No.137252

暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー 〜第十話:オレが惚れた女〜

悪と罪、いわゆる負。その天秤の対照に愛と本能を乗せ、量りを見ることを覚悟と呼ぶ。
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2010-04-19 00:00:35 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:12239   閲覧ユーザー数:11701

考えた。

ずっと、色々なことを考えていた。

 

もしかしたら俺はまだ人間になれるのか?

もしかしたら俺は麗華と一緒に暮らす輝く世界なんて可能性はあったのか?

ボディーガードって何なのか?

 

いくら本を読んで知識をつけたところで、考えても信念は、理念は生まれてこないというのにオレはずっと考え続けた。

 

結論が出た今となってはそれはとても愚かな行為だった。

 

『悪を悪と理解した上で悪を行う』

 

それが、朝霧海斗の答えだ。

言い訳はしない。

全てオレが悪い。

だが決して善意なんて振りまいたりせず、ただ悪を貫く。

絶対に。

 

何故なら、それがオレが考える強者定義であるから。

 

以上。

人のせい、何かのため、こうするしかない、

弱者の言い訳にはもう懲り懲りだ。

海「......くく、」

 

一種の自己暗示かも知れない。

オレはまだ人の部分が残っていて、それを必死に隠そうとしているだけかもしれない。

それを完全に否定することはできない。

人は誰だって綺麗な存在でありたいから自分にも嘘をつく。

ただ、オレはそれでも正当化することだけは辞めた。

 

悪いのは全部オレだ。

 

まるで小説に使われそうな言葉だが、罪を被るのは自分の罪だけだ。

美談でも何でもなく、ただオレの利益のために行動する悪魔になる。

これで完全にオレは人でなくなり、否、視点を変えれば一貫性のある概念を抱くことによりこれでようやくオレは人になれると言っても間違いではないだろう。

 

それがどんなに悪いことでも、オレが選び、オレが信念で行動するならそれは朝霧海斗の『個』になる。

 

海斗は布団にもぐり、必死に目を閉じたものの興奮が収まらない。

子どもの頃から朝を待ちわびた日なんて無かっただけにこの興奮がまた新鮮だった。

まるで全ての神経が、血液が、細胞が研ぎ澄まされているような昂揚感。

海「......ん」

一つ。

人の気配を感じ、ゆっくりと布団から出た。

ドアから銃撃されても大丈夫な位置に音を立てずに、相手にも気付かれないようにゆっくりと移動していく。

絶対にあり得ないが、一応念のため手榴弾やバズーカの類で攻撃されても大丈夫のように脱出ルートは確保する。

 

特別禁止区域のこのアパートまで来る人間だ。死んだって文句は言えまい。

 

それももうじき夜が明ける暁の時間に来るということは、睡眠時の襲撃ではなくオレと対峙したいのだろう。

一人で、のこのこと。

海「数は二つ......だな」

一人は囮。

気配の殺し方からしてど素人。

だが逆にそちらに意識が傾くのも事実で、もう一つの気配は完璧に絶っている。

しかし今日仕掛けてくるというのは本当に運がない。

運動欲求を越えた欲求ーーー殺人欲求とでも呼ぶのだろうか。

アドレナリンが体中に分泌され、どす黒い欲望が身体を走る。

まるで髪の毛一本一本に神経が通っているような、そんな感覚だ。

薄い気配の方は外の、ここから30メートル程離れた場所で滞在し、もう一つの大きい気配はそのままこちらのアパートに来た。

気配は二つ。

そう、二つだが、

海「......正確には三つか」

最後の一つに至っては正確な場所も掴めない。

そもそもオレの思い過ごしで、本当にいるのかさえ分からない。

だからこそ、確実に三人目は存在する。

ガチャ。

何の抵抗も無くドアが開かれる。

 

さて......どうしようか。

あり得ないとは思うが、一応杏子の可能性も考える。

いきなり銃撃されたり手榴弾の類を投げられれば、すぐに敵と判断できるが、とりあえず相手の様子を見た方が無難だろう。

それに取引に応じる連中が何らかの形でコンタクトを取りに来たとしても、禁止区域のルール上対話には応じなければなら......、

麗「海斗!」

海「!?」

麗「海斗! いるんでしょ! 出てきなさいよ!」

頭の中が、真っ白になった。

対峙する人物の死角から覗き込んだが、未だに信じられない。

 

