No.173654

機動戦士ガンダム サイド アナライズ ストーリー第二話ver3.0

星野幸介さん

遅くなりました。第2話ゲルググプロジェクト公開です。
第2話『恐怖!! 機動ガンダム遭遇戦』の予定でしたが執筆しているうちに、後の伏線も含め、書きたいことがいろいろ増えてきて、あまりに長くなりすぎたので予定を変更して分割して掲載となりました。
次回、第3話で 『恐怖!! 機動ガンダム遭遇戦』を掲載したいと思います。
3話まで書いて世界観が大分つかめてきたので面白くなってきたと思います(笑)

2010-09-20 12:36:43 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:796   閲覧ユーザー数:766

 機動戦士ガンダム サイド アナライズ ストーリー

 第二話 ゲルググプロジェクト

 

1.回収分析班非常招集

 

子供の頃見ていたアニメで、神出鬼没な天下の大泥棒を追っている警部が大泥棒の

居場所を知るには大泥棒のガールフレンドをマークしていればいいと叫んでいる場面を

よく見たことがある。

 それに習うかのように、僕たち〈決戦兵器開発部・回収分析班〉は漆黒のステルス塗装が

されたムサイ軽巡洋艦〈ハーミット〉で、つかず離れずシャア少佐の動向をマークして

後追いをしている。

 地球連邦軍の最新型高性能モビルスーツ〈ガンダム〉と、我がジオン軍のエース、

シャア少佐の衝突により産まれるデータは、回収分析班の究極の目的である〈主力モビル

スーツザク後継機の開発〉を達成する為には喉から手が出るほど貴重な宝物だからだ。

 サイド7の回収作業終了後、“シャア少佐、連邦軍の新型モビルスーツと交戦。

 コードネーム〈木馬〉追跡開始 ”の報を耳にするなりソーテルヌ少将は〈ソロモン〉と

呼ばれるジオン公国の最前線宇宙要塞の巨影が浮かぶ宙域へ、各地に点在する総勢三百名の

回収分析班を非常招集した。

 ハーミット一番艦から五番艦までが一斉に勢揃いしたその光景は、ちょっとした

勇ましい艦隊の(よそお)いだ。

 けれど副官の僕、イチロー・ナガイ中佐の見たところ、仮に五隻まとめて木馬に

ぶつかったとしても、ソーテルヌ少将の指揮がなければあっという間に全滅するだろうと

予想する。

逃げ足の速いことぐらいしか能がない船に、開発分析専門の人員が過半数を占める

戦闘素人集団が搭乗しているだけの部隊が今日まで生き残れたのは、モビルスーツ開発と

戦闘の天才ハルカ・ソーテルヌ少将のおかげだ。

「戦いこそ至高」の猛将ドズル中将の元で「戦ったら負け」の弱小部隊が重宝されるという

異常事態を際どいバランスで乗り切っているのがソーテルヌ少将の非凡さだと思う。

 

 

 非常招集した五隻のハーミットに向かって、ソーテルヌ少将は艦橋に設置された

巨大モニター越しに回収分析班全員に今後の方針を指示する。

「シャアは鼻が効くから、後をつけていれば必ずガンダムに出くわすわ。それに巻き込まれ

ないよう、私たちはすんごい遠~~くからその様子を生暖かく見守るの。でコトが済んだら

現場に直行!! ペンペン草も生えないくらいデータ採取したら全速力で退散するのよ!! 

開発部門は今までどおり私たちが送るデータを元に一刻も早くザク後継機の開発をして

ちょうだい。いい?!」

「まさしくハイ……」

「ハイエナ部隊とかハゲタカ部隊とかぬかした奴はあとで呼び出して、ボコ殴りにするから

そのつもりで(*^o^*)」

一部の口軽なおっちょこちょい達がソーテルヌ少将にギロリと睨みつけられ、急いで口を

ふさぐ。

 ごほん、と咳をしてモニター画面を切り替えながら分析班メンバーの一人一人を優しく

見つめながらスピーチを続ける。

「というわけでこれから戦況はますます厳しくなってきて何が起こるか判らないけど、

とりあえず半年でいい。各自持ち場で全力を尽くしてなんとか生き延びてちょうだい。

 生きていれば道が開けてくることもあるから。それで半年経ったらこの顔ぶれで

また会いましょう!! みんな判った?!」

 

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

 

