No.147576

ろくよん 継い姫†無双 季節ネタ編

こひさん

継い姫†無双番外編で6月4日ネタ(?)です。

2010-06-04 01:21:08 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3972   閲覧ユーザー数:3550

「さっさとやりなさい」

 

 気丈にふるまう華琳。

 しかし、一刀はその目がわずかに怯えているのに気づいていた。

 

 ――俺は無力だ……。

 

 助けを求めるように目だけが自分を見る華琳に、どうすることもできない一刀。

 

 

 華琳の顔に男の手が迫る。

 

 

 

 

「はい、もう少し大きく口を開けて下さい」

 歯科医の指示に従い、華琳が大きく口を開けた。

 

 

 

scene-漢女塾

 

「どうしたんだ真桜?」

 学校を休んだ真桜を心配して、漢女塾を訪れた一刀。その前に現れた真桜は右の頬に冷却シートを張っていた。

「じ、じづば……」

 そしてその息からは胃腸薬であるあの丸薬の独特の癖の強い匂い。

 

「あ~、虫歯か」

 冷却湿布と喇叭マークの薬から一刀が導き出した答えに真桜は涙目でこくこくと頷いた。

 

 

「ちゃんと歯を磨かないからだ」

「お口のニオイも気にしないと駄目なの~」

 凪と沙和がそう責める。

 

「んなことゆふだか!」

 力ない反論も途中で途切れる。

 

「痛むのか?」

 こくんと頷いたまま、首を上げない真桜。

 

「じゃあ、歯医者行こう」

「は、歯医者!?」

 一刀の言葉に大声を出して反応したのは季衣。

 

「どうした?」

「ボク……歯医者は……きらい……」

 泣きそうになりながら季衣はそう言った。

 

「季衣、歯医者さん行ったことあるの?」

 流琉も親友の様子に驚きながらそう聞く。

 

「……うん。……前の、みんなが兄ちゃんをご主人様って呼んでフランチェスカに通ってる外史で……」

「虫歯か? どないやったん?」

 霞に質問され、一刀にしがみついて震えを堪えながらなんとか声を絞り出す季衣。

「……怖かった」

 

「なんや、季衣も歯あ抜くのは怖いんか?」

「情けないぞ季衣、虫歯くらいで。なんならわたしが抜いてやったものを」

 霞と春蘭の台詞に、頭を一刀に擦りつけるようにふるふると首を横に振る季衣。

「……ちがうもん。抜かないで、歯を削って埋めたんだよ……」

 

「歯を削るのですか?」

 冷却シートの提供元である稟。妄想でのぼせ上って鼻血が出るのを防ごうと、よく愛用していた。

 その稟が歯医者に興味を持つ。

 

「……その時痛くないように麻酔を……」

 思い出したのか季衣の顔が真っ青になった。

 

「麻酔……麻沸散のようなものでしょうか?」

「それを……注射したんだよ……」

 

「ちゅ、注射!」

 今度は春蘭が青ざめた。

「注射は嫌やな~」

 霞もそう納得する。

 

「それも、歯茎にするんだよ!」

 泣きながらそう言った季衣に、春蘭も霞も、その場にいた他の者のほとんども思わず自分の口元をおさえた。

 

「落ち着け、季衣。今は虫歯なんてないんだろ?」

 自分にすがり付いて泣く季衣の頭を撫でながら優しく聞く一刀。

 

「うん……。ボクちゃんと歯をみがいてるもん……」

「偉いぞ。ちゃんと歯磨き続けような」

「うん」

 

 

 やっと泣き止んだ季衣を纏わりつかせたまま、一刀は真桜を向く。

「……とにかく、歯医者いこ?」

 

「ぜ、ぜったひひやや~!」

 真桜は大声を上げて拒否し、そのせいでまた顎をおさえて涙する羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

scene-歯科医院待合室

 

 

「それでなんで華琳が歯医者にくるわけ?」

 隣に座る華琳に聞く一刀。

 

「真桜に歯医者は怖くないって、証明しないといけないのでしょう?」

「まあ、そうしてもらえると助かる」

「それに、こちらの技術がどれほどのものか興味もあったし」

 待合室の壁に貼られた患者向けの資料を見る華琳。

「なるほど……で、俺は?」

 

「……うわぁぁぁん!」

 

 一刀の問いに華琳が答えるより先に子供の泣き声が聞こえてきた。

「……見届け人よ。ちゃんと私が歯医者にきたという……」

 一刀と重ねた手に力を込める華琳。

「そんなに力まなくても……華琳は虫歯なんてないんだろ? それなら怖いことなんて……」

 

「……」

「……あるのか?」

 無言の華琳にそう聞いた。

「……こっちは砂糖が多すぎるのよ……」

 

 

 

 

 そして冒頭のシーンにいたる。

 

 

 

 

 

scene-漢女塾

 

 

「というわけで、真桜、ちゃんと歯科医へ行きなさい」

「ちゃんと予約とってきたから」

 歯科医院から帰ってきてすぐに真桜に命令する華琳。

 怯えた目で首を横にふる真桜。

 

「華琳さま、歯医者さんはいかがでしたか~?」

 そう言った風の持つ飴を一瞬憎々しげに見る。

「……新たな拷問をいくつか思いついたわ」

 

「おいおい……」

 その脅しにますます首をぶんぶんとふる真桜を横目に見る一刀。

「ちゃんと治療はしてくれたろ? 詰めるのだって、元の歯と同じ色のつくってくれるし……保健効かないから高いけど」

 

「そうね……真桜、歯がちゃんとしている方が料理もおいしく食べられるわ」

「ほっといたって痛いだけだぞ」

 華琳と一刀が説得するも頷かない真桜。

 

 

「……歯科医の治療器具は真桜の螺旋槍よりも素晴らしかったわ」

「な、なんやへ!?」

 ならばと出した華琳の切り札に真桜が食いついた。

 

「季衣、あなたが治療で歯を削ったのも螺旋槍よりも小型で見事なものだったでしょう?」

「は、はい……さきっちょのドリルが交換できて、とっても怖かった……」

 思い出したのか、また一刀にしがみつく季衣。

 

「ふ……ふっふっふっふ……」

 頬をおさえたまま、笑い出す真桜。

「や、やっれやろやなひの……」

 

 

 そうして真桜も歯医者へ行き、ぐったりとして帰ってくる。

「……使える、あら使えるで!」

 けれどもその目は爛々と輝いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

 6月4日、歯の衛生週間ということで久しぶりの季節ネタです。

 華琳は虫歯なんてなさそうですが、きっと前回甘かったせいです。

 

 

 冒頭のシーン、お口を蹂躙される華琳さまの方がよかったですか?

 


 
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