No.183407

みんなで星蓮船 Ep.03 殺し愛の末路

春野岬さん

幻想郷総攻撃!?

もしも、「東方星蓮船」の主人公が3人だけでなかったら……!?
未確認飛行物体を巡って幻想郷の少女たちが大さわぎ。
登場キャラ大増量なIFストーリー。

2010-11-08 21:17:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:899   閲覧ユーザー数:881

 竹林の隙間からのぞく空は薄曇で日の光は優しく和らげられている。

 眩しくなくてよかったと蓬莱山輝夜は考えていた。

 地面に仰向けに倒れたままで、立ち上がるどころか寝返りをうつことすらできない。

 きっと体の至るところが折れたり抉れたりしているに違いない。

 しかし、輝夜にとってはそれはどうでもよいことで、帰った時に永琳に見咎められて叱られることだけが気がかりだった。着物はごまかしようのないほどぼろぼろだ。

 

 何かが爆ぜる音がしたので、眼球だけ動かしてそちらを見ると竹がちりちりと燃えていた。

 このままだと大火事になるかもしれないが、この辺りにあるものと言えば宿敵の家くらいなので問題はない。

 

「妹紅、家が燃えちゃうよ。いいの?」

 

 口は動かすことができた。

 からかうような口調でおそらく輝夜と同じように近くに倒れているであろう藤原妹紅に呼びかけた。

 返事はない。妹紅の方は口もきけないくらい酷い有様なのかもしれない。

 

 相打ちだった。『蓬莱の玉の枝』が巻き起こす弾幕は徐々に妹紅の動きを封じた。

 しかし仕留める寸前で、苦し紛れに妹紅が放った『火の鳥』に飲まれてしまったのだ。

 両者はほぼ同時に相手の弾に直撃し決着となった。

 二人の間で手加減はないので、まともに被弾すればただではすまない。

 

 これだけ酷い怪我をしてしまったのだ。

 不老不死の輝夜でも歩けるようになるまで、まだ時間がかかりそうだった。

 夕飯までには治るかなぁ――ぼんやりと空を眺めていると、こちらに向かってくる足音が聞こえた。

 足音は輝夜の頭の前で止まった。

 

「ん? 死んでるのか」

 

 そういいながら無遠慮に覗き込む顔を輝夜は知らなかった。

 手には妙な角度に折れ曲がった棒が握られている。幻想郷にこんな住人がいただろうか。

 

「反応していたのはこれか。残念ながら違うみたいだね」

 

 右手から蓬莱の玉の枝を抜き取られるのがわかった。握りたくても右手に力がはいらない。

 

「返しなさい」

 

 輝夜は言い放った。月の姫としての威厳を見せなければならない。

 

「生きてたんだな。君は人間?」

「そんなことはどうでもいいのよ。すぐにそれを返しなさい」

 

 しかし、この状況では向こうの立場が優位すぎる。

 

「確かに探していた物とは違うけど、これはこれで強い力を感じる。こういう道具は正しく使える者が持つべきだと思わないか?」

 

 まるで輝夜の言葉が聞こえていないかのように振舞う。

 

「あの方への捧げ物にしよう」

 

 勝手なことを言っている。今すぐ奪い返したかったが体が言うことを聞かない。

 

「妹紅、何とかできないの!」

 

 藁にもすがる思いで名前を呼んだが返事はなかった。

 

「食べていかなくていいのかい?」

 

 盗人は別の誰かに話しかけていた。輝夜からは姿は見えない。

 

 話が終わったのか再び輝夜に向き直り、

 

「命拾いをしたね。彼らは添加物の多い食物には手を出さないようにしているらしい」

 

 意味の分からないことを言った。どこかでネズミの鳴き声がした。

 

 

 盗人は去っていった。

 悔しさを力に変えて何とか上半身を起こすと、足元に妹紅が転がっているのが見えた。

 

「こんなに近くにいたのね」

 

 完全に気を失っているようで身じろぎひとつしない。

 

「バカ。妹紅のせいで盗られちゃったよ」

 

 妹紅の横顔は美しかった。

 美しすぎてまさか本当に死んでるんじゃないかと輝夜は思った。

 もちろん妹紅が――そして輝夜も――死ねるわけがないことはわかっていた。

 先程まで怒りと焦りに心を乱されていた輝夜だったが、気付くと落ち着きを取り戻していた。

 

 

 竹林からふたつの人影が現れた。

 

「姫様、またやらかしたんですか」

 

 あきれるように言いながらやってくるのは鈴仙・優曇華院・イナバ ――月生まれの妖怪ウサギだ。

 頭にぴんと立っている兎の耳がトレードマーク。

 薬箱を背負っているので、おそらく里に永琳の薬を売りにいく途中だったのだろう。

 輝夜が妹紅と戦ってぼろぼろになるのは今に始まったことではないので、鈴仙に驚く様子はなかった。

 

「おー、これはひどい」

 

 もうひとりは因幡てゐ。その口ぶりからは、輝夜を心配する気持ちが微塵も感じられない。

 鈴仙とは違い地球生まれの妖怪ウサギ。

 小柄な体型と垂れた兎耳から可愛らしい印象を受けるが、その正体はいたずら好きでいつも人を陥れることばかり考えているワルだ。

 それでも、ふたりが輝夜を見つけたのはおそらくてゐの力によるものだ。偶然ではない。

 それだけは感謝しなければならない。

 

「蓬莱の玉の枝が盗まれたわ。すぐに取り返して」

「ええっ!」

 

 これには鈴仙も驚いた。

 

「まだ遠くには行ってないはず。変な形の棒を二本持った妖怪よ。あんたたちみたいに頭に耳が生えていたわ」

「でも、姫様を放っては……」

「私はいいから。急いで!」

 

 輝夜の剣幕に鈴仙は気圧された。背中の薬箱を降ろす。

 

「わかりました」

「しかたない」

 

 てゐは面倒だという気持ちが態度に出ている。

 飛び立とうとした鈴仙とてゐを輝夜が引き止める。

 

「重要なことを忘れていたわ。永琳には秘密にすること。このことは決して知られてはいけないからね」

 

 ばれたら叱られるだけではすまない。きっと殺される。


 
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