No.183030

TINAMI学園祭 (有り得たかもしれない物語)

投稿40作品目になりましたね。

sink6さんに引き続き、リレー小説を投下させていただきました。

参加ユーザーの皆さん

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2010-11-07 00:40:58 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:8566   閲覧ユーザー数:7066

小春日和の柔らかな日射しが降り注ぐ。

 

初冬も間近に迫ったこの時期、冷たさを帯び始めた風は何処か澄んで、空を滑る鳥達の歌声も、彩りに満ちた木々のさざめきも、心地良い残響を帯びて聞こえるような、そんな気がした。

 

静かに重なり合い、静かに奏でられるそれは、世界が織り成す一つの組曲。

 

時には軽快に。

 

時には柔和に。

 

時には駆け抜けるように。

 

時には歩くように。

 

そこに、一筋の音色が、やはり静かに加わった。

 

空のように爽やかで、

 

海のように優しくて、

 

大地のように逞しくて、

 

命のように儚い。

 

とある校舎の、とある一室。

 

鳥籠のような円筒状の構造をしたその部屋は、黒板のある壁を除いて全方向に窓があり、射し込む陽光が室内を暖かく照らしている。

 

黒板の対面には段々に並ぶ、清潔感に溢れた真白の机。

 

そして、中心には磨き上げられて漆黒の光沢を放つ、大きなピアノが一台。

 

その傍ら、佇んでいるのは、一人の少年。

 

首の後ろで無造作に黒髪を束ね、Yシャツを肘の辺りまで捲り、ネクタイを緩めて首元を僅かに開けている。

 

アッシュの生地に二色のブラウンでチェック模様が入れられたスラックスに、深いブラウンのローファー。

 

そして、その左肩で音色を紡ぎ出しているのは、木目の優しい光沢を放つ、一挺のバイオリン。

 

しなやかな弓で四本の弦を震わせる彼は、瞼を閉じたままで穏やかに微笑んでいた。

 

北条 白夜(ほうじょう びゃくや)。

 

この学園に通う者であれば、彼の名を一度は必ず耳にした事はあるだろう。

 

『盲目のバイオリニスト』

 

実に大衆受けしそうな、マスコミが喜んで飛び付きそうな、聞こえの良い響きだとは思わないだろうか。

 

実力も折り紙つき、コンクールに出場し始めた僅か数年で多くの受賞歴を持ち、既に某有名音大への推薦が決定しているともなれば尚更の事である。

 

まぁ、それには彼の生い立ちも無関係ではないのだが、それはまた別の話。

 

「……ふぅ」

 

やがて溜息と共に弓を下げ、バイオリンを肩から降ろす。

 

彼は午後より、吹奏楽部主催の演奏会にてゲストとして出演する予定がある。

 

そのリハーサルの為に使われていないここ、第三音楽室を借り、今はピアノ演奏を依頼した下級生が露店で昼食を買って来てくれるというので、待つ間に再度演奏の確認をしていたのだが、

 

「流石にちょっと遅過ぎませんかね……」

 

ベルトから白杖を抜き、足下をこつこつと叩きながら最寄りの机に寄ると、一端バイオリンと弓をケースに仕舞い、ポケットから触読式の懐中時計を取り出す。

 

文字盤に触れると、『彼女』が出て行ってから優に三十分は経過していた。

 

「迷ってしまったんでしょうか……連絡しようにも、電話番号が解りませんし」

 

呟き、傍らに置いていた紺色のブレザーのポケットから携帯電話を取り出して、

 

―――――TRRRRRRRRRR♪

 

「おや?」

 

その瞬間、黒電話の音とバイブレーションが着信を知らせる。

 

誰からだろう、と通話ボタンを押し、耳に当てて、

 

『よっ、白夜。駅までは何とか着いたんだが、こっからどう行きゃいいんだ?』

 

「あぁ、えぇとですね、確か―――――」

 

懐かしい声に顔を綻ばせると、白夜はおぼろげな記憶を手繰り始めた。

 

 

時間は僅かに遡り、正面玄関前。

 

校門まで続く通学路、その左右に立ち並ぶ街路樹の下には、学生主催のありとあらゆる露店のテントが建てられていた。

 

たこ焼き、焼き鳥、クレープ、フランクフルトなどの定番からタコス、グリーンカレー、ナシゴレンにドネルケバブなどの変わり種も所々に見受けられる。

 

露店の出店許可が下りている場所はここら一帯のみである為、間も無く正午を迎えるこの時間帯、混雑の度合いは最高潮に達していた。

 

