No.160713

一刀と鈴々と音々音のさまーでいず

藤林 雅さん

どうも皆様方、お久しぶりにございます。
真・恋姫†無双無双~萌将伝~発売あめでとうございます。
そして、TINAMI様で開催される恋姫†夏祭りに僭越ながら、参加させて頂きます。
テーマは夏と10,000文字という制約の中で苦戦しましたが、何とか形になりました。読んで下さった皆さんが少しでも楽しんで頂けるなら幸いです。 裏タイトルは『妹遊戯』。

2010-07-25 22:28:20 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8421   閲覧ユーザー数:6898

 動乱の争いは終わりを告げ、魏、呉、蜀の三国による統治により世の中は、天下太平となった。

 

 だが、平和の立役者となった北郷一刀にまだ安息の日は訪れない。

 

 戦に明け暮れた日々の後に待っていたのは、人々の暮らしを支える大事な仕事が待っていたのである。

 

 そんな訳で、仲良くなった少女達と日々をそれなりに楽しく過ごしているのだが、今日も今日とて慣れない政務にせっせと励む一刀であったが――

 

 執務室にある採光式の窓から差し込む眩しい陽光。

 

 部屋の中に充満する熱気。

 

 机の上にはまだ未採決の竹簡が山となっている。

 

 その竹簡を取る手は汗ばみ、書かれた文字を読んでいる最中に額から流れ落ちる汗。

 

 つまりは――

 

「あちぃ」

 

 と、呟きながら執務机の上にだれる一刀。

 

 今、中原は連日、猛暑日が続く夏真っ盛りを迎えていた――

 

 

 

 タイトル 『一刀と鈴々と音々音のさまーでいず』 

 

 

 

 うだる暑さに参った一刀が、自分の身の回りの世話を焼いてくれるメイドさんこと月に水を持ってきてもらおうと考えていた矢先、執務室の入口の扉をドンドンと強く叩く者が現れた。

 

「どうぞー」

 

 気の抜けた一刀の返事とともにバンっと大きな音を立てて、扉が開かれる。

 

 そして、一刀の目の前までやってきたのは、音々音であった。

 

「こらーへぼ主人! 大変なことが起きているというのに何をサボっているですかっ!」

 

 傍に駆けつけるなり音々音は、可愛らしい顔に怒りを表して両手をあげてウガーッと吠える。

 

 そんな彼女を可愛いなぁと思いながら一刀は思わず頬を緩めそうになった。

 

「鈴々が―「なにっ! それは大変だ。すぐに行こうっ!」―ってまだ、何も言っていないですっ!」

 

 妹分として大変可愛がっている『鈴々』という少女の名を聞いただけで、一刀はだらけていた態度を改め勢い良く立ち上がる。

 

「まったく――まあ、話が早いので助かるですよ。とにかく、鈴々が大変なことになっているので来るですっ!」

 

 一刀は政務を放り出す形で、先に行く音々音の後を追う事になったのであった。

 

 

 

 音々音の案内で、城の中庭にある東屋にやってきた一刀は、その場所に用意された椅子に座って背中を向けている赤髪の小柄な少女こと鈴々の姿を視線にとらえる。

 

 一刀は、音々音が言ったような大変な事が起こっているようには思えず、少し首を傾げる。だが、先にたどり着いた音々音は、彼女らしくもなくオロオロとしていた。

 

「鈴々?」

 

 一刀の呼びかけに鈴々はゆっくりとした動作で振り向く。

 

 そして、対面した鈴々の姿を見て一刀は呆気にとられた。

 

 何故なら――

 

 鈴々の顔には、横長でノンフレーム型の眼鏡が掛けられていて、さらにその手には書物が拡げられていたからである。

 

「これは兄上様。どうかされましたか?」

 

 ニッコリと清楚な微笑を一刀に向ける鈴々。

 

 普段の天真爛漫な鈴々とは全く違う態度に一刀は気が動転しそうになりながら、背中に冷や汗を感じていた。

 

「えっと、鈴々は、何をしているのかな?」

 

 一刀の間抜けな問いかけに鈴々は手にしていた書物を見せる。

 

