No.189438

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十三話

アボリアさん

黄巾党√第十三話です
毎度の事ながらお待たせしていまして、申し訳御座いません
今回は少々長めの構成になっております
誤字脱字、おかしな表現等ございましたら報告頂けると有難いです

2010-12-13 02:44:15 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:7506   閲覧ユーザー数:6144

華佗を迎えた俺達一行は、揚州、更にその北へと旅の歩を進めていた。

 

各地を巡って、公演で人集めをして、地方の士人達と繋がりを持って……と、そこまでは今までの旅とほぼ変わらないものの、そこに新に“各地での診療及び、医学知識の布教”というものが加わって、計画は更に勢いを増してきていた。

というもの、基本行く先々ほぼ全てで華佗による診療を行ってきているのだが……それによって病が治った、命を救われた、という人達の大半が華佗に心酔、黄巾党への協力を申し出てくれたからだ。

華佗は『医術は本来、見返りを求めるべきではないのだがな……』と、少し困惑気味だったものの、善意からの申し出であり、人を求めている俺達としても断る理由はない、という事で以前に比べてもかなりの勢いで協力者を募る事ができたのだった。

 

(まあ実際、治らないと思っていた病気や怪我から命を救われたりしたら、そりゃあ畏敬の念を持つのも当然かもな)

 

実際華佗に助けられた俺達としても気持ちは痛いほど分かるし、高度な医術があるはずも無い人達からすれば、それこそ奇跡の技だろう。

そのためか、一部の人達が華佗の事を『大賢良師様』と呼ぶようになり、華佗が困惑する事になったりしたのだが……まあ、それは余談だ。

 

他にも、徐州を経て辿り着いた青州――驚く事に、天和、地和、人和の出身の地なのだという――では三姉妹は他の州とは比べ物にならないほどの(そうはいっても、他の州でもかなりの人気が出ていたが)人気を博し、数万人規模の黄巾党支持者を得たり、

 

金銭面では旅の途中、賊に襲われていた馬商人を助けた所、その商人……張世平さんと蘇双さんにいたく気に入られ、スポンサー及び商人としての人脈を活かしたバックアップを確約してもらったり、

 

人材面は、徐州では程遠志と劉辟という侠者を、青州では鄭玄という儒教の先生を、極めつけにその北、幽州ではなんとあの劉備……を教えていたという盧植先生を(確か元は漢の優秀な軍人で、正史では党錮の禁によって職を失っているものの黄巾の乱の折に呼び戻されて黄巾討伐で功を残した人だ)迎える事が出来たのだった。

 

こうして規模、金銭、人材と格段に増す事となった俺達は幽州から南、冀州の都、鄴へと向かったのだった……

 

一刀、地和SIDE

 

 

「ほらほらっ、早く行くわよ一刀っ!」

 

軽やかな足取りでこちらへと呼びかけてくる地和。

 

「……なあ、地和?」

 

対する俺は疲れきった声だ。というのも……

 

「俺達、確か公演の許可を取りに行く最中だったよな?なのにさ――」

 

そういって俺は疲れの元凶である手の方へと視線を落とす。

 

「――なんでこんなに荷物が嵩むんだよ」

 

そこには両手が完全に塞がってしまうほどの量の荷物があった。というか俺が持たされていた。

……まあ、今朝の一件で予想できた範囲ではあるんだけど。

 

 

 

『じゃあ買出しと、手続きやなんかは私と一刀さんがやるとして、姉さん達は……』

 

朝食後、本日の予定を話し合っていた時の事。そういって話を纏めようとしていた人和に向かい、

 

『だったら私が一刀と一緒に手続き関係を済ませてくるわ!!だから買出しは人和お願いね~!!』

 

――叫ぶようにいいながら地和は俺の首根っこを掴み、有無を言わさずに飛び出してきたのだった。

 

 

 

その時は、珍しくやる気があるな、と思ったものだが……本心としては買い物がしたい&荷物持ちが欲しい、という下心からだったのだろう。

 

「何よ、別にちょっと寄り道するくらい良いじゃない」

 