麗「私よ、二階堂麗華よ!」

 

わけが分からない。

なんだこの女は。

麗「あんたは、私のボディーガードなのよ! 何してるのよ!」

外にまで響きそうな大声で、麗華は叫ぶ。

海「......」

分からない。

たった今わき上がっていた体中を駆け巡る興奮も、麗華の登場で戸惑うばかりだ。

麗「私はあんたのプリンシバルの、二階堂麗華よ! どうしたの、怖いの私が!」

海「......くっ、」

隠れるのを辞め、その人物の前に姿を見せた。

麗「あ...」

嬉しそうに、顔が綻ぶが瞬時に黙らせる。

海「何の用だ」

拒絶の意味を持つ言葉を投げる。

麗華は一瞬顔をしかめたものの、オレに対抗するためか真剣な表情を作り、力強く言う。

麗「あんたを、奪いに来た」

海「......は?」

滑稽だ。

オレに恐怖を抱いて尻尾を巻いて逃げたチンチクリンが、24時間と経過しないでオレの目の前でオレを奪いに来た、だと?

海「何でオレが...」

麗「あんたの意見なんてどうでもいいの!」

決意。

一見してヒステリックとも見えるその姿に、言葉には二階堂麗華の魂がこもっていた。

麗「あんたの意見なんて、どうでもいいの!」

二回目だ。

麗「ボディーガードとしてとか、そういう建前じゃないの!」

海「......」

麗「私は、もう二度と逃げない!」

眩しい。

麗「ボディーガードとか、契約とかもう私は嘘を吐かない! 二度と逃げない!」

あまりの勢いに威圧され、後ろに一歩後退するが、それを逃がさない様に麗華はオレに抱きついた。

麗「私は!」

顔がくっつくぐらいの至近距離で言った。

麗「私は、二階堂麗華は!」

 

『朝霧海斗が好きなの』

 

......すげぇ。

本当に、すげぇ。

オレがやろうとしたことを、オレよりも早く、それも......自分より強大な相手に向かって成し遂げやがった。

 

流石。

流石二階堂麗華。

 

ーーーオレが惚れた女だ。

麗「私ね、ずっとあんたのことが好きだった」

せっかく家に麗華に招いたのだから気を遣って何か用意しようとしたのだが、水しかなかった。

しかもよりにもよって雨水だ。

麗「いいよ、それちょうだい」

海「お、おい、それは雨水だぞ」

麗「あんたは飲むんでしょ?」

海「......まぁ」

麗「じゃあ半分もらうね」

そう言ってお嬢様は雨水を口に運んだ。

麗「......まずい」

海「ほらみろ」

麗「殴るわよ」

海「犯すぞてめぇ」

麗「......」

海「......」

今まで経験したことのない種類の気まずい空気が流れた。

麗「そ、そういうのは、話しが終わるまでちょっと待ってなさい」

......って、おい!

んん、と咳払いして麗華はこの数ヶ月を振り返るよう視線を落とした。

麗「そう...あんたがボディーガード辞めてからね、私色々考えたんだ」

麗華は自分自身に懺悔するかのようにして、続けた。

麗「私には、あんたが必要なの」

海「さっき好きって言っただろ」

麗「......うるさい、最後まで聞きなさい」

こういうところは可愛いんだがな。

麗「だからその......えっと、どこまで話したっけ?」

海「痴呆かよ!?」

麗「うるさいわねぇ!」

オレの胸に、ダイブしてきた。

麗「あんたが変なこと言うから、喋れなくなったのよ!」

海「......」

はしょったな?