「はい。以前、愛紗姉上様から教えて頂いた春秋左氏伝を読んでいました」

 

 変な兄上様と言わんばかりに、くすっと上品に微笑む鈴々。

 

 良家のお嬢様と変貌した鈴々の変わり振りに一刀は、開いた口が塞がらない。

 

 一刀の中では、鈴々はいつも元気で向日葵のような笑顔を振りまく少女であって、このような清楚で上品なお嬢様ではない。故に――

 

 鈴々の両肩をガシッと手で掴み、まるでこれからキスでもするが如くの至近距離に顔を近づけた一刀。

 

 鈴々は突然のことに「あっ……」と視線をそらして、恥ずかしそうにポッと頬を朱に染めた。

 

 その行動でさえ一刀の心に焦燥感を与える。そして彼は、ゆっくりと口を開き――

 

 

 

「俺の大切な妹をどこにやった! 鈴々を返せ! このニセモノっ――!」

 

「お前はアホですかっ!」

 

 一刀の魂の絶叫に音々音が彼の後頭部に必殺のちんきゅーきっくを放ち、ツッコミを入れる。

 

 蹴りをもろに喰らった一刀は鈴々の胸の中に顔を埋める形となってしまった。

 

「きゃっ!?」

 

「……す、すまん鈴々」

 

 普段の鈴々とは違う悲鳴に一刀は動揺しながらも体勢を戻そうと顔を上げようとしたがのだが――

 

「兄上様」

 

 鈴々が優しく一刀の頭を抱いてそのまま包み込んでしまう。

 

 小さいながらも柔らかい胸の感触とか、日向の匂いとか、暖かい肌に一刀は一瞬にして茹で蛸のように顔を真っ赤にさせてしまう。

 

「こらっ! いつまで鈴々とくっついているですか!」

 

 だが、音々音が間に割り込んで一刀と鈴々を引き離す。

 

 一刀は鈴々の普段とは違う魅力と女の子らしさにポケーッとした表情で見惚れており、先程の彼女による抱擁から立ち直っていない。

 

 そんな一刀の表情を見て、音々音はムッとする。

 

「ねねも兄上様とギュッとしたい?」

 

「なっ! 何を言っているですか!?」

 

 鈴々の問い掛けに音々音は真っ赤になり恥ずかしさを誤魔化すようにして手をあたふたとさせる。

 

「あーもう! 全部お前のせいなのですっ!」

 

「はおぷろっ!」

 

 嬉し恥ずかしのちんきゅーきっくが、一刀のみぞおちに放たれて彼は正気を取り戻すのであった。

「――で、なんで鈴々はこうなったんだ?」

 

 場を仕切り直し、一刀はおしとやかに微笑んでいる鈴々の視線を感じながら、音々音に問うた。

 

「うーん。ねねと鈴々は今日、朝早くから美衣達と一緒に森に出掛けて、昆虫採集をしていたですよ」

 

 音々音は、東屋にある卓のある一点を人差し指でさす。

 

 そこにはカブトムシが二匹いた。どうやら、昆虫採集での収穫のようである。

 

「それで陽が高くなった頃から、郊外で鬼ごっこをしてみんなで走り回ってたくさん遊んだ後、解散したのですが、愛紗の言い付けでねねは鈴々と午後から一緒に勉強をする約束をしていたのです」

 

「ふむふむ」

 

 音々音の言葉におかしいところは別段無いなと頭の中で確認しながら話に相づちをうつ一刀。

 

「で、鈴々がふらふらっとした足取りで、書庫に向かい今読んでいる本とメガネをかけて戻ってきて――今に至るわけです」

 

「……んー」

 

 一刀は音々音の話から遊び終わるまで鈴々はいつも通りで、どうやらその後変調が起こったのかと考える。

 

 そして、一刀は何気なくふたりの少女達に視線を何回か交互に向けて、音々音の頭、正確には被っている帽子で視線を止めた。

 

「もしかして――」

 

 一刀は先程と同じように鈴々に至近距離で顔を近づける。

 

 今度は右手を鈴々の腰に回して、じっと真剣な眼差しで彼女の表情を見つめる一刀。

 

「……あっ」

 