「これがちょっと?そろそろ腕が限界を迎えようかって位なんだけど?」

 

俺がそう切り返し、ジト目で睨むと「うっ」と顔を強ばらせる地和……はぁ、全く。

 

「ま、いいか。それよりも早いとこ用事の方、済ませちゃおうぜ。昼までには終わらせないと約束に間に合わないし、買い物はそれからでもいいだろ?」

 

「う~……、ま、それもそうね。その代わり、残りの買い物の方もちゃんと付き合いなさいよね!!」

 

はいはい、と地和の言葉に対して適当に相槌を打ちつつ、俺は歩を進める。

 

そうやって暫く歩いていると……

 

 

「だ、誰かぁー!!そいつを捕まえてくれぇー!!」

 

突然、そんな叫び声があたりに響き渡る。

 

見ると俺達の前方から荷物を抱え、こちらに向かって逃げてくる男の姿があった。

 

「っ!!」

 

俺は反射的に身構えると、荷物をその場に置き、

 

「ちょっと待……っ!!」

 

男の前に立ちはだかる様に飛び出る。

 

の、だが――

 

 

 

「オラオラァーー!!待ちやがれぇーー!!」

 

 

 

そんな、女性の声が聞こえたかと思うとその瞬間、男が宙を舞い、その勢いのままこちらへと飛んできて――

 

「……へ?」

 

間抜けな声が出たと同時、男の体が俺へドンッ!!と勢い良くぶつかり、共に吹っ飛ぶ。

 

「げふっ!?」

 

そのまま俺の体は固い地面に強かに打ち付けられ、更に男の体が俺に重なるようにのしかかった。

そんな衝撃のWパンチで俺の意識が薄れゆく中、

 

「は~っはっは!!アタイの目の前で盗みをやろうなんざ、百年早いっつ~の!!」

 

そんな声が聞こえてきたのだった……

 

「うぅ、ん……」

 

痛む頭を抑えながら起き上がる……あ~、まだ頭がくらくらする。

……それにしても、さっきのは一体……

 

「お、起きたか兄ちゃん!!」

 

「一刀、大丈夫!?」

 

そんな事を考えていると、地和と……緑髪の女の子に声をかけられた。

 

「いや~悪い悪い。泥棒捕まえるのに集中してたからさ~、ぶっ飛ばす方向まで見てなかったんだよ」

 

悪い、といっている割には悪びれる様子も無く笑う少女。

 

「あんたねぇ。本当に悪いと思ってる訳?」

 

「ん?だから悪かったって言ってるだろ?」

 

憤る地和だったが、少女はそれも何処吹く風、といった風だった。

 

「はぁ……。まあ、無事に泥棒が捕まったんならいいよ」

 

「お、兄ちゃんの方は話が分かるじゃねえか」

 

俺が溜息と共に答えると、少女は笑顔を浮かべ、背中をバンバン叩いてくる……いや、地味に痛いんだけど。

 

「そうそう、兄ちゃん達も泥棒捕まえようとしてくれてたんだろ?そっちも礼をしとかなきゃないけねえか。ありがとな!!……っと、そうだ」

 

いいながら少女は、何かを思い出したように手を打つ。

 

「ついでに訊きたいんだけどさ。兄ちゃん達、斗詩と姫……じゃわかんないよな。なんてーか、ものすっげー可愛いおかっぱと、クルクル金髪のお嬢様見てねぇかな?」

 

「へ?可愛いおかっぱの娘と、クルクルお嬢様……?」

 

「そ。……あ、幾ら可愛いから、っつっても斗詩はアタイの嫁だから手ぇ出すんじゃねえぞ?」

 

ジロリとこちらを睨んでくる少女。

「いや、手を出すとか……それ以前に多分そんな娘たち見かけてないと思うけど。地和は?」

 

そういって尋ねてみるが、地和も心当たりが無いのか、首を横に振る。

 