麗「そうよ! あんたが好きなのよ! 建前とか地位とかもうどうでもいいの! あんたが、海斗が好きだから一緒にいる。それでいいでしょ!」

海「......」

なんだろう。

麗華に火が付けば火が付くほどに心が冷たくなっていく自分がいる。

海「いいんだな?」

麗華が目の前にいることに歓喜していたが、幸せすぎると逆に冷静になってくる。

麗「へ? あ...うん」

麗華は顔を真っ赤にしながら頷いた。

オレは諭すように微笑みながら、麗華と少し距離を置いた。

海「オレと一緒にいるってことは地位と権力だけじゃない。学園を、家族を、オレ以外の人との繋がりだって失うってことだぞ」

麗「......っ!」

先程の、身体全体を支配するような強い欲望も炎も今の俺には無い。

ただ、麗華が心配ないつもの腰抜けにもどった。

海「よく考えろ。オレは麗華のためにならない」

ゆっくり視線を落とした。

海「覚悟が無い、なんて言わない。二階堂を辞めたオレなんかのために、こんなところにまで来てくれただけでも正直嬉しか......」

 

パン!

 

鋭い音が、アパート全域に響いた。

海「な......、」

麗「覚悟?」

二階堂を出たあの日。

麗華のビンタを避け、オレはボディーガードを辞めた。

あの日はただ攻撃を避けたのではない。

麗華の真っ直ぐな想いにぶつかるのが怖かったんだ。

麗「覚悟が無かったらこんな場所にまで来ないわよ!」

胸に、再度飛び込まれた。

麗「知らない男に乗られたのよ! 何回も叩かれたのよ! 馬鹿じゃない!? 怖いに決まってるでしょ!」

オレの存在を離すまいと、必死に捕まえる。

麗「あんただって正直怖かったわよ! 目の前で人が次々と死んで、人を殺してるのが私の大好きな人で!」

強く、抱きしめられる。

麗「怖いから逃げたのよ! それでも、それでもあんたが好きだから!」

今度は、オレが麗華を強く抱きしめた。

麗「こうやって、戻ってきたのよ!」

海「愛してる」

麗「うわあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!」

強く、抱きしめられた。

オレを離したくないだけでなく、もしかしたら泣き顔を見られたくないのかもしれない。

海「ずっと、頑張ったんだな?」

抱きつかれたまま、首を縦に何度も振る。その度に一々反応するツインテールが可愛いらしかった。

 

そうだ。

世界で俺だけが、苦悩して悩んでいるわけじゃない。

俺はこの世界の中心にいるわけじゃなく、あくまでただの歯車の一つなんだ。

暁。

世の中の始まりを意味する。

そうして、みんな日常に出かける。

苦悩したり、悩んだり、考えたり、笑ったり、悲しんだり、苦しんだり。

ーーー色々。

 

色々な人がいて、色々な感情を抱きながら交差して人は繋がる。

それは禁止区域も向こうの世界も、ボディーガードもプリンシバルも何も変わらない。

 

海「オレが守ってやる」

背中が痛いぐらい強い抱擁は、麗華が抱えていた不安と比例しているんだ。

 

海「オレがずっとずっと、ずっと、守ってやる」

 

温もり。

手の中にある幸せを離すまいと、二人はそれぞれの宝をただ強く抱きしめた。

それから30分前の、海斗が唯一掴めなかった人間の気配。

その人物はアパートの裏口、10メートルも離れていない場所に、いた。

ツ「にかいどうれいかはーー」

この特別禁止区域に似つかわしくないメイド姿の白髪はおもむろにつぶやく。

ツ「あさぎりかいとがすきなのーー」

白けきった表情で、やりとりが行われているであろうアパートを眺め、小さく溜め息を吐いた。

そしてどこから取り出したのだろう、ポテチの袋を開封しそれはバリバリと下品に音を立てながら食す。

ツ「なーーーんぞこの茶番」

ポテチを数枚わしづかみにして、更に口に運ぶ。

ツ「麗華お嬢様、危険です。それは茶番です」

ばりぼり、ばりぼり、ばりぼり。

暁の頃、特別禁止区域にポテチを食べる音だけが支配される。

実はこの音が向こうに届いて茶番を終わらせるのが目的だったりする。

佐「独身の身のお前にしてみれば、人の恋愛は全部茶番か」

ツ「......佐竹様。失礼しました。見苦しいところを」

......おいハゲ。今の発言ってセクハラじゃね?