 鈴々は可愛らしく頬を朱に染め、一刀から視線を反らし、少しの間躊躇した後――

 

「ん」

 

 と、目を瞑ったまま軽く唇を一刀に向ける鈴々。それはまるでこれから彼がキスをしてくれるのを待つかのような体勢であった。

 

「いや、鈴々そうじゃなくて」

 

 元気一杯な彼女でも、淑女らしくしている彼女であってもここら辺の根本的な積極性は変わらないものなんだなと一刀は考えつつも、空いた方の手でそっと鈴々のおでこに触れる。

 

「にゃー」

 

「やっぱりか」

 

 鈴々のおでこは発熱を起こしていた。

 

 続いて彼女の頬に手を当て、同様に火照っているのを確認し、一刀は音々音に向かって苦笑を浮かべた。

 

「こりゃ完全に熱中症だな」

 

「えっ!?」

 

 一刀はそう判断して、空から降り注ぐギンギンの太陽光に溜め息を吐く。

 

「あついのだー」

 

 鈴々は一刀の肩に身を預けて、目をぐるぐると回しはじめた。 

 

 音々音は、自分の判断の甘さと鈴々の奇行にガックリと肩を落として項垂れるのであった。

 鈴々のおかしな行動の原因が、熱中症と分かった彼女を一刀は背負い、そのまま自分の部屋へと連れて行く。その際、廊下ですれ違った侍女に氷水と鈴々の寝間着を用意するようにと頼んだ。

 

 部屋に着いた一刀は、音々音と合流した侍女に頼み、鈴々の身体中の汗を拭いて寝間着へと着替えさえ、自分が普段使っている寝台に彼女を寝付かせた。

 

「あぅー」

 

「こりゃ重症だな」

 

 いつも元気な鈴々が倒れた事を一刀は苦笑しながらそう述べた。命の危険性が無くなった事に安心しているのである。

 

「まさに鬼の霍乱とはこの事ですよ」

 

「そうだな」

 

 寝台の横に椅子を寄せ、音々音の言葉に相づちをうちながら扇で鈴々を扇ぐ一刀。

 

 用意した氷嚢のが効いているのか、鈴々は呻きながらも気持ちよさそうな表情を浮かべている。

 

「ねね。すまんが、ちょっと様子を見ていてくれるか?」

 

「それはいいですけど、急にどうしたですか?」

 

 一刀が扇を渡してきて、鈴々の看病を頼んできた事に音々音は首を傾げる。こういった時は、傍にいてあげた方がいいのにと思っているからだ。

 

「ん? ちょっと厨房にな」

 

 一刀の笑顔に音々音は仕方がないと言わんばかりに溜め息を吐く。

 

「わかったですよ」

 

 音々音は一刀の申し出を引き受け彼が部屋を出て行った後、鈴々の看病を続けるのだった。

 そして、四分の一刻ほど経った後、一刀が部屋に戻ってきた。

 

「ありがとうねね。助かったよ」

 

「お兄ちゃん!」

 

 部屋に戻ってくると意識を回復させた鈴々が勢い良くガバッと身体を起こしてきた。

 

「こら、鈴々。まだ安静にしているです」

 

 音々音は手にした扇で鈴々の頭を軽く抑えつけ、今にも嬉々として一刀に飛びかからんとしている彼女を押し止めた。

 

「すまんな」

 

「まあ、別にこのくらい大した事ではないのです。それに、ねねにも鈴々の体調の変化に気付かなかった責があるですよ」

 

 そう言って一刀から恥ずかしそうにソッポを向く音々音。

 

 何だかんだと友達想いの彼女に一刀は苦笑を浮かべるのであった。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん。それなに?」

 

「ん? ああ、これはかき氷っていう食べものだ。最近、北郷隊の三人娘と街を警邏した後なんかで、よく食べたりする機会があってな」

 

 鈴々の問いに一刀は手にしていた盆の上に置いたかき氷の入ったおわんをふたりによく見せる。

 

「氷を食べるのですか?」

 

 音々音の問いに一刀は笑顔で頷く。

 