 五隻のハーミットのメンバー全員が一斉にソーテルヌ少将に敬礼をする。

 ブルネット(黒みがかった茶色の髪の毛)のロングに、丸メガネの愛嬌がある顔に

満面の笑みを浮かべ、ソーテルヌ少将も全員に向かって敬礼する。

「それじゃあ、よく理解できた者から順次解散!!」

 ソーテルヌ少将が搭乗する旗艦ハーミット一番艦を除いた四隻が一斉に持ち場へと

帰投する。

 

 

「ふふっ。おふざけの過ぎるところもありましたが、あなたらしい他の部隊では聴けない

スピーチでしたな。ですが、あなたはジオンの上級軍人にしては優しすぎる。わしらの

ドズル閣下もそうだが善人はあまり長生きできない。今のご時勢は特にな。老いも若きも

無差別だ。それが少々心配だ……」

 ソーテルヌ少将と僕が赴任する前まで回収分析班の総指揮をしていたベテランの老軍人、

フルカワ少佐が目をつむり感想を述べた。

「そうね、ホントにそう……。善人は長生きできない。でも安心してフルカワ少佐。私は

あなたが心配してくれるほど善人じゃない。善人じゃないから今生きてる。少将なんか

やってる。善人じゃないからせめて罪滅ぼしにザク後継機の開発に血道を上げてる……」

 微笑んではいるが、さっきの表情とは違い、滅多に見せない暗く悲しい影が浮かんでいる。

「ソーテルヌ少将、あなたの戦績は地球連邦から見れば確かに極悪人かもしれないが、

ジオンから見れば僕が知る限りあなたが関わった戦いでは一人の犠牲者も出していないはずだ。

連邦軍の軍人たちに罪を感じて自分を善人じゃないと言ってるんですか?」

「ちがうのナガイ。連邦軍の軍人たちからみれば確かに私は極悪人だけど、ジオンの人間に

対しても私は罪を犯してる。善人じゃないの」

「ジオンの人間にも……?! どんな 作戦(ミッション)でそんな罪を?!」

「いつか話すわ……」

 ソーテルヌ少将をじっと見つめる。

「わかりました。これ以上の詮索はいたしません。それでは我々一番艦の部下達も少将の

指示を待っていますので次のご命令を」

 少し落ちこんでいたようだったけど、僕の呼びかけで気持ちの切替ができたのか、

少将はニッと笑った。

 

 

「はいはい、わかりました、指示を出しますよ! え――っと、じゃあ次の目的地は

ルナツー・地球方面に進路をとって。最大戦速で!」

「ルナツー・地球方面?! 早速シャア少佐の後追いですか? シャア少佐から各部隊への

報告では木馬はルナツーで補給後、地球に進路をとる模様とのことですが」

「木馬の奴、地球の総司令部ジャブローになんとしてもガンダムをもち帰りたい

みたいね」                       

「地球降下となると当然大気圏突入が問題になります。常識的に考えて木馬は大気圏突入

エリアから離れた艦艇待機区域にて停船後、内蔵されているはずの大気圏突入カプセルに

ガンダムを搭載、射出して連邦軍の別働隊が地上でカプセル回収後ジャブローに

向かう……というミツションになるはずですが」

「それにしてもナガイ、素朴な疑問なんだけど大気圏突入カプセルのような大物を木馬と

あだ名されるほど馬そっくりの船に積むことができるのかな?! 前足部分はモビルスーツや

予備パーツの収納でいっぱいだと思うんだけど」

「地球の強大な引力に加えて大気との衝撃と摩擦熱。ガンダムにしろ木馬にしろ、

絶対に大気圏を突破できるはずがありません。

艦内に内蔵しているはずの超小型大気圏突入カプセルを使う気だと思います」

「まあ普通そうするよね。大気圏なんかザクやムサイだって耐えられないもん。

うーん、大気圏突入か――。やだな――。怖いな――。でもシャアの馬鹿、

そういうヤバイ時に限って何かやらかしそうだしなぁ――」

「ただでも危険な大気圏なのに、彼の巻き添えをくらって我々が無駄死にするのだけは

ごめんです」

「そだね。じゃあ私たちはとりあえずルナツー方面のモビルスーツ開発基地に寄って進行

状況の視察をしてから(なま)ガンダムをチラっと遠くから拝ませてもらって、

ほとぼりが冷めた頃合いに地球へ降下するってことでどうかな?」

「結構です。ではポイント XXX―0―L12に向かいます。ミラン・アギ操舵長、

ポイント XXX―0―L12に進路を取れ」

「了解。ミラン・アギ操舵長ポイント XXX―0―L12に進路を取ります!」

 こうして回収分析班はソロモンから全速でルナツーのポイント XXX―0―L12に

向かった。

 

 

2.ゲルググプロジェクト

 

