶ変態さんではないので。それで、稟ちゃんは当初の目的通り、曹操さんの軍師になって頂いてかまいません」

「私は、ということは、風は曹操殿に仕えないのですか?」

「風はですねー、おにーさん付の軍師になろうと思うのですよ」

「「はぁっ!?」

 

 

 

風から、まさかの爆弾発言が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ?」

「そのままの意味です。風はもうおにーさんに首ったけですので、おにーさんから離れられないのです。風たちが曹操様に仕えても、おにーさんが客将ならいずれ離れ離れになるやもしれませんからねー」

「いや、真面目に聞いてるんだが?」

「風もいたって真面目です。でも、おにーさんが納得しないというのなら………………そですねー。稟ちゃん、恋ちゃん。ちょっと2人だけで話をさせてもらえませんかー?」

「………………仕方がないですね。ただし、また後でとは言いません。いつかはその理由も教えて頂けるのでしょう?」

「時が来たら、ですねー」

「わかりました。恋殿、行きましょうか」

「………ん」

 

 

 

風の言葉に、稟は恋を連れて出て行く。俺は二人に幾何かの金を渡すと、外で食事でもとってくるように伝えた。何度も恋の食事風景を見ている稟は、渡された金額に驚くこともなく、頭を下げて、こんどこそ部屋から消えた。

 

 

 

「これでいいか?」

「どもどもー。さて、先ほども言った通り、風はおにーさん付の軍師になりたいのです」

「それで、その真意は?」

 

 

 

俺の問いに風は答えず、いつもの眠たそうな眼のまま、俺をじっと見つめた。俺の真意をはかろうとしているのか。その視線は片時も外れない。俺もまた風を見つめ返す。その真意を問うように。

 

 

 

「以前も質問しましたが、風はもう一度だけ、同じ訊かせてもらいます。おにーさんは………『天の御遣い』ですか?」

「………………どうしてそう思う?」

「おにーさんは気づいていないでしょうが………おにーさんは、この大陸の人間とは空気が違うのです」

「空気?」

「はいー。民には民の空気、官には官の空気。そして武人には武人の空気………そのどれともおにーさんは一致してくれないのです。風はこれでも人を見る目には長けているのですよ?」

「あぁ、それはよくわかるよ」

「むー」

 

 

 

風の言葉の通り、風の観察眼はひょっとしたら大陸一と言ってもいいくらいのものだと思う。観察力、その点だけ見れば、詠も冥琳も一歩遅れをとるだろう。その風が、俺を大陸の人間とは違うと言っている。確かにその通りなのだが、それはそれで根拠もない予想に過ぎない。俺は風に先を促した。

 

 

 

「極稀に、先ほどの曹操さんのように王としての空気を纏っている人間もいますが、おにーさんのそれは、王のものとも違います。………さて、返答や如何に」

「………………………そうだなぁ、その答えは一旦保留するとして、風は何故、俺の軍師になりたいんだ?」

「風はおにーさんが『天の御遣い』だと思っています。そして、おにーさんが何か大きなことを成そうとしているとも思っています。その時に、おにーさんと恋ちゃんだけで、おにーさんの相手と十分に渡り合えますか?個人の武でなら、問題はないでしょう。しかし、その武も、圧倒的な数の前には霞んでしまいます。さらに、そこに策を使うような軍師がいれば?例えば風や稟ちゃんのような。あるいは、曹操さんのところにいる荀彧さんのような。おにーさんは戦いながら、その戦況を読み、暴き、そして最善手へとおにーさん自身や恋ちゃんを導くことができますか?」

「………………………」

「風の言いたいことがわかったみたいですねー。そんな状況でも、たった一人の智将がいるだけで、だいぶ変わってきます。風は、おにーさんと恋ちゃんの手助けをしたいのです」

 

 

 

 

 

 

言葉を切った風は、他に言いたいことはないとでも言うかのように、俺を見つめてくる。

風の言う通りだ。さすがに、万の軍勢を相手に、戦況を読むことなど、今の俺にはまだ難しい。いくら詠や冥琳に師事したといってもな。そこに風が加わる、か。

俺が考え込んでいると、ふと、風が思い出したように呟く。

 

 

 

「夢のお告げもありますし………」

「………夢?」

「あら、耳聡いですねー。いくらおにーさんでも、乙女の夢までは教えられませんですー」

「………『日輪を掲げ持つ』夢、か?」

 

 

 

俺の一言に、風の目が大きく見開かれる。有名な話だからな。日輪を支える夢を見た程立が、程昱へと改名する話は。まさか、すでに見ていたとは思ってはいなかったが………。

 

 

 

「なぜ、おにーさんは………」

「さて、なんででしょう?………ところで、その太陽が曹操とは思わなかったのか?」

「直にお会いするまでは曹操さんかもと思っていたんですがねー。ただ、曹操さんは太陽は太陽でも、真夏のギラギラした太陽みたいなのです。風は夏よりも、春や秋のぽかぽかした太陽が好きなのです。………おにーさんは、とっても暖かいのです。風は、おにーさんの暖かい空気の中で昼寝をしたいのですよ」

「そうか………………」

 

 

 

風の言葉が俺の心に届いた気がした。ここまで言われたからには、俺も覚悟を決めないといけないな。俺は一つ息を吐くと、風をしっかりと見据えた。

 

 

 

 

 

 

「風は強情だな」

「むー、今のお話のどこにそんな要素があったのですか」

「むくれるなよ。そうだな。絶対口外しないで欲しいんだが、いいか?」

「お約束しますよー」

「風の想像通り、俺は、『天の御遣い』だ」

「………………」

「いや、『天の御遣い』かどうかはともかく、俺はこの大陸の、この世界の人間ではない。だから、この大陸が辿る流れをある程度知っている。その流れを変えるために、俺はこうやって旅を続けていたんだ」

「………それは本当、なのですか?」

「あぁ」

「曹操さんのところでは、その流れを変えることはできないのですか?」

「あぁ」

「おにーさんはその流れを変えるための下準備をしているのですか?」

「あぁ」

「おにーさんは風のことを愛していますか?」

「ひっかからないよ」

「むむー」

 

 

 

風の心理作戦にも負けず、俺は硬派を貫いた。いや、こんなことが言いたいのではなくて。

 

風が稟に言う可能性も考えたが、先ほど、稟との決別を示した風だ。それはないだろう。それに俺はもう決めたからな。俺は風に了承の意を伝える前に、ひとつだけ問いかけた。

 

 

 

「じゃぁ、最後にひとつだけ質問だ」

「なんでしょうー」

「風は、俺と一緒に死ぬ覚悟はあるか?」

「………そんなものないのです」

「………………………………」

「おにーさんが窮地に陥ったら、風の策で必ず助け出してあげるのです。それ以前に、風の力でおにーさんを窮地に追いやったりなど、絶対にしません。ですので、死ぬ覚悟なんて持つはずもないのですよ」

「………くく、くくっ………あっはっはっはっはっは!最高だな、風!わかった。これからは風を俺の専属軍師として召し抱える。その智を俺の為に存分に震わせてやるから、覚悟をしておけよ!」

「御意、なのですー」

 

 

 

こうして、俺と風は、一時的な旅の仲間から、本当の仲間になった。風の覚悟は本物だ。ならば、それを拒絶することなど、俺にはできるはずもない。まずは………黄巾党の時にでも、その才を発揮してもらうかな。

 

 

 

 

 

「夜の方は覚悟ができてるのですよー」

「いや、それはいいから」

「むー」

 

 

 

落としどころを弁えている風であった。

 

 

 

 


 
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