「ああ、細かく砕いた氷にシロップ――まあ、今回は桃の果汁水と蜂蜜で甘くしたてた氷のお菓子だ。さあ、ふたりとも遠慮せず食べてくれ」

 

 一刀はかき氷の入ったお椀と木製のスプーンを音々音に渡す。

 

 音々音は渡されたかき氷をスプーンで突っつくと、氷がシャリシャリと音を奏でた。

 

 そして、一刀が鈴々に対して雛鳥に食べさせる如く、かき氷をスプーンで梳くって「あーん」して待つ彼女に食べさせているのを見ながら、音々音はかき氷を口に運んだ。

 

「……甘くておいしいです」

 

「冷たくておいしーのだ!」

 

 音々音と鈴々の感想を聞いて一刀は満足そうに微笑む。

 

「そうだろう。俺の住んでいた所では、冷たいかき氷を食べたりして涼んでいたんだ」

 

「お兄ちゃん、もっと欲しいのだ」

 

「はいはい」

 

「そうですか。他にはどういった食べ物で夏を過ごしていたですか?」

 

 かき氷のおいしさに気分を良くした音々音は、知的好奇心が疼いたのか一刀に質問をする。

 

 一刀は、鈴々にかき氷を適度に食べさせながら、音々音問いに答えた。

 

「んーそうだな。スイカを冷やして食べたり、そうめんって呼ばれている水と氷で冷やした麺を付け汁につけて胡麻や生姜なんかの薬味と一緒に食べたりしていたなぁ……ああ、後、夏の盛りに土用の丑の日というのがあってな、夏バテ防止に鰻を蒲焼きにしたり、丼ものにして食べていたな」

 

「うなぎ?」

 

 音々音は首を傾げる。どうやら鰻そのものが分からないらしい。 

 

「ああ、専門店なんかもあってな、専用のタレに浸けて食べるんだ。結構、おいしいぞ」

 

 浅草周辺にある老舗で両親と妹と一緒に食べた鰻の事を思いだした一刀は、思わず少し表情を寂しそうにした。

 

「お兄ちゃん?」

 

 鈴々の呼びかけにハッとなり一刀は今、考えていたことを頭を振って四散させる。

 

「ん、いや、何でもないよ」

 

「……」

 

 一刀のあからさまな態度に音々音は少し不満げな表情を浮かべ唇を尖らせた。

 

「鈴々。大丈夫だったとはいえ、まだ、本調子じゃ無いんだから今日はここで休むんだぞ」

 

「えー」

 

 鈴々は、一刀の言葉に不満そうに声を上げた。

 

 一刀はそんな彼女にしょうがないなぁと苦笑を浮かべる。

 

「何か、精がつくものを市で探してくるから、大人しく寝てるんだ」

 

「……はーいなのだ」

 

 一刀に再度促され、鈴々は渋々とした様子で従い、寝台に寝そべる。

 

 そして、鈴々が寝静まるのを確認すると一刀は侍女に後の事を頼み、音々音を連れて、市へと出掛けるのであった。

 陽が少し傾き、暑さも少し穏やかになった市の中は大変活気に溢れていた。

 

 一刀達による治世の恩恵に預かり、商売の景気は盛んに活気付いている。

 

 所狭しと、出店が並び人々の喧騒に包まれている市の中を一刀と音々音は、鈴々に何か精のつくものを探す為、共に歩いていた。

 

「なぁ、ねね」

 

「――何ですか」

 

 一刀は、同行者である音々音が何故か機嫌が悪いことに頭を悩ませていた。

 

「もしかして俺、またなにかやらかしたのか?」

 

 音々音は、一刀の問い掛けにプイッとそっぽを向く。

 

 一刀は、御機嫌斜めになった音々音にとりつく島もないと溜め息を吐いた。

 

「――まだ、お前は帰りたいと思っているのですか?」

 

「ん?」

 

 市の喧騒に紛れて、音々音の呟きが聞こえたような気がして一刀は彼女に視線を向ける。

 

 だが、音々音は「なんでもないです」と言って首を横に振るだけであった。

 

「……よし。それじゃあ何を買おうか? 鰻の蒲焼きなんかの屋台ってないかなー」

 

 気を取り直して一刀は話題を変えた。

 