 ルナツー。

 そこは月の周辺にある小惑星帯の名称で、鉄やチタンを初め、様々な鉱石を含んだ隕石や

小惑星が浮かんでいる。

 ルナツーで採掘される鉱石は地球連邦軍がそのほとんどを独占的に掌握しており、地球

連邦軍の宇宙における最前線基地もここにある。しかしルナツーは、あまりに広い範囲に

存在しており、たとえ強力な地球連邦軍といえど全部を完全に掌握することはできなかった。

 そのためいくつかの大型の小惑星はジオン軍が占拠していた。

 地球で鉱山を占領し、遠路はるばる月の裏側のジオン公国に大量の鉱物資源を長年に

わたり送り続けているマ・クベ大佐の輸送船団とルナツーの鉱石資源はジオン軍の命綱だ。

 激しい小競り合いはあるものの、大きな戦闘がここで起きないのはどちらの陣営にとっても

ここが生命線だからである。

 その意味では下手な協定で定められた中立区域より、大気圏前に定められた、戦闘を

できるだけ控える艦艇待機区域やルナツーなどの〈暗黙の了解区域〉の方がよっぽど

安全な中立地帯といえるかもしれない。

 そのルナツーのポイント XXX―0―L12にはジオンのモビルスーツ開発基地が

建造された巨大な小惑星が浮かんでいる。その開発基地のドッグにハーミット一番艦は

入港した。

 

 

 ドッグにはムサイの他に、ソーテルヌ少将の伯父のコンスコン少将が搭乗している事で

有名な重巡洋艦チベや、あの木馬や連邦軍主力戦艦マゼランと互角に戦えると

噂される期待の最新型高速戦艦ザンジバルまで停留されていた。

 そんな中に見慣れない民間の大型輸送船がぽつぽつと入り混じっている。このような状況は

地球・ジオン両陣営によく見られる。

 地球の生物が移住する巨大スペースコロニーの早期建造のために、量産された巨大人型作業

ロボットがモビルスーツ ザクの始まりだけど、その開発には国のバックアップを受けた

民間の重機製造会社を初め、多数の中小企業が加わり協力することで、やっと今のような

宇宙世紀と呼ばれる新しい時代を迎えることができたのだ。

 そのため、開発に携わった企業の人間達には自然に地球やジオン、宇宙の垣根さえも関係が

なくなってしまった。

 もちろん軍事機密の黙秘は前提の上だが、条件さえ合えば連邦軍だろうがジオン軍だろうが

平気で彼らは仕事をする。

 そこには善意も悪意もない。

 あるのは企業として、あるいは技術屋としての新しい未知なる物に対する探求心と利益追求の

経済理念だけだ。

 最近では〈ニュータイプ理論〉とかいう、宇宙生活を続けるうちに独自の広い発想・感覚を

持った世代が登場しつつあるという風潮が流れているけど、そんな世代より、この技術屋企業の

連中たちの方がよほど不気味で、真の〈ニュータイプ〉なのではないかと思うことがある。

 

 

 ジオンで製造されるモビルスーツは基本的にジオニック社と呼ばれるジオン公国の支援を

うけた軍事企業が取り仕切っているが、今回は、より高性能なモビルスーツを開発するために

決戦兵器開発部・回収分析班指導の元に、他の企業にも自信作を作らせコンペティション(競争)

で勝ち抜いた機体を量産、実戦配備する取り決めになっている。

 回収分析班が収集してきたガンダムのデータや残留物、シャア少佐との対戦データは

早速各企業に公開されてみんな大喜びだ。

 特にガンダムのパイロットのうかつさときたら、我々から見れば本当に表彰状もので

主力兵器のビームライフル、ビームサーベルを初め、シールドなど使えなくなればポイポイ

捨てたり、色々破片をまき散らしてくれるので回収してくれば記載された部品番号やら整備

指示刻印などから、連邦軍で白いモビルスーツの名称がガンダムと呼ばれていることが

すぐ判明してジオン軍全域に知れ渡ったのはアッという間だった。

 むしろ、あの木馬の方が名称もわからず、潜入偵察も失敗してデータ不足な位だ。

 そういった研究の成果により、今、僕とソーテルヌ少将の眼の前にしている工場では全長が

六十メートルの巨大モビルアーマー〈ビグザム〉を筆頭に、ザクだけでは力不足だと

地球占領用の陸戦用モビルスーツ〈グフ〉、〈ドム〉を初め、水中用モビルスーツ〈ゴック〉、

〈ズゴック〉など強力なモビルスーツが続々と開発製造されている。

 ここにある機体はいずれもギレン大将やキシリア少将の戦略的思惑がからんで完成した

シロモノだ。

 次々とモビルスーツが開発されていくその様は、傍目には一見威勢のいい光景に見えるが、

それを黙って見ているしかないソーテルヌ少将は実のところニガ虫を噛みつぶしている。

 

