No.152072

リトバス短編コンテスト参加「手引書!」

マメシバさん

4ページ狭いです。

2010-06-20 23:23:47 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:919   閲覧ユーザー数:869

恭介「俺達、学校に何を残せるんだろうな……」

バカミッション臭プンプン。昼休みの食堂、激辛麻婆

豆腐のカプサイシンが脳にまわったな、と理解した。

理樹「何も残さなくて、いいと思うよ。」

なるべくさりげなく、そう助言してみた。

謙吾「恭介、話しの続きを聞こう。」

真人「俺も参加するぜ。謙吾が残せるのは、小手や面

のツンとくる臭い宮沢家バージョンだけだからな。」

ちょこんと水面に落とした最初の1投で、バカ2尾いっ

ぺんに釣れた。それぞれ、ちょっと離れたところにい

たのに、プレートを手にやってきた。

鈴「で、具体的には何を残すのだ?」

これで俺は詰みだな。投了するか?その苛立ちから、

鈴に「食堂に猫を連れてくるな」とクレームをつけた。

恭介「俺は、もっとも充実すべきこの3年間。思うこ

とは何も出来なかったなと、悔やんでいるんだ。」

いや、恭介は誰よりもやりたい放題だった。

恭介「始めて、そして一度きりの高校生活。右も左もわからず、気が付けば卒業。」

謙吾と真人が黙って頷くが、常に制限解除であるお前らに、俺は同意できない。

恭介「そこで、誰もが充実した高校生活を送れるよう、手引書を作ろうと思う。」

お前らに書く資格は無い。だが危惧すべきは、説得力に満ちた文章で書かれた場合。具体

的には恭介と謙吾が監修した文章だ。信じた後輩の3年間を台無しにするにとどまらず、

悪意無く第3者に被害を与える、こいつらの正統後継者をつくり出してしまうのでは?

理樹「な、なぁ。お前らがこの学校でやってきたことを、ちょっと思い出してみなよ。」

謙吾「なるほど、自分達の経験から手本足りえる何かを見出すわけか。」

違うぞ。俺は、目を瞑り記憶をたどっているはずの4人に、真人と謙吾の喧嘩騒ぎなど事

件の数々を念で送った。リトルバスターズは反面教師……たのむ、気がついてくれ。

一番に目を開けたのは真人。悟りを開いた聖人のような表情。

真人「全ての高校筋肉がムキムキと輝く、そんな未来を見た。」

俺は心底がっかりし、「人間ってな、筋肉以外にも骨や脂肪や脳などがあるんだぞ。知っ

てるか?」と言った。過去を思い出せつったろ!?未来を捏造してただけか!?だが、この様

子なら提案する内容はトレーニングメニューだろう。安全だと、胸をなでおろした。

真人「短期間で筋肉を強化するため、危険な禁止薬物の使用もやむないか。」

なでおろした胸をかきむしり、気が付けば「謙吾たのむ!!」と叫んでいた。

木刀で真人の首筋を痛打。油断していたらしく、気絶させることに成功した。

鈴「にゃぁぁん。」

虚空の一点に幻想を見ているようで、頬を赤く染めうっとりとしている。

鈴「300匹を超える学校大隊が、新たな世話係に可愛がられている。すてきな未来。」

お前も妄想の未来か!皆、前向きすぎるのか、それとも過去を忘れたいのか。ところで学

校大隊?この学校で飼っている大量の猫たちってことか?たぶん無断なんだろうな。

俺は鈴の両の肩を握りしめ、ちょっと驚いた丸い目を射抜くように見て言った。

理樹「学校大隊はお前が卒業するまでに、他の場所に全て移すんだぞ。」

鈴「難しいな。極東猫司令部の集約プランに便乗して、学校大隊を愁琶辺キャンプ場へ移

設する話があったのだが、前世話係が反故にしてしまったのだ。その後、移設計画は復活

したが、前任者の対応が悪く、後任の私は非常に発言しにくい立場にあるのだ。」

理樹「なんで高度に政治的なんだよっ!!安全保障上の問題なのか!?」

恭介「鈴、相手に合わせてレベルを下げて話さないと、理解してもらえないぞ。」

いっけなーいと肩をすくめる猫娘に、正直イラっとした。話題を変えよう。

理樹「最近、麻婆豆腐をよく食べるね。その辛さをご飯もなしでさ。」

恭介「ああ、実は前世で好物だった。性格も前世の反動……なーんてな。」

真人「ところで、手引書の俺担当分は紙に書いて、理樹に渡せばいいのか?」

なぜ俺?しかし、もう目をさますとは回復が早いぞ。謙吾、手を抜いたのではあるまい

な?顔を向けると、壁際で刀を抱えたまま座禅を組み、完全瞑想モード。まぁ、このまま

放っておけば無害か?佐々美が隣に座り、吐息がかかるほど近くに顔を寄せる。手にお茶

碗。謙吾の意識は俗世から遮断され、気付いていない様子。佐々美は鼻息荒く箸を運ぶ。

佐々美「おかわり3杯いけるわ。」

ご飯がおいしそうで、なによりだ。呆れ顔の俺の肩を恭介が突っつく。俺の役目は、皆が

書いたメモの清書だという。俺だけアイディアを出す気が無いと了承させられた。ではパ

ソコンで書いてメールで送るというと、そうではないという。

恭介「清書する場所はB棟の南面だ。ロープを一本渡す。ぶら下がって書いてくれ。」

B棟は、4階からセットバックした5階建ての、背の高い校舎だ。

理樹「校舎に書くって正気か!?第一、ぶら下がりながらって、ムリだろ!」

真人「B棟は校門入ってすぐ、右手にドーンと目に入るからな。嫌でも読むだろーが。」

謙吾「しかも南面は室内階段で、窓がほとんど無く、文字を書くのに都合がよい。」

恭介「ムリってことはないだろ?リハーサルがてら、ちょっと飛んでみるか。」

担ぎ上げられ、B棟の屋上に強制連行。縄は俺の足首と手摺をつなぐ。

恭介「じゃ、いって来い。」

たかが17mと背を蹴られ、生まれて始めてのバンジージャンプ。轟く悲鳴に4人合掌。


 
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