「さっきも『うなぎ』って言っていたですけど、それは一体どんなものなのですか?」

 

 音々音も一刀の心中を察し子供らしからぬ気遣いを見せ、疑問に思った事を尋ねてみた。

 

「んー黒ずんだ色をしていて、このくらいの太さで、表面がヌメヌメとした魚の一種なんだが――ねね?」

 

 一刀の説明に音々音は何を想像したのか、距離をとって頬を恥ずかしさで朱に染めながら、彼に批難を含んだ視線を向けていたのである。

 

 要は、音々音はナニを、具体的には一刀の説明から男性の下腹部にあるシンボルを想像した訳で――

 

「よ、よよよよ、寄るなですっ! この、すけべ! 大衆の面前でとんでもない事を口走るなですよ! このち●こ太守!」

 

 気が動転しているのか音々音も、人前では言ってはいけない単語を口に出していた。

 

 一刀と音々音のやりとりを聞いた周りの人々からざわめきが起こる。

 

「ちょっ! ねね! みんなの前で、お前なんてことを――」

 

 その後、周囲のイタイ視線に耐えながら音々音の誤解を解くのに時間を割く一刀であった――

 陽が水平線に沈もうとして空を茜色に染めはじめた頃、一刀と音々音は城へと戻ってきた。

 

「ただいま――」

 

「かえってきたですよー」

 

「お兄ちゃん、ねね、おかえりなさいなのだ」

 

 部屋の中に戻ると、鈴々は起きていて侍女の女性と会話を交わしていたようだが、二人の姿を見ると笑顔で迎えてくれた。

 

 一刀は、侍女が役目を終え、部屋でようとした際に呼び止め、市で買ってきたお土産のまんじゅうの入った紙袋を渡し、「ありがとう」と礼を述べる。

 

 一刀の気遣いに侍女は少し驚いたようであったが、すぐに笑顔になり「どういたしまして」と返してくれて、快くお土産を受け取ってくれた。

 

 侍女の背中を見送った後、一刀は寝台に横に並んで座っている鈴々と音々音の許へと足を向けた。

 

「鈴々。街の市で鰻の蒲焼きを売っている屋台を見つける事が出来たぞ。ほら」

 

 一刀はそう言いながら、鈴々に串に刺さった鰻の蒲焼きを紙袋から見えるように傾けた。

 

 鈴々は紙袋に顔を近づけて、クンクンとわんこのように鰻の蒲焼きの匂いを鼻で嗅ぐ。

 

「ほんと! ――おいしそうな匂いがするのだ!」

 

「だろ? ほら、タレが落ちないように気をつけるんだぞ」

 

 一刀は、紙袋から鰻の蒲焼きを取り出して、鈴々にその串を手渡す。

 

 続いて一刀は、同様に音々音にも手渡した。

 

「しかし、こうもあっさり見つかるとは何だか拍子抜けだったですよ」

 

「まあ、いいじゃないか。おかげで苦労もせずに鈴々の為に精がつくものが買えたんだし」

 

 それはきっと字数制限という名のご都合主義展開というやつであろう。

 

「そんなことより、はやく食べようなのだ!」

 

 一刀と音々音にはやくはやくと催促する鈴々に思わずふたりは笑みをこぼすのであった。

 

「とってもおいしーのだ」

 

「ほら。鈴々、ほっぺにタレがついているぞ」

 

 勢い良く鰻の蒲焼きに食いつく鈴々に苦笑を浮かべながら、一刀は彼女のほっぺについたタレを指ですくい自分の口に入れる。

 

「ありがとなのだ」

 

「どーいたしまして」

 

 そんな一刀と鈴々の様子を音々音は何かを考え込むように観察していた。

 

「どうかしたのか、ねね?」

 

 視線に気がついた一刀が音々音に問い掛ける。

 

 見つかった事にバツ悪そうな表情を浮かべながらも、音々音は一刀の顔を伺うように見ながら、口を開いた。

 

「……お前はどーして鈴々の世話をそこまで甲斐甲斐しく焼くのですか――まるで本当の妹の如く」

 

