No.182073

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第五十三話

狭乃 狼さん

さーて、刀香譚の五十三話でござるです。

今回は漢中戦です。

桃香たちが漢中に入って見たものは・・・?

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2010-11-02 11:49:50 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10471   閲覧ユーザー数:9012

 「太守さまー!おめでとうございますー!」

 

 「劉翔さまー!お幸せにー!」

 

 大勢の群衆が、街の大通りを進む馬車に向かって、祝福の声を上げる。それに手を振り、笑顔で答える一刀。その横には、花嫁姿の女性の姿。

 

 「これは夢よ……。そう、夢なんだわ……」

 

 「義姉上、そろそろ現実を見ましょう」

 

 「そーなのだ。お義兄ちゃん、とっても幸せそうなのだ」

 

 「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん……ぐすっ」

 

 義妹二人に慰められ、劉備はその涙をぬぐう。

 

 どうしてこんなことになったのだろう。そう、思いながら。

 

 

 半月前。益州は成都を発ち、漢中へと軍を進めた劉備たちは、途上、何の抵抗も受けることなく、虎豹騎に占拠されているはずの漢中に、その足を踏み入れた。

 

 だが、彼女たちを待ち受けていたのは、虎豹騎によって壊滅し、全滅したはずの、漢中の人々の姿だった。

 

 わけがわからず困惑する劉備たち。

 

 その彼女たちの前に、いつの間に来ていたのか、一刀が一人の女性を伴って現れた。そして、その一刀がとんでもないことを宣言した。

 

 「みんな、ご苦労だったね。でも、もう戦いは必要ないよ。晋とは和睦が成立した」

 

 「……どういう、こと?」

 

 「みんなが荊州を発った後、晋からの使者が訪れたんだ。……虎豹騎たちが、突然姿を消したって」

 

 「まさか!?それを信じたのですか、義兄上!」

 

 一刀を、驚愕の顔で問い詰める関羽。

 

 「もちろん。……それに、朱里の調べでも事実と判明したしね」

 

 「……本当、なの、か?」

 

 当然のように疑問を呈する張飛。

 

 「本当だよ、鈴々。そして、和睦の証として、ここにいる彼女からの提案を、受け入れることにした」

 

 「?……その方は?」

 

 「ああ、まずは紹介からだね。……この人の姓は、司馬。名は懿。字は仲達」

 

 『……はい~~~?』

 

 その女性の肩を優しく抱き、一刀はその女性を司馬懿だと。晋の皇帝その人だと紹介した。

 

 「そして彼女からの提案なんだけど。実はね、……その、彼女と俺の、結婚……なんだ」

 

 頬をかきながら、照れた顔で一刀がはっきりと。そのことを口にした。

 

 

 

 そして、話はとんとん拍子に進み、所は洛陽。一刀と司馬懿の婚儀が、そこで執り行われていた。

 

 この間、劉備は一つの疑問を持ち続けていた。

 

 自分以外の誰もが、二人の祝福を、何のためらいもなく、行っていた。自分同様、一刀を心底から愛しているはずの、関羽までもが。

 

 そしてまた、自分自身もが、あれほど愛した一刀の結婚を、祝福しようとしている。

 

 

 判らない。

 

 しかし、納得しないといけない。

 

 けど、納得できない。

 

 判らない。

 

 納得しないと。

 

 いや、納得できない。

 

 

 劉備の思考は、延々と続く苦悶のループに、完全に陥っていた。

 

 

 「ククク……。いつ見てもいいものね。悪夢の中でもがくやつってのは」

 

 その手の中の琴を奏でながら、女は恍惚とした表情で、ぺろりと舌なめずりをする。

 

 「わが月氏琴の能力の一つ。一定の情報を音に乗せ、相手の脳に直接送り込む。こうやって、夢を好きに見せることも可能、ってね。フフフ。アハハハハハハ!!」

 

 その女が立つは、廃墟と化した街の城壁。

 

 そこから女は、眼前の光景を見下ろしていた。そこには、十万を超える蜀軍の兵たちが、虎豹騎を相手に死闘を繰り広げている、血みどろの戦場があった。

 

 「……それにしても、蜀の兵たちもよくやるもんだね。劉備・関羽・張飛の三人が、あたしの悪夢に囚われて眠っているっていうのに、士気の落ちる気配が一向に無いとはね。……しょうがない。効果が少し薄れるけど、適用範囲をひろげ」

 

 と、そこまで言ったときだった。

 

 「!!」

 

 とっさにその場を飛びのく女。そして、

 

 どおおおおん!!

