No.137917

暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー 〜第十一話:ダサい〜

理念無き人間はどんな力があっても弱者だ。ほら、オレがその典型例だ。
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2010-04-22 09:48:45 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10875   閲覧ユーザー数:10457

二階堂家の食堂。

時間は既に深夜で、周囲に人はいない。

オレと、佐竹の二人だけだ。

 

結局麗華はオレを選んでオレは麗華を愛している。

相思相愛の二人。

恋が成就して大団円。

 

海「......で終わるわけないよな、佐竹」

 

ハッピーエンドとは行かない。

少なくとも、そこはエンドではない。まだまだ多くの問題が残っているのだ。

 

佐「そうだな」

海「話すよな?」

佐「ああ、私もちょうどお前に全部知って欲しいと思っていたところだ」

海「今更取り繕う.....」

佐「そういうわけじゃない。お前と麗華お嬢様を一番知っている私だから、お前に聞いてほしいんだ」

海「......」

 

学園や人間関係など様々な問題が山積みだが、決定的な問題が二つ。

 

一つは二階堂源蔵のこと。

現状では源蔵にはまだオレが戻ってきた報告もしていないし、そもそも戻ってきたとしてオレの居場所を決めるのは源蔵だ。

今回はオレが自主的に出て行ったこともあってか麗華のわがままを優先させるわけにもいかないだろう。

これは麗華とオレの生活に関わる重要な問題だが今考えることではない。

 

今は追求する時。

全ての原因と崩壊、加えて謎を。

 

この男、オレをボディーガードとしてこの世界に連れてきて、

 

海「オレを再び元の場所に送り返した、でいいんだな?」

目の前にいる男に確認を求めた。

 

佐竹 明敏。

 

二階堂家と長い付き合いを持ち、この間まで杏子以外でオレの過去を唯一知る存在。

 

佐「そうだ」

海「オレがボディーガードを辞めたきっかけが、学園内での中傷だった。それもお前か?」

佐「正確には生徒の一人にお願いした。私の名を出さないように」

海「賢明だな。学園長までの地位がこんな小さいことで無くなる世の中だ」

用意されているコーヒーカップに手を伸ばす。

佐「そこは違うぞ」

カップを掴んだ手を静止させ、視線だけ佐竹に向けた。

佐「もし私だということがバレれば、計画が失敗に終わるからな」

海「......そろそろ、飽きてきた」

一呼吸置いて、ブラックコーヒーを一口含む。

海「その計画の内容と動機を言え」

鋭く睨みつけたが、サングラスで隠された表情は伺えない。

脅しに屈しない相手なのは分かっているが、これはオレが怒っていることを佐竹に知らせる信号だ。

佐「......海斗。お前も大体見当はついてるだろ」

海「ああ」

 

二階堂家を一人で出たあの日。

門の外にいた佐竹が口にした唯一感情がこもっていた台詞。

 

『ヤツと違う選択をするのか、海斗』

 

恐らく、それが意味するのは親父のことだ。

あの時、オレはすぐに『それは親父のことか?』と切り返したが、あの時はそれ以上喋らなかった。

続いて『あんたの宝は、あんたがずっとこだわっているくだらない過去なのか?』と言葉を投げればすぐに拳銃を抜いた。

どういう理由があるのかは分からないが、それほどまでに執着している過去が計画とやらの動機なのだろう。

 

海「まず、親父との関係を知りたい」

佐「......」

佐竹は何かを考えるように、止まった。

海「どうした? 逃げ出すなら初めから逃げればよかっただろ」

佐「そうじゃない。そうじゃないが......麗華お嬢様は相席しないのか?」

海「するわけないだろ」

こういう話しをしているからか、珍しく歯切れが悪い。

佐「正直、話すなら麗華お嬢様にも聞いてほしい。」

海「わがままだな。却下だ」

佐「......麗華お嬢様にも、関係のある話だ。この運命は私の懺悔だと思っている」

自分に都合のいいように言っていないのは伝わった。

だが、これはオレの問題だ。

海「だとしても、これはオレとお前の問題で麗華は関係ない。二階堂との仲を壊したくないなら、壊さないように取り持ってやる」

佐「......本当に、随分変わったな。ここに来て、大分丸くなった」

海「それはあんたもだろ。オレが本当に憎かったら麗華を人質にしながらオレに牽制すればいい」

佐「なるほど」

海「やったら殺すぞ」

佐「......ユーモアなギャグだな」

 