 

 以前、ソーテルヌ少将はドズル中将にこう進言したことがある。

「ギレン閣下やキシリア閣下が連邦軍を直接叩くことができる地球進行に軍事予算を向ける

のはわかります。ですが今はそれにかまけている場合ではありません。

 確かに今の連邦軍にはガンダム以外、戦車もどきや砲撃戦用モビルスーツとセイバー

フイッシュぐらいしかなく、ザクは性能的にも生産数からも宇宙空間では圧倒的に優位

です。ですが、あのガンダムというモビルスーツはあくまで一台のみの〈試作〉で

ただの前座でしかありません。いずれあの高性能を受け継ぎながら格安な廉価版の機体が、

地球連邦の強大な国力をバックにして大量に戦場に投入されるでしょう。その時に迎え撃つ

我々がザクでは歯がたちません。ギレン閣下やキシリア閣下とは別ルートで

 ガンダムと互角以上に戦えるザクを超える主力量産機開発の決断をお願いします」

と。

 それを受けたドズル中将はうむ――っと(うな)ってこう答えた。

「今、木馬の部隊とガンダムはシャアとの闘いで短期間に力をつけて前線の兵士

からは〈白い悪魔〉と恐れられているそうな。ソーテルヌよ、おまえは役目上戦えないが、

もしおまえが俺の立場ならガンダムどう潰す?」

「そうですね、私ならガンダムの後方に事前に宇宙機雷群を配置。ガンダム一機に

対し、バズーカを装備した八十機のザクを用意し、二十機ずつ集中的に順にぶつけます。

そのあと移動用プロペラント〈燃料〉とビームエネルギーが消耗したガンダムに対し、

バズーカとヒート・ホークで武装させたシャア少佐のザクでとどめを刺します」

「えらく高くつく戦いだな、ザクはそんなに回せんぞ」

「経費に見合う戦果になれば良いと考えます。後に危険となりそうな敵は早めに数で

潰します」

「ははは!! さすがいい答えだ。俺でもそうする。ソーテルヌ、やはり戦争は数だよな」

 フランケンシュタインの怪物に似た笑顔で高笑いするドズル中将。

「はい」

「わかった。新型主力機の件、公王には俺とガルマで進言してみよう」

「ありがとうございます」

 

 こんないきさつがあり、公王直々に予算が承認されてザク後継機の開発が各地で

行われている。

 最初は渋っていたギレン閣下やキシリア閣下も悪名の高まりつつあるガンダムの

存在は知らないわけではないので、後の保険のつもりで成り行きを黙認した。

 

 

