No.145823

Cat and me 5.日一日

まめごさん

ティエンランシリーズ第六巻。
ジンの無責任王子ヤン・チャオと愛姫スズの物語。

この娘が傍にいない世界など、どうでもいいことだ。

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2010-05-27 08:54:18 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:505   閲覧ユーザー数:483

日々は大体決まった時間帯で流れてゆく。

朝は女官の声や気配で目を覚ます。

スズはわたしの腕の中にいるか、寝相の悪さ故に遠くで爆睡しているかだ。

なぜか半回転して足が見えていることもあった(不思議でならない)。

昔からの習慣で、寝台の宮に凭れたまま熱い茶を一服する。

対外、裸で、寝着はそのへんに打ち捨てていた。

わたしたちが寝着を着たまま寝ていると、女官たちは狐に包まれたような顔をするくらいだ。

まあともかく、茶を飲んでいるとスズも目を覚まして、くっついてきたり二度寝をしたり、その辺をごろごろしたりと遊んでいる。

次に水を張った鉢で顔を洗い、髪を整えられ、衣を着せられる。

この洗顔をスズは当初、知らなかったらしい。

いきなり顔を鉢に突っ込んで、ブクブクさせて遊んだのには仰天した。

わたしのネコは髪を結われれば、化粧もさせられる(女とはとかく身支度に時間がかかるものだ)。

それが終われば、スズお待ちかねの朝餉である。

食い意地の張ったスズは、朝からがっつり食う。

対しわたしは、朝は食欲のない方である。

だから、わたしとスズの膳は一目瞭然に量が違う。

こんなに食ったらわたしのネコは太ってしまうのではないか、と毎朝思う。

それでもいいか、丸くなったスズも愛らしいことだろう。

コロコロと転がして遊んでやろう、とも思う。

そしてスズは自分で箸が使えるくせに、わたしに食べさせてもらう事を好んだ。

膝の上で大口開けて待っているスズに、せっせと箸を運ぶ。

それがすめば、冷めてしまった自分の膳を片付ける。

朝餉が終わると、スズに後ろ髪を引かれながら部屋を出る。

一日の中でわたしが最も嫌悪する瞬間だ。

 

次はジンが信仰している雷神イドーラへの祈りをささげる(ふりをする)。

ボケ、ボンクラたち、その妻たち、母たち、セリナと共に、専用の部屋へと集って長々と頭を垂れる。

祈りなど、好きな時に好きなだけ祈ればいいではないか。

神には悪いが、わたしは神を信じていない。

何かしらの超絶な存在はあるのだろう、それは分かる。

だがそれが君だとは思えないのだよ、とイドーラの肩を叩いて、首を振りたい。

祈りの時間と信仰の深さ、布施の金額で、信者の質を順位付けるのはどうだろう。

己を信じない者は地獄へ落とすのもいかがなものか。

いやいや、分かっているよ、君自身はけしてそんなつもりはないのだろう、とイドーラの肩を叩いて頷きたい。

別にわたしは、君が嫌いなわけではない。

豪放磊落で人妻にちょっかいをかけた挙句にばれて、どえらい目にあったなんて、中々にお茶目ではないか。

悪いのは君を祀りあげて勝手に決まり事を作った神官たちだ。

莫大な布施が、どこへ流れているのか非常に興味がある。

殊勝に目をつぶりながら、そんな事を考えているか、今日はスズと何をして遊ぼうかと思いを巡らす。

不遜な祈りの時間が終われば、うっとおしい連中に捕まる前に脱兎のごとく逃げる。

それから政務室で、ポンポンポコンとハンコを押す。

他、カイドウリンドウに言われるまま、書を書いたり、なんやかんやを命令したりする。

昼餉前にこの苦行は終了し、わたしの可愛いネコが待っている部屋へと戻る。

扉を開けるとスズは飛び付いて出迎えてくれる。

もしくは、キムザの膝の上で涎を垂らして寝ている。

その小さな体を抱きあげて、不在を詫び、可愛い顔と柔らかい唇を堪能する。

が、幸せな時間は長く続かない。

昼餉の支度ができたと声がすると、スズは飯だ、離せと暴れるのだ。

そんなスズの口に飯を運びながら、今日は何をしようかと相談する。

日によって様々だ。

庭園に行くこともあれば、城下にゆくこともある。

カイドウリンドウと遊ぶこともあれば、城内の人気のない場所でかくれんぼや体を重ねることもあった。

くたくたに遊び疲れ、二人で手をつないで部屋に戻ると、昼寝をしたり、本(主に官能小説類)をよんでやったり夕餉までの時間を過ごす。

夕餉が終われば、風呂に入る。一緒に入ることもあれば、別々に入ることもあった。

女官たちは、スズの頭を乾かし、顔に何かをつけ、全てを終わらせた後さっさと下がる。

膝の上でくつろいでいるスズを愛でながら、いつも思う。

わたしは、このネコに出会う前、一体何をして過ごしていたのだろうと。

さっぱり思い出せない。

スズが甘えたように身を寄せてきた。

その洗いたての髪を梳くと、さらさらと零れていった。

多分、記憶できないほどどうでもいいことなのだ。

結局はそう結論づけて、スズを引きよせ唇を落とす。

可愛くて切ない、小さな鳴き声を聞きながら。

この娘が傍にいない世界など、どうでもいいことだ。

そしてわたしとスズは、甘い夜を過ごす。

このまま溶けて消えてしまえばいいと思うほどの熱く甘い夜を。

 


 
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