「あ~、そっか。ありがとな。ふぅ、全く、二人とも何処にいんだろうなぁ。……っと、それじゃアタイはこいつをさっさと突き出して、姫達を探さなきゃいけねえから、もう行くとするわ。んじゃ2人とも、迷惑かけた。じゃあな!!」

 

捲し立てるように言うと、少女はそのまま男を引きずり、猛スピードで走り去ってしまった。

……え、っと、

 

「……なんか慌しい奴だったわね」

 

「そうだな。……って、そうだ!!早くしないと昼飯に間に合わないぞ!?」

 

一連の出来事のせいで忘れていたが、気付けばもう太陽が真上に昇ろうかという時間だった。

 

「えっ!?急ぐわよ一刀!!」

 

そういって走り出す地和。

 

「ちょっと待てい!!この荷物抱えて走るのかよ!!せめて少しくらい持って……」

 

俺がそう叫ぶも、地和は聞こえていないのか(もしくはわざと聞こえないフリをしているのか)そのまま一目散に走っていってしまう。

 

「ああ、もう!!なんだっていうんだよ!!」

 

仕方なく俺は両腕に荷物を抱え込むと、先に行ってしまった地和を追って走り出すのだった……

人和SIDE

 

 

「はぁ~……」

 

街の中央通り、多くの店が立ち並び人々が足繁く行きかう中、少女……三姉妹の末娘、人和が深い溜息を吐きながら歩いていた。

 

「当面の食料は手配したし、後は……華佗さんに頼まれた漢方だったかしら」

 

誰に言うでもなく一人呟く人和。

 

「……それにしても量が多いわね。幾ら財政的に余裕が出来てきたからって言っても、これだけあると、ね……」

 

言って、また嘆息する。

 

商品の引き取りや持ち運びは男手に任せておけば良いとしても、金銭に関しては湯水の如く、というわけにもいかない。

しかし華佗の治療、というのは自分達に大きな助けになってくれているのも事実であり、医療を普及させる為に多くの物資がいるのも分かるからこそ、人和も頭が痛いのだった。

 

後、黄巾兵の装備や決起の際必要になる糧食も怪しまれない程度に準備を進めていかなければいけないし、舞台の資金も必要。個人の小遣い程度ならば何とかなるとしても、必要経費から準備していかないといけないものもある。

 

(そういえば、水鏡先生が『とある本の新刊が出るから、経費で落とせませんか?』っていってたけど……なんの本だったのかしら?)

 

戦術や軍略の本ならば仕方ないとしても、個人的な趣向のものならば自費でどうにかして貰おう、と人和は考える。

 

「まあ、それも含めて一度皆と話し合う必要があるわね。……はぁ、せめて一刀さんと一緒に来てればその辺りも相談できたんだけど」

 

そこまで考えて、いや、と首を振る人和。あの姉の事だ。一人で任せたら寄り道ばかりになってしまう恐れがある以上、彼が引率……とまでは言わないものの、傍にいてくれたほうが幾らか安心だった。

 

ただ、その他にも帰ってからやる予定である各地の黄巾党から来る報告のまとめ、公演の演出も考えないといけないし、先生から上がって来る新規の協力者についての人物像についても検討して……やるべき事が山のように残っているのも事実。

それらは重要度が高い分、安易に人任せに出来ないだけに厄介者だった。

 

せめて、あの二人の姉が少しでも仕事を負担してくれるのならば少しは楽になるのだが……

「……無理、ね」

 

達観したように、遠い目をして呟く人和。

 

面倒な雑務を好き好んで手伝うような姉達ではない事は嫌というほど分かっているし、仮に任せたとしても余計に仕事が増えてしまう、という光景がはっきりと浮かぶ。そんな、確信に近いようなものが人和にはあった。

 

人和がそんな姉達のことを考え、更にこれからやらなければならないであろう仕事について軽く絶望感を感じていると……

 

 

ドンッ!!