 実戦配備を待つ、一連のモビルスーツを見終わったあと、地下工場へ向かうエレベーターに

乗り込む僕とソーテルヌ少将。

 停泊中に補給作業を進めているハーミットで休憩待機のはずのミラン・アギ操舵長が、

「待って下さい、私もお供します!」

 と、扉が閉じかけたエレベーターにハァハァ息を切らせながら駆け込んできた。

 ミラン・アギ少尉はウェーブのかかった青いロングヘアーが印象的な童顔の女性で、我が

ハーミット一番艦の操舵長を務める。

 弱冠十九歳の女性が操舵長というのはジオン軍全体で見ても珍しい。

 艦船操縦に関しては優秀な人材として知られていたが、なにぶん若い女性ということで

前線の部隊では年配の男性操舵長の補佐としてたらい回しにされていたところをズバ抜けた

才能に惚れ込んだソーテルヌ少将にスカウトされた。

「いいよ、早く乗んな」

「あぁっ、イチロー中佐ありがとうございます!」

 開ボタンを押し続けてミラン・アギ操舵長が乗り込んだのを確認してからエレベーターを

作動させる。

 プレート型携帯端末に表示された、各試験用モビルスーツのデータを見ながら僕はソーテルヌ

少将に問いかけてみた。

「今地球に先行投入して猛威を振るっている陸戦用モビルスーツのドムなかなかいけて

ますよ。これにバーニア(燃料噴射推進器)とかで宇宙仕様にしたリックドムで決まり

ですかね」

「多分駄目でしょうね。基本的に宇宙戦用のモビルスーツは推進用プロペラント(燃料)の

積載量と姿勢制御スラスター(推進器)の配置位置や数が勝負なのよ」

「そんなもんですか?」

「そんなもんよ。連邦軍が出してる広報アニメのオモチャやプラモとかじゃガンダムなんて、

弱点はここですよ、爆弾でも仕掛けて下さいよって感じでメンテナンスハッチだらけだけど(笑)、

実物はその位置にはリトラクタブル(開閉)式の隠しバーニアだらけでしょ?」

「確かに……(笑)みんなあの機体の動きの良さには 翻弄(ほんろう)されてますね」

「だから地上で好成績を出せたからといってドムを後付装備で、宇宙戦用に仕立て直しても、

最初から空間戦闘を前提に考えて作られたガンダムのようなモビルスーツ相手には

あまり優勢は保てないのよ」

「でも宇宙機動重視のモビルスーツを追求していくとザクより操縦が難しくなって

きませんか?」

「そうなの。だから老若男女に関わらず、ジオン軍人みんなが慣れ親しんできたザクを

参考に一から新開発して、連邦軍の主力モビルスーツと戦える機体を作らないと駄目なのよ」

「口で言うのは簡単ですが大変ですよ。誰でも簡単に乗れる安くてタフな高性能汎用量産機

ってのは」

「大変でもやるのよっ!!」

「現場はザクでいいから早くもっと寄こせ!! の一点張りですしね」

「たく、人の気持ちも知らないで…… ザクより格段に強いはずだから

なめてると瞬殺されるわよ。数も多いだろうし。ザクでは無理なのよザクでは!」

「あの……、ちょっといいですか?」

「何?」

「これから行く地下工場で私の姪が待っているんですけど、彼女なら中佐や少将のお力になれる

かもしれませんよ」

 今まで僕とソーテルヌ少将の会話を黙って聞いていたミラン・アギ操舵長が会話に入ってきた。

 

 