さながら餌場に向かう蟻の行列のように、絶え間なく行き交う人の群れの中、『2-E 焼きそば』と書かれたのぼりの露店に『彼女』の姿はあった。

 

「御城さん、焼きそば二つ、お願いします」

 

「はい、いらっしゃ――――あれ、葛(かずら)さん。確か午後から吹奏楽部の演奏会出るんじゃなかったっけ?」

 

「そうですよ、その前にお昼御飯を買いに来たんです。ついでに自分のクラスの売り上げに貢献しておこうと思いまして」

 

穏やかに微笑んで返す彼女。

 

名を、葛 藍里(かずら あいり)という。

 

艶やかなクリーム色のロングストレートに深い藍の瞳。

 

祖父にドイツ人を持つクォーターの彼女こそ、白夜がピアノ演奏を依頼した生徒であった。

 

「な~る、そゆことね。味はソースと塩、どっち?」

 

「えっと、それじゃあ二つとも塩で」

 

「了解、四百円ね。ふもっち~、塩二つ~!!」

 

「は~い!!」

 

『御城』に呼ばれ、鉄板の前で野菜を炒めていた『ふもっち』がそこに中華麺を加え、適量の塩胡椒を加えて混ぜ始める。

 

直ぐに塩焼きそばは完成し、プラスチック製のケースに完成品を入れていく。

 

「あ、片方の紅ショウガは抜いて下さい。私、苦手なので」

 

「おっけ。演奏会、頑張れよ!!」

 

「葛ちゃ~ん、ガンバ!!時間出来たら聴きに行くぜ!!」

 

「あ、はい!!」

 

料金分の硬貨を渡し、ビニール袋に入った二つの塩焼きそばを受け取って、藍里は踵を返して校舎へと向かう。

 

『御城』と『ふもっち』はその背中を見送って、

 

「……嬉しそうだったな、葛の奴」

 

「そりゃそうだろうさ。アイツ、北条先輩に憧れてここに入学したらしいし」

 

「そうだったのか。初耳だな」

 

「あぁ。何でも小さい頃からピアノやってたらしいんだけど、色々行き詰ってスランプだった時期に、コンクールで北条先輩の演奏聴いて感動したんだとさ。以来、大ファンなんだそうだ」

 

「へぇ……そんな憧れの人から直々に御指名貰ったら、そりゃあ嬉しくもなるか」

 

「そういうこったな。さて、俺らも頑張って売らねぇと!!」

 

「だな!!おし、焼きそば、いかがっすか~っ!?」

 

「一人前二百円!!激安っすよ~っ!!」

 

話を切り、二人は行き交う人々に向かって大声の宣伝を行う。

 

彼等もまた、祭りの参加者。

 

端役など、一人も居はしない。

 

参加すれば、誰もが主役になれる場所。

 

それが、祭と言うものなのだから。

 

 

「後は、飲み物ですね……ふふっ♪」

 

一方その頃、藍里は人混みの中で自販機を探していた。

 

自然と唇の端が上がり、嬉しさに笑顔が浮かんでしまう。

 

好きで続けていた筈のピアノ。しかし、それは何時しか『賞を取る為の道具』として扱われ始めた。

 

『賞を取れなければ、援助は行わない』

 

学校側からそう通達された時、私の中で何かが音を立てて壊れていったような気がした。

 

楽しかったピアノを続けるのが徐々につまらなくなってきて、続ける事さえ迷い始めていた、ある日の事。

 

気まぐれに訪れた音楽コンクールの地区大会で、私はあの人に出会った。

 

舞台の上であの人は、笑っていた。

 

瞼を閉じたまま紡ぎ出される音色はとても綺麗で、想いに満ち溢れていた。

 

安らかな寝顔のようなその顔は、心から音を楽しんでいた。

 

『あぁ、これだったんだ』

 

思い出した。

 

周りなんてどうでもよかった。

 

ただ、自分が好きだからやるんだ。

 

それを、思い出させてくれた。

 

気付けば、涙を流していた。

 

溢れ出たのは感動の証なのか、それとも感謝の念なのか。

 

結果発表も見ずに、私は会場を後にした。

 

パンフレットを大切に抱き締めるようにして。

 

あれから早二年、ずっとあの人の背中を追い掛け続けた。

 

今まで以上にピアノに情熱を注いで、この学園へ進学。

 

そしてつい先日、あの人から直々にピアノ伴奏を依頼されたのである。

 

