No.160350

シュチュエーションで遊んでみる

珍しく 野郎しかいねぇという衝撃の中。
一体誰が見たいんだ GSよこっち(独立直前設定)×地獄堂霊界通信@3人悪
別名義のブログに上がってるけどパクりじゃないよ!(笑

2010-07-24 20:49:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3347   閲覧ユーザー数:3179

 

 

 

 

「ちわーっ、厄珍堂でーす」

 

若い男の声だった。

振り返った椎名はジーパンにジージャン、赤いバンダナをつけた、この店…極楽堂、通称「地獄堂」の店には似合わない青年の姿を見つける。

普通の青年だ。少しカルい感じはするが、ちゃらちゃらしてるという感じではないなというのが感想。

 

結果背に向けたカウンター、いつものじじぃからヒヒッといつもの笑い声。

 

「んー?めっずらしー、客かー」

「えー、お客さんー?」

 

奥の間からてつしとリョーチンも顔を出してくる。

声に気付いたか、足跡が近づいてきた。

 

「うぉ、よーかい」

「ヒヒヒ、吼えるのぉ」

 

椎名の影になっていたオヤジを改めて見つけて、大げさにリアクションする青年に、店主は不機嫌をみせずに面白そうに笑った。

 

「んー、まぁいいか。厄珍堂スけど、注文した薬を」

 

対してジジィに興味もたれても嬉しくないといわんばかり、青年はへらへらとした表情で腰の低い業者のようなことをいう。

椎名は始めて聞く、「別の店」の存在に首を傾いだ。

 

「厄珍堂?」

「祐介。そこにある箱を渡してやれ」

「え?あぁ」

 

指し示されたしわしわの指先、「いつから用意してあったのかわからない」段ボール箱を持ち上げると、がちりと中でガラス同士のぶつかる音。

 

「これかオヤジ」

「うむ・・・が、ふむ、ちょっと待て」

「は?」

 

「横島」

「い?妖怪に知り合いは一応いるが、俺じーさんは知らんぞ?」

「主は自分が有名人である自覚がないのぉ。

のぉ?キセキ使い」

 

キセキ?

奇跡、輝石、鬼籍、奇蹟、奇石、軌跡。

椎名の頭のなかには色々な漢字が当てられる。

てつしとリョーチンは素直に「奇跡」を当てたらしい。

(正しい漢字を思い浮かべているかどうかは別問題だが)

不思議そうに青年を見ていた。

そして本人と言えば、へらへらとしていたのに

 

「そういう呼ばれ方は好きじゃねぇんでな」

 

ふと不機嫌にそう切り返す。

椎名は無意識にその目を見開いた。

リョーチンは無意識に、傍らにいたてつしのシャツの裾を握った。

てつしは無意識に、目をしばたいた。

 

目の前にいる青年が、全く違う人間に見えて。

オヤジだけが変わらず、くつくつと咽喉を鳴らす。

 

「そりゃぁすまんかったのぉ、横島忠夫」

「うわー、改めてジジィに呼ばれるの嬉しくないわー

んで?

俺は単なるバイト、つーかあのジジィが腰痛だって騒ぐから代わりに来たに過ぎないスよ?

なにやら押し付けられるのは筋違いってもんじゃ?」

 

青年、横島は胸を張ってそうと主張する。

だがそれはなにやら面倒を押し付けられると解しているからこその言葉にも聞こえる。

 

「なに、帰りに森にある祠に札を納めてきてもらえんかのぉと想っての」

「札?」

「うむ」

「あの森に」

「そうじゃ」

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「冗談じゃねー!あんな重ったるいところ誰が好き好んでいくかーっ!!」

 

大絶叫する青年は、つまりイラズの森の異質をわかっているということを示していた。

始めてきたとて、勿論、あの森の特殊な様は少々感性がある者なら気付ける類だ。

どれくらいかはわからないが、この店の商品を「出荷」レベルで購入する店の関係者ならば霊能があってもおかしくないが…

 

「っていうか俺もいっていーか?!オヤジっ」

「引き受けるっていってねー?!

