No.159896

夢で逢いましょう ~to be ――~

DTKさん

萌将伝発売前にどうしても書きたかったものです。
かなり急いだので、ただでさえ甘い描写が、さらに甘くなっています><
とりあえずやることはやった。自己満足な作品です
落ち着いたら書き直そうかな…^^;

続きを表示

2010-07-22 23:25:33 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5852   閲覧ユーザー数:4919

 

ひとしきり雪蓮の胸で泣いた冥琳。

気恥ずかしくなったのか、眼鏡を直すフリなんかして、少し距離をとった。

 

「さて……いくつか聞きたいことがあるんだが…」

「今さらカッコつけたって遅いわよ~」

「う、うるさいっ!……で、一体ここはどこなんだ?

 死したはずの私たちが、何故こうして在る?

 何故雪蓮が赤壁のことを知っている?」

「ちょ、ちょっとちょっと冥琳!そんなにいっぺんに聞かれたって答えられないってば!」

「あ……す、すまない…」

「もう、せっかちはどっちなんだか…もしかして、まだ足りなかったのかしら~?」

 

と、しゃなりと冥琳に擦り寄る雪蓮。

 

「っ……いらん!」

 

冥琳は近寄る雪蓮のぐいっと顔を押しのける。

 

「何よー!ちょっと扱いがぞんざいなんじゃないの~!?」

「あー分かった分かった。私が悪かった」

 

はぁ、と頭を抱えため息一つ

しかしこのようなやり取りにも、懐かしさを感じた。

 

「では一つずつ聞こう。一体ここはどこなんだ?」

「さぁ?」

 

雪蓮は悪びれなく肩をすくめ、即答する。

 

「さぁって……雪蓮、あのなぁ…」

「だってしょうがないじゃない!私だって気がついたらここにいたんだから~」

「…気がついたらここにいた?」

「そうよー」

「ふむ……」

 

顎に手を当て、しばし思案する

 

「ということは、ここは魂魄が行き着く場所なのだろうか?」

「良く分からないけど、ここが天の世界って所なんじゃないの?」

「天の世界か……」

「一刀のいた所とはずいぶんと違うみたいだけどねぇ~」

「そうだな……天の世界というよりは、天の国と言ったところか」

「そーねー。昼寝するには絶好の陽気だし。美味しいお酒はたくさんあるし!まさに桃源郷よね~」

 

雪蓮が言うには対岸に倉があるらしい。

生活に必要なものは、全てそこに揃っているそうだ。

 

「なるほどな……ならば二つ目の疑問も、ここは死後の世界と考えれば納得がいく」

「そうねぇ~」

「だとすれば残る疑問は一つだ。どうして雪蓮は赤壁のことをここにいながら知っていたのだ?」

「あぁ、それは……」

 

と、その時

池全面を覆っていた雪のように白い蓮の花が、赤く、紅く染まっていった

 

 

 

「なんじゃ…祭かと思うたら公瑾であったか」

「あ、あなた様は…っ!」

 

その炎のように紅い髪

灼えるような蒼い瞳……

 

雪蓮以上の巨乳に蓮華を超える巨尻!

そして、その圧倒的な存在感!!

 

現在の孫呉の礎にして、呉に住む全ての民の母

江東の虎の二つ名を持つ孫堅、その人である。

 

 

その孫文台が雪蓮とは反対側から二人の側まで歩いてくる。

たまらず冥琳は叩頭せんばかりに跪いた。

 

「よい公瑾、面をあげい」

「お…お久しゅう御座います!文台様」

「久しいのう…はて?いつぶりじゃったか……息災であるか、公瑾よ」

 

50年ぶりくらいじゃないの~?という雪蓮の呟きは、二人とも受け流した。

 

「はっ!あ、いぇ……この状態を息災と言えば、息災です」

「はっはっはっはっ!!公瑾も洒落を嗜むようになったか。善哉善哉」

 

遠慮なく背中をバシバシと叩く魅蓮。

さすがにこのような扱いを久しく受けていなかった冥琳は、少々困惑気味だ。

 

「てゆーか、何で母様が私の庭に勝手に来るのよー!私、冥琳と良いところだったんだけど~?」

「かーっ!何が、良いところだった~だ、このガキが!大体お主らときたらなっとらん!」

 

ガシガシと頭を掻き毟ると、魅蓮は突然沸点に達した。

しかも、なぜか冥琳まで雪蓮と一緒くたにされている。

 

「儂のあとを追ってくるのは当然祭と思うておったら、真っ先にバカ娘が来おった!