「あなたの姪?、何が出来るの?」

「モビルスーツ開発メカニックを志望しているんです。あの娘」

「どのくらいやれる?」

「とにかく機械工学に関しては優秀なんですよ。モビルスーツの設計だけならソーテルヌ少将

より上かもしれません」

「へぇー、私より上ね……」

 怪しい笑みを浮かべるソーテルヌ少将。

「だって彼女、予算と工期さえあればガンダムだって引いてみせる(設計図面を)って

いつも言ってますから」

「そいつは頼もしいわね。ぜひお会いしてスカウトしなきゃ」

「でも彼女おとなしくて人見知りが激しいから注意して扱わないと……」

「心配しない心配しない、お姉さんがやさ~~しくかわいがってあげるから♪」

(この人、本当に少将?! ていうか、ただのレズとちゃう?!)という僕たちの疑いのまなざしを

ひょいひょいとソーテルヌ少将がかわしていると、丁度チ――ンと到着のブザーが鳴った。

「さーて、着いたわよ。楽しみねぇ、どこにいるのよ」

 キョロキョロ周りを伺う少将。

 巨大な地下工場には、二機の二十メートル級重モビルスーツがそびえ立っており、僕たちは

その足下にいる。

 ザクの面影はあるけれど、どちらも兵士というよりは騎士といった風貌の勇ましい姿を

した異様なモビルスーツだ。

 思わずあっけにとられて見上げていると、作業服を着た連中に混ざって高級な背広を着こんだ

民間人の一団が、青い髪をしたショートカットの小さな女の子を連れてこちらに歩いてきた。

 背広組の中の一人が嬉しそうに声をかけてくる。

 眼鏡をかけた中背の調子のいい若い男だ。なんかおちゃらかでボンクラっぽい。

「やぁやぁ! あなたがあのハルカ・ソーテルヌ少将ですか、いやあ~~、ジオンクロニクルの

写真よりずっとかわいらしくてべっぴんさんだ~~!」

「え~っと、なにが〈あの〉なのかよく判りませんが、私が決戦兵器開発部・回収分析班

総指令のハルカ・ソーテルヌですが」

「はじめまして! わたくし、まだまだ新参者の〈アナハイムグループ〉総帥キルヒ・レィツ

と申します。よろしくっ!」

「はあ、よろしく……」

 目の前のアメリカ野郎は馴れ馴れしくソーテルヌ少将の手をとり、両手で握ると感激して

いるのかブンブン振り回した。

 僕は少将の手にからみついた男の指を一本一本ひっぺがしながら問いかけてみた。

「たしか〈アナハイム〉といえば冷蔵庫とか作ってる有名家電メーカーですよね」

「はぁーい、冷蔵庫から宇宙戦艦まで工業製品ならなんでも造るのがわたしどものポリシー

でぇーす!」

「ジオンだろうが連邦だろうが見境なしにな」

「はぁーい、純粋なフェアスピリット・カンパニーでぇーす!」

「そういうどっちつかずは、世間ではこうもり会社とかブラックゴースト(死の商人)とか

って呼ぶんですよ」

「ハイエナグループにバットカンパニー、ベストパートナーだと思いませんかー?!」

 これまでおちゃらけていた男の眼鏡の奥にのぞく瞳が怪しく光った。

「へぇ、そのハイエナ集団にこうもり野郎たちがなんのご用かしら?」

 ソーテルヌ少将は来客用の笑顔だけど、もちろん眼は怒り狂っている。

「本日は目の前にある、二体のモビルスーツの操縦系についていろいろとお話に伺いました」

「操縦系の?」

「ハイ、現在間に合わせで付けている、古臭くて性能が上がれば上がるほど操縦が難しくなる

コクピット周りをわたしの考案したアイデアで革新的に変えてみせまぁーす!」

「確かにいくら高性能なモビルスーツを作っても、肝心のコクピットがそれを生かせないと

無駄になっちゃうけど……」

「わたしが設計図引きました。ごらんくださーい!」

 横にいる部下から図面を手渡されると、キルヒ・レィツは僕らの目の前で堂々と図面を

広げて見せた。

「おおっ! 死角のない全方位スクリーンにバイオコンピュータのパイロット支援コンソール!! 

連続使用可能なエアバッグ他、安全装備てんこもりか……」

 今まで見たことがない斬新なコクピット設計に思わず唸ってしまった。

「うっ、凄いな、これ全部あんたが考えたの?」

「驚くことはありませーん。いまどきエアバックなんて、電気自動車(エレカ)にだって

付いてるし、球体型全方位モニターなんてコンピューターゲームでも常識なのに、安く作れ

安く作れの一点張り。全くお偉いさんの頭はイカれてまーす」

「確かに高くつきそうだし開発に時間がかかりそうだけど、今まで誰もこんな発想で

コクピットを作ろうなんて思わなかったわ。だって元々が土木作業用機械だったから」

「残念ながら新参者で今回は操縦系程度しか関わることはできませんでしたが、いずれ、

あらゆるモビルスーツはアナハイムの元で誕生させまーす!! 我々がシェア独占してみせ

まーす!!」

「あんた、キャラと頭の中身が反比例してるわよ」

「そんなこと言われたのあなたが初めてでーす!」

 

 

 アナハイムの総帥キルヒ・レィツに少将と僕がからまれている横で、

ミラン・アギ操舵長が姪を見つけて呼びかける。

「あっ、チェーン! チェーンね、久しぶりっ!」

 無表情に黙って僕たちのやりとりを見ていた青い髪の小さな少女は、

「ミランお姉ちゃん……」

 と答えると、ミラン・アギ操舵長の足下にトテトテと駆けてきた。

「元気にしてた!?」

「うん。アナハイムのモビルスーツ、面白くて退屈しない……」

 チェーンと呼ばれた少女は嬉しそうな笑顔で操舵長に頭を撫でられている。

「えっ……? まさか、このおチビちゃんがモビルスーツの設計が私より優秀とかいう

すごい姪?!」

「はい、この子です」

「この子って……、七歳くらいにしか見えないけど」

「七歳ですよ」

「なっ、七歳の女の子にアドバイス受けろってか!?」

「う~ん、少将には失礼なんですけど、でもホントにすごいんですよ。試しに何かチェーンに

質問してみて下さい」

 キルヒ・レィツが横で、撫でられ終わって元の無表情な顔に戻った女の子を見てニヤニヤ

している。

「チェーン・アギちゃんね……、よし、じゃあチェーンちゃん、ちょっと質問するけど

いいかナ~~!?」

「いい……」

「モビルスーツってこれから十年くらい後にはどんな風に変わってると思う?」

 未来予想させて、そのハズレっぷりでこの子の〈程度〉を見ますか。大人げない……

「人型のモビルスーツは突き詰めれば武装・推進用燃料タンク・姿勢制御スラスターの集合体。

これからの主流になる人型を廃したモビルアーマーの形にどんどん近づき、やがて変形して

状況に対応させようとする技術の流行が生まれる。でも、どんな工業製品にも必ずおきる

原点回帰の見直しにより、モビルアーマーの形に近づかなくてもそれ以上の性能を人型の

モビルスーツに持たせればいいという新たな技術の流行がまた発生し始める。そのスパンが

十年から二十年後……」

「えぇ……っ?!」

 思わず僕はソーテルヌ少将と顔を見合わせてしまった。

 なんなんだこの娘?!