 てかガキ守るつもりもねぇぞ俺はッ」

 

椎名の思考を飲み込むように、てつしが声を上げる。

えぇええええっ、とリョーチンが対極のような悲鳴になる。

それごく自然な反応であったが、考えることが本分である椎名の思考はまた別の方向に巡る。

 

(守るって言った・・・横島って人。

解ってるんだ、"危ない場所"だって)

 

椎名はポケットから相棒である指南盤を手に取った。

見かけからも気配からもとても彼は術者には思えなかったが、感じる何かを明瞭にしようと意識を向けようとし…

 

「祐介」

 

オヤジに「とめられた」。

名前を呼ばれただけなのに、そうと悟った。

 

「好奇心が強い子どもでな」

 

そして。

そのオヤジにしては非常に異常なことでありながら、謝罪めいた言葉すら発する。

鈍いてつしやリョーチンでもこの異常は理解できる。

 

ぽかんとジジィと青年を見比べた。

 

「煽っておいて何言ってやがる。

うわ、さすが厄珍の取引先」

「ヒヒ、あのゴウクツと一緒にするでないわ」

「そーかいそーかい。んじゃ荷物はそれな。

俺は帰るぞ。札納めるならそっちのガキンチョどもに頼めばいいだろ」

「そうもいかんでな」

 

「んな危ないとわかっとる処の仕事なんぞ引き受けるかい。しかもタダで」

「ただとは言わんよ、勿論のことじゃ」

「・・・・・・・・申し訳ないが、おれぁまだ"見習い"なんでな。

お仕事貰うにゃ師匠にお伺い立てなあかん立場やねん」

「おぬしの師匠なんぞ経由に頼む金がここにあると想うか?」

「しらねーよ」

 

 

「なんだよ横島のにーちゃん、怖いのかー」

 

てつしが挑発する。

オヤジに仕事を頼まれているのに、断っていることが信じられなかったからだ。

だが彼は思わぬ言葉が返って来る。

それは既に一度聞いていたはずの言葉。

 

「怖いに決まっとろーが!!」

「え?」

 

それは。

すがすがしいまでの主張。

 

「なんだよあの瘴気のかたまりみてーな森!

お前らよくこんなトコで生活してるよなっ」

「ヒッヒ、おぬしの住む都会とて対して変わるまいに」

「ばっかいうな。あっちは近づかなきゃいいんだぜ。

そりゃ近づいてしばき倒す商売はしてるがな。

こっちは"かたわら"にあるじゃねーか。

とてもこんなとこじゃ」

「そんなことないぞっ」

「あ?」

「俺、この町好きだもんっ!」

 

主張するのはリョーチンだ。

地元じゃない人間にひどいことを言われたと立腹している様子は、子どもそのもの。

実際、子どもなのだ。

 

「あー、悪かった悪かった。

単なる相性だ。俺は東京の方が気に入ってるだけ」

「あんなごちゃごちゃしたところ好きなんだ」

「そりゃそうだろ。きれーなねーちゃんはいるし遊ぶところは多い。

ダチもいるし、それに」

 

ふ、と。何故その言葉のスキマ零れたのかを知る機会はないのだろうけれど。

 

「東京タワーがある」

 

それは。

大したことのない話題のように聞こえた。

東京なんだから東京タワーがあるだろ、とはてつしの当然とした考え。

椎名も、はてそれがなにか意味が在るのかと首を傾ぐ。

 

だがなのに、何故かリョーチンはうるっ、と来てしまった。

わからないが、なにかが触れた。

何かが、リョーチンの「こころ」に触れた。

 

だから、彼はたじろぐ。

そんなつもりはなかったから。

 

「え、っと?そのな、しょーねん。

その俺にとってはすげー重要なのは事実なんだけど、お前さんが泣くのは筋違いってやつだぞー?」

「でもでもっ」

「あー、うん、大丈夫やから、な?」

 

遠慮なくざしきの方まで近づいて、よしよしと慰める。

まるっきり子どもを慰める仕草に、一瞬警戒したてつしもその様子を素直に見た。

その青年のぼさぼさした頭に、突然ガラコが乗っかる。

 

「おもっ?!おっも?!ちょっ、まて猫?!」

 

わたわたと振り払おうとする青年の様子に、泣いてたリョーチンがきょとん、となる。

自分だってガラコに馴れてもらうのにはすごく時間がかかったのに。

 

「気に入られたようじゃのぉ」

 

オヤジがいう。

 

「畜生に好かれても嬉しないわ!