 次こそはと見にきたら今度は公瑾じゃ!主らは揃いも揃って何をしておるんじゃ!!」

「も、申し訳ございません…」

「ふんっ!」

 

恭順の態度を示す冥琳とは対照的に、雪蓮はふいっとへそを曲げてしまった。

雪蓮にとってこの話題は、こちらに来てから百は下らないという、耳の痛い話なのだ。

 

「その態度はなんじゃ!そのような事じゃから刺客なんぞに不覚を取るんじゃ!!」

「何よっ!母様だって似たようなもんじゃない!!」

「儂の場合は伏せ勢にやられただけじゃ!将が戦場で討たれて何が悪い!?」

「私の場合は完全に戦場外、不意打ちでやられたんです~!母様みたいに戦場で油断してる方がどうなのよ!!?」

「何おうっ!!」「何よ!!」

 

冥琳が久しぶりに見る母娘(おやこ)喧嘩は、生前のそれをはるかに凌駕していた。

 

片や現役バリバリ、江東の虎の名に恥じぬ暴れっぷりを発揮していた、孫文台のまま

片も現役バリバリ、江東の小覇王と称され瞬く間に揚州を制圧した英雄、孫伯符のまま

 

お互い死したときの姿のまま

さすがに似たり寄ったりの年齢ではないが、母娘と言うには近すぎる状態だ。

 

母娘喧嘩というより姉妹に近い

しかもその二人は、虎と小覇王だ。

冥琳が尻込むのも無理からぬことだった。

 

しかし、そんな嵐の中に飛び込んでいったのは、周公瑾が凡夫ではない証左である。

 

「文台様も雪蓮も!それくらいにしてください!!」

「むっ…!」「冥琳…」

 

鼻の先を突きつけんとするほど顔を近づけていた二人を間に入って引き離す。

 

「二人とも、少し落ち着いてください!お願いですから…」

 

冥琳の必死の嘆願に、ばつが悪くなった魅蓮と雪蓮。

何か自分が悪者に思えてきた。

 

「……ふむ、少々大人気なかったか」

「私も……ちょっと言い過ぎたわ。…ごめんなさい、母様」

 

ふぅ、と息を一つ吐き出す冥琳。

とりあえず喧嘩は収まった。

が、これからのことを考えると、少し頭が痛くなる冥琳であった。

 

 

 

「そうだ母様!我らが呉が、魏…北方の大勢力を完膚なきまでにぶっ潰したのよ!」

「そうか、曹操を倒したか。儂の所にも『あれ』はあるが、始終見ていたわけでは無くてな」

「あらそうだったの。……もしかして、用足し?」

「馬鹿者!肴が無くのうたから、蔵に探しに行ってての。呉の旗幟がはためく所を見逃すとは、惜しいことをしたのう…」

「赤壁を『あれ』で見る景色は格別だったわよ~」

 

母娘の会話に、いまひとつ冥琳はついていけなかった。

 

「あの……一体『あれ』とはなんですか?」

 

冥琳の問いかけに、母娘は揃いの蒼い目をきょとん瞬かせ、互いを見合わせた。

 

「なんじゃ雪蓮。まだ公瑾に教えておらんのか」

「あーー……冥琳に教えようとしたときに母様が来たんだっけか」

「全く……はよう教えてやらんか」

「はいはい……」

 

と雪蓮は池を背に冥琳に向きかえる。

 

「見て、冥琳!これが三つ目の質問の答えよ」

 

と雪蓮が指すは、庵を囲むように広がる白い…今は紅い蓮の花で覆われた池。

パチンッと雪蓮が指を鳴らすと、花が動き始め、大きな長方形に水面を覗かせた。

そしてその水面に映し出されたのは……

 

「ほ、北郷!?」

 

北郷一刀だった。

それだけではない。

蓮華も小蓮も、祭も穏も亞莎も思春も明命も……

早い話が、呉の面々全てが映っていた。

 

「こ、これは……」

「生あるものたちの様子を垣間見ることが出来る優れものじゃ」

「仕組みとかはよく分からないんだけどね~」

「……なんと」

 

信じられない光景に、冥琳はただただ呆然とするだけだった…

 

 

 

「周公瑾よ」

「は…ははっ!」

 