その場は何とか平静を保ったが、部屋に帰った途端、その仮面はあっさりと剥がれ落ちた。

 

「ふわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

歓喜で真赤になった顔を両手で覆いながらベッドの上で身悶える。

 

『何事か』と両親が血相を変えて飛んで来るまでその奇行は治まらず、その日の夕食の席は少々気まずかったのはここだけの話。

 

そんな事を思い返しながら正面玄関に入り、下駄箱のすぐ傍に据えられた自販機に硬貨を数枚投入し、

 

「先輩は緑茶でしたよね。私は、どうしましょう……?」

 

ごとりと落ちてくる『十億茶』のペットボトルを片手に、今度は自分の飲み物を買おうと自販機に硬貨を入れ、『正午の紅茶』と『白烏龍』の間を人差し指が右往左往。

 

「ん~……よし、こっち」

 

暫く続けた後、やっと片方に絞れたのか、ボタンを押そうとした、その時だった。

 

 

≪こちら風紀委員長の南華老仙です。生徒および先生方にご報告しなければならない事があります。一部の人はご存知かもしれませんが、昨日侵入し悪行を繰り返していた「ヒトヤ犬」が再び現れました。既に一部の風紀委員が捕獲に動いてますが、既に璃々チャン’sの下着が盗まれるなどの被害が発生。しかもこのヒトヤ犬は小さい頃焔耶さんを襲い、焔耶さんの犬嫌いの原因になった犬である事も判明。風紀委員及び一般生徒(ユーザーの皆さん)もすぐにヒトヤ犬を追ってください。捕まえれない場合、罰として君達の部屋の合鍵を新任の貂蝉先生と卑弥呼先生にお渡しするのでそのつもりでいる様に。以上≫

 

 

「…………」

 

呆然であった。

 

周囲の生徒達がざわめく中、冷静に今の情報を噛み砕いてゆく。

 

突然の放送。

 

下着泥棒。

 

犬嫌いの原因。

 

訳の解らない単語が多かったが、

 

「『ヒトヤ犬』……?」

 

その単語だけは、何かが引っかかった。

 

学園祭初日である昨日、主に女子を中心に大きな被害が出たらしい事は、口コミで藍里の耳にも届いていた。

 

その犯人が、とある犬であるという事も。

 

それだけならば『危ないから気をつけよう』で済むのだが、

 

 

―――――捕まえれない場合、罰として君達の部屋の合鍵を新任の貂蝉先生と卑弥呼先生にお渡しするので、そのつもりでいる様に。

 

 

「貂蝉先生と卑弥呼先生って、あの……?」

 

先日赴任してきたばかりの新任教師二人を思い出す。

 

……正直、何故教師になれたのか疑問を抱いてしまうというか、何とも言語化し難いというか。

 

まぁ要するに、あの二人に男子が関わって碌な事は無いと言う訳だ。

 

(先輩は『練習中は集中したいから』って放送の電源は切っていたから、この事は知らない筈……)

 

報せに行くべきだろうか。

 

そう思った、直後の事だった。

 

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

突然響く、女生徒の甲高い声。

 

聞こえた方を見てみれば、一匹の小型犬が物凄い速度でこちらに走って来ていた。

 

「あの子が、ヒトヤ犬……?」

 

傍目にはただのコーギーの子犬にしか見えないのだが、あの悲鳴からして何かしらの猥褻行為があったのだろう。

 

「本当だったんですね、あの噂……」

 

自然と足が退いてしまう。

 

関わらない方が良さそうだ、と背を向けようとして、

 

 

「ウ?(おや?あの娘、中々の上物だな)」

 

「ひゃっ!?」

 

 

少し、遅かった。

 

小さな漆黒の双眸は完全に自分をロックオンしており、ヒトヤ犬は直ぐ様方向転換、勢いを殺さぬままにこちらへ猛然と突撃してくる。

 

「い、いや、来ないでっ!!」

 

苦し紛れに焼きそば入りのビニール袋を振り回すが、

 

「わふ(この程度で俺を止められるものか)」

 

容易に躱したヒトヤ犬はその勢いのまま藍里を傍らを過ぎ去った。

 

「……え?」

 

特に胸や下半身に触れられた感覚は無かった。

 

服がはだけてもいないし、何もしなかったのだろうか、と身体に触れながら確認していって、

 

 

「っ!?」

 

 

その手がスカートに触れた時に、藍里の顔色が豹変した。

 