 

 

「「きゃっ!?」」

 

 

突然の衝撃によろめく人和。どうやら、余所見をしていたせいで誰かにぶつかってしまったようだった。

 

「あっ、すみません。大丈夫ですか?」

 

そう言ってぶつかった相手……おかっぱ頭の少女に頭を下げる人和。

見た感じでは相手もたいしたことは無かったようで「こちらこそごめんなさい!」と頭を下げられてしまった。

 

「私もちょっと、余所見をして歩いてましたから……、っとそうだ!すみませんけど、この辺りで文ちゃ……いえ、男の子っぽい感じの女の子とお嬢様みたいな感じの方を見ませんでしたか?」

 

話を聞くと、どうやらこの少女は人を探しているようなのだが、その人相に心当たりの無かった人和は「すみませんが……」と首を横に振って答える。

 

「そうですか……」

 

その答えに、少女は落胆したように肩を落とす。

 

「はぁ~……。文ちゃんも麗羽様も、何処行っちゃったのかなぁ……。大体、ちょっと目を離した隙に麗羽様は勝手に何処かへ行っちゃうし、文ちゃんだって見当無しに走って行っちゃって結局はぐれちゃうし……二人とも自由すぎるよぉ~……」

 

誰に言うでもなく愚痴る少女。

恐らく独り言なのだろうが……人和は、目の前の少女に他人とは思えないぐらいの共感性を感じてしまった。

 

「あの……」

 

人和は意を決して、話しかける。

 

「良かったらなんですけど……お話を、お聞きしましょうか?」

 

 

「……だから、二人とも本当に自分勝手すぎるんです。少しはその後始末をする私のみにもなって欲しいです」

 

「良く、分かります」

 

「ああ、分かってくれますか!?」

 

「ええ。私も、せめて面倒ごとくらいは起こさないで、って何時も思ってますから」

 

「そうなんですよねぇ~」

 

 

あれから暫くの時が流れたのだが……人和と少女は、完全に苦労話で意気投合していた。

 

 

「まあでも、そこが文ちゃんや麗羽様の良い所でもあるから困りものなんですよ」

 

「憎めない人柄、というものですね。うちの姉達もそんな感じで……」

 

人和がそう言いかけた時だった。

何処からか地響きと共に「……斗詩、はっけーーーん!!」と言う声が聞こえ、次の瞬間――

 

 

「斗詩―――!!やーっと見つけたぜ!!」

 

「え?文ちゃ――きゃあ!?」

 

 

声と共に現れた緑髪の少女が、突然の出来事にうろたえるおかっぱの少女を担ぎ上げ、

 

 

「よ~し、後は麗羽様だけだーーー!!」

 

 

目にも留まらぬ速さで走り去ってしまったのだった……

 

 

 

 

「……え~、っと」

 

一人取り残された人和は呆気に取られてしまう。

今の緑髪の人が、『文ちゃん』とやらだったのだろうか?たしか目の前から消える寸前にそんな声が聞こえた気がするが……

 

「……まあ、探し人が見つかったなら良かった、のかしら」

 

混乱しながらも人和は、目の前で起こった出来事をそう結論付けることにした。

 

「そういえば、名前も聞いてなかったわね」

 

お互い愚痴を言い合っていただけだが、それなりに親しくなった相手だった為、名前ぐらい聞きたかった。

とはいえ、暫くこの街にもいるだろうし、その間にまた会えたらそのときにでも聞いたら良い、と切り替える。

っと、それよりも、だ。

 

「大分話し込んじゃったわね。急いで……も、間に合うか微妙な所ね」

 

昼には姉達と一緒に食事をする予定があるのだが、薬の手配をしていたら急いでも間に合わなくなってしまう。

考えながら人和は嘆息、まあ後は午後にでも済ませることにしよう。

 

そんな事を考えながら、人和は一人、待ち合わせの店へと向かうのだった……

天和 SIDE

 

 

「ぶぅ~、つ~ま~ん~な~い~」

 

不満げに頬を膨らませながら、少女……天和は一人、雑踏の中を歩いていた。

 

「人和ちゃんは買出しに行っちゃってるし、水鏡さんもお仕事してるし、華佗は診療中だし、ちいちゃんなんて一刀を連れて二人で出かけちゃったし……私も一刀とお出かけしたかった~」

