No.187246

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 幕間・其の一 『世間は辛口、酒は甘口』

狭乃 狼さん

北朝伝、拠点イベントをお送りします。

日々政務に勤しむ一刀たち。

そんな中、賊討伐から戻った徐晃が・・・。

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2010-11-30 11:15:42 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:28813   閲覧ユーザー数:21080

 「カズ~。例の”ブツ”、民への配布終わったで~」

 

 「ああ、由。ごくろうさま。輝里は?」

 

 「さっきすれ違うた時、後は西区画だけや言うてたから、もうそろそろ終わるやろ。……けどカズ?ほんまに税無しでやっていけるん?」

 

 鄴城、その太守執務室。そこに、ある報告を一刀に済ませにきた姜維が、昨日の会議で決まった件案――民からの徴税を一年間停止する――に対する、素直な不安を口にした。

 

 「……昨日も言ったけど、今まで必要以上に搾取されていたからね。せめてそれくらいはしないと、みんな働く意欲も湧いてこないと思う。一応、その間の予算は確保してあるし、大丈夫だと思うよ」

 

 「……ならええけどな。けど、ほんまにびっくりしたで。あの腐れども、まさかあないに貯めこんでたとはな。ま、没収した連中の私有財産は、今、民に返してきたし。……これで、ちっとは胸のつかえが降りた気ぃするわ」

 

 「……そか」「せや♪」

 

 笑顔を交わす二人。

 

 前太守である韓馥と、その側近達が、違法に溜め込んでいたその私有財産は、その総額、およそ二十年分の郡の予算に匹敵した。これには、実際に調べに行った一刀たちも、その度肝を抜かれると同時に、怒りを通り越して思わずあきれ果てる始末であった。

 

 「……まずは、これを郡内の人たちに返そう」

 

 という一刀の一言で、それらをすべて、民たちに還元することになった。……もちろん、当座の予算分だけは確保せねばならなかったが、それでも、相当な量の銭や食糧が、州内の各邑に運び込まれた。

 

 人々のほとんどは、これに涙を流して喜んだ。……ただ、それでも一部には、元々自分たちのものなんだから、感謝するいわれは無いと、配布に行った姜維に対して、面と向かって言い放つ者も少なからずいたが。

 

 「一刀さん、入りますよ?」

 

 「輝里か。お勤めご苦労さん」

 

 「フフ、ありがとうございます。で、ご指示のあった例の高札ですが、すべての区画に配置し終わりました。……集まりますでしょうか?」

 

 「職を失ってあぶれている、若い男の人たちが多いだろうから、募集に応じてくれる人は結構居ると思う。……全部に応えられるといいんだけど」

 

 「田畑の再開発、それも、そこで働いたモンには、平等に分割して、その土地をあげます、言うんや。……来ない方がおかしい思うで」

 

 それもまた、昨日の会議で決まった件案の一つ。

 

 これまでの高税率で、すっかり働く気の無くなった人々にやる気を起こさせ、さらに、その為に荒れ放題になっていた田畑を、その彼らの手で再開発させることにした。

 

 その報酬として、田畑を均等に分配して彼らの財産として認め、さらには、向こう三年間、税を大幅に減免するとの触れを、一刀たちは出したのである。

 

 「これによって、ほかの土地に逃げていた人々も戻って来やすくなるでしょうし、民が定住してくれれば、収入も安定して得られるようになる。いいことづくめです。……ただ問題は」

 

 「治安、か」

 

 「はい」

 

 

 

 治安の悪化。

 

 それが今、一刀たちの頭を悩ませている事柄の、最大のものであった。街中の”それ”については、街の有志たちによって構成された巡回組の、その細かな見回りによって、少しづつ落ち着いてきている。

 

 だが、街の外となると、話はまた変わってくる。

 

 鄴郡は、冀州のおよそ半分の広さを、その管轄に含んでいる。そしてその広さに加え、森林帯が多いのも、”賊”が潜伏するのに適していることが、冀州でもっとも治安に苦労すると言われる、その所以である。

 

 一刀たちも、時には一刀自らその先頭に立って賊討伐を行い、降る者は許してその戦力に組み込みつつ、治安維持に奔走しては来た。……もっとも、その初陣の際に、”初めて”人殺しを経験した一刀が、暫く悪夢にうなされ、徐庶達がそのフォローに奔走する、といった事もあったのだが、そのあたりについては、また後に語りたいと思う。