さぁっと一瞬で血の気が引き、スカートを両手で抑えたまま背後を振り返ると、

 

 

「わふ、わふふ(ほぉ、中々大胆ではないか。この祭で、何か期待でもしていたのか?……まぁ、俺が堪能させてもらうがな。フヒーヒww)」

 

 

ヒトヤ犬が咥えている逆三角形の布が、全てを物語っていた。

 

ヒトヤ犬はそのまま近くの階段から上の階へ逃走し、それをまざまざと見送る藍里はふらふらと自販機に手を着いた、

 

―――――ピッ♪

 

―――――ごとり。

 

聞こえた電子音に視線を向けて見れば、手を着いた先には『イチゴ青汁』のポップなゴシック体の五文字が小馬鹿にするように踊っていて、

 

 

そこで、何かがぷつりと切れた。

 

 

「ふわわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

 

 

 

一方その頃。

 

「やっと着いたぁ。おぉ、今年も盛り上がってんなぁ、懐かしいぜ」

 

校門の前、バスからゆっくりと降りてくる男が一人。

 

身長は百九十前後だろうか、いくら秋とはいえ、タンクトップに上からアロハを一枚羽織るだけにジーンズのみというかなりの薄着。

 

装飾品は殆ど無く、首から提げるタイプの携帯灰皿のみ。

 

刈り上げた髪は短く、スポーティなデザインのサングラスは全く違和感がない。

 

何より、彼の身体は傍から見ても解るほどに筋骨隆々であった。

 

暫くその場から学園内を見まわした後、敷地内に入ろうとして、

 

「さて、音楽室は何処かな~っと……お?」

 

突如、その足を止めた。

 

徐に空を仰ぎ、数歩後ろに下がって、

 

「結界か……?」

 

睨むように目を細めると現れた、ぼんやりと学園全体を包むドーム状の薄い壁。

 

近付き、ドアにノックするようにこつこつと軽く叩く。

 

「こりゃあ老仙のだな……何かあったのか?」

 

言うや否や、彼は直ぐ様ポケットから携帯電話を取り出し、何処かへとコールを掛ける。

 

数秒後。

 

『おや、久し振りですね。どうしたんですか、一体?』

 

「よっ、『老仙』。今日は知り合いが出し物やるってんでな、ちょっくら顔出しに来たんだ。……んな事より、何が起きてんだ?結界まで張るなんざ、只事じゃねえだろ」

 

『ああ、実はですね―――――』

 

やがて男は暫しの問答の後、

 

 

 

「―――――へぇ、面白そうじゃねえか。アイツの出し物まで時間もあるし、少し俺も手伝ってやる。標的見つけたら、俺に連絡寄越しな」

 

 

 

にやりと、唇の端を釣り上げた。

 

『本気で暴れてもいいんだろ?』とだけ確認すると携帯を閉じ、ポケットに両手を突っ込んで、

 

「最近、退屈続きだったからなぁ、骨のある奴だといいが。……楽しませてくれよ?」

 

男は、学園内へと踏み込んだ。

 

 

 

―――――委員長、誰からだったんですか?

 

 

……『刃』くん、全風紀委員に連絡して下さい。ヒトヤ犬の所在が解り次第、この番号に連絡するように、と。

 

 

―――――は、はぁ……あの、この番号って、誰のなんですか?

 

 

頼もしい援軍ですよ。

 

 

―――――援軍?

 

 

ええ。あの人なら、あるいはヒトヤ犬も……

 

 

 

その頃、藍里は校内を走り回っていた。

 

一度女子更衣室で下に体育用のブルマを履いてから、彼女は一人ヒトヤ犬の捜索を行っていたのである。

 

「はぁ、はぁ、四階にもいない……校舎の外かな」

 

既に激しく肩で息をしており、膝に手を着いて階段の先を見つめている。

 

(早く見つけないと……あんなの風紀委員の人に見つかったら……)

 

はっきり言って、ほんの少し期待はあった。

 

直々に話しかけてくれた。

 

ピアノを弾いてくれと頼まれた。

 

学園祭の空気も手伝っていたのだろう、舞い上がっていたのは否めない。

 

風紀委員があの犬を捕まえたら、恐らく所持していた品は全部持ち主に返す筈だ。

 

そうなれば、当然ながらあの下着も……

 

(~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!)