そんな冥琳を現実に引き戻すは、魅蓮の声。

 

「蜀との同盟に、祭と示し合わせての苦肉の策、そして天下二分の計。

 その他諸々において見事であった。大儀也」

「はっ!有り難き幸せ」

 

冥琳は跪きながらも、なお頭を垂らし、礼を示す。

そんな冥琳を見て、魅蓮が軽く吹き出す。

 

「ふふっ…そう固くなることは無い。もはや我々は死に、王も臣もない」

「文台様……」

「先ほどはああ言ったが、これは呉を想う一人の民として述べる」

 

と、魅蓮の顔の厳しさが抜け、少し柔和な表情になる。

 

「我らが愛しき呉の民を、よく安寧せしめてくれた

 ありがとう、冥琳」

 

そう笑う魅蓮は、雪蓮に似ていた。

しかしその中には孫呉の、そして雪蓮たちの母としての慈悲深さが見えた。

 

 

…………

……

 

 

「……こほん。では儂はそろそろ暇するとしようか」

 

照れくさいのか、少し顔を赤らめながら、そう切り出した。

 

「あの様子では、祭がここへ来るのもまだ先のようじゃからのう…」

 

水面には一刀と祭が並んでいる様子が映し出されていた。

戦は一段落したようだ。

 

珍しいことに(?)一刀が祭を引っ張っているようだ。

祭も満更ではないらしい。

 

「よもや祭に男が出来るとはのう……」

「そうよね~、冥琳でもギリギリだと思ってたのに……一刀ってば幅広いわよね~」

「全くじゃ。あの拾い物、祭を乗りこなすとはかなりのやり手と見える」

「は、はぁ……」

「祭は儂にしか乗りこなせんと思ったのじゃが……」

「「……………………」」

「お主らは知らんかったかもしれんが、儂と祭はよく閨を共にしてのう…

 お主ら以上に肌を重ねたもんじゃ!」

「「……………………」」

 

あまり知りたくなかった

 

「彼奴は普段は『堅殿~』と周りに堅物を装っておったが

 閨の中では『あぁ~魅蓮!魅蓮!』と可愛く鳴かせたものじゃ」

「「……………………」」

 

あまり聞きたくなかった

 

 

…………

……

 

 

「ふっ……まぁ良い。今後は祭がどのような子を成し、育て上げ、国へと返すのか…

 今までとは違うぞ。己や弟子のことではない。己が玉を作り、伝え、連綿と続く漣の一端を担うことになるのじゃ」

 

そういう魅蓮は、先ほどの与太話をしているときとは違う、孫呉の王の……

いや、それ以上の、何か大きなところから話していた。

 

「とは言え、子の扱いが苦手な奴のこと。気苦労は絶えんじゃろうて……

 まぁ、これから祭が若い男をどう乗りこなすのか、あるいは乗りこなされるのか

 その見物を、これからの楽しみとするかのう……」

 

 

そう言うと魅蓮はクルリと二人に背を向け、もと来た方へと帰っていった。

その姿はどことなく……

 

 

「寂しいんでしょうね……母様は」

「寂、しい?」

「そう、こっちに来てから長いこと母様は一人だった。次に来るのは当然自分の盟友たちだと思えば、娘とその連れ。懐かしい顔とは言え、ともに戦場を駆け巡った同志ではない……」

「なるほど、な」

 

心の穴には種類がある。

家族や愛しい人が埋められる穴もあれば

苦楽を共に過ごした友にしか埋められない穴もある。

 

「母様はここに来てからずっと、祭だけを待っているのよ……きっとね

 あ~あ!なんだか祭に、ちょっと嫉妬しちゃうわね」

「ふ………ふふふっ」

「な、何よ、何がおかしいの!?」

「いや、雪蓮は相変わらず、文台様のことが大好きなのだなと、少し嫉妬しただけだ」

「なっ……何言ってるの!?全然そんなこと無いんだってば~!!」

「そうだな……たまには文台様のところへ遊びに行ってはどうだ?酒でも酌み交わして母娘の絆を深めてきては」

「もおぉ~~!!だから違うんだってばーーー!!!」

 

 

 

雪蓮と冥琳は庵の机に酒を並べ、向かい合って席を並べた。

 

「それじゃ、乾杯しましょ」

「はて、何に乾杯なのやら…」

「私たちの再会に決まってるじゃない」

「私は死んだばかりなのだがなぁ」

「それでも目出度いの!はい、乾杯っ!」

 

