No.156671

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二十六の章 その二

Chillyさん

双天第二十六話その二です。

待っていた人はいないとは思いますが、お待たせいたしまして申し訳ありません。週二回くらいの投稿を心がけていたんですけど、一週間ぶりの投稿……。orz

風邪をひいてしまい、咳と鼻づまり、頭痛にのた打ち回っておりました。薬を飲むとボーっとしてしまって、話は思いつかないわ、飲まなければ飲まないで頭痛で集中できないし、咳で呼吸困難になるしと……。

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2010-07-10 15:44:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2042   閲覧ユーザー数:1843

 曹操に命じられた、ギリギリになって入った董卓軍の情報の対策に荀彧、夏侯淵の二人が乗り出す。

 

「あぁ、もう。なんであんな大きなものが見えなかったのよ、ほんとに!」

 

 軍議が開かれていた天幕から場所を移した荀彧は頭をかきむしり、その怒りから声を大にして愚痴をこぼす。

 

「少し落ち着け、桂花。遅れてしまったもは仕方が無いだろう。愚痴をこぼすよりも華琳様より賜った使命を果たそうじゃないか」

 

 熊のようにウロウロと天幕の中を歩く荀彧を呆れたように見ながら、夏侯淵は曹操から命じられた補佐の任を果たすべく、延々と愚痴をこぼす荀彧を窘めた。

 

「そうよ、華琳様から賜ったこの使命を果たして、そのご寵愛をいただかなければ……」

 

 その言葉の中の“華琳”という曹操の真名に反応して、ピタリと動きを止めた荀彧は次第にその顔に恍惚とした笑みを浮かべ始め、ブツブツと呟いていた愚痴は曹操への美辞麗句に変わっていった。

 

 さらに怪しい笑いを始めた荀彧を正気に連れ戻すことを早々に諦めた夏侯淵は、伝令の兵がまとめた資料を手に取り、一人検分を始めた。

 

 現在汜水関に攻め込んできた董卓軍八万は軍を三つに分け、公孫賛に一万、孫策に三万、曹操に四万の兵を差し向けている。この董卓軍の兵力配置は、まず数の少ない孫策、ついで曹操、最後に公孫賛と各個撃破を狙っているのが見え見えであった。

 

 荀彧たち曹操軍首脳陣には、兵力が大きく上回っている側がとるであろう作戦と予想通りのものであった。そのため幾通りもの対応策を考え、連携の取れていない連合軍であってもその動きを利用することで連携をとっているかのように見せるものさえあった。

 

 しかしたった一つ、曹操軍首脳陣が董卓軍の行動を読むことができなかった。

 

「本隊四万の後方に、投石機が六機か……」

 

 報告がまとめられた紙から目を離して夏侯淵はつぶやく。

 

 投石機、文字通り巨大な石を木材や獣毛に腱もしくは植物性の綱などの弾力と、てこの原理に遠心力も利用することで遠くに飛ばし、目標の建造物を破壊する攻城兵器である。

 

「ここで投石機を持ち出した意図がなんなのか、それが問題か」

 

 あごに手を当て、董卓軍の戦略の意図をつかむべく思考の海へと航海に入る夏侯淵だが、まったく思いつかない。

 

 野戦において攻城兵器は邪魔もの以外の何者でもない。

 

 その大きく機動性のかけらも無い物体があるだけで、軍隊の行動はかなり縛られてしまう。しかもその巨大な物体を敵の攻撃から守らねばならないということも、軍行動を制限する一因になる。

 

 投石機を野戦で用いることはできなくも無い。

 

 巨大な石や岩をぶつけることのできる投石器の攻撃力は、けっして侮ることができるものではないことは確かだが、それは目標が動くことの無い城砦や動きが制限された場所に対しての攻撃と使用に対しては限定条件がつく。

 この汜水関の防衛戦も動きが制限された場所ではあるが、それでも投石機の攻撃を無防備に受け続けるような場所にあるわけではない。

 

 最初の一斉射のうちの一つ二つの岩の影響は受けるかもしれないが、たったそれだけでは投石機をこの戦場に持ち込む利があまりにも少ない。

 

「野戦をするしかない我々に対して、投石機を持ち出してもあまりにも効果が無さ過ぎる……」

 

「野戦に投石機を使うわけ無いじゃない」

 

 深く考え込んでいた夏侯淵のつぶやきに、いつのまにか妄想から正気に返った荀彧が答える。

 

「桂花、それはどういうことだ? 使いもしない攻城兵器をわざわざ持ってきたというのか?」

 

「“野戦”に使わないだけで、使わないとは言っていないわよ。董卓軍は連合の弱点をついてきたということよ」

 