 

普段の自分なら、こんな冒険はしなかっただろう。

 

思い返すだけで、顔から火が出そうだ。

 

先輩は盲目なのだから、いくら着飾った所で意味がない事は解っている。

 

それでも、解っていても、少しでも綺麗だと思って欲しいと思ったのだから。

 

(早く、早く見つけて取り返さないと……)

 

深呼吸を繰り返し息を何とか整えて、再び走り出そうとした、その時だった。

 

 

「い、いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

「っ!!あっち!!」

 

直ぐ様駆け出し、人混みを掻き分けながら辿り着いたのは、中庭のチアリーディング部主催『ドリンクガーデン』であった。

 

窓から見下ろすと、あの服のままウェイトレスをしている女生徒達の間を、小さな黒い影が猛スピードで動き回っていた。

 

そして、その影が近くを通る度に、女生徒達はスカートを両手で抑え、悲鳴を上げている。

 

「非常階段は開いてないし、かといって正面玄関に戻ってたら多分逃げられちゃうし……」

 

どうすればいいだろうか。

 

そう思っていた、直後の事。

 

 

「あ~いたいた。あれか、件の変態犬は。情報どうもな、『大ちゃん』とやら」

 

 

突如聞こえた声に振り返れば、携帯の通話を切るサングラスの大男が、自分の背後から下の様子を覗き込んでいた。

 

男は携帯をポケットに入れると、

 

「ちょっと失礼、お嬢ちゃん」

 

そう言って自分をどかせると、窓枠に足を掛けて、

 

「って、ちょっと、ここ四階―――――」

 

 

自分の制止にも全く耳を傾けず、男は何の躊躇いも無しに外へと跳び出して行った。

 

 

 

「うぉふ(ふん、ザルだな。警備も、骨のある奴は昨日の連中くらいか)」

 

女生徒達の生足の間を駆け抜けながら、ヒトヤ犬は実に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

その口には既に本日の戦利品全てが咥えられており、後はこれを『隠れ家』に持ち帰って堪能するのみ。

 

そう思っていた、その時。

 

 

「今度こそ大人しくお縄につけ、ヒトヤ犬!!」

 

 

声の主は正面、大きな薙刀を携えた付け髭の青年。

 

(昨日の連中の一人だな。確か『関平』だったか)

 

その姿を確認し、ヒトヤ犬はより一層の加速を見せる。

 

「一気に抜き去る気か?仕留めてやる!!」

 

『関平』腰を低く落とし、薙刀『神龍昇天刀』を構える。

 

(初手の一撃さえ躱せば、この速度に追いつける者などいない。昨日の連中が複数人相手ならば少々分が悪かっただろうが、一人ならば躱す程度、造作も無い事よ)

 

ヒトヤ犬が関平に跳びかかる。

 

交差の瞬間、振り抜かれる薙刀。

 

しかし、それは僅かにヒトヤ犬の胴体をかするのみで、

 

「うぉふ(ふ、他愛も無かったな。己が無力を嘆くが良い)」

 

ヒトヤ犬が勝利を確信した、その時だった。

 

 

 

「すーぱーいなずまキィーーーーーーーーーーーーーーック!!!!」

 

 

「ぎゃいん!!(何だと!?)」

 

 

気付けば正面に見えた、跳び蹴りの靴の裏。

 

 

技名とは反比例に強烈な衝撃が奔り、苦悶と共に身体が弾き飛ばされる。

 

 

空中で体勢を立て直し、『その男』に向き直る。

 

 

「ちぃっとばかし、おいたが過ぎたんじゃねぇか、ワンちゃんよぉ」

 

 

咥えていた戦利品が木の葉のように舞い散る中、何時の間にか煙草を咥えていたその男は、

 

 

「おにーさんが、たぁっぷりお仕置きしてあげよう♪」

 

 

先程の自分のように、実に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

(おぉ、俺の蹴りを喰らって尚立つか。中々やるじゃねえか♪)

 

笑みを更に深めながら、男は煙草に火を点けようとして、

 

「あの、すんません。構内は禁煙なんすけど……」

 

「え、そなの?あっそ……」

 

渋々ライターを仕舞い、煙草を箱に戻す。

 

「しかし、アンタ何者なんすか?四階から飛び降りて普通に着地って、どんな骨格してんですか?」

 

「鍛えてますから。筋肉があれば、何でも出来る!!」

 

むん、と力瘤を浮き上がらせサムズアップ。

 

「はぁ……(でも、只者じゃないな、この人)」

 

げんなりとする『関平』。しかし直ぐに表情を引き締め、思考を巡らせる。

 