 

 

「くっくっく、将来性を見込まれてアナハイム・エレクトロニクス、メカニック養成学校の

特別コースでお勉強中のお嬢さんですよ、なめてもらっては困りまーす」

「なるほど……、ホントにおチビちゃんの実力は折り紙付きって訳か」

 チェーンの眼と手のひらをジッと見つめるソーテルヌ少将。

 ソーテルヌ少将の眼を無言で見つめるチェーン。

 しばらくお互いの眼と顔を見つめていた二人だったが、先に口を開いたのはソーテルヌ少将

だった。

「わかった。ミラン・アギ操舵長、この子の力借りるわ。キルヒ総帥、本日より一年間、決戦

兵器開発部・回収分析班総司令権限においてハルカ・ソーテルヌがチェーン・アギの身元を

預かります!」

「何をいきなり……?!」

「私付きの〈実地研修〉です。この子の素質も才能も素晴らしいのは判りました。ですが、

モビルスーツの開発メカニックは、ただ図面を引いたり、座学を極めるだけでできるほど

甘くない。外の世界を広く見て回り、自分の手を汚し傷だらけになって実戦の整備をこなし、

機体がどんな風に運用されるのか見て回ったり、機体をテスト操縦したりしなきゃ、いい

メカニックになんてなれやしない!」

「アナハイムの養成学校でも三年後には実地研修しまーすよ?」

「早い内から身につけておいた方がいい経験もあるんです」

「う――ん、神童に変な色がついてしまう――」

「チェーンちゃん、私といっしょに来なさい。あなたの才能はこれから先、きっと私の力に

なってくれると思う。でもね、手も腕も荒れてないし絶対的な経験不足はごまかせない。

だから私について実地研修しなさい。そうすれば必ず一人前のメカニックにしてあげる。

あなたならすぐに私なんか超えられるわ」

 少将はチェーンの頭を撫でながら優しく微笑んだ。

「うん……、わかった。そうする……」

 はにかみながらチェーンは小さくうなづくとミラン・アギ操舵長の顔を見上げ、

「わたし、この人と勉強したい。ミランお姉ちゃん行っていい?」

 と聞いた。

「ええ、いいわよ。お姉ちゃんからもあなたにお願いしようと思ってたの。ソーテルヌ少将の

力になってあげて」

「うん……」

「よしっ、決まりね、それじゃあキルヒ総帥、あとの手続きよろしくお願いします」

 

 

「仕方がない、わかりました。ミランさんから頼まれて養成学校から連れてきましたが我々も

チェーンお嬢さんばかりにかまっていられません。今日の我々の目的はソーテルヌ少将に

〈ゲルググ〉と〈ギャン〉について直にコメントを頂くことでーす」

「そうですね少将、新型ザク後継機、あちこちのメーカーに参入させてやっとどうにか形に

できました。これからこの二機をコンペで競わせながら叩き上げていきますが、現時点での

ご感想は?」

 ためしに聞いてみた。

「あのさナガイ、このブタ鼻のついたインディアンみたいなヤツといい、チェスの駒みたいな

ヤツといい、なんでこうジオンのモビルスーツっていつも悪人づらかな? 眼だって一つ目だよ?