チンと軽い音がする。

肴は水面に映った呉のみなの様子だ。

赤壁後、大陸は呉と蜀によって迅速に統治が為された。

そして東を呉が、西を蜀が治めることになり、今は内政に専念しているようだ。

 

「へぇー…蓮華もなかなか成長したわね~」

「うむ、治政においては文台様や雪蓮よりも上でしょうね。それに穏や亞莎も成長した。

 武官も祭殿に思春、明命と世代の釣り合いも非常に良い……呉は良い国になるぞ」

「おまけに腹黒~いけど、同盟相手としては頼もしい劉備がいる、と……

 これで天下二分の計は完璧!さすがは稀代の名軍師、周公瑾ね!」

 

雪蓮は少し残っていた杯をぐいっと傾け、中身を飲み干す。

そしてご機嫌な様子で二杯目を手酌する。

 

「馬鹿を言うな。人の世に完璧なものなどない。

 この大陸の安寧は呉蜀同盟の上に成り立っている。しかしそれも永遠のものではない。

 蓮華さまと劉備の世代は良いかもしれん。だがその子の世代は?孫の世代は?

 果たして一体どこまで呉と蜀は信頼関係を保てることが出来るのか?

 他にも一族内での後継者争い、内部叛乱、分裂、外敵の侵入、飢饉、水害…

 安寧を乱す例を挙げれば切りがない……

 私たちが為した事は、常に危うさを内包している、いつかは終わる平和なのだ」

「それでも、大丈夫よ」

 

早くも四杯目を注ぎながら、雪蓮は何とはなしに、しかし力強く言った。

 

「あの娘たちなら……ううん、あの娘たちと一刀の子供たちなら、絶対に大丈夫」

「やけに言い切るのね。何か根拠でもあるのか?」

「ん~~~……なんとなく、じゃあ理由にならない?」

 

と、雪蓮は悪戯っぽく片目をパチンと瞬かせる。

そんな雪蓮に、冥琳は苦笑い。

 

「なんだそれは……そういうのを、ただの勘と言うんだ」

「いいじゃなーい!知らないの?私の勘って、結構当たるんだからっ」

「……ふふっ、そうだったな」

 

 

 

と、水面の画は、一刀と呉の面々の子供が出来る場面を映しはじめた。

 

 

 

「あーー!!見て見て冥琳っ!穏の子供が産まれたわよ~!」

「……やはり一番乗りは穏であったか」

「可愛い~~!!穏にそっくりねぇー」

 

 

 

「蓮華と思春は、ほとんど同時の出産ね」

「……なんとなく推察はつくな」

「これで私もおばちゃんか~…年は取りたくないものねぇ~」

 

 

 

「めっ、めめめ、冥琳!!祭にも子供が出来たわよっ!!」

「? あぁ、そのようだな。可愛いらしいお子ではないか。何をそんなに驚く?」

「…………まだ枯れてなかったんだ」

「…雪蓮?祭殿がこちらに来たときにくびり殺されるわよ?」

 

 

 

「明命、それに亞莎にも子供が生まれたようだな」

「さすが一刀ね~。これで目ぼしい娘には胤が行き渡ったわね♪」

「……よもや小蓮さまを忘れてはいまいな、雪蓮」

「…………………あ」

 

どちらかと言えば一刀の伴侶と言うより子供に近い……

などとは口が裂けても言えなかった。

 

 

 

 

「あらあら、一刀ったら子供たちに囲まれてるわよ」

「…そのようだな」

「子供ってば本当にやんちゃよねぇ~。ふふふ、お父さんも大変ね」

「ふふっ…全くだな」

 

 

…………

……

 

 

「……ねぇ、雪蓮」

「ん~、なに?」

「蓮華様たちが、羨ましいか?」

「え?……う~~ん、そうねぇ」

 

杯を止めて、上目にしばし思案する。

 

「まぁ、一刀を蓮華に譲ったのは早計だったわね~……別に羨ましいってわけじゃないのよ?