 

 先ほどまで女が立っていた場所が、轟音と土煙を上げて崩れ落ちていく。

 

 

 

 「……おまえが、ここの虎豹騎の親玉か」

 

 「……ふん。味方を放っておいて、一人でお出ましかい。……えぇ?華雄さん?」

 

 崩れた城壁の部分をはさみ、金剛爆斧を構え、いつもの戦装束-巫女服姿の華雄が、女の反対側に立っていた。

 

 「またずいぶんと、マニアックな格好じゃないか。あれかい?それもあいつの趣味かい?」

 

 「まにあっく、という言葉の意味は判らんが、一刀の趣味ではないさ。……これは、亡き我が母上の形見だ」

 

 「……ふん。これだから外史ってのは嫌いなのさ。なんでもありにも程がある」

 

 ぺっ、と。

 

 つばを吐き、しかめっ面でそう吐き捨てる女。

 

 「……外史についての概念は聞いた。お前たちが、造られた生命だともな」

 

 「!!……そうかい。例の管理局のやつだね?貂蝉と同じ名前の、漢女とかほざいている筋肉」

 

 「うりゃあああああ!!」

 

 「チッ!!」

 

 女が台詞を言い終わらないうちに、新たな一撃が、別の方向から飛んできた。

 

 「くそっ!今のがかわされんのかよ!!」

 

 ポニーテールを揺らし、自身の一撃を寸でのところでかわした女を、キッとにらみつけるその少女-馬超。

 

 「……馬超までこっちに来るとはね。兵たちを放っておいて良いのかい?」

 

 「あちらは桔梗が指揮を執っている。何の問題もない」

 

 「そういうこった。この間に、あたしらが指揮官の首を挙げれば、戦はこっちの有利に傾く」

 

 「だからこそ、私たちがこちらに来ることが出来たのだ!さあ、覚悟してもらおうか!」

 

 その場に響く、また別の声。

 

 「……ったく。ぞろぞろと雑魚が群れてきやがって。……鬱陶しいんだよ!このカスどもが!」

 

 その声の主-髪にメッシュを入れた、少しきつめの少女、魏延に対して、そう一喝する女。

 

 「……本性が出始めたようだな。そっちがお前の地なんだろう?……蔡琰」

 

 「やかましいよ、羽虫ごときが!……どこで調べて来たんだか知らないが、あたしの名を知ってたことは素直に褒めてやる!そうさ、このあたしが、晋の五神将が三の席、蔡琰さ!」

 

 「そして、あたしと蒲公英に妙な術をかけた張本人なんだな!?」

 

 「……ああ、そうさ。母親が死んだショックでフ抜けていたお前らは、実に記憶操作がしやすかったよ!」

 

 馬超の問いをあっさりと認め、邪悪な笑みを浮かべる蔡琰。

 

 「なら!母上を殺したのもお前なのか!!」

 

 

 

 「悪いがそれは違うねえ。馬騰、だったっけ?あの女を殺ったのは、呼厨泉のおっさんさ」

 

 「呼厨泉?……何者だ、そいつ」

 

 「晋帝・司馬仲達の護衛役さ。今は都にいるけどね。……奴に会いたけりゃ、このあたしを倒すんだね」

 

 「言われずとも!!」

 

 ヂャキ、と。

 

 銀閃を構えなおし、蔡琰にその矛先を向ける馬超。

 

 「翠、焔耶、気をつけろ。こいつ、見た目とは違って相当の実力者だからな」

 

 「はい、先生!」

 

 「わかってるさ!さいぼーぐだかなんだか知らないけど、こんな得体の知れない奴、あたしの槍で粉砕してやる!!」

 

 蔡琰を取り囲み、気を高め始める三人。

 

 「……いいだろ。琴を奏でてばかりで、退屈になりかけていたところさね。……オラ!遊んでやっから、かかってきな!」

 

 「くっ!なめるなあーーー!!」

 

 「せえーーーーい!!」

 

 「参る!!」

 

 一斉に、蔡琰に飛び掛る華雄たち。

 

 蔡琰はそれを見てにやりと笑み、片手である曲を奏で始めた。戦いのときのために、わざわざ片手で弾けるようにした、ある”必殺”の曲を。

 

 

 そのころ、未だ悪夢の中の劉備は。

 

 

 

 「……ちがう」

 

 「義姉うえ?」

 

 「こんなの、やっぱり違う!絶対に変!!」

 

 突然、劉備がそう叫ぶ。

 

 「義姉上、お気持ちはよくわかります。ですが」

 

 「そうじゃないの!わたしは、私の嫉妬だけで言ってるんじゃないの!よく思い出して、二人とも!漢中についた、その時の事から!!」

 