 

不満の元とはそれだった。

遊ぼうにも相手がおらず、かといって宿で一人ぼ~っとしているのも性に会わない為、とりあえず街へと出て来たのだが……それでも、暇つぶしには程遠かった。

 

ちなみに水鏡先生や妹の仕事を手伝おうか、とも一瞬は考えたものの、次の瞬間には天和の中で完全に却下されていた。

もう、こうなったら宿に戻って寝ていたほうがマシかも、とも考えるのだが、昼に約束があることを考えると、時間的にも厳しく、何より面倒だった。

 

「ああもう!!つまんない~っ!!」

 

手をバタバタと振りながら、天和は曲がり角へと差し掛かり、

 

 

ドンッ!!

 

 

「「きゃあ!?」」

 

 

何かに衝突、尻餅をついてしまう。

 

「いった~い……」

 

「ちょっと貴女!?何処見て歩いてるんですの!?」

 

その声のするほうをみると、天和の前に金髪の……くるくる?な髪型をした女性が同じく尻餅をついていた。どうやら彼女とぶつかってしまったようだ。

 

「ご、ごめんなさ~い。大丈夫ですか?」

 

言って、女性に手を差し伸べる天和。

 

「全く。この私を誰だと思って……」

 

不機嫌丸出しの表情のまま、それでも天和の手を取り立ち上がる女性だったが、天和の顔を見ると「……あら?」と表情を変える。

「何処の田舎娘かと思いましたが……ふぅん、なかなか美しい娘ですわね」

 

「え?え~と……ありがとうございます?」

 

じろじろと興味深そうに見てくる女性に天和が軽く引きながら答えるが、女性は全く意に介さず続ける。

 

「……まあ、華琳さんならば一も二も無く拾い喰いしてしまうところでしょうが、名門である私にそんなはしたない事は似合いませんわよね」

 

ぼそっ、と呟く女性。

対する天和は「拾い喰い?」と小首を傾げる。

 

「まあ、いいですわ。今回は貴女の美しさに免じて、許して差し上げましょう」

 

告げながら金の髪をファサ~とかき上げる女性。

 

「あ、そうですか?じゃあ私は用事があるんで~」

 

そういって天和はその場を後にしようとするのだが……

 

「ちょっとお待ちなさいな」

 

ガッ、と肩をつかまれてしまった。

 

「これも何かの縁ですわ。実はこれから、この街で私の一族に伝わる催し物があって……(以下略)」

 

(う~ん、どうでもいいけど早く終わんないかなぁ~。このオバさんに付き合ってて約束に遅れちゃう、なんて嫌だし)

 

ベラベラとしゃべり続ける女性に対し、天和は辟易しながら聞き流す。

さて、どうしようか……と心の中で考えていると、

 

「あ、麗羽様!!もう何処いってたんスか!!」

 

「ぶ、文ちゃん。それより、も、まず降ろし、て……」

 

「あら、猪々子と斗詩じゃありませんの。……というか、何処にいっていたは私の台詞ですわ!!全く、主である私を置いて……」

 

現れた二人組みと顔見知りだったらしい女性がそちらへと振り向く。

 

(良かった~、今のうちにいっちゃおう、と)

 

是幸いと、女性の意識が逸れている隙に天和は足早にその場を後にするのだった……

 

 

 

 

 

「……あら?先程の娘は何処に行ったのかしら?」

 

「ん?どしたんスか?麗羽様」

 

「いえ……まあ、いいですわ。それよりも貴女達。例の催しの準備は進んでますの?」

 

「一応手配だけは済ませましたが……本当にやるんですか~……?」

 

「今更何を言ってますの、斗詩。もちろんやるに決まってますでしょう?さ、行きますわよ!!」

 

「まあ、なんだ、斗詩。アタイだって気は乗らねえけどさ。いい加減覚悟決めようぜ」

 

「うう、やっぱりいやだよぉ~……」

 

全く関係ない話ではあるが、天和が去った後の街角にそんな悲痛な叫び声が響き渡ったとかなんとか。

「……って事があってさ、大変だったんだよ~」

 