それから佐竹は少し息を漏らし、昔を懐かしむようにして話しが始まった。

昔、憐王学園は今とは違う形態だった。

今の憐王学園というのは女性のお嬢様と男性のボディーガードの組み合わせである。

これにはいくつか意図がある。

ボディーガードを男性のみに絞るのは社会、世の中の仕組みだ。

女性に守られる男性の構図はあまりにも情けない。

そういう考えを認める人も皆無ではないが、何事にも区別は必要である。

男性は女性より力があり、女性は男性より嘘を吐くのが上手い。

これは性別から成る人間の差だ。

日本では女性が相撲をできないことを差別と唱える人はいないし、逆に男性が仕事を放棄して育児に一生懸命励んだとしても、それが社会的に認められるのは厳しい。

いつの時代だって男というのは力が強く、家族を、人を守り、養うという傾向が強い。

そこで授業の一環として実際に女性のお嬢様を男性のボディーガードが守るというシステムが今の憐王学園の方針だ。

 

では、昔はどういうシステムだったかというと、男女問わず御曹子とボディーガードを混合させて教育を行ってきたのが最大の違いだ。

その当時の憐王学園には佐竹と、海斗の両親、加えて二階堂源蔵、更に倉屋敷亜希子が憐王学園の同級生としていた。

 

海「倉屋敷って侑希のプリンシバルのアホの子か?」

佐「そうだ。亜希子さんは侑希を作った張本人だ」

海「あれの親ってだけで頭が悪そうに見えるんだが」

佐「本質的なところは亜希子君も変わらない」

 

こうやって思い返すと、当時は今ほどしきたりがなかったとも言える。

もちろん今も昔もプリンシバルとボディーガードの恋愛は認められないが、距離感の意味を持つと昔はまだ甘かったのかもしれない。

今の憐王学園は1年生は完全にボディーガードのみを対象とした訓練でプリンシバルに手を出すことを絶対禁止と教育されているし、交流も一切無く少なくとも訓練を乗り越えそういった教育過程、一種の洗脳に近いボディーガードの絶対的なルールを叩き込まれるまでは完全に隔離された状態だ。

そのプリンシバルになる人物の公表も成績順とはいえ2年時に上がるときに伝えられ、いくら年頃の異性とはいえプリンシバルとボディーガードの恋愛というのはより難しくなる。

比べて、昔は交流もあり、プリンシバルとボディーガードの壁もそれほど無かった。

その最大の理由はボディーガードの人間もプリンシバルも同等の貴族、地位、権力を持つ間柄だけだからだ。

 

海「そこは今も同じだろ。よく分からんが尊だって結構デカイ家なんだろ?」

佐「そうだ。ボディーガード自体、名家でなければ難しいのは昔から変わらない」

海「......ん?」

佐「つまり、今のボディーガードはプリンシバルよりも大きな力を持ってはいけないように配属されているんだ」

海「ああ、なるほど。お嬢様ばっかだからあんまり考えなかったけど、確かにボディーガードの方が家柄が優秀だったらどっちが上か分からないからな」

佐「そういうことだ」

 

私はな、お前の母親に恋をしたんだ。

 

海「おい、普通に入ったつもりだが、正気か?」

佐「正気も何も、お前の母親は凄く美人だったぞ」

海「そっちじゃねぇよ、あんた女性に興味あったのか?」

佐「......お前は私をどういう風に見てるんだ」

海「今だから言うが、始めお前に拾われた時は別の意味で警戒していた」

佐「......」

海「......」

佐「......」

海「......」

佐「続けるぞ」

海「お、おお」

 

お前の母親は二階堂源蔵の婚約者だった。

 

海「まてまてまて」

佐「さっきからどうした? 話しの腰を折っては先に進まんだろ」

海「いや、悪い。少し驚いただけだ。もう止めない」

佐「......続けるぞ」

海「ああ」

 

