No.183146

みんなで星蓮船 Ep.02 妹様出撃

春野岬さん

 幻想郷総攻撃!?

 もしも、「東方星蓮船」の主人公が3人だけでなかったら……!?
 未確認飛行物体を巡って幻想郷の少女たちが大さわぎ。
 登場キャラ大増量なIFストーリー。

2010-11-07 14:38:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1102   閲覧ユーザー数:1089

 幻想郷は今日も平和だった。少なくとも紅魔館の門番――紅美鈴にはそう思えた。

 幻想郷で最も季節の変化を肌で感じているのは自分なのではなかろうか。

 雨の日も風の日も雪の日も外に立たされているのだから。

 毎年、真冬には何度か寒さで気を失って凍死しかける(春雪異変の首謀者は私に謝るべきだ!)。

 それが当たり前になってしまって、非人道的な労働環境に文句のひとつも言わない自分はもうダメなのかもしれない。

 そういうわけで、美鈴は緩やかに訪れる春を心の底から歓迎し、幸せな気持ちに満たされているのだった。

 そんな美鈴が門柱に持たれてうとうとしかけた時、チャイナ服の裾を引っ張られた。

 振り向くとこちらを見上げるフランドール・スカーレットの姿があった。

 

「めーりん、遊びにいこ」

 

 小声で言いながら不安そうに背後を確認している。

 もともとフランドールは姉のレミリアの命令で地下牢に幽閉されていたが紅魔異変後、なしくずし的に館内を自由に歩き回ることを許された。

 しかし、まだ館の外に出ることは許されていない。

 驚異的な戦闘能力を持つ吸血鬼は、その反面で弱点の多い種族だ。

 それも日光、流れる水、十字架、銀製の武器など日常に溢れているものばかりなので出歩くのがいかに危険かわかるだろう。

 本当は今ここで美鈴と話をしているだけでも危ないのだ。

 曇り空と紅魔館を取り巻く霧のおかげで、日光が和らいでいるからフランドールも無事でいられている(だから外に出てきたのだろう)。

 

 フランドールが外出を許されない理由はもうひとつある。

 あらゆるものを破壊する能力を持つ彼女が、好き勝手に力を振るえば周囲にいる者はただではすまない。

 そして、破壊の喜びを抑えるだけの理性がフランドールに備わっていると信じる者はいなかった。

 そういうわけで、フランドールに落ち着きがないのはレミリアか咲夜に見つかるのを恐れているためだった。

 

「ダメですよ」

「けちー」

 

 フランドールは拗ねて裾をぐいぐい引っ張る。このままだと服が伸びてしまう。

 

「夜にしましょう」

「いつも夜だからつまんない。今がいいの」

 

 ほとんど半泣きで訴えかける。

 吸血鬼は夜を好むものでしょうが。

 美鈴はため息をついた。

 

「わかりました。ちょっと散歩をするだけですよ」

「やったぁ。美鈴大好き」

 

 途端に笑顔になってはしゃぐフランドール。

 

「日傘」

 

 美鈴が玄関を指差しながら言うと、

 

「はぁい」

 

 返事をして引き返す。こうなると聞き分けが良い。

 今日みたいに、時折フランドールはこっそりと美鈴のところにやってくる。

 レミリアは妹に対してうまく接することができずにきつく当たってしまうし、咲夜は立場上当主のレリミアを立てなければならない。

 そのため、自然とフランドールの相手をするのは美鈴の役目になってしまっていた。

 おそらくフランドールの中では遊び相手=美鈴の図式ができあがっているのだろう。

 フランドールのことは本当の妹みたいに思っているので相手をするのが嫌なわけではないのだが、フランドールのわがままに付き合ったがために、レミリアと咲夜に怒られるのもまた美鈴の役目になってしまっているのだった。

 ちなみにパチュリーは誰に対しても中立――我関せずともいう――を取っていて吸血鬼姉妹の確執には巻き込まれることがない。ちょっとずるい。

 

 戻ってきたフランドールの手には日傘があった。

 レースの刺繍があしらわれた黒い日傘で、レミリア愛用の白い日傘の色違いだ。

 フランドールが誕生日プレゼントとしてレミリアにねだって買ってもらったものだ。

 外出ができないはずのフランドールの持ち物としてはおかしかったが、室内で使うと約束するならという条件でレミリアが買ってやった。結局のところレミリアもフランドールには甘いのだ。

 フランドールは日傘を開いて肩にかけると嬉しそうにくるくると回った。

 天気は薄曇り。美鈴は念のため門柱の裏に立てかけてある雨傘を手に取った。

 共に何度も風雨を凌いできた親友だ。

 

「めーりん!あれ何?」

 

 突然フランドールが叫ぶ。

 フランドールが指し示した方向を見て美鈴は驚いた。

 雲の中を巨大な何かが横切っていく。

 

「船……?」

 

 呆然と飛行体を見上げる美鈴の手をフランドールが引いた。

 

「行こう!めーりん」

「ちょ、まさか追いかける気ですか」

 

 ちょっと散歩をするだけの予定は早くも崩れ去ったのである。

 

 

 

Ep.03へ続く


 
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