 

 それはともかく、いまだ、冀州の治安は完全に落ち着いた、というわけでは無かった。

 

 「ウチと蒔ねえで、毎日動いては居るけれど、当分、賊どもの完全な制圧は難しい思う」

 

 「せめてあと一人、将として動ける人が居ると、大助かりなんですけど」

 

 「無いものねだりしても仕方が無いさ。……で、その蒔さんは?」

 

 「ついさっき戻ってきたと思うで。多分、今頃は練武場で新兵の訓練中ちゃうかな?」

 

 「……じゃ、ちょっと様子を見に行ってみようか。激励も兼ねて」

 

 

 で、その練武場で一刀たちが見たものはというと。

 

 「……あれは、何をしているんでしょうか?」

 

 「……酒盛り、ですね」

 

 「……酒盛り、やな」

 

 五百人ほどの、蒼い鎧に身を包んだ兵士達が、そこらに大量の酒瓶を転がしつつ、徐晃を中心にしての、大宴会の真っ最中であった。

 

 

 

 「ちょっとねえさん!なにやってんですか?!」

 

 「おー。一刀に輝里に由じゃんか。どーだ?お前達も一杯?」

 

 「どーだ、一杯。や、あらへんがな!何しとんねん!こんな真昼間から!!」

 

 ほろ酔い、を通り越して、すでに出来上がっている徐晃に、徐庶と姜維がすさまじい形相で詰め寄る。だが、徐晃はそんな二人をまったく気にせず、

 

 「な~に。今日討伐した賊達のねぐらに大量の酒があってな。捨てるのももったいないから、全部回収してきたのさ。で、街の連中に配った残りをこいつらに振舞って、親睦を深めていたってわけだ。……くは~~~~っ!旨い!!」

 

 一気にそれだけしゃべった後、杯の酒をぐーーっと飲み干す徐晃。それを見た一刀は、

 

 「……じゃ、おれもお相伴に預かろうかな」

 

 「ちょっと一刀さん!?」「カズ!あんた何を……!!」

 

 どっか、と。徐晃の隣に腰を下ろし、その手に杯を持って差し出した。

 

 「お?なかなか話が分かるじゃないか。よし!ぐっといけ!ぐっと!」

 

 とくとく、と。その乳白色の酒を、嬉々としながら徐晃が一刀の杯に注いでいく。

 

 「……向こうに居たときは、まだ未成年って事で、”あまり”飲んだことは無いんだけどね。……じゃ、いただきます」

 

 ぐーーっと。

 

 杯の酒を一気にあおる。その独特な香りが一刀の鼻腔をくすぐり、のどをほんのりとした甘さが、通っていく。

 

 「はあ~~~。……美味いね、これ」

 

 「そうだろ?ほら、輝里も由もんなとこに突っ立ってないで、こっち来て飲めよ。……嫌いじゃなかろうが」

 

 『ごくっ』

 

 そういえば、暫くお酒とは無縁だったな、と。そんな考えが二人の脳裏によぎる。そして、とどめの一刀の一言。

 

 「ちょっと位ならいいさ。蒔さんの言うとおり、みんなで親睦を深めよう?……ね?」

 

 陥落した。

 

 『じ、じゃあ、ちょっとだけ……』

 

 ちょっとだけ。それですんだことなど、古今東西あるはずも無く、その後どうなったかというと。

 

 

 

 「八番!姜伯約!……脱ぎます」

 

 「いっぞーーーっ!!脱げ脱げーーーーっ!!」

 

 酒に酔い、完全な泥酔状態になった姜維が、その場で一枚づつ、ゆっくりとその服を脱ぎ始め、同じく泥酔状態の徐庶が、それをさらにあおるという。……まあ、よくある(?)飲み会の光景がそこにあったりした。

 

 「……しかし、少しだけ意外だったな」

 

 「?……何がですか?」

 

 自身も相当量の酒を飲んでいるはずなのに、全くそんな素振りを見せない徐晃が、一刀に対してポツリとつぶやいた。

 

 「いやな。お前もてっきり、輝里たちと一緒になって怒るかと思ったんだが、まさかそっちから杯を出してくるとは」

 

 トトト、と。そんな疑問を口にしながら、一刀の杯に何杯目かの酒を注いでいく。

 