「はぁ……。姉さん、歩く時はちゃんと前を見ないと駄目だって、何時も言ってるでしょう?」

 

「そういう人和だって誰かとぶつかったって言ってたじゃないの」

 

「あはは。まあ、皆怪我が無くて何よりだったよ」

 

昼時となり、俺達は一度集合すると、先生や華佗と一緒に卓を囲んでいた。

 

「あらあら、四人とも大変だったみたいですね」

 

俺や地和だけでなく、人和、天和も何かしらのトラブルがあったらしく、話を聞いていた先生や華佗も苦笑気味だった。

そんな風に談笑をしていると、「ああ、そうだ」と華佗が話を切り出す。

 

「診療中に聞いた話なんだが……ここの領主、袁紹はあまり有能な人物ではないらしいな」

 

「そうらしいですね。私も何人かの士人を尋ねたのですが、ここの統治は領主の力ではなくもっぱら部下が仕切っているようですね。その筆頭は顔良、文醜という者らしいです」

 

確か風貌は……と続ける水鏡先生。その話によると、袁紹は金髪巻き髪の令嬢、顔良は黒髪おかっぱの少女、文醜は緑髪の活発な人物なのだというが……あれ?どっかで聞いたことがある気がするが……

見ると、天和、地和、人和も悩み顔で何かを考えているようだった。

 

 

「……お金持ちっぽかったけど、領主様、って感じじゃなかったな~……」

 

 

「……まさか、ね。あんながさつっぽいのが筆頭の武将なわけないわよね」

 

 

「……風貌はそっくりだけど、役人というよりただの苦労人の付き人って方がしっくりくるわね」

 

 

「あら?四人とも、何か心当たりがありましたか?」

 

 

『いえ、全然』

 

 

図らずも、俺達四人はいっせいに返事を返す。

そうだよなぁ、幾らなんでも美羽の時みたいに街中でばったり会っていた、なんてことは早々無いだろうし。

「なら良いのですが。……そんな訳で、別に袁紹及びその配下についてはさほど脅威とは思えないですし、特別詳しく調べる必要はないと思います」

 

「うん、それでいいと思う。それと、俺からも一つ話しがあるんだ」

 

俺が切り出すと、全員の視線が俺に集まる。

 

「さっき、公演の許可を貰いにいった時に聞いた話なんだけど。最近、霊帝……現在の帝の容態が悪化しているらしい。洛陽に潜り込んで貰っている馬元義さんからもそれに併せて次の帝、劉弁と劉協の権力争いも激しくなってきてる、って噂が流れているって報告があがってきた」

 

「……と、いうことは」

 

人和の呟きに頷いて答える。

 

「うん。そろそろ宮中で大規模な権力争いが起こると思う。俺の知っている歴史どおりなら、その争いの後……」

 

「各地の諸侯による権力争いに発展、本格的な乱世の幕開けとなる。でしたね」

 

俺の言葉を水鏡先生が継いでくれる。

 

「そういうことです。だからこそそろそろ俺達の計画の鍵にもなる人物……董卓についての情報を集めるべきだと思う。今すぐ事が動く訳じゃないから、急ぐ必要もないかもしれない。でも、できることならこの地域は公演と診療だけ済ませたらすぐに涼州に向かおうと思うんだけど……どうかな?」

 

言って、俺は皆を見渡す。

 

「うん、私は良いと思うよ~」

 

「ちいも良いと思うわ」

 

「反対意見は無いわね」

 

「私もそのほうが良いと思いますわ」

 

「俺もかまわんぞ」

 

天和を始め、皆も賛成の声を上げてくれる。

 

「よしそれじゃあ、こっちの用事が済み次第、早めに出立――」

 

 

 

「あ、だったら私は午後から買い物いきた~い!!もちろん一刀も一緒に!!」

 

「ちょ、姉さん!?一刀は午後から私の買い物に付き合う約束なのよ!!」

 

「え~、ちいちゃんは午前中一刀に買い物付き合ってもらったんだからいいじゃない」

 

 

 

俺の言葉もお構い無しに天和、地和が叫ぶ。

 

「え、いや、だから必要な用事だけ済ませたら急いで出立しようと……」

 

突っ込んでみるものの、俺の話など全く聞いてくれない。すると見かねてか、

 

「ちょっと姉さん達」

 

嘆息しながらいう人和。ああ、やっぱり彼女だけが味方だ!

