No.177714

くろのほし 第7話

ミデノの街を離れ、山へと向かうゲイル。
川沿いに森の中を歩きますが、そこには……?

 童話風厨二病的連載小説「くろのほし」、第7話です。
 ……童話の陰もありません!

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2010-10-11 23:53:26 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:726   閲覧ユーザー数:714

「……で。どうしてお前がここにいるんだ? シェリオ」

 

「いや、えーっと……あはは」

 

 光が遮られ薄暗い森の中。川沿いの道でゲイルは問います。

 ミデノの街で別れたはずのシェリオが、まさにそこにいたからです。

 時は数時間前に遡ります。

 

「どうしても行くのか?」

 

 オッサンがゲイルの意志を確認します。

 ゲイル、ヴィオを追いかけるべく街を後にするとオッサンに告げたのでした。

 

「はい。……俺自身も不安です。けど……あいつを追いかけなきゃ、手がかりがないんです」

 

 荷物もまとめきった格好のゲイルに、オッサンは首をすくめます。

 

「……そうか。じゃあ俺からは何も言わねえよ」

 

「感謝しています。オッさんのおかげで、戦闘の足がかりは掴めた気がします」

 

「本っ当に初歩しか教えてないけどな。まあ、また来いや」

 

 オッサンは頭を掻いて言います。

 ゲイルは街に来たときの酔っ払った風体を思い出し、少し笑いました。

 

「……なんだよ、ニヤニヤして」

 

「いや……まさかツケ払いで酔っ払いなおじさんが師になるなんて思わなかったなあって」

 

「言ってくれるじゃねえか……べ、別にお金が無かった訳じゃないんだからね! 財布が無かっただけなんだから!」

 

 このオッサンの気持ち悪さは最後まで変わらなかったなあ、とゲイルはしみじみ思いました。

 

「ゲイル……ばいばい」

 

「ああ、また今度な」

 

 こうしてシェリオに、そしてオッサンに手を振り家を後にしました。

 

 ゲイルはオッサンから「馬鹿正直に追うなら森を突っ切れば良い」と助言されていました。

 どうやらヴィオの去った方角にあるのは、山とそのふもとの村のようです。

 先にあるものを知り、ゲイルの心に心機一転の念が湧きました。

 ……そう、そんなちょっと良い話のような別れ方をした矢先の事でした。

 オッサンはいません。でも、シェリオはいます。そこに、しっかり、ばっちりと。

 

「シェリオ。オッさんはどうしたんだ」

 

「知らない」

 

「家事はお前がやってたんだよな? オッさんどうするんだ」

 

「知らない」

 

「オッサン本当に泣くぞ、これは」

 

「知らない」

 

 あっさりと首を傾げてシェリオは答えます。

 ゲイルは溜め息を吐いて首を緩く横に振りました。

 

「……お前、実の父親に対して本当に厳しいよな」

 

「いえいえ、それほどでも」

 

 シェリオは得意げな顔で仰々しく服をつまみ、お辞儀をしました。

 もう一つ深い溜め息を吐き、ゲイルはオッサンを案じます。

 

「あたしはシェリオ=サンズ。改めてよろしくね」

 

 そう言うとシェリオは取り出した水筒から液体を口にします。

 つられるように水を飲みながら、ゲイルはふと思いました。

 

(……そういえばオッさんの本名って何だったんだろう)

「……で。どうして下着がここにあるんだ? シェリオ」

 

「いや、さすがにあたしのじゃないよ? 落し物……かな」

 

 少し歩いた先に、下着がぽつんと置いてあるのでした。

 落ち着いた装飾で、ほのかな光沢のある黒い下着です。

 

「ゲイル、どうするの?」

 

「……どうするって言われても、なあ」

 

「かぶったりとか……しないの?」

 

「いや……しないしそんな期待の眼差しで見られても困る」

 

「黒は嫌?」

 

「嫌とかじゃなくてさ」

 

「それともあたしのパンツ……あげようか?」

 

「……頼むから話を聞いてくれ」

 

 この娘は一体どうしたことだろうとゲイルは頭を悩ませます。

「ねえ、ゲイルぅ……」

 

 シェリオの紅潮した顔が、にへらぁっと綻んでいます。

 

(……本格的に、変だ)

 

 オッサンの家にいた頃と比べて、明らかに人が違うと感じました。

 家を離れれば変わるものかもしれませんが、それを加味してもおかしいとゲイルは思うのでした。

 

 そんな違和感をよそに、シェリオがゲイルに近付いてきます。

 しっとりと汗ばんだ肌がゲイルに絡みつきます。

 

「おい、シェリオ」

 

「うーん? なあに? ゲイルぅ」

 

 熱い吐息を受けながら、ゲイルはシェリオを揺さぶります。

 

「あー……」

 

 シェリオから力が抜け、くずおれそうになるのをゲイルは受け止めます。

 

「シェリオ!? 大丈夫か、おい!」

 

 返事もせず、シェリオはぐでんぐでんになっていました。

 泉に戻って介抱すると、シェリオはしばらくして目を覚ましました。

 

「うう……ん」

 

「気が付いたか、シェリオ」

 

 シェリオはかぶりを振って頭を押さえ、確かめるように呟きます。

 

「さっき飲んだの、お酒だったみたい……」

 

「……匂いで気付かなかったのか?」

 

「うーん……舞い上がってたのと、緊張してたのと」

 

「舞い上がってたのと……緊張?」

 

 ゲイルは得心できないというようにシェリオに訊ねます。

 

「え、いやー……えっと」

 

 シェリオはあたふたとした様子で手足をぱたぱたさせました。

 それをゲイルは不思議そうな目で見ています。

 

「ま、まあ……行こうよ! 次は山でしょ? いざ、ふもとの村へー!」

 

「……? よくわからないな、シェリオは……もう大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ、不意打ちされただけだから!」

 

 酒から不意打ちもないよなあ……とゲイルは思いましたが、口にはしません。

 

 泉からさらに奥へ行くと、程なくして陽の光が盛んに差し込んできます。

 ゲイルは森を後にして、山へと向かうのでした。


 
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