それは家同士が認めるもので、政略結婚と言っても過言ではない。

当時の源蔵もお前の母親に好意を抱いていた。

私にはどうすることもできず、見送るしかない。

それにそもそも彼女は私のことなんて見ていなかったし、それが彼女の一番の幸せになると思えば私が身を引くのはそこまで苦痛ではなかった。

 

だが、そこに一人の男が現れた。

 

名は朝霧雅樹。

 

佐「お前の父親だ」

海「だいたい分かった」

それだけ吐き捨てて、部屋に戻るつもりだった。

佐「もういいのか?」

海「どうせ親父がそのままお袋と駆け落ちして特別禁止区域に行ったとかがオチだろ?」

佐「......」

海「それであんたはお袋がすぐに死んだことを知って悔やんだ。親父を止めなかったこと、親父が不甲斐ないことに」

佐「......」

海「親父は親父で宝なんて虚像を作って父親を演じてただけだろ」

海斗の推測は大体が予想通りだった。

佐「お前が二階堂を出て行った日があったな」

海「なんだよその言い方。出て行かなかったわけがねーだろ」

佐「......」

佐竹は少し押し黙ってから、

佐「あの時も言っていたが、お前が言う宝とはなんだ?」

それは言われることを予想していた質問だった。

海「この世界を生き抜くには、力だけじゃない、宝が必要だ。オレの宝はここにある。お前の宝はなんだ?」

佐「......」

海「オレが育つまで、ずっと親父が口にしてオレに教え込んだ言葉だ」

佐竹は、表情を崩さない。

佐「オレの宝はここにあるというのは、それはお前のことか?」

どう考えればその答えに辿り着くのか正直分からなかったが、きっとオレの知らない雅樹という人物を知っているのだろう。

海「違う。アパートに金庫があるんだ。それを指している」

佐「その金庫には、何が?」

何がだと?

それはこっちが聞きたい。

海「いいわけ...だな。ああ、いいわけが入ってた」

佐「いいわけ?」

理解できないのか顔をしかめる。

海「オレに奪えと教育してきた親父のいいわけが」

佐「......?」

海「分からないだろ普通。オレも金だと思っていたが、実際には家族の写真とか想い出の品物が入っていた」

佐「......あの雅樹がか」

海「そうだ」

それまで険しい表情をしていた佐竹だったが、ゆっくと何度か頷き始めた。

佐「そうか......雅樹が」

海「......」

まるで憑きものが取れたように、佐竹は何かに納得しながら微笑み続けた。

それは海斗からすれば不可解な様子だ。

佐「海斗」

いつも呼ばれている名に、不思議と既視感は感じられなかった。

 

初めて、朝霧海斗の名を呼ばれたような不思議な感覚。

 

佐「海斗はそれを見てどう思った」

海「......」

二人称がお前から海斗に変わったことから、その違和感は案外正しいのかもしれない。

海「さっきも言ったが、いいわけだ」

佐「そうか」

今まで見せたことのない、幸せそうな笑顔で笑った。

佐「海斗、お前は若い。そして、強い」

海「なんだよそれ?」

佐「海斗は雅樹に教わった通り、今後も奪い続けるのか?」

それは中々、面白い質問だった。

海「ああ。欲しい物はどんなモノだろうと奪ってやる」

佐「そうか」

怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく佐竹は頷いた。

 

見栄を張って強者の振りをしたものの、

実際は、欲しい者を奪う前にオレ自身があの女に奪われてしまったが。

 

海「......我ながら格好悪いな」

佐「ん?」

海「いや、なんでもない」

 

その言葉を最後に、食堂を出た。

 

一旦そう思うと、本当に恥ずかしいな。

明日奪いに行こうと思ったら逆に奪われにこられたんだ。

恥ずかしいし、格好悪い。

ダサい。

めちゃくちゃダサい。

 

そんなことをとても嬉しかったと思うと、更にダサいなーーー

 

 

 

 

ーーーーーー第十一話:ダサい_end

 

次→第最終話:プリンシバル_4/24


 
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