No.157557

リトバス短編コンテスト参加「宇宙!」

マメシバさん

よ、四頁・・せ、狭いです・・ううう・・・

2010-07-14 01:06:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:797   閲覧ユーザー数:778

うちわ片手に浴衣で歩く夏の夜道。俺たち5人は空を

見上げ、花火が散らす錦の光に照らされていた。

突拍子もない爆発音に、なぜこれほどの情緒があるの

か?心に温かく響くことよ。足元に捨てられたゴミに

苦笑する。季節の粋な風によどみを作るとは、楽しみ

方を知らぬ。出店のくすんだ色合い、交る声様々。

恭介「理樹。」

トラブルのタネ有りますと、その顔には書いてある。

俺が取るべき行動を決定するのに、脳へ情報を送る必

要があろうか?逃げろと脊髄が声高く叫ぶ。

恭介に名を呼ばれてから、俺が一歩下がり身をひるが

えすまで、瞬きするほどのまであったはずだ。が、俺

は逃げることかなわず、襟首をガッチリ掴まれている。

相変わらず無駄にスペックが高いな、恭介ぇ。

恭介「ヘイ、カウボーイ。主役がどこに行くつもりだ。」

答えを知っていて、あえて問うのはどうかと思う。恭

介が俺を主役と表現した理由は、むしろ知りたくない。

和服の着こなしがハンパない謙吾が「恭介は俺と同じことを考えているようだな」と会話

に参加。2人が何を共有しているのか不明だが、俺に害なすのは明白。謙吾はけがれ無き

瞳の奥で、想像の斜め上行くバカを考えているはず。恭介といるときの謙吾はそうだ。

真人が恭介の肩に手を置き、自分も判っているとアピール。きらりと光る奥歯。

たたみ込むように鈴が天を指さし、芝居気たっぷりに「理樹、宇宙へゆけ!!」と叫ぶと、

5人の視線が集まった先で、偶然花火がドンと美しく咲いた。

猫娘のシャウトに力強く頷く恭介たちを見て、俺は無性に泣けてきた。念のためNASA

を目指し勉強せいということか?と聞くと、今すぐこの場で飛べとせかす。やっぱり。

ヴァカァァだぁこいつら。そんな言葉を本気で口走るがっかりな高校生は、いまどき漫画

にも登場しない。まじで目を覚ますか、人生をやり直すか、どちらかを選べ。

真人「筋肉だ。筋肉がお前を宇宙に連れてゆく。月でも火星でも、新巨人の星でもな。」

筋肉を疑わぬ真直ぐな瞳の説得力は圧倒的。お前は宗教方面に才能があるのかもしれない。

筋肉でどのようにして地球の重力から逃れるのか、興味に抗いきれない。

俺には何の発想もないが、真人には有るのだろう。否定も逃亡も、それを聞いてからにし

たい……ああ、このとき即時に駆け出していれば……真人は俺の帯紐に手をかけ、頭上に

振り上げた。

普通に投げ飛ばす気なのかと恐怖に引き攣り聞けば、筋肉を信じろと無理難題の返答。

なにしろ「いくら真人でも無理だってわかるよな」と、真っ先に候補から外した方法だ。

強烈な加速Gに、愚かにも一瞬ナゾの期待してしまう。結果は20mほど先でボロ雑巾の

ように地に転がるのみ。100%予想通り。ぴくぴくと痙攣する四肢が、我ながら哀れ。

真人「かあああああっっ!!惜っしいぃぃぃぃっっ!!」

恭介「すごい飛んだな。驚いたぜ。」

そのセリフに謙吾が反応し、俺を持ち上げてチェストォと叫び投げた。そして、どちらが

より遠くへ飛ばしたかで、真人と喧嘩をはじめた。2人を放置し、俺へ歩み寄る恭介。

恭介「なぁ理樹、前置きは十分だろう?そろそろ本題に入らないか?」

なんで俺のわがままで2度ぶん投げられた、みたいになっている。痛みで身動き一つとれ

ない俺は真人に背負われ、5人で土手を下りる。花火の打上げ場に入ってゆくので、驚い

て危険だ止まれと叫ぶが、花火師がやってきて恭介を出迎えた。話はついているらしい。

恭介「やぁ風知屋さん。立派なのができましたね。」

恭介がぽんぽんと叩くそれを見て、俺の全身の血液は撤退、心臓の部屋の奥へと逃げた。

高さ4m余り、ロケットの形をしており、側面に“鴉鋪蘆拾參”(あぽろじゅうさん)と

書いてある……ぶっちゃけ、ただの花火だ!!

理樹「その発想を形にしたのはすげぇよ!!だがな、それに乗って行けるのは天国だけだ!!」

命の危険に大量分泌されるアドレナリン。俺は大暴れをして真人の背から逃げ落ちた。

ふらふらと体を起したとき、何かに寄りかかり倒してしまった。

ドム!花火、水平発射。逃げまどう人々。焼きそばの屋台が一つ木端微塵。火災が発生し、

待機していた消防隊員が素早く駆け付け放水。その地獄絵図に、うーんと満足げな四人。

恭介「なかなかの破壊力だな。うん、あれなら宇宙に行けそうだ。」

謙吾「理樹、お前の失敗がはからずも、ミッションの成功を約束してくれたぞ。」

理樹「お前らと今後も付き合っていくか、よくよく考える必要がありそうだ。」

真人「落ちつけよ理樹。筋肉の進歩に、犠牲はつきものなんだぜ。」

その意味不明な台詞は、俺の意思を絶縁へと大きく傾けた。宇宙ロケットと称するただの

でっかい花火を担ぎあげる真人。俺を挟み撃ちにし追い詰める恭介と謙吾。猫と遊ぶ鈴。

じょわ。異音に真人が振り返ると、鴉鋪蘆拾參に引火している。持って歩くから、他の打

ち上がる花火の火の粉を被ったのだろう。叫び声をあげて放り出すと低く飛び去り、ガン

と橋げたに当たり落下。ドゴォッ!水中で爆発し水柱100m。霧のように舞う水しぶき。

夜店の灯りに照らし出される虹が、ぼんやりと美しく筆舌に尽くしがたい。俺も含め5人

感動、いや、そこにいた全ての人達が感動し、言葉がない。

恭介「よし、全てはうまくいった。ミッションコンプリートだ。撤収!」

土手の上できょろきょろと何かを探し歩く、見覚えのある少女。

佐々美「今年の花火は一味違いますわね。ところで謙吾は何処っ?」


 
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