 「……なんだかんだ言って、あの二人も相当ストレスがたまっていたでしょうしね。……たまには、思い切り発散したほうがいいんですよ」

 

 「すとれす?」

 

 「ああ。鬱憤とか、そういう意味ですよ。……ま、二人があんなに酒癖が悪いとは、思いませんでしたけど」

 

 ほとんど下着姿になっている姜維と、その横でケラケラと大笑いをしている徐庶を、チラリと横目で一刀が見やる。

 

 「……ありがとう、一刀」

 

 「どうしたんです?急に」

 

 突然、自分に対して礼をいった徐晃に、一刀が首をかしげて問いかける。

 

 「私たちの都合だけで、”天の御遣い役”を、お前に押し付けてしまった。その上、郡太守なんてものまでやらせることにもなった。……帰りたいとは、思わないのか?」

 

 「…………」

 

 

 

 帰る。

 

 それはもちろん、元の世界に、という意味であろう。だが、一刀はその杯の酒をあおると、笑顔でこう応えた。

 

 「……郷愁が、全く無いとは言いません。けど、今は”ここ”が、俺の帰るべき場所ですから。だから、気にしないでください」

 

 「……すまん」

 

 そ、と。

 

 一刀の肩にもたれかかる徐晃。

 

 「ま、蒔さん?」

 

 「……少しだけ、酔ったようだ。暫く、肩を貸してくれ」

 

 目を閉じ、そうつぶやく。だがそこに、

 

 「あ~っ!!ねえさんてばズルイ!!私も一刀さんに甘えたいです~~~!!」

 

 「いっ!?ちょ、輝里までなにを」

 

 がっし、と。徐晃とは反対側の、一刀のその腕にしがみつき、まるで猫のようにゴロゴロとのどを鳴らし始める徐庶。さらに、その光景を見た姜維が、

 

 「……二人して抜け駆けですか?私は置いてけぼりですか?!一刀さんも鼻の下を伸ばして、随分と嬉しそうですね?!ハッ!……胸ですね?一刀さんは胸好きなんですね?!そーなんですね?!ねえさんみたいなぼいんぼいんや、輝里みたいな丁度な大きさがいいんですね?!私みたいなヘンぺー胸じゃ駄目なんですね?!う、う、う、うわああーーーん!!」

 

 何故か標準語(?)で早口でまくし立てた後、ボロボロと涙を流して大泣きを始めた。

 

 「やはは~~!由ちゃんが壊れた~~!!」

 

 「それは君もでしょ。てか由!俺は別に胸で人を差別したりしないぞ!!大きかろうが小さかろうが、俺は別に」

 

 「どうせ、どうせ、どーーせ、あたしなんて~~~!!」

 

 徐庶にしがみつかれたまま、一刀は泣きじゃくる姜維を、何とか宥めようとする。

 

 それを見ていた徐晃が、杯を傾けながら、ポツリと一言つぶやいた。

 

 「……こうやってはしゃげるのも、今のうちだけなんだろうな……」

 

 

 「ふええええーーーーんん!!」

 

 「きゃはははははは!!」

 

 「勘弁してくれーーーーー!!」

 

   

                             ~幕間その一、了~

 

 

         

 

 お酒は二十歳になってから。

 

 

 というわけで、拠点第一弾です。いかがでしたでしょうか?

 

 「あ~、あたまいたい・・・」

 

 「うちら昨日、何してたっけ?宴会始めたとこまでは、おぼえてんやけど」

 

 ・・・・・覚えてなくてよかったかもよ?

 

 「う。・・・今後はもちょっと、ひかえます」   

 

 「それがけんめいやね」

 

 

 では、二日酔いの二人は放って置いて、次回予告。

 

 

 次回、いよいよ、黄巾の乱が勃発します。  

 

 「大陸に広がる黄色い嵐。その渦中にて、一刀さんは、わたしたちは」

 

 「どんな選択をし、どんな道へと進むのか」

 

 次回、真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第一章、序幕。

 

 「『蒼天墜日』」

 

 「ご期待ください!」

 

 各種コメント、その他突っ込み、お待ちしております。それでは、

 

 『再見~!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 「うー、気持ち悪い・・・・」

 

 「酔い止め、酔い止めっと。いや、ここは迎え酒かな?」

 

 

 ・・・懲りんやっちゃな。

 

 

 みなさん、くれぐれも、お酒は二十歳になってから!ですからね~。

 

 

 


 
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