 「漢中に、着いた……時?……え?……え?」

 

 「……漢中に入るほんのちょっと前!私たちは確かに見たはずだよ?!……崩壊し、蹂躙された、漢中の街のその様子を!!」

 

 劉備のその台詞に、ほんの一瞬、関羽と張飛の脳裏に、ある映像がよぎる。

 

 劉備が言ったままの、映像が。

 

 「い、いま、お義姉ちゃんの言ったとおりの絵が、鈴々の頭に見えたのだ!」

 

 「……お前もか、鈴々。……しかし、これが現実でないのなら、私たちは一体……」

 

 関羽の顔を仰ぎ見る張飛と、その視線を義妹と合わせ、首をかしげる関羽。

 

 「それに、そもそもあの間で、一刀が漢中に来ていたこともおかしいの。……襄陽からは、漢中までどう急いだって、半月以上かかるのに」

 

 「……晋の使者が訪れ、それに対して返答をする時間も含めれば」

 

 「おかしいのだ!どうやったって、日数が合わないのだ!!」

 

 「ならば、これは」

 

 「……幻。もしくは、夢。それも、誰かに見せられている、悪意のこもった」

 

 完全に、自分たちのおかれている状況を悟った劉備たち。

 

 「愛紗!なんか周りが変なのだ!!」

 

 「何?……これは?!」

 

 張飛に言われて、周囲を見渡す劉備と関羽の目に、人や建物、そしてすべての景色が、かすみ始めているのがはっきりと見て取れた。

 

 「何?!何が起こってるの!?」

 

 『……夢ということに、気づかなければ良いものを』

 

 『?!』

 

 すべてが掻き消えた闇の中、劉備たちの耳にに聞こえたその声。

 

 「誰だ!姿を見せろ!」

 

 その声に対し、関羽が力いっぱい叫ぶ。

 

 『フフフ。たとえ夢だと気づいたところで、お前たちは目を覚ますことなど出来はしない。……現にて、あたしの琴を破壊しない限りは』

 

 ハハハハハ。

 

 闇の中にこだまする、その笑い声。それは次第に遠ざかっていき、やがて聞こえなくなる。

 

 「こら待つのだ!鈴々たちをおこしていくのだー!」

 

 「くそっ!……義姉上、どうしましょうか」

 

 「……今は、信じる他ないよ。皆を信じて待つより、ね」

 

 胸の前で手を握り合わせ、祈りをはじめる劉備。関羽と張飛もそれに続き、現の友たちに祈る。

 

 

 そして、その現の戦いは、佳境を迎えていた。

 

 

 

 「はあ、はあ、はあ。……おかしい。身体が、やけに、重い」

 

 「……蒼華、あんたもか?あたしも、身体が、鉛か鉄みたいだ」

 

 華雄と馬超、そして魏延の三人は、もうすでに疲労困憊といった感じで、その呼吸を荒くしていた。

 

 開始からわずか半刻の間に、三人と蔡琰の戦いは、その舞台を互いの軍勢の間に移していた。

 

 「……先生、わたし、一つ気づいたんですが」

 

 「……なんだ、焔耶」

 

 「あいつの奏でている曲、先ほどまでとは違っているような」

 

 「なに?」

 

 魏延の台詞に、改めて蔡琰が奏でるその曲を、注意して聴く華雄。

 

 「……確かに変わっているけど、それがどうしたんだよ、焔耶」

  

 「……待て、翠。……もしかしたら」

 

 「え?」

 

 「もしかしたらこの曲、これのせいで私たちは」

 

 城門の上で蔡琰の琴を聴いていたときは、確かに自分たちの身体は軽かった。だが、

 

 「……戦いが始まってから、少しづつ身体の重さを感じ始めてはいた。だが、それは急激な気の消耗によるものだとばかり、おもっていた。けれど」

 

 「この曲のせいだって言うのかよ!たかだか音楽ぐらいでこんな」

 

 「そうでなければつじつまが合わん。……どうなんだ、蔡琰!」

 

 キッ!

