No.187402

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第一章・第一幕 『蒼天墜日』

狭乃 狼さん

北朝伝、これより新章です。

予告と違い序幕ではなく、

第一幕としましたことをお詫びしつつ、

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2010-12-01 11:41:18 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:29027   閲覧ユーザー数:21077

 漢王朝―――。

 

 高祖・劉邦によって興され、一度”新”に取って代わられた後、世祖・劉秀の手で再興がなされた、現在の統一王朝。

 

 しかし、それも高祖による前漢成立より、すでに四百年の時が経ち、腐敗はその土台にまで大きく広がっていた。

 

 官は己の私腹を肥やすことにしか興味がなく、朝廷においては、讒言・賄賂は当たり前。今日は誰かが誰かの足を引っ張り、明日はその足を引っ張った当人が、ほかの誰かに蹴落とされる。そんなことが日常茶飯事の出来事。

 

 中央ですらそんな状態である。地方はもっと酷かった。

 

 重税に過酷な労役は当然の如く、官と悪徳商人の結託などは可愛いもの。時にはは官が、自ら人身売買などの非道な行いを、平然と行っているという有様。

 

 心ある人々は、口を揃えてそんな状況を嘆き、改革を断行しようとするものの、結局は失敗して地方へと落ち延びていく。

 

 そんな中、一人の男が、これを機に己の野望を実現させることを、思い立った。

 

 ―――漢からの独立、そして、新王朝の勃興を。

 

 だが、そのためには決定的に足りないものが、その男にはあった。財もあり、拠点とすべき土地もある。しかし、人の上に立つには、男は決定的に”それ”が不足していた。

 

 それは、カリスマ―――。

 

 人として魅力のない者に、人は決してついていかない。無論、それがなくとも打算と欲望のみで、強い者につこうとする者は、それこそ数多くいる。だが、それでは真の団結は決して得られない。だからこそ、男は求め続けた。自分のそれを補って余りある、決定的なカリスマを。

 

 そして、ついに見つけた。

 

 

 

 「みんな大好きー?!」

 

 『天和ちゃーん!!』

 

 「みんなの妹ー?!」

 

 『地和ちゃーん!!』

 

 「…とっても可愛い」

 

 『人和ちゃーん!!』

 

 それは、三人の旅芸人の少女。

 

 その、あまたの男たちを魅了し、惹きつけてやまない彼女たちこそ、男が捜し求めた、自分に足りないカリスマ性を持ち合わせる、最上の”広告塔”だった。

 

 そしてその三人―――長女・張角、次女・張宝、そして三女・張梁の、通称、張・三姉妹―――を、男は自分の屋敷に招き、そのスポンサーとなることを持ちかけた。

 

 ただしその代わりに、大陸各地で自分の宣伝をすることと、若い男たちに兵として自分の下に参集するよう促すこと、と。そう条件をつけて。

 

 彼女たちは、それを受け入れた。活動資金が底をつきかけていた三人にとって、これほどうまい話はなかったから。

 

 そして、男のもくろみは見事に成功した。

 

 連日、男の下には彼女たちにうながされた、若い男たちが次々と集まり、その数はゆうに三十万を超えるほどにまで、膨れ上がった。

 

 ―――男は、ついに決起した。

 

 自らを天公将軍と称し、二人の弟に、地公将軍・人公将軍と名乗らせた。腐りきった漢を倒し、世に太平を導くことをその”大義”にかかげ、あっという間に、青州を乗っ取る事に成功。その野望の一歩を、踏み出した。

 

 その男の名は、張挙。

 

 元はただの土豪に過ぎなかった、彼のその決起にとともに、大陸各地で反乱が相次ぎ、世は混乱の渦へと巻き込まれていく。

 

 後に、”黄巾の乱”として世に知られる、史上最大の民衆反乱。その、幕開けの瞬間であった。

 

 

 

 その張挙の決起から数日後。所は鄴郡、一刀の執務室にて。

 

 「また、黄色い連中か」

 

 「ええ。しかも、その数は日に日に増しつつあるわ」

 

 忌々しそうな表情の姜維の発言に、徐庶がその手に持った黄色い布を見つめつつ、そう続く。

 

 「黄巾の乱、か。……まさか自分で体験することになるとはね」

 

 「黄巾、か。なるほど、わかりやすい呼び名だな」

 

 嘆息しつつ言った一刀の言葉に、腕を組んだ徐晃が厳しい顔つきのまま、納得の言葉を紡ぐ。

 

 「やっぱ、一刀の世界でも有名な出来事なんや?」

 

 「ああ。首謀者の名は張角。太平道っていう、一種の宗教が発端になった事件だよ。……ただ、ね」

 

 「……”向こう”とは、違う可能性が高い、ですね」

 

 「うん。名前ぐらいは一緒だと思うけど、俺の知識は、あまり当てにしないほうがいいと思う。頭の隅において置く位の気持ちでね」

 

