No.139964

輪・恋姫†無双 二十二話

柏木端さん

二十二話投稿です。
あれ?なんか三人目よりもあゆとの話の方がメインになってしまった……

2010-04-30 21:46:45 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1816   閲覧ユーザー数:1659

出陣の準備を終わらせ、平原を立って一週間。劉備軍は反董卓連合との合流地点に到着した。

 

「陣地中央の大天幕にたなびく旗が発起人でもある河北の雄袁紹の旗で、その横には荊州・南陽の太守である袁術の旗、か……」

 

「その奥にあるのが……江東の麒麟児、孫策さんの旗ですね。」

 

「あのちびっこの旗はどこなのだ~?」

 

「あっちは西涼の馬騰さんの旗ですね」

 

「あっ!あれ浪ちゃんの旗!あっちは彗君の旗だ!」

 

「あゆの元部下か…知り合いだからって勝手にむかうなよ?あゆ。」

 

「うぐぅ…大丈夫だよ…」

 

「あ!あっちにあるのは白蓮ちゃんの旗だよ!」

 

「?桃香様、その方はどなたですか?」

 

陣の入り口付近で勝手気ままに語る劉備軍首脳陣。

 

そこに目が痛くなるようなほどに輝く鎧を纏った兵士が、筆記用具を手に駆けよってくる。

 

「(確かこんな鎧の集団が黄巾党の決戦場にもいたな…)」

 

うんざりしながらそれを黙って見る祐一。

 

 

 

その後はその兵の案内通りの場所に陣を張り、もうすぐ到着するらしい曹操を待つこととなった。……のだが、

 

「うぐぅ……祐一君、まずいって~…」

 

「だから、何度も言ってるようにお前まで俺についてくることなかったんだが……」

 

「でも~…」

 

腹のさぐり合いとなるだろう軍議を朱里に丸投げして、黄巾党との戦いの時のようにブラブラと出歩いている祐一と、そんな祐一の服の袖をつまんでチョコチョコと祐一の後ろをついていくあゆ。

 

別にどこかの陣に無断侵入したわけでもないので外交的には問題はないが、いささか常識はずれではある。

 

「でも、ほら、結構この辺歩いてる人いるぞ?」

 

「…………この鎧はみんな袁紹さんのところの人たちだよ……」

 

「……それは、俺の言葉の返答として成立しているのか?」

 

「さっきみたいに新しく来た諸侯の案内するのも、一応発起人の袁紹さんの仕事だと思うし…」

 

「ふむ、まぁそれもそうか……あ、でもあそこのあいつとかは袁紹とは関係ないんじゃないか?」

 

そう言って祐一が指を向けた先には、青い髪が特徴的な少女が居た。

 

「あ、本当だ、あの人はどこの人かな?」

 

「さて、俺以外にも大事な軍議の最中、ブラブラ散歩しているヤツが他にも居たことだし、もう気にすることはないな?」

 

「え?」

 

「ほらほら~あゆ、お前は帽子を目深にかぶって顔を隠し、小さい体を精いっぱい大きく見せるように胸を張って散歩を続けろ~」

 

「お~!……って小さい体は余計だよ!」

 

「そうです!そんなこと言う人嫌いです!」

 

「……」

 

「……」

 

「……あれ?」

 

突如乱入してきた少女にあっけにとられ、祐一がなんとか捻りだした言葉は、

 

「よかったな、あゆ。同類だ。」

 

「「そんなこという人(祐一君)嫌いですぅ(だぁ)!!」」

 

案の定、からかいの言葉だった。

 

 

なんとか二人の幼女(?)を宥めて祐一が突如乱入してきた少女に問う。

 

「そんで?改めて聞くが、お前は誰だ?」

 

「私ですか?」

 

唇に人差し指を当てて首を軽くかしげる。色っぽいしぐさを目指した行為かもしれないが、可愛さが前面に出てきて効果は薄い。

 

「そう、お前。」

 

「私は袁術配下の兪渉(ゆしょう)です。そういうあなたたちはどなたですか?」

 

「うぐ…」

 

名乗るのを戸惑うあゆの頭を適当にポンポンと叩きながら祐一が代わりに答える。

 

「俺は相沢だ。真名を祐一という。ついでにコレは俺の妹だ。真名があゆ。」

 

「ボクはコレ扱い!?」

 

「……凄い人ですね、いきなり真名を預けるどころか、自分以外の人の真名まで勝手に預けようとするなんて……」

 

そして、口には出さなかったが、真名を勝手に公表したことに対する文句がなかったことも含まれているだろう。

 

「でも、真名を預けられたんだから名乗り返すべきでしょうか?それとも初対面だし陣営も違うから止めておくべき?でもでも二人ともいい人そうですし…相沢さんはかっこいいですし…」

 