 ただもっと早く食べちゃっとけば、私も一人くらい子供が出来てたのかなぁ~、なんて」

「ふふっ……そう、かもな」

 

まだなみなみと残っている杯を、冥琳は一気にあおった。

冥琳らしくない飲み方だが、それに触発され、雪蓮もいっぱいの杯を一気にあおる。

 

「でぇ~?そういう冥琳はどうなのよ~?」

「私か?私は……」

「子育てとか子作りの本なんか熱心に買ってたみたいだけど~?」

「なっ!……み、見ていたのか」

「あったりまえじゃな~い!こんなに楽しい仕掛けがあるんだもん。活用しない手はないわよ!」

 

バシバシと背中を叩き

 

「で、どうなのよ~?うりうり~、白状しなさい、このっ♪」

 

冥琳の横まで来て、頬をぷにぷにと指で愉しむ。

 

「そうだな……私は羨ましい。蓮華さまたちが」

「冥、琳?」

 

真剣な冥琳の表情に、雪蓮も少し顔色を窺う。

 

「私は一個の人間として、己が為すべきことを為した。

 私は一個の将として、世を安寧せしめる責任を、僅かばかり果たした」

 

一息つき、酒を一口。

 

「だが……一個の女として子を成し、伴侶とともにその成長を楽しむ。そんな幸せを噛み締めたい。いつしかそう、思うようになった」

「一刀が、いたから?」

「それもある。だが、何かカタチを残したかったというのも理由のひとつだ」

「カタチ?」

「あぁ。呉の民が笑って暮らせる世を作る。それが私の為すべきこと

 だが、そこに私が居たという証があっても良いのではないかと

 街が奏でる旋律の一端に、私の血を分けたものがいても良いのではないかと

 そう、思うようになったのだ」

「……冥琳」

「ただそう思い立ったときには、既にこの身は病魔に蝕まれていた。取り返しのつかないくらいな」

 

 

 

 

「なぁ、雪蓮」

「なぁに?」

「私の話を笑わずに聞く自信はあるか?」

「うん。何でも聞いてあげる」

「ありがとう……」

 

冥琳は立ち上がると、庵の手すりに手をかけた。

そうして、子供と楽しげに過ごす一刀を眺める。

 

「私には、夢があるのだ」

「夢?」

「あぁ……世は泰平に満ち、街は活気で満たされている。

 そんな中を、私は私の子を抱き、雪蓮と北郷……三人でのんびりと、ただ歩くのだ」

「……私も、欲しいな、子供」

「あぁ、雪蓮も一緒だ。私たちと私たちの子供、そして……一刀。

 五人で一緒に、幸せな日々を過ごす……」

「いいね、それ」

「だろう?」

 

と一度雪蓮を振り返るが、すぐに視線を戻してしまう。

 

「だがこれは夢だ。魂魄となりてなお、現世に未練を残す、愚かな女の愚かな夢さ」

「そんなことないわよ」

「えっ?」

 

雪蓮は冥琳の隣に立ち、手に手を重ねた。

 

「そんなことない。冥琳の夢、素敵だよ?」

「…ありがとう、雪蓮。だが夢はあくまで夢。叶うことは、無い」

「それも、そんなことない」

 

冥琳の目を見て、自信に満ちた声で雪蓮は言う。

 

「さっき笑わなかったから、私の話も笑わないでね」

 

そう冥琳に笑いかけ、雪蓮は語りだす。

 

「私ね……また逢える気がするんだ。一刀に」

「それは……ここでか?」

「ううん、違う」

 

雪蓮は笑う。

それは子供がまだ来ぬお祭りを思い浮かべて笑う

そんな笑みに見えた。

 

「そこには私と冥琳、それに一刀がいてね。もちろん蓮華や小蓮、他の皆もみんないるの」

「それは……とても幸せだな」

「うん!私は蓮華に家督を譲って悠々自適。

 好きなときに市へ出て、好きなときにお酒を飲んで、好きなときに昼寝をして…」

「それでは、前と変わらんではないか」

「そうかしら?まぁいいわ」

 

冥琳の手を両手で握り締める。

 

「私たちは絶対、また一刀に逢えるわ」

「…その根拠は?」

「私のカ・ン・よ♪」

「だろうと思った」

 

苦笑いをしながら、冥琳も雪蓮の両の手をとる。

 

「でも、私も信じるわ。雪蓮の勘を」

「うん。ありがと、冥琳」

 

その様子は、まるで互いに祈りを捧げているようだった――――

 

 

 

 

 

 

 

「今度はずっと一緒だ、北郷」

 

「また一緒に楽しい日々を過ごそうね、一刀!」

 

 

 

 

 

 

 


 
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