 

「人和からも言って……「その理屈なら私だって権利があるでしょ?」人和さん!?」

 

唯一の防波堤かと思われた人和の参戦に、三人の言い争いはますますヒートアップ。

水鏡先生は笑ってみているだけ、華佗も苦笑するばかりで収拾が全くつかなくなってしまう。

 

「勘弁してくれよ……」

 

そんな俺の呟きはもちろん届くはずも無く。

 

そんなこんなで俺達の騒がしい昼食は過ぎていくのだった……

 

おまけ 天和

 

 

 

「で、天和は何か見たいものとかあるのか?」

 

隣を歩く天和に尋ねてみる。

 

あの、食事処で起こった三姉妹の争い(俺という名の荷物持ちを誰が連れて行くか)はかなりの大激論を経て、最終的にはジャンケン三番勝負にまで発展。

その激闘は天和が制することとなり、今現在へと至ったのだった。

 

「ん?ん~……」

 

尋ねられた天和は思案顔。

 

「特に何か、って決まってるわけじゃないかなぁ~」

 

「へ?」

 

予想外の返答に間の抜けた返事をする俺。

っていうか……

 

「それなら別に俺を連れてくる必要はなかったんじゃないか?」

 

てっきり、荷物持ちとか、奢らされたりとかを想像していたのだが。

そんな風に俺が内心驚いていると「もぅ、一刀は分かってないなぁ~」と天和。

 

「一刀と一緒だからいいんじゃない。一人で買い物に来たって、何にも面白くないでしょ?」

 

心なしか怒った表情でいう天和。

 

「う~ん……そんなもんか?」

 

そういって首を傾げるものの、まあ、言いたい事は分からないでもない。やっぱり一人で出歩くよりは誰かと一緒のほうが楽しかったりするものだろうしな

 

 

 

〔……お~っほっほっほ、斗詩!!猪々子!!もっと華麗に!!華々しく舞いなさい!!〕

 

〔……む、無茶ですよ麗羽様~!!〕

 

〔……あ~、斗詩じゃないッスけど、これはアタイでもキツイものがあるかと……〕

 

 

 

「ま、いいか。それじゃあとりあえずこの辺ブラブラと見て回るか」

 

「ん、そ~だね」

 

言いながら、天和が自分の腕を俺の腕へと絡めてくる。

「ちょ、天和!?」

 

「別にいいでしょ~。ほらほら、行こ」

 

突然の行動に動揺する俺を全く意に介さない天和。

そのままグイグイと引っ張ってくるのが、そんなに密着されると腕以外にも色々な所にふれてしまう訳で……って何を考えてんだ俺は!?

 

(そうだ、こんな時には素数を……って、素数で誤魔化しきれる訳無いだろ!!)

 

そんな風に内心物凄く混乱する俺だったが、それを天和に悟られるというのも癪だ。

 

「ん、♪~♪~~」

 

何とか意識を腕から逸らす為に鼻歌を歌いながら誤魔化してみる。

 

「あれ?一刀。それって前言ってた一刀の国の歌だよね?」

 

「ん?あ、ああそうだけど?」

 

天和の問いかけに声が上擦りつつも答える。

苦肉の策だった為ので誤魔化せるとは思っていなかったものの、メロディの珍しさの方が天和の琴線に触れた様だった。

 

 

 

〔……何を恥ずかしがっているんですの!?これは我が袁家に代々伝わる、由緒正しき『女相撲』ですのよ!?もっと堂々となさい!!〕

 

〔そんなの無理ですよぉ~!!〕

 

 

 

「ふ~ん……」

 