 

 と、華雄が蔡琰をにらみつける。と、

 

 「……ククク。アッハハハハハハ!!……気づくのがすこーしばかり、遅すぎたねえ。そう、まさにその通り。この曲の名は、”喪失”。文字通り、聴いた人間の神経をマヒさせていくのさ。徐々に、徐々に、ね」

 

 大声で笑った後、口元をゆがめさせてそう語る蔡琰。

 

 「卑怯な真似しやがって!!正々堂々と勝負しろってんだ!」

 

 「正々?堂々?そんなののなにが楽しいってのさ。よわっちい相手をじわじわいたぶるから、戦ってのは面白いんだろうが」

 

 「……最低だな、おまえ」

 

 「何とでも言いな。……そら、そろそろ止めといこうかね」

 

 ざり、と。

 

 華雄たちへと一歩、また一歩と、その歩を進める蔡琰。

 

 「……翠、焔耶。お前たち、”あれ”は使えるか?」

 

 自分の左右で、同じように膝をついている馬超と魏延に、華雄が正面を向いたまま問いかける。

 

 「”あれ”、ですか」

 

 「使えないことはないけど、あたしらじゃ一刀と違ってほんの一瞬しか、使えないぞ?」

 

 「私もです」

 

 「……十分だ。焔耶は奴の剣を、翠は琴を、それぞれ狙って弾いてくれ。あとは、私の合図で」

 

 『……解った(はい)』

 

 ぐぐっ、と。

 

 自分たちの武器を杖代わりにして、三人が立ち上がる。

 

 「へえ。まだやる気かい?何をする気か知らないけど、全部無駄だってことを教えてやるよ!」

 

 「……翠、焔耶。……やるぞ!」

 

 『応!!……”合気”!!』

 

 ゴウッ!!!

 

 掛け声とともに、華雄たちを中心にして、激しい気の奔流が巻き起こる。

 

 「な?!なんだいこれ!?」

 

 「くっ……!!身体が、引き裂かれそうだ……だが!……行けっ!翠!焔耶ぁ!!」

 

 『うらああああ!!』

 

 「!!は、速い!?ぐっ!!」

 

 先ほどまでとは比較にならないその速さで、一瞬で蔡琰の懐に飛び込み、馬超は右手の剣を、魏延は左手の琴を、その手から弾き飛ばす。

 

 「いまだ!!おおおおおおおおっっっ!!」

 

 それを見た華雄が、同じくすさまじい速度で、蔡琰に突撃する。

 

 「なっ!?」

 

 「翠!焔耶!併せろ!!」

 

 「おおさ!!」「了解!!」

 

 そしてそこへ、馬超と魏延も同時に襲い掛かる。

 

 「馬鹿な!?今のはまさか、あのおっさんのエヴォリューション!?そんな!あれを人の身で……!!」

 

 『うおおおおおおお!!』

 

 「ふ、防げない?!うそだ!うそだうそだうそだ!あたしが!ドールズNO.3のあたしが!人間なんかに負け、あ、あああああああああああああああ!!」

 

 

 閃光、そして大爆発。

 

 華雄たちの、最後の力を振り絞ったその技、一刀直伝の”合気昇化法”。それによって、限界以上にまで高めた、そのもてる気と力を、ほんの一瞬の狂いもなく、三人同時に蔡琰に叩き付けた。

 

 その威力は、単純な三倍計算では無く、三の三乗。それほどまでに高められた力に、さすがの蔡琰も耐えることは出来ず、爆散し、跡形も無く吹き飛んだ。

 

 

 

 「……あれ?ここは……」

 

 「あ、桔梗なのだ」

 

 「おお!目が覚められたか、桃香さま!愛紗!鈴々!」

 

 そのほぼ同時刻、蜀軍の本陣では、天幕内に寝かされていた劉備と関羽、張飛の三人が、悪夢からの帰還を遂げていた。

 

 「我々が戻ってこれたということは……。桔梗殿、もしや戦は」

 

 「うむ。つい先ほど伝令がきた。敵の指揮官、蔡琰が死んだそうじゃ。蒼華と翠、焔耶によってな。それと、虎豹騎どもはもう、ピクリとも動いておらんそうじゃ」

 

 「そうですか。桔梗さん、すみませんでした。ご迷惑をおかけして」

 

 「なに。礼ならば、蒼華達に言ってやってくだされ。それに」

 

 「それに?」

 

 「……桃香様たちには、これからちゃんと働いてもらいますでな。さて、参るとしますかの」

 

 にや、と。

 

 口元を吊り上げて笑う厳顔。

 

 「……はい!愛紗ちゃん、鈴々ちゃん。行こう!」

 

 『御意(なのだ)!!』

 

 

 漢中での戦いは、こうしてその幕を閉じた。

 

 その後、劉備たちは長安へもその兵を進め、次の目的地である、洛陽奪回の準備も兼ね、しばしの休息をとることにした。

 

 また一つ。

 

 晋の、そして、仲達の牙城の一角を崩した、三国同盟軍。

 

 

 同じ頃。

 

 

 許においても、もう一つの戦いに、決着がつこうとしていた。

 

 

                                 ~続く~


 
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