 領内の治安維持のため、賊討伐に力を入れていた一刀たちは、最近の賊たちに、ある共通する点を見出していた。

 

 うち一つが、先の話題に出たように、体のどこかに黄色い布を巻きつけた者たちが、その一部に混ざっていること。

 

 もう一つは、その規模。

 

 「今までは、多てもせいぜい数千単位やったけど、それがここ最近は、確実に万を越えてきとる。それもや」

 

 「統率の取れた”集団”に、なっている。おそらくこれは」

 

 「彼らを率いるものが現れた。それも、確固たる一つの意思の元に」

 

 「……それが、張角とその兄弟、もしくは姉妹、か」

 

 ん、と。一刀にうなずいてみせる徐庶。

 

 そして、最後にもう一つ。彼らの、今までに絶対無かったその行動。襲撃した邑や街、郡の”征圧”、である。

 

 「今までは、襲うだけ襲ってとっとと逃げとった連中が、ここは自分達の物だと言って、居座り続けとる。現に、東の平原の町は連中の支配下に置かれとるし」

 

 「連中、大陸の統一でも狙っているんだろうか」

 

 「……古の、”王奔(おうもう)”のように、か」

 

 ”王奔”。それは、漢を一度滅ぼした男の名。”新”という名の新王朝を興し、一度は漢に取って代わった。だが、後漢の世祖である劉秀の手により、わずか一代で彼の新王朝は潰された。

 

 「中原においても、兗州・豫州・及び徐州で、彼らの手で征圧された郡や街が、増え続けているそうです」

 

 「……朝廷の対応は?」

 

 「一応、何人かの将軍を派遣して、その鎮圧に当たってるみたいやけど」

 

 「……芳しくない、か」

 

 官軍も、永らく続いた平穏と、上の腐敗によってその弱体化が進んでおり、その戦力は農民主体の黄巾軍とほぼ互角。いや、下手をすればそれ以下の実力しか持っていない、というのがその実状であった。

 

 ぎし、と。椅子の背もたれにその背を預け、一刀が大きく嘆息をつく。

 

 「となると、当分は、各地の諸侯任せって状況が続きそうだな。……輝里、河北の諸侯の動きは?」

 

 「はい。南皮の袁紹さま、幽州の公孫賛さま、并州の刺史・丁原さまらが、活発に動いておられます」

 

 「……あれ?幽州牧の劉虞はんは?」

 

 「……すでに黄巾の手で討たれたそうだ。今薊郡は、連中の支配下だそうだ」

 

 『…………』

 

 州の牧が、賊徒の手で討たれた。それは、世の人々にあることを認識させるに、十分な出来事であった。

 

 もはや、漢の権威は地に堕ちた、と。

 

 「……ともかく、今は周辺の諸侯と協力して、確固撃破に当たるしかない。連中の拠点が分かってはいても、そこに首謀者がいるとは限らない現状では、ね。……みんな、苦しいだろうけど、頑張ってほしい。……今はとにかく、我慢の時だから」

 

 「はい」「はいな」「わかってるさ」

 

 一刀に対し、笑顔で返す三人であった。

 

 

 時同じくして、青州は北海の街にて。

 

 「兄貴、報告だ。汝南が三日前に陥落したそうだ」

 

 筋骨隆々とした、ゴツイ体躯の男が、その目の前で椅子に座る細面の男に、両腕を腰に当てたまま、先ほど届いたばかりの伝令の内容を告げた。

 

 「そうか。これで、中原の半分は占拠した事になるな。河北はどうだ、弘」

 

 「おう。薊を中心に幽州、それから并州の半分以上を、こっちの支配下に置いた。だが、冀州だけちっとばかり手こずってる」

 

 弘、と呼ばれた小男が、椅子に座る細面の男にそう告げる。

 

 「冀州?あそこはそんなに手こずるところじゃなかろうが。南皮の袁紹は馬鹿だし、平原はこっちの支配下。鄴郡の太守なんざただの豚だ。何でそんなに手こずるんだよ?」

 

 「それがな、純兄貴。どうやら鄴郡は太守が変わったらしくてよ。名前は確か、北郷、とかいったか」

 

 筋肉男の問いに、最近になって仕入れた情報を伝える、その小男。

 

 「北郷、か。訊かん名だな。……どこの人間だ?」

 

 「いや、それがどこの出身かは分からねえんだ。なんでも、街の連中からは”天の御遣い”なんて呼ばれているらしい」

 

 「天の御遣いだあ?はっ!うさんくせえ」

 

 「けどよ、純兄貴。そいつが天人かどうかはともかくとしてだ。つい数日前のことなんだけどよ。……鄴郡に入った連中が、二刻と持たずに壊滅させられちまった。三万が、たった八千に、だ」

 

 「何……だと?」

 

 思わず唖然とする細面の男―――張挙。天公将軍を自称し、この二人の長兄でもあるその男は、末弟である人公将軍こと張弘の話に、その耳を疑った。

 