言って、また天和は思案顔。そして何かを思いついたようにパッ、と笑顔になる。

 

「ねえねえ一刀。私、一刀の歌聴いてみたい」

 

「へ?歌?」

 

「うん。一刀の歌って聞いたこと無かったし、一刀の国の歌にも興味があるし」

 

笑顔でいう天和。

そういえば天和達に日本の歌を教えた時もメロディと歌詞を教えただけで三人共完璧に歌えていた為、俺自身が歌った事なんてなかったな。

 

「でも歌なんて素人だし、人に聞かせるようなもんじゃないぞ?」

 

事実、音痴とまではいかないが、歌に特別自信があるわけでもない。

けれども「いいから歌ってみてよ~」という天和の必死の懇願に、とうとう折れた俺は

「いいけど下手でも笑わないでくれよ?」とだけ前置きし、アカペラで簡単に歌い始めた。

 

 

 

〔……仕方ないですわね。予定より早いですが、私のとっておきを出すとしますわ。アレを出しなさい!!〕

 

〔……へ?あれって……ちょ、お前等何持ち出してきてんだよ!?〕

 

〔……ふふふ、これこそ貴女達に内緒で兵達に作らせた逸品……玉座付き神輿ですわ!!〕

 

 

 

「……で、どうだった?」

 

一曲歌いきり、気恥ずかしくなりながらも天和に問いかける。

 

「うん!!予想よりも上手で吃驚したよ~!!」

 

感嘆の声を上げる天和……良かった、何とかなったみたいだ。

まあ、身内だからという甘い採点ではあるだろうけれど、トップアイドルを目指す彼女に認めてもらえたのならば上出来だろう……予想よりも、というのは気になるが。

 

「うんうん、これだったら今度の公演では一刀も私達と一緒に歌を歌う、って言うのも面白いかも知れないね」

 

「……いや、流石に無理だって」

 

素人がただ歌うだけならばいいかもしれないが、彼女達の中に入って歌うなんて……うん、下手したらファンの暴動が起きるかもしれない。

 

「そう?意外といい線いくとおもうんだけどな~。……まあ、一刀が嫌ならしょうがないか。その代わり、また今度、他の歌も聞かせてね」

 

「ああ、それぐらいならお安い御用だよ――」

 

 

 

〔……さあ、この神輿で街中を練り歩きますわよ!!お~みこしワッショイ!!〕

 

〔……ま、待ってください麗羽様!!それは流石に袁家の恥に……って、勝手に行かないでくださいよ~!!〕

 

〔……斗詩!!こうなったら力ずくでも止めるぞ!!それとお前等は城に行って増援呼んでこい!!早く!!〕

 

 

 

「――で、さっきから気になってたんだけどさ。なんかあっちの方騒がしくないか?」

 

 

 

なんだか先程から騒がしい声だけ聞こえてくるのだが……向こうのほうの通りで何かやっているのだろうか?

 

「?……あ、そういえばお昼前にあったおばさんが、催し物が何とか~、って言ってた気がする」

 

「催し物?」

 

お祭りか何かでもやっているのだろうか?それなら騒がしいのも納得できる。

 

「それなら俺達も見に行ってみようか?」

 

俺がそう提案すると、天和は少し悩むような仕草を見せるが、

 

「……ううん、いいや。それよりもこうやって一刀と歩いてるほうが楽しそうだし♪」

 

そういって俺の腕へ更に強く抱きついてくる天和。

 

「……あ~、そ、そっか」

 

会話のお陰で上手く忘れていたのだが、その仕草で俺はどぎまぎしてしまう。

 

「まあ、じゃあ……適当に、店でも見てみるか」

 

「うん、そ~だね~」

 

そんなこんなで俺達は、いろんな店を見回りながら午後の一時を過ごしたのだった……

 

 

 

 

 

〔お~みこしワッショイ!!お~みこしワッショイ!!〕

 

〔〔待ってください麗羽様~!!〕〕

 

何処からとも無くそんな、悲痛すぎる叫びが聞こえた気がしたが……まあ、関係ない話だろう。

 


 
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