「そんなの決まっているのだ! お兄ちゃんと鈴々はらぶらぶなかんけーなのだ!」

 

 音々音の問いに答えたのは鈴々であった。一刀は、それを否定せず優しく微笑んで、隣に座っている鈴々の後ろ髪を梳く。

 

「そうだな。それもあるが――ここにいるみんなは俺にとって大切な家族なんだ」

 

 音々音は一刀の言葉に驚きの表情を見せた。まさかそんな答えが返ってくるとは予想外であったのだ。

 

「確かに、前にいた世界に置いてきた両親や妹に友人達の事を思いだして、懐かしむこともあるし、すこし寂しく感じることもある」

 

 一刀の言葉に音々音は胸がドキッと高鳴るのを感じた。まるで自分の心が見透かされているような気がしたのだ。

 

「だけどな。この世界で縁によって新しく出来た、たくさんの家族が今の俺の全てになっている」

 

 音々音は一刀の表情を盗み見ると、彼は意地の悪い笑顔を浮かべている。

 

「みんなを捨てて元の世界に変える事なんてこれっぽっちも考えていないよ。だから心配しなくていいぞ」

 

「なっ!?」

 

 一刀はそう言って、恥ずかしさで顔を真っ赤にさせている音々音の頭をポンポンと軽く叩くのであった。

 

 この後、音々音の照れ隠しによる本日、三度目ののちんきゅーきっくによる一撃が一刀の側頭部に炸裂したのは想像に難しくないのであろう。

 

 こうして、三人の一日はゆっくりと過ぎてゆくのであった――

 夜の帳が降りて、満点の星空と十六夜月が優しく地上を照らす、誰もが寝静まる深夜帯。

 

 一刀は自室で魚油の僅かな灯りをたよりに、本日丸々、遅れた分の政務を行っていた。

 

 もし、愛紗などに政務が滞っている事が露見してしまったら、青龍偃月刀でお尻をブスッとやられることは間違えない。

 

 そんな恐ろしい未来想像図を何としても回避すべく一刀は、深夜にもかかわらず、せっせと励んでいるのであった。

 

「――終わった」

 

 何とか溜まっていた政務を無事に終え、竹簡を片付けた一刀は椅子に座ったまま、固まった身体をほぐす為に伸びをして、寝台の方へと視線を向ける。

 

 そこには、鈴々と音々音が寄り添って仲良く寝ていた。

 

 彼女達の可愛らしい寝顔を見て、一刀は幸せを嚙みしめるように微笑む。

 

 そして、視線を窓の外に向け、満点の星空を見上げる。

 

(どうして、俺がこの世界へやって来たのか、未だその理由はわからない。――だけど、こうしてみんなと暮らせる幸せを得ることが出来た。これは俺にとって幸福と言える。……いつかは、別れの刻が来るだろう。それが、明日なのかそれとも何十年も先なのかは分からない。だから後悔せずに俺はここで、この世界で一生懸命生きていくただそれだけだ)

 

 母のように見守ってくれる空に浮かぶ月と幾万の星達の応援を受け、北郷一刀は明日からも大切な家族達を守る為に頑張るのであった。

 

 

 

 

 

 

 後日談

 

 熱中症から回復した鈴々は、桃香や愛紗達に一刀の看病を受けて、かき氷や鰻の蒲焼きを食べさせて貰ったり、部屋に泊まったことを自慢してまわる。

 

 その結果、連日のように熱中症にかかった少女達が続出するのであった。恐るべきは恋する少女達の乙女パワーなのか?

 

「何でこんな大変な事態になるんだー! うぅ、政務が滞ってしまう~」

 

 今日も今日とて大量の竹簡の山に埋もれる三国の統治者である一刀。

 

「ほんと、馬鹿ばっかです」

 

 と、愚痴をこぼしながらも一刀の政務を手伝う音々音。

 

「にゃんにゃん♪」

 

 政務に励んでいる一刀の膝上で、猫のように甘えながら義兄とのスキンシップに御満悦な様子の鈴々。

 

 

 

 何だかんだで、兄妹のように仲良しな三人の暑くて賑やかな『さまーでいず』は、まだ終わらない――

 

 

 終劇

 


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