先程、四階から飛び降りて余裕で着地してみせた直後、彼は偶々その場に居合わせた自分にこう言った。

 

 

―――――君、中々腕が立ちそうなのを見込んで頼まれてくれ。あの犬、正面から誘いこんで『態と』攻撃を外してくれないか?今のアイツは戦力差に油断し切ってる筈だ。『自分を捕えられる奴はいない』そう思ってるだろう。なら、よりこちらに実力差を思い知らせようと敢えて乗って来るだろうからな。

 

 

「……あの」

 

「ん?何だね?」

 

「どうして、俺が技を外す場所が解ったんすか?」

 

「そんなの、見てりゃ普通解るだろ?」

 

(出鱈目だ、この人……)

 

あっけらかんと答える男に呆然とする『関平』。

 

「ま、いいからいいから、君は風紀委員を呼んできて頂戴な。アイツは、」

 

そこで男は低く腰を落とし、

 

「おおおおおおおおおおおれにいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

クラウチングスタートのような体勢になり、

 

「むああああああかしとけええええええええええええええええええい!!!」

 

文字通りロケットスタートで、物凄い風圧だけを残して、男はヒトヤ犬に突っ込んでいった。

 

付け髭が吹っ飛ばされ、目が点状態で男を見送る『関平』。

 

ゆっくりと携帯を取り出しながら、取り敢えずぼそりと一言。

 

 

「何処の海王星の原田さんだよ……」

 

 

 

(何なんだコイツは、本当に人間か!?)

 

ヒトヤ犬は戦慄していた。

 

まともな一撃を喰らった経験など、皆無に等しかった。

 

故に躱す余裕も、空蝉を使う暇も無く、攻撃を喰らったと言う事実が、この犬に驚愕と警戒を促していた。

 

やがて談笑を終えたのか、男は体勢を低く落とし、

 

(来るか!!)

 

そう思った直後、

 

 

既に、自分に影が落ちている事に気が付いた。

 

 

「わふっ!?(馬鹿な!?)」

 

咄嗟に跳び退ると、先程まで立っていた地面が粉砕され、土煙が舞いあがる。

 

悠然と立ち上がる男の足下、風に乗って煙が晴れると、

 

(なっ、あの一瞬で十七発もだと!?)

 

地面には十七箇所、拳大の穴がぽっかりと空いていた。

 

見上げた先、男は指をボキボキと鳴らし、

 

 

 

「十七連撃―――――これが、物を壊すと言う事だ」

 

 

 

「わふぉあ!!(何処の殺人鬼だ!!そりゃ殴ったんだから、壊れて当然だろうが!!)」

 

「お、よく知ってたな、はっはっはっはっは!!しかし、今のも躱すとはな、こりゃ久々に本気で行くか」

 

「わふ!?(何!?まだ本気では無かったと言うのか!?と言うか、私の言葉が解るのか!?)」

 

男はジーンズのポケットから何かを取り出して、

 

 

 

『Gorilla』

 

 

 

「わふぉお!!(何だ今の立木ボイスは!?何故お前がそのメモリを持っている!?ドー○ントか!?ドーパ○トなのか!?)」

 

「はっはっはっは、冗談冗談!!ただのUSBを改造しただけだって!!」

 

(この男、おちょくっているのか!?しかし、あの痕跡からしてかなりの実力者なのは確か……っ!?まさか、貴様は!?)

 

一人だけ、思い当たる節がある。

 

嘗てあの貂蝉に無謀にも丸腰で戦いを挑み、生還した者が居た。

 

『十発……ぶち込んでやったぜ……』

 

そう言い残し気を失った彼の存在を、覚えている者は果たしてどれだけいるだろうか?

 

その男の名は―――――

 

 

 

「わふぉ!!(貴様、『北の西ローランドゴリラ』峠崎ジョージか!!)」

 

 

 

「……何だ、その語呂も意味もおかしい二つ名は?まぁ、峠崎ジョージってのは俺の事だけど」

 

『北』なのに『西ローランド』って、と溢す男を前に、ヒトヤ犬は思考回路をフル稼働させる。

 

(あの貂蝉とやり合った男だとは、流石に分が悪過ぎる……待てよ?)