ぼそぼそしゃべっているから二人には届かないが、割と本気で葛藤している様子は見受けられたので、二人は反応を待つことにした。

 

そして約一分後に笑顔で再起動した。

 

「私の真名は栞といいます。陣営は違うようですけど仲良くしましょう!」

 

「栞か、よろしくな。」

 

「う、うん!よろしくね!栞ちゃん!」

 

「はい!よろしくお願いします、祐一さん、あゆさん!」

 

握手を交わし、笑いあう三人。そこに、

 

「栞ー!美羽様が呼んでるわよ~!どこに居るの~!!」

 

「呼ばれてるぞ?栞」

 

「えう~…これからがいいところだったのに…それじゃあ祐一さん、あゆさん!またお会いしましょう!」

 

 

満面の笑みで手を振りながら呼ばれた方へ向かって走っていく栞を見送り、自然にわき上がる笑みを祐一は隠せなかった。

 

「(よかったな…)」

 

そう思って、祐一はまた愕然とする。

 

「!……また…」

 

「?祐一君?」

 

「っ!なんだ?あゆあゆ、どうした?」

 

「あゆあゆってなんだよ!ちゃんと呼んでよ!」

 

「はっはっは、善処しよう。」

 

「ウソだ!絶対うそだ~!」

 

「ウソじゃないぞ?前向きに検討するように善処する。その結果どうなるかは分からないが。」

 

「さっきよりも内容がひどくなってるよ!?」

 

「それはあれだ、特殊相対性理論とかバタフライ効果とかが関係する。」

 

「と、ときゅ、と…うぐぅ!そのなんだか法則とかなんだか定理ってなんだよ!」

 

「奇跡的に“なんだか”以外の場所さえも間違えたな…」

 

「うぐ?」

 

首をかしげて心底不思議そうな顔をするあゆを見て、悪いと思いつつも軽く噴き出して頭をなでる。

 

「いや、いい。お前はとりあえず幸せそうな顔して笑ってれば。」

 

「これから人生で一番緊張するようなことを控えてるのに?」

 

「だからこそ、だろ?」

 

ビクビクしながら、ガチガチになりながら迎える人生の大一番なんて、いや、少なくともあゆがしようとしていることに関しては間違いなくいい結果にはつながらない。

 

祐一はそう思っていたからそう言って笑いかける。

 

そして、そんな打算なんて一切関係なく、あゆには幸せな顔で笑っていて欲しいと願っていた。

 

「さて、あんまり長いこと陣開けるのも不味いだろうし、そろそろ戻るか?」

 

「う、うん。」

 

どこかすっきりしない表情で答えるあゆに祐一はため息一つ。

 

「はぁ、あゆ。」

 

「な、何かな?」

 

「笑え。」

 

「……へ?」

 

「戦場でもないここではまだ、笑ってろ。」

 

「……うん、でも、いいのかなって思って…」

 

「何が?」

 

「少なくても桃香さんたちは虐げられてる人を助けようと思って戦うのに……そりゃあボクだってそういう思いはあるけど!…でも、それが一番じゃなくて……うぐっ!?」

 

反董卓連合の参加を桃香が決めた瞬間と同じような、どこか吹っ切れていない微妙な表情。それを見て祐一はデコピンを一つあゆに打って笑いかける。

 

「いいんだよ。この世に自分勝手な理由以外で戦ってる奴なんて、いや、自分勝手な理由以外で生きてる奴なんていないんだから。」

 

「え?」

 

「桃香は、この国に住んでいる本当に全員が笑顔にならないと嫌だって、力で屈服させるような方法で無理やり一つにしたくないっていう自分勝手な理由で色んなものと戦ってる。」

 

桃香自身、それの実現の難しさを理解して。

 

「多分曹操は、気が狂うくらいの嫌な現実を見つめて、弱い民を守る盾や矛になろうとして、自らが戦いの火種になろうともその想いは曲げないっていう自分勝手な理由で戦ってる。」

 

乱世の奸雄という呼び名さえも享受して。

 

「俺は、二度と後悔したくないっていう自分勝手な理由で戦ってる。」

 

本当に現実問題『二度と後悔しない』なんてことができるはずはないとはわかっているけど。

 

「そしてお前も、誰にも譲れないような自分勝手な理由で戦うんだ。」

 

譲れない覚悟と、決して折れない信念を持つことが、戦場に立つために必要な唯一にして絶対の条件だと祐一は信じているから。

 

「胸を張ればいいんだよ。お前が見つけた、自分勝手な生きる理由と戦う理由を。」

 

「祐一君…」

 

「ああ~…もうこんな真面目な話する予定じゃなかったのに……ほら!もう戻るぞ!!」

 

「うんっ!」

 

今度の返事は、祐一には陰りのない笑顔で返してくれたように見えた。

 

 


 
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