佐「今日ぐらいはいいだろ。正直、お前ぐらいの年齢からすれば確かに面白いことではないからな」

そういって、佐竹は手を伸ばしてきたのでポテチの袋を差し出すと、ひょいと一枚奪っていった。

佐「まぁ、その辺りはある程度歳を重ねれば判ってくる」

ツ「はい」

白髪のメイドとスーツ姿のやくざの様な風体の男は、二人でアパートを眺めながらポテチを食べた。

......シュールだな、おい。

佐「......お前は、」

ツ「は、はい!」

背筋をピンと伸ばした。

佐「朝霧海斗について知っていたのか」

ああ、なるほど。

答えが分かっているのにわざわざ質問するなんて、佐竹様も私と同じタイプの人間か。

ツ「いいえ、まさか海斗様が禁止区域出身なんて思ってもいなかったです」

考えを顔に出さないことには自信があったが、佐竹の表情がどうなっているのかはサングラスのせいで伺えないのが少しだけ不安だった。

佐竹様は私の出身を理解している数少ない人だが、それでも今の質問の返答は拒否で合っている。

それは何よりも朝霧海斗と麗華お嬢様をよく知る佐竹様本人が理解されている。

佐「そうか」

また手を伸ばしてきたので、ポテチを差し出した。

上の人間でなければ調子にのるなと釘を刺すところだ。

ツ「この後は、どうなさいます?」

佐「若い男女二人だ。ここで待機しているのが無粋だろ」

ツ「ですね」

ふっ、とおじさん臭い笑いかけをする。

佐「それともなんだ。お前には盗聴の趣味でもあるのか?」

ツ「はい」

佐「......」

ツ「......」

佐「......」

ツ「......」

しまった。

佐「帰るぞ。今のは聞かなかったことする」

 

二人は自分達の場所に向かって、歩き出した。

ツ「一つ、質問があるのですが」

佐「なんだ」

ツ「その、佐竹様は二人の仲に賛成なんですか?」

佐竹にしてみれば、そんな質問こそ茶番だろう。

結果的にこの結末を望んだかは別にして、二人をくっつけるためだけに今まで色々な策を練ってきたのだ。

雅樹の息子がボディーガードになり、そのままお嬢様と恋愛を。

それが佐竹の望むシナリオで、これは最高の形で完成した言える。

佐「......」

ただ、幾つか満足がいかない点があった。

過去を払拭するために行った動機が、何を隠そう肝心の自分がこれでもいいかと納得してしまっている。

学園長という子どもを愛する職業が長いせいか、朝霧海斗という人間を見てきたからか。

 

情が、移ってしまったみたいだ。

 

佐「そんなもの、反対に決まっている」

自嘲的だが、それでも少しだけ嬉しそうに笑いタバコに火を点けた。

佐「麗華お嬢様が『海斗』なんかのろくでなしと一緒になるなんて」

ツキは何も答えず佐竹から見えない位置で、ただ悪そうな顔でニヤーと目を細めた。

 

 

 

 

ーーーーーー第十話:オレが惚れた女_end

おまけ(本編と関係ないので飛ばしてもおk)

 

ってかさ、聞いてよ。

これ書き終えてから新作の体験版プレイしたんだけど、実は『暁の護衛』の暁って町の名前らしいんだ。

 

......。

.........。

............しまったあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁ!

 

え?

やべ、チョンボ?

前のゲーム本編でも暁って町の名前で表記されてたっけ?

うわ、油断した。

だからあれほどアンインストールしないで残しておけといったのに......!

 

まあきっと暁っていうのは東雲みたいなそういう意味もあるんだよ。

多分、きっと、もしかしたら

 

というかこのSSの展開、ゲーム本編なら絶対アレな展開だよなぁ。

流石にここでアレは書いたらまずいし......まずいねっ!(にんまり)

 

そういえば小説を投稿するときに、年齢制限があるんだがR15みたいな作品はどれに入るのかな?

なんかR12の水着とか下着は制限あるんだが......まあ全年齢対象でも支障はないだろ

 

ってギャルゲのSSの時点でR18確定じゃね!?

いや待て。性的描写は特に......ぶつぶつ。

 

次→多分明日うp。万に一発売日に間に合わなければこれで最終回?

 


 
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