 

「わふ(お前、貂蝉と戦った時はどうやって生還したんだ?)」

 

「ん、貂蝉?あ~アイツな。十発全部クロスカウンターで、全部いいの貰っちまってさ、結局引き分け。あれ以来、アイツとはいい友人でな、偶に居酒屋で一緒に飲んでるよ」

 

「わふぉ!?(引き分け!?居酒屋で飲み友達!?貴様ホントに人間か!?)」

 

「ん~……七分の一は♪」

 

「わふぉあ!?(本当に先祖人間じゃないのか!?っつか『七分の一』って何だ!?血筋的におかしいだろう!!普通は分母は偶数じゃないのか!?)」

 

「はっはっはっはっは、お前面白いな!!」

 

「わふぉ!!(貴様にだけは言われたくない!!)」

 

犬なのに肩で息をしながら、ヒトヤ犬は再び思考回路を稼働させ、

 

(駄目だ、この男に関わってると完全にペースを乱される。この男相手では戦利品も回収している隙もないだろうし、間も無く風紀委員の連中もやって来るだろう……ここは一端退くか!!)

 

結論を導き出すと同時、大地を蹴って背後にあったドリンクガーデンの看板を支える櫓の足を一本壊す。

 

派手に音を立てながら柱がヒトヤ犬とジョージの間に倒れ始め、

 

「ぬっ、逃げる気か?そうはさせ―――――っと」

 

突っ込もうとして、動きを止める。

 

櫓が倒れるその先、逃げ惑う生徒達の中に、一匹の白猫。

 

直ぐ様方向転換、思い切り大地を蹴った。

 

レーザーのように直進、掬うように猫を回収し、地面を転がりながら勢いを殺す。

 

のそりと起き上がり確認すると、

 

「にゃ~う」

 

「ふぅ、無事か。って、あ~あ、アロハが埃塗れに……」

 

立ち上がり、空いた片手でシャツの汚れを払いながら倒れた櫓の方を見る。

 

既にヒトヤ犬の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「逃げられたか……」

 

「ちょ、『うたまる』じゃないか!!何でこんな所に……」

 

呟いた直後、こちらに駆け寄って来る一人の生徒に、ジョージは見覚えがあった。

 

「おぅ、老仙じゃないか。何で猫が校内にいんだよ、野良か?」

 

「あぁ。この子、今年の春から野球部の部室に住みついてるんだけど、それから弱小だった野球部が急に強くなって、今年の全国大会でベスト8入りを果たしたんだ。だから、ゲン担ぎだ、って」

 

「幸運の招き猫、って訳か」

 

「あぁ。それでジョージ、ヒトヤ犬は?」

 

「逃げられた。ただ、盗んでった品は全部取り返しといた。後は、お前等の仕事だ」

 

ジョージは『うたまる』を『老仙』に渡し、肩をポンと叩いて、

 

「頑張れよ。この祭の創始者は、お前なんだろ?」

 

「……あぁ、解ってるさ」

 

笑顔で返し、踵を返す『老仙』。

 

その姿を微笑んで見送り、携帯を開いて、

 

「ん~、時間までまだちぃとばかし余裕あるな。出店で何か食ってくか」

 

呟いて正面玄関の出店エリアへと歩き出して、

 

「……んを?」

 

盗品を回収している風紀委員(全員女子)の中に一人、見覚えのある生徒がいた。

 

何処か挙動不審なまま、何かを探すように首を左右に動かしている。

 

藍里であった。

 

「大方、あの犬の被害にあったってとこか。まぁ盗まれた品が品だしな、同じ女でもあんまし見られたくはないわな。……ん?」

 

彼女は徐々にこちらへと近付き、やがて後十メートルを切ったくらいで、

 

「あ、あった!!……あ」

 

こちらの存在に気付くも、既に時は遅し。

 

視線が完全にぶつかり、徐々に赤くなりながら硬直する彼女。

 

その腕を伝っていった視界に映ったのは、

 

 

 

淡い桃色の、レースやフリルが多量に施された、女性用の下着であった。

 

 

 

「あ~、え~っと、その、なんだ」

 

「ふわ、わ、わ」

 

「……あんまし恥ずかしがるほどじゃないと思うぜ、それ」

 

「―――――ふきゅう」

 

「ってちょっ、おい気絶すんなって!!」

 

 

「な~る。ず~っと憧れてた人と、今日初めて一緒に演奏する事になって、色々と舞い上がってた、と」

 

「うぅぅ……この事は内緒にして下さい」

 

取り敢えず運び込んだ保健室で目を覚ますと、藍里は捲し立てるように全てを吐き出し、今は完全に完熟トマト状態となっていた。

 

「で、その人に昼飯買って来る、っつって出て来たんだろ?連絡しなくていいのか?」

 