妖怪じゃあるまいし」

 あまりにあんまりなつっこみ(笑)に、思わず背広姿のジオニック社の重役を初め、関連会社の

人間達が揃って反論を始める。

「メインカメラなんか一つで充分ですよ! ジオンの技術ならモノアイで立体視から超望遠まで

全部やってのけます。おまけにレール移動式カメラだから連邦軍のモビルスーツより死角が

少なく低コスト!! その素晴らしさがあなた方お偉いさんには判らんのですよ」

「そうそう、この勇ましいデザインセンス判って下さいよ」

 ちなみにザクに少し似ているインディアンみたいなヤツの名前は〈ゲルググ〉。

 回収分析班の仕事の集大成といえるものでガンダムからの回収、分析データを元に徹底

研究して作られた重モビルスーツ。 あの強力なビームライフルと、ほぼ同程度の威力のビーム

兵器を持たせたジオン軍初のモビルスーツだ。 スラスターのパワー、装甲、機動性、センサー

探知能力など、あらゆる面でガンダムを一段上回る優れもので後継機コンペの本命だ。

 もっとも、まだ量産性に難がある点と、高性能な分だけメンテや調節に時間がかかる点、

操縦がやはり今のままだとザクより際だって難しく、ベテランじゃないとその高性能に

パイロットが振り回されてしまう点など目の前の試作機では詰めがまだまだ甘い。それでも

量産性に関してはようやく目処はつけることができた。

 ザクのマシンガンも効かないあのガンダムのチタン合金の装甲強度に関しては、ジオンが

いつもモビルスーツに使っている超硬質スチール合金の改良で同性能の物がつい最近開発できた

のはありがたい。

 水中用モビルスーツの爪(アイアンネイル)造りの試行錯誤が役にたった。なんと言っても

鉄の合金は安いのがうれしい。これで量産にも弾みがつく。

 もう一機のチェスの駒みたいな顔をした西洋鎧の騎士の様なカッコをした

ヤツの名は〈ギャン〉。

 こちらもゲルググに基本性能は弱冠劣るものの、ガンダムとほぼ互角の実力を持つ

重モビルスーツだ。

 ビーム兵器が主な武器のゲルググに対して、こちらのギャンはミサイル兵器

が主な武器だ。

 コクピット周りにアナハイムが少し手を入れた機体で、高性能の割に操縦し易く、広範囲

ばらまき型のミサイルをシールドに仕込んであることから、防御イコール攻撃が可能で

初心者にも優しいモビルスーツだ。

 ちなみにこの試作機はキシリア閣下の(めい)によりコンペが終了次第、再調整して

マ・クベ大佐にお渡しすることが決まっている。

 

 

「お集まりのみなさん方、冗談はさておき、これからするお話をよく肝に銘じておいて下さい」

 こほんと咳をして、ソーテルヌ少将は背広勢、作業服勢の前に改めて向き直った。

「じょ、冗談でしたか……、あははは……」

 背広勢が苦笑いする。

「さて、お集まりのみなさん方が今まで丹精込めてここまで造り上げてきた二機のモビルスーツ

ですが、おかげさまでどちらも基本性能は〈ガンダム〉に限りなく迫り、量産も可能なようです。

しかし――」

「…………」

 固唾を飲んでソーテルヌ少将の次の言葉を待つ企業の人間達。

「しかし、残念ながら今のままでは二機とも採用したいと思いません」

 どよめく背広勢。

「今まで何度もみなさんに言ってきたように、私が目指すのはガンダムクラスの強力なビーム

兵器を主体にした、誰が乗っても操縦がし易い、パイロットの安全を考えたタフな機体です。

パイロットが無事帰ってきて、次回からその経験が生かせるといった…… その点で、ここに

あるゲルググとギャンはそれぞれ不合格です。今日皆さんは帰ったら、大急ぎで機体の

再検討をして、生まれ変わったような素晴らしいモビルスーツを一日も早く私の前に見せて

下さい。以上!」

 唖然とする一団。

 短くてやたら手厳しいスピーチをしたソーテルヌ少将は、

「帰るわよ、視察終わり!」

 と言い放って、もと来たエレベーターに向かってすたすた歩く。慌てて後を追う。

 くすくす笑うチェーン。

 

 帰りのエレベーターの中は静かだった。

「バッサリ切り捨てましたね。でも少将は、理想を追い過ぎかもしれませんよ。多少妥協

しないと試作機の完成に遅れが出ます」

「これは妥協が許されない理想よ」

 反論を許さない厳しい目で僕を睨みつけるソーテルヌ少将。

「ええ、判ってます、妥協なんてしませんよ。お偉いさんが言いそうな事を先回りして

言ってみただけです」

「ここで私たちが引き下がれば、必ず若い新兵や老兵にシワ寄せがいく。それは過去の

戦争で証明済みだ!」

 ふと、チェーンを見てみた。

 ピリピリとした会話の中、ミラン・アギ操舵長と手をつないで無言で僕たちを見つめている。

 何を想っているのだろうか。

 大人には、少しでも良い世界を後に続く子供達に見せてやる責任があるというのに、

なんともひどい世界で済まないと思う。

 エレベーターから降りた僕たちは、補給が済んだハーミットに乗り込み、開発基地から

出港させた。

 ザク後継機開発の前途多難さを改めて再確認させられた回収分析班だったが、

チェーンという、未来を見つめる小さな収穫があったのはせめてもの救いだった。

 

 

 

第三話予告

 ザクの後継機開発計画〈ゲルググ・プロジェクト〉で揺れる

ソーテルヌ少将ひきいる回収分析班の前に戦闘を積み重ね、

連邦の白い悪魔と恐れられるまでに成長した

モビルスーツ〈ガンダム〉が立ち塞がる!!

〈戦わない部隊〉回収分析班は生き延びることができるか?!

次回、「恐怖!! 機動ガンダム遭遇戦」 

きみは回収の果てに何を見るか?!

 


 
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