 「……信じられんな。何かの間違いじゃないのか?」

 

 筋肉男――地公将軍こと次兄の張純が、弟の話に疑いの眼差しを向け、そう問いかける。

 

 「事実だよ、兄貴。しかもその内の三分の一は、白く光る衣に身を包んだ、”たった一人の”男に、全員為すすべもなく、倒されたそうだ」

 

 『ば、馬鹿な……』

 

 一人で一万の兵を倒す。

 

 それがどれほど化け物じみたことか。うわさに聞く飛将軍こと、呂奉先でもあるまいに、と。張挙と張純は、しばし言葉を失った。

 

 「……何か手を打たんとな。……おい、”あの三人”は今、どこにいる?」

 

 「確か、兗州で興行中のはずだが」

 

 「なら、あいつらに鄴郡で興行するように伝えろ。内部から、向こうを揺さぶらせるんだ」

 

 「わかった。すぐに使者を立てよう」

 

 兄の命を受け、張純が部屋から出て行く。

 

 

 そしてその数日後。兗州のとある街。

 

 

 

 「冗談言わないでよ!!そんな事出来っこ無いでしょうが!」

 

 水色の髪の少女が、一人の兵士にそう怒鳴りつけながら、手に持っていた箸を投げつける。

 

 「ちょっと、ちぃねえさん落ち着いて。……それは、張挙さんのご指示なんですね?」

 

 「はい。郡を内部から揺さぶり、こちらへの離反者を出させろ、と」

 

 「それが無茶だって言ってんのよ!わざわざ敵地(?)に乗り込んで、黄巾軍に力を貸してくださいね~、って、そんなことやったらどうなると思ってんのよ!!」

 

 「……どうなっちゃうの?ちーちゃん」

 

 一人何も分かっていなさそうな様子の、桃色の髪の少女が、首をかしげて質問をする。

 

 「……その場で捕まるに決まってるじゃない、天和姉さん」

 

 少し呆れた感じで、姉に答えてみせる、眼鏡をかけた少女。

 

 自分たちのスポンサーである張挙から、鄴郡での興行を指示されたその三人。

 

 事情を今ひとつ分かっていない、長女・張角と、声を荒げてその指示に否を唱える、次女・張宝。そして、一人冷静に思案を続けている、三女の張梁。

 

 通称、張・三姉妹の面々である。

 

 「……とにかく、少し私たちだけで、話をさせてください。方針が決まり次第、お呼びしますから」

 

 張梁がそう言い、兵士を自分たちの天幕から出て行かせる。

 

 「……んで?どうするのよ、人和?……命令どおりのこのこ行ったら、あっという間に捕まっちゃうわよ?」

 

 「捕まっちゃったら、私たちどうなるの?」

 

 「……良くて捕虜。悪ければ」

 

 「悪ければ?」

 

 「決まってるわよ!さんざんごーもんされた挙句、大勢の男たちに、よってたかって慰み者にされるのよ!うわさじゃ、鄴の新しい太守は、女と見れば見境ないって言うから、それはもう、三人揃って口では言え無いような、あんなことやこんなことを」

 

 と、張宝が又聞きの又聞きレベルのうわさに基づいた予想を、真っ青になった顔を両手で覆いつつ叫ぶ。

 

 「そんな~。人和ちゃ~ん、お姉ちゃん、そんな風になるのやだ~!」

 

 その張宝の予想を聞いた張角が、涙目になって末の妹にしがみつく。

 

 「まだそうなると決まったわけじゃないわよ。……それに」

 

 『それに?』

 

 「……張挙さんは、”郡内”で、と言っただけよ。つまり……」

 

 『……なるほど~~~』

 

 張梁の言葉に、納得顔で頷く姉二人であった。

 

   

                                   ~続く~

 

 

 

 さて、あとがきコーナーでございます。

 

 「黄巾の乱、ついに勃発しましたね」

 

 「せやね。・・・けど作者?張挙、張純いうたら、たしか正史では」

 

 はい。黄巾に乗じて反乱しただけの、黄巾とは一切関係ない人物です。

 

 「じゃ、なんでこの人たちを使ったんですか?」

 

 天和たちの裏にいる人物として、こいつらが一番適任だったから。

 

 「で?天和たちの扱いは決まったんか?」

 

 まだ。あの三人が一刀たちの下に行くか、華琳の所に行くかで、かなり状況変わってくるから、じっくり考えさせてください。

 

 

 「と言うわけで、次回予告です」

 

 「ついに開始された黄巾との戦い。カズはその中で何を思うか?」

 

 そして、天和たちは一刀と出会うのか?はたまた、思いっきりスルーされるのか?(笑)

 

 「次回、真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第一章・第二幕」

 

 「『凶刃乱舞』に、ご期待ください」

 

 いつものコメント、突っ込み、お待ちしてます。それでは、

 

 『再見~!!』

 

 


 
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