うぉー、どいてくれよ猫ー」

 

かといって無理に引き剥がそうとはしない。

そうしたら爪を立てられることを警戒しているのかもしれないが…

 

「じゃぁ仕事引き受けろ」

「最悪だー?!脅迫じゃねぇかジジィ!」

 

「なに。おぬしの実力がみたいだけじゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

イラズの森。

それは昼なのにも関わらず薄暗く、鬱葱、という表現が酷く似合う場所だった。

 

「なーんで俺がガキ共と一緒にこんな天然お化け屋敷にこなきゃなんねーんだ」

 

その中で、暢気そうに、全力の不機嫌で呟く青年と。

 

「ばっかだなにーちゃん。屋根ないのにお化け屋敷とか」

 

遠慮なく、言葉の揚げ足を取るがきんちょが、3人。

 

「ふぐぅ?!ガキに突っ込まれた?!」

「っていうか愚痴るのみっともないぞー」

「愚痴るだろそりゃ!ガキンチョの面倒は専門外だってーのっ」

「じゃぁ横島さんの専門は?」

「そりゃ美女だろ、美人のオネーさんっ!」

 

きっぱりと、しかも目をきらきらさせてアホを叫ぶ青年。横島忠夫としては当然かもしれない、と知る人ならいうだろうが。

 

「はっ」

「鼻で、今鼻で笑ったな?!椎名っ!!

呪うぞこのやろーっ」

「できるもんなら」

 

しかしそんなことを知らないなら、あきれるのはむしろ必然。

大人気ない絶叫に、椎名も売り言葉に買い言葉。

 

「言ったな?」

 

そして。

 

「どっから?!」

 

次の瞬間には藁人形セットを握っている青年が森の木を軸に本当にそれを打ち込み始める。

 

「ちくしょう!ガキのくせに美形とかちくしょぉおお!!」

「ぐがっ?!」

「ちょっ、椎名?!」

「マジかっ」

 

本当に苦しみだした椎名に、てつしとリョーチンも目をむく。

リョーチンはどうやら色々見えたらしく、とんでもなくアホな理由で呪っている男に縋りつく。

 

「やだー、横にぃちゃんやめてーっ」

 

さすがに子どもに仕掛けるのは罪悪があったらしく、一言で彼はその手をとめた。

が、反省はないらしい。胸を張ってにやりと笑ってすらみせる。

 

「どーだ思い知ったか」

「ガキ、相手に、本気か・・・ッ、このヒト」

 

椎名もこれは喧嘩をふっかけていいタイプの人間ではないことを理解したらしい。

少なくとも、自分は。

なぜなら彼の理由は、ものすごく彼自身にとっての「正義」だと理解できたからだ。

 

「ガキだろうが明らかにもてる美形というのはオレにとって統べて敵だ」

「ここまでくるといっそすがすがしいな」

 

おもわずてつしも呟いてしまう。

爽やか過ぎる笑顔のアンバランスさに思わず言ってしまった言葉だが、リョーチンが半泣きで訴えてくる。

 

「感心してないでよてっちゃん~」

「あぁ、そうだな。俺の仲間呪うってんだ。それなりの覚悟はしてるんだろうな?にーちゃん」

「馬鹿いえ、挑発したのはそっちだろうが。

言われるまでは自重してたんだろ」

 

ホントなら逢った瞬間やってたわ。

 

「う」

 

嘘がないと思った。それだけの本音を彼は感じさせる。

 

 

「これに懲りたら大人ってヤツに…ん?」

 

どうしようもないことを偉そうに言っていた横島だったが不意に言葉を詰め、森の向こうをにらみつけた。

 

「な、なになに?!」

 

直後リョーチンは震え上がり、椎名が目つきを鋭くする。

 

「てっちゃん、来る!」

「リョーチン!」

 

 

「うん! くんなぁああ!!」

 

てつしの号令一過、とりだした水晶の数珠を構え、リョーチンは結界を展開。

透明なシャボン玉のような気配が周囲を覆う。

 

「おー。すげーじゃん良次」

「えっへへへw」

 

横島が純粋に褒めると、それが嬉しかったのだろう、照れくさそうに笑うリョーチンのふわふわな頭をかき混ぜ、横島は一歩先、結界の外に出た。

 

「んじゃお前らそこで大人しくしてろよ」

「いや、俺だって…」

 

戦えると言おうとしたてつしを、珍しく椎名が止めた。

 

