No.140739

『偽・悲恋姫†異聞録』23

Nightさん

GW特別企画、本日の朝の便です

どなたか一人でも面白いと思っていただければ僥倖です

2010-05-04 11:05:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4644   閲覧ユーザー数:3972

 上空から降り注ぐ矢が、身を起こす麗の顔の脇を抜け

 トトッと小さい音とともにスカートに突き刺さる。

 

 それを欠片も気にもせず・・・

 恰も当然であるかのように受け入れる麗の姿は

 『魔王』に下ったとはいえ、その『魔王』をして、最も覇者に近かった者と言わしめる

 

 上空からの矢など当たるものかと、傲慢なまでの自信は・・・正に王者の風格

 

 もって生まれた巨乳と強運によって、致命傷を受ける事を回避した麗は、微笑を浮かべたまま秋蘭に足を踏み出し・・・よろける。

 

 

 流石に、ちょっともらいすぎましたわね・・・

 

 

 自分よりも強者である秋蘭の目を欺くため、突きで正面からの致命傷になり兼ねない矢を叩き落とし

 それ以外を当たるに任せたツケは、軽いものではない・・・

 が、それをしなければ、秋蘭に一撃入れることなど出来ない・・・

 冷徹に自分の判断は正しかったと、今もって言える。

 

 麗の決断は早い。

 悩んだ末に正解を出せ、とは教えられていないのだ。

 止まるな、その瞬間に答えを出し行動せよ。

 一影は徹底的にそう教え込んできた。

 

 振り上げた方天画戟が、地響きを立てる轟音とともに地に着き刺さり

 地響きとともに土煙を上げ、麗の姿を秋蘭の目から隠す。

 

 それが収まるころには、血の糸を引きながら麗は馬上の人になっていた。

「では御機嫌よう、今日打ち込んでくれた矢の数だけ、次会ったときは体に穴を開けて差し上げます」

 言い捨てるように馬の腹をけり、胸を張って味方を集め敵陣を蹂躙しながら突き抜けていく。

 

 

 御主人様は、秋蘭さんの首をもってこい、とは仰りませんでしたものね

 

 

 今にも倒れそうな体に鞭打って、指一本動かしたくない疲労と痛みの中で

 体に刺さった矢も、細く糸を引く鮮血も・・・

 自身を飾る装飾品でしかない・・・

 そんな余裕の笑みを無理やりに浮かべながら、敵兵をなぎ倒していく。

「鏃矢陣形、さぁ何時『魔王』様がいらっしゃられても良い様

 真紅の広い道を作りますわよ」

 応、の低い声が無限に連なり、麗は微笑を湛え一気に軍の先頭へ駆け抜ける。

 

 

 ・・・御主人様なら、きっとそうせよと御命じになるのだから

 

 

 そう考えると、麗の口元に自然に微笑が浮かぶ。

 あの方のように気高く美しくありたいなどと、おこがましくも口にした私が・・・

 

 それが出来なくてどうすると言うのです。


 
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