「あ、そ、そうでした!!えと、私の携帯は、」

 

「ん、これ」

 

ジョージが差し出すと物凄い速度で奪い取り、コールを掛ける。

 

やがで十数秒の沈黙の後、

 

「…………駄目です、繋がりません」

 

がっくりと項垂れた。ジョージが受け取り耳を当てると『この携帯は電波の届かない所か~』のメッセージが流れていた。

 

「あまりに遅いから、きっと怒って電源切っちゃったんです……当たり前ですよね、勝手に舞い上がって、勝手にドジして、勝手に約束すっぽかしたんですから」

 

ベッドの上で益々暗くなっていく藍里に、ジョージは腕を組むと壁に凭れ掛かり、

 

 

 

「そ~かなぁ?『アイツ』はそんなんじゃないと思うんだけど」

 

 

 

「……へ?」

 

「耳、澄ましてみな」

 

言われるがままに藍里が耳を欹てると、廊下から仄かに誰かの会話が聞こえてきて、

 

 

 

「ここだよ、葛さんが運び込まれたの」

 

「有難う御座います、『村主』さん」

 

「いいさ、これくらい。それより、準備の方はちゃんと出来てる?依頼したのは僕なんだから、ちゃんと出演してくれないと困るよ?」

 

「はい。それじゃあ、後で」

 

 

 

「……この声」

 

「ほらな、やっぱり」

 

「ど、どうして解ったんですか?」

 

 

 

『当たり前だろ?だって俺は―――――』

 

 

 

その言葉に首を傾げる藍里を後に、ジョージは保健室を後にした。

 

 

 

よっ、白夜。

 

 

―――――あれ、ジョージさん。もう来てたんですか。……あ、ひょっとして、ここに居るって事は、

 

 

おぅ、藍里ちゃん運んだの、俺。

 

 

―――――そうだったんですか。有難う御座います。

 

 

なんのなんの。っつかさ、そういう言い方するって事は……白夜、お前ひょっとして、

 

 

―――――あ、えっと…………

 

 

ぶはは、やっぱりな。……さ~て、馬に蹴られる前に退散しますか。

 

 

―――――あ、あの、ジョージさん!!

 

 

ん?

 

 

―――――聴きに来て下さいね、私達の演奏。

 

 

……あったり前田の慶次さん、ってな。なんたって俺は、

 

 

 

 

 

 

 

―――――俺は、お前等の生みの親なんだからさ。

 

 

 

 

(終)

 

後書きです、ハイ。

 

書き終えて一言。

 

 

『これってリレー小説として大丈夫か!?wwww』

 

 

今朝から頭痛いしメシは殆ど食ってないしで、よく執筆出来たなと思います。

 

いやぁ、俺頑張った!!

 

後半は何と言うか、敢えてこういう書き方にしました。

 

二人の結末は、皆さんの妄想でそれぞれ保管して頂けたらなぁ、と。

 

 

で、

 

 

作中の俺ですが、物凄い事になってますねwwww

 

ちなみに『貂蝉とやり合って生還』の下りは、ラウンジの人なら解るかなぁ、と思いますwwww

 

鍛えてるのは事実ですが、タバコは吸いません。

 

服装は普段の俺と同じですが、サングラスは掛けてません。

 

……ただ、最近ちょっと本格的なのが欲しいなぁ、とか思っております。

 

 

 

 

さて、あまり長々と語るのもあれなので、ここまでにしておきます。

 

『盲目』『蒼穹』共に鋭意執筆中ですので、今度はそちらの更新でお会いしましょう!!

 

でわでわノシ

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・おっと、次のページも忘れずにね。

 

 

学園内、屋上。

 

 

天へと昇ってゆく一筋の淡い光の群れ。

 

 

しかし、誰もそれに気付く事はない。

 

 

当然であろう。

 

 

それは、『普通の人間』には見えないのだから。

 

 

その光の麓、一人の青年が立っていた。

 

 

「やれやれ、こういう日くらい、お前達には出ないで欲しいんだけどなぁ」

 

 

その光を見送るその風貌は、明らかに日本人のそれとは異なっていた。

 

 

「さてと、そろそろ行くか……」

 

 

呟き、屋上を後にした青年。

 

 

名をタンデム=A=創作(つくさ)。

 

 

同じ舞台の違う物語。

 

 

さぁ、その発端が今、開かれる……

 

 

 

 

 

―――――という訳で、続きはタンデムさんです。宜しくお願いします!!

 

 

 

 

 


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