「てっちゃん」

「なんだよ、椎名」

「見せてもらおうよ。俺たち、あんまりほかの術者って見たことないし」

 

普段の彼ならそんなことは言わないし、実際強い術者に何人か出会っている彼らである。

とはいえ、どうやら呪われたのを少々、根に持っているらしい。

それを察したのか、うん、とてつしも頷いた。

 

「………横島のにーちゃん」

「なんだ?てつし」

「危なくなったら言えよ。俺が助けてやっからよ」

 

オトコマエに笑った少年に、けっ、と青年は拒否を示す。

どこか、おどけながら。

 

「冗談」

 

 

 

そして。

「それ」が来た。

 

 

 

それは影だ。

それは闇だ。

それは 異形だった。

 

 

 

「ひぃいいいっ」

 

リョーチンの悲鳴が上がる。

当然の恐怖。

 

畏怖の対象。

妖怪、と彼らは認識しているが。実質はそんなものではなかった。

 

それは「影」。

それは・・・悪意のカタマリ。

 

だが。

 

「あーよかった」

 

暢気に呟く横島の声。

 

「え?」

 

てつしや椎名すら、驚く。

その中で。

 

「どんな中級魔族クラスが来るかとおもったぜ。

これじゃ、どうにもなる」

 

緊張感のない横島の呟きと共に。

彼の腕がヒカリに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来いやおらぁあ!」

まるでチンピラみたいな声をあげ、構える横島。

手にはヒカリのカタマリ。それは剣といってもいい形を成している。

 

「すごい」

「俺にも見えるっ!」

 

椎名はその非常識さに言葉を失い、てつしは観ることが苦手であっただけにその存在感に目を輝かせた。

リョーチンは結界を維持しながら、ドキドキしていた。

あれは刃だ。

何かを傷つける、今もまた化け物相手に向けられている、なのに、どうしてこんなにやさしいのかと。

 

「さぁガキ共にかっこいいトコみさせろよ!三下!!」

 

軽口と共に、まるで呼応するように闇が吼えた。

あまりの勢いに三人悪は殆ど本能で恐怖するが、当の本人は慌てた様子などない。

不敵に構え……

 

「サイキックねこだまし!!」

 

閃光と、間の抜けた一声。

え?と驚く間もなく、結界をぶち破った腕がちびっこ3人を抱え込み、全力疾走。

足場も決して良いとはいえないだろうに、お見事というしかない。

 

「ってなんで逃げんだよーっ!」

「めんどうだから」

「うわ、最悪」

「っせーな。目的があるのに寄り道すんのは好きじゃねぇよ。

っし、丁度ついたとこみてーだしな」

「お社…」

「んでここに貼ればいいんか?お、はがれた痕がある」

「多分。っていうか剥がれたっていうより…」

「はがされた?」

「貼れば引っ張られるかな?」

「多分。オヤジは捕まえて来いとは言ってなかったし」

「でも言う必要がないとしたら?」

「椎名?」

「いや、悩む前に、貼ってしまった方が」

「正論やな。んでは」

 

バチぃっ

派手な破裂音。勢いに押され、札が空を舞う。

 

「ッ」

<させんよ。小ざかしい術者共め>

「人?」

 

振り返った先、そこに立つのは、確かに人。

なかなかの顔立ちをしているが、その目は虚ろで、足に力がはいっているようにも見えない。

自我というものは、どこにもみえない。

 

「どうやら、定員オーバーのな」

<正に。この体では動きずらくてかなわん>

 

だのに、その受け答えのなんと明瞭で、耳障りなことか。

 

<そこな子どもなど、理想的だのぉ>

「ひぃっ」

 

形のない目線がリョーチンを射抜く。

椎名とてつし、二人が仲間を護るように踏み込んだ。

 

「リョーチンをくれてやるわけにはいかねぇな、化け物」

 

そういいながら攻撃用の札を構えるてつし。

それを慌てて椎名が制する。

 

「てっちゃん!炎や雷は駄目だよっ、器にされてる人がっ」

「う」

「妖怪玉……はそれ用の術符がないし……」

「おいおいお前ら」

 

戸惑う彼らに、あきれた声。

自分たちを抱えて、あのスピードで走りぬけた……

 