 理解していない様子の夏侯淵を見て、荀彧はため息をついて投石機の意図を一から説明するべく夏侯淵に向き合った。

 

「連合の弱点……。連携が取れていない、袁家の影響力といろいろあるが、もっとも大きいのはわれわれが遠征軍といったところか。なるほどな」

 

「そ、遠征軍であるために私たちにとって大事なのは時間よ。そこをこの投石機はつくための一手というわけ」

 

 一を聞いて十を知る夏侯淵の様子に次の話を持っていけると安心するも、荀彧はどのような手を打つべきか頭を悩ませてしまう。

 

「投石機を破壊することを中心に戦術を立てるしかないのではないか?」

 

「そんなことをすれば、投石機を囮にしてこちらを包囲殲滅しに来るわよ。あちらにしてみれば結果が同じならどちらでもいいんだから」

 

「ふむ。かといって投石機を野放しにもできんか」

 

 夏侯淵も荀彧の言葉にとるべき一手を見つけられず、頭を抱えてため息を漏らす。

 

「ほんとに頭痛いわよ。この手を打つならこれ以上の時はないわ。……ハァ、一から整理してみましょ」

 

 そう言って荀彧は散らばって置かれている報告書をまとめ、その一つ一つを汜水関の周囲が描かれた白地図と照らし合わせて状況を確認していく。

 

 董卓軍の意図は明確に連合軍の時間を奪う、もしくはすこしでも行軍の速度を遅らせる時間稼ぎであることは明白である。

 

 なぜ連合軍の時間を奪うことが、これほどまでに荀彧の頭を悩ませるのかといえば、それはこの連合軍のほぼすべての諸侯が太守自ら軍を率いてこの連合に参加していることにある。それは時間が過ぎれば過ぎるほど、自身の根幹地の内政その他に不安が増していくことと同じで、根幹地に戻るのが遅くなれば遅くなるだけ、その諸侯にとってそれは毒となる。

 ゆえに遠征軍はいかに時間をかけずに、その攻略目的を果たすかが重要になってくるのだが、今回董卓軍の取った策は、連合軍にとってもっとも避けたかった策ということになる。

 

 投石機による汜水関の破壊、瓦礫により通行を止めるという、この時間稼ぎの策はここまで侵攻し、ここを通らねば洛陽まで大きく迂回せねばならない連合軍にはどうにかしてでも止めなくてはならない。

 

 汜水関の内と外でおよそ半々に分けられた兵力は、現在の戦力差において唯一董卓軍が勝利できる場をこの場に作り、連携のとれていないどころか足を引っ張ろうとするそれぞれの諸侯は、その勝利する確立を高めてくれる。

 

 ゆえにこの場で汜水関の外の軍勢が援軍に来る前に、曹操たちを倒せてしまえば関に篭って防衛を、間に合わないと判断すれば関を破壊し、交通を阻害することで時間を稼ぐ。

 

 時期がこれよりも早ければ連合軍は別の道を通ることを選び、遅ければ数によって押し切られ、虎牢関から出ないほうが時間を稼げる。

 

 この時しか意味が無いという絶好の時に、董卓軍は必要なものをもって攻めてきたというこの状況をいかにして攻略するか、その知略の見せ所ではあるものの状況を整理する荀彧にも、その補佐をする夏侯淵にも思いつかない。

 

「整理すればするほど、頭が痛くなってくるな。この場の戦に限定すれば、天の時、地の利、人の輪すべて董卓軍にあるように思えるな」

 

「言わないでよ、本当にそう思えてきちゃうじゃない。ここで躓いてしまうことは華琳様の歩みを止めてしまうことになってしまうのよ。そんなこと私がさせるわけにはいかないわ!」

 

「桂花、決意を表明するのはいいが、具体的にそうするのか決めなければ意味は無いだろう」

 

「秋蘭! そんなことはわかっているわよ。でもその具体案が思い浮かばないから、悩んでいるんじゃない」

 

 さっきまで闘志を瞳に宿して燃えていた荀彧は、空気が抜けるようにしおしおと萎びれていってしまった。心なしか頭巾の猫耳が垂れて意気消沈しているように見える。

 

「時間も無いことだし、気落ちしている暇はないぞ、桂花」

 

「……あぁ、もう。わかっているわよ、そんなこと。えぇえぇ、もう破れかぶれでやってあげようじゃないの、この荀文若を甘く見るなよ、賈文和!」

 

 どこまでも冷静な夏侯淵の言葉と態度にだんだんと苛立ちを感じてきた荀彧は、プルプルと肩を震わせ怒りに耐えていたけれども、その限界値はあまりにも低かった。

 

 荀彧は思いっきり立ち上がるとおよそ洛陽の方向と思われるほうをにらみつけると、勢い良く指を突きつけ宣言するのだった。


 
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