「横島のにーちゃん?」

「こいつは俺の仕事だぜ?なにお前らがガチ顔してんだよ」

「だって」

「確かに面倒ごとは嫌いだ。だがな……」

「え……」

「いい機会だ」

 

そういって彼は手の中になにやらを握りこんだ。

 

「ビー玉?」

 

てつしが首を傾げる。

だが椎名は目を見開き言葉を失った。

 

彼にはわかったのだ。

それが持つ力の大きさが。

おそろしさが。

 

そこに文字が浮かぶ。

「呪」。

物騒なソレから、珠そのものがヒカリを放ち……

 

なぜか藁人形と五寸釘のセットになった。

さっき椎名がマジで喰らったものだ。

 

「はぁ?」

「くぬやろぉおおお」

 

そしてその辺りの木で例の儀式を起こしだす彼。

一体どういうことだと声を上げる前に、人付きの化け物なのか、それとも憑かれた人そのものなのか、判別つかない悲鳴が上がる。

 

「ぉお、効いてる効いてる」

 

なんだかもう色々馬鹿らしくなって感心するてつし。

その脇で椎名は横島の目線を受けた。

理解する。自分がするべきこと。

そして、足は一番のリョーチンに。

 

<ふ。ざけ…るなぁあああ!!>

 

めちゃくちゃな呪法にのたうちながらも異形が吼える。

感情の起伏がそれ自身の現状を忘れさせ、「動きずらい器」からハズれ……

 

「今だっ、リョーチン!」

「うんっ!!」

 

椎名の声。リョーチンの応答。

落ちていた札が、社に押し付けられうる。

 

<しまっ>

 

己のうかつに反省する間すらなく。

「それ」は元いた場へと飲み込まれ……

 

不幸にも誘われた被害者なのか、実は面白半分に手を出した加害者なのか。

 

支えを失った、異形の人形を勤めさせられた青年がその場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

「オヤジ、ただいまー」

「やれやれ、五月蝿いのがもどってきたのぉ」

「いもあめー」

「渋茶いれっぞー。にーちゃんものむだろ?」

「あんま見目麗しくねー中で茶ぁ飲むのもアレなんだがまぁいいか」

「よこにー、この芋飴うまいんだぜー」

「へー、なんかなつかしーな、こういうの」

「つくったのオヤジだけどな」

「ごめ、いら」

「大丈夫。おいしーよ」

「う」

 

騒がしさが奥に引っ込んでいく。

それを背中に効きながら、オヤジは一人残った椎名に短く問う。

 

「で、どうだった?」

「・・・・・・・」

「見たじゃろ?」

 

どうしても答えを促したいらしい。

その意志を悟って椎名は瞠目する。

コレ相手にシラが切れるようになるまでに、果たして自分はどれほどの歳月を必要とするんだろう?そう思いながら。

 

「あぁ、みたよ。みた。なんで戦う力をあの人はあんなに否定するんだ」

 

素直に、感じたままを口にした。

それは衝撃であったが、決して疑問ではなかった。

疑問のように響いたとしたらそれは自身への問いかけであり、決してオヤジに向かったものではない。

証拠、彼は自分がさっき見たものを並べ、分解し、分析する。

 

「俺たちには結界があるのがわかっていても向かわないように逃げていた。

目は統べての悪意に追いつき、身体はすべての攻撃から逃れてた。

あの悪意のカタマリを小物だと決して偽ることのない感情で言っていた。

なのに、攻撃だけを嫌う。

あの光の剣も本当は切れるはずなんだ。斬れたはずなんだ。

圧倒的な力を振るえた。間違いなく。

それに普通、よーかいに呪いって効くのかよ」

 

すべてがでたらめ。

統べてがアンバランス。

総てが無茶苦茶で

凡てが彼を構成し

 

全てが彼だった。

 

「オヤジ。なに考えてたんだ?」

 

そして。

その無茶苦茶に引き合わせた相手に、初めて問う。

 

「なに。ただ、ただ面白い男を、お前らに見せたくなっただけじゃ」

 

そして。

しーなー、とたのしげなリーダーの声に顔を上げる。

早く来いよー、彼の片腕が誘う声に応じる。

 

そして、そして。

キセキ使いという言葉を否定した青年が、お前の分の芋飴くっちまうぞとからかってくるのに床を蹴った。

 

椎名は。

初めて。「考えるのが無駄」な人間がいるということを「学んだ」。

 


 
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